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送り出した直後はまだ余裕があり、表座敷の縁側で秀隆や長秀と団子でも突付きながら優雅に茶を飲んでいたが、昼餉の頃が過ぎても帰蝶は戻って来ない
そうなると、だんだん気になり始めて落ち着きもなくなり、居ても立っても居られなくなり、こっそり興円寺まで偵察に行こうかとまで想い付く
帰蝶一人なら松風にでも乗ってすたこらさっさと行けるものを、今日はおしとやかに輿に乗っていってしまったがため、移動速度もかなり遅くなる
向うで何か問題でも起きない限り、戻って来るのは昼を少し過ぎてからかと覚悟を決めたが、想う時刻になっても帰蝶は戻らず苛立ちだけが募る
「ちょっとはじっとしたらどうですか」
さっきから表座敷でうろうろと、難しい顔をして行ったり来たりしている信長に苛々した秀隆は、顔を顰めて窘めた
「これがじっとしてられるか。もうとっくの昔に戻っててもおかしくないぞ?きっと何かあったんだ・・・。やっぱり止めときゃ良かったのか・・・」
苦悩する信長の姿は見てて面白いが、それが自分の仕える主君だと恥しくて仕方ない
「その内帰って来ますって。他にも連れ立ってるんですし、一人で逢いに行ったわけじゃないし、ね?」
「一人で行かせられるわけがないだろッ!」
感情を抑えることができなくなったからか、信長は顔を真っ赤にして絶叫する
その際鼻から湯気が出て、秀隆は想わず吹き出した
あるところでは帰蝶を軍師と仰ぎ、あるところではやはり『女』としてちゃんと扱っているのだなと、秀隆は、なんだか信長が微笑ましくも感じた
しかし、奥方様には一刻でも早く戻っていただかないと、殿が情緒不安定になってしまうと、ある意味心配事も増える
中々に難しい問題であった
「ああ、帰蝶はまだか・・・」
また、うろうろし始める信長を心配そうに見守る秀隆の耳に、小姓の一人が駆け付けて、それを知らせた
「わかった。          殿」
「後にしてくれ!」
「奥方様が、お戻りになられましたよ」
そうか!と、喜ぶかと想いきや、秀隆が確かめた直後にはもう、信長の姿はそこになかった
          あれ?」

急いで表玄関に向った信長は、裸足のまま駆け付ける
「殿」
最初に信長を見付けたのは、馬に乗っている可成であった
その声に、輿の中から帰蝶が出て来る
「帰蝶!」
信長は想わず帰蝶に飛び付き、重さに負けた帰蝶が信長を上に乗せたまま後ろ倒れに倒れる
当然と言えば当然だが
「何なさってるんですか!若!」
急いで表に出たなつがその光景を目の当たりにして、信じられない速さで駆け出すと、帰蝶の上に乗っている信長の後頭部に想いっきり拳をぶち込む
信長の下になっている帰蝶は、ぐったりと目を回していた・・・

「すまんかったなぁ・・・」
「いえ・・・」
熱烈な出迎えを受け、帰蝶は気絶したまま自室に運ばれ、その枕元では信長が平謝りしていた
「体の大きい犬千代に飛び付くなら兎も角、相手は華奢な奥方様ですよ?なんて乱暴な真似をなさるんですか」
「だから、すまんかったって・・・」
「もう良いのよ、なつ。吉法師様が私の帰りを心待ちにしてくれていたって言う証拠じゃない。嬉しいこそあれ、嫌だとは想わないわ」
「帰蝶」
妻の嬉しい言葉に、信長は頬を染めて喜ぶ

「やり過ぎですけどね」
                
苦笑する帰蝶に、信長は申し訳なさそうに俯く
それはさて置き、妻と弟の間に何か過ちでも起きはしなかったかと案じていたが、自分を真っ直ぐ見詰める帰蝶の目には、一点の曇りもない
何も起きなかったことを示していた
「心細い想いをさせたな、すまんかった」
「いいえ。ですが、そのお陰で面白い情報を、色々と入手できました。帰蝶を行かせて下さって、ありがとうございます」
「いや・・・。で、面白い情報とは?」
「順を追って説明する必要がありますので、先ずは三左と弥三郎の報告から」
                
可成が黙って頭を下げ、信長に舅・林通安から受け取った報告書を渡した
報告書と言っても手紙程度の薄さだが、それを広げ目を通す
          どう言うことだ?安藤が戻ったのが、二十八日になってる。なのに、兵士は二十七日に帰還?」
「おかしいでしょう?安藤が那古野を出たのは、二十七日です。清洲を抜ければ、美濃は直ぐそこ。ほぼ直線で戻れるのを、どうしてか帰還に一日掛けてます」
「戻ったのは夕刻、か。随分ゆっくりだな」
「私が鷺山の城から吉法師様の許に輿入れした時も、半日も掛かりませんでした。なのに稲葉山に戻るのが遅過ぎるように感じます」
「てことは?」
「これは帰りの船で仕入れた情報なんですが」
今度は弥三郎が信長に報告する
「何だ」
「日付こそはっきりしませんが、恐らく同じ頃じゃないかと想われる日に、軍隊を運んだ船があります」
「軍隊を運んだ船?」
「船主は尾張側なんですけど、犬山の少し西から数百人の兵士を運んだと話を聞きました」
                
信長はもう一度、通安の報告書に目を落とした
          最初に兵士が五百、後から安藤と残りの兵士が戻ってるのか」
「軍隊を分割して美濃に戻る理由はなんだと想われますか?」
「わからん・・・が、船を借りたのが犬山の外れなんだな?」
帰蝶の質問に応えられず、信長は弥三郎に訊き返す
「はい。犬山は現在、岩倉と争っている最中。ですから、安藤様が犬山を通過したわけではないことは確かですが、その周辺に用事があったと言うことに変わりはありません」
「つまりは、こうか。帰蝶の実家、正しくは斎藤新九郎利尚と、勘十郎、あるいは岩倉の伊勢守家と繋がっている、か?」
「それと、内の土田ですが・・・」
さっきまでなんでもなかった弥三郎の顔色が、少しだけ悪くなる
歯切れも悪く、その理由を知っている可成は弥三郎の肩を軽く掴んで揺すった
          ああ、大丈夫だよ」
「どうした」
「いえ」
聞いて来る信長に、弥三郎は首を振り話を続ける
「土田の周辺を探っていたんですが、最近犬山との行き来が激しいみたいです」
弥三郎の本家の土田は美濃の可児が発祥ではあるが、可児の中心は古より明智家のものであるため、土田家の城屋敷や領地は木曽川の向う側であった
そこから木曽川を越えるのに使った船で聞いた話を、全て信長に聞かせる
「なんだ、ややこしいな。土田は土田で犬山と?」
「ですが、義母上様は勘十郎様と一身同体ですので、繋がっているのは私の兄」
「要するに、三つ巴ってヤツか」
「簡単に言えば、そうですね」
弥三郎がそう締め括る
「斎藤は末森、あるいは岩倉と繋がり、土田はお袋の筋から言って末森、それと犬山と繋がってるてことか。そうだな、可児の隣は犬山だ。土田が可児を乗っ取るには、明智が邪魔。案外簡単な構造だな」
「どの家が中心に、と言うわけでもなさそうですしね」
そう言い出す帰蝶の心の中では、『暗殺』の危険に晒されている夫がどちらから見ても、その中心に当て嵌めることができる構図が完成している
「犬山と挟み撃ちをすれば、明智を潰すのも容易か。それにしても、斎藤・岩倉・末森、土田・末森・犬山と、どっちにも一枚噛んでるのが自分の弟ってのが癪に触るな」
          だから、勘十郎様を殺せば、全てが解決する・・・
胸の内で浮かんだドス黒い思惑を、帰蝶は必死で振り払った
「それで、帰蝶の方は、どうだった」
          はい・・・」
弥三郎に代わって、今度は帰蝶の顔色が曇った
もしややはり、その身に危険が及んだのでは?と、なつが勘繰る
          そろそろ夕餉の時間ですね」
この場に集まった一同を解散させようと、態と声を張った
「奥方様を心配し過ぎて私、昼餉を抜いてしまったんです」
「しょうがねーな」
なつの言葉に、信長は高笑いする
「夕餉が済んだらまた、集まりませんか?このお話、他の方々にもお聞きいただかないといけないと想いますし、どうでしょう」
「そうですね、我々だけで話し合っても仕方ない部分もありますし、河尻様や丹羽様にもお聞きいただかないと意味がありません」
なつの意見に可成が賛同する
「私も勝三郎が心配ですし」
すっかり酔い潰れた恒興は、へべれけになっている利家と一緒に居間に放り込まれ、放置されていた
「では、一度解散して、夕餉の済んだ後でまた集まりましょう」
なつの発案で一旦解散し、可成は弥三郎と共に本丸に向う
なつも倅が確かに心配で三人で同じ廊下を歩き、信長だけがそのまま帰蝶の部屋に留まった

「大丈夫か・・・?」
少し声を落として聞く
「はい、もうすっかり大丈夫です」
「そうじゃなくて」
帰蝶は夫に飛び掛かられたことを応えるが、信長が聞きたかったことはそれとは別の話である
言い難そうにしている信長の様子を見て、鈍感な帰蝶にもその想いが伝わる
          申し訳ございません、吉法師様」
膝を正して土下座する帰蝶に、信長の目が丸くなった
「どうした、帰蝶・・・。まさか、やはり・・・」
なんでもない顔をしていたが、やはり信勝との間に過ちでも起きたのかと、俄かに心臓の鼓動が激しくなり、頭には血が昇り、呼吸も乱れる
「帰蝶は不実な妻です。どうか、叱ってくださいませ」
「何があった・・・」
声が震える
そんな夫に、帰蝶は素直に応えた
「口付けを・・・、許してしまいました・・・」
          え?」
一瞬、信長の顔がポカンとなった
「そうしないと、話が聞き出せなくて、それで・・・」
遂に耐え切れず、帰蝶は涙をぼろぼろと零し始める
「で、それ以上のことは・・・」
「蝉丸が         

間に合ってくれ、間に合ってくれ、可成の心には、さっきから同じ言葉ばかりが浮かぶ
船着場で馬を借り、那古野と末森の中心にある興円寺へと疾走した
馬を商売道具にしていたからか、弥三郎も武士である可成に負けず劣らず速く走れる
そこが誰の領地かなど気にしている余裕もなく、二人は真っ直ぐ興円寺に向った

帯を解くことを強要された
ここで夫以外の男に躰を開くことを要求された
それで夫を守れるのならと、帰蝶にも覚悟ができた
信勝の手が離れ、帰蝶は自ら帯を解こうとしたその矢先、救いの道が開かれた

ずかずかと寺に上がり込む可成と弥三郎を、寺の門弟が後を追い駆け止めようとする
その一人が弥三郎の腕に縋り付いた
「ここより先は貸切になっておりますゆえ、ご遠慮願います!」
「その、貸し切ってるヤツに用事があるんだよッ!」
多少乱暴だが、相手が男と来れば遠慮は要らないと言いたげに、弥三郎は想いっきり腕を振り下ろした
その部屋がどこにあるのかまでは知らなくとも、異様に盛り上がった声のする部屋に行けば自ずと乱痴気騒ぎのこの現場に辿り着く
「何をやってらっしゃるか!」
おぞましいほどの光景だが、城の乱取りの経験のある可成は、男女の行為そのものよりも、資房が女に襲われている光景に目を疑い、声を張り上げた
利家は可成の声にも反応せず、ひたすら女相手に腰を激しく振っている
その利家の髷を掴み、弥三郎は無理矢理引き離した
「何やってんですか、犬千代さん」
「あっ、こら!もうちょっとで行きそうだったのに!」
「全く、何やってんだか」
引き剥がされても再び、女の股座にしがみ付く利家の背中に呆れながらまた、引き剥がそうとする弥三郎の視界に、資房のあられもない姿が映る
その資房と目が合った
一物を女にしゃぶられている資房は、恥しいやら気持ち良いやらで身悶えする
その資房に弥三郎がそっと告げた
「又助さんは          そのままで良いよ。出しちゃわないと、体に障るからね」
「忝い・・・。うっ・・・!」
「ここの責任者は、どなたか」
「わしだが」
可成の声に応えたのは、席を外していた勝家だった
襖を開けながら部屋に戻って来る
「何をなさっておられたか」
「厠に用足しに行っていたのだが、何か不都合でも?」
「この光景をご覧になられて、如何お想いか。これが神聖な寺で行なわれる行為でしょうか?」
「ふむ。少し席を外したわしの管理不足が原因だと仰られるのでしたら、責任を取って腹を切らせていただきますが」
「そんなことを言っているのではありません。今日はこちらに奥方様もお越しのはず。それを承知でこのような破廉恥なことが         
その瞬間、隣の部屋から若い男の悲鳴が聞こえた

助けて・・・
誰か・・・
吉法師様・・・
         

心には、吉法師以外の名前も浮かんだ
だが帰蝶自身、それを自覚していない

帰蝶が帯を解くのを、信勝は黙って見ていた
帰蝶が心の中で助けを求める
その想いに応えたのか、縁側の障子が開け放たれた
と、同時に、黒い影が飛び込んで来た

          吉法師様・・・・・・?

「あれ?恵那さん」
暇を持て余し、寺の庭をぶらぶらとしていた菊子が空を見上げた途端、その姿は目に映った
「ねぇ、あれってもしかして、蝉丸?」
「え?」
菊子に聞かれ、恵那も顔を上げて菊子が指差す方向に目を向けた
松の木の枝に鴉が止まっている
「蝉丸?でも、なんでここに?」
二人の疑問に応えるわけもなく、鴉はその部屋の前まで飛んで来ると、また、松の枝に帰る
帰ってはまた、部屋の前まで飛んで来て、また、帰る
それを何度も繰り返しているのが気になったのか、恵那は想わず障子を開け広げた
鴉はその瞬間を見逃すことなく、部屋に飛び込んだ

結んだ帯がゆっくりと外される
それを見逃すまいと信勝の目が監視する
怖い
ただ、怖かった
夫との初夜で裸になった時も、利三に見られた肌も、こんなにも怖いとは感じなかった
目頭が熱くなり、ともすれば涙が零れそうになり、相変わらず心の中では「助けて」、「助けて」の言葉が繰り返される
その時         

「うわッ!」
開いた障子から飛び込んだ鴉が、信勝目掛けて嘴を突き立てた
          蝉丸ッ?!」
蝉丸は主人を助けようと、払い除ける信勝の腕を避けながら攻撃を繰り返した
その声に、宴席だった部屋から可成と弥三郎が飛び込んで来た
          奥方様!」
「三左・・・、弥三郎・・・ッ!」
助かった
と、素直に想え、帰蝶は腰が砕けてその場にへたり込む
「奥方様!」
弥三郎が駆け寄る
蝉丸は相変わらず信勝を攻撃し続け、辺り一面には美しい光沢のある羽根が散らばっていた
「もう良い、蝉丸!やめるんだ!」
少し遅れて部屋に入った勝家の目の前で、可成は蝉丸に叫ぶ
蝉丸は攻撃をやめ、しばらく旋回するように飛びながら可成の肩に止まった
「これは、一体・・・」
「柴田殿、それはこちらの言葉です。これは一体何の騒ぎですか。何故奥方様が若様と二人きりなのですか。恵那とお菊殿も同行していたはずですが、どこにやりました」
「旦那様、私はここです」
可成に応えるように、縁側から恵那が菊子と顔を覗かせる
「お前達、どうして奥方様から離れた」
「だって、必要ないから給仕をしろと」
「それから、村井様が、その部屋の様子がおかしくなったので、表に出てなさいと」
「柴田殿、どう言うわけですか?何故家内達に給仕をさせろと命令したのですか」
「いや、わしは何も・・・」
それを命じたのは勝家ではないため、どうにも説明できない
「若様、どう言うわけですかな?」
「知らぬ。義姉上様が誘って来られたのだ」
          え・・・?」
やはり、案の定な言い逃れを始める信勝を、帰蝶の目が見開かれた
「それに応じるも同罪だとご存知で?」
「それは・・・」
不義密通は、両成敗である
可成はそもそも発案したのがこちら側なので、帰蝶の行動に対し違和感はない
寧ろそれを口実に信勝を責め立てた
「失礼ながら、奥方様があなたと通じるような理由が見当たらないのですが?殿とは限りなく円満、その上で、義弟にまで手を出すわけは何でしょうか」
「知らぬ・・・」
「逆に、失礼ながらあなた様が奥方様を手に掛ける理由なら、某の薄い知恵でも思い浮びまするが」
「私が義姉上様に手を掛ける?随分な言い方だな。さすが兄上の家臣は、礼儀も成ってないと見える」
「違うと言い切れる根拠は何でしょう」
「私から義姉上様に手を出した覚えはない。全て、義姉上様のご意志だ」
                
現実そうであるため、反論できない帰蝶は悔しさに口唇を噛んだ
「では、伺います。若様、あなた様は美濃の斎藤と通じておられますな?」
「何を言い出すかと想えば。義姉上様にも同じことを言われましたが、そちら側はどうしても、私を謀反人に仕立てたいようだな。そんなに私が恐ろしいか」
「あなたの存在云々を問うているのではありません。れっきとした根拠あってのこと」
「何だ、その根拠とは」
「今年初めの村木砦攻略、織田は斎藤から援軍を得た。その援軍でお越しなさった安藤様が那古野より稲葉山に戻るのに、丸一日を費やしております。その理由は、若様の許に立ち寄ったからではありませんか」
「言い掛かりだな。うちにはそんな客は来ていない」
「ならば門番にでも伺いますか。安藤様は特徴のあるお顔立ちをなさっておいでです。少し釣り上がった目の中年男と言えば、誰か一人くらい想い出してくれましょうや」
「好きにしろ。それで思い当たる節がない場合、どう責任を取ってくれるのか?」
「この腹なり首なり、好きなところを持って行かれればよろしかろうッ?!」
                 ッ」
突如として声を張り上げる可成に、信勝はビクンと震えた
「生まれは尾張でも、育ちは美濃。美濃武士がいかほどのものか、その目で焼き付けてくだされば幸いに存じます」
「それに、ここに来る途中、安藤様らしき一団を運んだ船に偶然出会いましてね」
弥三郎が続けた
「乗り込んだ方向を限定すれば、どこからやって来たのか一目瞭然。その気になれば、いくらでも調べられるんですよ」
「お前は・・・」
見掛けない顔に、信勝が尋ねた
「申し遅れました。某、那古野織田家臣末席、土田弥三郎利親でございます」
普段武士の口調など使わないため、自分でもむず痒い
「土田、弥三郎・・・?」
「先代様には馬の商売で可愛がっていただきました。縁あって上総介信長様にお仕えして、丸三年でございます」
          そうか、母上の縁者の土田、か」
それまでおどおどした様子を見せ掛けていた信勝が、いつもの調子に戻る
「ふっ。親戚筋に本家を乗っ取られた、間抜けな土田惣領の孫、か?」
「え・・・?」
                
信勝の言葉に、聞いていた帰蝶と可成は驚きに目を開き切り、日頃朗らかな表情しか見せない弥三郎の目には怒りの炎が揺らいだ
「食い繋ぐために、織田から出資を受けて馬屋を営み、その嫡男は家を乗っ取った孫娘の口添えで斯波に出仕したのだったな。血は濃いもので、その弟も織田に頭を垂れたか」
「某、いかような雑言も甘んじて受ける所存。されど、家の存続の為に自らを犠牲にして、斯波の軍門に下った兄まで罵倒される謂れはございません。取り消せとまでは申しませんが、今後は口をお慎み下さるよう願い申し上げます」
こんなにもきりりとした弥三郎を見るのは、初めてだった
妻の菊子は、その余りの恰好の良さに惚れ直し、この場には相応しくないほどぼうっとした顔で夫を見詰めた
真面目な顔をすれば、東西一の美男子と言っても過言ではなかっただろう

          知らなかった。弥三郎の実家も、乗っ取りに遭っていたなんて・・・」
信勝の謀略から解放され、帰りは輿ではなく馬に跨る
最も、袴を着込んでいないので、弥三郎の引く馬の鞍で横向きに座るしかないのだが
そして、小袖姿で馬に乗ったとあればなつからどんな叱りを受けるかわかったものじゃないので、城の手前で輿に乗り換える算段も付けている
「私もです。そんなお話、一度だってされたことありません」
弥三郎の隣に並ぶ菊子も、今更のように驚いた顔で言った
「まさか旦那様が、由緒正しいお武家様だったなんて、想像もしてませんでした」
「ははは!武家だったのは、じーさんまでの代だ。親父は美濃から追い出されて、しばらくは浪人暮らしだったからな、その間に武家の仕来りもなんもかんも、捨てちまった。負け惜しみじゃないけど、親父は今の暮らしの方が好きだって言ってるよ。くだらねぇ掟やら上下関係やら気にしなくて済むんだしな、俺も気楽だったし。それに、俺が生まれた時には親父、もう馬屋だったしな、過去の栄光なんて見て来たわけじゃないから、それを聞かされてもピンと来なくて、言わなかったんだよ」
「そうだったんですか・・・。でも旦那様、かっこ良かったですよ」
「そうか?今夜は燃えそうか?」
「私、熱いのは苦手です」
慌てて首と手を振る素直な菊子に弥三郎は大笑いし、帰蝶も漸く笑顔を盛り戻せた

          間一髪、ってとこか」
帰蝶から話を聞き、ひとまずほっと一息吐く
「蝉丸が飛んで来てくれなかったら、三左も入りにくかったと想います。向うの手勢の方が、多かったですから」
「そうか。それにしても勘十郎のヤツ、随分と卑怯な真似を」
寸でのところで助かったとは言え、恵那が気を利かせて障子を開けなかったら、今頃妻は弟に食い散らかされていただろうと想うだけで、腸が煮え繰り返って仕方ない

          吉法師様・・・?

一瞬、その影が夫の背中に見えた
助けに来てくれたのだと
だが、その幻影の背中がこちらに振り向いたように想えた時、帰蝶は目を見張った
・・・夫ではない
夫ではない、別の顔が見えた
それを帰蝶は話さなかった
いや、蝉丸が夫に見えたことも話さなかった
取るに足りない下らないことだと、そう想うことにしたからか
違う
話せない理由があった

「勘十郎様は、私にこう仰いました。尾張国主の妻になる気はないか、と」
「尾張国主の妻、か」
「吉法師様が居ながら恐れ多いことを平然と言ってのけるには、それなりの根拠があってのことだと想います。そうでなければあのような、罰当たりなことを言えるわけがありません。吉法師様」
「ん・・・?」
「ここは先手を打つべきです」
「先手?」
「勘十郎様が兄と繋がっているのだとすれば、吉法師様も兄と」
「帰蝶」
また、「父を見捨てろ」と言い出すのかと、信長は帰蝶を止めた
「弟が怖くて、お前の兄貴と通じろと?」
「そうではありません。ですが」
「だとしても、俺は一生人から「己可愛さに舅を裏切った卑怯者」と誹られるだろう。それが我慢できない」
「吉法師様・・・ッ」
「心配するな。お前の親父殿が存命中の今、勘十郎も新九郎殿も、どうすることもできないはず。縦しんば状況が変わったとしても、俺はお前の兄貴に跪くつもりはない」
                
父をそこまで味方しようとしてくれる夫の気持ちは素直に嬉しいが、夫の命と年老いた父とを比べれば、まだ将来のある夫が大切に決まってる
悲しいかな、帰蝶は情調的な感情では損得を計れない性格だった
長い目で見てどちらがより建設的かを比べてしまう
圧倒的に、夫に重心が傾いている帰蝶にも、信長の決心を変えることはできなかった
「しかし、弥三郎が勘十郎と鉢合わせするとは、何かの因縁だろうな」
          そうですね・・・」
話を摩り替える夫に、帰蝶は一呼吸置いてから応える
「弥三郎は、偉いです」
「ん?」
「過去の確執も何もかも忘れ、織田に仕えてくれているのですから」
「それは、兄貴の平三郎も同じだ。斯波への仕官もお袋の口添えだったんだからな」
「吉法師様はご存知だったんですね、弥三郎の実家が義母上様のお家に乗っ取られたのを」
「ああ。でも、お前に話してもどうにもならないし、弥三郎を好奇の目に晒したくなかったしな。まぁ、お前はそんな目で見るヤツじゃないってわかってるけどさ、寧ろそれでお袋に対し悪印象でも持たれるのも結構つらいし、よ」
「吉法師様・・・」
苦笑いする信長に、帰蝶もそれを責めることはできなかった
自分の祖父は斎藤家重臣の長井家を言葉巧みに乗っ取ったと聞いている
父親は同様に、土岐を味方に付けて妙椿世代に育った家臣らを利用し、斎藤家を乗っ取った
土田家のやり方まではわからないが、似たようなものだろうと想える
そんな実家を持つ帰蝶の心中は、複雑だった
何より、折り合いが悪くとも市弥を『母親』としてきちんと見ている信長の、その心の優しさにも胸が温められる
          でも、土田御前様が弥三郎親子の面倒を見ていたと、弥三郎から聞きました」
「ああ、平左衛門が今の商売に就くまで、まぁ、それなりには見てたみたいだな。親父に嫁いだ時に、浪人した平左衛門とその女房、幼かった平三郎を呼び寄せたのもお袋らしいし」
「土田御前様は、もしかしたら罪滅ぼしで出資したり、平三郎殿を斯波家に斡旋したりしたのではないでしょうか。だって、気の強そうな女性ほど、本当は情が深いと言うでしょう?」
母を庇う帰蝶を、信長はじっと見詰める
「もしかして、私も気の強い顔をしていると仰りたいのですか?」
「別に」
信長はさっと、目を明後日の方向に向けた
「あなたって、もう・・・」
そんな信長が、おかしくておかしくて仕方ない
目尻から薄っすらと涙を浮かべ、帰蝶は笑った
それから、こつんと、信長の胸元に額を当てる
「どうした?疲れたか?」
「少しだけ、胸を貸してください・・・」

消せない
どうしても
自分がそう願ったことなのか、それとも、ただそう想えただけなのか
自身である帰蝶ですら、本意がわからない

蝉丸の羽が幻影を描く
それは夫の背中に見えた
その背中がこちらを向いた時、それは、夫の顔をしていなかった

          お・・・

「少しだけ、こうさせてください・・・」
「いつまでもそうしてろ。いつでも貸してやる」
そっと優しく自分を抱き包んでくれる信長の腕の中で、帰蝶は目を閉じ、あの幻影を想い出していた

振り向いた、信長の背中
その顔は、利三だった

          お清・・・

今も自分を想ってくれているのか
それとも、自分がまだ未練を持っているだけなのか
心の中に住むのは夫だけだと、その気質から想い込みたいだけなのか
自分にもわからない場所で、今も帰蝶の中で小さな炎のように燻り続ける想いは、どうすることもできなかった
『お清』は最後に見た時のまま相変わらず、優しい顔で自分を見詰めてくれていた
抱かれる腕の信長に謝りながら、懐かしい顔を想い描いていた
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濃姫(帰蝶)好きの方へ
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先ずはこちらのページを一読していただけると嬉しいです→お願い

文章の誤字・脱字が時折混ざっております
見付け次第修正をしておりますが、それでもおかしな個所がありましたらお詫び申し上げます

了承なしのリンクは謹んでご辞退申し上げます
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おのうさま(帰蝶)とノブ(信長)が 結婚しました(笑

祝:お濃さま出演 But模擬専…     (戦国無双3)


おのれコーエーめ
よくもお濃様を邪険にしおってからに・・・(涙

(画像元:コーエー公式サイト)
オンラインゲームにてお濃様発見


転生絵巻伝 三国ヒーローズ公式サイト:GAMESPACE24
『武将紹介』→『ゲーム紹介』→『Exキャラクター紹介』→『赤壁VS桶狭間』にてお濃様閲覧可
キャラクター紹介文
絶世の美貌を持つ信長の妻。頭が良く機転が利き、信長の覇業を深く支えた。
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吟醸ブレンド 濃姫® ブルーボトル=自然の香りのお酒です。ほんの少し喉を潤す程度でも香りが深く体を突き抜けます
本醸造 濃姫®=容量的に大雑把な感じに想えて、麹の独特の香りを抑えたあっさりとした風味です

今現在、この3種類を試しておりますが、どれも麹臭い雰囲気が全くしません
飲料するもよし、お料理に使うもよし
お料理に使用しても麹の嫌な独特感は全く残りません
奇跡のお酒です
何よりボトルがどれも美しい

清洲桜醸造株式会社公式サイト

濃姫の里 隠し吟醸
フルーティで口当たりが良いです
一応は『辛口』になってますが、ほんのり甘さも残ってます
わたしは料理に使ってます

清洲城信長 鬼ころし
量的に肉や魚の血落としや、料理用として使っています
麹の香りが良いのが特徴ですが、お酒に弱い人は「うっ」と来るかも知れません
どちらも一般スーパーに置いている場合があります
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あまり役には立ちませんが念のため
解析

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