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局処で徳子には乳母が付けられ、充分な保護を与えられた
「出産したての侍女が居て、助かりましたね」
「ほんと。もし見付からなかったら、一般公募しなきゃならないとこだったわね」
穏やかな春が過ぎ、梅雨のじめじめした時期が到来し、人もみな、屋根の下で身を固める
徳子の乳母は、市弥の侍女の中で出産のため産休を取っていた者を慌てて呼び戻し、給料を弾むと言う約束で登城してもらった
侍女は大勢居ると言っても、年がら年中出産を迎えた女ばかりなわけではない
結婚をすればさっさと辞めてしまう者の方が多く、出産をしても残ってくれると言う侍女の方が圧倒的に少なかった
今回徳子の乳母を請け負ってくれた侍女は、市弥が特に気に入ってた人材でもあったため、是非残って欲しいと言う市弥の要望に応えてくれただけであり、もしもこの侍女が辞めてしまっていたら、市弥の言うように一般公募で探さなければならなかったのは事実だった
不始末をしでかした家臣の子供とは言え、城主が女であればこれ以上子供が増える希望もない市弥にとって、生まれたての赤ん坊を見ているのは心が安らぐのと同時に、信長を産んだ時のことを想い出し、ほんの少し胸の奥の古傷が疼いた
信長を産んだのは、十二の時だった
輿入れの際、夫になる信秀や、その家臣らの集まる表座敷で市弥は、宣言した
「私が産んだ以外の子を跡取りにするのなら、私はここで自害します」
それは、なんの頼りもない少女が織田で生きて行くための、精一杯の虚勢だった
その甲斐あって、信秀は市弥の条件を快く飲んだ
だが、実際に信長を産んだ市弥は数ヶ月で産んだ我が子と引き離された
「吉法師!吉法師ッ!」
追い縋る市弥に、夫は言った
「お前が望んだことだ。吉法師は織田の跡取りとして、母の過保護で育てられないよう、しっかりとした教育を受けさせる」
「 」
夫に縋る手が緩み、信秀は腕の中の吉法師と共に本丸に入った
「吉法師・・・」
どうして自分は、あんなことを言ってしまったのだろう
「吉法師・・・ッ!」
できもしない約束を、口にしてしまったのだろう
「 」
孫でもない、赤の他人の子である徳子を抱き、あやす市弥の表情は、なつでさえ見たことがないほど穏やかなものだった
「大方様は本当に、子供好きなんですね」
「あら、なぁに?今頃知ったの?」
「だってわたくし、大方様とは掴み合い寸前の喧嘩までした仲ですよ?」
「そう言えば、そんなこともあったかしら」
「若気の至り、ですね。正しく」
「そうね。でも、今考えれば私も、なつには随分盾突いたわ」
「あら、そんなこと・・・」
打ち解ける市弥に、なつは少し頬を染める
「だって、冷静に考えても、年上であるなつに歯向かうなんて、普通の家じゃ有り得ないわよね。例え正室、側室の関係でも」
「 」
照れて染めた頬が、もったいないような気がするなつであった
「年功序列って、やっぱり大切なのよね」
「 そうですね」
穏やかにはなったが、中身はやはり攻撃的なままだな、と、なつは顔を逸らして庭を見る
梅雨が明けるまであと少し、と言うほどに、空が明るいものになっていた
「鳴海城と大高城に付城を?」
表座敷で告げる帰蝶の言葉に、岩倉から戻ったばかりの勝家が聞き返す
「山口は今も今川と通じている。こちらの隙あらば、いつでも今川を招き入れるだろう」
「それは確かに殿も懸念され、鳴海を攻撃したことありますが」
と、秀隆が言う
「私がいつまでも斎藤に拘っていたら、それを隙と考えるだろうな」
「今川の流出を抑えるため?」
帰蝶は頷きながら各自に命令を下す
「久助はこのまま伊勢への警戒を怠るな」
「はっ」
「巴も、必要ならば何度でも伊勢と尾張を往復すると言っている」
「承知しました」
「鳴海城に対して丹下、善照寺、扇川付近に砦を築く。丹下には権」
「はっ」
「善照寺には右衛門」
「はっ」
通称を右衛門尉と改めた信盛が応えた
「扇川には弥三郎」
「はっ」
「其々普請に当ってくれ」
「はっ」
「大高城に対して鷲津、丸根に其々砦を築く。鷲津には五郎左」
「はっ」
「丸根には勝三郎」
「はっ」
「三左」
「はい」
「鷲津の砦が完成したら、孫三郎の叔父上に知らせるように」
「孫三郎様に?」
「相手は今川だ。斎藤なら私一人でもなんとか対処できる。だが、私はそれまで今川を相手に戦ったことはない。だから、叔父上の助言を請いたい」
「承知しました。完成次第、すぐさまお知らせします」
「梁田が今川の情報を集めてくれるそうだ。三左」
「はっ」
「その梁田と提携し、清洲警戒に当ってくれ」
「承知しました」
「え?赴任?」
夫の弥三郎が砦普請のために鳴海を越えると聞かされ、菊子は顔を曇らせた
時期が悪く、義兄の浮気騒動もまだ静まらない内の赴任である
夫の身の心配よりも、下の心配が優先に立った
「私が居ないことを図って」
「あのなぁ」
昼の日中ではあるが、人気のない裏庭の片隅で妻に留守を頼もうと二人きりであったのが幸いしたか、弥三郎は臆面もなく菊子を抱き寄せ、口付けた
舌を菊子の口の中に差し込み、妻の悶えた甘い声が高くなる寸前に離す
「俺には、お前だけなの」
「そう言って、私の知らないところで浮気でもしてるんじゃないんですか?」
夫の行動に顔を赤くして照れながらも、手痛い言葉は忘れない
「あ・・・、あのな。俺はお前一筋だってのに、何だ、その疑いに満ちた眼差しは」
「だって」
が、現に娘の瑞希が生まれるまでは、軽く浮気などを楽しんでいた過去が確かにあるため、余り強く否定もできない
「殿方は、女を換えると言うことも変わります。私は旦那様を信じてますが、それでも不安です」
「ああ・・・」
真面目を絵に描いたような兄ですら、浮気をして今、その愛人の家に時々は足を通わせている
恐らくは妻への呵責から逃げているのだろうか
「お義兄様との間にできた子供だけ、なら我慢もできるでしょうが、前夫様との間にできた子まで清洲に来ているのでしょう?」
「 」
上手く応えられず、弥三郎は頷くだけにした
「その三人の面倒を見ていれば、お能様だって心が壊れます」
徳子が清洲の局処で育てられているのだから、お能の育児放棄は有名だった
勿論、殆どがお能へ同情を寄せ、お七には批難が集められている
「殿方は、何故浮気などをするのでしょうか」
菊子の疑問は、至極当然だった
「さぁな。男其々考え方が違う。権さんのように硬派な生き方ができる男も居れば、犬千代みたいにだらしない男も居る。何かから逃げたくて、別の女に走る男も居るし、生きてる実感を味わいたくて女を抱く男も居る」
「女は所詮、殿方の性の捌け口にしかならないのでしょうか?」
「どうだろうな。女の構え方じゃないのか?」
「それって、浮気をされる女が悪いってことですか?」
「そうじゃねぇよ」
弥三郎は苦笑いした
「殿方はずるいです」
「そんな男のずるさを許容できる女と、できない女とでは、扱いも変わるんじゃねーのかな」
菊子が睨むのを、弥三郎はぎゅっと抱き締め、頭を撫でてあやした
「お前の言うとおり、男ってずるい生きもんなんだよ。でもな、結局は女房を逃げ道にしちまう。その女房が逃げ道じゃなくなったら、男は何処に逃げたら良いんだ」
「旦那様は、逃げ道はありますか・・・?」
「あるよ」
「それは 」
「お前に決まってんだろ」
「 」
弥三郎の言葉に、菊子は胸の中から夫を見上げた
「今川を撃退して、それで暇ができたら、二番目、考えようか」
囁くように菊子を口説く
「 はい・・・」
菊子は嬉しそうに頬を染め、夫の胸に凭れた
「奥方様」
私室に戻ろうとした帰蝶を、恒興が呼び止めた
「どうした」
「はい、私用で大変申し訳ないのですが」
「立て込む話なら、廊下ではなんだからな、部屋でしようか」
「恐れ入ります」
龍之介が襖を開け、先に帰蝶が入り、その次に恒興が入り、龍之介が閉める
「佐治はどうだ。役に立っているか」
「はい。佐治は足腰が強くて、脚も速いものですから使いなどにも重宝させていただいております。砦普請にも先に向かわせました」
「それを聞いて安心した」
「覚えも早いですし、佐治は元々の素質でもあったのでしょうか。勉強熱心で、いつも関心させられます」
「私も、佐治の熱心さには頭が下がる。それで、お前の私用とは?」
「あ、はい。実は、妻の千郷のことなんですが」
「千郷殿が、どうかしたか?」
「特にと言うわけではないのですが、千郷も初潮を迎えまして」
「そうか、それはめでたい」
帰蝶の顔が喜びで明るくなった
「ありがとうございます。それで、兆候と言うのはまだないのですが、私が留守の間、千郷を預かってはいただけないかと」
「兆候と言うと、懐妊か?」
「はい・・・」
少し照れたように、恒興の顔が赤くなる
「夫婦の契りは既に結んだか?」
「あ・・・、あの・・・」
恥しさの余り、恒興は全身を赤らめ身を丸めた
「勝三郎。私はお前を冷やかしているのではない。真面目に応えろ」
「は・・・、はい・・・。あの・・・、千郷の初潮が収まった頃に、その・・・、初物を頂きました・・・」
「それはよかった」
「奥方様・・・」
「私も、そうだった。吉法師様に嫁いだ当初、月の物が来ていなくて、契りは随分経ってからだった。契るのと契らないのとでは、男も家を安心して留守にはできないからな、お前も今まで内心心許なかっただろう」
「いえ・・・」
帰蝶の労わりの言葉に、恒興の頬も優しく緩む
「わかった。千郷殿はお前が留守の間、こちらで預かろう。代わりに」
「はい」
「屋敷を空にしては物騒だからな、お絹は連れて来るな。あれは中々頼もしい女だから、しっかり留守を守ってくれるだろう」
「はい、そのようにさせて頂きます」
恒興が部屋を出た後、後を追うように今度は市弥が部屋を訪れる
龍之介は「忙しいなぁ」と内心溜息を吐いた
「どうかなさいましたか、義母上様」
「ごめんなさい、私事なのだけど」
畏まる市弥に、帰蝶は微笑ましさを感じる
「構いません。他ならぬ義母上様のお話なのですから、遠慮なさらず仰ってください」
「実は、市のことで・・・」
「市がどうかしましたか?」
この頃自分の真似をやめて、髪も伸ばし始めている市にまた、何か変わったことでも起きたのだろうかと、俄に心配になって来る
「ここのところ、時々城を抜け出すことがあるの」
「城を?」
その辺りは、さすが吉法師様の妹、と、別の意味で感心する
「行き先はわかっているの。だから私も安心しているのだけど」
「行き先とは、どこでしょうか」
市弥も随分変わったな、と心のどこかで唸る
以前の市弥だったなら、城を引っ繰り返してまで大騒ぎし、市を探させただろうに
「佐治の長屋なのよ」
「佐治の?」
この言葉に、さすがの帰蝶も驚く
「ほら、鈴鹿遠征前に長屋に越したでしょう?」
「ええ」
「その時、市ったら私に黙って佐治の荷物に紛れ込んで、長屋に行ったのよ」
「そんなことがあったんですか」
「佐治の手伝いをしたいと言うから、私もてっきり荷物を荷駄車に載せるだけかと想って承知したのだけど、まさか荷物に紛れて外に出るだなんて想像もしてなくて・・・」
「そうでしょうね」
普通、武家の娘が手伝うと言ったら、市弥の言うように住んでいた部屋からの荷積みくらいしか想い浮かばない
「直ぐにさちが恵那を使いに知らせてくれたので、こちらでも騒動にはならず、お方様にも報告するまでもないと黙っていたのだけど、それに味を占めたのか、時々佐治の部屋に行ってるの」
「それで義母上様は、どうなされたいのですか?」
大人しい市にしては、男の部屋に転がり込むなど随分と大胆なことをするようになったものだと、これもまた感心してしまう
「佐治が有能なのは、私も知っています。だけど、それとこれとは別問題。佐治は庶民。まだ一人前の武士にもなっていないわ」
「はい、その通りです」
「だけど、市は武家の娘。身分を差別に使うのは、普段のあなたの理念を考えても口にしてはいけないのでしょうが・・・」
「いいえ、義母上様。それとこれとは別です。義母上様のお考えも聞きとうございますので、遠慮なさらず仰ってください」
躊躇い勝ちに話す市弥に、帰蝶は発言を促した
「何れ政略の道具にもなり得る立場であることを弁えているのに、それでも佐治の部屋に行くと言うのは・・・」
「 」
市も年頃の娘になりつつある
信長が生きていたらさっさと政略として他家に嫁いでいただろうに、今は自分が織田を仕切っているため、どの娘も中々嫁ぎ先が見付からない
長女の犬ですら、どこにやろうかと考えている最中だ
多忙を極める帰蝶には、市のことまで考えていられる余裕はなかった
「身分が違うので、市にはそれ相応の相手を探すよう仰いましたか?」
「言おうかどうしようか、悩んでいるの。それで市を傷付けたりはしないか、と心配で」
「ですが、もしも万が一間違いでもあれば」
「 」
市弥の顔が青褪める
「いえ、佐治に限って主家の娘に手を出すようなことはしないでしょうが、佐治ももう大人です」
「そうね・・・」
慌てて慰めるも、市弥も不安を拭い切れない顔付きのまま、帰蝶の話を聞いた
「佐治が妻を娶ってくれれば話は早いのでしょうが、その佐治が今は仕事に夢中で女に走る暇がないそうで」
「そう・・・」
「佐治に誰か紹介していただけませんか」
「佐治に?」
「私に付いている侍女はみな亭主持ちですので、義母上様の侍女で独身の年頃の娘でも」
「私も・・・。心当たりは少ないけれど、なつにも相談して、局処の誰か良い娘でも探してもらいます」
「そうですね。私も本丸の侍女を当ってみます」
「ごめんなさいね。あなたも忙しいのに」
「いいえ。今まで放っていたのがいけなかったのですから、気になさらないで下さい」
相談して解決したのかしなかったのか、どうにもあやふやな気持ちのまま部屋を出る市弥を見送る帰蝶もまた、これで良かったのかどうかわからない顔をする
「武家の娘、てのは、晩熟(おくて)なのかしらね」
義理の母である市弥に対し、男言葉は意識して使わなかった帰蝶は、そのままの口調で龍之介に話し掛けた
「奥方様は」
「私は 」
嫁入り前に、夫とは別の男と平気で口付けていた方だ
躰はまだ未熟だったが、やることはやっていた
そんな自分が晩熟なのかどうか、言えるはずがない
「どうかな。 忘れちゃった」
「奥方様・・・」
苦笑いする帰蝶に、龍之介は軽く頭を下げた
「武家が政略結婚に娘を使うのは当たり前。でも、うちでは余りそう言う仕来りは大事にしたくないから放っておいたけど、放っておいたら置いたで問題も起きるのね」
「難しいですね」
「本当。 そう言うお前は?」
「はい?」
話を振られ、龍之介は一瞬ポカンとする
「お前だって、元服を終えた身なのだから、そろそろ好いた女の一人くらいは居るでしょう?」
「さぁ、どうでしょう」
帰蝶の質問に、龍之介は微笑んで躱す
机に向かい直す帰蝶を見守る龍之介の目は、慈愛に満ちた優しい色をしていた
今の私にとって一番大切なのは、あなただから
だから、あなたの側に居られることが、私の幸せなのです
さちが居ないんですか?
じゃぁ、私がお相手をしましょうか
何をして遊びますか?
かくれんぼが良いですか?
では、私が先に隠れますね
「もういいかい」
「もういいよ」
佐治の声がして、市は瞑っていた目を開いた
眩しい光に目が焼かれそうで、少し目蓋を落す
声のした方に顔を向け、しばらくきょろきょろすると、大きな木の陰に佐治の小袖の端が見えた
いつも同じ小袖で、それは恐ろしいほどボロボロで、だけど佐治は里を出て来た時に着ていたものだからと、大事にしていた
その、見慣れた小袖の端が見え、市は佐治の居るところへとことこと歩いて覗き込んだ
「佐治、みいつけた」
「あは、見付かってしまいました」
佐治とは十歳の時に出会った
その時点で佐治はもう、元服を迎える年になっていた
自分とは遊びも釣り合わないだろうに、それでも嫌な顔一つせず相手をしてくれた
「佐治、かくれんぼ弱いのね」
「お市様が、見付けるのがお上手なんですよ」
「嘘。態と見付かりやすいところに隠れるくせに」
「そんなことは」
少し困ったような顔をして笑う
市は佐治の、そんな笑顔が大好きだった
「あああ、すまない、佐治。すっかりお前に任せっぱなしで」
漸く普請現場に到着した恒興は、先に着いていた佐治に謝った
「いいえ、とんでもありません。奥様のことで奥方様とご相談なされていたのでしょう?こんなに早く来られて、相談事は上手く行きましたか?」
誰にでも見せる、いつもの明るい笑顔で恒興を迎える
「ああ、心配してくれてありがとう。お陰様で胸のつっかえが落ちたよ」
「それは良かった」
「ん?もう縄張りを済ませてくれていたのか?」
周囲を見渡せば、杭に縛られた縄が四方に走っている
「はい。予め範囲は言い付けられておりましたので、これくらいならできるかと。余計でしたでしょうか」
「まさか!いやぁ、助かるよ。佐治がうちの部隊に来てくれてから、池田隊は仕事が早いって奥方様にもよく誉められるんだ。みんな佐治のお陰だな」
「そんなことは」
恒興に誉められ、佐治は笑顔に照れを混ぜる
「よし、後は土台を作って枠を組んで」
と、恒興が佐治と打ち合わせを始めた頃
「ひゃぁ ッ!」
大工道具を一塊に集めようと、荷台を運搬していた雑兵が悲鳴を上げた
「どうした!」
恒興も佐治も、慌てて駆け出した
「お・・・」
降ろそうとした樽の中から、市がぴょこんと顔を出している
「お市様?!」
「手伝おうかと想って」
「 」
市の姿に恒興らは唖然とし、これで二度目の経験をする佐治は、ただ苦笑いを浮かべた
「どうして市は居ちゃいけないの?」
「ここは、戦の準備をするところです。織田のご令嬢であるお市様がおられる場所ではありません」
「だって、佐治の部屋なら居ても良いのに、どうしてここはいけないの?佐治が居るのに、いけないの?」
「お市様・・・」
市は今年で十二になる
一般の武家なら、既に許嫁くらいは決まっていないとおかしい年齢にも達する
それは即ち、女にもその覚悟を持たなくてはならない年齢であった
市は余りにも純粋過ぎる
なんの抵抗もないまま、男の群に飛び込んで来る
そこに佐治が居ると言うだけで安心し、無防備になる
どうして市がこんな行動が取れるのか、佐治にはわからなかった
「兎に角、帰りましょう」
「佐治と一緒に?」
「はい。城まで、お送りします」
「帰ったら、かくれんぼ、できる?」
佐治は少し考えてから応えた
「私は、ここで仕事をせねばなりません。ですので、今日はお市様のお相手はできません」
「 」
市の顔が悲しみに染まり、やがて・・・
「うわぁぁぁぁぁん!」
どうしてか、急に泣きじゃくった
「あああん!ああああん!」
「おっ、お市様・・・ッ!」
泣かれ、佐治も困り慌てる
「なっ、泣かないで下さい・・・!どっ、どうしよう・・・」
「困ったな・・・。無理に連れ帰っても、泣き通されては大方様もご心配なされるだろうし」
恒興も困惑顔で泣き喚く市を眺めた
「ここはしょうがない。佐治は城に戻って 」
「ですが、私はまだ仕事を片付けておりません。中途半端に放ったままでは気懸かりで、明日を迎える気にもなれません」
「う~~~む・・・」
佐治も仕事に熱心で、無責任に放り投げる性格ではないことを知っている恒興は、両者に挟まれ取り付く島も見付からなかった
仕方がないと言うことで、清洲には使いの者を送らせ、市が現場に居ることを伝える
が、これもまた当然だが市弥が直々に市を迎えに来る
ここで市弥と市が一悶着を起こし、丸根は一時、修羅場と化しそうになった
最後は母親の威厳で市は無理矢理連れ帰られたが、残った池田隊は気まずい雰囲気のまま砦普請に取り掛かった
「市。お前は佐治をまだ、局処の小間使いか何かと勘違いしているの?」
城に戻るや否や、市は母から説教を受ける
「そんなの、想っていません」
「だったら何故、佐治を困らせるようなことをするの」
「佐治は、困っているのですか・・・?」
市の目が淋しそうに曇る
「佐治はそんなこと、決して口にはしません。だけどね、市、よく考えて。お前は、織田家の娘なのよ?武家の娘なのよ?」
「わかってます」
「佐治は、どう?武家の男ですか?」
「佐治は将来、侍になります。だから、何れは武家の男にもなります」
「今はどうなの?」
「今は・・・、見習いです」
聡明な市は、詭弁で誤魔化すこともせず、事実を口にした
「でしょう?佐治は武家の男ではないわよね?」
「だから、どうなんですか?一緒に居ちゃいけないんですか?」
遠回しに『身分が違う』と言い出す母に、市は食い下がった
「そうまでは言ってないけど・・・」
市は、どうしてだろう、必死な目をし始めた
そんな娘の様子に市弥も戸惑う
「でもね、お前が佐治の仕事の邪魔をしていると言う自覚は、あるの?ないの?」
「市は佐治の仕事の邪魔なんてしてません・・・ッ!」
心外な事を言われ、市は目を真っ赤にして母に歯向かった
やがて市の帰還の知らせを受けた帰蝶が、局処に戻る
「姉様・・・」
打ち解けた甲斐か、市は帰蝶のことを実の姉と想い始め、ここのところそう呼ぶようになっていた
「ごめんなさい、お仕事中だと言うのに・・・」
「いいえ、それは全然構いません」
帰蝶は膝を落とし、市を見詰めた
「市」
「 はい」
「佐治の仕事場に押し掛けたと言うのは、本当?」
「 」
市はしばらく黙り込み、ゆっくりと頷いた
「佐治は勝三郎の部隊に配属し、それから毎日休みなしで織田のために働いてくれているの。それは、理解している?」
「 はい・・・」
「何れ尾張を攻めるであろう今川の猛攻を防ぐために、付城の普請に佐治は勝三郎と共に丸根に赴任している。それも、わかるわね?」
「 」
市は黙って頷いた
「仕事が終わり、羽を広げたい時に市が居たら、佐治はゆっくり休めるのかしら?」
「市・・・は・・・さちみたいに・・・、佐治に・・・ご飯・・・作ってあげたい・・・んです」
くすん、くすんと、市はすすり泣いた
「市はご飯が作れるの?」
「 」
「お米を磨いだことがあるの?」
「 」
「味噌汁は?魚はどうやって焼くのか、市は知っているの?」
「 」
「何もできない市が、佐治に何をしてあげられるの?」
口調静かに責められ、市は感極まったのか、ぼろぼろと涙を零しながら自分の気持ちを訴えた
「わかりません!市は何ができるのか、わかりません!」
「市」
泣き出す娘に、市弥が狼狽する
「わからないまま、今日も佐治の仕事の邪魔をしたの?」
「邪魔をしようとしたわけではありません!お手伝いしようと想って・・・!」
「何ができるの?土を掘ることができるの?土を運ぶことができるの?」
「でも・・・!でも・・・!」
「市。お前が居ると、佐治がどれだけ気を遣わなくてはならないのか、想像したことはある?それがどれだけ佐治の負担になっているか、考えたことはあるの?」
「 」
「時々、城を抜け出して、佐治の部屋に行っているそうね。母上様が黙認してくださってる気持ちに、いつまで甘えて居るつもり?」
「市は・・・ッ」
市の綺麗な瞳から、ぼろぼろと涙が溢れて零れた
「佐治と、一緒に居たいだけなんです・・・。それも、駄目なんですか・・・?一緒に居ちゃ、いけないんですか・・・?市が、武家の娘だから、佐治に迷惑を掛けるんですか・・・?」
「市・・・・・・・・」
ふと、想い出す
「どうして市は、武家に生まれたんですか・・・」
「 」
十一年前の自分を
武家に、生まれたくて、生まれたんじゃない
お清と手を繋げるのなら、私は平民になったって良い
「お方様・・・」
泣きじゃくる市はなつが面倒見た
市弥はおろおろし、後を着いて帰蝶の局処私室に入る
「市は、自分でも気付いていないようですね」
「何・・・を?」
「市は、佐治に恋をしている」
「恋 」
市弥の目が丸くなった
「え・・・?市が佐治に?」
「はい」
「どうして・・・」
「それは、市がわかっていないのだから、私にもわかりません」
帰蝶は苦笑いして応えた
「ただ、市は佐治のためなら、平気で平民に降りるでしょう」
「ええ?」
帰蝶の言葉に驚く
「何不自由ない局処の暮らしより、佐治と共に過ごせる生活を、あの子ならなんの躊躇いもなく選ぶでしょう。あの子の目が、そう言っていました」
「お方様・・・」
できることなら、自分も
それを選びたかった時期もあった
「 佐治に、誰か娘を宛がいます」
市のことを想う市弥は、武家の母として至極当然な言葉を口にする
「そうですね」
織田の惣領として生きる帰蝶は、市の肩を持つわけにはいかなかった
夏が過ぎ、其々の砦もぼちぼちと完成し始めた
最初に恒興が担当する丸根砦が出来上がり、城に戻って来る
一ヶ月余り佐治に逢えなかった市は、喜び勇んで出迎えた
同じ日、那古野から林秀貞を伴った信光が清洲を訪問する
「砦ができれば、今川も黙ってはおれんだろうな」
「押し寄せられても、困るのですが」
互いに苦笑いを浮かべ合う二人に、秀貞はポカンとした顔をする
「今川が相手では、わしもひとりで対応できるかどうかわからんのでな、稲葉地の叔父上に援軍を頼んだ」
「玄蕃允様にも?」
「一人より、二人、じゃろ?」
「ありがとうございます」
信光の助太刀に、帰蝶は丁寧に頭を下げた
「林」
「 は、はい」
男物の小袖も様になっている帰蝶に声を掛けられ、慌てて顔を向けた
「想わざるとも、お前が読んだとおりだ」
「奥方様・・・」
「あの時、吉法師様は既に亡くなられた後だった」
「はい・・・」
「わしがお前を連れて来たのは、もう蟠りを持っていられる余裕はないと言うことだ、林。状況を理解しろ」
信光に声掛けられ、秀貞は軽く会釈した
「織田を守るため、お前も尽力する時が来た。織田の惣領は吉法師ではなくなったが、上総介は吉法師から直接遺言を受けた」
「遺言・・・」
帰蝶が応える
「尾張を守ること、織田を守ること、民を守ること」
「奥方様・・・」
「お前の力が必要だ」
「 」
素直に乞われ、秀貞も悩みながら平伏した
この奥方は、武勇優れた自分の弟を討ち落とし、信長亡き後の織田を纏め上げ、尾張平定まで後一歩と言うところまで漕ぎ付けている
女の身でありながら、信長でさえできなかったことをやってのけた
この方なら、あるいは
心の中でそう、理想論が働いたのかも知れない
意見の相違は今も変わらないだろう
だが、尾張から天下に立つことは、一致しているかも知れない
そう想った
「 しばしの間でも構いません。奥方様と、腹を割って話がしとうございます」
静かに頭を垂れる
帰蝶は頷き、信光の顔を見る
信光も無言の言葉を受け、軽く頷き龍之介に案内させ部屋を出た
背中で襖が閉まるのを、秀貞は顔を上げて帰蝶を見詰めた
「 殿・・・の、小袖、ですね」
「懐かしい?」
「はい。それは、殿が十八の時に着ていた物です」
「よく覚えているのね」
「殿は派手に見せながら、その実地味なものがお好きでした。小袖も派手な柄ではなく、飾り付けて派手に見せ掛けていただけ。飾りを取ってしまえば、ただの青年に成る」
「吉法師様は、臨機応変なお方だった。その場その場で雰囲気を一瞬で変えられる、素晴らしい人だった」
「奥方様・・・」
「お前は今も、武家至上だろう。それは理解できる。武家に生まれたのだものな」
「 」
応えられず、秀貞は黙った
「私は、それでも良いと想っている」
「え?」
「吉法師様の遺した夢を現実にできるのなら、目を瞑ろう。一人でも優秀な人材が欲しい。今川を相手にするのなら、尚更」
「奥方様・・・」
「私は、尾張を吉法師様だと想い、守ろうとしていた。だけど、それだけの力は足りていないのだと感じている。今の私には、国人衆を纏めるにはまだ力不足だ。現に岩倉を落しても、東尾張は反骨の気が強い。末森騒動が、まだ尾を引いているのか」
「 」
「だが、私は間違ったことをしたとは想っていない。家督争いを終決させなくては、尾張はいつまで経っても纏まらない」
「だから・・・?」
帰蝶が信勝を殺した理由は、信光から聞かされている
それでも、帰蝶自身の口から聞きたかった
今はすっかり男のような生活に身を浸し、信長になりきろうとするこの健気な未亡人の口から、女らしい言葉が聞きたかった
「夫の仇、だったから」
「 」
帰蝶の答えに、秀貞は黙って頭を下げた
帰蝶、秀貞其々の考え方は一致することはないが、それでも帰蝶は秀貞の力を必要とし、秀貞は尾張を守るために帰蝶の力を必要とした
要するに、利害関係だけが一致した、と言うことか
「奥方様!」
雑兵らに混じって庭に出ていた恒興が、帰蝶の姿を見付け駆け寄る
「砦が完成したそうだな。お前の部隊が一番乗りだ」
「いえ、そんな。佐治が随分と働いてくれたお陰で 。林殿?!」
帰蝶の側に立つ秀貞の姿に、恒興は目を丸くした
そうだろう
信長に謀叛を起こした人間なのだから、普通ならば清洲に入れる身分ではない
「あの・・・ッ」
「勝三郎か。あの洟垂れ小僧が、こんなに大きくなったのか。私も年を感じるわけだ」
まだ中年期であろう秀貞が笑うのを、恒興はぽかんと見ていた
「勝三郎」
「あ・・・ッ、はいっ」
「過去は、過去。未来は、未来、だ」
「奥方様・・・」
「今川を相手にすると決めたのだから、形振り構っていられないだろう?」
「でも・・・」
「察してくれ」
「 」
斎藤を相手に互角に戦えたのは、それが古巣であり、兄の考えが読めたからとも言えるだろう
戦力補強をせねば、今川ともなれば今の織田では心許ない
負ければ全て終わりの世界で、帰蝶はたった一人立ち向かわなくてはならないのだから、過去に拘って大事な戦局を逃したくないと言う気持ちも、理解できた
恒興は、帰蝶が『信長の死の原因』の一端でもある秀貞を、迎え入れなくてはならない状況であることを理解し、大人しく引き下がった
庭では、佐治の側でちょこんと座っている市の姿が目に見えた
つらいだろうが、それも決断せねばならないことだった
「 え・・・?お見合い、ですか?」
それから数日後、なつの侍女の妹で、丁度釣り合いの取れる年齢の娘が居ると知らされ、それを佐治に伝えた
「お前もこれから武士になろうかと言う時期に差し掛かっている。家庭を持つと言うことは、責任を背負うこと、即ち、心身ともに大人になると言うことだ」
「ですが、私にはまだ早いですよ」
照れ臭いのか、佐治は苦笑いする
「雑兵とて、家庭を持つのに遅い早いはない。それに、勝三郎もお前のことを随分と買っているからな、今川戦でもお前には存分に戦ってもらいたい。そのための所帯だ」
「はぁ・・・」
「相手はなつの侍女の妹で、今年十五になるそうだ」
「そうですか」
「一度、逢ってみないか」
「そうですね」
佐治も満更ではないのか、渋々と言った感じではあるが承諾した
これで佐治が所帯を持てば、市も佐治のことは諦めるだろう
そして家柄に相応しい相手に大人しく嫁いでくれれば、とも想う
佐治の見合いは次の日に行なうことが決まった
それは当然、誰に聞かなくとも市の耳にも入る
佐治も中々の美少年振りで、それは幼少の頃那古野城へ使いに来た時から立証されていた
局処でも本丸でも、佐治の見合いにガッカリする女が続出した
独身、既婚、出戻り関係なく
そんな浮付いた空気の中、珍しく市が本丸の帰蝶の部屋を訪れた
「姉様」
「どうした、市」
捺印する書類の束に、没頭していた帰蝶が振り返る
「佐治が、お見合いをするって、本当ですか?」
「ああ、聞いたのか」
「どうして?」
「佐治も今年で十八になる。そろそろ妻を娶っても不思議ではないだろう?」
「だってッ」
「市」
文机から離れ、帰蝶は市に体を向けた
「身分がどうのとは、私も言いたくない。お前達には自由に恋愛を楽しんでもらいたいとも、想っている」
「だったら、どうして・・・!」
「市。お前は、織田家正室の娘だ。この意味がわかるか?」
「市は、政略の道具。いつ、どこの豪族なり大名なり、嫁ぐ先は自分では選べない」
「わかっているか」
「でも!そんな世界を壊したいと言っていたのは、姉様でしょう?!それが兄様との約束だったのでしょう?!」
「そうだ。だがな、市。それは明日明後日成り立つ世界の話でもない。何年、何十年掛かるかわからない」
「それでも、市は待てます!」
「市・・・」
「市は、佐治と居たいの!それを邪魔するなら、姉様だって許さない!」
「市!」
市は部屋を駆け出し、走り去ってしまった
「市!」
帰蝶は慌てて市の後を追った
市
お前は知っているの?
それは、お前が佐治を愛しているからなのよ
愛しているから、一緒に居たいと願うのよ
昼下がりの清洲城
市の走る慌しい音と、帰蝶の追い駆ける忙しない音が鳴り響く
「市!」
子供と言うのは小回りが利き、脚の速いはずの帰蝶が中々追い着かない
とうとう局処までやって来て、庭で佐治を見付けた市は裸足のまま縁側を飛び降り、佐治の腰にしがみ付いた
「お市様?!」
突然のことに、佐治も、一緒に居た恒興も驚く
「奥方様・・・」
はあはあと肩で息を切る帰蝶に、二人は再び驚いた
「どうなさったんですか、お二方」
恒興が声を掛けるのと同時に、市は叫んだ
「佐治、お見合いなんかしちゃ駄目!」
「え?」
「市」
「嫌!嫌!佐治がお嫁さんをもらうのなんて、市が許さない!」
「お市様・・・」
「佐治は市のものなの!誰にも微笑み掛けて欲しくないの!」
「 ッ」
市の言葉に、帰蝶は胸を抉られた
自分も、そう願った相手が居た
「佐治は明日も明後日も、市とかくれんぼをするの!」
少女の、ささやかな願いだったのか
いや、自分の想いを上手く表現できない少女の、ささやかな抵抗だったのか
騒動に気付き、市弥も庭に出て来た
「佐治を見付けるのは市なの!」
「市?」
この光景に、市弥は目を丸くして近寄った
「誰にも佐治を見付けさせない!」
「市・・・・・・」
真っ直ぐに、恋した相手に気持ちをぶつけられる市を、帰蝶は羨ましい、と想った
「明日も明後日も、ずっとずっと、佐治と一緒に居たいの! 居たいの・・・ッ」
佐治の腰にしがみ付いたまま、市は泣き出した
「お市様・・・」
佐治は困った顔をして微笑み、頭を屈ませる
「休憩が取れましたら、何をして遊びましょうか。かくれんぼが良いですか?それとも、高鬼ですか?」
いつもと同じ口調で語り掛ける
「嫌・・・」
泣きじゃくりながら、市は呟く
「佐治は態と負けるから、面白くない・・・」
それでも、佐治と遊びたいと言う気持ちはなくならない
それは、大好きだから
だから、一緒に居たい
単純で、だけど純粋な気持ちが市をそうさせる
それまでは、さちが遊び相手だった
そのさちが利治の世話で長屋に行くようになってからは、市の相手は佐治がしていた
どうしてか、市も佐治が相手なら大人しくなった
いつの間にか、恋していた
市にも気付かない内に、佐治に対しての恋心が生まれていた
「市・・・」
「義母上様」
「 」
市弥は黙って帰蝶に顔を向けた
「市の気持ちは、本物です」
「え・・・?」
「誰にも消してしまうことのできない、本物の想いです」
「それは・・・」
「市の、好きにさせてあげませんか」
「 」
困った顔をして、市弥はずっと帰蝶の顔を見た
そうね、とも、駄目よ、とも言えない顔で
「それにしても、驚いたわね」
いつもの風景
さちが通うようになって、一年が過ぎていた
それが当たり前になり、利治は自分で食事の支度をすることもなくなった
今も利治を心配しているなつも、さちに「行くな」とは言えなくなっていた
さちの手料理のお陰か、利治の体付きもすっかり大人の様相を模している
二人で囲む食事の風景も様になっていた
「お市様だろ?」
利治の口調も、すっかり男らしくなっていた
自分を『私』とは言わず、慶次郎のように『俺』と呼んでいた
少し荒々しくも、少年ではなくなった利治に頼もしさが覗える
「私、その場に居合わせなかったんだけど」
「ああ、俺も」
「配属、変わったんだってね」
「ああ、そうそう。やっと黒母衣の見習いから解放されたよ」
「それで、何処に配属?」
利治は笑顔で応えた
「弥三郎さんの部隊」
「うわぁ、最前線部隊だ」
「いつでも死ねる」
それから互いに苦笑いした
「お市様、花嫁修業するんだって」
「え?じゃぁ本当に佐治に嫁ぐのか?」
「それは、どうかな・・・。話に加わってないから何とも言えないけど、多分、内縁かなぁ」
「そうか」
「それでも、お市様嬉しそうだった」
「夫婦って認められなくてもか?」
「形式なんて多分、どうでも良いのよ、お市様にとっては。大事なのは、佐治と一緒に居られるか居られないかで、それ以外は関係ないんじゃないのかな」
「でも、そう言うのって淋しくないのか?世間に女房だって認められないんだろ?」
「一緒に居られることが大切だから、お互いがどう想うのかが肝心、てことじゃないの?でも、羨ましいと想うよ」
「え?」
「だって、大好きな人と一緒に居られるのよ?それって、女にとっては一番の幸せじゃないのかな」
「 お前は」
小さな声で呟く
目の前のさちに呟く
「え?」
「お前は、そう言う相手、居ないのか」
「居たらここに居ないでしょ」
そう、再び苦笑いする
「それで、お前は良いのか?」
「うーん」
食べ終わり、茶碗を膳の上に載せ、土間に持って行きながら応える
「新五さんのご飯作ってるのも楽しいし、局処の仕事も忙しいし、探してる暇ないってのが、正直なとこかなぁ」
「そうか」
胸が少しだけ、チクリと痛む
期待していたのかも知れない
さちの口から出る言葉を
秋になり、台所で料理の修業を積んだ市が、佐治の居る長屋へと移った
市弥も帰蝶も、複雑な想いで見送る
織田の令嬢として育った市が、一般家庭の主婦の真似事ができるのかどうか聊か心配ではあるし、内縁であっても夫婦としての生活を送ることを容認してしまったのだから、その先の将来のことも心配だった
武家の娘が庶民の男に嫁ぐのは、前代未聞である
それは織田家の威厳を失墜させる事態を招きかねない、非常に危険な行為だった
長屋で市を知る者は、利家か、利治、その世話をしているさちしか居ない
この三人が口を抓むんで居れば、問題は起きないだろうと確信するも、やはり佐治には早く一人前になって、可成のように屋敷を構えて欲しいとも願ってしまう
今の織田は大盤振る舞いができるほど、土台のしっかりした家ではないのだから
それでもさちから、今日も睦まじく暮らしていると知らされ、ほっとする部分も確かにあった
冬が来て、静かな気配に支配される
鳴海城、大高城に付けた砦も、今川警戒を怠らない
それでも、動く山は止められなかった
年が明け、春もすっかり満喫し、信長の五回忌も無事済ませ、市が女らしくなったと聞かされ、帰蝶も市弥も胸を撫で下ろす
そんな頃
永禄三年、五月十二日
駿府の大大名・今川義元が出撃したと、梁田政綱が知らせて来た
「 」
表座敷は静まり返っていた
誰も口を開かない
籠城か
迎撃か
籠城に平城は向いていない
それは前年の岩倉を落としたことで帰蝶自身が証明した
迎撃するとなれば、丹下などの砦に各部隊を配置すれば良い
だけど、人数が足りなかった
帰蝶はまだ、尾張の国人衆を纏め上げてはいなかった
今川の軍勢に押され、この清洲そのものが戦場となれば、守るものが多い帰蝶には、全てを守り切るなど不可能だった
清洲に到来される前に、今川を押し止めなくてはならない
その策がなかった
土塁程度で抑えられるほど、今川の起こす津波は低くはないのだから
「 そろそろ、梅雨・・・か」
ぽつり、と、帰蝶が呟いた
「こんな時期に来なくても良いものを。今川も、酔狂だな」
「奥方様・・・」
「雲が薄い」
「まだ雨は来ません」
道空が応える
「そう。じゃあ、雨乞いでもするかな」
と、帰蝶は立ち上がった
「どちらへ?」
声を掛ける秀隆に、帰蝶は振り返りながら応えた
「何も浮かばない。だから、局処で昼寝して来る」
「 」
姉の様子を弥三郎から聞き、利治は真意を知った
「姉上は、戦う気だ」
「え?」
利治の言葉に、さちは驚いた
「でも、籠城か迎撃かも決まってないのに?」
「それでも姉上は、戦うよ。大切なものを守るために」
「大切なもの・・・」
大切なもの
それは、姉であり
手の届く場所に、いつも居てくれるさちでもあり
これから夕餉を並べようかと言う雰囲気だったのが一転し、深刻なほど重苦しい空気が流れる
そんな中で利治は、想い溢れる顔をして、さちの手首を掴み引き寄せた
「しっ、新五さん?!」
互いに腰を下ろしていた状態だったので、さちは体を崩しながら利治の胸に収まってしまい、逃げるに逃げられない状態になる
驚きながらも、さちは利治の腕の中でじっとした
前にも、そうあった
戦前、気持ちが昂ったのか利治は、自分を抱き締めて心を落ち着かせていた
それで新五の役に立つのなら、と、さちは大人しくしていた
だが
「 ッ?!」
何を想ったか、利治が口唇を重ねて来た
驚いたさちは、近過ぎて見えない利治に目を見開く
抱き締められる背中が痛い
重なる口唇が熱い
利治の行動に、さちの頭がぼんやりとぼやけた
長い口付けに漸く口唇を離し、利治は尚もさちを抱き締め続けた
今川相手に、生き残れるのか
そんな不安が利治をそうさせた
「さち・・・」
胸の中に抱き締めるさちに、囁く
「 好きだ」
「え・・・?」
利治の言葉が、直ぐには理解できない
「好きだ」
「 」
素直に受け止めて良いのか
それとも、身分が違うと拒めば良いのか、さちにはわからなかった
市のように、身分を超えて好きな人の胸に飛び込むのは、きっと幸せなことだろう
だけど利治は
美濃を落とした後の、斎藤の跡取りになる人物だった
『代わり』の居ない人物だった
自分では、釣り合いが取れないことは、さち自身よくわかっていた
だけど、さちも気持ちが抑えられなくなっていた
楽しいのは、好きな人の食事の用意ができるから
一緒に居られるから
だから、城の仕事が終わって、利治の部屋に向う時が一番楽しかった
利治の顔を見るのが嬉しかった
毎日がワクワクしていた
そんな想いが溢れて、抑え切れなくなっていた
利治にそっと寝かされ、利治の顔が真上に来ても、さちは逃げなかった
自分も、そうしたかったから
今川が尾張を目指して侵攻しているのを聞き、なつは静かに帰蝶と対峙した
止めてみようか
そう、莫迦な考えが浮かんだ
無駄だとわかっていても
それでも、帰蝶には無茶をして欲しくなかった
言っても聞かない相手だとわかっていても
「 奥方様」
帰蝶の目は、覚悟を決めた目だった
「出産したての侍女が居て、助かりましたね」
「ほんと。もし見付からなかったら、一般公募しなきゃならないとこだったわね」
穏やかな春が過ぎ、梅雨のじめじめした時期が到来し、人もみな、屋根の下で身を固める
徳子の乳母は、市弥の侍女の中で出産のため産休を取っていた者を慌てて呼び戻し、給料を弾むと言う約束で登城してもらった
侍女は大勢居ると言っても、年がら年中出産を迎えた女ばかりなわけではない
結婚をすればさっさと辞めてしまう者の方が多く、出産をしても残ってくれると言う侍女の方が圧倒的に少なかった
今回徳子の乳母を請け負ってくれた侍女は、市弥が特に気に入ってた人材でもあったため、是非残って欲しいと言う市弥の要望に応えてくれただけであり、もしもこの侍女が辞めてしまっていたら、市弥の言うように一般公募で探さなければならなかったのは事実だった
不始末をしでかした家臣の子供とは言え、城主が女であればこれ以上子供が増える希望もない市弥にとって、生まれたての赤ん坊を見ているのは心が安らぐのと同時に、信長を産んだ時のことを想い出し、ほんの少し胸の奥の古傷が疼いた
信長を産んだのは、十二の時だった
輿入れの際、夫になる信秀や、その家臣らの集まる表座敷で市弥は、宣言した
「私が産んだ以外の子を跡取りにするのなら、私はここで自害します」
それは、なんの頼りもない少女が織田で生きて行くための、精一杯の虚勢だった
その甲斐あって、信秀は市弥の条件を快く飲んだ
だが、実際に信長を産んだ市弥は数ヶ月で産んだ我が子と引き離された
「吉法師!吉法師ッ!」
追い縋る市弥に、夫は言った
「お前が望んだことだ。吉法師は織田の跡取りとして、母の過保護で育てられないよう、しっかりとした教育を受けさせる」
「
夫に縋る手が緩み、信秀は腕の中の吉法師と共に本丸に入った
「吉法師・・・」
どうして自分は、あんなことを言ってしまったのだろう
「吉法師・・・ッ!」
できもしない約束を、口にしてしまったのだろう
「
孫でもない、赤の他人の子である徳子を抱き、あやす市弥の表情は、なつでさえ見たことがないほど穏やかなものだった
「大方様は本当に、子供好きなんですね」
「あら、なぁに?今頃知ったの?」
「だってわたくし、大方様とは掴み合い寸前の喧嘩までした仲ですよ?」
「そう言えば、そんなこともあったかしら」
「若気の至り、ですね。正しく」
「そうね。でも、今考えれば私も、なつには随分盾突いたわ」
「あら、そんなこと・・・」
打ち解ける市弥に、なつは少し頬を染める
「だって、冷静に考えても、年上であるなつに歯向かうなんて、普通の家じゃ有り得ないわよね。例え正室、側室の関係でも」
「
照れて染めた頬が、もったいないような気がするなつであった
「年功序列って、やっぱり大切なのよね」
「
穏やかにはなったが、中身はやはり攻撃的なままだな、と、なつは顔を逸らして庭を見る
梅雨が明けるまであと少し、と言うほどに、空が明るいものになっていた
「鳴海城と大高城に付城を?」
表座敷で告げる帰蝶の言葉に、岩倉から戻ったばかりの勝家が聞き返す
「山口は今も今川と通じている。こちらの隙あらば、いつでも今川を招き入れるだろう」
「それは確かに殿も懸念され、鳴海を攻撃したことありますが」
と、秀隆が言う
「私がいつまでも斎藤に拘っていたら、それを隙と考えるだろうな」
「今川の流出を抑えるため?」
帰蝶は頷きながら各自に命令を下す
「久助はこのまま伊勢への警戒を怠るな」
「はっ」
「巴も、必要ならば何度でも伊勢と尾張を往復すると言っている」
「承知しました」
「鳴海城に対して丹下、善照寺、扇川付近に砦を築く。丹下には権」
「はっ」
「善照寺には右衛門」
「はっ」
通称を右衛門尉と改めた信盛が応えた
「扇川には弥三郎」
「はっ」
「其々普請に当ってくれ」
「はっ」
「大高城に対して鷲津、丸根に其々砦を築く。鷲津には五郎左」
「はっ」
「丸根には勝三郎」
「はっ」
「三左」
「はい」
「鷲津の砦が完成したら、孫三郎の叔父上に知らせるように」
「孫三郎様に?」
「相手は今川だ。斎藤なら私一人でもなんとか対処できる。だが、私はそれまで今川を相手に戦ったことはない。だから、叔父上の助言を請いたい」
「承知しました。完成次第、すぐさまお知らせします」
「梁田が今川の情報を集めてくれるそうだ。三左」
「はっ」
「その梁田と提携し、清洲警戒に当ってくれ」
「承知しました」
「え?赴任?」
夫の弥三郎が砦普請のために鳴海を越えると聞かされ、菊子は顔を曇らせた
時期が悪く、義兄の浮気騒動もまだ静まらない内の赴任である
夫の身の心配よりも、下の心配が優先に立った
「私が居ないことを図って」
「あのなぁ」
昼の日中ではあるが、人気のない裏庭の片隅で妻に留守を頼もうと二人きりであったのが幸いしたか、弥三郎は臆面もなく菊子を抱き寄せ、口付けた
舌を菊子の口の中に差し込み、妻の悶えた甘い声が高くなる寸前に離す
「俺には、お前だけなの」
「そう言って、私の知らないところで浮気でもしてるんじゃないんですか?」
夫の行動に顔を赤くして照れながらも、手痛い言葉は忘れない
「あ・・・、あのな。俺はお前一筋だってのに、何だ、その疑いに満ちた眼差しは」
「だって」
が、現に娘の瑞希が生まれるまでは、軽く浮気などを楽しんでいた過去が確かにあるため、余り強く否定もできない
「殿方は、女を換えると言うことも変わります。私は旦那様を信じてますが、それでも不安です」
「ああ・・・」
真面目を絵に描いたような兄ですら、浮気をして今、その愛人の家に時々は足を通わせている
恐らくは妻への呵責から逃げているのだろうか
「お義兄様との間にできた子供だけ、なら我慢もできるでしょうが、前夫様との間にできた子まで清洲に来ているのでしょう?」
「
上手く応えられず、弥三郎は頷くだけにした
「その三人の面倒を見ていれば、お能様だって心が壊れます」
徳子が清洲の局処で育てられているのだから、お能の育児放棄は有名だった
勿論、殆どがお能へ同情を寄せ、お七には批難が集められている
「殿方は、何故浮気などをするのでしょうか」
菊子の疑問は、至極当然だった
「さぁな。男其々考え方が違う。権さんのように硬派な生き方ができる男も居れば、犬千代みたいにだらしない男も居る。何かから逃げたくて、別の女に走る男も居るし、生きてる実感を味わいたくて女を抱く男も居る」
「女は所詮、殿方の性の捌け口にしかならないのでしょうか?」
「どうだろうな。女の構え方じゃないのか?」
「それって、浮気をされる女が悪いってことですか?」
「そうじゃねぇよ」
弥三郎は苦笑いした
「殿方はずるいです」
「そんな男のずるさを許容できる女と、できない女とでは、扱いも変わるんじゃねーのかな」
菊子が睨むのを、弥三郎はぎゅっと抱き締め、頭を撫でてあやした
「お前の言うとおり、男ってずるい生きもんなんだよ。でもな、結局は女房を逃げ道にしちまう。その女房が逃げ道じゃなくなったら、男は何処に逃げたら良いんだ」
「旦那様は、逃げ道はありますか・・・?」
「あるよ」
「それは
「お前に決まってんだろ」
「
弥三郎の言葉に、菊子は胸の中から夫を見上げた
「今川を撃退して、それで暇ができたら、二番目、考えようか」
囁くように菊子を口説く
「
菊子は嬉しそうに頬を染め、夫の胸に凭れた
「奥方様」
私室に戻ろうとした帰蝶を、恒興が呼び止めた
「どうした」
「はい、私用で大変申し訳ないのですが」
「立て込む話なら、廊下ではなんだからな、部屋でしようか」
「恐れ入ります」
龍之介が襖を開け、先に帰蝶が入り、その次に恒興が入り、龍之介が閉める
「佐治はどうだ。役に立っているか」
「はい。佐治は足腰が強くて、脚も速いものですから使いなどにも重宝させていただいております。砦普請にも先に向かわせました」
「それを聞いて安心した」
「覚えも早いですし、佐治は元々の素質でもあったのでしょうか。勉強熱心で、いつも関心させられます」
「私も、佐治の熱心さには頭が下がる。それで、お前の私用とは?」
「あ、はい。実は、妻の千郷のことなんですが」
「千郷殿が、どうかしたか?」
「特にと言うわけではないのですが、千郷も初潮を迎えまして」
「そうか、それはめでたい」
帰蝶の顔が喜びで明るくなった
「ありがとうございます。それで、兆候と言うのはまだないのですが、私が留守の間、千郷を預かってはいただけないかと」
「兆候と言うと、懐妊か?」
「はい・・・」
少し照れたように、恒興の顔が赤くなる
「夫婦の契りは既に結んだか?」
「あ・・・、あの・・・」
恥しさの余り、恒興は全身を赤らめ身を丸めた
「勝三郎。私はお前を冷やかしているのではない。真面目に応えろ」
「は・・・、はい・・・。あの・・・、千郷の初潮が収まった頃に、その・・・、初物を頂きました・・・」
「それはよかった」
「奥方様・・・」
「私も、そうだった。吉法師様に嫁いだ当初、月の物が来ていなくて、契りは随分経ってからだった。契るのと契らないのとでは、男も家を安心して留守にはできないからな、お前も今まで内心心許なかっただろう」
「いえ・・・」
帰蝶の労わりの言葉に、恒興の頬も優しく緩む
「わかった。千郷殿はお前が留守の間、こちらで預かろう。代わりに」
「はい」
「屋敷を空にしては物騒だからな、お絹は連れて来るな。あれは中々頼もしい女だから、しっかり留守を守ってくれるだろう」
「はい、そのようにさせて頂きます」
恒興が部屋を出た後、後を追うように今度は市弥が部屋を訪れる
龍之介は「忙しいなぁ」と内心溜息を吐いた
「どうかなさいましたか、義母上様」
「ごめんなさい、私事なのだけど」
畏まる市弥に、帰蝶は微笑ましさを感じる
「構いません。他ならぬ義母上様のお話なのですから、遠慮なさらず仰ってください」
「実は、市のことで・・・」
「市がどうかしましたか?」
この頃自分の真似をやめて、髪も伸ばし始めている市にまた、何か変わったことでも起きたのだろうかと、俄に心配になって来る
「ここのところ、時々城を抜け出すことがあるの」
「城を?」
その辺りは、さすが吉法師様の妹、と、別の意味で感心する
「行き先はわかっているの。だから私も安心しているのだけど」
「行き先とは、どこでしょうか」
市弥も随分変わったな、と心のどこかで唸る
以前の市弥だったなら、城を引っ繰り返してまで大騒ぎし、市を探させただろうに
「佐治の長屋なのよ」
「佐治の?」
この言葉に、さすがの帰蝶も驚く
「ほら、鈴鹿遠征前に長屋に越したでしょう?」
「ええ」
「その時、市ったら私に黙って佐治の荷物に紛れ込んで、長屋に行ったのよ」
「そんなことがあったんですか」
「佐治の手伝いをしたいと言うから、私もてっきり荷物を荷駄車に載せるだけかと想って承知したのだけど、まさか荷物に紛れて外に出るだなんて想像もしてなくて・・・」
「そうでしょうね」
普通、武家の娘が手伝うと言ったら、市弥の言うように住んでいた部屋からの荷積みくらいしか想い浮かばない
「直ぐにさちが恵那を使いに知らせてくれたので、こちらでも騒動にはならず、お方様にも報告するまでもないと黙っていたのだけど、それに味を占めたのか、時々佐治の部屋に行ってるの」
「それで義母上様は、どうなされたいのですか?」
大人しい市にしては、男の部屋に転がり込むなど随分と大胆なことをするようになったものだと、これもまた感心してしまう
「佐治が有能なのは、私も知っています。だけど、それとこれとは別問題。佐治は庶民。まだ一人前の武士にもなっていないわ」
「はい、その通りです」
「だけど、市は武家の娘。身分を差別に使うのは、普段のあなたの理念を考えても口にしてはいけないのでしょうが・・・」
「いいえ、義母上様。それとこれとは別です。義母上様のお考えも聞きとうございますので、遠慮なさらず仰ってください」
躊躇い勝ちに話す市弥に、帰蝶は発言を促した
「何れ政略の道具にもなり得る立場であることを弁えているのに、それでも佐治の部屋に行くと言うのは・・・」
「
市も年頃の娘になりつつある
信長が生きていたらさっさと政略として他家に嫁いでいただろうに、今は自分が織田を仕切っているため、どの娘も中々嫁ぎ先が見付からない
長女の犬ですら、どこにやろうかと考えている最中だ
多忙を極める帰蝶には、市のことまで考えていられる余裕はなかった
「身分が違うので、市にはそれ相応の相手を探すよう仰いましたか?」
「言おうかどうしようか、悩んでいるの。それで市を傷付けたりはしないか、と心配で」
「ですが、もしも万が一間違いでもあれば」
「
市弥の顔が青褪める
「いえ、佐治に限って主家の娘に手を出すようなことはしないでしょうが、佐治ももう大人です」
「そうね・・・」
慌てて慰めるも、市弥も不安を拭い切れない顔付きのまま、帰蝶の話を聞いた
「佐治が妻を娶ってくれれば話は早いのでしょうが、その佐治が今は仕事に夢中で女に走る暇がないそうで」
「そう・・・」
「佐治に誰か紹介していただけませんか」
「佐治に?」
「私に付いている侍女はみな亭主持ちですので、義母上様の侍女で独身の年頃の娘でも」
「私も・・・。心当たりは少ないけれど、なつにも相談して、局処の誰か良い娘でも探してもらいます」
「そうですね。私も本丸の侍女を当ってみます」
「ごめんなさいね。あなたも忙しいのに」
「いいえ。今まで放っていたのがいけなかったのですから、気になさらないで下さい」
相談して解決したのかしなかったのか、どうにもあやふやな気持ちのまま部屋を出る市弥を見送る帰蝶もまた、これで良かったのかどうかわからない顔をする
「武家の娘、てのは、晩熟(おくて)なのかしらね」
義理の母である市弥に対し、男言葉は意識して使わなかった帰蝶は、そのままの口調で龍之介に話し掛けた
「奥方様は」
「私は
嫁入り前に、夫とは別の男と平気で口付けていた方だ
躰はまだ未熟だったが、やることはやっていた
そんな自分が晩熟なのかどうか、言えるはずがない
「どうかな。
「奥方様・・・」
苦笑いする帰蝶に、龍之介は軽く頭を下げた
「武家が政略結婚に娘を使うのは当たり前。でも、うちでは余りそう言う仕来りは大事にしたくないから放っておいたけど、放っておいたら置いたで問題も起きるのね」
「難しいですね」
「本当。
「はい?」
話を振られ、龍之介は一瞬ポカンとする
「お前だって、元服を終えた身なのだから、そろそろ好いた女の一人くらいは居るでしょう?」
「さぁ、どうでしょう」
帰蝶の質問に、龍之介は微笑んで躱す
机に向かい直す帰蝶を見守る龍之介の目は、慈愛に満ちた優しい色をしていた
今の私にとって一番大切なのは、あなただから
だから、あなたの側に居られることが、私の幸せなのです
じゃぁ、私がお相手をしましょうか
何をして遊びますか?
かくれんぼが良いですか?
では、私が先に隠れますね
「もういいかい」
「もういいよ」
佐治の声がして、市は瞑っていた目を開いた
眩しい光に目が焼かれそうで、少し目蓋を落す
声のした方に顔を向け、しばらくきょろきょろすると、大きな木の陰に佐治の小袖の端が見えた
いつも同じ小袖で、それは恐ろしいほどボロボロで、だけど佐治は里を出て来た時に着ていたものだからと、大事にしていた
その、見慣れた小袖の端が見え、市は佐治の居るところへとことこと歩いて覗き込んだ
「佐治、みいつけた」
「あは、見付かってしまいました」
佐治とは十歳の時に出会った
その時点で佐治はもう、元服を迎える年になっていた
自分とは遊びも釣り合わないだろうに、それでも嫌な顔一つせず相手をしてくれた
「佐治、かくれんぼ弱いのね」
「お市様が、見付けるのがお上手なんですよ」
「嘘。態と見付かりやすいところに隠れるくせに」
「そんなことは」
少し困ったような顔をして笑う
市は佐治の、そんな笑顔が大好きだった
「あああ、すまない、佐治。すっかりお前に任せっぱなしで」
漸く普請現場に到着した恒興は、先に着いていた佐治に謝った
「いいえ、とんでもありません。奥様のことで奥方様とご相談なされていたのでしょう?こんなに早く来られて、相談事は上手く行きましたか?」
誰にでも見せる、いつもの明るい笑顔で恒興を迎える
「ああ、心配してくれてありがとう。お陰様で胸のつっかえが落ちたよ」
「それは良かった」
「ん?もう縄張りを済ませてくれていたのか?」
周囲を見渡せば、杭に縛られた縄が四方に走っている
「はい。予め範囲は言い付けられておりましたので、これくらいならできるかと。余計でしたでしょうか」
「まさか!いやぁ、助かるよ。佐治がうちの部隊に来てくれてから、池田隊は仕事が早いって奥方様にもよく誉められるんだ。みんな佐治のお陰だな」
「そんなことは」
恒興に誉められ、佐治は笑顔に照れを混ぜる
「よし、後は土台を作って枠を組んで」
と、恒興が佐治と打ち合わせを始めた頃
「ひゃぁ
大工道具を一塊に集めようと、荷台を運搬していた雑兵が悲鳴を上げた
「どうした!」
恒興も佐治も、慌てて駆け出した
「お・・・」
降ろそうとした樽の中から、市がぴょこんと顔を出している
「お市様?!」
「手伝おうかと想って」
「
市の姿に恒興らは唖然とし、これで二度目の経験をする佐治は、ただ苦笑いを浮かべた
「どうして市は居ちゃいけないの?」
「ここは、戦の準備をするところです。織田のご令嬢であるお市様がおられる場所ではありません」
「だって、佐治の部屋なら居ても良いのに、どうしてここはいけないの?佐治が居るのに、いけないの?」
「お市様・・・」
市は今年で十二になる
一般の武家なら、既に許嫁くらいは決まっていないとおかしい年齢にも達する
それは即ち、女にもその覚悟を持たなくてはならない年齢であった
市は余りにも純粋過ぎる
なんの抵抗もないまま、男の群に飛び込んで来る
そこに佐治が居ると言うだけで安心し、無防備になる
どうして市がこんな行動が取れるのか、佐治にはわからなかった
「兎に角、帰りましょう」
「佐治と一緒に?」
「はい。城まで、お送りします」
「帰ったら、かくれんぼ、できる?」
佐治は少し考えてから応えた
「私は、ここで仕事をせねばなりません。ですので、今日はお市様のお相手はできません」
「
市の顔が悲しみに染まり、やがて・・・
「うわぁぁぁぁぁん!」
どうしてか、急に泣きじゃくった
「あああん!ああああん!」
「おっ、お市様・・・ッ!」
泣かれ、佐治も困り慌てる
「なっ、泣かないで下さい・・・!どっ、どうしよう・・・」
「困ったな・・・。無理に連れ帰っても、泣き通されては大方様もご心配なされるだろうし」
恒興も困惑顔で泣き喚く市を眺めた
「ここはしょうがない。佐治は城に戻って
「ですが、私はまだ仕事を片付けておりません。中途半端に放ったままでは気懸かりで、明日を迎える気にもなれません」
「う~~~む・・・」
佐治も仕事に熱心で、無責任に放り投げる性格ではないことを知っている恒興は、両者に挟まれ取り付く島も見付からなかった
仕方がないと言うことで、清洲には使いの者を送らせ、市が現場に居ることを伝える
が、これもまた当然だが市弥が直々に市を迎えに来る
ここで市弥と市が一悶着を起こし、丸根は一時、修羅場と化しそうになった
最後は母親の威厳で市は無理矢理連れ帰られたが、残った池田隊は気まずい雰囲気のまま砦普請に取り掛かった
「市。お前は佐治をまだ、局処の小間使いか何かと勘違いしているの?」
城に戻るや否や、市は母から説教を受ける
「そんなの、想っていません」
「だったら何故、佐治を困らせるようなことをするの」
「佐治は、困っているのですか・・・?」
市の目が淋しそうに曇る
「佐治はそんなこと、決して口にはしません。だけどね、市、よく考えて。お前は、織田家の娘なのよ?武家の娘なのよ?」
「わかってます」
「佐治は、どう?武家の男ですか?」
「佐治は将来、侍になります。だから、何れは武家の男にもなります」
「今はどうなの?」
「今は・・・、見習いです」
聡明な市は、詭弁で誤魔化すこともせず、事実を口にした
「でしょう?佐治は武家の男ではないわよね?」
「だから、どうなんですか?一緒に居ちゃいけないんですか?」
遠回しに『身分が違う』と言い出す母に、市は食い下がった
「そうまでは言ってないけど・・・」
市は、どうしてだろう、必死な目をし始めた
そんな娘の様子に市弥も戸惑う
「でもね、お前が佐治の仕事の邪魔をしていると言う自覚は、あるの?ないの?」
「市は佐治の仕事の邪魔なんてしてません・・・ッ!」
心外な事を言われ、市は目を真っ赤にして母に歯向かった
やがて市の帰還の知らせを受けた帰蝶が、局処に戻る
「姉様・・・」
打ち解けた甲斐か、市は帰蝶のことを実の姉と想い始め、ここのところそう呼ぶようになっていた
「ごめんなさい、お仕事中だと言うのに・・・」
「いいえ、それは全然構いません」
帰蝶は膝を落とし、市を見詰めた
「市」
「
「佐治の仕事場に押し掛けたと言うのは、本当?」
「
市はしばらく黙り込み、ゆっくりと頷いた
「佐治は勝三郎の部隊に配属し、それから毎日休みなしで織田のために働いてくれているの。それは、理解している?」
「
「何れ尾張を攻めるであろう今川の猛攻を防ぐために、付城の普請に佐治は勝三郎と共に丸根に赴任している。それも、わかるわね?」
「
市は黙って頷いた
「仕事が終わり、羽を広げたい時に市が居たら、佐治はゆっくり休めるのかしら?」
「市・・・は・・・さちみたいに・・・、佐治に・・・ご飯・・・作ってあげたい・・・んです」
くすん、くすんと、市はすすり泣いた
「市はご飯が作れるの?」
「
「お米を磨いだことがあるの?」
「
「味噌汁は?魚はどうやって焼くのか、市は知っているの?」
「
「何もできない市が、佐治に何をしてあげられるの?」
口調静かに責められ、市は感極まったのか、ぼろぼろと涙を零しながら自分の気持ちを訴えた
「わかりません!市は何ができるのか、わかりません!」
「市」
泣き出す娘に、市弥が狼狽する
「わからないまま、今日も佐治の仕事の邪魔をしたの?」
「邪魔をしようとしたわけではありません!お手伝いしようと想って・・・!」
「何ができるの?土を掘ることができるの?土を運ぶことができるの?」
「でも・・・!でも・・・!」
「市。お前が居ると、佐治がどれだけ気を遣わなくてはならないのか、想像したことはある?それがどれだけ佐治の負担になっているか、考えたことはあるの?」
「
「時々、城を抜け出して、佐治の部屋に行っているそうね。母上様が黙認してくださってる気持ちに、いつまで甘えて居るつもり?」
「市は・・・ッ」
市の綺麗な瞳から、ぼろぼろと涙が溢れて零れた
「佐治と、一緒に居たいだけなんです・・・。それも、駄目なんですか・・・?一緒に居ちゃ、いけないんですか・・・?市が、武家の娘だから、佐治に迷惑を掛けるんですか・・・?」
「市・・・・・・・・」
ふと、想い出す
「どうして市は、武家に生まれたんですか・・・」
「
十一年前の自分を
武家に、生まれたくて、生まれたんじゃない
「お方様・・・」
泣きじゃくる市はなつが面倒見た
市弥はおろおろし、後を着いて帰蝶の局処私室に入る
「市は、自分でも気付いていないようですね」
「何・・・を?」
「市は、佐治に恋をしている」
「恋
市弥の目が丸くなった
「え・・・?市が佐治に?」
「はい」
「どうして・・・」
「それは、市がわかっていないのだから、私にもわかりません」
帰蝶は苦笑いして応えた
「ただ、市は佐治のためなら、平気で平民に降りるでしょう」
「ええ?」
帰蝶の言葉に驚く
「何不自由ない局処の暮らしより、佐治と共に過ごせる生活を、あの子ならなんの躊躇いもなく選ぶでしょう。あの子の目が、そう言っていました」
「お方様・・・」
できることなら、自分も
それを選びたかった時期もあった
「
市のことを想う市弥は、武家の母として至極当然な言葉を口にする
「そうですね」
織田の惣領として生きる帰蝶は、市の肩を持つわけにはいかなかった
夏が過ぎ、其々の砦もぼちぼちと完成し始めた
最初に恒興が担当する丸根砦が出来上がり、城に戻って来る
一ヶ月余り佐治に逢えなかった市は、喜び勇んで出迎えた
同じ日、那古野から林秀貞を伴った信光が清洲を訪問する
「砦ができれば、今川も黙ってはおれんだろうな」
「押し寄せられても、困るのですが」
互いに苦笑いを浮かべ合う二人に、秀貞はポカンとした顔をする
「今川が相手では、わしもひとりで対応できるかどうかわからんのでな、稲葉地の叔父上に援軍を頼んだ」
「玄蕃允様にも?」
「一人より、二人、じゃろ?」
「ありがとうございます」
信光の助太刀に、帰蝶は丁寧に頭を下げた
「林」
「
男物の小袖も様になっている帰蝶に声を掛けられ、慌てて顔を向けた
「想わざるとも、お前が読んだとおりだ」
「奥方様・・・」
「あの時、吉法師様は既に亡くなられた後だった」
「はい・・・」
「わしがお前を連れて来たのは、もう蟠りを持っていられる余裕はないと言うことだ、林。状況を理解しろ」
信光に声掛けられ、秀貞は軽く会釈した
「織田を守るため、お前も尽力する時が来た。織田の惣領は吉法師ではなくなったが、上総介は吉法師から直接遺言を受けた」
「遺言・・・」
帰蝶が応える
「尾張を守ること、織田を守ること、民を守ること」
「奥方様・・・」
「お前の力が必要だ」
「
素直に乞われ、秀貞も悩みながら平伏した
この奥方は、武勇優れた自分の弟を討ち落とし、信長亡き後の織田を纏め上げ、尾張平定まで後一歩と言うところまで漕ぎ付けている
女の身でありながら、信長でさえできなかったことをやってのけた
この方なら、あるいは
心の中でそう、理想論が働いたのかも知れない
意見の相違は今も変わらないだろう
だが、尾張から天下に立つことは、一致しているかも知れない
そう想った
「
静かに頭を垂れる
帰蝶は頷き、信光の顔を見る
信光も無言の言葉を受け、軽く頷き龍之介に案内させ部屋を出た
背中で襖が閉まるのを、秀貞は顔を上げて帰蝶を見詰めた
「
「懐かしい?」
「はい。それは、殿が十八の時に着ていた物です」
「よく覚えているのね」
「殿は派手に見せながら、その実地味なものがお好きでした。小袖も派手な柄ではなく、飾り付けて派手に見せ掛けていただけ。飾りを取ってしまえば、ただの青年に成る」
「吉法師様は、臨機応変なお方だった。その場その場で雰囲気を一瞬で変えられる、素晴らしい人だった」
「奥方様・・・」
「お前は今も、武家至上だろう。それは理解できる。武家に生まれたのだものな」
「
応えられず、秀貞は黙った
「私は、それでも良いと想っている」
「え?」
「吉法師様の遺した夢を現実にできるのなら、目を瞑ろう。一人でも優秀な人材が欲しい。今川を相手にするのなら、尚更」
「奥方様・・・」
「私は、尾張を吉法師様だと想い、守ろうとしていた。だけど、それだけの力は足りていないのだと感じている。今の私には、国人衆を纏めるにはまだ力不足だ。現に岩倉を落しても、東尾張は反骨の気が強い。末森騒動が、まだ尾を引いているのか」
「
「だが、私は間違ったことをしたとは想っていない。家督争いを終決させなくては、尾張はいつまで経っても纏まらない」
「だから・・・?」
帰蝶が信勝を殺した理由は、信光から聞かされている
それでも、帰蝶自身の口から聞きたかった
今はすっかり男のような生活に身を浸し、信長になりきろうとするこの健気な未亡人の口から、女らしい言葉が聞きたかった
「夫の仇、だったから」
「
帰蝶の答えに、秀貞は黙って頭を下げた
帰蝶、秀貞其々の考え方は一致することはないが、それでも帰蝶は秀貞の力を必要とし、秀貞は尾張を守るために帰蝶の力を必要とした
要するに、利害関係だけが一致した、と言うことか
「奥方様!」
雑兵らに混じって庭に出ていた恒興が、帰蝶の姿を見付け駆け寄る
「砦が完成したそうだな。お前の部隊が一番乗りだ」
「いえ、そんな。佐治が随分と働いてくれたお陰で
帰蝶の側に立つ秀貞の姿に、恒興は目を丸くした
そうだろう
信長に謀叛を起こした人間なのだから、普通ならば清洲に入れる身分ではない
「あの・・・ッ」
「勝三郎か。あの洟垂れ小僧が、こんなに大きくなったのか。私も年を感じるわけだ」
まだ中年期であろう秀貞が笑うのを、恒興はぽかんと見ていた
「勝三郎」
「あ・・・ッ、はいっ」
「過去は、過去。未来は、未来、だ」
「奥方様・・・」
「今川を相手にすると決めたのだから、形振り構っていられないだろう?」
「でも・・・」
「察してくれ」
「
斎藤を相手に互角に戦えたのは、それが古巣であり、兄の考えが読めたからとも言えるだろう
戦力補強をせねば、今川ともなれば今の織田では心許ない
負ければ全て終わりの世界で、帰蝶はたった一人立ち向かわなくてはならないのだから、過去に拘って大事な戦局を逃したくないと言う気持ちも、理解できた
恒興は、帰蝶が『信長の死の原因』の一端でもある秀貞を、迎え入れなくてはならない状況であることを理解し、大人しく引き下がった
庭では、佐治の側でちょこんと座っている市の姿が目に見えた
つらいだろうが、それも決断せねばならないことだった
「
それから数日後、なつの侍女の妹で、丁度釣り合いの取れる年齢の娘が居ると知らされ、それを佐治に伝えた
「お前もこれから武士になろうかと言う時期に差し掛かっている。家庭を持つと言うことは、責任を背負うこと、即ち、心身ともに大人になると言うことだ」
「ですが、私にはまだ早いですよ」
照れ臭いのか、佐治は苦笑いする
「雑兵とて、家庭を持つのに遅い早いはない。それに、勝三郎もお前のことを随分と買っているからな、今川戦でもお前には存分に戦ってもらいたい。そのための所帯だ」
「はぁ・・・」
「相手はなつの侍女の妹で、今年十五になるそうだ」
「そうですか」
「一度、逢ってみないか」
「そうですね」
佐治も満更ではないのか、渋々と言った感じではあるが承諾した
これで佐治が所帯を持てば、市も佐治のことは諦めるだろう
そして家柄に相応しい相手に大人しく嫁いでくれれば、とも想う
佐治の見合いは次の日に行なうことが決まった
それは当然、誰に聞かなくとも市の耳にも入る
佐治も中々の美少年振りで、それは幼少の頃那古野城へ使いに来た時から立証されていた
局処でも本丸でも、佐治の見合いにガッカリする女が続出した
独身、既婚、出戻り関係なく
そんな浮付いた空気の中、珍しく市が本丸の帰蝶の部屋を訪れた
「姉様」
「どうした、市」
捺印する書類の束に、没頭していた帰蝶が振り返る
「佐治が、お見合いをするって、本当ですか?」
「ああ、聞いたのか」
「どうして?」
「佐治も今年で十八になる。そろそろ妻を娶っても不思議ではないだろう?」
「だってッ」
「市」
文机から離れ、帰蝶は市に体を向けた
「身分がどうのとは、私も言いたくない。お前達には自由に恋愛を楽しんでもらいたいとも、想っている」
「だったら、どうして・・・!」
「市。お前は、織田家正室の娘だ。この意味がわかるか?」
「市は、政略の道具。いつ、どこの豪族なり大名なり、嫁ぐ先は自分では選べない」
「わかっているか」
「でも!そんな世界を壊したいと言っていたのは、姉様でしょう?!それが兄様との約束だったのでしょう?!」
「そうだ。だがな、市。それは明日明後日成り立つ世界の話でもない。何年、何十年掛かるかわからない」
「それでも、市は待てます!」
「市・・・」
「市は、佐治と居たいの!それを邪魔するなら、姉様だって許さない!」
「市!」
市は部屋を駆け出し、走り去ってしまった
「市!」
帰蝶は慌てて市の後を追った
市
お前は知っているの?
それは、お前が佐治を愛しているからなのよ
愛しているから、一緒に居たいと願うのよ
昼下がりの清洲城
市の走る慌しい音と、帰蝶の追い駆ける忙しない音が鳴り響く
「市!」
子供と言うのは小回りが利き、脚の速いはずの帰蝶が中々追い着かない
とうとう局処までやって来て、庭で佐治を見付けた市は裸足のまま縁側を飛び降り、佐治の腰にしがみ付いた
「お市様?!」
突然のことに、佐治も、一緒に居た恒興も驚く
「奥方様・・・」
はあはあと肩で息を切る帰蝶に、二人は再び驚いた
「どうなさったんですか、お二方」
恒興が声を掛けるのと同時に、市は叫んだ
「佐治、お見合いなんかしちゃ駄目!」
「え?」
「市」
「嫌!嫌!佐治がお嫁さんをもらうのなんて、市が許さない!」
「お市様・・・」
「佐治は市のものなの!誰にも微笑み掛けて欲しくないの!」
「
市の言葉に、帰蝶は胸を抉られた
自分も、そう願った相手が居た
「佐治は明日も明後日も、市とかくれんぼをするの!」
少女の、ささやかな願いだったのか
いや、自分の想いを上手く表現できない少女の、ささやかな抵抗だったのか
騒動に気付き、市弥も庭に出て来た
「佐治を見付けるのは市なの!」
「市?」
この光景に、市弥は目を丸くして近寄った
「誰にも佐治を見付けさせない!」
「市・・・・・・」
真っ直ぐに、恋した相手に気持ちをぶつけられる市を、帰蝶は羨ましい、と想った
「明日も明後日も、ずっとずっと、佐治と一緒に居たいの!
佐治の腰にしがみ付いたまま、市は泣き出した
「お市様・・・」
佐治は困った顔をして微笑み、頭を屈ませる
「休憩が取れましたら、何をして遊びましょうか。かくれんぼが良いですか?それとも、高鬼ですか?」
いつもと同じ口調で語り掛ける
「嫌・・・」
泣きじゃくりながら、市は呟く
「佐治は態と負けるから、面白くない・・・」
それでも、佐治と遊びたいと言う気持ちはなくならない
それは、大好きだから
だから、一緒に居たい
単純で、だけど純粋な気持ちが市をそうさせる
それまでは、さちが遊び相手だった
そのさちが利治の世話で長屋に行くようになってからは、市の相手は佐治がしていた
どうしてか、市も佐治が相手なら大人しくなった
いつの間にか、恋していた
市にも気付かない内に、佐治に対しての恋心が生まれていた
「市・・・」
「義母上様」
「
市弥は黙って帰蝶に顔を向けた
「市の気持ちは、本物です」
「え・・・?」
「誰にも消してしまうことのできない、本物の想いです」
「それは・・・」
「市の、好きにさせてあげませんか」
「
困った顔をして、市弥はずっと帰蝶の顔を見た
そうね、とも、駄目よ、とも言えない顔で
「それにしても、驚いたわね」
いつもの風景
さちが通うようになって、一年が過ぎていた
それが当たり前になり、利治は自分で食事の支度をすることもなくなった
今も利治を心配しているなつも、さちに「行くな」とは言えなくなっていた
さちの手料理のお陰か、利治の体付きもすっかり大人の様相を模している
二人で囲む食事の風景も様になっていた
「お市様だろ?」
利治の口調も、すっかり男らしくなっていた
自分を『私』とは言わず、慶次郎のように『俺』と呼んでいた
少し荒々しくも、少年ではなくなった利治に頼もしさが覗える
「私、その場に居合わせなかったんだけど」
「ああ、俺も」
「配属、変わったんだってね」
「ああ、そうそう。やっと黒母衣の見習いから解放されたよ」
「それで、何処に配属?」
利治は笑顔で応えた
「弥三郎さんの部隊」
「うわぁ、最前線部隊だ」
「いつでも死ねる」
それから互いに苦笑いした
「お市様、花嫁修業するんだって」
「え?じゃぁ本当に佐治に嫁ぐのか?」
「それは、どうかな・・・。話に加わってないから何とも言えないけど、多分、内縁かなぁ」
「そうか」
「それでも、お市様嬉しそうだった」
「夫婦って認められなくてもか?」
「形式なんて多分、どうでも良いのよ、お市様にとっては。大事なのは、佐治と一緒に居られるか居られないかで、それ以外は関係ないんじゃないのかな」
「でも、そう言うのって淋しくないのか?世間に女房だって認められないんだろ?」
「一緒に居られることが大切だから、お互いがどう想うのかが肝心、てことじゃないの?でも、羨ましいと想うよ」
「え?」
「だって、大好きな人と一緒に居られるのよ?それって、女にとっては一番の幸せじゃないのかな」
「
小さな声で呟く
目の前のさちに呟く
「え?」
「お前は、そう言う相手、居ないのか」
「居たらここに居ないでしょ」
そう、再び苦笑いする
「それで、お前は良いのか?」
「うーん」
食べ終わり、茶碗を膳の上に載せ、土間に持って行きながら応える
「新五さんのご飯作ってるのも楽しいし、局処の仕事も忙しいし、探してる暇ないってのが、正直なとこかなぁ」
「そうか」
胸が少しだけ、チクリと痛む
期待していたのかも知れない
さちの口から出る言葉を
秋になり、台所で料理の修業を積んだ市が、佐治の居る長屋へと移った
市弥も帰蝶も、複雑な想いで見送る
織田の令嬢として育った市が、一般家庭の主婦の真似事ができるのかどうか聊か心配ではあるし、内縁であっても夫婦としての生活を送ることを容認してしまったのだから、その先の将来のことも心配だった
武家の娘が庶民の男に嫁ぐのは、前代未聞である
それは織田家の威厳を失墜させる事態を招きかねない、非常に危険な行為だった
長屋で市を知る者は、利家か、利治、その世話をしているさちしか居ない
この三人が口を抓むんで居れば、問題は起きないだろうと確信するも、やはり佐治には早く一人前になって、可成のように屋敷を構えて欲しいとも願ってしまう
今の織田は大盤振る舞いができるほど、土台のしっかりした家ではないのだから
それでもさちから、今日も睦まじく暮らしていると知らされ、ほっとする部分も確かにあった
冬が来て、静かな気配に支配される
鳴海城、大高城に付けた砦も、今川警戒を怠らない
それでも、動く山は止められなかった
年が明け、春もすっかり満喫し、信長の五回忌も無事済ませ、市が女らしくなったと聞かされ、帰蝶も市弥も胸を撫で下ろす
そんな頃
永禄三年、五月十二日
駿府の大大名・今川義元が出撃したと、梁田政綱が知らせて来た
「
表座敷は静まり返っていた
誰も口を開かない
籠城か
迎撃か
籠城に平城は向いていない
それは前年の岩倉を落としたことで帰蝶自身が証明した
迎撃するとなれば、丹下などの砦に各部隊を配置すれば良い
だけど、人数が足りなかった
帰蝶はまだ、尾張の国人衆を纏め上げてはいなかった
今川の軍勢に押され、この清洲そのものが戦場となれば、守るものが多い帰蝶には、全てを守り切るなど不可能だった
清洲に到来される前に、今川を押し止めなくてはならない
その策がなかった
土塁程度で抑えられるほど、今川の起こす津波は低くはないのだから
「
ぽつり、と、帰蝶が呟いた
「こんな時期に来なくても良いものを。今川も、酔狂だな」
「奥方様・・・」
「雲が薄い」
「まだ雨は来ません」
道空が応える
「そう。じゃあ、雨乞いでもするかな」
と、帰蝶は立ち上がった
「どちらへ?」
声を掛ける秀隆に、帰蝶は振り返りながら応えた
「何も浮かばない。だから、局処で昼寝して来る」
「
姉の様子を弥三郎から聞き、利治は真意を知った
「姉上は、戦う気だ」
「え?」
利治の言葉に、さちは驚いた
「でも、籠城か迎撃かも決まってないのに?」
「それでも姉上は、戦うよ。大切なものを守るために」
「大切なもの・・・」
大切なもの
それは、姉であり
手の届く場所に、いつも居てくれるさちでもあり
これから夕餉を並べようかと言う雰囲気だったのが一転し、深刻なほど重苦しい空気が流れる
そんな中で利治は、想い溢れる顔をして、さちの手首を掴み引き寄せた
「しっ、新五さん?!」
互いに腰を下ろしていた状態だったので、さちは体を崩しながら利治の胸に収まってしまい、逃げるに逃げられない状態になる
驚きながらも、さちは利治の腕の中でじっとした
前にも、そうあった
戦前、気持ちが昂ったのか利治は、自分を抱き締めて心を落ち着かせていた
それで新五の役に立つのなら、と、さちは大人しくしていた
だが
「
何を想ったか、利治が口唇を重ねて来た
驚いたさちは、近過ぎて見えない利治に目を見開く
抱き締められる背中が痛い
重なる口唇が熱い
利治の行動に、さちの頭がぼんやりとぼやけた
長い口付けに漸く口唇を離し、利治は尚もさちを抱き締め続けた
今川相手に、生き残れるのか
そんな不安が利治をそうさせた
「さち・・・」
胸の中に抱き締めるさちに、囁く
「
「え・・・?」
利治の言葉が、直ぐには理解できない
「好きだ」
「
素直に受け止めて良いのか
それとも、身分が違うと拒めば良いのか、さちにはわからなかった
市のように、身分を超えて好きな人の胸に飛び込むのは、きっと幸せなことだろう
だけど利治は
美濃を落とした後の、斎藤の跡取りになる人物だった
『代わり』の居ない人物だった
自分では、釣り合いが取れないことは、さち自身よくわかっていた
だけど、さちも気持ちが抑えられなくなっていた
楽しいのは、好きな人の食事の用意ができるから
一緒に居られるから
だから、城の仕事が終わって、利治の部屋に向う時が一番楽しかった
利治の顔を見るのが嬉しかった
毎日がワクワクしていた
そんな想いが溢れて、抑え切れなくなっていた
利治にそっと寝かされ、利治の顔が真上に来ても、さちは逃げなかった
自分も、そうしたかったから
今川が尾張を目指して侵攻しているのを聞き、なつは静かに帰蝶と対峙した
止めてみようか
そう、莫迦な考えが浮かんだ
無駄だとわかっていても
それでも、帰蝶には無茶をして欲しくなかった
言っても聞かない相手だとわかっていても
「
帰蝶の目は、覚悟を決めた目だった
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この記事にコメントする
いよいよ
今川ですね義元ってどういうがいけんだったんでしょう?よくTVや小説では公家風の格好してこう小太り気味なんですよね^-^
前回は熱くなりすぎ恥ずかしい事ばかり書いてしまいすみませんですた 冷静になったとおもってたんですがどうやらそうではなかったようです(笑)無双3は発売されるまでまあそれなりに期待をしときます 小早川はですね毛利元就の3男です 秀秋はもうね別に興味沸かないんで・・・戦国ストレイズチラッとよみましたが義龍の家臣の長井斉藤利三ともう一人忘れましたがでてたり森可成河尻秀隆 成政など他のコミックスや小説にあまりでてない(と思ったのですが)方々がでててちょっと驚きました内容はまあ うん 姫様は戦友みたいな感じで今のところ夫婦って感じではありませんね心臓弱いが最強の使い手になってました
前回は熱くなりすぎ恥ずかしい事ばかり書いてしまいすみませんですた 冷静になったとおもってたんですがどうやらそうではなかったようです(笑)無双3は発売されるまでまあそれなりに期待をしときます 小早川はですね毛利元就の3男です 秀秋はもうね別に興味沸かないんで・・・戦国ストレイズチラッとよみましたが義龍の家臣の長井斉藤利三ともう一人忘れましたがでてたり森可成河尻秀隆 成政など他のコミックスや小説にあまりでてない(と思ったのですが)方々がでててちょっと驚きました内容はまあ うん 姫様は戦友みたいな感じで今のところ夫婦って感じではありませんね心臓弱いが最強の使い手になってました
Re:いよいよ
>今川ですね義元ってどういうがいけんだったんでしょう?よくTVや小説では公家風の格好してこう小太り気味なんですよね^-^
公家風に白塗りで鉄漿(おはぐろ)を塗っていて肥満の上短足だったので一人では馬に乗れなかった
とは、良く聞きますが(汗
>小早川はですね毛利元就の3男です
ああ!
優秀な方の小早川でしたか!
そうとは知らず、汗汗
>戦国ストレイズチラッとよみました
内容さっぱりわからないので、今、検索してWikiが出たので見ましたら
ショックです・・・
織田家家臣らの通称、短縮させてるのまでうちのと一緒でした・・・
犬千代はぶっちゃけBASARAのを頂いたんですが、可成が『三左』、長秀が『五郎左』
ショックすぎて言葉がありません
唯一の救いは、河尻を「シゲ」と呼ばせてるとこだけかな
それでもショックですわ
でもこの作者さん、当時の通例を守ってそう呼ばせてるんですね
NHKも見習ったら良いのに(笑
>森可成河尻秀隆 成政など他のコミックスや小説にあまりでてない(と思ったのですが)方々がでててちょっと驚きました
河尻の風貌が気になる・・・
>姫様は戦友みたいな感じ
そのようですね
興味がサッパリ沸きません
きっとその心臓病を原因として、その内死なせるんでしょうね
こっちの姫様は中々死にませんが(笑
私のリクエストにお応え頂き、ありがとうございます
戦国ストレイズがどういった作品なのか、多分今後も手にすることはないかと思いますが、負けないようたくさん登場人物出さなくっちゃ!
てゆうか、ほっといでもポンポン出て来るんですよね・・・
ああ、遠山の若様に、美濃の豪族金森、とか
可児才蔵とか、近江制覇の後に藤堂高虎とか(汗
しかし、そちらの作品に夕庵は出るのでしょうかね
かなり信長に近い場所に居た人物なんですが(笑
今の時点で斎藤家に出てないとおかしいんですけど
公家風に白塗りで鉄漿(おはぐろ)を塗っていて肥満の上短足だったので一人では馬に乗れなかった
とは、良く聞きますが(汗
>小早川はですね毛利元就の3男です
ああ!
優秀な方の小早川でしたか!
そうとは知らず、汗汗
>戦国ストレイズチラッとよみました
内容さっぱりわからないので、今、検索してWikiが出たので見ましたら
ショックです・・・
織田家家臣らの通称、短縮させてるのまでうちのと一緒でした・・・
犬千代はぶっちゃけBASARAのを頂いたんですが、可成が『三左』、長秀が『五郎左』
ショックすぎて言葉がありません
唯一の救いは、河尻を「シゲ」と呼ばせてるとこだけかな
それでもショックですわ
でもこの作者さん、当時の通例を守ってそう呼ばせてるんですね
NHKも見習ったら良いのに(笑
>森可成河尻秀隆 成政など他のコミックスや小説にあまりでてない(と思ったのですが)方々がでててちょっと驚きました
河尻の風貌が気になる・・・
>姫様は戦友みたいな感じ
そのようですね
興味がサッパリ沸きません
きっとその心臓病を原因として、その内死なせるんでしょうね
こっちの姫様は中々死にませんが(笑
私のリクエストにお応え頂き、ありがとうございます
戦国ストレイズがどういった作品なのか、多分今後も手にすることはないかと思いますが、負けないようたくさん登場人物出さなくっちゃ!
てゆうか、ほっといでもポンポン出て来るんですよね・・・
ああ、遠山の若様に、美濃の豪族金森、とか
可児才蔵とか、近江制覇の後に藤堂高虎とか(汗
しかし、そちらの作品に夕庵は出るのでしょうかね
かなり信長に近い場所に居た人物なんですが(笑
今の時点で斎藤家に出てないとおかしいんですけど
涙なしでは
ーお清と手をつなげるのなら、平民になっても良い
「市は何故武家に生まれたのですか」
帰蝶と同じように胸を抉られました。
かつて帰蝶も同じことを訴えていました。そしてそんな世の中に矛盾を感じ、反抗し、信長の夢見る世界を共感し、期待し、それが自分の目指す夢になった。(違ってたらごめんなさい)
でも夢を現実にしようとしたときに、そこにはかつて自分が感じた想いを、他の女性にもさせなくてはならなかった。
以前叔父信光との会話で
「お前にそれだけの力があるのか」
そういわれて黙るしかなかった帰蝶。(実際今回のお話でも、信長の仇でもある林への態度でも、その胸中がしのばれます)
そして伊予を嫁がせることで道を開こうとしている今の自分。
市の台詞に懐古と自分の無力を再認識させられたのでは・・・。
そう感じて同じく胸が抉られる思いです。
「目的のためには手段を選ぶな」
怖い言葉だと思っています。
何故ならこう言って物事をなそうとする人間は、目的と手段が混合しやすく、いずれ手段そのものが目的になってしまう事に陥りやすい。と個人的に感じています。{戦国時代のドラマででも、「太平の世のために闘う。」「平和な世の中を造る為に闘う」とありますが、だったらまず武器を捨てろ、闘うなとか突っ込みたくなります(笑}
ですが、現実その矛盾を抱えながら闘わなくてはならない(ましてや戦国時代、力がなくては発言も出来ないでしょう)解ってはいてもその矛盾を再認識したとき・・・・・・・・・・・
帰蝶の心が壊れてしまわないかと心配です。
まあその中で、利治とさち。お市と佐治の二組のカップルの心の交流に「ホッ」と胸を撫で下ろしています(全く心配がないわけではないのですが)
利治も姉を支えようとしっかりしてきたし、龍之介もいることですし。(哀しい予想はしない事にします)
長くなりましたが、コメントにあるように今後出てくるキャラクターも楽しみにしています。(Haruhiさんの義元の描写も楽しみです)
「市は何故武家に生まれたのですか」
帰蝶と同じように胸を抉られました。
かつて帰蝶も同じことを訴えていました。そしてそんな世の中に矛盾を感じ、反抗し、信長の夢見る世界を共感し、期待し、それが自分の目指す夢になった。(違ってたらごめんなさい)
でも夢を現実にしようとしたときに、そこにはかつて自分が感じた想いを、他の女性にもさせなくてはならなかった。
以前叔父信光との会話で
「お前にそれだけの力があるのか」
そういわれて黙るしかなかった帰蝶。(実際今回のお話でも、信長の仇でもある林への態度でも、その胸中がしのばれます)
そして伊予を嫁がせることで道を開こうとしている今の自分。
市の台詞に懐古と自分の無力を再認識させられたのでは・・・。
そう感じて同じく胸が抉られる思いです。
「目的のためには手段を選ぶな」
怖い言葉だと思っています。
何故ならこう言って物事をなそうとする人間は、目的と手段が混合しやすく、いずれ手段そのものが目的になってしまう事に陥りやすい。と個人的に感じています。{戦国時代のドラマででも、「太平の世のために闘う。」「平和な世の中を造る為に闘う」とありますが、だったらまず武器を捨てろ、闘うなとか突っ込みたくなります(笑}
ですが、現実その矛盾を抱えながら闘わなくてはならない(ましてや戦国時代、力がなくては発言も出来ないでしょう)解ってはいてもその矛盾を再認識したとき・・・・・・・・・・・
帰蝶の心が壊れてしまわないかと心配です。
まあその中で、利治とさち。お市と佐治の二組のカップルの心の交流に「ホッ」と胸を撫で下ろしています(全く心配がないわけではないのですが)
利治も姉を支えようとしっかりしてきたし、龍之介もいることですし。(哀しい予想はしない事にします)
長くなりましたが、コメントにあるように今後出てくるキャラクターも楽しみにしています。(Haruhiさんの義元の描写も楽しみです)
こんにちは
コメント、ありがとうございます
>(違ってたらごめんなさい)
いいえ
その通りですので
>夢を現実にしようとしたときに、そこにはかつて自分が感じた想いを、他の女性にもさせなくてはならなかった。
つらい、と思います
信長に嫁いでも、それでも当初はまだ心の中に『お清』が存在しました
理想を語る信長の言葉に、「そんな世界がもっと早く来ていたら、自分はお清と一緒に居られたのに」と言う想いを浮かべるシーンも描きました
それがあるから、帰蝶は市を許したのだと思います
て、自分で書いてるのにね(苦笑
>「目的のためには手段を選ぶな」
>怖い言葉だと思っています。
そうですね
だけど叔父上は、現実を見ようとしない帰蝶に対し、そう叱咤するしかなかったのです
綺麗事ばかりを並べて叔父上に叱られて、頭ではわかっていても心が納得しない
その時の帰蝶はまだ、女の部分が大きかった
だから叔父上はそう言うしかなかったのです
ですが胡蝶の夢さんの仰ってることも理解できます
現に帰蝶(信長)の身近に、それを実行した人物が居るのですから
>戦国時代のドラマででも、「太平の世のために闘う。」「平和な世の中を造る為に闘う」とありますが、だったらまず武器を捨てろ、闘うなとか突っ込みたくなります(笑
ですね(苦笑
天下泰平や平和な世のための戦いなどない
先ず話し合え!(笑
そう言ったセリフを書く人の精神と言うのはわかりませんが、民主主義より社会主義に適しているのかな
大義名分で戦をするのは武士の逃げ口上
帰蝶の目指す世界は、身分差別のない世の中
だけど身分社会を支配しているのが武家だから、自分の理想を成し遂げるには先ず武家を黙らせるしかない
だから、彼女は戦っているのです
でも、↓
>(ましてや戦国時代、力がなくては発言も出来ないでしょう)
理解していただいてるのがわかって、ほっとしております
>帰蝶の心が壊れてしまわないかと心配です。
きっと、壊れるでしょうね
だけどその時、誰かが側に居てくれることを、私は信じています
>(全く心配がないわけではないのですが)
相変わらず鋭いですね(苦笑
>(哀しい予想はしない事にします)
鋭いですね・・・(汗
>(Haruhiさんの義元の描写も楽しみです)
ああ、さり気なくプレッシャーを・・・
私が読んでいる数少ない(と言っても、二作品しか継続購入してませんが)コミックに『ベルセルク』と言う作品があります
この作品は人のどろどろした内面なんかも描いてたんですが、最近はちょっと綺麗事が増えてがっかりしています
その作品の中で宗教・信仰に触れた部分がありました
その辺りで「教えに飢えた民の求める信仰心を与えれば、民は神のためなら死をも恐れない人間兵器になる」と言う下り
これは実際、戦国時代の一向宗が行なったことと同じです
歴史小説家で自称研究家でもある井沢氏も、書籍にこう記しています
「当時の一向宗信徒はテロリスト集団。現在のタリバーンやアルカイダのようなもの」と
信仰の自由を奪う信長は敵だとし、一向宗は信徒に武器を持たせ、信長と戦わせました
恐ろしいと想いませんか?
今で言えばカルト集団だったんですね
そんな、『人の言葉が通じない』連中と戦わなくてはならない信長の心理や、如何に
世間に溢れる信長のイメージは、それだけ多くの家臣らが見ていた信長の表の表情
裏の表情は?と言われれば、きっと、濃姫しか知らなかったでしょうね
>(違ってたらごめんなさい)
いいえ
その通りですので
>夢を現実にしようとしたときに、そこにはかつて自分が感じた想いを、他の女性にもさせなくてはならなかった。
つらい、と思います
信長に嫁いでも、それでも当初はまだ心の中に『お清』が存在しました
理想を語る信長の言葉に、「そんな世界がもっと早く来ていたら、自分はお清と一緒に居られたのに」と言う想いを浮かべるシーンも描きました
それがあるから、帰蝶は市を許したのだと思います
て、自分で書いてるのにね(苦笑
>「目的のためには手段を選ぶな」
>怖い言葉だと思っています。
そうですね
だけど叔父上は、現実を見ようとしない帰蝶に対し、そう叱咤するしかなかったのです
綺麗事ばかりを並べて叔父上に叱られて、頭ではわかっていても心が納得しない
その時の帰蝶はまだ、女の部分が大きかった
だから叔父上はそう言うしかなかったのです
ですが胡蝶の夢さんの仰ってることも理解できます
現に帰蝶(信長)の身近に、それを実行した人物が居るのですから
>戦国時代のドラマででも、「太平の世のために闘う。」「平和な世の中を造る為に闘う」とありますが、だったらまず武器を捨てろ、闘うなとか突っ込みたくなります(笑
ですね(苦笑
天下泰平や平和な世のための戦いなどない
先ず話し合え!(笑
そう言ったセリフを書く人の精神と言うのはわかりませんが、民主主義より社会主義に適しているのかな
大義名分で戦をするのは武士の逃げ口上
帰蝶の目指す世界は、身分差別のない世の中
だけど身分社会を支配しているのが武家だから、自分の理想を成し遂げるには先ず武家を黙らせるしかない
だから、彼女は戦っているのです
でも、↓
>(ましてや戦国時代、力がなくては発言も出来ないでしょう)
理解していただいてるのがわかって、ほっとしております
>帰蝶の心が壊れてしまわないかと心配です。
きっと、壊れるでしょうね
だけどその時、誰かが側に居てくれることを、私は信じています
>(全く心配がないわけではないのですが)
相変わらず鋭いですね(苦笑
>(哀しい予想はしない事にします)
鋭いですね・・・(汗
>(Haruhiさんの義元の描写も楽しみです)
ああ、さり気なくプレッシャーを・・・
私が読んでいる数少ない(と言っても、二作品しか継続購入してませんが)コミックに『ベルセルク』と言う作品があります
この作品は人のどろどろした内面なんかも描いてたんですが、最近はちょっと綺麗事が増えてがっかりしています
その作品の中で宗教・信仰に触れた部分がありました
その辺りで「教えに飢えた民の求める信仰心を与えれば、民は神のためなら死をも恐れない人間兵器になる」と言う下り
これは実際、戦国時代の一向宗が行なったことと同じです
歴史小説家で自称研究家でもある井沢氏も、書籍にこう記しています
「当時の一向宗信徒はテロリスト集団。現在のタリバーンやアルカイダのようなもの」と
信仰の自由を奪う信長は敵だとし、一向宗は信徒に武器を持たせ、信長と戦わせました
恐ろしいと想いませんか?
今で言えばカルト集団だったんですね
そんな、『人の言葉が通じない』連中と戦わなくてはならない信長の心理や、如何に
世間に溢れる信長のイメージは、それだけ多くの家臣らが見ていた信長の表の表情
裏の表情は?と言われれば、きっと、濃姫しか知らなかったでしょうね
濃姫(帰蝶)好きの方へ
本日は当サイトにお越しいただき、ありがとうございます
先ずはこちらのページを一読していただけると嬉しいです→お願い
文章の誤字・脱字が時折混ざっております
見付け次第修正をしておりますが、それでもおかしな個所がありましたらお詫び申し上げます
了承なしのリンクは謹んでご辞退申し上げます
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更新のお知らせ
(02/20)
(10/16)
(11/04)
(06/24)
(03/25)
◇◇プチお知らせ◇◇
1/22 『信長ノをんな』壱~参 / 公開
現在更新中の創作物(INDEX)
信長 ~群青色の約束~
こんな感じのこと書いてます
カウント(0)は現在非公開中です
管理人の独り言も混じっております
[11/04 Haruhi]
[08/13 kitilyou]
[06/26 kitilyou命]
[03/02 kitilyou命]
[03/01 kitilyou命]
ゲームブログ
千極一夜
家庭用ゲーム専用ブログです
『戦国無双3』が絶望的存在であるため、更新予定はありません
◇◇11/19 Nintendo DSソフト◇◇
『トモダチコレクション』
おのうさま(帰蝶)とノブ(信長)が 結婚しました(笑
家庭用ゲーム専用ブログです
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◇◇11/19 Nintendo DSソフト◇◇
『トモダチコレクション』
おのうさま(帰蝶)とノブ(信長)が 結婚しました(笑
祝:お濃さま出演 But模擬専… (戦国無双3)
おのれコーエーめ
よくもお濃様を邪険にしおってからに・・・(涙
(画像元:コーエー公式サイト)
オンラインゲームにてお濃様発見
転生絵巻伝 三国ヒーローズ公式サイト:GAMESPACE24
『武将紹介』→『ゲーム紹介』→『Exキャラクター紹介』→『赤壁VS桶狭間』にてお濃様閲覧可
キャラクター紹介文
「 絶世の美貌を持つ信長の妻。頭が良く機転が利き、信長の覇業を深く支えた。
また、信長を愛し通した一途な妻でもあった。」
(画像元:GAMESPACE24公式サイト)
勝手にPR
濃姫好きとしては、飲めなくても見逃せない
岐阜の地酒 日本泉公式サイト

(二本セットの画像)
夫婦セット 吟醸ブレンド(信長・濃姫)
本醸造 濃姫
カップ酒 濃姫®=爽やかな麹の薫り高い、カップとは想えない出来上がりのお酒です
吟醸ブレンド 濃姫® ブルーボトル=自然の香りのお酒です。ほんの少し喉を潤す程度でも香りが深く体を突き抜けます
本醸造 濃姫®=容量的に大雑把な感じに想えて、麹の独特の香りを抑えたあっさりとした風味です
今現在、この3種類を試しておりますが、どれも麹臭い雰囲気が全くしません
飲料するもよし、お料理に使うもよし
お料理に使用しても麹の嫌な独特感は全く残りません
奇跡のお酒です
何よりボトルがどれも美しい
清洲桜醸造株式会社公式サイト


濃姫の里 隠し吟醸
フルーティで口当たりが良いです
一応は『辛口』になってますが、ほんのり甘さも残ってます
わたしは料理に使ってます
清洲城信長 鬼ころし
量的に肉や魚の血落としや、料理用として使っています
麹の香りが良いのが特徴ですが、お酒に弱い人は「うっ」と来るかも知れません
どちらも一般スーパーに置いている場合があります
岐阜の地酒 日本泉公式サイト
(二本セットの画像)
夫婦セット 吟醸ブレンド(信長・濃姫)
本醸造 濃姫
カップ酒 濃姫®=爽やかな麹の薫り高い、カップとは想えない出来上がりのお酒です
吟醸ブレンド 濃姫® ブルーボトル=自然の香りのお酒です。ほんの少し喉を潤す程度でも香りが深く体を突き抜けます
本醸造 濃姫®=容量的に大雑把な感じに想えて、麹の独特の香りを抑えたあっさりとした風味です
今現在、この3種類を試しておりますが、どれも麹臭い雰囲気が全くしません
飲料するもよし、お料理に使うもよし
お料理に使用しても麹の嫌な独特感は全く残りません
奇跡のお酒です
何よりボトルがどれも美しい
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フルーティで口当たりが良いです
一応は『辛口』になってますが、ほんのり甘さも残ってます
わたしは料理に使ってます
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麹の香りが良いのが特徴ですが、お酒に弱い人は「うっ」と来るかも知れません
どちらも一般スーパーに置いている場合があります
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