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雪が薄くなった二月、知多の大野城から荒尾千郷が信時の許に輿入れをして来た
信長が自らの手で進めた縁談であるため、織田からも充分なことをしたいと申し出、恒興が迎えに行くことになった
荒くれた織田家臣の中では、恒興が一番上品な物腰だからだ
常滑の寺で待機している千郷の一行を迎え入れるため、恒興の連れた織田の使者達もその寺に合流する
帰蝶の嫁入りの際の、平手政秀や河尻秀隆、林秀貞と同じ意味であった
「お待たせしました、織田家迎えの池田恒興でございます」
「お待ちしておりました、荒尾家名代千草秋早でございます」
「千郷姫様は」
「はい、こちらでお待ちです」
千草と名乗る壮年の武将に案内され、千郷の待つ控えの間に足を運ぶ
「姫様、織田家の方がお越しになられました」
「失礼致します、わたくし、織田家代表池田恒 」
嫁入りする千郷姫を目に、恒興は口をぽかんとし、目蓋は大きく開いた
「 池田、恒興でございます・・・。本日は、お日柄もよく・・・」
言葉が出ない
そうだろう
「態々のお迎え、痛み入ります」
座布団の上に座らされ、自分に頭を下げる千郷姫は、『少女』だった
また年端も行かない
この頃の武家の娘は八歳で嫁入り準備の意味を持つ『裳着』を済ませる
その年になれば、いつでも何処の家にでも嫁に行く覚悟ができていると言う証としての儀式だが、実際に嫁に行くのはもっと先である
一般家庭と比較すれば年齢差もあろうが、武家ならば十四から十六までに嫁に行くのが一般で、帰蝶はそれより若干早婚の類になる
それでも乱暴な話ではない
しかし、恒興の前に居る荒尾の千郷姫は、どう見てもその結婚適齢期にも達していない
見た感じではまだ七つか、そのくらいの年齢にしか想えなかった
「あの・・・、こちらが千郷姫様・・・で?」
恒興は確認するように、千草に聞いた
「そうです。荒尾家姫君、荒尾千郷様でございます」
「まだ・・・」
幼いではないか
そう出て来そうになる言葉を、恒興は必死で飲み込んだ
「裳着は既に済ませておりますので、問題はないかと存じます」
「姫様は一体、おいくつで・・・」
「今年で九つになります。何か不都合でも?」
「いえ 」
顔と言わず全身から脂汗が吹き出て来るのを、恒興は自覚した
なんと言うことだろうか
夫になる信時は信長と同年で、この春に二十二になる
年齢差は十三
決して、不思議なほど差が開いているわけではない
親子ほど年の離れた夫婦などいくらでも存在するのだから
恒興が驚愕したのは、信長が嫌っていた政略のあるべき姿が具現し、自分の目の前に居ることである
調べでは荒尾家には、適齢期の娘が何人か居たはずだ
長女は既に他家に嫁いでいるが、それ以外の娘がこの千郷姫以外居ないわけではない
なのに何故、と、頭の中で脳ミソがぐるぐる回るような感覚に陥った
あからさまに「荒尾は織田に屈した」とでも言いたげな、そんな理不尽さが滲み出ていた
正気か
恒興はそう、想った
「守山までの道中、お世話になります」
小さくか弱い声で必死になって挨拶する千郷に、恒興は慌てて平伏した
「この池田恒興、命に代えてもあなた様をお守りいたしますッ!」
「 」
生来、心根の優しい恒興だからか、その偽りのない誠実な気持ちに、千郷は頼りなげに微笑んだ
尚更、この幼い少女が不憫に感じられた
戻った恒興の報告に、信長も顔色を変える
「待て・・・。千郷姫は、確か十五のはずだぞ・・・」
「十五は三女の雪姫様でございました・・・。千郷姫様は八つ、今年の夏で九つになると・・・」
「どこで情報が間違ったのでしょうか・・・」
側で聞いていた帰蝶も、眉間に皺を寄せて項垂れる
「間違っていようとも、こちらの勘違いで幼い娘を政略に使ったのか、荒尾は・・・ッ」
悔しさの込められた声だった
「吉法師様・・・」
「だが、いくら誤りだからと言って、この婚儀をなかったことにはできん。せめてこちらから、千郷姫には精一杯のことをしてやるだけだ」
「はい」
「殿・・・」
呟くように、恒興が声を絞り出す
「あの小さき姫君は、どんな想いで故郷を離れたのでしょうか・・・」
「勝三郎」
「まだ、親の温もりを必要とする年齢で引き裂かれたと、織田を恨んだりはしないでしょうか・・・」
「そんな・・・」
帰蝶の声が震える
「忘れられないんです。目蓋を閉じると、想い出されるんです。あの姫君が、守山で、私に振り返り、健気に頭を下げてくださったあの光景が、目に焼き付いて離れないんです・・・ッ」
「勝三郎、あなたの責任じゃないわ。自分を責めないで」
「甘いと、お笑いになられますか。こんなこと、どこの家でもやっていることです。奥方様も、政略で、大名家から豪族に嫁がれたお方です。政略の理不尽を、誰よりもご存知のはずです。ですが!」
優しい恒興の両目から、涙がボロボロ零れていた
「お二人を見ている私には、全ての政略が不幸だとは想えませんでした。なのに、こんな・・・、こんな・・・」
「勝三郎・・・」
千郷姫が幼ければ、荒尾家からそう達しが来てもおかしくなかった
「うちの千郷はまだ八つですよ」、と
だが、それすらなく織田の要求を飲んだと言うことは、千郷は荒尾の人身御供にされたのと同じである
娘を差し出す代わりに、西尾張の利権を捥ぎ取ったのだ
「あなたの言いたいことは、よくわかる。政略でも、不幸になる女も居れば、私のように幸せに暮らしている女も居る。でもね、だからって千郷姫様が不幸になるなんて、想わないで」
「奥方様・・・」
帰蝶は懐から折り畳んだ小さな手拭を抜き出し、恒興の顔を拭ってやった
「つらい役目を任せてしまったわね。苦しかったでしょう、悲しかったでしょう。幼い姫君を乗せた輿はきっと、涙で濡れていたでしょう。なら、千郷姫が笑って過ごせるよう、守山を、私達で守ってあげましょうよ。ね?」
「 」
何も言えず、恒興は涙を拭ってくれる帰蝶の手を握り締めた
そこに、なつの声が飛び込んで来る
「全く。他所の娘が嫁に入って、それがまだ年端が行かないと言うだけで、そんな醜態を晒すとは、情けないッ」
「は、母上・・・」
「なつ」
なつの後ろには、お絹が着いていた
「お絹、どうした」
「若、お絹殿が」
「なんだ?」
なつに促され、お絹は膝を落として手を着いた
「荒尾千郷様の侍女として、守山に行かせてくださいませ」
「え?」
「お絹?」
信長も帰蝶も、お絹の申し出に目を丸くする
「守山は、この清洲よりも末森にちこうございます。日頃の殿と末森の若様の不仲を見ていると、知多から遠く離れた守山にお輿入れなさった千郷姫様が不憫でなりません。わたくしが、千郷姫様をお守り申し上げます」
「お絹・・・ッ」
お絹の申し出に、帰蝶は恒興を放り投げその手を握った
「ありがとう、お絹・・・ッ」
「私が居ないからって、好き勝手なさっちゃ駄目ですよ?まぁ、おなつ様がいらっしゃいますから、大丈夫でしょうけど」
「お絹・・・」
お前の心配はそこか、と、突っ込みたい気分になる
が、突っ込めば倍返しにされるのは目に見えているので黙っている
嫁に入って七年
お絹となつの性格は、嫌と言うほど熟知していた
那古野の高級住宅街
ここは那古野でも大きな商家や武家の屋敷が連なる
そんな場所に、時親の屋敷はあった
初めはこじんまりとしたところだったが、屋敷当主の時親が斯波家、織田家の両家に仕えており、その両方から知行を与えられていることと、斯波家の子息を預かっていることで徐々に敷地は広がり、義銀ら三兄弟が暮らすための離れとして、別宅を建てた頃から『土田屋敷』と呼ばれるようになった
その土田屋敷の母屋に、義銀がひょこんと顔を覗かせる
「 お能」
「岩竜丸様?如何なさいました?」
周囲からも一目置かれるようになってから、お能の子らは其々乳母が付くようになった
一頃に比べればお能も、自由の身となっている
正月過ぎに生まれた娘・花にも乳母が付いており、お能の側には居なかった
「私も、清洲に戻った方が良いか・・・?」
「え?」
それは、恐る恐ると言った口調だった
「平三郎が清洲と那古野を行ったり来たりだ。お能も淋しくないか?」
「岩竜丸様」
子供の健気な言葉に、お能は苦笑いして手招きした
「岩竜丸様が、清洲に戻りたいと想ってらっしゃるのでしたら、私達はそれに従います。岩竜丸様がまだ戻りたくないと想ってらっしゃるのでしたら、もうしばらくしてからでも構いません」
「お能・・・」
「主人が居なくても、子供が大勢居ますからね、淋しいなんて想ってる暇なんてありませんよ。それに、岩竜丸様や、大滝丸様、日吉丸様もいらっしゃいますから、我が家は賑やかで、それこそ淋しくなんてありません。余計な気遣いは無用ですよ」
「・・・ありがとう、お能。でも、このままじゃいけないような気がするんだ」
「岩竜丸様」
「私も、斯波の子として、動かなきゃならない時期だと想うんだ。だから・・・・・・・」
言葉が上手く使えないもどかしさに、義銀は口唇を噛み締める
その様子を見て、お能は軽く息を吐いた
「なら、上総介様とご相談いたしませんか。うちの人が帰ったら、お話しましょう」
「うん、お能・・・」
生まれ付いての貴公子は、自分なりに立身を固めようとしている
その姿がいじらしかった
那古野に戻った時親から義銀の意向が伝わり、事実上斯波は信長に下ったことになった
これで織田は斯波を吸収することに成功し、岩倉、犬山を沈黙させれば信長が新しい尾張守護と認められることも夢ではない
周りが浮き足立っている中で、美濃の林、恵那の父から手紙が届いた
それは道三引退の知らせである
先月、土岐譜代の家臣を処刑したらしく、斎藤家の内部で大きな反発が起きた
「林の手紙に因れば、その家臣は土岐頼芸様を美濃に戻す計画を立てていたそうです」
「美濃に?」
「国主となってまだ日も浅いため、父も神経が尖っていたのでしょう。そこに頼芸様帰還計画が露見し、暴挙に出てしまったそうです」
だが、帰蝶の顔は至って穏やかだ
父親が小さなことで目くじらを立てたとしても、引退してしまった今、最早斎藤は兄に委ねられることとなった
兄はこれを契機に名を『利尚』から『義龍』に改名
美濃の新守護として新しい政権を発足させた
既に美濃衆の殆どが兄に着いている
これで美濃は兄を中心に纏まりを見せるはずだと、帰蝶は踏んでいた
「あちらも無血の世代交代を果たせたようで、私も安心しました」
「帰蝶・・・」
「父は鷺山に引込んで、大人しく余生を過ごすそうです」
「それでお前は納得してるのか?」
「はい」
迷いなく返事する帰蝶に、信長は違和感が拭えない
「たった二年間だけの『美濃守護』でしたが、美濃衆は父にではなく兄に集まっております。下手な抵抗を見せて民の信用を失うよりも、大人しく引き下がって後継者に任せるのも悪くはないと想います」
「そうか」
それなら良いんだが、と、信長は言葉を飲み込んだ
今は他人の家の心配をしている暇はない
自身、尾張の守護として認めてもらわなくてはならないのだから
時親に付き添われて、義銀が信長に謁見した
以前は義銀が上座、信長が下座だったが、今は逆
信長が上座で、義銀が下座に座す
「よく、決心なされた。この信長、岩竜丸様のご決断、嬉しく存じます」
「私以下、大滝丸、日吉丸、共に織田殿のため尽力したいと願っております」
「大歓迎です。しかし、弟君は何れもまだ幼い。今直ぐと言うわけには参りませんので、もうしばらく養育なさっては」
「ですが、いつまでも平三郎に甘えているわけには参りません」
「なら、小姓として着いていただきます」
「小姓?」
そんな高い地位から始めて良いのかと、義銀は信長の顔をじっと見た
「誰よりも誇り高い斯波のご子息方、武家の仕来りはよくご存知のはずです。小姓から始めても文句は出ませんよ」
「 」
人懐こい、信長の笑顔に義銀も心を解した
「 よろしくお願い申し上げます」
嘗て、主家の子息として頭を下げられる立場であった義銀が、自ら信長に平伏する
仮想ではあっても、『信長尾張守護』が誕生した瞬間だった
結果に満足した帰蝶は、清洲城下に義銀ら兄弟の暮らすための屋敷の建設に取り掛かる
例え向うから譲渡したとは言え、充分なことをしなければ世間の目は厳しい
ぞんざいに扱えば、そのしっぺ返しを食らうのは自分達なのだから
この時、義銀は十六、次男大滝丸十五、三男日吉丸は十一だった
部隊を任せられる年齢ではない
増してや日吉丸は、まだ元服すら済ませていなかった
義銀、大滝丸は信長の小姓として清洲城で暮らすことになったが、日吉丸はまだ幼いため局処の、なつの手に委ねられることで落ち着いた
それでも兄弟らの屋敷を建てるのは、織田が斯波を保護している印象を与えなければならないからだ
何れ屋敷が完成したら、そこに移ってもらう
同じ頃、政秀寺から使者がやって来る
去年の夏、信友の子を出産した岩室あやの使者であった
信長の名代として帰蝶が向った
お久し振りでございますと、互いに挨拶を交わし、あやは生まれた子を帰蝶となつに紹介した
「夕凪・・・、と、申します・・・」
「夕凪様。まるまるとした、立派な男児で」
「それで、あや様のご意向は?」
聞いて来る帰蝶に、あやは応えた
「この子を、織田様のお役に立つよう、養育いただけませんでしょうか」
「え?」
あやの申し出に、帰蝶だけではなくなつ、付き添った貞勝も目を丸くする
「聞けば岩竜丸様が織田様の軍門に下ったと」
那古野城は直ぐ近くなのだから、情報は入りやすいのだろう
「ならばこの子も、織田様のお役に立てたいと考えました」
「ですが、夕凪様のお父上は・・・」
「生まれた後では、因果関係などございません。増してや、私はできることなら父親のことは伏せて育てとうございます」
元々病弱そうな顔付きの美女だが、そのあやが嘆願すると断れない雰囲気になる
帰蝶の一存ではあってもそれに快諾し、あやの体調が落ち着けば清洲に戻ってもらうことで話は纏まった
「徐々に、若の基盤が固まりつつありますね」
帰り道、清洲に近い町から帰蝶はなつと並んで歩いた
「こんな日が来るなんて、想ってもみませんでした」
「そうね」
自分達の少し後ろを貞勝が歩き、その更に後ろから二人を乗せていた籠が着いて来る
「これも、奥方様が嫁いで来られてからですよ」
「ええ?」
「『尾張のうつけ者』でしかなかった若が、あなたを妻に娶ってからめきめきと頭角を表しました」
「それは、元々吉法師様が持ってらした力よ。私は何もしてないわ」
「いいえ。若の力を引き出したのは、あなたですよ、奥方様」
「なつ・・・」
「大した方ですね、斎藤帰蝶様と言うお方は」
「 」
誉められて、素直に嬉しくて、少し顔を赤らめて俯く
「少し、寄り道いたしましょうか」
「どうして?」
「私、一度お団子屋と言うところに行ってみたかったんです」
「それなら、美味しいお店を知ってるわ。行きましょう」
途端に元気良くなつの手を引く
「まぁ!やっぱり買い食いの常習犯だったんですね?尾張守護になろうかと言う方の妻が、なんと言うはしたないことを」
しまった
そう想ったところで、後の祭りだった
結局茶店に着くまで帰蝶は、延々となつの説教を食らった
「でも、美味しいから許して差し上げます」
その店の団子が気に入ったのか、食べた途端なつの機嫌が良くなる
「 ありがとう」
心中複雑な気分の帰蝶であった
信長の『尾張守護』への道が着々と固まりつつある中、やはり信勝の機嫌は悪かった
正式に守護に任命されれば、兄嫁に手出しするのは勿論、兄にすら歯向かうのは不可能になる
守護に手出しをして無事で済まないのは、織田信友がその身を持って証明しているのだから、聡明な信勝がわからないはずがない
こうなれば、と、信勝は益々義龍との懇意を深めて行った
それは義龍の思う壺であることを、この時の信勝も、その母市弥も気付いていなかった
いつもより穏やかな春が来た
尾張の地にも桜の蕾が綻び始め、衣替えに城の中は俄に忙しくなる
「村井」
自分の甲冑を手に、信長が局処にやって来た
「はい、なんでございましょう、殿」
帳面を付けていた貞勝が振り返る
同じ部屋には帰蝶となつも居た
ここは局処の執務室のようである
の割には、随分と砕けた雰囲気の部屋であるが
そうだろう
部屋の中には何故か子供がごちゃごちゃと居る
局処で働く侍女の子供が殆どだが、一人先に清洲に戻った日吉丸が加入したことで賑やかさも一入だ
義銀、大滝丸は後から時親に連れられ、ここに戻る予定である
唯一、恵那の息子の傅兵衛だけが大人しく静かに大人の仕事の手伝いをしているだけだった
他の子は、どたばたと部屋の中を駆け回っている
信長は目を丸くして言った
「こんな状況でよく、仕事なんかできるな、お前達」
「馴れればなんてことありません」
と、なつが応える
「託児所か、ここか」
「かも知れませんね」
と、帰蝶が返事した
「ところで、殿のご用件は?」
「ああ、そうだ。この光景に、当初の目的をすっかり忘れてた」
と、手にしていた甲冑を貞勝に手渡す
「これの修繕を頼む。裾のところが綻んで来てるんだ」
受け取り、確認する
「ああ、確かに。では、直ぐにでも」
「頼んだ」
「それだけのために、局処にお越しになったんですか?」
不思議そうな顔をして聞く貞勝に、なつが割り込む
「野暮なこと言わないの。奥方様がご入り用なのでしょう?若」
「え?」
まだ夕暮れも遠いのに?と、帰蝶が目を開く
「ああ、ちょっとな」
「どうぞ、どうぞ。ここに居られては、子供達と一緒に騒ぐだけですから、どうぞお引取りくださいませ」
と、なつは嬉々として帰蝶の背中を押した
「すまんな」
信長は帰蝶の手を掴み、執務室を出て行った
「ごゆっくり~」
喜びの声を上げて見送るなつに、貞勝はキョトンとして言う
「まだ日はあるでしょうに」
「どうせ、末森対策でも話し合うんでしょ」
「末森?」
「最近、やたらと向うの動きが活発だから。かと言って、大方様と勘十郎様のことだから、決して尻尾は掴ませない。だから、軍議でも開かれるおつもりよ」
「それなら表座敷で」
「莫迦ね。相手は奥方様のご実家、斎藤よ?話しにくいことだってあるでしょうに」
「 そうでしたな・・・」
「どうしたんですか、吉法師様。なんだか落ち着かないご様子ですね」
「 」
なんでもない顔をしているのに、妻は何故自分の変化に気付いたのだろう
そんな想いを浮かばせて、信長は振り返った
「 兎に角、お前の部屋に」
「はい」
いつになく真面目な顔をしている夫に、帰蝶はキョトンとしながら自室に戻った
部屋に入るなり、信長は有無を言わさず帰蝶を抱き寄せる
突然のことに帰蝶は驚いた
「い、如何なさいましたか、吉法師様」
「帰蝶」
何かを口にしようとする帰蝶の口唇を、信長は口付けで塞いだ
そのまま押し倒され、されるがまま帯が解かれる
「吉法師様・・・ッ?」
こんな風に、野性的に自分を求める夫は、初めてだった
心が戸惑う
「きっ、吉法師様・・・ッ」
信長の手が裾を割って太腿の内側を掴む
夫は、何に動揺しているのか
斯波の三兄弟が軍門に下り、あやの生んだ子も斯波の子として養育されることが決まり、将来は義銀らと同じく信長の許に馳せ参じる約束を交わした
尾張の守護の席も、信長にと言う声が上がり始めている矢先だ
全てが順風満帆に進んでいると言うのに、夫が自分を押し倒してでも獣になる理由がわからなかった
信長が帰蝶の深い場所で弾け、躰中から力が抜けた頃になって漸く、その経緯を話す
「 お前の兄貴が・・・」
掠れた声が流れた
「兄・・・?」
信長の攻めに、頭が朦朧となっていた
誰のことか、直ぐには理解できなかった
「殺されてた・・・」
「え 」
薄れる意識の中で、信長の声だけがはっきり聞こえる
「去年の十一月。喜六郎が死んだ同じ月、お前の兄貴二人が、斎藤義龍に殺されていた」
「 」
ついこの間、美濃の林から手紙が届いたばかりだった
「どうしてですか。何故奥方様にその情報が届かなかったのですか」
なつが、帰蝶の代わりにその場に座っていた
突然の知らせに帰蝶の方が動揺し、起きていられる状況ではなくり、自室の寝室に伏せてしまった
この席に、恵那も呼ばれる
帰蝶に道三引退の知らせを送ったのは恵那の父なのだから、何故肝心なことを知らせなかったのかと、その問責の場に引き摺り出されたのだ
「父との連絡が取れなくなってしまいました。恐らくは斎藤の妨害に因るものかと」
恵那とて、年老いた父の心配くらいしたくなる
自分は高齢になってからの最後の子で、どれだけ可愛がられていたか、斎藤の人間なら誰もが知っている
夫である可成も、舅の身を案じた
「武井・・・、武井様からは、何も知らせて参りませんでしたよ?だって、そうでしょう?武井様は、奥方様の味方ではなかったのですか?何故その武井様からも、何も知らされなかったのでしょう?」
ここに居る全員が、その理由を知りたいと想っているはずだ
なつがどれだけ信長を責めたところで、それに答えられる者は一人としていない
「つまりは、帰蝶の実兄二人の殺害は極秘裏に行われ、息子を殺された道三が慌てて義龍に家督を譲り、引退した。恵那の父親は、その顛末を知らなかったのではないか?」
「まさか、それに末森が噛んでいるなんてこと、ありませんよね?」
「わからん」
なつの質問に、信長は応えられない
この場に居る可成、恵那、貞勝の何れも、同じだ
「 どうして・・・」
寝込んでしまった帰蝶は、布団の中でそう呟いた
「姫様・・・」
側で看病している菊子は、つい、昔の呼び方をしてしまった
「今、うちの人が美濃でその情報を集めてます。孫四郎様や喜平次様がどうして殺されたのか、それを知るために・・・」
「知ったところで、どうなるの・・・?」
「姫様 」
「父様の引退の裏に、兄様達の死があったなんて・・・、想像もしてなかった・・・。どうして・・・・・・・・・・・」
「 」
嫁いだ先の織田は順調良くことが運んでいるのに、どうして実家は事変続きなのかと、その重苦しい事実が帰蝶を蝕んだ
息子を殺され、その上土岐家譜代の家臣を処罰したことで、父の進退は決まってしまったのだろう
つまりは、父も自分で自分の首を絞めたのだ
それに全く気付かなかった
いつもより穏やかな春だと想っていたそれは、錯覚だった
弥三郎が戻ったのは、その翌日だった
そもそもの始まりは、信長が市井に出て斎藤家の事変を噂で聞いたことから始まる
「斎藤の次男坊と三男坊が殺されたらしいぞ」
そんな実しやかな噂が耳に入り、道三引退劇の舞台裏が覗かれた
他人の家なら兎も角、事件が起きたのは妻の実家だ
しかも、自身の家で騒動が起きたのと同じ時に、それが湧き上がったのだから、誰かしらの意図を感じずにはいられなかった
「日頃より斎藤様の、ご嫡男を難じる言葉は多かったようです。随分前に奥方様から聞かされた時は、まぁ、どこにでもある親子の不仲と想っていたのですが、老い耄れだ、盆暗だと、次男の孫四郎が後継者に相応しいとまで言い出した始末。この辺りの事情は、ご存知かとは想いますが」
「ええ・・・」
「そしてご嫡男がご自分の身を案じた末、後継者争いの対抗馬ともなり得るご次男とご三男を相次いで殺害し、家内の土岐派を纏め上げたのが事の発端です」
「糸を引いていたのは?」
「道三様のご実家、長井家ではないかと」
「長井が?!」
側で聞いていた帰蝶が声を張り上げた
「ち・・・、父は、実の弟にまで裏切られたと言うのですか・・・」
義龍と長井家が手を組んだことは以前から知っていたが、精々父との兄弟間での争い程度の話だと想っていただけに、帰蝶の衝撃は大きかった
まさか甥を殺すなど、想像もしていなかったのだから
実家の出来事はそのまま、信長、信勝にも反映された
もしも、夫の暗殺が今も生きている計画だったら・・・・・・・・
「大丈夫か?」
顔色の青い帰蝶を一人にしておけないと、信長自ら寝室に運んでやる
その後には、やはり心配顔のなつが付き添っていた
「武井とやらがお前に知らせなかったのは、何か理由があったはずだ」
「理由・・・」
「こちらでも、喜六郎様の事件がありましたからね、奥方様のお心を煩わせては、と、案じられたのではないでしょうか」
なつも、励ますように声を掛ける
「そうだとしても、孫四郎兄様も喜平次兄様も、私の実の兄弟です・・・。なのに、何も教えてくれないなんて・・・」
「帰蝶、済んでしまったことをあれこれ言っても、詮無きことだ。つらいかも知れんが、耐えてくれ」
「吉法師様・・・」
そうだ
夫も、平々凡々と毎日を過ごせるわけではないのだ
義銀が夫に下った今、信勝も父と同じように神経を尖らせているに違いない
そうなれば、どんな妨害工作を仕掛けて来るかわからない今、他のことに神経を回している場合じゃない
そう想った
薄情かも知れないが、死んでしまった人間のことを想うよりも、生きている人間を想う方が前進的だと帰蝶は考えていた
それが現実のものになっただけだ
今は、夫を守ることに集中しよう
帰蝶は信長の手を、ぎゅっと握り締めた
指先は細く、だけど手の甲は広く大きな夫の手を、帰蝶はいつまでも握り続けた
那古野から時親一家が義銀ら兄弟を引き連れ、清洲に引っ越して来た
義銀達三兄弟はそのまま生まれ育った清洲に上がり、時親、お能家族は城下の中古屋敷に移る
父親の死んだ部屋には行きたがらない義銀を気遣って、当面は一足先に清洲に入った日吉丸と同じ局処で暮らすことになり、子供達で益々賑やかになって行く
その賑やかさに、帰蝶の憂さも少しは薄れた
何より、御曹司として育った割りに、時親夫妻と接している間に面変わりしたか義銀の、人当たりの良さに胸を撫で下ろす
「しばらくご厄介になります」
自分に頭を下げる義銀に、帰蝶も応える
「お屋敷は、後一月も掛からない内に完成すると想います。それまで、どうかご辛抱くださいませ」
「何から何まで、痛み入ります」
「いいえ、これくらいのことしかできず」
嘗て、家臣の家臣でしかなかった勝幡織田に下るのだ
どんな温厚な人間であったとしても、その心中は穏やかではないだろう
それでも、一から仕切り直そうとする義銀の姿勢を見ていると、どうしても応援したくなるのが心情と言うものである
義銀、そして秀頼と名を改めた大滝丸が表座敷に呼ばれ、信長の家臣らと対面をする
幼い兄弟は、何れも自分に頭を垂れていた男達に、逆に頭を下げなくてはならない身分になった
つらくても、乗り越えなくてはならない
それが、この時代なのだから
「大したもんだよ、岩竜丸は」
この日の夜、信長は帰蝶の部屋で晩酌を受けていた
夫婦水入らずで語り合う
「そうですか、そんなに立派に立ち振る舞われたのですか」
「織田に下るのだから、斯波を名乗ることはできない。先祖からの名を汚すことになるからな。だから、これからは斯波の傍流である津川を名乗るそうだ」
「津川ですか」
津川は、織田に言い換えれば『津田』、土岐で言い換えれば『明智』に当たる
名は違えど、何処の家よりも主流に最も近い、一門の中では特別待遇に相当する『氏』であった
どこの氏族もそう言った、『主家ではないが、それに該当する権力を持つ』名は存在する
今の斎藤で言えば、『長井』がそれである
「名も、義銀から義近に変えた」
「良いお名前ですね」
「何不自由なく育った御曹司だからな、どんな難があるかと心配していたが、岩竜丸も大滝丸も立派なもんだ」
「きっと、お能に躾け直されたのでしょうね。お能の実家は、相当躾に煩い家柄ですもの」
「そうなのか。道理でお能は一本筋の入った女だと想っていた」
「岐阜屋は美濃でも数百年続く大店ですから」
「そんなにもか」
「ここだけの内緒ですが、京から美濃にやって来た祖父が、奉公に入ったお店なんです」
「なんと」
帰蝶の告白に、信長は目を丸くした
道三の父・松波新左衛門尉は、元々は京の妙覚寺の末弟僧侶だった
それが何を想ったか突然寺を飛び出し、しばらくは京の都で油売りをしていたものの、行商で近江に渡り、美濃にやって来た
美濃に移ってお能の実家、『岐阜屋』で奉公をしていたのだが、その当時から土岐家も得意先だった『岐阜屋』の口添えで、土岐家家臣斎藤の、更に家臣である長井家に仕官したのが始まりだった
『岐阜屋』は、井ノ口が岐阜と呼ばれていた以前から、長森の大店であったのが幸いする
但し、新左衛門尉が美濃にやって来た頃のその場所は、『岐阜』と呼ばれていた
『井ノ口』は道三が斎藤を世襲した頃に改名されたもので、元々は『岐阜』である
それだけで、お能の実家がどれだけ長く伝統を誇っているか、物語るには充分だった
帰蝶はそれを信長に話して聞かせた
新左衛門尉、道三親子の美濃取りは、どんな男も憧れる対象である
行商から国主にまで上り詰めたのだから、それは未だ誰も成し得たことのない偉業だ
尚更であろうか
そんな男達の血が、帰蝶には脈々と流れている
「時々考えるんだ」
穏やかな小さな声で、信長は言った
「もしもお前が女房じゃなかったら、俺はどうだっただろうか、って」
「吉法師様」
帰蝶はたおやかな微笑みで、信長を見詰める
その帰蝶を、信長はそっと抱き寄せた
お能が側に戻って来たからか、ここのところ帰蝶にも以前の穏やかさが戻った
兄弟を殺された衝撃は、帰蝶を酷く傷付けていたのだから
「きっと今も、小さな豪族のまま、周りから変わらず『うつけ』と呼ばれていたに違いない」
「吉法師様は、うつけなどではありません」
「帰蝶」
「初めて逢った時から帰蝶は、あなたに嫁げたことを誇りに想ってます」
「そう、想ってくれるか」
「当然です」
信長の腕の中で、帰蝶はにっと笑った
その帰蝶に、信長は顔を近付ける
やがて、二人の口唇と躰が重なった
目蓋を閉じれば、今も想い返される
初めて信長と逢った時のことを
『お清』との別れに涙し、落胆していた自分に、精一杯の誠意で迎え入れてくれた、この夫のことを
今も変わらぬ弾ける笑顔で迎え入れてくれたことを
信長が夫だったからこそ、自分は幸せに暮らしているのだと、信長の肌の温もりに包まれながら実感した
帰蝶の細い躰に信長の太い腕が絡み付く
信長の広い背中に帰蝶の細い腕が絡み付く
どこからどこまでが其々の肌なのかわからないほどに絡み合い、溶け合う
信長の愛撫に反応し、帰蝶の背中が仰け反った
躰の線は細く、適度な運動もしているからか、帰蝶の腰は男の掌が回るほど括れていた
だが、乳房は信長の愛を一身に受けているのを象徴しているかのように、この頃の女にしては異様に大きかった
食糧事情が重なったとしても、均等の取れた栄養を摂取すると言うのは難しいものだ
どれだけ裕福な家庭であったとしても、男も女も栄養過多か栄養不足になりがちで、結果、『脚気』か『肥満』のどちらかに偏る
だが、魚も肉も同じように摂れる食事をしているからか、信長の家は誰もが均等の取れた体型をしていた
尾張の、魚と野菜を主とした食文化と、美濃の、馬肉を食す食文化が融合し、この時代には稀なほど恵まれた体型である
男は背が高く、女は乳房が豊かだ
結婚した当初、信長は誕生月が来ていなかったので十五、帰蝶は十二になったばかりで、どちらも育ち盛りだった
そんな頃に異食文化が合わさったのだから、均等の取れた食事ができたと言えよう
帰蝶は川魚なら食卓に上るが、それだけではやはり栄養は偏るものである
尾張の海で獲れた魚を食するようになってから、信長と同じく背が伸び始めた
元々の遺伝もそうなのかわからないが、局処では一番背が高い
その上、乳房も女らしく大きい
当時の女の体型を考えれば、確かに『異常』と言っても仕方がないだろう
その乳房が、背中が仰け反ることで自然と上に持ち上げられ、ツンと尖った乳首が突き出される形になった
信長は透かさずその乳首を口に含み、舌先で優しく転がした
途端、帰蝶の喉から甘い吐息が零れる
信長の大きな手が、帰蝶の乳房を包むようにそっと掴む
それでも帰蝶の乳房は信長の手から食み出た
互いの体温が高まるところまで高まり、やがて信長のそれが帰蝶の中に侵入して来る
「あぁッ!」
帰蝶の嬌声が一際高くなった
信長の腰の動きに引き摺られ、帰蝶の躰も大きく上下する
その躰の動きで、帰蝶の乳房、その先端にある乳首が左右逆の上下の軌跡を描いて大きく揺れた
いつまでも、こうして溶け合いたい
そう願うのは、堕落した考えだろうか
それでも良い
いつまでも、こうして夫と溶け合いたかった
幸せを、最も実感できる瞬間だったから・・・・・・・・・・・・
何度か帰蝶の中で放ち、やがて腰が言うことを聞かなくなり、漸く信長の動きが止まった
「はぁ・・・っ」
大きな溜息を吐き、帰蝶の直ぐ隣に身を投げる
「満足したぁ・・・」
「吉法師様・・・」
赤裸々に呟く信長に、帰蝶は苦笑した
そうする帰蝶も実際、躰が重く感じるほど愛された
そっと、横たわる信長の上に上半身を重ね、信長の胸に手を乗せる
信長は帰蝶の頭を軽く抱き締め、帰蝶が躰から放つ香りを楽しんだ
「ああ・・・、いよいよだなぁ・・・」
「ええ・・・」
余韻の残る中、二人の会話はいつも掠れた小さな声だった
それほど、一夜に何度も肌を重ねるのが常だった
だが、この夜はいつも以上に重ね、熱く放ち合った
『尾張国主』の席が近付いたことを、義銀改め義近が手元に転がって来たというのがそれを実感させたからか、いつもより興奮していたのは間違いない
「やっと、約束が果たせる時が近付いて来た」
「約束?」
「お前の親父殿に、さ」
「父に?」
「じぃが死んだ年、正徳寺でお前の親父殿と会見しただろ」
「 ええ・・・」
政秀の死は、『病死』ではなく『自刃』だ
想い返されれば、今も胸が重くなる
自分が政秀を追い込んだのも同じなのだから
「その席でな、親父殿に約束したんだ」
「なんて?」
「お前を、必ず尾張国主の妻にしてみせる、って」
「 」
そんな約束をしていたなんて、今、初めて聞かされる
帰蝶は目を見開いて信長の横顔を見詰めた
「吉法師様・・・」
「そんなキラキラした目で俺を見るな。また、むくむくと起き上がるだろ?」
「え?」
訊き返す間もなく、信長は帰蝶の上に覆い被さって来た
帰蝶はそれを無言で受け入れる
肌蹴た布団の裾から、帰蝶のたわわに実った乳房が覗き出る
その乳房を信長が片手でぎゅっと握り締めた瞬間、帰蝶が声を上げると同時に廊下からバタバタと激しい駆け足の音が響き、利家の大声が響き渡った
「殿ぉーッ!」
こちらの了解も得ず、利家がばっと襖を開け放つ
帰蝶の乳首を咥えていた信長は驚き、上半身を上げた
当然、利家の両目に帰蝶の乳房が乳首ごと丸写しになる
「きゃぁ ッ!」
帰蝶の長い悲鳴が響き渡り、信長が叫ぶ
「どうしたッ!」
「と、殿!一大事でございますッ!」
信長は詫びも入れる余裕のない利家の許へ、素っ裸のまま駆け寄った
「何事だ」
「み、・・・美濃で大事変!」
「美濃で?」
帰蝶も恥しいと言う気持ちがどこかに飛んだのか、布団から飛び跳ねると側にあった小袖を軽く羽織って信長の隣に駆けた
「斎藤道三様、鶴山にて挙兵ッ!」
「 ッ」
どうして大人しく隠居しててくれなかったのか
どうして勝てる見込みのない相手に戦いを挑んだのか
どうして
「今直ぐ城に居る者を表座敷にッ!」
「はっ!」
吉法師様
「吉法師様・・・・・・・・・」
自分の女物の小袖一枚を肩に掛け、部屋を出て行こうとする信長の背中に、しがみ付きたい気持ちになった
行かないで、吉法師様・・・・・・・・・・・・
大事な物が、この掌から零れてしまうような、そんな不安とも焦りとも付かない想いに襲われる
帰蝶は表座敷に向う信長の背中を、ただぼんやりと見送ることしかできなかった
信長が自らの手で進めた縁談であるため、織田からも充分なことをしたいと申し出、恒興が迎えに行くことになった
荒くれた織田家臣の中では、恒興が一番上品な物腰だからだ
常滑の寺で待機している千郷の一行を迎え入れるため、恒興の連れた織田の使者達もその寺に合流する
帰蝶の嫁入りの際の、平手政秀や河尻秀隆、林秀貞と同じ意味であった
「お待たせしました、織田家迎えの池田恒興でございます」
「お待ちしておりました、荒尾家名代千草秋早でございます」
「千郷姫様は」
「はい、こちらでお待ちです」
千草と名乗る壮年の武将に案内され、千郷の待つ控えの間に足を運ぶ
「姫様、織田家の方がお越しになられました」
「失礼致します、わたくし、織田家代表池田恒
嫁入りする千郷姫を目に、恒興は口をぽかんとし、目蓋は大きく開いた
「
言葉が出ない
そうだろう
「態々のお迎え、痛み入ります」
座布団の上に座らされ、自分に頭を下げる千郷姫は、『少女』だった
また年端も行かない
この頃の武家の娘は八歳で嫁入り準備の意味を持つ『裳着』を済ませる
その年になれば、いつでも何処の家にでも嫁に行く覚悟ができていると言う証としての儀式だが、実際に嫁に行くのはもっと先である
一般家庭と比較すれば年齢差もあろうが、武家ならば十四から十六までに嫁に行くのが一般で、帰蝶はそれより若干早婚の類になる
それでも乱暴な話ではない
しかし、恒興の前に居る荒尾の千郷姫は、どう見てもその結婚適齢期にも達していない
見た感じではまだ七つか、そのくらいの年齢にしか想えなかった
「あの・・・、こちらが千郷姫様・・・で?」
恒興は確認するように、千草に聞いた
「そうです。荒尾家姫君、荒尾千郷様でございます」
「まだ・・・」
幼いではないか
そう出て来そうになる言葉を、恒興は必死で飲み込んだ
「裳着は既に済ませておりますので、問題はないかと存じます」
「姫様は一体、おいくつで・・・」
「今年で九つになります。何か不都合でも?」
「いえ
顔と言わず全身から脂汗が吹き出て来るのを、恒興は自覚した
なんと言うことだろうか
夫になる信時は信長と同年で、この春に二十二になる
年齢差は十三
決して、不思議なほど差が開いているわけではない
親子ほど年の離れた夫婦などいくらでも存在するのだから
恒興が驚愕したのは、信長が嫌っていた政略のあるべき姿が具現し、自分の目の前に居ることである
調べでは荒尾家には、適齢期の娘が何人か居たはずだ
長女は既に他家に嫁いでいるが、それ以外の娘がこの千郷姫以外居ないわけではない
なのに何故、と、頭の中で脳ミソがぐるぐる回るような感覚に陥った
あからさまに「荒尾は織田に屈した」とでも言いたげな、そんな理不尽さが滲み出ていた
正気か
恒興はそう、想った
「守山までの道中、お世話になります」
小さくか弱い声で必死になって挨拶する千郷に、恒興は慌てて平伏した
「この池田恒興、命に代えてもあなた様をお守りいたしますッ!」
「
生来、心根の優しい恒興だからか、その偽りのない誠実な気持ちに、千郷は頼りなげに微笑んだ
尚更、この幼い少女が不憫に感じられた
戻った恒興の報告に、信長も顔色を変える
「待て・・・。千郷姫は、確か十五のはずだぞ・・・」
「十五は三女の雪姫様でございました・・・。千郷姫様は八つ、今年の夏で九つになると・・・」
「どこで情報が間違ったのでしょうか・・・」
側で聞いていた帰蝶も、眉間に皺を寄せて項垂れる
「間違っていようとも、こちらの勘違いで幼い娘を政略に使ったのか、荒尾は・・・ッ」
悔しさの込められた声だった
「吉法師様・・・」
「だが、いくら誤りだからと言って、この婚儀をなかったことにはできん。せめてこちらから、千郷姫には精一杯のことをしてやるだけだ」
「はい」
「殿・・・」
呟くように、恒興が声を絞り出す
「あの小さき姫君は、どんな想いで故郷を離れたのでしょうか・・・」
「勝三郎」
「まだ、親の温もりを必要とする年齢で引き裂かれたと、織田を恨んだりはしないでしょうか・・・」
「そんな・・・」
帰蝶の声が震える
「忘れられないんです。目蓋を閉じると、想い出されるんです。あの姫君が、守山で、私に振り返り、健気に頭を下げてくださったあの光景が、目に焼き付いて離れないんです・・・ッ」
「勝三郎、あなたの責任じゃないわ。自分を責めないで」
「甘いと、お笑いになられますか。こんなこと、どこの家でもやっていることです。奥方様も、政略で、大名家から豪族に嫁がれたお方です。政略の理不尽を、誰よりもご存知のはずです。ですが!」
優しい恒興の両目から、涙がボロボロ零れていた
「お二人を見ている私には、全ての政略が不幸だとは想えませんでした。なのに、こんな・・・、こんな・・・」
「勝三郎・・・」
千郷姫が幼ければ、荒尾家からそう達しが来てもおかしくなかった
「うちの千郷はまだ八つですよ」、と
だが、それすらなく織田の要求を飲んだと言うことは、千郷は荒尾の人身御供にされたのと同じである
娘を差し出す代わりに、西尾張の利権を捥ぎ取ったのだ
「あなたの言いたいことは、よくわかる。政略でも、不幸になる女も居れば、私のように幸せに暮らしている女も居る。でもね、だからって千郷姫様が不幸になるなんて、想わないで」
「奥方様・・・」
帰蝶は懐から折り畳んだ小さな手拭を抜き出し、恒興の顔を拭ってやった
「つらい役目を任せてしまったわね。苦しかったでしょう、悲しかったでしょう。幼い姫君を乗せた輿はきっと、涙で濡れていたでしょう。なら、千郷姫が笑って過ごせるよう、守山を、私達で守ってあげましょうよ。ね?」
「
何も言えず、恒興は涙を拭ってくれる帰蝶の手を握り締めた
そこに、なつの声が飛び込んで来る
「全く。他所の娘が嫁に入って、それがまだ年端が行かないと言うだけで、そんな醜態を晒すとは、情けないッ」
「は、母上・・・」
「なつ」
なつの後ろには、お絹が着いていた
「お絹、どうした」
「若、お絹殿が」
「なんだ?」
なつに促され、お絹は膝を落として手を着いた
「荒尾千郷様の侍女として、守山に行かせてくださいませ」
「え?」
「お絹?」
信長も帰蝶も、お絹の申し出に目を丸くする
「守山は、この清洲よりも末森にちこうございます。日頃の殿と末森の若様の不仲を見ていると、知多から遠く離れた守山にお輿入れなさった千郷姫様が不憫でなりません。わたくしが、千郷姫様をお守り申し上げます」
「お絹・・・ッ」
お絹の申し出に、帰蝶は恒興を放り投げその手を握った
「ありがとう、お絹・・・ッ」
「私が居ないからって、好き勝手なさっちゃ駄目ですよ?まぁ、おなつ様がいらっしゃいますから、大丈夫でしょうけど」
「お絹・・・」
お前の心配はそこか、と、突っ込みたい気分になる
が、突っ込めば倍返しにされるのは目に見えているので黙っている
嫁に入って七年
お絹となつの性格は、嫌と言うほど熟知していた
那古野の高級住宅街
ここは那古野でも大きな商家や武家の屋敷が連なる
そんな場所に、時親の屋敷はあった
初めはこじんまりとしたところだったが、屋敷当主の時親が斯波家、織田家の両家に仕えており、その両方から知行を与えられていることと、斯波家の子息を預かっていることで徐々に敷地は広がり、義銀ら三兄弟が暮らすための離れとして、別宅を建てた頃から『土田屋敷』と呼ばれるようになった
その土田屋敷の母屋に、義銀がひょこんと顔を覗かせる
「
「岩竜丸様?如何なさいました?」
周囲からも一目置かれるようになってから、お能の子らは其々乳母が付くようになった
一頃に比べればお能も、自由の身となっている
正月過ぎに生まれた娘・花にも乳母が付いており、お能の側には居なかった
「私も、清洲に戻った方が良いか・・・?」
「え?」
それは、恐る恐ると言った口調だった
「平三郎が清洲と那古野を行ったり来たりだ。お能も淋しくないか?」
「岩竜丸様」
子供の健気な言葉に、お能は苦笑いして手招きした
「岩竜丸様が、清洲に戻りたいと想ってらっしゃるのでしたら、私達はそれに従います。岩竜丸様がまだ戻りたくないと想ってらっしゃるのでしたら、もうしばらくしてからでも構いません」
「お能・・・」
「主人が居なくても、子供が大勢居ますからね、淋しいなんて想ってる暇なんてありませんよ。それに、岩竜丸様や、大滝丸様、日吉丸様もいらっしゃいますから、我が家は賑やかで、それこそ淋しくなんてありません。余計な気遣いは無用ですよ」
「・・・ありがとう、お能。でも、このままじゃいけないような気がするんだ」
「岩竜丸様」
「私も、斯波の子として、動かなきゃならない時期だと想うんだ。だから・・・・・・・」
言葉が上手く使えないもどかしさに、義銀は口唇を噛み締める
その様子を見て、お能は軽く息を吐いた
「なら、上総介様とご相談いたしませんか。うちの人が帰ったら、お話しましょう」
「うん、お能・・・」
生まれ付いての貴公子は、自分なりに立身を固めようとしている
その姿がいじらしかった
那古野に戻った時親から義銀の意向が伝わり、事実上斯波は信長に下ったことになった
これで織田は斯波を吸収することに成功し、岩倉、犬山を沈黙させれば信長が新しい尾張守護と認められることも夢ではない
周りが浮き足立っている中で、美濃の林、恵那の父から手紙が届いた
それは道三引退の知らせである
先月、土岐譜代の家臣を処刑したらしく、斎藤家の内部で大きな反発が起きた
「林の手紙に因れば、その家臣は土岐頼芸様を美濃に戻す計画を立てていたそうです」
「美濃に?」
「国主となってまだ日も浅いため、父も神経が尖っていたのでしょう。そこに頼芸様帰還計画が露見し、暴挙に出てしまったそうです」
だが、帰蝶の顔は至って穏やかだ
父親が小さなことで目くじらを立てたとしても、引退してしまった今、最早斎藤は兄に委ねられることとなった
兄はこれを契機に名を『利尚』から『義龍』に改名
美濃の新守護として新しい政権を発足させた
既に美濃衆の殆どが兄に着いている
これで美濃は兄を中心に纏まりを見せるはずだと、帰蝶は踏んでいた
「あちらも無血の世代交代を果たせたようで、私も安心しました」
「帰蝶・・・」
「父は鷺山に引込んで、大人しく余生を過ごすそうです」
「それでお前は納得してるのか?」
「はい」
迷いなく返事する帰蝶に、信長は違和感が拭えない
「たった二年間だけの『美濃守護』でしたが、美濃衆は父にではなく兄に集まっております。下手な抵抗を見せて民の信用を失うよりも、大人しく引き下がって後継者に任せるのも悪くはないと想います」
「そうか」
それなら良いんだが、と、信長は言葉を飲み込んだ
今は他人の家の心配をしている暇はない
自身、尾張の守護として認めてもらわなくてはならないのだから
時親に付き添われて、義銀が信長に謁見した
以前は義銀が上座、信長が下座だったが、今は逆
信長が上座で、義銀が下座に座す
「よく、決心なされた。この信長、岩竜丸様のご決断、嬉しく存じます」
「私以下、大滝丸、日吉丸、共に織田殿のため尽力したいと願っております」
「大歓迎です。しかし、弟君は何れもまだ幼い。今直ぐと言うわけには参りませんので、もうしばらく養育なさっては」
「ですが、いつまでも平三郎に甘えているわけには参りません」
「なら、小姓として着いていただきます」
「小姓?」
そんな高い地位から始めて良いのかと、義銀は信長の顔をじっと見た
「誰よりも誇り高い斯波のご子息方、武家の仕来りはよくご存知のはずです。小姓から始めても文句は出ませんよ」
「
人懐こい、信長の笑顔に義銀も心を解した
「
嘗て、主家の子息として頭を下げられる立場であった義銀が、自ら信長に平伏する
仮想ではあっても、『信長尾張守護』が誕生した瞬間だった
結果に満足した帰蝶は、清洲城下に義銀ら兄弟の暮らすための屋敷の建設に取り掛かる
例え向うから譲渡したとは言え、充分なことをしなければ世間の目は厳しい
ぞんざいに扱えば、そのしっぺ返しを食らうのは自分達なのだから
この時、義銀は十六、次男大滝丸十五、三男日吉丸は十一だった
部隊を任せられる年齢ではない
増してや日吉丸は、まだ元服すら済ませていなかった
義銀、大滝丸は信長の小姓として清洲城で暮らすことになったが、日吉丸はまだ幼いため局処の、なつの手に委ねられることで落ち着いた
それでも兄弟らの屋敷を建てるのは、織田が斯波を保護している印象を与えなければならないからだ
何れ屋敷が完成したら、そこに移ってもらう
同じ頃、政秀寺から使者がやって来る
去年の夏、信友の子を出産した岩室あやの使者であった
信長の名代として帰蝶が向った
お久し振りでございますと、互いに挨拶を交わし、あやは生まれた子を帰蝶となつに紹介した
「夕凪・・・、と、申します・・・」
「夕凪様。まるまるとした、立派な男児で」
「それで、あや様のご意向は?」
聞いて来る帰蝶に、あやは応えた
「この子を、織田様のお役に立つよう、養育いただけませんでしょうか」
「え?」
あやの申し出に、帰蝶だけではなくなつ、付き添った貞勝も目を丸くする
「聞けば岩竜丸様が織田様の軍門に下ったと」
那古野城は直ぐ近くなのだから、情報は入りやすいのだろう
「ならばこの子も、織田様のお役に立てたいと考えました」
「ですが、夕凪様のお父上は・・・」
「生まれた後では、因果関係などございません。増してや、私はできることなら父親のことは伏せて育てとうございます」
元々病弱そうな顔付きの美女だが、そのあやが嘆願すると断れない雰囲気になる
帰蝶の一存ではあってもそれに快諾し、あやの体調が落ち着けば清洲に戻ってもらうことで話は纏まった
「徐々に、若の基盤が固まりつつありますね」
帰り道、清洲に近い町から帰蝶はなつと並んで歩いた
「こんな日が来るなんて、想ってもみませんでした」
「そうね」
自分達の少し後ろを貞勝が歩き、その更に後ろから二人を乗せていた籠が着いて来る
「これも、奥方様が嫁いで来られてからですよ」
「ええ?」
「『尾張のうつけ者』でしかなかった若が、あなたを妻に娶ってからめきめきと頭角を表しました」
「それは、元々吉法師様が持ってらした力よ。私は何もしてないわ」
「いいえ。若の力を引き出したのは、あなたですよ、奥方様」
「なつ・・・」
「大した方ですね、斎藤帰蝶様と言うお方は」
「
誉められて、素直に嬉しくて、少し顔を赤らめて俯く
「少し、寄り道いたしましょうか」
「どうして?」
「私、一度お団子屋と言うところに行ってみたかったんです」
「それなら、美味しいお店を知ってるわ。行きましょう」
途端に元気良くなつの手を引く
「まぁ!やっぱり買い食いの常習犯だったんですね?尾張守護になろうかと言う方の妻が、なんと言うはしたないことを」
しまった
そう想ったところで、後の祭りだった
結局茶店に着くまで帰蝶は、延々となつの説教を食らった
「でも、美味しいから許して差し上げます」
その店の団子が気に入ったのか、食べた途端なつの機嫌が良くなる
「
心中複雑な気分の帰蝶であった
信長の『尾張守護』への道が着々と固まりつつある中、やはり信勝の機嫌は悪かった
正式に守護に任命されれば、兄嫁に手出しするのは勿論、兄にすら歯向かうのは不可能になる
守護に手出しをして無事で済まないのは、織田信友がその身を持って証明しているのだから、聡明な信勝がわからないはずがない
こうなれば、と、信勝は益々義龍との懇意を深めて行った
それは義龍の思う壺であることを、この時の信勝も、その母市弥も気付いていなかった
いつもより穏やかな春が来た
尾張の地にも桜の蕾が綻び始め、衣替えに城の中は俄に忙しくなる
「村井」
自分の甲冑を手に、信長が局処にやって来た
「はい、なんでございましょう、殿」
帳面を付けていた貞勝が振り返る
同じ部屋には帰蝶となつも居た
ここは局処の執務室のようである
の割には、随分と砕けた雰囲気の部屋であるが
そうだろう
部屋の中には何故か子供がごちゃごちゃと居る
局処で働く侍女の子供が殆どだが、一人先に清洲に戻った日吉丸が加入したことで賑やかさも一入だ
義銀、大滝丸は後から時親に連れられ、ここに戻る予定である
唯一、恵那の息子の傅兵衛だけが大人しく静かに大人の仕事の手伝いをしているだけだった
他の子は、どたばたと部屋の中を駆け回っている
信長は目を丸くして言った
「こんな状況でよく、仕事なんかできるな、お前達」
「馴れればなんてことありません」
と、なつが応える
「託児所か、ここか」
「かも知れませんね」
と、帰蝶が返事した
「ところで、殿のご用件は?」
「ああ、そうだ。この光景に、当初の目的をすっかり忘れてた」
と、手にしていた甲冑を貞勝に手渡す
「これの修繕を頼む。裾のところが綻んで来てるんだ」
受け取り、確認する
「ああ、確かに。では、直ぐにでも」
「頼んだ」
「それだけのために、局処にお越しになったんですか?」
不思議そうな顔をして聞く貞勝に、なつが割り込む
「野暮なこと言わないの。奥方様がご入り用なのでしょう?若」
「え?」
まだ夕暮れも遠いのに?と、帰蝶が目を開く
「ああ、ちょっとな」
「どうぞ、どうぞ。ここに居られては、子供達と一緒に騒ぐだけですから、どうぞお引取りくださいませ」
と、なつは嬉々として帰蝶の背中を押した
「すまんな」
信長は帰蝶の手を掴み、執務室を出て行った
「ごゆっくり~」
喜びの声を上げて見送るなつに、貞勝はキョトンとして言う
「まだ日はあるでしょうに」
「どうせ、末森対策でも話し合うんでしょ」
「末森?」
「最近、やたらと向うの動きが活発だから。かと言って、大方様と勘十郎様のことだから、決して尻尾は掴ませない。だから、軍議でも開かれるおつもりよ」
「それなら表座敷で」
「莫迦ね。相手は奥方様のご実家、斎藤よ?話しにくいことだってあるでしょうに」
「
「どうしたんですか、吉法師様。なんだか落ち着かないご様子ですね」
「
なんでもない顔をしているのに、妻は何故自分の変化に気付いたのだろう
そんな想いを浮かばせて、信長は振り返った
「
「はい」
いつになく真面目な顔をしている夫に、帰蝶はキョトンとしながら自室に戻った
部屋に入るなり、信長は有無を言わさず帰蝶を抱き寄せる
突然のことに帰蝶は驚いた
「い、如何なさいましたか、吉法師様」
「帰蝶」
何かを口にしようとする帰蝶の口唇を、信長は口付けで塞いだ
そのまま押し倒され、されるがまま帯が解かれる
「吉法師様・・・ッ?」
こんな風に、野性的に自分を求める夫は、初めてだった
心が戸惑う
「きっ、吉法師様・・・ッ」
信長の手が裾を割って太腿の内側を掴む
斯波の三兄弟が軍門に下り、あやの生んだ子も斯波の子として養育されることが決まり、将来は義銀らと同じく信長の許に馳せ参じる約束を交わした
尾張の守護の席も、信長にと言う声が上がり始めている矢先だ
全てが順風満帆に進んでいると言うのに、夫が自分を押し倒してでも獣になる理由がわからなかった
信長が帰蝶の深い場所で弾け、躰中から力が抜けた頃になって漸く、その経緯を話す
「
掠れた声が流れた
「兄・・・?」
信長の攻めに、頭が朦朧となっていた
誰のことか、直ぐには理解できなかった
「殺されてた・・・」
「え
薄れる意識の中で、信長の声だけがはっきり聞こえる
「去年の十一月。喜六郎が死んだ同じ月、お前の兄貴二人が、斎藤義龍に殺されていた」
「
ついこの間、美濃の林から手紙が届いたばかりだった
「どうしてですか。何故奥方様にその情報が届かなかったのですか」
なつが、帰蝶の代わりにその場に座っていた
突然の知らせに帰蝶の方が動揺し、起きていられる状況ではなくり、自室の寝室に伏せてしまった
この席に、恵那も呼ばれる
帰蝶に道三引退の知らせを送ったのは恵那の父なのだから、何故肝心なことを知らせなかったのかと、その問責の場に引き摺り出されたのだ
「父との連絡が取れなくなってしまいました。恐らくは斎藤の妨害に因るものかと」
恵那とて、年老いた父の心配くらいしたくなる
自分は高齢になってからの最後の子で、どれだけ可愛がられていたか、斎藤の人間なら誰もが知っている
夫である可成も、舅の身を案じた
「武井・・・、武井様からは、何も知らせて参りませんでしたよ?だって、そうでしょう?武井様は、奥方様の味方ではなかったのですか?何故その武井様からも、何も知らされなかったのでしょう?」
ここに居る全員が、その理由を知りたいと想っているはずだ
なつがどれだけ信長を責めたところで、それに答えられる者は一人としていない
「つまりは、帰蝶の実兄二人の殺害は極秘裏に行われ、息子を殺された道三が慌てて義龍に家督を譲り、引退した。恵那の父親は、その顛末を知らなかったのではないか?」
「まさか、それに末森が噛んでいるなんてこと、ありませんよね?」
「わからん」
なつの質問に、信長は応えられない
この場に居る可成、恵那、貞勝の何れも、同じだ
「
寝込んでしまった帰蝶は、布団の中でそう呟いた
「姫様・・・」
側で看病している菊子は、つい、昔の呼び方をしてしまった
「今、うちの人が美濃でその情報を集めてます。孫四郎様や喜平次様がどうして殺されたのか、それを知るために・・・」
「知ったところで、どうなるの・・・?」
「姫様
「父様の引退の裏に、兄様達の死があったなんて・・・、想像もしてなかった・・・。どうして・・・・・・・・・・・」
「
嫁いだ先の織田は順調良くことが運んでいるのに、どうして実家は事変続きなのかと、その重苦しい事実が帰蝶を蝕んだ
息子を殺され、その上土岐家譜代の家臣を処罰したことで、父の進退は決まってしまったのだろう
つまりは、父も自分で自分の首を絞めたのだ
それに全く気付かなかった
いつもより穏やかな春だと想っていたそれは、錯覚だった
弥三郎が戻ったのは、その翌日だった
そもそもの始まりは、信長が市井に出て斎藤家の事変を噂で聞いたことから始まる
「斎藤の次男坊と三男坊が殺されたらしいぞ」
そんな実しやかな噂が耳に入り、道三引退劇の舞台裏が覗かれた
他人の家なら兎も角、事件が起きたのは妻の実家だ
しかも、自身の家で騒動が起きたのと同じ時に、それが湧き上がったのだから、誰かしらの意図を感じずにはいられなかった
「日頃より斎藤様の、ご嫡男を難じる言葉は多かったようです。随分前に奥方様から聞かされた時は、まぁ、どこにでもある親子の不仲と想っていたのですが、老い耄れだ、盆暗だと、次男の孫四郎が後継者に相応しいとまで言い出した始末。この辺りの事情は、ご存知かとは想いますが」
「ええ・・・」
「そしてご嫡男がご自分の身を案じた末、後継者争いの対抗馬ともなり得るご次男とご三男を相次いで殺害し、家内の土岐派を纏め上げたのが事の発端です」
「糸を引いていたのは?」
「道三様のご実家、長井家ではないかと」
「長井が?!」
側で聞いていた帰蝶が声を張り上げた
「ち・・・、父は、実の弟にまで裏切られたと言うのですか・・・」
義龍と長井家が手を組んだことは以前から知っていたが、精々父との兄弟間での争い程度の話だと想っていただけに、帰蝶の衝撃は大きかった
まさか甥を殺すなど、想像もしていなかったのだから
実家の出来事はそのまま、信長、信勝にも反映された
「大丈夫か?」
顔色の青い帰蝶を一人にしておけないと、信長自ら寝室に運んでやる
その後には、やはり心配顔のなつが付き添っていた
「武井とやらがお前に知らせなかったのは、何か理由があったはずだ」
「理由・・・」
「こちらでも、喜六郎様の事件がありましたからね、奥方様のお心を煩わせては、と、案じられたのではないでしょうか」
なつも、励ますように声を掛ける
「そうだとしても、孫四郎兄様も喜平次兄様も、私の実の兄弟です・・・。なのに、何も教えてくれないなんて・・・」
「帰蝶、済んでしまったことをあれこれ言っても、詮無きことだ。つらいかも知れんが、耐えてくれ」
「吉法師様・・・」
そうだ
夫も、平々凡々と毎日を過ごせるわけではないのだ
義銀が夫に下った今、信勝も父と同じように神経を尖らせているに違いない
そうなれば、どんな妨害工作を仕掛けて来るかわからない今、他のことに神経を回している場合じゃない
そう想った
薄情かも知れないが、死んでしまった人間のことを想うよりも、生きている人間を想う方が前進的だと帰蝶は考えていた
それが現実のものになっただけだ
今は、夫を守ることに集中しよう
帰蝶は信長の手を、ぎゅっと握り締めた
指先は細く、だけど手の甲は広く大きな夫の手を、帰蝶はいつまでも握り続けた
那古野から時親一家が義銀ら兄弟を引き連れ、清洲に引っ越して来た
義銀達三兄弟はそのまま生まれ育った清洲に上がり、時親、お能家族は城下の中古屋敷に移る
父親の死んだ部屋には行きたがらない義銀を気遣って、当面は一足先に清洲に入った日吉丸と同じ局処で暮らすことになり、子供達で益々賑やかになって行く
その賑やかさに、帰蝶の憂さも少しは薄れた
何より、御曹司として育った割りに、時親夫妻と接している間に面変わりしたか義銀の、人当たりの良さに胸を撫で下ろす
「しばらくご厄介になります」
自分に頭を下げる義銀に、帰蝶も応える
「お屋敷は、後一月も掛からない内に完成すると想います。それまで、どうかご辛抱くださいませ」
「何から何まで、痛み入ります」
「いいえ、これくらいのことしかできず」
嘗て、家臣の家臣でしかなかった勝幡織田に下るのだ
どんな温厚な人間であったとしても、その心中は穏やかではないだろう
それでも、一から仕切り直そうとする義銀の姿勢を見ていると、どうしても応援したくなるのが心情と言うものである
義銀、そして秀頼と名を改めた大滝丸が表座敷に呼ばれ、信長の家臣らと対面をする
幼い兄弟は、何れも自分に頭を垂れていた男達に、逆に頭を下げなくてはならない身分になった
つらくても、乗り越えなくてはならない
それが、この時代なのだから
「大したもんだよ、岩竜丸は」
この日の夜、信長は帰蝶の部屋で晩酌を受けていた
夫婦水入らずで語り合う
「そうですか、そんなに立派に立ち振る舞われたのですか」
「織田に下るのだから、斯波を名乗ることはできない。先祖からの名を汚すことになるからな。だから、これからは斯波の傍流である津川を名乗るそうだ」
「津川ですか」
津川は、織田に言い換えれば『津田』、土岐で言い換えれば『明智』に当たる
名は違えど、何処の家よりも主流に最も近い、一門の中では特別待遇に相当する『氏』であった
どこの氏族もそう言った、『主家ではないが、それに該当する権力を持つ』名は存在する
今の斎藤で言えば、『長井』がそれである
「名も、義銀から義近に変えた」
「良いお名前ですね」
「何不自由なく育った御曹司だからな、どんな難があるかと心配していたが、岩竜丸も大滝丸も立派なもんだ」
「きっと、お能に躾け直されたのでしょうね。お能の実家は、相当躾に煩い家柄ですもの」
「そうなのか。道理でお能は一本筋の入った女だと想っていた」
「岐阜屋は美濃でも数百年続く大店ですから」
「そんなにもか」
「ここだけの内緒ですが、京から美濃にやって来た祖父が、奉公に入ったお店なんです」
「なんと」
帰蝶の告白に、信長は目を丸くした
道三の父・松波新左衛門尉は、元々は京の妙覚寺の末弟僧侶だった
それが何を想ったか突然寺を飛び出し、しばらくは京の都で油売りをしていたものの、行商で近江に渡り、美濃にやって来た
美濃に移ってお能の実家、『岐阜屋』で奉公をしていたのだが、その当時から土岐家も得意先だった『岐阜屋』の口添えで、土岐家家臣斎藤の、更に家臣である長井家に仕官したのが始まりだった
『岐阜屋』は、井ノ口が岐阜と呼ばれていた以前から、長森の大店であったのが幸いする
但し、新左衛門尉が美濃にやって来た頃のその場所は、『岐阜』と呼ばれていた
『井ノ口』は道三が斎藤を世襲した頃に改名されたもので、元々は『岐阜』である
それだけで、お能の実家がどれだけ長く伝統を誇っているか、物語るには充分だった
帰蝶はそれを信長に話して聞かせた
新左衛門尉、道三親子の美濃取りは、どんな男も憧れる対象である
行商から国主にまで上り詰めたのだから、それは未だ誰も成し得たことのない偉業だ
尚更であろうか
そんな男達の血が、帰蝶には脈々と流れている
「時々考えるんだ」
穏やかな小さな声で、信長は言った
「もしもお前が女房じゃなかったら、俺はどうだっただろうか、って」
「吉法師様」
帰蝶はたおやかな微笑みで、信長を見詰める
その帰蝶を、信長はそっと抱き寄せた
お能が側に戻って来たからか、ここのところ帰蝶にも以前の穏やかさが戻った
兄弟を殺された衝撃は、帰蝶を酷く傷付けていたのだから
「きっと今も、小さな豪族のまま、周りから変わらず『うつけ』と呼ばれていたに違いない」
「吉法師様は、うつけなどではありません」
「帰蝶」
「初めて逢った時から帰蝶は、あなたに嫁げたことを誇りに想ってます」
「そう、想ってくれるか」
「当然です」
信長の腕の中で、帰蝶はにっと笑った
その帰蝶に、信長は顔を近付ける
やがて、二人の口唇と躰が重なった
目蓋を閉じれば、今も想い返される
初めて信長と逢った時のことを
『お清』との別れに涙し、落胆していた自分に、精一杯の誠意で迎え入れてくれた、この夫のことを
今も変わらぬ弾ける笑顔で迎え入れてくれたことを
信長が夫だったからこそ、自分は幸せに暮らしているのだと、信長の肌の温もりに包まれながら実感した
帰蝶の細い躰に信長の太い腕が絡み付く
信長の広い背中に帰蝶の細い腕が絡み付く
どこからどこまでが其々の肌なのかわからないほどに絡み合い、溶け合う
信長の愛撫に反応し、帰蝶の背中が仰け反った
躰の線は細く、適度な運動もしているからか、帰蝶の腰は男の掌が回るほど括れていた
だが、乳房は信長の愛を一身に受けているのを象徴しているかのように、この頃の女にしては異様に大きかった
食糧事情が重なったとしても、均等の取れた栄養を摂取すると言うのは難しいものだ
どれだけ裕福な家庭であったとしても、男も女も栄養過多か栄養不足になりがちで、結果、『脚気』か『肥満』のどちらかに偏る
だが、魚も肉も同じように摂れる食事をしているからか、信長の家は誰もが均等の取れた体型をしていた
尾張の、魚と野菜を主とした食文化と、美濃の、馬肉を食す食文化が融合し、この時代には稀なほど恵まれた体型である
男は背が高く、女は乳房が豊かだ
結婚した当初、信長は誕生月が来ていなかったので十五、帰蝶は十二になったばかりで、どちらも育ち盛りだった
そんな頃に異食文化が合わさったのだから、均等の取れた食事ができたと言えよう
帰蝶は川魚なら食卓に上るが、それだけではやはり栄養は偏るものである
尾張の海で獲れた魚を食するようになってから、信長と同じく背が伸び始めた
元々の遺伝もそうなのかわからないが、局処では一番背が高い
その上、乳房も女らしく大きい
当時の女の体型を考えれば、確かに『異常』と言っても仕方がないだろう
その乳房が、背中が仰け反ることで自然と上に持ち上げられ、ツンと尖った乳首が突き出される形になった
信長は透かさずその乳首を口に含み、舌先で優しく転がした
途端、帰蝶の喉から甘い吐息が零れる
信長の大きな手が、帰蝶の乳房を包むようにそっと掴む
それでも帰蝶の乳房は信長の手から食み出た
互いの体温が高まるところまで高まり、やがて信長のそれが帰蝶の中に侵入して来る
「あぁッ!」
帰蝶の嬌声が一際高くなった
信長の腰の動きに引き摺られ、帰蝶の躰も大きく上下する
その躰の動きで、帰蝶の乳房、その先端にある乳首が左右逆の上下の軌跡を描いて大きく揺れた
いつまでも、こうして溶け合いたい
そう願うのは、堕落した考えだろうか
それでも良い
いつまでも、こうして夫と溶け合いたかった
幸せを、最も実感できる瞬間だったから・・・・・・・・・・・・
何度か帰蝶の中で放ち、やがて腰が言うことを聞かなくなり、漸く信長の動きが止まった
「はぁ・・・っ」
大きな溜息を吐き、帰蝶の直ぐ隣に身を投げる
「満足したぁ・・・」
「吉法師様・・・」
赤裸々に呟く信長に、帰蝶は苦笑した
そうする帰蝶も実際、躰が重く感じるほど愛された
そっと、横たわる信長の上に上半身を重ね、信長の胸に手を乗せる
信長は帰蝶の頭を軽く抱き締め、帰蝶が躰から放つ香りを楽しんだ
「ああ・・・、いよいよだなぁ・・・」
「ええ・・・」
余韻の残る中、二人の会話はいつも掠れた小さな声だった
それほど、一夜に何度も肌を重ねるのが常だった
だが、この夜はいつも以上に重ね、熱く放ち合った
『尾張国主』の席が近付いたことを、義銀改め義近が手元に転がって来たというのがそれを実感させたからか、いつもより興奮していたのは間違いない
「やっと、約束が果たせる時が近付いて来た」
「約束?」
「お前の親父殿に、さ」
「父に?」
「じぃが死んだ年、正徳寺でお前の親父殿と会見しただろ」
「
政秀の死は、『病死』ではなく『自刃』だ
想い返されれば、今も胸が重くなる
自分が政秀を追い込んだのも同じなのだから
「その席でな、親父殿に約束したんだ」
「なんて?」
「お前を、必ず尾張国主の妻にしてみせる、って」
「
そんな約束をしていたなんて、今、初めて聞かされる
帰蝶は目を見開いて信長の横顔を見詰めた
「吉法師様・・・」
「そんなキラキラした目で俺を見るな。また、むくむくと起き上がるだろ?」
「え?」
訊き返す間もなく、信長は帰蝶の上に覆い被さって来た
帰蝶はそれを無言で受け入れる
肌蹴た布団の裾から、帰蝶のたわわに実った乳房が覗き出る
その乳房を信長が片手でぎゅっと握り締めた瞬間、帰蝶が声を上げると同時に廊下からバタバタと激しい駆け足の音が響き、利家の大声が響き渡った
「殿ぉーッ!」
こちらの了解も得ず、利家がばっと襖を開け放つ
帰蝶の乳首を咥えていた信長は驚き、上半身を上げた
当然、利家の両目に帰蝶の乳房が乳首ごと丸写しになる
「きゃぁ
帰蝶の長い悲鳴が響き渡り、信長が叫ぶ
「どうしたッ!」
「と、殿!一大事でございますッ!」
信長は詫びも入れる余裕のない利家の許へ、素っ裸のまま駆け寄った
「何事だ」
「み、・・・美濃で大事変!」
「美濃で?」
帰蝶も恥しいと言う気持ちがどこかに飛んだのか、布団から飛び跳ねると側にあった小袖を軽く羽織って信長の隣に駆けた
「斎藤道三様、鶴山にて挙兵ッ!」
「
どうして大人しく隠居しててくれなかったのか
どうして勝てる見込みのない相手に戦いを挑んだのか
どうして
「今直ぐ城に居る者を表座敷にッ!」
「はっ!」
吉法師様
「吉法師様・・・・・・・・・」
自分の女物の小袖一枚を肩に掛け、部屋を出て行こうとする信長の背中に、しがみ付きたい気持ちになった
大事な物が、この掌から零れてしまうような、そんな不安とも焦りとも付かない想いに襲われる
帰蝶は表座敷に向う信長の背中を、ただぼんやりと見送ることしかできなかった
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R指定じゃないけど
今回はちょっと、エロいシーンを織り込んでみました
できる限り抑えております
もっと激しい性描写と言うのは、この二人には合いません
ですので、物足りない表現ばかりですがご了承ください
だけど、どうしてもこの二人の絡み合いと言うのを何かの形で表現したかったのです
それはこの先の伏線でもありますので、その辺りのことはお楽しみに
例によって誤字脱字チェック、及び辻褄合わせのため後から文章の一部が改竄される場合がありますのでご了承くださいませ
できる限り抑えております
もっと激しい性描写と言うのは、この二人には合いません
ですので、物足りない表現ばかりですがご了承ください
だけど、どうしてもこの二人の絡み合いと言うのを何かの形で表現したかったのです
それはこの先の伏線でもありますので、その辺りのことはお楽しみに
例によって誤字脱字チェック、及び辻褄合わせのため後から文章の一部が改竄される場合がありますのでご了承くださいませ
この続きを・・・
早くみたいような、みたくないような・・・。このままで行くと信長は(><)このお話の二人がとても好きなんです。このままもうしばらく清洲城下でのような穏やかな日々を送ってほしいなぁ。無理か(--)
まさかと思うんですが次回信長と利三が戦場で出あってそこで・・・。話の邪魔をすると悪いので控えますが、そんな嫌な予感がします。でもHaruhiさんのお話は大好きなので(よく調べているなと感心しますし)楽しみに待っています。
まさかと思うんですが次回信長と利三が戦場で出あってそこで・・・。話の邪魔をすると悪いので控えますが、そんな嫌な予感がします。でもHaruhiさんのお話は大好きなので(よく調べているなと感心しますし)楽しみに待っています。
Re:この続きを・・・
NHKの大河では昔、信長の延命に視聴者から数多くの要望が寄せられ、信長を演じた役者さんの出番が増えたと言うのは聞いたことがありますが、まさかわたしが運営してるこんなミニマムなサイトに延命要望を書いていただけるとは、夢にも思ってませんでした
とても光栄なことだと思ってます
ありがとうございます
そして、コメントは何を書くのも自由ですので、好きな事を書いてくださって構いません
遠慮なさらず、どうぞどうぞ
ネタバレに繋がるようなコメントは華麗にスルーしますので、気になさらずに(笑
わたしも、このままずっと清洲で穏やかな生活を送らせてあげたいと、自分で書いておきながら感情移入しまくりです
嫌いだと思っている信長ですが、やはり大好きな濃姫の旦那様だからか、酷い男には書けませんでした
そうしているとどんどん、当時の実際の信長も、実は良いヤツだったんじゃないかとさえ思うようになって来ました
わたしが許せない、あるいは嫌いだと思う要素はただ一つ、「奥さんのことを何かしら残して欲しかった」、この一言に尽きます
ですので、純粋な信長ファンの方々には許せない発言も繰り返して来ましたが、勝手ながら寛容な気持ちでこのまま見守っていただけると嬉しいです
とても光栄なことだと思ってます
ありがとうございます
そして、コメントは何を書くのも自由ですので、好きな事を書いてくださって構いません
遠慮なさらず、どうぞどうぞ
ネタバレに繋がるようなコメントは華麗にスルーしますので、気になさらずに(笑
わたしも、このままずっと清洲で穏やかな生活を送らせてあげたいと、自分で書いておきながら感情移入しまくりです
嫌いだと思っている信長ですが、やはり大好きな濃姫の旦那様だからか、酷い男には書けませんでした
そうしているとどんどん、当時の実際の信長も、実は良いヤツだったんじゃないかとさえ思うようになって来ました
わたしが許せない、あるいは嫌いだと思う要素はただ一つ、「奥さんのことを何かしら残して欲しかった」、この一言に尽きます
ですので、純粋な信長ファンの方々には許せない発言も繰り返して来ましたが、勝手ながら寛容な気持ちでこのまま見守っていただけると嬉しいです
実は私も(^^)v
正直信長は知ったばかりの頃は好きで、それから凄く嫌いになりました。今は残された資料の矛盾点が気になり客観的に見ようと思っています。ただそんな中で気づいたのが、「私は濃姫が好きでそんな濃姫と一緒でお互いが幸せそうな信長に興味を持ったんだ」と・・・つまり濃姫をないがしろにしたり、不仲な信長なら私も大っっ嫌いです。(好きな方にはごめんなさい)小説の中にもそういったものがあって落ち込みますが、このサイトでは帰蝶が信長と幸せそうなのでついもう少し幸せな二人をと思ってしまうんです。まあ最悪信長がいなくても帰蝶が幸せになってくれれば(不謹慎ですねすみません)なれないかなぁ。お言葉に甘えてダラダラ書きましたが、これからの帰蝶の活躍を楽しみにしています。
Re:実は私も(^^)v
>今は残された資料の矛盾点が気になり客観的に見ようと思っています。
すべての罪は「信長信者のなんちゃって歴史研究家」と、「武功夜話マンセーの三流小説家」達にあります
信長はただ己が夢に邁進しただけ
そう思わないと、やってられません
>・・・つまり濃姫をないがしろにしたり、不仲な信長なら私も大っっ嫌いです。
それはわたしも同意見です
でも、実際に蔑ろにしてていたのなら、はっきりそう書き残された物があるでしょうし、不仲なら濃姫の悪口ぐらい残ってますよね
何も残ってないのは、平穏無事な夫婦生活だったから、じゃないでしょうか
最近、そう思えるようになって来ました
かと言って、「信長大好き」には転じておりませんが(笑
>(好きな方にはごめんなさい)小説の中にもそういったものがあって落ち込みますが、
そして、それら小説を真実と信じる「オツムの弱い人間」が多いのが困り物ですね
>このサイトでは帰蝶が信長と幸せそうなのでついもう少し幸せな二人をと思ってしまうんです。
幸せをもっと表現したかったのですが、ベタベタアマアマな二人より、少しは淡白な方が良いかなぁと思って、こんな風にしました
それでも「幸せそう」だと思ってもらえるのは、書いてる人間としてこれほど嬉しい言葉はありません
>まあ最悪信長がいなくても帰蝶が幸せになってくれれば(不謹慎ですねすみません)なれないかなぁ。
幸せは、人それぞれ形が違います
帰蝶の胸に信長が生きている限り、彼女は幸せなのだと思います
夫との数え切れないほどの想い出が、彼女を支え、そして、周囲の人間に支えられ、生きて行けると思います
史実の帰蝶は、多分ですが、「亭主元気で留守が良い」派だったんじゃないかな?と
実際、夫は戦に、妻は留守番で離れ離れだった時期が長かったようで、だけどその間に信長が他の女に現を抜かしていたと言う記事も見当たりません(取り敢えずは信長公記参照ですが)し、遠く離れてもお互いを思い遣る気持ちは決して消えたりしなかったのではないかな、と、思ってます
従兄妹の謀叛で夫を亡くしてしまったけど、その間、二人の「夫婦で居られた時間」は途轍もなく長いものです
男は早く死に、女は取り残される時代でも、信長は当時の平均寿命を越えてましたし、帰蝶も女性の平均寿命を過ぎてから没しました
トータルしたら、丁度釣り合いが取れるかなぁ~と(笑
すべての罪は「信長信者のなんちゃって歴史研究家」と、「武功夜話マンセーの三流小説家」達にあります
信長はただ己が夢に邁進しただけ
そう思わないと、やってられません
>・・・つまり濃姫をないがしろにしたり、不仲な信長なら私も大っっ嫌いです。
それはわたしも同意見です
でも、実際に蔑ろにしてていたのなら、はっきりそう書き残された物があるでしょうし、不仲なら濃姫の悪口ぐらい残ってますよね
何も残ってないのは、平穏無事な夫婦生活だったから、じゃないでしょうか
最近、そう思えるようになって来ました
かと言って、「信長大好き」には転じておりませんが(笑
>(好きな方にはごめんなさい)小説の中にもそういったものがあって落ち込みますが、
そして、それら小説を真実と信じる「オツムの弱い人間」が多いのが困り物ですね
>このサイトでは帰蝶が信長と幸せそうなのでついもう少し幸せな二人をと思ってしまうんです。
幸せをもっと表現したかったのですが、ベタベタアマアマな二人より、少しは淡白な方が良いかなぁと思って、こんな風にしました
それでも「幸せそう」だと思ってもらえるのは、書いてる人間としてこれほど嬉しい言葉はありません
>まあ最悪信長がいなくても帰蝶が幸せになってくれれば(不謹慎ですねすみません)なれないかなぁ。
幸せは、人それぞれ形が違います
帰蝶の胸に信長が生きている限り、彼女は幸せなのだと思います
夫との数え切れないほどの想い出が、彼女を支え、そして、周囲の人間に支えられ、生きて行けると思います
史実の帰蝶は、多分ですが、「亭主元気で留守が良い」派だったんじゃないかな?と
実際、夫は戦に、妻は留守番で離れ離れだった時期が長かったようで、だけどその間に信長が他の女に現を抜かしていたと言う記事も見当たりません(取り敢えずは信長公記参照ですが)し、遠く離れてもお互いを思い遣る気持ちは決して消えたりしなかったのではないかな、と、思ってます
従兄妹の謀叛で夫を亡くしてしまったけど、その間、二人の「夫婦で居られた時間」は途轍もなく長いものです
男は早く死に、女は取り残される時代でも、信長は当時の平均寿命を越えてましたし、帰蝶も女性の平均寿命を過ぎてから没しました
トータルしたら、丁度釣り合いが取れるかなぁ~と(笑
濃姫(帰蝶)好きの方へ
本日は当サイトにお越しいただき、ありがとうございます
先ずはこちらのページを一読していただけると嬉しいです→お願い
文章の誤字・脱字が時折混ざっております
見付け次第修正をしておりますが、それでもおかしな個所がありましたらお詫び申し上げます
了承なしのリンクは謹んでご辞退申し上げます
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更新のお知らせ
(02/20)
(10/16)
(11/04)
(06/24)
(03/25)
◇◇プチお知らせ◇◇
1/22 『信長ノをんな』壱~参 / 公開
現在更新中の創作物(INDEX)
信長 ~群青色の約束~
こんな感じのこと書いてます
カウント(0)は現在非公開中です
管理人の独り言も混じっております
[11/04 Haruhi]
[08/13 kitilyou]
[06/26 kitilyou命]
[03/02 kitilyou命]
[03/01 kitilyou命]
ゲームブログ
千極一夜
家庭用ゲーム専用ブログです
『戦国無双3』が絶望的存在であるため、更新予定はありません
◇◇11/19 Nintendo DSソフト◇◇
『トモダチコレクション』
おのうさま(帰蝶)とノブ(信長)が 結婚しました(笑
家庭用ゲーム専用ブログです
『戦国無双3』が絶望的存在であるため、更新予定はありません
◇◇11/19 Nintendo DSソフト◇◇
『トモダチコレクション』
おのうさま(帰蝶)とノブ(信長)が 結婚しました(笑
祝:お濃さま出演 But模擬専… (戦国無双3)
おのれコーエーめ
よくもお濃様を邪険にしおってからに・・・(涙
(画像元:コーエー公式サイト)
オンラインゲームにてお濃様発見
転生絵巻伝 三国ヒーローズ公式サイト:GAMESPACE24
『武将紹介』→『ゲーム紹介』→『Exキャラクター紹介』→『赤壁VS桶狭間』にてお濃様閲覧可
キャラクター紹介文
「 絶世の美貌を持つ信長の妻。頭が良く機転が利き、信長の覇業を深く支えた。
また、信長を愛し通した一途な妻でもあった。」
(画像元:GAMESPACE24公式サイト)
勝手にPR
濃姫好きとしては、飲めなくても見逃せない
岐阜の地酒 日本泉公式サイト

(二本セットの画像)
夫婦セット 吟醸ブレンド(信長・濃姫)
本醸造 濃姫
カップ酒 濃姫®=爽やかな麹の薫り高い、カップとは想えない出来上がりのお酒です
吟醸ブレンド 濃姫® ブルーボトル=自然の香りのお酒です。ほんの少し喉を潤す程度でも香りが深く体を突き抜けます
本醸造 濃姫®=容量的に大雑把な感じに想えて、麹の独特の香りを抑えたあっさりとした風味です
今現在、この3種類を試しておりますが、どれも麹臭い雰囲気が全くしません
飲料するもよし、お料理に使うもよし
お料理に使用しても麹の嫌な独特感は全く残りません
奇跡のお酒です
何よりボトルがどれも美しい
清洲桜醸造株式会社公式サイト


濃姫の里 隠し吟醸
フルーティで口当たりが良いです
一応は『辛口』になってますが、ほんのり甘さも残ってます
わたしは料理に使ってます
清洲城信長 鬼ころし
量的に肉や魚の血落としや、料理用として使っています
麹の香りが良いのが特徴ですが、お酒に弱い人は「うっ」と来るかも知れません
どちらも一般スーパーに置いている場合があります
岐阜の地酒 日本泉公式サイト
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夫婦セット 吟醸ブレンド(信長・濃姫)
本醸造 濃姫
カップ酒 濃姫®=爽やかな麹の薫り高い、カップとは想えない出来上がりのお酒です
吟醸ブレンド 濃姫® ブルーボトル=自然の香りのお酒です。ほんの少し喉を潤す程度でも香りが深く体を突き抜けます
本醸造 濃姫®=容量的に大雑把な感じに想えて、麹の独特の香りを抑えたあっさりとした風味です
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お料理に使用しても麹の嫌な独特感は全く残りません
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わたしは料理に使ってます
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