×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
人気の少ない南側の裏庭に、鉄砲の音が響く
手にした信長の遺品、種子島式を構え、帰蝶は遠くにある的に舌打ちをした
当たるは当るが、想った場所には命中しない
どうしても上向きに軌道が逸れてしまう
「ふぅ~ん・・・」
鼻から息を吐き唸る帰蝶に、側に居た秀隆が言う
「俺は、鉄砲は専門外ですから偉そうなことは言えませんが」
「良いわよ、構わないから言って。久助が居ない今、河尻の判断に従うから」
「奥方様は女です」
「知ってるわよ、そんなこと。だから?女だから無理だって言うの?」
「そうじゃありません。手首の力が、どうしても男には負けてしまうんですよ。それに、その種子島式は何れ成長する殿に合わせて作られたものです。銃身は確かに種子島式ですが、柄や火打ちとか、それ以外でも細かい部分なんかは紀州で組み立て、完成させたものです」
「え?そうなの?それって・・・」
秀隆の話に、帰蝶は目を丸くした
「はい。半分は、根来式なんですよ。だから、『男専用』に作られた鉄砲なんです。女の奥方様が使いこなすには、ある程度は良いとしても、細かい動作ともなれば男並みの腕の太さになってもらわないと、はっきり言って無理です」
「 」
秀隆の言葉に、帰蝶は絶句した
自分は、『始めから使いこなせるはずのない』鉄砲を、必死になって撃っていたのかと想ったのだ
できもしないことをまた、やろうとしていたのか、と・・・
丘が動く
人が波になる
それに押し流され、溺れてしまうのか
整然と並んだ織田軍が、まるで大きな山に見えた
その織田軍が横一列のまま、一糸乱れず斎藤軍に押し寄せる
「うわぁぁぁぁ ッ!」
余りの壮大な光景に、臆病風に吹かれた斎藤の兵士が槍を投げ捨て、我先にと木曽川に浮かべた船に殺到した
「静まれー!静まれー!相手は寡兵、怯まず立ち向かえッ!」
後退する兵士らに、一鉄は張り裂けんばかりの声を荒げた
だが、本能のまま怖気付いた兵士は逃げる事をやめない
『兵士』、と言っても、殆どが農家の雇い兵、雑兵である
一攫千金に目が眩み、船に乗り込んだ者が多くを占めた
代わって帰蝶が率いる兵士は全てが『職業兵士』であり、農作物で生計を立てる半農半兵の斎藤軍とでは根本から違う
戦でしか『飯』が食えない連中なのだから
「飲み込んでやれッ!」
秀隆から離れた成政の引率する特攻部隊が先陣を切り、その後を時親、義銀の集めた元斯波衆が押し寄せる
黒母衣衆は各人に帰蝶からの命令を伝達するのが役目であり、稲生での戦いのように積極的に参戦することは滅多とない
だが、この戦で姉に認めてもらいたい利治は、その群から外れた
「新五?」
「こんなとこでちまちまやってたって、姉上の目には止まらない」
訝しげにする慶次郎に、利治はきっと釣りあがった目を向けた
「お前、軍律を破るってのか?」
「末席の私に、ここではやらねばならない仕事などない。やるべきことは、斎藤の兵の首を、一つでも多く取ることだ!」
「 」
利治の言葉に目を丸くした慶次郎は、やがて「かかか!」と笑い、口唇の端を釣り上げた
「いいねぇ!その意気、買ったぜ」
「慶次郎」
「軍律を破るんだったら、いっちょ派手にやってやろうやッ!」
「おう!」
慶次郎と二人、黒母衣衆の群から離れ、斎藤軍に突進した
その姿を、後方から帰蝶が眺めていた
「慶次郎は、半月朝餉抜き」
「はっ」
「新五は、十日分の知行削減」
「はっ」
側に控えた龍之介が応える
「帰ったら、お尻ぺんぺんじゃ済まないって、教えてあげなきゃね」
「そうですね」
龍之介の苦笑いに、帰蝶は左腕を水平に倒し、その上に種子島式を載せて構えた
「要するに、発射する時にぶれなきゃ良いのよね?」
「それはそうですが、何度も申し上げますけど、手首の力が弱い以上、ぶれるのは仕方がないことです。予め、的を下方に定めて撃つと言うのはどうですか」
「そんな器用なこと、私にできると想う?」
「 」
できるような気もするのだが、本人ができないと言いたそうな顔をしている以上、強要もできない
秀隆は黙って引き下がった
「鉄砲は、その筒の中で小爆発を起こし、玉を飛ばす。一番衝撃があるのは、火薬が引火し、爆発する時。その時に、反動で銃身が上に向いて、的を外す。手首の力に頼った照準じゃなくて、何か固定した力で撃てば、弾は真っ直ぐ飛ぶ」
帰蝶は独り言のようにぶつぶつと呟いた
「でも、どうすれば固定できる。馬の上からじゃ、松風の頭に載せるわけには行かないし、いくら松風でもそればっかりは許してくれないわよね。となると、別の方法。降りた時は?松風が居ないのに、どうやって固定させる。竹で芯を作るか。でも、一々持ち運ぶのに不便になるし、耐久性だってわからない。肝心な時に使い物にならなかったら、こっちが命取りになる。壊れることがなく、いつでも携帯できるもの」
種子島式を片手に、人差し指を咥えてうろうろする帰蝶を、秀隆はじっと見守った
『息を忘れたかのように黙り込み』、立ち止まって黙案する帰蝶を、廊下からなつが見ていた
また、無茶をする気じゃないだろうかと、気が気でない
その静寂(しじま)がどれくらい続いたのか
帰蝶は目を開き、何かを想い付いたのか鉄砲に玉を仕込む
火薬を火皿に注ぎ、カルカではなく上に向って力強く振り上げると、玉はカチンといい音をして指定される場所に嵌った
その光景に秀隆は驚くばかりなのに、帰蝶は更に驚くような行動に出た
自分の左腕を水平に倒し、その中心に鉄砲を載せる
「奥方様・・・?」
それから、的を定めて帰蝶は引き金を引いた
『バスン!』と、信長の種子島式独特の爆発音が轟く
「お・・・・・・・・」
「ふぅ・・・。まだちょっとずれるかな」
「奥方様!」
帰蝶の放った一発は、今までのどの玉よりも確実に、中心に近くなっていた
「まさか、腕を支え棒に?」
「これなら、腕がなくならない限り活用できるでしょ?自分の躰の一部だもん。持ち運ぶ不便さもないじゃない」
「いや、まさかこんなこと、いや・・・まさか想い付くなど・・・」
自分のこの驚きようをどう表現すれば良いのか、秀隆にはわからなかった
しどろもどろになって目を見開く
「奥方様、あなたって方は・・・」
あんぐりとした顔をする秀隆に、帰蝶は少し誇らしげに微笑んだ
だが
「やっぱり非常識な考えを持っていないと、こう言う破天荒なことは想い浮かばないもんですね!」
「 」
余りにもの発言に、帰蝶は無言になり、なつは影でクスクス笑っていた
腕に載せた種子島式を構え、照準を合わせる
銃口が向いているのは、撫子の軍旗
その中心
風が靡く
指し物が揺らめく
慌てふためく斎藤軍を、織田軍が蹴散らし、薙ぎ払う
我先にと船に殺到し、橋渡しは途中で川に落ちる者を出した
斎藤はどれくらいの兵を出したのだろうか
塊だったのが徐々に分散し、黒い点が浮かぶ
恐らく
いや、間違いなくこちらが寡兵だろう
半分以上を一宮に送っているのだから、斎藤を上回る数ではないことだけは確かだ
なのに
帰蝶の心は、静かだった
お清
帰蝶の指が、引き金を引いた
背後から風が起こる
その風に乗って、玉が疾走した
「 ッ!」
利三は頭上を見上げた
鉄砲の音がした
こちらにも鉄砲隊は用意してある
だが、まだ発砲できる準備さえしていない段階で、織田軍に攻め寄せられた
手間の掛かる鉄砲で、太刀打ちできるわけがなかった
一発の発砲音に、一瞬、背筋が凍った
そして、空を見上げる
厚い雲に覆われた空の下、風に靡いた『斎藤家』の家紋をあしらった軍旗、その中心に大きな穴が開いていた
周囲は黒く焦げ、糸の解れは南から北へと流れた
「 押し返せッ!相手は寡兵。恐れる物など何もないッ!」
利三は刀を抜き、周囲の兵士を鼓舞した
大人しく引き下がるかと想っていた斎藤軍が、利三の鼓舞で盛り返し、船から離れていた者だけだとしても正面から織田軍とぶつかって来た
「奥方様・・・!」
龍之介は背中に掛けていた、通常の物より遥かに長い弓を咄嗟に掴んで身構える
「出る」
帰蝶は一言だけ告げ、松風を走らせた
付いていた佐治も共に駆ける
「はいッ!」
龍之介も弓を抜き、帰蝶に併走した
今回引き連れた軍勢は、その殆どが新生の構成である斯波旧家臣団が主だった
馴染んだ織田の軍勢は一宮に居る
意思の疎通が心配だったが、旧家臣らも生き残りを賭けての一戦でもある
この戦で武功を挙げねば、帰蝶、新しい主君への覚えも目出度くは済まない
其々の家は、それこそ武器を持てる者なら幼い我が子をも投入しているところもあった
「小平太、ゆくぞ!」
「はっ、はい・・・!」
斯波家旧家臣のひとつ、服部家でも、この戦で息子の小平太を慌てて元服させ、無理矢理戦場に立たせたくらいである
小平太はまだ十一だった
右も左もわからぬここで、父に倣い、馴染まぬ刀を両手で必死に握り締めていた
手柄を立てねば、生き残れぬ時代
結果が全てであり、結果を出さねば生きてはいけない世界
小平太は死に物狂いな形相で父の後を追い駆けた
直ぐ側で、慶次郎が敵と切り結んだ音が聞こえる
音の聞こえる右耳に神経を向かせた
ガスン、ガスンと槍の柄、刃先がぶつかり、擦れ合う音がする
それは鍛錬で聞いた音とは違っていた
真剣の交じり合う音である
慶次郎は稽古で手を抜いていたのだろうか
その音が重なり合う間隔が余りにも短い
利治は少しだけ慶次郎に目を向けた
信じられない光景が広がる
音が重なり合っていたのは、その数だけ敵を倒している音だった
一人と結び合っているのではなく、次から次へと薙ぎ倒している
「 」
利治の目が見開く
自分にこれと同じことができるのか、と、信じられない目付きであった
「何ぼけーっと見てんだ!」
利治の目の前を、慶次郎の槍が飛ぶ
その槍が、利治に斬り掛かろうとしていた敵兵の喉を貫いた
「ここは清洲の裏庭じゃねーんだ!しっかり前見ろッ!」
「わ、わかってる!」
自分はまだ、覚悟が足りないのか、と、利治は自分の心を詰った
風が吹き、空の雲が辺りを暗闇に変えた
秀隆の率いる黒母衣衆が帰蝶の通り道を開ける
真っ直ぐに伸びたその道は、夫の仇へと繋がった
帰蝶は松風から飛び降り、着地際兼定を抜き払う
佐治は素早く松風の引き綱を右に引っ張り、戦線から離脱した
元々賢い馬ではあるので、佐治のような馬引きは必要としない
勝手に離れ、呼べば戻って来る松風だ
だが、佐治に戦場の何たるかを教えてやりたかった
それが知りたくて、自分に志願したのだから
「佐治!流れ矢に気を付けてな!」
黒母衣衆の松下が佐治に声を掛けた
「はい!松下様も、お気を付けて!」
佐治は上手に松風を誘導し、その場から離脱した
気配が消えるのを帰蝶は躰のどこかで感じながら、正面を見据える
「行くぞッ!」
帰蝶が走る
それに合わせて馬廻り衆、黒母衣衆も走る
雲が集う
帰蝶の頭上に
風が一層強く吹いた
風は風を呼び、雲を集め、冷たい空気が雪崩れ込む
ぽつり、ぽつり、と、空から雫が落ちて来た
「しめた。これで向うも鉄砲は使えないはずだ」
頬に当る雨に、秀隆は口唇を歪ませる
「久(きゅう)さんの部隊に伝えろ!予定通り、作戦決行と!」
「はい!」
雨が降ることは、先刻承知していた
この時のために鉄砲隊には雨が当らぬよう、工夫を施している
それを生かす瞬間がやって来た
秀隆が先に着陣していたのは、その準備のためであった
夫の鎧を身に纏うのは、これで二度目
二年前よりもしっくりと躰に馴染む
まるで夫が包んでくれているかのような気にさえなった
斎藤が二度と尾張に近付けなくするため、自分は一宮ではなく山名を選んだ
今川が、直ぐそこまで迫っている
今川と斎藤、両方を相手に戦うのは骨が折れることだ
それよりも先にやらねばならないことはたくさんあった
ひとつひとつ片付けている余裕など、帰蝶にはない
織田の結束力が最高潮に達している今が、尾張を統一する最大の好機である
そのために、伊予には犠牲になってもらったのだ
政略の道具となった伊予のためにも、生家を尾張一にしてやらねば、犬山での伊予の立場も危うくなる
人はそんな感情を「下らない」と決め付けるかも知れない
だが、女に生まれた以上、女が泣く時代に早く終わりを告げたかった
帰蝶の兼定が、敵兵に向けて煌めいた
「左翼池田隊、前進!中央森隊、土田隊を援護せよ!右翼佐久間隊、犬山と合流、岩倉を左に寄せろ!」
勝家の指示を、赤母衣衆が各部隊に伝達するため馬を走らせる
「柴田隊第一班、第二班、池田隊護衛に回れ!」
歴戦の猛者である勝家の指示は、帰蝶と同等か、それ以上か、的確に指を指し戦局を動かしていた
斬り込み隊である可成、弥三郎の率いる部隊が岩倉軍を撹乱、それに追撃するかのように恒興の部隊が割り込み敵を凪ぐ
「左、池田隊の穴埋めに第三班、入れ!」
ふと、東から感じる風に、勝家は風上を見た
「 ?」
東の空を青白い光が渦を巻くように漂っている
「雷・・・か・・・?」
「山名の辺りでしょうか」
側に居た部下が付け加える
「山名? 奥方様は、ご無事だろうか・・・」
俄に心配顔になる勝家の視線の先に、何やら怪しげな動きをする兵士の姿が見え、目を凝らしてよく見ると、それは出奔中の利家だった
「犬千代?」
「え?」
勝家は急いで馬を走らせ、利家捕獲に乗り出した
風に舞い上がり、雨の細かな飛沫が上から、下から、左右から顔に当る
脚の速い帰蝶に追い付くのは至難の業としても、龍之介は必死で帰蝶に追い縋った
混乱する斎藤軍の中に飛び込み、敵を薙ぎ倒して行く帰蝶と逸れるのは仕方のないことだとしても、まだ戦慣れしていない龍之介にも容赦なく敵の武器が差し向けられた
だが、自分とは別の方向から帰蝶を追っていた秀隆の直属部隊がちらりと見える
龍之介はそれに安心し、帰蝶が後ろから襲われないよう自分なりに戦うことを決意した
大事な何かを守るための戦いは、いつも苦難が付き纏う
それでも走り出す帰蝶を守るのが、自分の使命だと感じていたから
戦線離脱を上手くできたとしても、どこから敵の矢が飛んで来るかわからない
おまけに風も吹き荒み、黒母衣衆が言うように流れ矢に当らないとも言い切れない天候だ
佐治は離れた場所に移動したとしても、周囲の気配に神経を配った
目の前で繰り広げられている『戦』に目が釘付けとなる
人と人がぶつかり、どちらかが倒れるまで斬り合う
それが視界いっぱいに広がり、どちらも逃げ場などないかのように想えた
『命の遣り取り』
答えを見付けるために望んだ世界がこれなのか、と、佐治は膝が震える想いで見詰める
不意に松風の頭が上がった
「どうした?松風」
頭上を見上げると、何本かの矢が互い違いの方向に飛んで来る
「危ない!松風!」
佐治は無意識で咄嗟に松風を庇った
落ちて来た矢の一本が、佐治の左上腕部を掠めて地面に突き刺さった
「 つっ・・・!」
与えられた真新しい戦用の小袖が裂け、そこから薄っすらと血が流れるのを感じた
その傷口を、松風は舐める
「大丈夫だ、松風。ありがとな」
幼い頃から弥三郎の父、平左衛門に就いて馬の商売をしていたからだろうか、馬が人の生活の中でどれだけ大事な役割を果たしているか、佐治は身を以って知っていた
咄嗟に庇ったのは、松風が帰蝶にとって大切な存在だと知っているからか
戦線が延び、盛り返して来た斎藤軍が織田軍を飲み込む勢いで膨らんで来る
「松風、もっと東に行こう」
佐治は腕の痛みを押し、掴んでいた手綱を両手できつく握り直した
その瞬間、突如として松風が大きく頭を振った
「うわっ!」
驚いた佐治は空中に放り投げられ、そのまま松風の背中に上手い具合に乗るように落下した
「ま、松風・・・?」
目をやると、直ぐ側に槍を突き出す斎藤軍の兵士が迫っている
「俺を庇ってくれたのか?もしかして、さっきのお礼か?」
まさかと想いつつも、松風が自分を乗せて疾走するのを、佐治はしがみ付きながら感じた
まるで人と同じ感情を持っているような馬だな、と
佐治を乗せた松風は、斎藤軍の兵士を蹴散らしながら戦線を再離脱した
元々脚の速い馬である
おまけに巨躯でもあるため、誰も松風を止めようとはしない
すれば間違いなく踏み潰されるだろうから、手出しができなかった
完全に帰蝶とはぐれ、何人かの小姓衆らと共にその姿を探す
敵兵に囲まれての行動は、当然戦いながらの前進になった
背後で仲間の一人が斬られた
悲鳴が聞こえるも、龍之介は振り返っている余裕などなかった
目の前に立ちはだかるその武将から、ただならぬ気配を感じ取る
「 」
龍之介は背中の矢筒に差してある矢には、手を回さなかった
これだけの至近距離ではあっさりと避けられ、逆に自分が斬り捨てられるのが関の山である
身形の立派な武将だった
相当名のある人物だろう
自分達は知らず知らずの間に、敵のど真ん中に紛れ込んでしまったようだ
ここから脱する方法を考えながら、目の前の敵兵と対峙する
敵兵の槍が飛ぶ
龍之介は咄嗟に身を捩って避けた
次の一手
今度は反対の方向から槍が戻って来る
龍之介は手にしていた弓の柄で槍をいなした
ぶつかった瞬間、手に痺れが走る
熟練した腕を持つ武将であることが知れた
「ほう、随分丈夫な弓だな。それに、通常の物よりずっと大きい。そなた、相当の手練か」
「まだまだ未熟者にてございます。されど、大事な方を守るためには、一流の物を持たねばなりませぬ故、未熟者には不相応な弓を持っている次第でございます」
「どこの弓だ」
敵兵は槍を構えながら龍之介に尋ねた
「京都、嵯峨より取り寄せたる、一級弓工芸師、秋正雀の逸品でございます」
「嵯峨の竹、か。なるほど、硬いわけだ」
年は四十を越える辺りだろうか、自分よりもずっと年上のその武士は、子供のような顔をして笑った
「優れたる腕を持つ者には、優れたる獲物が映える。そなた、一流の武士になれようぞ。されど、惜しい。わしとぶつかったこと、そなたの命運尽きたる瞬間」
「 ッ」
敵兵の槍が正面から龍之介を貫く
その瞬間、龍之介は弓の柄で槍を受け、右に身を返した
細い躰が跳ね駒のように舞う
「次はどうか?!」
容赦なく槍の刃先が龍之介に突き刺さるのを、必死になって右へ左へと避けた
「逃げてばかりでは勝敗は決まらぬ!」
「仰るとおり!」
龍之介は捨て身に転じ、背中に手を回し矢を抜いた
くるりくるりと舞いながら、弦に矢を弾く
敵兵の槍が龍之介の肩を掠める
龍之介は片膝を落とし、弦を大きく引いた
「 」
敵兵の槍は、地面を突き刺している
龍之介の矢は、真っ直ぐ敵兵の顔に向けられている
「 勝負、あり、か」
「如何でしょう」
「指を離せば、そなたの勝ちだ。何故引かぬ」
「わかりませぬ。されど、何故でしょう、あなた様を殺すわけにはいかないと、わたくしの本能がそう叫びまする」
「 」
敵兵は苦笑いし、それから地面に突き刺さった自分の獲物の柄を掴んだ
「そなた、小姓衆か」
軽装の姿を見て、そう察知したのだろう
「いかにも」
「なれば、『姫様』に伝言、頼まれてはくれまいか」
「姫様・・・」
それは帰蝶のことを指していると、龍之介は咄嗟に浮かんだ
「私でよろしければ、伝言、お受けいたします」
「夕庵様より、火急の知らせ」
周囲には切り結んでいるように感じられるであろう風景の中で、龍之介と敵兵の周りの空気が塵を含み、輝いているように見えた
「夕庵様・・・」
「斎藤、総大将、重大な病に身を侵されし候。余命幾許もない状況にて、美濃攻め慣行、急がれたし。美濃衆の一人が、暴走気味とのこと、美濃の国人衆が斎藤から離れてしまう危険性、大。全ては姫様の手腕に掛かっていると、そうお伝え願えるか」
「 承知」
「頼んだ」
敵兵は槍を掴むと身構えたまま、龍之介から離れた
「お待ち下さいませ!あなた様の御名も、お伝えしとうございます。お教えいただけませんか」
「わしの名は、源助」
「源助殿・・・」
「姫様には、『源太』とお伝えくだされ」
「源太、ですか」
「姫様が、勝手にそう呼んでおられた名前です。小牧源太。某の名でございます」
「小牧・・・源太・・・」
「では、御免ッ」
源太はそう一礼すると、素早く駆け出し別の場所に向って去った
「 」
敵兵ながら、随分と爽やかな御仁だと感心しつつも、まだ敵陣の真ん中に取り残されてしまっていることを想い出し、四方八方から敵兵が襲い掛かるのを、仲間と共に必死になって凌いだ
「犬千代!」
「うわっ!」
首根っこを勝家に掴まれ、さすがの利家も死ぬほど驚く
「お前、こんなとこで何やってるか!」
「ご・・・、権六さん・・・」
「勝手に参戦か、良いご身分だなッ!」
「だって・・・!」
「兎に角、来い!」
「 」
首を掴まれたまま、利家は否応なしに本陣に連れて行かれる
その光景を、多くの者が呆然とした顔で見送っていた
「前田殿!」
利家の姿に、本陣に戻っていた恒興が目を剥いて驚く
「池田、首尾はどうだ」
「あ、はい!先ほど、作戦準備完了致しました」
「よし、では予定通り作戦決行!各部隊に伝えろ!赤母衣!」
「はい!」
「お前のとこの、『元』大将だ。扱き使え!」
と、勝家は赤母衣衆筆頭である青年武将に利家を投げ付けた
「権六さん・・・!」
「ここに来たなら役に立て!」
「でも、俺、奥方様に・・・。そうだ、奥方様は・・・?!」
「奥方様は、山名に張られておられる」
「山名に?!そんな・・・!さ、斎藤が尾張に・・・」
「それを見越しての出陣だッ!奥方様を見縊るなッ!」
「 ッ」
勝家の怒鳴り声に、利家の肩が震えた
「 犬千代」
さっきの怒鳴り声など別人のものかのように、今度は穏やかな声で告げる
「奥方様が守りたいのは、何だと想う」
「奥方様が・・・。そりゃ、殿の夢とか、尾張とか、若様とか・・・」
「殿の御夢、殿が残された尾張、帰命の若様、そして、織田の家、尾張の民、それから、わしら織田家家臣団、だとさ」
「 」
利家の目が、いっぱいに開く
「その中に、お前も入ってる。だから、奥方様はお前に、飛び切り上等の磨き油を差し入れしたのではないのか」
「そう・・・だ・・・、俺・・・、そのお礼、まだ奥方様に直接言ってなくて、だから・・・、奥方様に逢いたくて・・・、でも・・・」
体の大きな利家の目が、涙で濡れた
「莫迦モンが!これくらいのことでメソメソするな!奥方様は、斎藤を清洲に近付けさせぬため、態々山名にまで出張っておられるんだ!その奥方様の気持ちを汲め!今のお前にできることは何だ!それを考えろッ!」
「 ッ」
勝家は手にしていた自分の馬の手綱を、利家に叩き付けた
「さっさと奔(はし)れッ!」
「は、はいいいッ!」
利家が馬に跨り走り出すのを、勝家はその背中を見詰めながら帰蝶との会話を想い出した
出陣の少し前、最後の打ち合わせで帰蝶の部屋を訪れた時のことだった
「どうしても、山名に向われますか」
帰蝶一人で行かせても良いものかと、勝家はずっと思案していた
「庭の雀が教えてくれた。斎藤がまた、織田の争いに水を差す用意があると」
「庭の雀・・・」
「賢い雀でね、尾張周辺の色んな情報を伝えてくれるの。政略を交わしても、犬山が本気で清洲には助成しようとしないこととか、一宮が美濃との繋がりを大事にするようになって来たこととか、木曽川の漁獲量が減ったこととか。来年辺り、疫病が流行るかも知れない。今の内、対策を練っておかないと」
「疫病ですか・・・」
「それで義父上様も命を落としたのだもの、莫迦にはできないわ」
「そうですね」
「それでね、権」
「はい」
勝家は帰蝶に顔を向け直した
「今度の戦、もしかしたらだけど、犬千代がどこかに姿を見せるかも知れない」
「犬千代が、ですか?」
「そしたら、権のところで保護しててくれない?」
「え・・・、ですが・・・」
「私が山名に出張るのは極秘事項、犬千代だって知らないと想うから、間違いなく浮野に現れると想うの。それにおまつも、そろそろ一人じゃ暮らしにくい時期になってるわ。初めての子を一人で産む心細さ、おまつには味合わせたくないの。だから、犬千代を見掛けたら、首根っこひっ捕まえて保護しててくれない?」
「はぁ・・・」
帰蝶の、まつを想う気持ちの優しさには感心させられるが、事件を起し出奔した利家を保護したところで周囲の、事情を良く知らない者達の心象はどうなるのだろうかと、心配な気持ちにもなって来る
そんな勝家の表情を見て察したか、帰蝶は言葉を付け加えた
「大丈夫。犬千代は血の気は多いけど、ちゃんと弁えられる男よ。縦しんば手柄を取ったところで、前に出て来るような目立ちたがり屋じゃないわ」
「そうかも知れませんが」
「犬千代も、私にとっては大事な家臣の一人。例え出奔したとしても、私の部下に変わりはない」
「奥方様は、お気持ちが優し過ぎます」
「そう?私には当たり前のような気がする。家臣を大事にできない領主は、民も大事にはできない。吉法師様ならきっと、そうすると想ったから」
「殿も・・・・・・・・・」
「吉法師様が大切にしておられたものを、私が粗末にするわけにはいかないじゃない。そうでしょ?」
「奥方様は、殿の夢を守りたいと仰っておられました。なんだか日々、守りたいものが増えているような気がしますぞ」
「そうね。吉法師様の夢は勿論、尾張の民、尾張の国、織田の家臣達、それから、帰命。私に、守り切れるかな」
勝家の言葉に帰蝶は苦笑いして応える
「そのための、我ら家臣団です」
「ありがとう」
「 」
相変わらずの、たおやかな微笑み
失くした夫と、愛する我が子の話をする時、この奥方は一際優しい微笑みを見せる
その微笑みは見ている者の心に満足感を与えた
自分が幼い頃の姉の記憶を、私は持っていなかった
私が生まれた時から姉は城にはおらず、常にどこかを駆け回る『じゃじゃ馬』な少女だった
「帰蝶!帰蝶はまだ帰らんか!」
「姫様ぁー!」
局処はいつも、姉を呼ぶ父の声か、姉を探す侍女の声しかしなかった
時々見掛ける姉は、いつも鋭い眼差しをしていた
子供心ながらに「怖い」と感じていた
その姉が政略で尾張に嫁ぐことになってからほぼ半年、私は完全に姉の姿を見なくなった
まだ幼かった私の記憶から『姉』が消えたのも、この頃だった
それから七年が経ち、『初めて』姉と対峙した
「この人が姉上か」と言う印象の後に、身震いするほどの壮絶な雰囲気が伝わる
幼い頃の「怖い」と言う感覚が蘇り、私は情けなくも肩を震わるしかできなかった
そんな姉に認められてこそ一人前、と言う気持ちを持つも、いつもそれが空回りする
自分は女の姉にすら勝てないのか、と
「うおおおおおーッ!」
手にした槍を出鱈目に振り回す
頭に描く実戦と、現実の自分とでは大きな違いがあり過ぎる
過去二回の参戦など、なんの足しにもならないと想い知らされた
この日のために誂えた真新しい槍は敵に掠るどころか、さっきから空しく雨の雫を跳ね飛ばすことしかできていない
何のために毎日、毎日、慶次郎と稽古をしていたのか、その成果が全く見えて来ない
「くそ・・・ッ。クソッ!」
槍を握り締め、果敢にも自分よりずっと大きな敵兵に立ち向かうが、柄すら当らなかった
「なんで当らないんだよッ!」
「新五!」
突出し出す利治に気付き、慶次郎は慌てて引き止めようと斬り合っている敵兵を弾き飛ばし、駆け出した
「くそッ!」
「青二才の分際で、わしと張ろうなんざ十年早いッ!」
対峙していた斎藤の兵士の槍が、我を忘れた利治の胸に真っ直ぐ伸びる
「 ッ」
相手に突き出した槍を引込めようとするも、それが到底間に合うとは想えない
槍の刃先が鎧に当る
利治の脳裏に姉・帰蝶、それから、さちの笑顔が入れ替わるように過った
「新五ッ!」
慶次郎の怒声が響き渡る
何を想ったか利治は、真後ろに倒れるように身を反らす
しかし、支えがない状態ではそのまま倒れるだけであろう、慶次郎は咄嗟に自分の槍を突き出し、利治の背中を真横に支えた
利治はその柄を支え棒のように身を預け、槍を握り直す
「いっ、けぇぇぇ ッ!」
慶次郎は利治の躰を弾き返すように、槍の柄を想い切り振り上げた
その反動で利治の躰が前方に飛ぶ
敵兵の槍を避け、利治の槍が前に突き出る
一瞬の出来事に敵兵は何が起きたのか理解できぬまま、その喉に利治の槍を受け倒れた
肉が裂ける音、突き刺さる感触、断末魔の悲鳴、それが一つの塊となって利治を包み込む
「 」
敵兵に突き刺さった槍を素早く抜き取り、次の敵を見定める
その目は、いつもの穏やかなものではなかった
見慣れぬ姿勢
見慣れぬ動き
利治を背中から見ていた慶次郎は、利治の豹変に唖然とした
「新五・・・、お前・・・」
「うおおぉぉぉぉーッ!」
雄叫びを上げながら、敵に突進して行く
低く、低く腰を落としながら駆ける
まるで、血に飢えた狼のように
その姿を一言で表現するなら、『獣』が相応しかった
まだ成長途中の段階である利治の身長は、決して高いものではない
幼さの残る小さな躰が丸く低く地面を駆け抜ける
扱い慣れていない筈の新品の槍が、どんどんと敵の血に赤く染まっていく
利治の走る処、血飛沫が上がった
「新五・・・!」
その姿に、さすがの慶次郎も戦慄する
時々、稀にではあるが、戦に於いて血を見ると、我を忘れる体質の者が居ると言う
命の遣り取りに高揚し、普段の言動が嘘のように別人格が現れる者が居ると言う
そう言った者をこの国での呼び名は確立していないが、確か『荒御霊』と呼ばれていたような気がするなと、慶次郎は想い浮かべた
『荒御霊』とは、『荒ぶる』『神の』『魂を宿す者』
だが、決して悪い意味で使われるだけではないが、正しい言葉を知る者も多くはない
『荒御霊』には対があり、『和御霊』と呼ばれていた
『荒御霊』が禍を齎す神魂であれば、『和御霊』はその逆に人々を幸せにする幸福の神魂
しかしこの二つの魂は元々は一つのものであり、人の心に其々持っている『真理』でもあると説くのは、仏教ではなく神道であった
よき神もあれば、悪しき神も居る
それは人の世界でも同じことが言えた
今、利治の躰に荒ぶる神魂が宿っているとは想えないが、そう言わざるを得ない状況であることも確かだった
過去の参戦、一度として役に立ったことのない利治が今、地を駆ける獣のように敵兵を次々と薙ぎ倒しているこの光景に、それ以外の言葉が見付からない
「荒御霊を持つ神さんの名前、なんつったかな・・・」
慶次郎は慶次郎で別の敵兵と結び合う
相手の槍をいなし、自分の槍を突き出す
「確か、獣の名前だったような気がするな」
慶次郎の槍が、斎藤の兵士の腹に突き刺さった
「ああ、そうだ」
牛頭天王、と呼ぶんだっけか
一霊四魂はこれよりずっと後年に確立される魂のあり方ではあるが、神道を齧った者なら誰もが『直霊』くらいは知っている
慶次郎の生まれはこの尾張だとしても、親は元々は『伊勢信仰』の強い地に生まれていた伊勢の一族である
慶次郎の心には『仏教』よりも、『神道』の方に根強い親しみがあった
人の魂には一つの霊が宿る
その霊が『直霊』
霊とは目に見えぬもの、つまり『魂』と同じ意味を持つ
その『直霊』が二つに分かれているものの一つが、『荒御霊』、一般に『悪』を指す
そしてもう一つが『和御霊』、悪の対、『善』のことであった
仏教と神道の違いははっきりしている
仏教では悪事も反省すれば清められると人の心に安堵を与えるが、神道は『悪は悪』として裁かれることを前提に持っている
だからこそ、「日頃の行いが大事である」とも説いているのだ
仏教は『悪』を『敵』と看做しているが、信仰を集める軍神の殆どがその『悪』と呼ばれる『鬼』であることを、人は余り考えない
神道は、『悪』には『悪』の使い道があると信じ、決して忌み嫌う存在ではないと教えている
『悪』は『悪い』と言う意味だけのものではないと
だからこそ、『悪しき魂』を持つ者を敢えて『神』とし、人々を禍から守る『盾』のように崇めていた
『悪』、それは、揺るぎない強さ、勇猛さにも繋がる
利治の日頃は間違いなく『和御霊』であろう
それが今、『荒御霊』に支配されているとするならば、それはきっと、人としての正しい姿なのかも知れない
『荒御霊』は『勇』
勇ましさ、勇気、そして、戦う心を表している
『和御霊』は『親』
名の如く『調和』、『親和』を表す
この『和御霊』は更に二つに枝分かれしており、その一つが『幸御霊』
『愛』と『幸福』を表し、もう一つが『奇御霊』
これは知恵、叡智とも目されていた
この四つが一つになって『人』となる
それが本来の姿だとしても、どれか一つくらいは欠けてしまうのもまた、『人間』であった
なのに利治にはその四つの魂が正しく備わっていることが、今、わかった
利治に欠けていた魂、それが『荒御霊』である
最後の一つがここに来て、漸く揃った
その前兆を知っていた慶次郎は、敵兵との争いの中、嬉しくて踊り出したい気分になり、仕方がなかった
聞いてくれ
アイツは俺のダチなんだ
あそこで暴れてる、あのちっこいの、俺の大事なダチなんだ
そう叫びたくて仕方がなかった
斎藤を追い出そうと、帰蝶は先々と敵勢の中を駆け抜けた
既に背後から龍之介ら小姓衆の気配はない
だが代わりに、秀隆の率いる黒母衣衆が集結しつつあった
風が視界を凪ぐ
荒れ狂う天候に以前と同じ、『背後からの追い風』とは言えない状況の中、少しは板に付いた手の兼定が空を切った
相手が槍であろうが、同じ刀であろうが、帰蝶もまた、戦鬼の如く敵兵を斬り伏せていく
しかし、如何せん女の力ではやはり、致命傷には程遠い出来ではあるが、稲生での戦に比べれば少しは上達した方であろうか
現に秀隆らの助力は必要としていない
帰蝶が左に舞えば鮮血が左に散る
帰蝶が右に舞えば鮮血も右に飛ぶ
まるで灰色の空の上を、赤い蝶が舞っているかのようにも見えた
一瞬、その頭上で青白い煌めきが視界を過る
来るか
帰蝶は深追いをやめ、自分の正面を黒母衣衆に預けた
「河尻!」
「はっ!」
「久助に合図を!作戦を決行する!」
「承知ッ!」
「うわぁッ!」
その行く手を遮るかのように、黒母衣衆の悲鳴が上がった
目を向けると、一際大きな体躯の兵士の槍に、まだ少年とも呼べる年齢の黒母衣衆の一人が突き立てられ、串刺し状態で持ち上げられていた
「勘兵衛ッ!」
顔見知りの同僚が声を張り上げる
突き抜かれたのは肩で、今直ぐ助ければ命には別状はないとも言えるだろう
だが肝心なのは、『誰が助けるか』、であった
「 」
引き掛けた躰を正面に向け直し、帰蝶は兼定を握り直した
「奥方・・・ッ」
「良いから。行って」
小さな声で応える
「しかし・・・!」
帰蝶の言葉に、秀隆は顔を青褪めさせた
「私が合図したら、一斉に撤退させて。目的の場所まで一目散に走って。良い?」
「ですが、奥方」
「寡兵の我らに、これ以上粘れるだけの余力はないッ!賢く生きろ!死に急ぐなッ!」
「 ッ」
叫ぶと同時に、一気に駆け出す帰蝶の背中を目の当たりに、秀隆は配下に命令を下した
「全軍に伝えろッ!作戦、決行ッ!速やかに指定位置まで下がれ!」
秀隆の号令に、母衣を背負った騎馬隊が一斉に散った
まるで生き急いでいるようだ、と、昔、誰かに言われたような気がする
夫だったか、お清だったか、それとも、なつだったか、従兄妹にだったか、忘れた
今の自分は生き急いでいるだろうか
そんな気にはなれなかった
まだ自分は何一つ成果を上げていない
実績を残していない
そんな段階で偉そうなことは言えないが、ただ一つだけ言えることがあった
それは、目の前の黒母衣衆を助けるのは、自分だ、と言うことを
「うぉおりゃぁぁぁ ッ!」
力いっぱい地面を蹴り、力の限り飛ぶ
帰蝶の細い躰が宙を舞った
帰蝶を迎撃しようと、黒母衣衆を串刺しにしている兵士が槍を振り下ろす
勘兵衛と呼ばれた少年は槍から肩が抜け、地面に叩き付けられる
その隙を縫うかのように、帰蝶は敵兵の槍を踏み付け、そして一際高く舞い上がった
「 ッ!」
想わず、雨の落ちる空を見上げる
その雨が目に入り、計らずとも目潰しの役目を果たしてくれた
目を擦ろうと手を拳にする
直後、鈍い痛みが胸元を走った
帰蝶は敵兵の胸元に兼定を突き刺すと、その躰を踏み台に後方へ一回転で飛び弾けた
「ぐおッ!」
その直後、空から稲妻が走り、帰蝶の刀を受けた兵士の躰に落ちた
この衝撃的な光景に周囲の斎藤軍兵士の腰が引け、一瞬、『空白』が生まれた
「引くぞッ!」
帰蝶は髪を結んでいた結い紐を片手で外し、落雷で炎の上がった敵兵に刺さっている兼定の柄を鞭打つように叩く
すると結い紐は柄に絡まり、帰蝶がそれを引けば手元に兼定が戻って来た
「松風ッ!」
人の油の焦げる悪臭さえものともせず、帰蝶は松風を呼んだ
間もなく、『佐治を乗せた』松風が帰蝶の許に馳せ参じる
松風にしがみ付いている佐治のその姿を見て、帰蝶は想わず吹き出た
「馬引きではなく、『馬乗り』だったか」
「め、面目ございません・・・」
降りようとする佐治に手を翳す
「そのままで良い、撤収するぞ」
「は、はい!」
佐治は帰蝶に手綱を投げた
帰蝶はその手綱を受け取りながら、飛ぶように松風に騎乗する
「大丈夫か?!勘兵衛!」
自分の馬の綱を引き寄せながら、秀隆は肩を串刺しにされていた部下を抱え上げた
意識は失っているが、息はある
槍に貫かれた肩からは夥しい量の血が流れていた
「流し過ぎると命取りになる。早く止血を」
だが、ここで悠長に手当てをしている場合でもなかった
秀隆は勘兵衛を自分の馬に引っ掛けるように乗せると、自身も飛び乗りこの場を脱した
「織田軍、撤収ッ!」
その声は、当然、側に居る斎藤軍にも伝わった
『撤収』と言う言葉に釣られ、追撃のため丘に戻る織田軍を追い駆ける
気配に、帰蝶の口唇が歪んだ
「飛べ。松風」
松風の巨躯が、嘘のように空を飛んだ
「うわぁぁぁぁぁぁぁー!」
残されたのは、佐治の金切り声だけである
丘を動かした黒い山が、再び丘を目指して動き出す
敵兵と斬り合う者は他の者に引き摺られながら、だとか、撤収しながら自分を追い駆けて来る敵兵と戦いながら、だとか、千差万別である
逃げる兵を追わぬのは戦の美学、鉄則
逃げる兵を追うのもまた、敵壊滅のための一つの鉄則であった
『撤収』と言う言葉が『呼び水』であることなど、利三にはわかっていた
「後を追うな!深追いするな!戻れ!」
力の限り叫ぶも、その場の雰囲気に飲まれた感も強い斎藤軍は、織田軍の走る丘を目指して殺到した
次の瞬間、最後の織田軍兵士が丘を昇り切ったのと同時に土が盛り上がり、まるで軒先の庇のような屋根が横一列、前後互い違いにずれた状態で二列、その異様な光景が広がった
「(撃)ていッ!」
鉄砲隊総指揮官、一益の叫び声が上がる
その土の中の庇から、一斉に鉄砲が放たれた
屋根があれば、雨など関係ない
道空の忠告を聞いた者だけが浮かばせられる『妙案』であった
帰蝶の呼んだ雷が空を青白く輝かせる
風の呼んだ雲が雨を振り落とす
俄に雨足も強くなり、『雨避け』など持っていない斎藤軍は持ち込んだ鉄砲すら使えない状態になってしまった
なのに、土を掘り起こした穴倉に入っている織田軍は、雨の当らぬ場所から自分達を狙い撃ちしている
前列が鉄砲を放ち、次の準備をしている間に後列から鉄砲が撃ち込まれる
「引け引け引け!斎藤軍、撤退だ!」
帰蝶の奇策を目の当たりにしたのか、いや、これが帰蝶の指揮するものだと言うことは誰も知らない筈であろう、恐らくは『信長』の指揮によるものと想い込んでも不思議ではないこの現状に、稲葉一鉄は漸く気付いた
『多勢が全てではない』のだと言うことを
博識である一鉄も、遠く大陸から伝わる古の武将の名、ぐらいは聞いたことがある
道三の懐刀でもあった武井夕庵が、その人物をこう呼んでいたことくらい、耳に挟んだことはある
『小さな孟徳』を
寡兵で挑み、勝利する者
美濃の至宝
斎藤、帰蝶
「斎藤軍が撤退するぞ!」
丘に上がった織田軍を見上げながら、慶次郎は利治に声を張り上げた
さっきから背後で鉄砲の音もする
そろそろこの辺りもやばいと感じてはいるが、見境の失くした利治を正気に戻すのも一苦労であった
「新五!おい!」
敵兵に槍を振り回す利治の背中から、その槍を避け近付くのも至難の業である
「おい、こら、新五!」
だが、いくら呼んでも慶次郎の声は利治の耳には届かない
「こっちまでやられっちまうぞ!」
斎藤軍の波は木曽川に向って流れている
その背中まで追い駆けようとする利治を連れ、本陣まで戻らなくてはならない慶次郎は、どうすれば利治が正気に戻るのか思案した
「新五!大変だ!奥方様が頭から角出して怒ってるぞ!早く戻ろう!」
しかし、利治は自分の方を見ようとはしない
「新五!奥方様が負傷なされた!早く戻るぞ!」
それも、同様だった
「困ったな・・・」
逃げる斎藤軍(向こう)もジリ貧、追い立てているこちらもジリ貧
今でも充分孤立しているのに、撤収した織田軍が二人きりの自分達に気付いてくれるとも想わなかった
気付いていたら鉄砲など撃ちはしないだろう
「新五!おいってば!」
利治が突き刺した斎藤軍の兵士の体が、自分の方に向かって飛んで来る
「うおっ!」
咄嗟に避けはしたものの、己を完全に見失っている利治に掛ける言葉がなくなってしまった
「どうすれば・・・・・・・・・」
自身もまだ残っている斎藤の兵士と戦いながら妙案を考える
「 そうか」
そして、閃く
「あ、さっちゃん」
「え?」
想わず、利治は反応した
「しめた!」
慶次郎は正気に戻った利治の首根っこを捕まえ小脇に抱えると、脱兎の如く戦線を離脱した
「慶次郎?」
「戻ったか」
「え?さちが居るのか?」
「居るわけねーだろ!この、色男!」
「え?」
きょとんとする利治を抱えたまま奔る慶次郎に、漸く黒母衣衆らの援軍が駆け付けた
「作戦、成功ですね。斎藤軍が、慌てて引き返す。追撃しますか?」
丘の上から見下ろす木曽川の光景に、秀隆が声を掛け
「いいや、このままで良い。こちらにも損失は出た。これ以上被害を拡大させても、疲弊するだけだ」
根切りにすると宣言したものの、合流した龍之介から『源太』の伝言を受け取った帰蝶は、これ以上の無理は無価値だと判断した
「斎藤軍の置き土産を回収後、帰陣する。怪我人を運べ。私は浮野に向う」
「これからですか?」
「犬山の動きが心配だ」
「権さんが付いてるんだから、心配はないと想うんですけど」
「権を心配しているのではない。犬山を疑ってるだけだ」
「奥方様・・・・・・・」
本人は、気付いているのだろうか
いつものように柔らかい、『女言葉』ではなくなっていることを
自分の実家と直接戦ったことで、帰蝶の中の『柔らかさ』が抜け落ちてしまったのではないかと、秀隆は気懸かりになった
ただ想うのは、その横顔
凛とした毅然さの中に、どこか哀愁のようなものも感じる
何を想い、何を考えているのか
岸から離れる斎藤の船を見詰める帰蝶の瞳は、薄暗く、そして、真冬の水のように凄然とした冷たさを漂わせていた
永禄元年、初夏
木曽川にて斎藤軍を撃退したその直後、東海一の弓取りと称される駿府の知将・今川義元が動いた
手にした信長の遺品、種子島式を構え、帰蝶は遠くにある的に舌打ちをした
当たるは当るが、想った場所には命中しない
どうしても上向きに軌道が逸れてしまう
「ふぅ~ん・・・」
鼻から息を吐き唸る帰蝶に、側に居た秀隆が言う
「俺は、鉄砲は専門外ですから偉そうなことは言えませんが」
「良いわよ、構わないから言って。久助が居ない今、河尻の判断に従うから」
「奥方様は女です」
「知ってるわよ、そんなこと。だから?女だから無理だって言うの?」
「そうじゃありません。手首の力が、どうしても男には負けてしまうんですよ。それに、その種子島式は何れ成長する殿に合わせて作られたものです。銃身は確かに種子島式ですが、柄や火打ちとか、それ以外でも細かい部分なんかは紀州で組み立て、完成させたものです」
「え?そうなの?それって・・・」
秀隆の話に、帰蝶は目を丸くした
「はい。半分は、根来式なんですよ。だから、『男専用』に作られた鉄砲なんです。女の奥方様が使いこなすには、ある程度は良いとしても、細かい動作ともなれば男並みの腕の太さになってもらわないと、はっきり言って無理です」
「
秀隆の言葉に、帰蝶は絶句した
自分は、『始めから使いこなせるはずのない』鉄砲を、必死になって撃っていたのかと想ったのだ
できもしないことをまた、やろうとしていたのか、と・・・
丘が動く
人が波になる
それに押し流され、溺れてしまうのか
整然と並んだ織田軍が、まるで大きな山に見えた
その織田軍が横一列のまま、一糸乱れず斎藤軍に押し寄せる
「うわぁぁぁぁ
余りの壮大な光景に、臆病風に吹かれた斎藤の兵士が槍を投げ捨て、我先にと木曽川に浮かべた船に殺到した
「静まれー!静まれー!相手は寡兵、怯まず立ち向かえッ!」
後退する兵士らに、一鉄は張り裂けんばかりの声を荒げた
だが、本能のまま怖気付いた兵士は逃げる事をやめない
『兵士』、と言っても、殆どが農家の雇い兵、雑兵である
一攫千金に目が眩み、船に乗り込んだ者が多くを占めた
代わって帰蝶が率いる兵士は全てが『職業兵士』であり、農作物で生計を立てる半農半兵の斎藤軍とでは根本から違う
戦でしか『飯』が食えない連中なのだから
「飲み込んでやれッ!」
秀隆から離れた成政の引率する特攻部隊が先陣を切り、その後を時親、義銀の集めた元斯波衆が押し寄せる
黒母衣衆は各人に帰蝶からの命令を伝達するのが役目であり、稲生での戦いのように積極的に参戦することは滅多とない
だが、この戦で姉に認めてもらいたい利治は、その群から外れた
「新五?」
「こんなとこでちまちまやってたって、姉上の目には止まらない」
訝しげにする慶次郎に、利治はきっと釣りあがった目を向けた
「お前、軍律を破るってのか?」
「末席の私に、ここではやらねばならない仕事などない。やるべきことは、斎藤の兵の首を、一つでも多く取ることだ!」
「
利治の言葉に目を丸くした慶次郎は、やがて「かかか!」と笑い、口唇の端を釣り上げた
「いいねぇ!その意気、買ったぜ」
「慶次郎」
「軍律を破るんだったら、いっちょ派手にやってやろうやッ!」
「おう!」
慶次郎と二人、黒母衣衆の群から離れ、斎藤軍に突進した
その姿を、後方から帰蝶が眺めていた
「慶次郎は、半月朝餉抜き」
「はっ」
「新五は、十日分の知行削減」
「はっ」
側に控えた龍之介が応える
「帰ったら、お尻ぺんぺんじゃ済まないって、教えてあげなきゃね」
「そうですね」
龍之介の苦笑いに、帰蝶は左腕を水平に倒し、その上に種子島式を載せて構えた
「要するに、発射する時にぶれなきゃ良いのよね?」
「それはそうですが、何度も申し上げますけど、手首の力が弱い以上、ぶれるのは仕方がないことです。予め、的を下方に定めて撃つと言うのはどうですか」
「そんな器用なこと、私にできると想う?」
「
できるような気もするのだが、本人ができないと言いたそうな顔をしている以上、強要もできない
秀隆は黙って引き下がった
「鉄砲は、その筒の中で小爆発を起こし、玉を飛ばす。一番衝撃があるのは、火薬が引火し、爆発する時。その時に、反動で銃身が上に向いて、的を外す。手首の力に頼った照準じゃなくて、何か固定した力で撃てば、弾は真っ直ぐ飛ぶ」
帰蝶は独り言のようにぶつぶつと呟いた
「でも、どうすれば固定できる。馬の上からじゃ、松風の頭に載せるわけには行かないし、いくら松風でもそればっかりは許してくれないわよね。となると、別の方法。降りた時は?松風が居ないのに、どうやって固定させる。竹で芯を作るか。でも、一々持ち運ぶのに不便になるし、耐久性だってわからない。肝心な時に使い物にならなかったら、こっちが命取りになる。壊れることがなく、いつでも携帯できるもの」
種子島式を片手に、人差し指を咥えてうろうろする帰蝶を、秀隆はじっと見守った
『息を忘れたかのように黙り込み』、立ち止まって黙案する帰蝶を、廊下からなつが見ていた
また、無茶をする気じゃないだろうかと、気が気でない
その静寂(しじま)がどれくらい続いたのか
帰蝶は目を開き、何かを想い付いたのか鉄砲に玉を仕込む
火薬を火皿に注ぎ、カルカではなく上に向って力強く振り上げると、玉はカチンといい音をして指定される場所に嵌った
その光景に秀隆は驚くばかりなのに、帰蝶は更に驚くような行動に出た
自分の左腕を水平に倒し、その中心に鉄砲を載せる
「奥方様・・・?」
それから、的を定めて帰蝶は引き金を引いた
『バスン!』と、信長の種子島式独特の爆発音が轟く
「お・・・・・・・・」
「ふぅ・・・。まだちょっとずれるかな」
「奥方様!」
帰蝶の放った一発は、今までのどの玉よりも確実に、中心に近くなっていた
「まさか、腕を支え棒に?」
「これなら、腕がなくならない限り活用できるでしょ?自分の躰の一部だもん。持ち運ぶ不便さもないじゃない」
「いや、まさかこんなこと、いや・・・まさか想い付くなど・・・」
自分のこの驚きようをどう表現すれば良いのか、秀隆にはわからなかった
しどろもどろになって目を見開く
「奥方様、あなたって方は・・・」
あんぐりとした顔をする秀隆に、帰蝶は少し誇らしげに微笑んだ
だが
「やっぱり非常識な考えを持っていないと、こう言う破天荒なことは想い浮かばないもんですね!」
「
余りにもの発言に、帰蝶は無言になり、なつは影でクスクス笑っていた
腕に載せた種子島式を構え、照準を合わせる
銃口が向いているのは、撫子の軍旗
その中心
風が靡く
指し物が揺らめく
慌てふためく斎藤軍を、織田軍が蹴散らし、薙ぎ払う
我先にと船に殺到し、橋渡しは途中で川に落ちる者を出した
斎藤はどれくらいの兵を出したのだろうか
塊だったのが徐々に分散し、黒い点が浮かぶ
恐らく
いや、間違いなくこちらが寡兵だろう
半分以上を一宮に送っているのだから、斎藤を上回る数ではないことだけは確かだ
なのに
帰蝶の心は、静かだった
帰蝶の指が、引き金を引いた
背後から風が起こる
その風に乗って、玉が疾走した
「
利三は頭上を見上げた
鉄砲の音がした
こちらにも鉄砲隊は用意してある
だが、まだ発砲できる準備さえしていない段階で、織田軍に攻め寄せられた
手間の掛かる鉄砲で、太刀打ちできるわけがなかった
一発の発砲音に、一瞬、背筋が凍った
そして、空を見上げる
厚い雲に覆われた空の下、風に靡いた『斎藤家』の家紋をあしらった軍旗、その中心に大きな穴が開いていた
周囲は黒く焦げ、糸の解れは南から北へと流れた
「
利三は刀を抜き、周囲の兵士を鼓舞した
大人しく引き下がるかと想っていた斎藤軍が、利三の鼓舞で盛り返し、船から離れていた者だけだとしても正面から織田軍とぶつかって来た
「奥方様・・・!」
龍之介は背中に掛けていた、通常の物より遥かに長い弓を咄嗟に掴んで身構える
「出る」
帰蝶は一言だけ告げ、松風を走らせた
付いていた佐治も共に駆ける
「はいッ!」
龍之介も弓を抜き、帰蝶に併走した
今回引き連れた軍勢は、その殆どが新生の構成である斯波旧家臣団が主だった
馴染んだ織田の軍勢は一宮に居る
意思の疎通が心配だったが、旧家臣らも生き残りを賭けての一戦でもある
この戦で武功を挙げねば、帰蝶、新しい主君への覚えも目出度くは済まない
其々の家は、それこそ武器を持てる者なら幼い我が子をも投入しているところもあった
「小平太、ゆくぞ!」
「はっ、はい・・・!」
斯波家旧家臣のひとつ、服部家でも、この戦で息子の小平太を慌てて元服させ、無理矢理戦場に立たせたくらいである
小平太はまだ十一だった
右も左もわからぬここで、父に倣い、馴染まぬ刀を両手で必死に握り締めていた
手柄を立てねば、生き残れぬ時代
結果が全てであり、結果を出さねば生きてはいけない世界
小平太は死に物狂いな形相で父の後を追い駆けた
直ぐ側で、慶次郎が敵と切り結んだ音が聞こえる
音の聞こえる右耳に神経を向かせた
ガスン、ガスンと槍の柄、刃先がぶつかり、擦れ合う音がする
それは鍛錬で聞いた音とは違っていた
真剣の交じり合う音である
慶次郎は稽古で手を抜いていたのだろうか
その音が重なり合う間隔が余りにも短い
利治は少しだけ慶次郎に目を向けた
信じられない光景が広がる
音が重なり合っていたのは、その数だけ敵を倒している音だった
一人と結び合っているのではなく、次から次へと薙ぎ倒している
「
利治の目が見開く
自分にこれと同じことができるのか、と、信じられない目付きであった
「何ぼけーっと見てんだ!」
利治の目の前を、慶次郎の槍が飛ぶ
その槍が、利治に斬り掛かろうとしていた敵兵の喉を貫いた
「ここは清洲の裏庭じゃねーんだ!しっかり前見ろッ!」
「わ、わかってる!」
風が吹き、空の雲が辺りを暗闇に変えた
秀隆の率いる黒母衣衆が帰蝶の通り道を開ける
真っ直ぐに伸びたその道は、夫の仇へと繋がった
帰蝶は松風から飛び降り、着地際兼定を抜き払う
佐治は素早く松風の引き綱を右に引っ張り、戦線から離脱した
元々賢い馬ではあるので、佐治のような馬引きは必要としない
勝手に離れ、呼べば戻って来る松風だ
だが、佐治に戦場の何たるかを教えてやりたかった
それが知りたくて、自分に志願したのだから
「佐治!流れ矢に気を付けてな!」
黒母衣衆の松下が佐治に声を掛けた
「はい!松下様も、お気を付けて!」
佐治は上手に松風を誘導し、その場から離脱した
気配が消えるのを帰蝶は躰のどこかで感じながら、正面を見据える
「行くぞッ!」
帰蝶が走る
それに合わせて馬廻り衆、黒母衣衆も走る
雲が集う
帰蝶の頭上に
風が一層強く吹いた
風は風を呼び、雲を集め、冷たい空気が雪崩れ込む
ぽつり、ぽつり、と、空から雫が落ちて来た
「しめた。これで向うも鉄砲は使えないはずだ」
頬に当る雨に、秀隆は口唇を歪ませる
「久(きゅう)さんの部隊に伝えろ!予定通り、作戦決行と!」
「はい!」
雨が降ることは、先刻承知していた
この時のために鉄砲隊には雨が当らぬよう、工夫を施している
それを生かす瞬間がやって来た
秀隆が先に着陣していたのは、その準備のためであった
夫の鎧を身に纏うのは、これで二度目
二年前よりもしっくりと躰に馴染む
まるで夫が包んでくれているかのような気にさえなった
斎藤が二度と尾張に近付けなくするため、自分は一宮ではなく山名を選んだ
今川と斎藤、両方を相手に戦うのは骨が折れることだ
それよりも先にやらねばならないことはたくさんあった
ひとつひとつ片付けている余裕など、帰蝶にはない
織田の結束力が最高潮に達している今が、尾張を統一する最大の好機である
そのために、伊予には犠牲になってもらったのだ
政略の道具となった伊予のためにも、生家を尾張一にしてやらねば、犬山での伊予の立場も危うくなる
人はそんな感情を「下らない」と決め付けるかも知れない
だが、女に生まれた以上、女が泣く時代に早く終わりを告げたかった
帰蝶の兼定が、敵兵に向けて煌めいた
「左翼池田隊、前進!中央森隊、土田隊を援護せよ!右翼佐久間隊、犬山と合流、岩倉を左に寄せろ!」
勝家の指示を、赤母衣衆が各部隊に伝達するため馬を走らせる
「柴田隊第一班、第二班、池田隊護衛に回れ!」
歴戦の猛者である勝家の指示は、帰蝶と同等か、それ以上か、的確に指を指し戦局を動かしていた
斬り込み隊である可成、弥三郎の率いる部隊が岩倉軍を撹乱、それに追撃するかのように恒興の部隊が割り込み敵を凪ぐ
「左、池田隊の穴埋めに第三班、入れ!」
ふと、東から感じる風に、勝家は風上を見た
「
東の空を青白い光が渦を巻くように漂っている
「雷・・・か・・・?」
「山名の辺りでしょうか」
側に居た部下が付け加える
「山名?
俄に心配顔になる勝家の視線の先に、何やら怪しげな動きをする兵士の姿が見え、目を凝らしてよく見ると、それは出奔中の利家だった
「犬千代?」
「え?」
勝家は急いで馬を走らせ、利家捕獲に乗り出した
風に舞い上がり、雨の細かな飛沫が上から、下から、左右から顔に当る
脚の速い帰蝶に追い付くのは至難の業としても、龍之介は必死で帰蝶に追い縋った
混乱する斎藤軍の中に飛び込み、敵を薙ぎ倒して行く帰蝶と逸れるのは仕方のないことだとしても、まだ戦慣れしていない龍之介にも容赦なく敵の武器が差し向けられた
だが、自分とは別の方向から帰蝶を追っていた秀隆の直属部隊がちらりと見える
龍之介はそれに安心し、帰蝶が後ろから襲われないよう自分なりに戦うことを決意した
大事な何かを守るための戦いは、いつも苦難が付き纏う
それでも走り出す帰蝶を守るのが、自分の使命だと感じていたから
戦線離脱を上手くできたとしても、どこから敵の矢が飛んで来るかわからない
おまけに風も吹き荒み、黒母衣衆が言うように流れ矢に当らないとも言い切れない天候だ
佐治は離れた場所に移動したとしても、周囲の気配に神経を配った
目の前で繰り広げられている『戦』に目が釘付けとなる
人と人がぶつかり、どちらかが倒れるまで斬り合う
それが視界いっぱいに広がり、どちらも逃げ場などないかのように想えた
『命の遣り取り』
答えを見付けるために望んだ世界がこれなのか、と、佐治は膝が震える想いで見詰める
不意に松風の頭が上がった
「どうした?松風」
頭上を見上げると、何本かの矢が互い違いの方向に飛んで来る
「危ない!松風!」
佐治は無意識で咄嗟に松風を庇った
落ちて来た矢の一本が、佐治の左上腕部を掠めて地面に突き刺さった
「
与えられた真新しい戦用の小袖が裂け、そこから薄っすらと血が流れるのを感じた
その傷口を、松風は舐める
「大丈夫だ、松風。ありがとな」
幼い頃から弥三郎の父、平左衛門に就いて馬の商売をしていたからだろうか、馬が人の生活の中でどれだけ大事な役割を果たしているか、佐治は身を以って知っていた
咄嗟に庇ったのは、松風が帰蝶にとって大切な存在だと知っているからか
戦線が延び、盛り返して来た斎藤軍が織田軍を飲み込む勢いで膨らんで来る
「松風、もっと東に行こう」
佐治は腕の痛みを押し、掴んでいた手綱を両手できつく握り直した
その瞬間、突如として松風が大きく頭を振った
「うわっ!」
驚いた佐治は空中に放り投げられ、そのまま松風の背中に上手い具合に乗るように落下した
「ま、松風・・・?」
目をやると、直ぐ側に槍を突き出す斎藤軍の兵士が迫っている
「俺を庇ってくれたのか?もしかして、さっきのお礼か?」
まさかと想いつつも、松風が自分を乗せて疾走するのを、佐治はしがみ付きながら感じた
まるで人と同じ感情を持っているような馬だな、と
佐治を乗せた松風は、斎藤軍の兵士を蹴散らしながら戦線を再離脱した
元々脚の速い馬である
おまけに巨躯でもあるため、誰も松風を止めようとはしない
すれば間違いなく踏み潰されるだろうから、手出しができなかった
完全に帰蝶とはぐれ、何人かの小姓衆らと共にその姿を探す
敵兵に囲まれての行動は、当然戦いながらの前進になった
背後で仲間の一人が斬られた
悲鳴が聞こえるも、龍之介は振り返っている余裕などなかった
目の前に立ちはだかるその武将から、ただならぬ気配を感じ取る
「
龍之介は背中の矢筒に差してある矢には、手を回さなかった
これだけの至近距離ではあっさりと避けられ、逆に自分が斬り捨てられるのが関の山である
身形の立派な武将だった
相当名のある人物だろう
自分達は知らず知らずの間に、敵のど真ん中に紛れ込んでしまったようだ
ここから脱する方法を考えながら、目の前の敵兵と対峙する
敵兵の槍が飛ぶ
龍之介は咄嗟に身を捩って避けた
次の一手
今度は反対の方向から槍が戻って来る
龍之介は手にしていた弓の柄で槍をいなした
ぶつかった瞬間、手に痺れが走る
熟練した腕を持つ武将であることが知れた
「ほう、随分丈夫な弓だな。それに、通常の物よりずっと大きい。そなた、相当の手練か」
「まだまだ未熟者にてございます。されど、大事な方を守るためには、一流の物を持たねばなりませぬ故、未熟者には不相応な弓を持っている次第でございます」
「どこの弓だ」
敵兵は槍を構えながら龍之介に尋ねた
「京都、嵯峨より取り寄せたる、一級弓工芸師、秋正雀の逸品でございます」
「嵯峨の竹、か。なるほど、硬いわけだ」
年は四十を越える辺りだろうか、自分よりもずっと年上のその武士は、子供のような顔をして笑った
「優れたる腕を持つ者には、優れたる獲物が映える。そなた、一流の武士になれようぞ。されど、惜しい。わしとぶつかったこと、そなたの命運尽きたる瞬間」
「
敵兵の槍が正面から龍之介を貫く
その瞬間、龍之介は弓の柄で槍を受け、右に身を返した
細い躰が跳ね駒のように舞う
「次はどうか?!」
容赦なく槍の刃先が龍之介に突き刺さるのを、必死になって右へ左へと避けた
「逃げてばかりでは勝敗は決まらぬ!」
「仰るとおり!」
龍之介は捨て身に転じ、背中に手を回し矢を抜いた
くるりくるりと舞いながら、弦に矢を弾く
敵兵の槍が龍之介の肩を掠める
龍之介は片膝を落とし、弦を大きく引いた
「
敵兵の槍は、地面を突き刺している
龍之介の矢は、真っ直ぐ敵兵の顔に向けられている
「
「如何でしょう」
「指を離せば、そなたの勝ちだ。何故引かぬ」
「わかりませぬ。されど、何故でしょう、あなた様を殺すわけにはいかないと、わたくしの本能がそう叫びまする」
「
敵兵は苦笑いし、それから地面に突き刺さった自分の獲物の柄を掴んだ
「そなた、小姓衆か」
軽装の姿を見て、そう察知したのだろう
「いかにも」
「なれば、『姫様』に伝言、頼まれてはくれまいか」
「姫様・・・」
それは帰蝶のことを指していると、龍之介は咄嗟に浮かんだ
「私でよろしければ、伝言、お受けいたします」
「夕庵様より、火急の知らせ」
周囲には切り結んでいるように感じられるであろう風景の中で、龍之介と敵兵の周りの空気が塵を含み、輝いているように見えた
「夕庵様・・・」
「斎藤、総大将、重大な病に身を侵されし候。余命幾許もない状況にて、美濃攻め慣行、急がれたし。美濃衆の一人が、暴走気味とのこと、美濃の国人衆が斎藤から離れてしまう危険性、大。全ては姫様の手腕に掛かっていると、そうお伝え願えるか」
「
「頼んだ」
敵兵は槍を掴むと身構えたまま、龍之介から離れた
「お待ち下さいませ!あなた様の御名も、お伝えしとうございます。お教えいただけませんか」
「わしの名は、源助」
「源助殿・・・」
「姫様には、『源太』とお伝えくだされ」
「源太、ですか」
「姫様が、勝手にそう呼んでおられた名前です。小牧源太。某の名でございます」
「小牧・・・源太・・・」
「では、御免ッ」
源太はそう一礼すると、素早く駆け出し別の場所に向って去った
「
敵兵ながら、随分と爽やかな御仁だと感心しつつも、まだ敵陣の真ん中に取り残されてしまっていることを想い出し、四方八方から敵兵が襲い掛かるのを、仲間と共に必死になって凌いだ
「犬千代!」
「うわっ!」
首根っこを勝家に掴まれ、さすがの利家も死ぬほど驚く
「お前、こんなとこで何やってるか!」
「ご・・・、権六さん・・・」
「勝手に参戦か、良いご身分だなッ!」
「だって・・・!」
「兎に角、来い!」
「
首を掴まれたまま、利家は否応なしに本陣に連れて行かれる
その光景を、多くの者が呆然とした顔で見送っていた
「前田殿!」
利家の姿に、本陣に戻っていた恒興が目を剥いて驚く
「池田、首尾はどうだ」
「あ、はい!先ほど、作戦準備完了致しました」
「よし、では予定通り作戦決行!各部隊に伝えろ!赤母衣!」
「はい!」
「お前のとこの、『元』大将だ。扱き使え!」
と、勝家は赤母衣衆筆頭である青年武将に利家を投げ付けた
「権六さん・・・!」
「ここに来たなら役に立て!」
「でも、俺、奥方様に・・・。そうだ、奥方様は・・・?!」
「奥方様は、山名に張られておられる」
「山名に?!そんな・・・!さ、斎藤が尾張に・・・」
「それを見越しての出陣だッ!奥方様を見縊るなッ!」
「
勝家の怒鳴り声に、利家の肩が震えた
「
さっきの怒鳴り声など別人のものかのように、今度は穏やかな声で告げる
「奥方様が守りたいのは、何だと想う」
「奥方様が・・・。そりゃ、殿の夢とか、尾張とか、若様とか・・・」
「殿の御夢、殿が残された尾張、帰命の若様、そして、織田の家、尾張の民、それから、わしら織田家家臣団、だとさ」
「
利家の目が、いっぱいに開く
「その中に、お前も入ってる。だから、奥方様はお前に、飛び切り上等の磨き油を差し入れしたのではないのか」
「そう・・・だ・・・、俺・・・、そのお礼、まだ奥方様に直接言ってなくて、だから・・・、奥方様に逢いたくて・・・、でも・・・」
体の大きな利家の目が、涙で濡れた
「莫迦モンが!これくらいのことでメソメソするな!奥方様は、斎藤を清洲に近付けさせぬため、態々山名にまで出張っておられるんだ!その奥方様の気持ちを汲め!今のお前にできることは何だ!それを考えろッ!」
「
勝家は手にしていた自分の馬の手綱を、利家に叩き付けた
「さっさと奔(はし)れッ!」
「は、はいいいッ!」
利家が馬に跨り走り出すのを、勝家はその背中を見詰めながら帰蝶との会話を想い出した
出陣の少し前、最後の打ち合わせで帰蝶の部屋を訪れた時のことだった
「どうしても、山名に向われますか」
帰蝶一人で行かせても良いものかと、勝家はずっと思案していた
「庭の雀が教えてくれた。斎藤がまた、織田の争いに水を差す用意があると」
「庭の雀・・・」
「賢い雀でね、尾張周辺の色んな情報を伝えてくれるの。政略を交わしても、犬山が本気で清洲には助成しようとしないこととか、一宮が美濃との繋がりを大事にするようになって来たこととか、木曽川の漁獲量が減ったこととか。来年辺り、疫病が流行るかも知れない。今の内、対策を練っておかないと」
「疫病ですか・・・」
「それで義父上様も命を落としたのだもの、莫迦にはできないわ」
「そうですね」
「それでね、権」
「はい」
勝家は帰蝶に顔を向け直した
「今度の戦、もしかしたらだけど、犬千代がどこかに姿を見せるかも知れない」
「犬千代が、ですか?」
「そしたら、権のところで保護しててくれない?」
「え・・・、ですが・・・」
「私が山名に出張るのは極秘事項、犬千代だって知らないと想うから、間違いなく浮野に現れると想うの。それにおまつも、そろそろ一人じゃ暮らしにくい時期になってるわ。初めての子を一人で産む心細さ、おまつには味合わせたくないの。だから、犬千代を見掛けたら、首根っこひっ捕まえて保護しててくれない?」
「はぁ・・・」
帰蝶の、まつを想う気持ちの優しさには感心させられるが、事件を起し出奔した利家を保護したところで周囲の、事情を良く知らない者達の心象はどうなるのだろうかと、心配な気持ちにもなって来る
そんな勝家の表情を見て察したか、帰蝶は言葉を付け加えた
「大丈夫。犬千代は血の気は多いけど、ちゃんと弁えられる男よ。縦しんば手柄を取ったところで、前に出て来るような目立ちたがり屋じゃないわ」
「そうかも知れませんが」
「犬千代も、私にとっては大事な家臣の一人。例え出奔したとしても、私の部下に変わりはない」
「奥方様は、お気持ちが優し過ぎます」
「そう?私には当たり前のような気がする。家臣を大事にできない領主は、民も大事にはできない。吉法師様ならきっと、そうすると想ったから」
「殿も・・・・・・・・・」
「吉法師様が大切にしておられたものを、私が粗末にするわけにはいかないじゃない。そうでしょ?」
「奥方様は、殿の夢を守りたいと仰っておられました。なんだか日々、守りたいものが増えているような気がしますぞ」
「そうね。吉法師様の夢は勿論、尾張の民、尾張の国、織田の家臣達、それから、帰命。私に、守り切れるかな」
勝家の言葉に帰蝶は苦笑いして応える
「そのための、我ら家臣団です」
「ありがとう」
「
相変わらずの、たおやかな微笑み
失くした夫と、愛する我が子の話をする時、この奥方は一際優しい微笑みを見せる
その微笑みは見ている者の心に満足感を与えた
自分が幼い頃の姉の記憶を、私は持っていなかった
私が生まれた時から姉は城にはおらず、常にどこかを駆け回る『じゃじゃ馬』な少女だった
「帰蝶!帰蝶はまだ帰らんか!」
「姫様ぁー!」
局処はいつも、姉を呼ぶ父の声か、姉を探す侍女の声しかしなかった
時々見掛ける姉は、いつも鋭い眼差しをしていた
子供心ながらに「怖い」と感じていた
その姉が政略で尾張に嫁ぐことになってからほぼ半年、私は完全に姉の姿を見なくなった
まだ幼かった私の記憶から『姉』が消えたのも、この頃だった
それから七年が経ち、『初めて』姉と対峙した
「この人が姉上か」と言う印象の後に、身震いするほどの壮絶な雰囲気が伝わる
幼い頃の「怖い」と言う感覚が蘇り、私は情けなくも肩を震わるしかできなかった
そんな姉に認められてこそ一人前、と言う気持ちを持つも、いつもそれが空回りする
自分は女の姉にすら勝てないのか、と
「うおおおおおーッ!」
手にした槍を出鱈目に振り回す
頭に描く実戦と、現実の自分とでは大きな違いがあり過ぎる
過去二回の参戦など、なんの足しにもならないと想い知らされた
この日のために誂えた真新しい槍は敵に掠るどころか、さっきから空しく雨の雫を跳ね飛ばすことしかできていない
何のために毎日、毎日、慶次郎と稽古をしていたのか、その成果が全く見えて来ない
「くそ・・・ッ。クソッ!」
槍を握り締め、果敢にも自分よりずっと大きな敵兵に立ち向かうが、柄すら当らなかった
「なんで当らないんだよッ!」
「新五!」
突出し出す利治に気付き、慶次郎は慌てて引き止めようと斬り合っている敵兵を弾き飛ばし、駆け出した
「くそッ!」
「青二才の分際で、わしと張ろうなんざ十年早いッ!」
対峙していた斎藤の兵士の槍が、我を忘れた利治の胸に真っ直ぐ伸びる
「
相手に突き出した槍を引込めようとするも、それが到底間に合うとは想えない
槍の刃先が鎧に当る
利治の脳裏に姉・帰蝶、それから、さちの笑顔が入れ替わるように過った
「新五ッ!」
慶次郎の怒声が響き渡る
何を想ったか利治は、真後ろに倒れるように身を反らす
しかし、支えがない状態ではそのまま倒れるだけであろう、慶次郎は咄嗟に自分の槍を突き出し、利治の背中を真横に支えた
利治はその柄を支え棒のように身を預け、槍を握り直す
「いっ、けぇぇぇ
慶次郎は利治の躰を弾き返すように、槍の柄を想い切り振り上げた
その反動で利治の躰が前方に飛ぶ
敵兵の槍を避け、利治の槍が前に突き出る
一瞬の出来事に敵兵は何が起きたのか理解できぬまま、その喉に利治の槍を受け倒れた
肉が裂ける音、突き刺さる感触、断末魔の悲鳴、それが一つの塊となって利治を包み込む
「
敵兵に突き刺さった槍を素早く抜き取り、次の敵を見定める
その目は、いつもの穏やかなものではなかった
見慣れぬ姿勢
見慣れぬ動き
利治を背中から見ていた慶次郎は、利治の豹変に唖然とした
「新五・・・、お前・・・」
「うおおぉぉぉぉーッ!」
雄叫びを上げながら、敵に突進して行く
低く、低く腰を落としながら駆ける
まるで、血に飢えた狼のように
その姿を一言で表現するなら、『獣』が相応しかった
まだ成長途中の段階である利治の身長は、決して高いものではない
幼さの残る小さな躰が丸く低く地面を駆け抜ける
扱い慣れていない筈の新品の槍が、どんどんと敵の血に赤く染まっていく
利治の走る処、血飛沫が上がった
「新五・・・!」
その姿に、さすがの慶次郎も戦慄する
時々、稀にではあるが、戦に於いて血を見ると、我を忘れる体質の者が居ると言う
命の遣り取りに高揚し、普段の言動が嘘のように別人格が現れる者が居ると言う
そう言った者をこの国での呼び名は確立していないが、確か『荒御霊』と呼ばれていたような気がするなと、慶次郎は想い浮かべた
『荒御霊』とは、『荒ぶる』『神の』『魂を宿す者』
だが、決して悪い意味で使われるだけではないが、正しい言葉を知る者も多くはない
『荒御霊』には対があり、『和御霊』と呼ばれていた
『荒御霊』が禍を齎す神魂であれば、『和御霊』はその逆に人々を幸せにする幸福の神魂
しかしこの二つの魂は元々は一つのものであり、人の心に其々持っている『真理』でもあると説くのは、仏教ではなく神道であった
よき神もあれば、悪しき神も居る
それは人の世界でも同じことが言えた
今、利治の躰に荒ぶる神魂が宿っているとは想えないが、そう言わざるを得ない状況であることも確かだった
過去の参戦、一度として役に立ったことのない利治が今、地を駆ける獣のように敵兵を次々と薙ぎ倒しているこの光景に、それ以外の言葉が見付からない
「荒御霊を持つ神さんの名前、なんつったかな・・・」
慶次郎は慶次郎で別の敵兵と結び合う
相手の槍をいなし、自分の槍を突き出す
「確か、獣の名前だったような気がするな」
慶次郎の槍が、斎藤の兵士の腹に突き刺さった
「ああ、そうだ」
一霊四魂はこれよりずっと後年に確立される魂のあり方ではあるが、神道を齧った者なら誰もが『直霊』くらいは知っている
慶次郎の生まれはこの尾張だとしても、親は元々は『伊勢信仰』の強い地に生まれていた伊勢の一族である
慶次郎の心には『仏教』よりも、『神道』の方に根強い親しみがあった
人の魂には一つの霊が宿る
その霊が『直霊』
霊とは目に見えぬもの、つまり『魂』と同じ意味を持つ
その『直霊』が二つに分かれているものの一つが、『荒御霊』、一般に『悪』を指す
そしてもう一つが『和御霊』、悪の対、『善』のことであった
仏教と神道の違いははっきりしている
仏教では悪事も反省すれば清められると人の心に安堵を与えるが、神道は『悪は悪』として裁かれることを前提に持っている
だからこそ、「日頃の行いが大事である」とも説いているのだ
仏教は『悪』を『敵』と看做しているが、信仰を集める軍神の殆どがその『悪』と呼ばれる『鬼』であることを、人は余り考えない
神道は、『悪』には『悪』の使い道があると信じ、決して忌み嫌う存在ではないと教えている
『悪』は『悪い』と言う意味だけのものではないと
だからこそ、『悪しき魂』を持つ者を敢えて『神』とし、人々を禍から守る『盾』のように崇めていた
『悪』、それは、揺るぎない強さ、勇猛さにも繋がる
利治の日頃は間違いなく『和御霊』であろう
それが今、『荒御霊』に支配されているとするならば、それはきっと、人としての正しい姿なのかも知れない
『荒御霊』は『勇』
勇ましさ、勇気、そして、戦う心を表している
『和御霊』は『親』
名の如く『調和』、『親和』を表す
この『和御霊』は更に二つに枝分かれしており、その一つが『幸御霊』
『愛』と『幸福』を表し、もう一つが『奇御霊』
これは知恵、叡智とも目されていた
この四つが一つになって『人』となる
それが本来の姿だとしても、どれか一つくらいは欠けてしまうのもまた、『人間』であった
なのに利治にはその四つの魂が正しく備わっていることが、今、わかった
利治に欠けていた魂、それが『荒御霊』である
最後の一つがここに来て、漸く揃った
その前兆を知っていた慶次郎は、敵兵との争いの中、嬉しくて踊り出したい気分になり、仕方がなかった
聞いてくれ
アイツは俺のダチなんだ
あそこで暴れてる、あのちっこいの、俺の大事なダチなんだ
そう叫びたくて仕方がなかった
斎藤を追い出そうと、帰蝶は先々と敵勢の中を駆け抜けた
既に背後から龍之介ら小姓衆の気配はない
だが代わりに、秀隆の率いる黒母衣衆が集結しつつあった
風が視界を凪ぐ
荒れ狂う天候に以前と同じ、『背後からの追い風』とは言えない状況の中、少しは板に付いた手の兼定が空を切った
相手が槍であろうが、同じ刀であろうが、帰蝶もまた、戦鬼の如く敵兵を斬り伏せていく
しかし、如何せん女の力ではやはり、致命傷には程遠い出来ではあるが、稲生での戦に比べれば少しは上達した方であろうか
現に秀隆らの助力は必要としていない
帰蝶が左に舞えば鮮血が左に散る
帰蝶が右に舞えば鮮血も右に飛ぶ
まるで灰色の空の上を、赤い蝶が舞っているかのようにも見えた
一瞬、その頭上で青白い煌めきが視界を過る
帰蝶は深追いをやめ、自分の正面を黒母衣衆に預けた
「河尻!」
「はっ!」
「久助に合図を!作戦を決行する!」
「承知ッ!」
「うわぁッ!」
その行く手を遮るかのように、黒母衣衆の悲鳴が上がった
目を向けると、一際大きな体躯の兵士の槍に、まだ少年とも呼べる年齢の黒母衣衆の一人が突き立てられ、串刺し状態で持ち上げられていた
「勘兵衛ッ!」
顔見知りの同僚が声を張り上げる
突き抜かれたのは肩で、今直ぐ助ければ命には別状はないとも言えるだろう
だが肝心なのは、『誰が助けるか』、であった
「
引き掛けた躰を正面に向け直し、帰蝶は兼定を握り直した
「奥方・・・ッ」
「良いから。行って」
小さな声で応える
「しかし・・・!」
帰蝶の言葉に、秀隆は顔を青褪めさせた
「私が合図したら、一斉に撤退させて。目的の場所まで一目散に走って。良い?」
「ですが、奥方」
「寡兵の我らに、これ以上粘れるだけの余力はないッ!賢く生きろ!死に急ぐなッ!」
「
叫ぶと同時に、一気に駆け出す帰蝶の背中を目の当たりに、秀隆は配下に命令を下した
「全軍に伝えろッ!作戦、決行ッ!速やかに指定位置まで下がれ!」
秀隆の号令に、母衣を背負った騎馬隊が一斉に散った
まるで生き急いでいるようだ、と、昔、誰かに言われたような気がする
夫だったか、お清だったか、それとも、なつだったか、従兄妹にだったか、忘れた
今の自分は生き急いでいるだろうか
そんな気にはなれなかった
まだ自分は何一つ成果を上げていない
実績を残していない
そんな段階で偉そうなことは言えないが、ただ一つだけ言えることがあった
それは、目の前の黒母衣衆を助けるのは、自分だ、と言うことを
「うぉおりゃぁぁぁ
力いっぱい地面を蹴り、力の限り飛ぶ
帰蝶の細い躰が宙を舞った
帰蝶を迎撃しようと、黒母衣衆を串刺しにしている兵士が槍を振り下ろす
勘兵衛と呼ばれた少年は槍から肩が抜け、地面に叩き付けられる
その隙を縫うかのように、帰蝶は敵兵の槍を踏み付け、そして一際高く舞い上がった
「
想わず、雨の落ちる空を見上げる
その雨が目に入り、計らずとも目潰しの役目を果たしてくれた
目を擦ろうと手を拳にする
直後、鈍い痛みが胸元を走った
帰蝶は敵兵の胸元に兼定を突き刺すと、その躰を踏み台に後方へ一回転で飛び弾けた
「ぐおッ!」
その直後、空から稲妻が走り、帰蝶の刀を受けた兵士の躰に落ちた
この衝撃的な光景に周囲の斎藤軍兵士の腰が引け、一瞬、『空白』が生まれた
「引くぞッ!」
帰蝶は髪を結んでいた結い紐を片手で外し、落雷で炎の上がった敵兵に刺さっている兼定の柄を鞭打つように叩く
すると結い紐は柄に絡まり、帰蝶がそれを引けば手元に兼定が戻って来た
「松風ッ!」
人の油の焦げる悪臭さえものともせず、帰蝶は松風を呼んだ
間もなく、『佐治を乗せた』松風が帰蝶の許に馳せ参じる
松風にしがみ付いている佐治のその姿を見て、帰蝶は想わず吹き出た
「馬引きではなく、『馬乗り』だったか」
「め、面目ございません・・・」
降りようとする佐治に手を翳す
「そのままで良い、撤収するぞ」
「は、はい!」
佐治は帰蝶に手綱を投げた
帰蝶はその手綱を受け取りながら、飛ぶように松風に騎乗する
「大丈夫か?!勘兵衛!」
自分の馬の綱を引き寄せながら、秀隆は肩を串刺しにされていた部下を抱え上げた
意識は失っているが、息はある
槍に貫かれた肩からは夥しい量の血が流れていた
「流し過ぎると命取りになる。早く止血を」
だが、ここで悠長に手当てをしている場合でもなかった
秀隆は勘兵衛を自分の馬に引っ掛けるように乗せると、自身も飛び乗りこの場を脱した
「織田軍、撤収ッ!」
その声は、当然、側に居る斎藤軍にも伝わった
『撤収』と言う言葉に釣られ、追撃のため丘に戻る織田軍を追い駆ける
気配に、帰蝶の口唇が歪んだ
「飛べ。松風」
松風の巨躯が、嘘のように空を飛んだ
「うわぁぁぁぁぁぁぁー!」
残されたのは、佐治の金切り声だけである
丘を動かした黒い山が、再び丘を目指して動き出す
敵兵と斬り合う者は他の者に引き摺られながら、だとか、撤収しながら自分を追い駆けて来る敵兵と戦いながら、だとか、千差万別である
逃げる兵を追わぬのは戦の美学、鉄則
逃げる兵を追うのもまた、敵壊滅のための一つの鉄則であった
『撤収』と言う言葉が『呼び水』であることなど、利三にはわかっていた
「後を追うな!深追いするな!戻れ!」
力の限り叫ぶも、その場の雰囲気に飲まれた感も強い斎藤軍は、織田軍の走る丘を目指して殺到した
次の瞬間、最後の織田軍兵士が丘を昇り切ったのと同時に土が盛り上がり、まるで軒先の庇のような屋根が横一列、前後互い違いにずれた状態で二列、その異様な光景が広がった
「(撃)ていッ!」
鉄砲隊総指揮官、一益の叫び声が上がる
その土の中の庇から、一斉に鉄砲が放たれた
屋根があれば、雨など関係ない
道空の忠告を聞いた者だけが浮かばせられる『妙案』であった
帰蝶の呼んだ雷が空を青白く輝かせる
風の呼んだ雲が雨を振り落とす
俄に雨足も強くなり、『雨避け』など持っていない斎藤軍は持ち込んだ鉄砲すら使えない状態になってしまった
なのに、土を掘り起こした穴倉に入っている織田軍は、雨の当らぬ場所から自分達を狙い撃ちしている
前列が鉄砲を放ち、次の準備をしている間に後列から鉄砲が撃ち込まれる
「引け引け引け!斎藤軍、撤退だ!」
帰蝶の奇策を目の当たりにしたのか、いや、これが帰蝶の指揮するものだと言うことは誰も知らない筈であろう、恐らくは『信長』の指揮によるものと想い込んでも不思議ではないこの現状に、稲葉一鉄は漸く気付いた
『多勢が全てではない』のだと言うことを
博識である一鉄も、遠く大陸から伝わる古の武将の名、ぐらいは聞いたことがある
道三の懐刀でもあった武井夕庵が、その人物をこう呼んでいたことくらい、耳に挟んだことはある
『小さな孟徳』を
寡兵で挑み、勝利する者
美濃の至宝
「斎藤軍が撤退するぞ!」
丘に上がった織田軍を見上げながら、慶次郎は利治に声を張り上げた
さっきから背後で鉄砲の音もする
そろそろこの辺りもやばいと感じてはいるが、見境の失くした利治を正気に戻すのも一苦労であった
「新五!おい!」
敵兵に槍を振り回す利治の背中から、その槍を避け近付くのも至難の業である
「おい、こら、新五!」
だが、いくら呼んでも慶次郎の声は利治の耳には届かない
「こっちまでやられっちまうぞ!」
斎藤軍の波は木曽川に向って流れている
その背中まで追い駆けようとする利治を連れ、本陣まで戻らなくてはならない慶次郎は、どうすれば利治が正気に戻るのか思案した
「新五!大変だ!奥方様が頭から角出して怒ってるぞ!早く戻ろう!」
しかし、利治は自分の方を見ようとはしない
「新五!奥方様が負傷なされた!早く戻るぞ!」
それも、同様だった
「困ったな・・・」
逃げる斎藤軍(向こう)もジリ貧、追い立てているこちらもジリ貧
今でも充分孤立しているのに、撤収した織田軍が二人きりの自分達に気付いてくれるとも想わなかった
気付いていたら鉄砲など撃ちはしないだろう
「新五!おいってば!」
利治が突き刺した斎藤軍の兵士の体が、自分の方に向かって飛んで来る
「うおっ!」
咄嗟に避けはしたものの、己を完全に見失っている利治に掛ける言葉がなくなってしまった
「どうすれば・・・・・・・・・」
自身もまだ残っている斎藤の兵士と戦いながら妙案を考える
「
そして、閃く
「あ、さっちゃん」
「え?」
想わず、利治は反応した
「しめた!」
慶次郎は正気に戻った利治の首根っこを捕まえ小脇に抱えると、脱兎の如く戦線を離脱した
「慶次郎?」
「戻ったか」
「え?さちが居るのか?」
「居るわけねーだろ!この、色男!」
「え?」
きょとんとする利治を抱えたまま奔る慶次郎に、漸く黒母衣衆らの援軍が駆け付けた
「作戦、成功ですね。斎藤軍が、慌てて引き返す。追撃しますか?」
丘の上から見下ろす木曽川の光景に、秀隆が声を掛け
「いいや、このままで良い。こちらにも損失は出た。これ以上被害を拡大させても、疲弊するだけだ」
根切りにすると宣言したものの、合流した龍之介から『源太』の伝言を受け取った帰蝶は、これ以上の無理は無価値だと判断した
「斎藤軍の置き土産を回収後、帰陣する。怪我人を運べ。私は浮野に向う」
「これからですか?」
「犬山の動きが心配だ」
「権さんが付いてるんだから、心配はないと想うんですけど」
「権を心配しているのではない。犬山を疑ってるだけだ」
「奥方様・・・・・・・」
本人は、気付いているのだろうか
いつものように柔らかい、『女言葉』ではなくなっていることを
自分の実家と直接戦ったことで、帰蝶の中の『柔らかさ』が抜け落ちてしまったのではないかと、秀隆は気懸かりになった
ただ想うのは、その横顔
凛とした毅然さの中に、どこか哀愁のようなものも感じる
何を想い、何を考えているのか
岸から離れる斎藤の船を見詰める帰蝶の瞳は、薄暗く、そして、真冬の水のように凄然とした冷たさを漂わせていた
木曽川にて斎藤軍を撃退したその直後、東海一の弓取りと称される駿府の知将・今川義元が動いた
PR
この記事にコメントする
牛頭天王とは偶然
本編は久し振りの更新です
合戦シーンは中々上手く書けません
頭ではぽんぽん浮かぶんですけど、それを文章にするって本当、難しいですね
色んな戦国モノ(小説)を読みましたが、どれもさっぱりな内容なのはしょうがないなと想いました
作家さんが悪いんじゃない
想像できないんですよね、実際の合戦なんて
戦国モノは数あれど、どんな大家も合戦の場面になると想像できないようなごちゃごちゃした書き方になって、そのシーンがどうも思い浮ばないんですが、自分も書いてみて「ああ、これじゃ誰にも伝わらないのはしょうがない」とつくづく想いました
平和な時代に合戦を想像するのは本当、骨が折れます
牛頭天王のことは、本編更新前の雑談で書かせてもらったのですが、まさか本編の方で引用するとは私自身、想っていませんでした
戦国武将の多くが愛宕信仰(愛宕は戦勝の神様を祭っているので、武将達から厚い支持を受けていた)であるにも関わらず、風変わりな信長は牛頭信仰だと聞きかじり、牛頭天王も戦勝の神様かと思いきや、実は意外と農業の神様だとか
しかしその魂は『荒ぶる』もので『荒魂』を持つとか
そんなちぐはぐさが信長には受けたのでしょうか
いえいえ、神様は一概に「何々の神様」とは決め付けられない複雑さがあるので(そう想えば庶民向けの仏教はわかりやすいので、受けたのでしょうね)信長が何を以って牛頭天王を崇めたのかは、私自身まだわかっておりません
仏教での悪鬼なとは何れ仏に帰依し、戦の仏となりました
阿修羅などもそうですが、それでも彼らは『人間を守る』ためには存在せず、お釈迦様を守るために存在しています
引いて神道の神様達は、何れも人々に恩恵を齎すために存在しています
力自慢の神様も、民を疫災などから守るために腕を揮います
お正月、人が寺ではなく神社などに多く集まるのは、古の血が呼ばれているのかもしれませんね
仏教は広く浸透しておりますし、その教えに救われる人も大勢居るでしょうが、日本が決して仏教国ではないのだと言う表れでしょうか
この小さな国にはたくさんの宗教が集まり、仏教はその中の一つに過ぎないと言う事を教えてくれるのは、計らずともこの国を太古より見守ってくれている八百(やおろず)の神様達、なのでした
(10/23に更新したものですが、忍者ブログ内のシステムの不備により改行が無効になってしまったため、また、その修正もできないため本日付の更新日になってしまいました)
合戦シーンは中々上手く書けません
頭ではぽんぽん浮かぶんですけど、それを文章にするって本当、難しいですね
色んな戦国モノ(小説)を読みましたが、どれもさっぱりな内容なのはしょうがないなと想いました
作家さんが悪いんじゃない
想像できないんですよね、実際の合戦なんて
戦国モノは数あれど、どんな大家も合戦の場面になると想像できないようなごちゃごちゃした書き方になって、そのシーンがどうも思い浮ばないんですが、自分も書いてみて「ああ、これじゃ誰にも伝わらないのはしょうがない」とつくづく想いました
平和な時代に合戦を想像するのは本当、骨が折れます
牛頭天王のことは、本編更新前の雑談で書かせてもらったのですが、まさか本編の方で引用するとは私自身、想っていませんでした
戦国武将の多くが愛宕信仰(愛宕は戦勝の神様を祭っているので、武将達から厚い支持を受けていた)であるにも関わらず、風変わりな信長は牛頭信仰だと聞きかじり、牛頭天王も戦勝の神様かと思いきや、実は意外と農業の神様だとか
しかしその魂は『荒ぶる』もので『荒魂』を持つとか
そんなちぐはぐさが信長には受けたのでしょうか
いえいえ、神様は一概に「何々の神様」とは決め付けられない複雑さがあるので(そう想えば庶民向けの仏教はわかりやすいので、受けたのでしょうね)信長が何を以って牛頭天王を崇めたのかは、私自身まだわかっておりません
仏教での悪鬼なとは何れ仏に帰依し、戦の仏となりました
阿修羅などもそうですが、それでも彼らは『人間を守る』ためには存在せず、お釈迦様を守るために存在しています
引いて神道の神様達は、何れも人々に恩恵を齎すために存在しています
力自慢の神様も、民を疫災などから守るために腕を揮います
お正月、人が寺ではなく神社などに多く集まるのは、古の血が呼ばれているのかもしれませんね
仏教は広く浸透しておりますし、その教えに救われる人も大勢居るでしょうが、日本が決して仏教国ではないのだと言う表れでしょうか
この小さな国にはたくさんの宗教が集まり、仏教はその中の一つに過ぎないと言う事を教えてくれるのは、計らずともこの国を太古より見守ってくれている八百(やおろず)の神様達、なのでした
(10/23に更新したものですが、忍者ブログ内のシステムの不備により改行が無効になってしまったため、また、その修正もできないため本日付の更新日になってしまいました)
濃姫(帰蝶)好きの方へ
本日は当サイトにお越しいただき、ありがとうございます
先ずはこちらのページを一読していただけると嬉しいです→お願い
文章の誤字・脱字が時折混ざっております
見付け次第修正をしておりますが、それでもおかしな個所がありましたらお詫び申し上げます
了承なしのリンクは謹んでご辞退申し上げます
先ずはこちらのページを一読していただけると嬉しいです→お願い
文章の誤字・脱字が時折混ざっております
見付け次第修正をしておりますが、それでもおかしな個所がありましたらお詫び申し上げます
了承なしのリンクは謹んでご辞退申し上げます
更新のお知らせ
(02/20)
(10/16)
(11/04)
(06/24)
(03/25)
◇◇プチお知らせ◇◇
1/22 『信長ノをんな』壱~参 / 公開
現在更新中の創作物(INDEX)
信長 ~群青色の約束~
こんな感じのこと書いてます
カウント(0)は現在非公開中です
管理人の独り言も混じっております
[11/04 Haruhi]
[08/13 kitilyou]
[06/26 kitilyou命]
[03/02 kitilyou命]
[03/01 kitilyou命]
ゲームブログ
千極一夜
家庭用ゲーム専用ブログです
『戦国無双3』が絶望的存在であるため、更新予定はありません
◇◇11/19 Nintendo DSソフト◇◇
『トモダチコレクション』
おのうさま(帰蝶)とノブ(信長)が 結婚しました(笑
家庭用ゲーム専用ブログです
『戦国無双3』が絶望的存在であるため、更新予定はありません
◇◇11/19 Nintendo DSソフト◇◇
『トモダチコレクション』
おのうさま(帰蝶)とノブ(信長)が 結婚しました(笑
祝:お濃さま出演 But模擬専… (戦国無双3)
おのれコーエーめ
よくもお濃様を邪険にしおってからに・・・(涙
(画像元:コーエー公式サイト)
オンラインゲームにてお濃様発見
転生絵巻伝 三国ヒーローズ公式サイト:GAMESPACE24
『武将紹介』→『ゲーム紹介』→『Exキャラクター紹介』→『赤壁VS桶狭間』にてお濃様閲覧可
キャラクター紹介文
「 絶世の美貌を持つ信長の妻。頭が良く機転が利き、信長の覇業を深く支えた。
また、信長を愛し通した一途な妻でもあった。」
(画像元:GAMESPACE24公式サイト)
勝手にPR
濃姫好きとしては、飲めなくても見逃せない
岐阜の地酒 日本泉公式サイト

(二本セットの画像)
夫婦セット 吟醸ブレンド(信長・濃姫)
本醸造 濃姫
カップ酒 濃姫®=爽やかな麹の薫り高い、カップとは想えない出来上がりのお酒です
吟醸ブレンド 濃姫® ブルーボトル=自然の香りのお酒です。ほんの少し喉を潤す程度でも香りが深く体を突き抜けます
本醸造 濃姫®=容量的に大雑把な感じに想えて、麹の独特の香りを抑えたあっさりとした風味です
今現在、この3種類を試しておりますが、どれも麹臭い雰囲気が全くしません
飲料するもよし、お料理に使うもよし
お料理に使用しても麹の嫌な独特感は全く残りません
奇跡のお酒です
何よりボトルがどれも美しい
清洲桜醸造株式会社公式サイト


濃姫の里 隠し吟醸
フルーティで口当たりが良いです
一応は『辛口』になってますが、ほんのり甘さも残ってます
わたしは料理に使ってます
清洲城信長 鬼ころし
量的に肉や魚の血落としや、料理用として使っています
麹の香りが良いのが特徴ですが、お酒に弱い人は「うっ」と来るかも知れません
どちらも一般スーパーに置いている場合があります
岐阜の地酒 日本泉公式サイト
(二本セットの画像)
夫婦セット 吟醸ブレンド(信長・濃姫)
本醸造 濃姫
カップ酒 濃姫®=爽やかな麹の薫り高い、カップとは想えない出来上がりのお酒です
吟醸ブレンド 濃姫® ブルーボトル=自然の香りのお酒です。ほんの少し喉を潤す程度でも香りが深く体を突き抜けます
本醸造 濃姫®=容量的に大雑把な感じに想えて、麹の独特の香りを抑えたあっさりとした風味です
今現在、この3種類を試しておりますが、どれも麹臭い雰囲気が全くしません
飲料するもよし、お料理に使うもよし
お料理に使用しても麹の嫌な独特感は全く残りません
奇跡のお酒です
何よりボトルがどれも美しい
清洲桜醸造株式会社公式サイト
濃姫の里 隠し吟醸
フルーティで口当たりが良いです
一応は『辛口』になってますが、ほんのり甘さも残ってます
わたしは料理に使ってます
清洲城信長 鬼ころし
量的に肉や魚の血落としや、料理用として使っています
麹の香りが良いのが特徴ですが、お酒に弱い人は「うっ」と来るかも知れません
どちらも一般スーパーに置いている場合があります
ブログ内検索
ご訪問、ありがとうございます
あまり役には立ちませんが念のため
解析