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五月十八日、鳴海城の山口左馬介が大高城に移った
それと入れ替わりに、今川先鋒の岡部元信が鳴海城に入る
山口の不在に鳴海城を落すと言う考えは、浮かばなかった
あの時、下手な施しの心など持つべきではなかったと、帰蝶は後悔した
翌日の未明になって、山口が入った大高城に今川軍が集結したと聞き、帰蝶は清洲を出た
二万五千の大軍を相手に、まともに戦って勝てるはずがない
どれだけ夕庵から軍略の師事を仰いだとは言え、兵力差がありすぎる戦いに勝つ自信はなかった
ならば、せめて敵総大将・今川義元の首だけでも盗れば、織田に軍配が上がる
軍勢を引き連れては、今川に気付かれる
そう想い、帰蝶は一人で隠密行動に打って出た
生きて帰れるかどうか、わからない
だから、信長の許へやって来た
自分の決意を、夫に聞いて欲しかった
ただ、それだけだった
無心な気持ちで自分の想いを打ち明け、確かめるように松風に乗る
暗かった空に、薄っすらと光が差し込んだ

「城の周りに飛ぶ蝿でも叩き落すか」
威厳、と言うべきか、貫禄と言うべきか
一代で今川を大大名に叩き上げた義元の躰には、常人を寄せ付けぬ特殊な雰囲気と言うものが漂っていた
ややぼってりとした体は、贅の限りを尽くしたようにも見えて、その実、邪悪な物を纏って自己主張しているだけのようにも見える
大大名らしいたっぷりとした口髭、眼光鋭い眼差し
余裕を感じさせる優雅な動き
どれも人並み外れていた
近習が広げた布陣図を、軍配で差す
「先ずは、丸根。これを、竹千代」
「はっ」
名を呼ばれ、元康が応える
「叩き潰せ」
「はっ」
命令され、元康は頭(こうべ)を降ろした
「次に、鷲津」
「ここには、織田上総介の大叔父と叔父が詰めているようです」
「ふん。今川の敵ではない。左京亮」
「はっ」
朝比奈泰朝が応えた
「到着と同時に、落せ」
「承知」
元康は少し上目遣いに義元を盗み見た
最初に自分達に開戦のきっかけを作らせ、今川は後から勢いに乗っての攻撃か、と
そんな元康の心を見透かしたか、義元が元康に目を向けた
「竹千代」
「はっ・・・!」
「今川が尾張を渡るも渡らぬも、お前の一撃に掛かっておる。つまりは、お前が戦の場を作らねばならんと言うことだ」
「心得ております」
「戦巧者と呼ばれたいのなら、気を引き締め、自分達を決して捨て駒とは想わぬことだ」
          お屋形様・・・」
「故郷に錦を飾るも飾らぬも、お前次第と言うことだぞ、竹千代」
                
元康は、黙って頭を下げた
この人は、冷酷なのか恩情なのか、わからない
松平を隷属のように扱うかと想えば、故郷に戻った自分に花道を飾らせるとも言い出す
どっちが本当の今川義元なのか、元康にはわからなかった

「行って来ます、吉法師様」
寺を出て、義元を目指して帰蝶は街道に戻った
ふと、頭の上が気になる
自分の被っている天冠は、誰も着けていない変わった形状をしている
逆に目立ったりはしないかと、気になった

雀の声が鳴り響く頃、まだ清廉な空気が長屋に漂う朝、貞勝が利治の部屋を訪れた
「あ、村井様・・・。おはようございます」
「おはよう、さち。とうとう夕べは帰って来なかったな」
「あ・・・。申し訳ございません・・・」
さちは軽く頭を下げた
「いや、佐治から聞いているよ。お市様を預かってるんだね」
「はい」
「いいかな」
          どうぞ」
入り口を開け、貞勝を中に招き入れる
「お市様」
入り口を入って壁があり、障子も襖もない居間に座っている市に声を掛ける
「吉兵衛」
「お迎えに上がりました」
「迎え?」
「お母上様が甚く心配されておられます。城に戻りましょう」
「嫌」
「お市様・・・」
さちも市を心配する
「今川が、もうそこまで迫っております。現在、丸根と鷲津の砦が攻撃を受け、織田は防戦一方。いつ、庄内川を越えるかわからない状況です」
「だから?」
「お市様」
動こうとしない市に、貞勝は窘めた
「今川が清洲に押し寄せたら、長屋などあっと言う間に焼き払われてしまいます。ここに居るよりも、城に居た方が安全です。どうか、吉兵衛と共にお城に戻ってくださいませ」
「嫌だ」
「お市様ッ」
「そうならないように、姉様は出たの!市は姉様を信じてるッ!」
「お市様・・・ッ」
きりっとした顔で、そうきっぱりと言い放つ市に、貞勝は気が引けた
「市はここで佐治を待つ。市は佐治の妻だもの。夫の帰りを家で待つのが妻の役目!          そう、母様に言って」
「お市様・・・」
十三になったばかりの少女は、自分が武家に嫁いだ時の立場をきちんと理解していた
夫はまだ武士ではないだろう
雑兵に上がったとは言え、まだ武功は上げていない
だが、市の心構えはもう既に、武士の妻のものだった

「それじゃ、さち。危ないと想ったら、無理矢理でもお市様を連れて来てくれるか」
「はい、承知しました」
さっきと同じく、入り口で貞勝を見送る
「お前も気を付けてな」
「ありがとうございます」
貞勝を見送り、部屋に戻る
市は台所をきょろきょろ眺めていた
「どうしました、お市様」
「いろんなものがあるなぁって」
「そうですか?」
「あ、味醂」
と、小さな瓶を手に取る
「おうちにはないんですか?」
「どこに売ってるのか、市も佐治も知らないから」
「あはは」
さちは苦笑いして教えてやった
「米屋に置いてますよ」
「そうなんだ。道理で味噌屋にないと想った」
「そりゃ、置いてないですからね」
それから何を想ったか、さちは利治の財布を箪笥から取り出し、懐に仕舞う
「お市様。味醂、買いに行きましょうか」
「うん!」
夫が戦場に立っているなど知らないかのように、市の笑顔は朝日のように眩しかった

朝の日差しが強くなる
空は青々と染まり来る
松風を走らせる帰蝶の前に、馬に乗った数人の少年らが立ちはだかった

夫から手渡された手紙を、お能はずっと握り締めていた
ここに何が書かれているのか想像できる
きっと、離縁して欲しいと書いてあるのだろう、と、諦めの気持ちが生まれていた
夫はもうずっと、愛人の家に入り浸っていた
そうだろう
ここに居ても、空気の悪い雰囲気しかないのだから
離縁なら離縁でも良いか、と、お能は時親の手紙を解いた
夫の字がいくつも並んでいた

帰蝶を探して黒母衣衆、赤母衣衆、馬廻り衆が勝家、恒興、長秀、秀貞らの部隊と共に街道を抜ける
先頭に立つ秀隆、恒興には、帰蝶の居る場所がわかった
愛しい人の居る場所だと、なつに教わらなくともわかっていた
その場所を目指して、ただ馬を走らせる

          お能、すまなかった

夫の手紙は、初めにそう書かれていた

「私は自分の重責から逃げるため、他の女性に走った
お前に自分の弱いところを見せたくなかった
いつでも立派な夫だと、想っていて欲しかった
お前はいつも変わらず朗らかで、家の中心で、私に長く安らぎを与えてくれていた
その感謝の気持ちを忘れ、私はお前を傷付けた」

          あなた・・・」

「どれだけ謝罪したところで、お前の気持ちは私を許してはくれないだろう
お前から笑顔を奪った私を、お前は許してはくれないだろう
それでも、帰った時には笑顔で迎えて欲しい

初めてお前と見合いの席で会った時、私は胸を締め付けられる想いをした
なんて美しい人なのだろうと、一瞬で心奪われた
それから、お前を手放したくないと、私は必死になってお前を繋ぎ止めた
その甲斐あって、お前は躊躇うことなく私の妻になってくれた
嬉しかった
あの時の想いは何処に行ってしまったのだろう
お前が側に居てくれることが当たり前で、お前が居なくなってしまうことの重大さを少しも考えていなかった
だから私は、お前を避けていた
この一年、ずっと」

手紙を読んでいるお能の目から、涙が零れた
その涙を、娘の花が拭ってくれた
          ありがとう」
花はにっこり微笑んだ

「帰ったら、私の話を聞いてくれるか
どれだけお前を大事に想っているか、聞いてくれるか
それから、厚かましいだろうが、平次の今後のことも相談したい
腹立たしいだろう
頭に来るだろう
それでも、相談に乗って欲しい
私には、お前しか頼る相手が居ない
恥しいことだが、それが事実だ
最後になったが、お能         

今まで夫が口にしなかった言葉が、そこに書かれてあった
お能は時親の手紙を胸に抱き締めて泣いた

「結婚して十年
お前に甘えてばかりいた私を、許して欲しい
これからもずっと、願わくば共に白髪が生えるまで、お前と居たい」

          永禄三年 五月十六日
土田平三郎時親

          龍之介・・・。お前達・・・」
目の前に、小姓の五人が居た
帰蝶はどうしてわかった、とでも言いたげに、目を丸くした
「大戦の前です。きっと、先代様のお墓参りでもするんじゃないかと、想ってました」
「龍之介・・・」
「水臭いじゃないですか。どうして龍之介を置いていくんですか」
「それは・・・」
「一人より、二人」
「二人より、三人」
「三人より、四人」
龍之介の後を長谷川橋介、加藤弥三郎が続く
「囮くらいはできます。どうか、連れてってください」
                
帰蝶は龍之介ら小姓を、目を細めて微笑んで眺めた

「このままでは、砦が落ちるのを黙って見ているしかない。善照寺の松助と合流し、打って出るしか         
丸根の守将である佐久間左之介盛重が提案する
「しかし、ここを出るにしても、どう突破しますか」
「この包囲をどうやって」
「捨て身しかあるまい。手を拱いていても、砦が落ちれば同じことだ。それに、織田軍もこちらに向かっているかも知れない」
「なら、とっくの昔に合流できているでしょう?!現に織田の援軍は来ないから、今川が押し寄せてるんじゃありませんか!」
盛重の意見に全員が反対する
「砦と共に落ちるつもりか」
「逃げ場がないと言っているのです!それに、籠城なら多少なりとも抵抗できます。しかし、砦を捨てて表に出たところで、今川の一斉攻撃しか待ってない現実に、どう太刀打ちするおつもりですか!」
砦を放棄し、生き残る可能性に賭けた盛重の意見など、誰も聞く耳を持たない

丸根が落ちたのは、その半刻後だった

丸根が落ちたことで、防衛線が弱まった鷲津にも今川軍が殺到する
大高城に拠った元康は部下達をここで休ませ、自身は鷲津に向う
少数の手勢だけを連れて

街道を出て今川の居る鳴海に向う
その途中にある熱田神宮付近に、織田軍が散らばっているのを見掛け、帰蝶の目がまた見開く
「殿・・・ッ」
「まさか・・・」
散らばった織田軍の軍旗を辿り、初めて熱田神宮に入った
そこに待ち受けていたのは

「あー、やっと来た」
帰蝶を見付け、秀隆が苦笑いする
「河尻・・・」
「遅いですよ」
「勝三郎・・・」
秀隆の隣には、恒興の姿があった
「また、置いてけぼりですか?」
          五郎左・・・」
斜め後から長秀がやって来た
「無茶がご趣味なのは存じてますが、今回は無茶と言うより無謀、ですな」
「権・・・・・・・・・・ッ」
勝家の隣には、顔を顰める秀貞が居た
「みんな・・・、どうして・・・」
帰蝶は松風から降り、秀隆の側に駆け寄った
それに引かれるように、長秀らも帰蝶を囲む
「寡兵にゃぁ馴れっこなんですよ、奥方様」
そこには帰蝶の側近しか居ない
他の武将はまだ側にはやって来ない
だからこそ、秀隆は慣れ親しんだ呼び方を、敢えて選んだ
「相手、今川でしょ。勘十郎様を相手にするより、厳しいんだ。なのに、奥方様だけ行かせたら、俺ら男どもは立つ瀬がないじゃないですか」
「河尻・・・」
「もう、奥方様ったらっ」
恒興は一度帰蝶の前で手を合わせ拝み、それからこつん、と軽く、帰蝶の頭を殴った
「勝三郎・・・」
殴られた頭を撫でながら、帰蝶はぽかんと恒興を見る
「母上だったら、ほっぺたぶっ叩いてますよ」
          うん」
「兎に角、だ。俺ら着いて行きますんで、一緒に行きましょうや」
          うん・・・」
嬉しくて、涙が零れそうになった
その帰蝶が空を見上げた時、伊勢湾を挟んだ鳴海から、火の手が上がったのを確認した

          叔父上様・・・ッ!

帰蝶の目が、見開く

「丸根と、鷲津・・・か・・・」
勝家が悔しそうに、ぽつりと呟く
帰蝶の躰が鷲津に走ろうと振り返る
その帰蝶の腕を、秀隆が咄嗟に掴んだ
「今から行っても間に合いません!」
「でも!叔父上が・・・!」
「だからこそ、報いるようにこの戦、絶対勝たなきゃなんねーんですよッ!」

丸根が落ちたことで、鷲津を攻める今川の軍勢が増えた
到底凌げる猛攻ではない
丸根と違い籠城を想定して作っていなかった鷲津は、徹底抗戦には向いていなかった
長秀は背後からの攻撃に耐え得るよう、正面を広く取っていた
それが仇となった
帰蝶だったなら、この構造を上手く利用して正面突破で敵を撹乱しただろう
だが、長秀は帰蝶の気質は理解できても、秀敏、信光の気質までは理解できていなかった
籠城向けに築いていたはずの丸根が落されたのが、尚更痛手だった
今川軍が一塊で砦に押し寄せる
守りが薄くなったところから雪崩れ込み、それは本陣である秀敏、信光の居る庭にまで達した
「おのれ、今川ッ!」
押し寄せる今川の雑兵を斬り伏せる、しかし限界もあった
増してや信光の年を考えれば尚更だろう
一人対無数の雑兵が自分に掴み掛かる
その中で信光は、甥の嫁であった帰蝶を想い浮かべた

          上総介

「叔父上・・・・・・・・・・・」

お前は今も、理想を掲げ、のた打ち回っているのか
現実を見ろ
戦は、負ければお仕舞いだ
負けた者の言葉など、誰も耳を傾けん
お前が吉法師と交わした約束を守りたいと言うのなら、負けてはならん
勝って、勝って、勝ち続けねばならん
足元に敵の骸の山を築かねば、お前の抱く理想は、決して現実にはならん
戦なき天下の泰平
そんなもの、具にも付かぬ理想でしかない
お前はわかっているのだろう
血を流さねば、夢は叶う筈がないと
だからこそ、苦しんでいるのだろう、上総介

                

煙の上がる鷲津を見上げながら、帰蝶は拳を握った

なら、その苦しみを糧にしろ、上総介
我らの死を無駄だと想うな、上総介
それを乗り越え、先に進め!
上総介!

「丸根・・・鷲津・・・は・・・放棄・・・」
帰蝶の声が震えた
だが、それも束の間
「これより、善照寺を目指すッ!今川を鳴海に近付けさせるなッ!」
「はッ!」

「これに乗じて三度斎藤が茶々を入れぬとは想えんッ。私は岩倉に拠り、斎藤を監視するッ!」
信長の小姓であった長谷川秀一が名乗りを上げた
「だったら、俺は末森に行くぜ」
それに応え、慶次郎も名乗りを上げた
「砦作るのに解体しちまったけど、土塁は残ってる。最後の防波堤になってやんよッ!」
伊勢は一益が抑えている
今川の侵攻に便乗はできないだろう
帰蝶にとって背後は安心だった
問題なのが、正面からの今川だけになる
「善照寺に、松助さんに着いてここの宮司の千秋さんと、市丸の兄貴が先に着陣してます」
「熱田の宮司が?」
秀隆の言葉に、帰蝶は目を丸くした
「どうしてだ」
「まぁ・・・。簡単に言えば、ウチのかみさんの叔父さん、てなわけで」
「そうか、お前、熱田と縁があったのか。知らなかった」
「ベラベラ喋ることでもないですしね。それで、千秋さんに引き連られて、熱田の豪族もいくつか一緒です」
「なら、善照寺に急がねばならんな」
「はい」
「先ずは丹下に向う。河尻!」
「はッ!」
「道を開けッ!織田軍、出陣するッ!」
「了解ッ!」

静かな朝と共に、胸騒ぎが起きる
夕庵は閉ざされた部屋の中で羅針盤のようなものを正面に置き、何かを占っていた
それは義龍の耳にも届き、苦笑いをする
「岩倉に織田に与する豪族が終結。尾張には入れません」
利三が報告した
「構わん。どうせ紛れたところで帰蝶のことだ、何か防衛策でも張っているだろう」
「お屋形様」
幕府相伴衆に任命された義龍には『屋形号』が与えられ、晴れて『お屋形様』と呼ばれるようになった
だが、それが嬉しいわけではない
中々利口にならぬ妹、賢く今川に靡かぬ愚かなままの妹の様子に、ただ嬉しい
水の流れに形を変える石ではなく、頑なにありのままの自分で居ようとするその健気な心意気が嬉しかった
この世に何十年、何百年、何千年と時が流れても、妹だけは変わることなく、そのままの姿であり続けようとするのではないかと、そう想えて、嬉しかった
今川に戦いを挑むその姿を、一目見たかった、と、そう想った

「南の雲、北の夕映え、西に来迎、東に・・・」
油の火が照り返し、夕庵の横顔を浮かばせる
「地龍、天龍、入り乱れ・・・」
それが何なのか、夕庵にはわからなかった
「ふぅ・・・。折角ご先祖様から頂いたこの能力も、真面目に修行をせねば使えぬと言うことか・・・」
溜息を零す夕庵の許に、侍女が朝餉を持ってやって来た
「武井様、何をしてらっしゃいますの?」
「天気占いです」
襖を開けると、外からの光が部屋いっぱいに広がった
「天気占いですか?」
「風水、と言うのですかな」
「ああ、風水。聞いたことがあります。武井様、風水をおやりになられるので?」
「天気占いしか、したことがありませんがね」
「それで、当りますか?」
「晴れ、なら」
「まあ」
夕庵の口調が可笑しくて、侍女はクスクス笑った
「他に何が占えます?」
「そうですね、健康運とか」
「大事なんですか?」
「人が生きるに健康は大事です」
「確かにそうですね」
「占ってあげましょうか」
「当らぬも八卦、ですか?」
「まぁ、そんな感じで」
風水の道具、『八卦』に丸く磨いた玉を三つ転がせる
「緑は、緑。自然を表す。黄は土。大地を表す。青は空。その人の持つ気運を表す」
転がった玉が何度もぶつかり合い、緑は八卦の中心に
黄と青が鬩ぎ合うようにぶつかる
それは自然の力でぶつかり合うのではなく、何かの意思を持ってぶつかり合っているように見えた
「武井様・・・、これって・・・」
「何だ、この動きは・・・」
ただならぬ雰囲気が部屋に充満する
「武井様・・・ッ」
侍女はその雰囲気に怯えた
ゆっくりと楕円を描いて黄と青がぶつかる
その感覚がどんどんと短くなり、やがて
「危ないッ!」
「きゃッ!」
黄が青に弾かれ、侍女の居る廊下へと鉄砲の玉のように弾き飛ばされた
夕庵は咄嗟に侍女を自分の方へ引き寄せ、難を逃れる
「これは・・・ッ」
残った青が、緑をも侵蝕しようと徐々に近付き、八卦から突き落とす
「武井様・・・・・」
「こんなことが・・・」
目の当たりにした夕庵でさえ、この光景が信じられない
          姫様・・・・・」
雨戸を閉め切った南に向って、夕庵は心の中で呟く

あなたは何を、味方に付けましたか・・・
この気運、常人のものではない

松風に乗る帰蝶の隣に、秀貞が並んだ
「林・・・」
                
何も言わず、黙って馬を走らせる
「お前まで来るとは、想ってなかった」
「見届けたいんですよ」
「林・・・」
「あなたがいつまで減らず口を叩けるのか、この目で見てやろうと想いましてね」
「素直じゃないな」
苦笑する帰蝶に、尚も秀貞は言う
「ご自分は素直だとでも想ってらっしゃるのですか?」
                
さすがの帰蝶も、それ以上のことは口にしなかった
なつの『男版』だと想ったからだ

「河尻様!」
到着した丹下砦を守っていた黒母衣衆の水野帯刀が、小走りに駆け寄って来た
「守備、ご苦労」
「それよりも、丸根と鷲津が」
「ああ、わかってる」
「河尻様・・・」
帯刀は不安げな顔をして呟いた
「この戦、我らは勝てるのでしょうか・・・」
「負けることは考えるな。勝つことだけ考えろ」
「河尻様・・・」

「権は丸根、林は鷲津の今川に貼り付け」
「どうすれば」
帰蝶とはまだ付き合いの浅い秀貞が聞く
「今川本隊と合流させるな。この二つを分断させれば、大高は孤立する」
「それで」
「丸根に千余り、鷲津に二千余り。つまりその分、本隊の兵力は減っている。折角減った兵力を膨らませる莫迦が何処に居る」
「つまり、奥方様が今川を足止めしてくださると?」
勝家が言い挑む
「責任重大だな」
「そのおつもりでしょう?」
「折角落した砦を野放しにはしていないだろう。其々今川の諸将が残っているはずだ。それらを口説け」
「え?」
さすがの勝家もキョトンとする
「隙あらば、織田に寝返るよう説得しろ」
「できますか。相手は今川ですぞ」
「だったら、今川本隊が織田の襲撃を受け壊滅状態だとでも嘯け」
「そんな無茶な」
勝家の頭から汗が浮かんだ
「無茶も押し通せば戦略になるっ。ぐちゃぐちゃ言ってないで、行けっ!」
「はいはい」
唖然とする秀貞の腕を掴み、勝家は砦を出た
「ほんと、権さんの言うとおり、無茶ですよ」
と、秀隆が言った
「この中で権さんと林殿の部隊が、一番兵力があるってのに。その頼りの両翼を今川の監視だけで使おうなんて、贅沢な」
「確かにそうだろうが、兵力が大きいからこそ、今川を分断するのに使える」
「目的は」
「今川が二万五千のままで尾張に入ると想うか?」
「そりゃ、少しくらいは通り道に残すでしょうね。万が一の退路確保のために、兵力を温存させておくのは常識だ」
「だったら、今川の本隊は今、どれくらいになっている」
「えーっと・・・」
そんなのわかったら苦労するか、とでも言いたげな顔をする
「丸根と鷲津に三千、駿府から沓掛までに恐らく五百ずつ残してあるだろう。撤退する時に回収しながら戻っても、退路は充分保てる」
「五百ずつ?」
「あくまで私の予想だ。だったら、今川本隊は今頃、一万にも満たない」
「一万ですか・・・」
「それでも、尾張を通るには充分な数だろうな。だが、肝心なのはそこから大高方面に配置させた三千を引いた数だ」
          てことは、本隊は七千・・・?」
帰蝶の答えに、秀隆は目を丸くさせる
「丹下、善照寺、そして、扇川。我らは今川とは逆に、兵力を回収しながら今川本陣を目指せる。数が減っていく今川と、数が増えていく織田とでは、どっちが有利だ」
                
自信に満ち溢れたその微笑み
負けることはないと言いたげなその表情
勝てるかも知れない
いや
負けすはずがないと、想わせる
          だから・・・」
声を出すのがやっとの想いで、秀隆は言った
「『稲生』を経験した権さんと林殿を、砦に・・・」
「それは単なる偶然だ」
さすがに買い被りだと、帰蝶は苦笑する
「だが、あの二人なら、何が一番効果的かわかってる。どう動けば自分達が『足止め』になるか、わかってる」
「奥方様・・・」
「吉法師様に盾突いた心意気、生かすのは今だ」
                

そろそろ昼餉の頃だった
「お市様、何か食べますか?」
相変わらず長屋は子供達の声で賑やかだった
米屋で買った初めての味醂で、市は何か作りたいと言った
「じゃぁ、大根の甘露煮でも作りますか?」
「うん」
「お米は、磨げます?」
「勿論」
市は手に小さな盥を持って米を計り、井戸に向おうと外に出る
「待って下さい、お市様」
「なぁに?」
「甘露煮を作るのなら、お米の磨ぎ汁が必要になります」
「どうして?」
「まぁ、見ててください」
さちは市から盥を受け取り、米に水を注ぐ
それから、白く濁った水を別の桶に移し、何度か繰り返す
「これくらいあったら充分ですね。じゃぁ、お米を綺麗にしに行きましょうか」
「うん。でも、この水、どうするの?」
「大根を煮る時に使うんです」
「使えるの?」
「磨ぎ汁は万能なんですよ?大根を煮る時だけじゃなく、茶碗を洗う時にも使えます」
「そうなんだ」
「今度やってみてください。驚くぐらい綺麗になりますから」
「うん、わかった」

井戸で米を綺麗にし、部屋に戻る
それを釜に移し変えて水を張り、蓋をして火を熾す
その間に大根を適当な大きさに切り、皮のまま鍋に入れた
「ここで、磨ぎ汁を注ぎます」
「うん」
教わり、市が鍋に磨ぎ汁を注ぐ
「磨ぎ汁で湯掻くと、大根が柔らかくなります。水だけで湯掻くよりも、早く柔らかくもなるんですよ」
「そうなんだ」
ぐつぐつと鍋が揺らぎ、磨ぎ汁の上に薄い膜のようなものも浮かんで来た
「これは?取るの?」
「いいえ、灰汁取にもなりますので、そのままで」
「わかった」
ひとかた大根が柔らなくなったら、さちは箸で大根を掬い上げ、糠を軽く洗い流す
「鍋の中を綺麗にして、調味料を入れます」
「はい」
「そして、大根を入れて蓋をして、煮上がるまで待ちます」
「意外と簡単なのね」
「一工夫でいくらでも楽ができるんですよ。普通に湯掻くより早く仕上がりますしね」
「そうなんだぁ」
佐治の許に行く前に、台所である程度の修行はしたとは言え、こう言った知恵までは習っていない
市は楽しそうにさちの手伝いをした

丹下でも昼食の準備が行なわれていた
最も、女を連れて来ていないのだから、手の込んだ物は作れない
簡単に湯漬けと香の物だけで済ませ、帰蝶らは善照寺に向った
その手前まで到着すると、織田総大将の着陣を聞き付けた先鋒隊が勇み足で今川軍に突撃し、玉砕すると言う事態が起きた

善照寺に群がる今川軍を、秀隆、成政らが蹴散らす
その間に帰蝶は砦に入ったのだが、そこで想わぬ顔を見た
          犬千代・・・!」
「あ・・・、奥方様」
「お前、何で          ッ」
「奥方様」
図体だけはでかく、その実泣き虫な利家は鼻を真っ赤にして帰蝶の前に踏ん反り返った
「俺、帰りませんからねっ」
「犬千代・・・」
「俺は今までずっと、奥方様の戦いを側で見て来たんだ。なのに、今川との大一番を見逃したら、人生最大の損ってモンです!」
「胸張って言うことか」
帰蝶は想わずゲンコツで利家の頭を殴った
それから、困ったような顔をして笑う
「お前って子は・・・」
そこへ、砦の守備をしていた佐久間信盛が駆け付けた
「奥方様!」
「右衛門、無事だったか」
「私のことよりも、奥方様のことです。なんで来たんですか」
「織田の戦は、私の戦だろう?それとも、右衛門が総大将をやってくれるのか?」
「そんな器じゃないことは知ってるでしょ」
「それよりも」
「はい」
信盛は顔を引き締めて報告した

「今川本隊は、この辺りに居ます」
と、布陣図を指差す
「太子ヶ根?」
帰蝶の目が丸くなった
「はい」
「沓掛から直接、こちらではないのか。随分と迂回したものだな」
「恐らく、私の予想では鳴海ではなく、一旦大高に寄るのでは、と」
「兵士の休息か?」
「はい。一日置きに進軍しております。駿府からここまで」
「だが、どっちにしても最終的には鳴海には向うのだろう?」
「でなければ、清洲には入れません」
「休息を取るために、先に大高を増援したのか」
「でしょうね」
「なるほど」
帰蝶は義元の考えを読もうと、黙り込んだ
「奥方様、私が想いますに今川軍は」
構わず話し掛ける信盛を、利家が止める
「今の奥方様には、どんなに声を掛けても返事はありませんよ」
「え?」
「権と林を送って正解だったな」
小さく呟く
それは独り言のようだった
「え?権と林?」
キョトンとするも、それでも利家が苦笑いをして首を振るのを、信盛は黙って見ていた
「太子ヶ根を通ると言うことは、そのまま真っ直ぐ扇川に向えば良いものを、何故今川は態々迂回してまで大高に兵糧を送った。何か目的が」
まだ完全に東尾張の地理を把握していない帰蝶は、信盛が広げた布陣図を睨んだ
                 ッ」
突然、帰蝶が拳で布陣図を殴り付ける
その音に信盛と利家は驚いた
「田楽、桶狭間山」
「桶狭間山?」
「奥方様?」
「太子ヶ根と大高城を真っ直ぐ繋げば、丸根がある。だから今川は、最初にここを落さなければならなかった」
「てことは?」
「今川が必死になって大高に兵糧を送ったわけは、何だ」
「奥方様・・・?」
「鳴海は、囮だ」
「えっ?!」
「囮?」
利家も信盛も、驚きに目を見開く
「今川本隊が向っているのは、桶狭間山だ」
「どうしてですか?」
「太子ヶ根は、鳴海に向うと見せ掛けての囮。だが、鳴海そのものが囮だったら、そこに総大将が居るわけがない」
「じゃぁ、桶狭間山に?」
「そうか、わかった」
「奥方様?」
「今川は、兵を分散させる。織田の目を晦ますために」
「ええ?」
「鳴海にも兵を送るだろう、それを誘導させているんだ。現にこの善照寺にまで今川が押し寄せている。だが、それらは全部、囮だ。今川は大高を目指している」
「何故、鳴海ではなく大高なんですか」
信盛の疑問は当然だろう
今川が陸続きで尾張を渡るのなら、伊勢湾に面した大高よりも、鳴海の方が内陸に近い
増してや敵地で船など用意できるはずがない
そう考えるのは、当たり前だった
「何故だと想う」
「わかるわけないでしょ」
不貞腐れて応える利家に、帰蝶は呆れた顔をする
「鳴海の上は、何だ」
「鳴海の上?」
「そりゃ、末森」
「末森には慶次郎が向った」
「慶次郎が?」
利家の顔が驚きに歪む
「その上は」
「春日井」
信盛が応える
「ああ。織田家臣をもっとも多く輩出している土地だ。その辺りの豪族もみな、織田に味方している。そして、その上は」
          小牧」
次に利家が応えた
「それから」
「犬山」
「その上は」
帰蝶の問い掛けに、利家がはっとした顔をする
          可児、恵那」
「そうだ。今の今川にとって、一番の脅威はなんだ。斎藤に靡かぬ、遠山一族だ」
「て、こと・・・は・・・」
「計らずとも、おつや殿を嫁に送ったことで、今川は織田と姻戚関係にある遠山を敬遠している。だから、海沿いを選んだ」
「じゃあ、鳴海に兵を送ってるのは、俺達を誘うため・・・?」
「今川治部大輔と言う男は、切れ者だな。なるほど、一代で今川を大きくしただけのことはある」
「奥方様・・・」
「ここを攻撃するのがもう少し遅かったら、私は迷わず鳴海に向っただろう。そして、手勢を整えたと安心したその直後、今川の総攻撃を受けていただろう。今川も、織田と同じだ。手勢を集めつつ尾張を渡る。そして」
「そして・・・?」
「帰って来たら、久助を誉めてやらねばならんな」
「え?」
「今川は伊勢を通る。美濃ではなく、伊勢をだ」
「伊勢・・・」
「東尾張はまだ織田には靡かん。それら豪族どもに船を用意させるのは容易だろう。そうか、やつらは現地調達を狙っている」
「だから?」
まだ自分に問い掛ける信盛に、帰蝶は顔を向けて応えた
「何のために、山口を転ばせた」
          あ・・・ッ!」
「山口が鳴海を出て大高に入ったのは、準備が整ったことを今川に伝えるためだ」
「まさか、久助はそれを読んで、先回りのため伊勢に入ったのですか?」
「私も、単に北畠を押えるためかと想っていた。だが久助はそれよりもっと先を読んでいた」
「なるほど・・・」
「ですが奥方様、それは確信のあることでしょうか」
「どうしてだ?」
「相手は今川惣領。稀代の名軍略家、太原雪斎の薫陶を受け、生母は三国一の賢婦と言われた寿桂尼。まともにぶつかって、残れますか」
「だからなんだ!私は武井夕庵に師事したんだぞ!」
「それがなんなんですか・・・」
利家が苦笑いする
「ヤツは七つになったばかりの私を、長良川に突き落とした男だぞ!母代わりは織田一の恐妻、池田なつだ!これ以上の布陣があるかッ!」
                
納得できるような、できないような、信盛と利家はそんな複雑な顔をした

「ここは破棄する!全員、速やかに扇川に向え!」

帰蝶の号令で、合流した織田軍が善照寺を破棄し、扇川に向った
「奥方様・・・」
隣に秀隆が並ぶ
「お前の義叔父上殿には、申し訳ないことをした」
「いえ。織田本隊が到着したことで、気持ちが大きくなったんでしょう。俺より、市丸の方が・・・」
「ああ。兄上も玉砕なされたようだな」
「奥方様」
馴染みがないから、そんなにあっさりとした顔ができるのだろうか
いいや、そんなはずはないと心の中で否定する
「市丸には、充分なことをしてやるつもりだ」
「奥方様・・・」
「彼らの死を、無駄にするな」
          はい」
帰蝶も、この戦で大切なものを失くした
他人ながらも自分の考えに賛同し、助力してくれた信光を失っている
それは相当の痛手だろうと想えた
それでも凛とし、前を真っ直ぐ向いている帰蝶に着いて行こうと想った
自分が、そうだったから
信光を助けようと動いた帰蝶を止めたのは、自分なのだから・・・

いつもなら鱈腹食っている昼餉も、今日は箸が進まなかった
市は頑として城には戻らず、長屋で佐治の帰りを待つと言い、市弥を心配させている
可成は帰蝶から託された清洲の警備に余念がなかった
見回る序でにと、帰蝶の愛鳥・蝉丸の居る小屋に向う
世話係だろうか、いつもならさちがやっていることだが、そのさちが今日は居ないものだから代わりに別の侍女が蝉丸の世話をやっていた
「蝉丸、食べて、お願いだから」
そう、声が聞こえる
可成はそっと小屋に近付いた
「餌を食べないのか?」
「森様・・・」
振り返った侍女は、眉を寄せて頷いた
「どれ、わしが面倒を見よう。そなたは昼餉を食べて来ると良い」
「ですが・・・」
「頼まれてもいるからな、わしが見ている」
          はい」
侍女はそっと小屋から出た
代わりに可成が中に入る
鴉一匹だけにしては、随分と広い小屋であった
義父から譲り受けただけではなく、蝉丸はあらゆる局面で帰蝶を助けて来た
帰蝶にとっては、戦友も同じだった
その蝉丸も、鴉の寿命には勝てないのか
「蝉丸。ほれ、食べろ。お前の好きな干し肉じゃないか。蝉丸」
体力のなくなった蝉丸は、身を丸めて蹲っていた
木に止まることもできないほど、衰弱しているのか
「蝉丸」
可成は干し肉を小さく千切って、蝉丸の嘴の側まで持って行った
蝉丸はそれを食べようとするのか、顔を上げる
だが、嘴を開けることができず、先端で可成の指を力なく突付いた
          無理を、して来たのだな」
そうだろう
鴉の寿命は平均して七年が限界だった
帰蝶が織田に嫁いで十一年が過ぎている
最大寿命である八年でさえ、とっくに越えているのだから
「お前の勇姿は、今もこの胸に焼き付いている。奥方様を助け、その美しい羽を散らしたこと、奥方様の文使いで何度も美濃を飛んだこと。お前は本当に、賢い鴉だった。きっとお前は、人の言葉を理解できたのだろうな。だから奥方様は、お前を信頼していたのだろう。ただの鴉ではない。お前は立派な、織田の戦士だ」
蝉丸の黒い瞳が輝く
ほんの一瞬
それは空を覆う雲に反応していた

          蝉丸
お前の魂は、千里を駆ける
今も奥方様と共に戦っているのか

扇川と手越川の合流地点にある中洲に築かれた砦を、帰蝶は『川の中の島』と言う意味で中島砦と呼んだ
小高い場所に建てられた他の砦に比べ、立地条件は悪かった
その中島砦に先に弥三郎達が乗り込んでいたことに、帰蝶は目を丸くした
「お前達」
弥三郎の側には、部隊に配属された利治が居る
「新五」
「先走りって、言いますか」
叱られるかと、利治は寧ろ言い挑む
「四方から丸見えのこの場所に、よくものこのこ入り込んだと」
          わかっているのなら、それで良い」
「姉上・・・」
「弥三郎」
「はい」
「よくここを守ってくれた」
「いえ」
「なるほど、確かに大高、鳴海から丸見えだな、ここは」
砦の周囲を見渡して、帰蝶は言った
「ですが、今川が善照寺に殺到しました。どうしてですか」
「放棄したからだ」
「え?」
簡潔な帰蝶の返事に、弥三郎はキョトンとした
「今頃我先にと押し寄せているだろうな」
「それで、奥方様の狙いは?また直接大将首ですか?稲生の時みたいに」
「まさか」
帰蝶は軽く一笑した
「今川は美濃に近付くことを避けている。じゃあ、近付かないでいる美濃に押し込んだら、どうなる?」
「そりゃ、普通に考えて斎藤が出て来るでしょうよ」
「そうだ。だから今川は何があっても、尾張から北には足を向けない。つまりは」
「逃げ場がないってことですか」
帰蝶の返答を、利治が補足する
「その通りだ」
帰蝶はにっと笑った
「我らも守る範囲が狭まる。だったら、今川が太子ヶ根と桶狭間山でうろうろしている間に、本隊を叩く」
「確かに、兵力が分散している今が好機。ですが、本隊を叩くとなれば、やはり敵総大将、今川治部大輔の首を狙うのが効果的」
「本隊の数がどれくらいかもわからないのに、特攻か?弥三郎らしい意見だが、却下だ」
「奥方様ッ」
「私も出る前は同じことを考えていた。だが、今は違う。これ以上、誰も死なせない。今川には出直してもらえれば、それで良い。今は尾張から追い出すことだけを考えろ」
「姉上・・・」
この軍議には参加していないが、それでも帰蝶の側で話を聞いていた秀隆、恒興、利家、小姓の龍之介、そして、馬廻り衆筆頭時親も帰蝶を見詰める
そんな中で帰蝶は言った
「みんな、生きて帰るんだ」
簡潔で、だが重い言葉
「おうッ!」
その場に居た全員が、拳を振り上げ鬨を上げた
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田楽桶狭間
諸説は色々あるようです
信長の通ったルートも、義元が通ったルートも、研究者によってまちまちですので、自分流で書いてみました

うっかり1560年まで生きていた叔父上様・信光
いやぁ、ほんとうっかり生かしてました
ですが、短い文章ですが叔父上らしい最後の花道を飾っていただきました
叔父上の魂の叫びはきっと、帰蝶に届いたはず
義元の作戦は正しく伝わってはいないので、これもまた自分流でアレンジしております
義元と言う人は、史実でも凄い人(ゲームでは散々な扱いを受けてますが)だと言うのはわかっています
恐らく常人を超越した存在だと思います
それでも帰蝶にとっては「大したことなか。海っぺりの大名だぎゃ」とか思ってたりするんでしょうね
帰蝶の最大のライバルは、やはり兄上様なので
その兄上と直接対決できる日が来るのか、どうか
私もハラハラドキドキしております
ああ、その前に義元公をしっかり描かなくては
桶狭間ってほんと、難しいですね
長篠の方が簡単だ(苦笑
Haruhi 2009/11/27(Fri)22:42:51 編集
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千極一夜

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『戦国無双3』が絶望的存在であるため、更新予定はありません

◇◇11/19 Nintendo DSソフト◇◇
『トモダチコレクション』

おのうさま(帰蝶)とノブ(信長)が 結婚しました(笑

祝:お濃さま出演 But模擬専…     (戦国無双3)


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よくもお濃様を邪険にしおってからに・・・(涙

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