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信長は、困っていた
苦節三ヶ月、足掛け半年、たった一人の女を物にできないばかりか、いつも体よくあしらわれ、未だ肌を許してくれない
お預け状態が長く続き、そろそろ禁断症状が出て来そうな錯覚も起こしていた
「うふふふふ、お屋形様」
妖しく微笑む帰蝶が目の前をまるで蝶のようにひらひらと舞い、自分を誘(いざな)うのだが、近寄ろうとすれば
「だーめ」
と、離れてしまう
「帰蝶」
と、掴もうとすればするほど遠く離れ、そんな夢を見た翌朝はいつも下半身が爆発して不快な想いをしながら目を覚ます
今朝も
「ああ・・・・・・・・・・・・・」
下帯の中で粘液が、大放出されていた
顔を顰めながら下帯を外し、すっかり冷え切ったそれの生臭い嫌な匂いで一日が始まる
これが三十路を過ぎた男の朝の光景かと想うと、全く自分でも嫌になった
山頂近い城はすっかり冬の雪で白く染まり、口から吐く息も真っ白で、しんしんと降り積もる雪に寒さに身を潜める家人の動く気配も静かだった
去年は稲葉山を拠点にしてから毎日多忙を極めていたが、この頃はようやく落ち着きを取り戻した
兎に角、帰蝶が側に居ない間に急いで仕事を終わらせた感もあり、帰蝶が岐阜に戻ってからはできるだけ仕事を翌日に持ち込まないのを信条とし、大方のことは帰蝶を犬山に預けている間に済ませてあるのが幸いした
白い雪はまるで、帰蝶の肌のようであった
触れると解ける雪は、触れたくても触れられない帰蝶の肌を連想させる
そんな信長の耳に、一大事が届いた
「 何?」
細い目が大きく開かれ、顎はガクンと外れる
独身であるはずの妹・お市が、清洲で出産したのだ
「誰の子だ」
それが、精一杯の第一声だった
「わしの子ではないぞ」
それが、つい出た本音だった
「それはわかってます」
どれだけ常識はずれなことを平気でする男でも、血の繋がった妹と関係を持つほど愚かではないことは誰もが知っている
この時、お市は年にして二十一
世間でも十分すぎるほどの行かず後家だった
それでも嫁にしてくれると言う浅井にも、市と同じ年の行かず後家が居たので問題なく承諾してたのだが、嫁ぐ前に誰が相手かわからん子を生んでしまっては、謝っても謝りきれない
「は、腹を切れと申すか・・・」
青い顔をし、膝をガクガクと震わせながら信長は報告を聞いていた
「いえ、そうではなくて・・・」
家臣も、最早暴走気味になってしまった主を必死で宥める
落ち着かぬ心を抱え、信長は朝餉を早々に済ませ鷺山屋敷へと引き篭もった
要するに、現実逃避である
「まぁ・・・」
信長の話を聞いた近江の方も、目を丸くさせる
そうだろう
自分が経験したことのない話を聞かされたのだから
「長政もまだ触れていないというのに、出産ですか。思念が通じたのでしょうか、それとも夢の中で情でも交わしたのでしょうか」
「夢の中でなら、私も帰蝶姫と何度となく情を交わし・・・」
「それは強姦でしょう?」
「 」
はっきり言う近江の方に、帰蝶の母を見た気がする信長であった
ともかく、これは包み隠さず正直に浅井に伝えるべきだと言われ、信長は痛い頭を抱えながら手紙を書いた
この縁談が破算してしまえば、帰蝶との距離がまた遠くなってしまう
そんな気がした
外は相変わらず、白い雪が舞い散っていた
同じ屋敷の中に居るのに、今は遠い帰蝶を想い浮かべる
書いている途中で何度も帰蝶に宛てた恋文のような文字が並んでしまい、慌てて軌道修正することも屡だった
浅井にはひたすら申し訳ない気持ちを伝えた文章を綴り、長い手紙を書き終えた
ただ、妹も女である年齢に達しているので、その心情を汲み取って欲しいと締める
これに浅井がどう出るかが問題だが、こうなってしまっては詮無きこと
祈る想いで手紙を送った
一息吐こうかと言う頃、部屋の外から声がした
「お茶を、お入れしましょうか」
帰蝶の声だった
「あ、はい、頼む」
ぎこちなく、それでいて慌てて返事したものだから、なんだかおかしな言葉遣いになる
「お疲れのようですね」
それでも帰蝶の顔を見れば、元気も復活する
熱い湯がもうもうと湯気を吐き、部屋に消えた
「寒くないですか?」
どうしてだろう、今日の帰蝶はやけに優しい
外の静かな雰囲気が、そうさせるのか
「美濃で過ごす初めての冬だからな、こんなものかと想っていた」
「今年はいつになく雪が多いですね」
「そうなのか」
「尾張は、どうですか。やはりこのように雪が多いのでしょうか」
「これほどとは行かんが、それでも雪は多いな」
「そうですか」
「好きな時に好きなだけ、尾張に連れてってやろうぞ?」
「私は、ここを気に入ってます。別にどこに行くつもりもありません」
「世間を見なくては、見聞も広がらない」
「私は女です。そんな必要はないと教えられ、育ちました」
「そんなことはない。女であろうと広い世間を見て、損などあるものか」
信長の言葉は、まるで水が沁み込むように帰蝶の胸に届いた
「世間を知れば、女は欲が出ます。もっともっとと欲しがります。だから、生まれた家と、嫁ぐ家だけを知っておけばよいと、母上様からも言われております」
「わしは、狭い空間にだけで縛り付ける気は毛頭ない。お前は自由に飛ぶ蝶だ。自分の行きたいところへ行き、行きたい場所で羽を休めればよい」
「上総介様・・・」
「それが、わしの腕の中なら、嬉しいのだがな」
「 」
初心な少年のように、少し照れながら笑う
そんな信長を眺める帰蝶の胸にも、いつしかドキリと鳴る感情が芽生えていた
部屋の片隅で熱を上げる火鉢の炭が、パチリと音を立てる
どうしてだろう
今日に限って言葉が出て来ない
普段、家臣の前では寡黙で通してあるので、億劫な会話で頭を悩ませることもないが、愛しい女の前で寡黙であってはその心を射止めることはできないと自分なりに必死で会話を紡いで来たものの、今日に限ってそんな面倒な作業も必要ないかのように自然と無口なまま、ただそこに一緒に居る
それだけでも、嬉しかった
少し開いた障子の向こうから、降り積もる雪をただ黙って二人で眺めている
それだけでも、心が湧いた
これを幸せと呼ぶのだろうか
気持ちが落ち着き、浅井への侘びも無駄に終わっても悔いはないような気にさえなって来る
側に帰蝶が居るからだろうか
その存在、雰囲気だけが自分を支えてくれているような、そんな想いになっていた
「帰蝶姫」
何となく、名を呼ぶ
「はい」
帰蝶は素直に応えてくれる
「わしの妻になって、わしの側に居てくれぬか」
「ですから、それは何度もお断りをしているはずで 」
「わしに触れられるのが嫌だと言うのであれば、わしは一生、そなたの肌には触れぬと誓う」
「上総介様・・・・・・・・・・・」
「ただこんな風に、側に居て欲しいだけだ」
「ですが・・・・・・・・・・・・」
「そなたを眺めているだけで、わしはこの世に生まれてよかったと想えるのだ。そんな気になって来た。この頃だがな」
「上総介様 」
苦笑いする信長に、帰蝶も言葉が見付からない
「力でそなたを奪えたら、きっと楽なのだろうな。だが、どうしてだろう、それをそなたにしてしまえば、今よりもっと遠い場所に離れてしまうような気がしてならない。だから怖くて、それができない。おかしいと想うか?そなたの実家を攻め、こうして美濃の半分を力で手に入れたわしが、このような世迷いごとを口にするのは」
「 」
帰蝶は黙って首を振った
「私には、殿方の世界のことはわかりません。戦に勝った者が、この世を好きにできることしか存じません。あなた様が戦に勝ち、西美濃を手に入れた現実しか、私にはわかりません」
「帰蝶姫」
「戦に勝った方が、負けた方の城を好きにできるのに、あなた様はここを乱取りなさりませんでした。とても静かに入って来られました。ですから、母上様もご無事で今日に到ります。私の兄弟達も、あなた様が保護してくださってます。私には、それが全てでございます。ですので、あなた様のおっしゃりたいことが、私にはよくわからないのでございます」
「そうか」
「何故、力で私を捻じ伏せないのか、それもわかりません」
「それは、そなたのはお母上殿より、無理強いはしてくれるなと申し付けられておるのもある」
「ここの主は、あなた様であるのに?私はもう、あなたの所有物も同じです。なのに」
「そなたは誰かの物ではない」
信長は帰蝶の言葉を遮って、否定した
「まだ、わしの物でもない」
「上総介様」
信長の、淋しそうな声に帰蝶も言葉を止めた
「言ったであろう?そなたを力づくで手に入れるのは、不本意だと。そなたの方から、わしのところに来てくれるのを待つと」
「私は 」
消え去りそうな小さな声で、帰蝶は言った
「世間を知りません。男を知りません。だから・・・・・・・・・、自分から殿方であるあなた様の許へ行く方法を、私は知りません・・・・・・・・・・」
「帰蝶姫・・・・・・・・・・・」
「抱きたい・・・と、はっきり口にしていただかなければ、私は動くことができません・・・」
「帰蝶・・・・・・・・・ッ!」
信長は、その言葉を聞いた瞬間、帰蝶を抱き寄せ
ようとして、躓いて転んだ
全く、無様である
折角帰蝶が作ってくれた甘い雰囲気も、滑稽な転び方で笑いに変わってしまった
今日も不毛な一日だった
いつもと変わらぬ、無駄話で終わってしまった
「帰る」
そう言う信長を、帰蝶は日課となったように玄関まで見送った
「まだ雪が降っているのか」
空を見上げ、目に入らぬよう舞い落ちる雪に目蓋を細める
「寒い・・・な」
「こうすれば、暖かくなりますよ」
帰蝶の声に振り返る
その信長の顔に、小さな雪玉がぶつけられた
端正な信長の顔が、白い雪でわからなくなってしまう
「覚えはございませんか?子供ならみな、こうやって遊んでいたことを」
小さな手に握り締められた雪玉が、次々と信長目掛けて飛んで来る
周囲の者はこの光景に度肝を抜かれた
「やったな?!」
直ぐムキになる信長は、負けじと両手で雪を握り固め、帰蝶に投げ付ける
帰蝶はそれを上手く避けながら、信長に雪玉を投げ付けた
帰蝶の投げた玉だけは、何故か上手く信長に命中する
「この野郎!」
まるで幼い頃に戻ったかのような
悩みなど何もなかった頃の自分に戻ったかのような、そんな開放感が信長を包み込んだ
「待て!」
二人は、いつしか二人だけの、中庭での雪合戦に興じた
「上総介様は、下手クソですね!」
「女が『クソ』などと言う言葉を使うな!」
帰蝶を追い駆ける
帰蝶は雪玉を投げ付けながら逃げる
二人は笑い合っていた
三十三の男と、十二の少女が、年齢差を越え広い庭の中で白い雪を投げ合っている光景
子供のように笑う中年男
背伸びをやめた少女
男の手が、遂に少女の腕を掴んだ
「捕まえた」
その間、男の顔は雪で白くなり、着ていた物は濡れそぼっていた
「捕まっちゃった」
悪戯気に、少女は舌を出して笑った
その少女を、愛しさの溢れた熱い目で見詰める
言葉が自然と流れた
「わしの、女になれ」
「今、お返事しないとダメですか?」
お互いに小さな声で、まるで囁き合うかのように
「明日、返事をくれ」
迷いながら、帰蝶は応えた
「 はい」
その時、二人の間を流れる風が止まった
真白な雪景色の真ん中で、二人は口唇を重ねた
まるで幻想的な風景のように
屈み込んだ背の高い信長に抱かれ、帰蝶の小さな躰が半ば宙を舞う
大きな木に、小さな蝶が羽を休めるかのように
帰蝶は信長に抱かれ、暖かい口唇を感じていた
苦節三ヶ月、足掛け半年、たった一人の女を物にできないばかりか、いつも体よくあしらわれ、未だ肌を許してくれない
お預け状態が長く続き、そろそろ禁断症状が出て来そうな錯覚も起こしていた
「うふふふふ、お屋形様」
妖しく微笑む帰蝶が目の前をまるで蝶のようにひらひらと舞い、自分を誘(いざな)うのだが、近寄ろうとすれば
「だーめ」
と、離れてしまう
「帰蝶」
と、掴もうとすればするほど遠く離れ、そんな夢を見た翌朝はいつも下半身が爆発して不快な想いをしながら目を覚ます
今朝も
「ああ・・・・・・・・・・・・・」
下帯の中で粘液が、大放出されていた
顔を顰めながら下帯を外し、すっかり冷え切ったそれの生臭い嫌な匂いで一日が始まる
これが三十路を過ぎた男の朝の光景かと想うと、全く自分でも嫌になった
山頂近い城はすっかり冬の雪で白く染まり、口から吐く息も真っ白で、しんしんと降り積もる雪に寒さに身を潜める家人の動く気配も静かだった
去年は稲葉山を拠点にしてから毎日多忙を極めていたが、この頃はようやく落ち着きを取り戻した
兎に角、帰蝶が側に居ない間に急いで仕事を終わらせた感もあり、帰蝶が岐阜に戻ってからはできるだけ仕事を翌日に持ち込まないのを信条とし、大方のことは帰蝶を犬山に預けている間に済ませてあるのが幸いした
白い雪はまるで、帰蝶の肌のようであった
触れると解ける雪は、触れたくても触れられない帰蝶の肌を連想させる
そんな信長の耳に、一大事が届いた
「
細い目が大きく開かれ、顎はガクンと外れる
独身であるはずの妹・お市が、清洲で出産したのだ
「誰の子だ」
それが、精一杯の第一声だった
「わしの子ではないぞ」
それが、つい出た本音だった
「それはわかってます」
どれだけ常識はずれなことを平気でする男でも、血の繋がった妹と関係を持つほど愚かではないことは誰もが知っている
この時、お市は年にして二十一
世間でも十分すぎるほどの行かず後家だった
それでも嫁にしてくれると言う浅井にも、市と同じ年の行かず後家が居たので問題なく承諾してたのだが、嫁ぐ前に誰が相手かわからん子を生んでしまっては、謝っても謝りきれない
「は、腹を切れと申すか・・・」
青い顔をし、膝をガクガクと震わせながら信長は報告を聞いていた
「いえ、そうではなくて・・・」
家臣も、最早暴走気味になってしまった主を必死で宥める
落ち着かぬ心を抱え、信長は朝餉を早々に済ませ鷺山屋敷へと引き篭もった
要するに、現実逃避である
「まぁ・・・」
信長の話を聞いた近江の方も、目を丸くさせる
そうだろう
自分が経験したことのない話を聞かされたのだから
「長政もまだ触れていないというのに、出産ですか。思念が通じたのでしょうか、それとも夢の中で情でも交わしたのでしょうか」
「夢の中でなら、私も帰蝶姫と何度となく情を交わし・・・」
「それは強姦でしょう?」
「
はっきり言う近江の方に、帰蝶の母を見た気がする信長であった
ともかく、これは包み隠さず正直に浅井に伝えるべきだと言われ、信長は痛い頭を抱えながら手紙を書いた
この縁談が破算してしまえば、帰蝶との距離がまた遠くなってしまう
そんな気がした
外は相変わらず、白い雪が舞い散っていた
同じ屋敷の中に居るのに、今は遠い帰蝶を想い浮かべる
書いている途中で何度も帰蝶に宛てた恋文のような文字が並んでしまい、慌てて軌道修正することも屡だった
浅井にはひたすら申し訳ない気持ちを伝えた文章を綴り、長い手紙を書き終えた
ただ、妹も女である年齢に達しているので、その心情を汲み取って欲しいと締める
これに浅井がどう出るかが問題だが、こうなってしまっては詮無きこと
祈る想いで手紙を送った
一息吐こうかと言う頃、部屋の外から声がした
「お茶を、お入れしましょうか」
帰蝶の声だった
「あ、はい、頼む」
ぎこちなく、それでいて慌てて返事したものだから、なんだかおかしな言葉遣いになる
「お疲れのようですね」
それでも帰蝶の顔を見れば、元気も復活する
熱い湯がもうもうと湯気を吐き、部屋に消えた
「寒くないですか?」
どうしてだろう、今日の帰蝶はやけに優しい
外の静かな雰囲気が、そうさせるのか
「美濃で過ごす初めての冬だからな、こんなものかと想っていた」
「今年はいつになく雪が多いですね」
「そうなのか」
「尾張は、どうですか。やはりこのように雪が多いのでしょうか」
「これほどとは行かんが、それでも雪は多いな」
「そうですか」
「好きな時に好きなだけ、尾張に連れてってやろうぞ?」
「私は、ここを気に入ってます。別にどこに行くつもりもありません」
「世間を見なくては、見聞も広がらない」
「私は女です。そんな必要はないと教えられ、育ちました」
「そんなことはない。女であろうと広い世間を見て、損などあるものか」
信長の言葉は、まるで水が沁み込むように帰蝶の胸に届いた
「世間を知れば、女は欲が出ます。もっともっとと欲しがります。だから、生まれた家と、嫁ぐ家だけを知っておけばよいと、母上様からも言われております」
「わしは、狭い空間にだけで縛り付ける気は毛頭ない。お前は自由に飛ぶ蝶だ。自分の行きたいところへ行き、行きたい場所で羽を休めればよい」
「上総介様・・・」
「それが、わしの腕の中なら、嬉しいのだがな」
「
初心な少年のように、少し照れながら笑う
そんな信長を眺める帰蝶の胸にも、いつしかドキリと鳴る感情が芽生えていた
部屋の片隅で熱を上げる火鉢の炭が、パチリと音を立てる
どうしてだろう
今日に限って言葉が出て来ない
普段、家臣の前では寡黙で通してあるので、億劫な会話で頭を悩ませることもないが、愛しい女の前で寡黙であってはその心を射止めることはできないと自分なりに必死で会話を紡いで来たものの、今日に限ってそんな面倒な作業も必要ないかのように自然と無口なまま、ただそこに一緒に居る
それだけでも、嬉しかった
少し開いた障子の向こうから、降り積もる雪をただ黙って二人で眺めている
それだけでも、心が湧いた
これを幸せと呼ぶのだろうか
気持ちが落ち着き、浅井への侘びも無駄に終わっても悔いはないような気にさえなって来る
側に帰蝶が居るからだろうか
その存在、雰囲気だけが自分を支えてくれているような、そんな想いになっていた
「帰蝶姫」
何となく、名を呼ぶ
「はい」
帰蝶は素直に応えてくれる
「わしの妻になって、わしの側に居てくれぬか」
「ですから、それは何度もお断りをしているはずで
「わしに触れられるのが嫌だと言うのであれば、わしは一生、そなたの肌には触れぬと誓う」
「上総介様・・・・・・・・・・・」
「ただこんな風に、側に居て欲しいだけだ」
「ですが・・・・・・・・・・・・」
「そなたを眺めているだけで、わしはこの世に生まれてよかったと想えるのだ。そんな気になって来た。この頃だがな」
「上総介様
苦笑いする信長に、帰蝶も言葉が見付からない
「力でそなたを奪えたら、きっと楽なのだろうな。だが、どうしてだろう、それをそなたにしてしまえば、今よりもっと遠い場所に離れてしまうような気がしてならない。だから怖くて、それができない。おかしいと想うか?そなたの実家を攻め、こうして美濃の半分を力で手に入れたわしが、このような世迷いごとを口にするのは」
「
帰蝶は黙って首を振った
「私には、殿方の世界のことはわかりません。戦に勝った者が、この世を好きにできることしか存じません。あなた様が戦に勝ち、西美濃を手に入れた現実しか、私にはわかりません」
「帰蝶姫」
「戦に勝った方が、負けた方の城を好きにできるのに、あなた様はここを乱取りなさりませんでした。とても静かに入って来られました。ですから、母上様もご無事で今日に到ります。私の兄弟達も、あなた様が保護してくださってます。私には、それが全てでございます。ですので、あなた様のおっしゃりたいことが、私にはよくわからないのでございます」
「そうか」
「何故、力で私を捻じ伏せないのか、それもわかりません」
「それは、そなたのはお母上殿より、無理強いはしてくれるなと申し付けられておるのもある」
「ここの主は、あなた様であるのに?私はもう、あなたの所有物も同じです。なのに」
「そなたは誰かの物ではない」
信長は帰蝶の言葉を遮って、否定した
「まだ、わしの物でもない」
「上総介様」
信長の、淋しそうな声に帰蝶も言葉を止めた
「言ったであろう?そなたを力づくで手に入れるのは、不本意だと。そなたの方から、わしのところに来てくれるのを待つと」
「私は
消え去りそうな小さな声で、帰蝶は言った
「世間を知りません。男を知りません。だから・・・・・・・・・、自分から殿方であるあなた様の許へ行く方法を、私は知りません・・・・・・・・・・」
「帰蝶姫・・・・・・・・・・・」
「抱きたい・・・と、はっきり口にしていただかなければ、私は動くことができません・・・」
「帰蝶・・・・・・・・・ッ!」
信長は、その言葉を聞いた瞬間、帰蝶を抱き寄せ
ようとして、躓いて転んだ
全く、無様である
折角帰蝶が作ってくれた甘い雰囲気も、滑稽な転び方で笑いに変わってしまった
今日も不毛な一日だった
いつもと変わらぬ、無駄話で終わってしまった
「帰る」
そう言う信長を、帰蝶は日課となったように玄関まで見送った
「まだ雪が降っているのか」
空を見上げ、目に入らぬよう舞い落ちる雪に目蓋を細める
「寒い・・・な」
「こうすれば、暖かくなりますよ」
帰蝶の声に振り返る
その信長の顔に、小さな雪玉がぶつけられた
端正な信長の顔が、白い雪でわからなくなってしまう
「覚えはございませんか?子供ならみな、こうやって遊んでいたことを」
小さな手に握り締められた雪玉が、次々と信長目掛けて飛んで来る
周囲の者はこの光景に度肝を抜かれた
「やったな?!」
直ぐムキになる信長は、負けじと両手で雪を握り固め、帰蝶に投げ付ける
帰蝶はそれを上手く避けながら、信長に雪玉を投げ付けた
帰蝶の投げた玉だけは、何故か上手く信長に命中する
「この野郎!」
まるで幼い頃に戻ったかのような
悩みなど何もなかった頃の自分に戻ったかのような、そんな開放感が信長を包み込んだ
「待て!」
二人は、いつしか二人だけの、中庭での雪合戦に興じた
「上総介様は、下手クソですね!」
「女が『クソ』などと言う言葉を使うな!」
帰蝶を追い駆ける
帰蝶は雪玉を投げ付けながら逃げる
二人は笑い合っていた
三十三の男と、十二の少女が、年齢差を越え広い庭の中で白い雪を投げ合っている光景
子供のように笑う中年男
背伸びをやめた少女
男の手が、遂に少女の腕を掴んだ
「捕まえた」
その間、男の顔は雪で白くなり、着ていた物は濡れそぼっていた
「捕まっちゃった」
悪戯気に、少女は舌を出して笑った
その少女を、愛しさの溢れた熱い目で見詰める
言葉が自然と流れた
「わしの、女になれ」
「今、お返事しないとダメですか?」
お互いに小さな声で、まるで囁き合うかのように
「明日、返事をくれ」
迷いながら、帰蝶は応えた
「
その時、二人の間を流れる風が止まった
真白な雪景色の真ん中で、二人は口唇を重ねた
まるで幻想的な風景のように
屈み込んだ背の高い信長に抱かれ、帰蝶の小さな躰が半ば宙を舞う
大きな木に、小さな蝶が羽を休めるかのように
帰蝶は信長に抱かれ、暖かい口唇を感じていた
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濃姫(帰蝶)好きの方へ
本日は当サイトにお越しいただき、ありがとうございます
先ずはこちらのページを一読していただけると嬉しいです→お願い
文章の誤字・脱字が時折混ざっております
見付け次第修正をしておりますが、それでもおかしな個所がありましたらお詫び申し上げます
了承なしのリンクは謹んでご辞退申し上げます
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見付け次第修正をしておりますが、それでもおかしな個所がありましたらお詫び申し上げます
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更新のお知らせ
(02/20)
(10/16)
(11/04)
(06/24)
(03/25)
◇◇プチお知らせ◇◇
1/22 『信長ノをんな』壱~参 / 公開
現在更新中の創作物(INDEX)
信長 ~群青色の約束~
こんな感じのこと書いてます
カウント(0)は現在非公開中です
管理人の独り言も混じっております
[11/04 Haruhi]
[08/13 kitilyou]
[06/26 kitilyou命]
[03/02 kitilyou命]
[03/01 kitilyou命]
ゲームブログ
千極一夜
家庭用ゲーム専用ブログです
『戦国無双3』が絶望的存在であるため、更新予定はありません
◇◇11/19 Nintendo DSソフト◇◇
『トモダチコレクション』
おのうさま(帰蝶)とノブ(信長)が 結婚しました(笑
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祝:お濃さま出演 But模擬専… (戦国無双3)
おのれコーエーめ
よくもお濃様を邪険にしおってからに・・・(涙
(画像元:コーエー公式サイト)
オンラインゲームにてお濃様発見
転生絵巻伝 三国ヒーローズ公式サイト:GAMESPACE24
『武将紹介』→『ゲーム紹介』→『Exキャラクター紹介』→『赤壁VS桶狭間』にてお濃様閲覧可
キャラクター紹介文
「 絶世の美貌を持つ信長の妻。頭が良く機転が利き、信長の覇業を深く支えた。
また、信長を愛し通した一途な妻でもあった。」
(画像元:GAMESPACE24公式サイト)
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濃姫好きとしては、飲めなくても見逃せない
岐阜の地酒 日本泉公式サイト

(二本セットの画像)
夫婦セット 吟醸ブレンド(信長・濃姫)
本醸造 濃姫
カップ酒 濃姫®=爽やかな麹の薫り高い、カップとは想えない出来上がりのお酒です
吟醸ブレンド 濃姫® ブルーボトル=自然の香りのお酒です。ほんの少し喉を潤す程度でも香りが深く体を突き抜けます
本醸造 濃姫®=容量的に大雑把な感じに想えて、麹の独特の香りを抑えたあっさりとした風味です
今現在、この3種類を試しておりますが、どれも麹臭い雰囲気が全くしません
飲料するもよし、お料理に使うもよし
お料理に使用しても麹の嫌な独特感は全く残りません
奇跡のお酒です
何よりボトルがどれも美しい
清洲桜醸造株式会社公式サイト


濃姫の里 隠し吟醸
フルーティで口当たりが良いです
一応は『辛口』になってますが、ほんのり甘さも残ってます
わたしは料理に使ってます
清洲城信長 鬼ころし
量的に肉や魚の血落としや、料理用として使っています
麹の香りが良いのが特徴ですが、お酒に弱い人は「うっ」と来るかも知れません
どちらも一般スーパーに置いている場合があります
岐阜の地酒 日本泉公式サイト
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夫婦セット 吟醸ブレンド(信長・濃姫)
本醸造 濃姫
カップ酒 濃姫®=爽やかな麹の薫り高い、カップとは想えない出来上がりのお酒です
吟醸ブレンド 濃姫® ブルーボトル=自然の香りのお酒です。ほんの少し喉を潤す程度でも香りが深く体を突き抜けます
本醸造 濃姫®=容量的に大雑把な感じに想えて、麹の独特の香りを抑えたあっさりとした風味です
今現在、この3種類を試しておりますが、どれも麹臭い雰囲気が全くしません
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一応は『辛口』になってますが、ほんのり甘さも残ってます
わたしは料理に使ってます
清洲城信長 鬼ころし
量的に肉や魚の血落としや、料理用として使っています
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