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「不味い!」
                
信長の叫ぶ声に、その直後、庭の片隅で虚しく獅子脅しが鳴り響く

夫は出陣したその日に松葉城、深田城を奪取し、無事に帰還した
それを喜び、こうして茶を振舞ったのだが、一口付けてすぐさまのことである

「おいおいおいおい、帰蝶。なんだ、この茶は」
「京都の宇治です」
「銘柄を聞いてんじゃねぇ。なんなんだと聞いてるんだ、この半端のない不味さは」
「不味いですか?わかりました、業者をとっちめて」
「待て。業者はかんけえねぇ。問題は、お前の腕だ」
「二本じゃ不味いんですか?じゃぁ三本あったら問題ないんですね?」
「そっちの方が怖いわ!」

花嫁修業は確かに明智城でやって来たが、一切身には付いてない
茶も、お能が居る間はずっとお能に淹れてもらっていた
お能が嫁に行った後は菊子が淹れていたし、今はなつが茶の当番をしている
「琴も駄目、華道も駄目、茶道も駄目。じゃぁ、なんだったら得意なんだ」
「弓、刀」
「女のする返事じゃねぇ・・・」
「あなただって今まで「やれ」とも言ってないじゃないですか」
「だからって、こんな人知を超えた茶が飲めるか」
「大袈裟ですよ、それは」
そんな帰蝶の言葉に、なつは信長が置いた湯飲みに口を付けた
                
不味い
と言えば良いのか
渋くて苦くて酸っぱくて辛い
何をどうすればこんな味が出せるのか、逆に聞きたいくらいだった
「どう?不味い?なつ」
「個性的な味ですね」
「不味いの?旨いの?」
「ああ、いけない。帳簿付けが残ってました。私はこれで失礼します」
「ちょっとなつッ!」
答えが出せず、とっとと逃げ出すなつに帰蝶は叫ぶ
そんな帰蝶に信長が問う
「なぁ、帰蝶。お前確か、花嫁修業はやったって言ってたな?」
「はい」
逃げるなつの背中を見ながら、二人は会話を再開した
「何してたんだ?」
「琴と花とお茶の修行をしてました」
「嘘を吐け」
「嘘じゃありません、本当にしてましたぁ」
確かにしていたが、琴を刀で真っ二つにしたり、花が障子に突き刺さったり、茶器を握り潰したり、やってることは本筋を大きくずらしてしまっている
「他に何やってた?」
「剣術とか、弓道とか、時々相撲」
「鉄砲の撃ち方とかも習ってたか?」
敢えてあり得ないことを聞いてみる
「壊れるからと、触らせてもらえませんでした」
「お前どんな生活送ってたの?」
さすがの信長ですら想像を超える返事に、帰蝶の独身時代が謎めいて来る

今まで帰蝶には女らしさを追求したことはなかったが、いざ追求してみると女らしさが全くない
微塵もない
道三に何れ尾張国主になると宣言した以上、妻である帰蝶にも国主本妻としての勤めを果たしてもらわないと困る
「和歌や謡曲には詳しくても、それだけじゃしょうがねーんだよ。茶も琴も花も、贅沢言えば香道もやってもらわねーと」
「そんな公家被れなことができますか」
「あのな、帰蝶。どこの国に『鷹狩が得意な奥室』が居るよ」
「ここに居ます」
「ああ、そうですね」
まるで友達感覚で、今までずっと『遊び相手』のような関係を続けていたからか、確かに帰蝶には鉄砲の撃ち方やら乗馬やら弓やら教えて来たが、信長は今頃になってそれを後悔し始める
清洲に一歩近付いたことで、信長にも『自覚』と言うものが出て来たのだろうか

土田時親に調略を手伝わせ、斯波から大和守織田の討伐の許可をもらい受け、松葉城、深田城を占拠した大和守信友を堂々と攻撃し、末森城の勘十郎に付いた柴田権六勝家の活躍もあって両城は同日奪還に成功したが、帰ってみればやはり、妻の今後の行動云々が気になって仕方ない
以前帰蝶は、夫の城主らしくないところを気にしたこともあるが、今度は信長が妻の女らしくないところを気にし始める
「なんか、割れ鍋に綴じ蓋って感じだなぁ・・・」
「それはお互い様ですよ」
                
はっきり言う帰蝶に、信長も二の句が継げない

結局、帰蝶に多くを求めることはやめて、真面目に今後の話に展開する
「とりあえず大和守にはお帰り願ったが、また何か仕掛けて来るだろうな」
「それは当然です。次は誰かの謀叛を誘うか、あるいはこちらの支城をまた攻撃するか」
「だとしたら、勝幡が危ないか。近い内、何人か送っておこう」
「それが良いですね」
悲しいかなこの夫婦は、色めいた話や風流な話はあまり弾まないが、軍議となると互いに饒舌だった
「それと、斯波がこっちに加担してるってのに、やっと気付いたらしくてな」
「随分悠長なお方ですこと」
「しょうがない。ずっと長きに渡って斯波を傀儡としていたのだからな、まさか歯向かわれるとは想ってなかったんだろう。岩室を送って正解だった。あれで斯波も本格的に傾いて来てるからな」
「斯波が勝幡に傾倒しているとわかれば、当然清洲もこちらか斯波のどちらかを標的に絞るはず。その方が対策も講じ易くなりますしね」
「大和守とぶつかることがあれば、お前にも出てもらいたい」
「承知しました」
「なつは俺が何とか説得させる。あんまり勘十郎の方に手柄、持ってかれたくねーんだよな」
「そう言えば、先ほどの戦に加担してくださった守山の叔父上様は、如何なさいましたか?」
「権六が出張るから、何もできずに帰ったよ。何しにここまで来たんだかって顔されてな、こっちも居心地が悪かった」
信長の後援として守山城から叔父の織田孫三郎信光、織田と斎藤の架け橋的存在である大叔父の稲葉地城城主の織田玄蕃允秀敏も参加したが、信長の言うように勝家が一人で片付けてしまったために出番なし
全く面目を潰されている
「柴田殿は譜代の中でも格別の手練。手綱を握るにも、容易ではありません」
「だから欲しかったんだがなぁ、アイツは何度誘っても勘十郎の側に居るってよ」
「しょうがないですよ。なんせ大方様に惚れてらっしゃるんですから」
「ああ。俺もなつから聞いて驚いたっつーか、びっくりしたっつーか」
「同じ意味ですね」
「そうだな・・・」
帰蝶も信長も、聞いた場所は違っても聞いた相手は同じなつだ
なつは織田の親族でもあるし、夫は古くから織田に仕えていた家臣で、側室の誰よりも、謂わば正妻の大方殿土田御前市弥よりも、織田家家臣のことを知っている
話に信憑性はあった
市弥とは犬猿の仲だとしても、相手の都合が悪くなるような讒言などを使うような女ではないことは、信長も帰蝶も知っている
それでもなつが言うのだから、柴田権六勝家が末森に残って勘十郎の後見を勤めているのはやはり、市弥の存在あってのことだろう
二人がどんな関係なのかは興味がないが、とりあえずなつの話では権六勝家の一方的な片想いのようで、市弥が色仕掛けで引き留めたというものではないとのことだった
「今後の方針としては、大和守を斯波にぶつけさせるってことで決めて良いな」
「そうですね。その方が大義名分ができますでしょう。今以上に斯波とは癒着を固めておかないと」
「ああ」

元々織田は清洲大和守と岩倉伊勢守の二派に別れていた
織田の宗家は清洲大和守であり、信長の勝幡織田はその家臣に過ぎなかった
だが、祖父・信定の時代に頭角を表し、織田は徐々にではあるが三つに枝分かれし、家臣のままではあっても完全に独立した『一軍団』へと形成したのが信秀の代になってからである
これに慌てない者は居ない
清洲大和守は岩倉伊勢守と手を組み勝幡織田を潰そうとしたが、信秀の才知もあって、寧ろ勝幡織田が岩倉伊勢守側と手を組むことに成功した
岩倉織田と言えば面白いことに、道三より四代前の斎藤、つまり本筋である利三の系譜上の曾祖父に当る斎藤妙椿の養女が岩倉織田に嫁いでいる
四代前に織田と斎藤で既に婚姻があるのも奇妙なものだが、妙椿には実子が居ないので跡継ぎも血縁者から選ばれており、利三は直系には当らない
それでも系譜は延々と続いて行く
正しく妙なものだった
そして、その時代から大和守家は伊勢守家と争っているのだから、今の信長の時代と何も変わらない
信秀は嘗て岩倉が行なった斎藤家との婚姻を再現し、信長と帰蝶も、あるいは結ばれる運命にあったのかも知れない
そして現在、目的は違えど岩倉と同じ相手を敵としているのだから、これも妙な話であった
信秀の台頭によって、清洲大和守は岩倉と勝幡の両方を相手にせねばならなくなり、より強大な力を必要とし、主家である斯波を取り込み傀儡として来た
それが信長によって瓦解しようとしているのだから、ある意味信秀・信長親子も『親子鷹』なのかも知れない
清洲大和守の攻撃に晒された松葉城、深田城が早期に取り返されたと言うこともあり、益々窮地に陥る
その上、傀儡である斯波が勝幡に加担していると言う
信友は当面の敵を斯波に定めた
所謂『下剋上』である
しかしその下剋上は簡単に成功しないからこそ意味があり、主家を潰しただけではただの『逆賊』でしかない
それをやろうとした信長を帰蝶が止めたのも、父・道三の薫陶あってのことだ
『逆賊行為』による『下剋上』は近隣国人の反発だけではなく、領地の民の離反をも招きかねない
主家を潰して国主になったところで、周囲の反感を買えば得るものは何もないのだから
萱津での合戦も大和守清洲を追い出しただけに留まったのは、信長自身、深追いは禁物と直感したからだった
それによって叔父、大叔父から不平の声も上がったが、普段からの信長の『うつけっぷり』には定評があるので、余りしつこくは言われなかった
結果、良かったのか淋しいのか、信長自身よくわからないし複雑な心境でもある

「でも、ま、これでこっちも動きようができた。このまま、終わりよければ全て良しと行きたいとこだな」
「そうですね。でも、こちらの思惑通りに動いてくれないのが『敵』と言うもの」
「それに関しては、帰りがけに平三郎に頼んで来た」
「お能のご主人様ですね?どのようなことを?」
「どうも大和守は勝幡に押されているような、と」
「讒言ですか?あなたにしては珍しく、姑息な手段を使われましたね」
「姑息とか言うな。これだって一応、調略の一つだっ」
信長は顔を真っ赤にして反論した
「情報合戦でも、こちらが有利に立たないと上手く機能しませんね」
「だから中々に気が抜けない」
「あなたの腕の見せ所、と言うわけですか」
「そうだな、そうなるか」
「楽しみにしております」
「お前にも働いてもらうぞ?」
「どうぞ、ご随意に」
「その前に、もう一回茶を淹れてみろ。不味かったら承知しないからな」
「はい、わかりました」
帰蝶は笑いながら茶葉をそのまま湯飲みに注いだ
          上出来だ」
「ありがとうございます」

今年の春、娘婿に逢ってから道三の様子が変わった
確かにその綺麗な顔立ちに似合わぬ残酷なところもあったが、今はそれ以上の残虐性が滲み出て来たような、そんな気にさせられる
信秀が没した翌年、一度は美濃に帰っていた土岐頼芸を再び追放してから、戦らしい戦もなかった
信長と帰蝶の婚姻により、織田と言う後ろ盾を失くした土岐に対し実力行使も然程必要とはしなかったが、そこまでして土岐を追い出す理由がないと、道三に対し意見する家臣もちらりちらりと出始める
それらを無慈悲に断罪した
この頃はまだ『利尚』と、父から与えられた名を守っていた義龍に対しても、不平を口にするようになった
「お前は盆暗だ。それに比べ、帰蝶の夫の利発さ。交換できるものなら交換したいくらいだ」
元々から折り合いは悪かったが、それでも『親子関係』はそれなりに保ってこれた
それすら、崩れようとしている
「わしの後継者は、帰蝶の夫か、あるいは他の倅から選び直した方が良さそうだな」
意地悪から出た言葉か、それとも本意か、冷たい眼差しの道三の表情からは読み取れない
この頃から徐々にではあるが、しかし確実に道三は義龍を廃嫡しようと考え始めた

          蝮の後継者は、虎の子が相応しい

たった一度逢っただけの信長の、その隠された才知に道三は魅了されていた
帰蝶がそうであったように

「お帰り、蝉丸」
なつと共に帰蝶に引き取られた鴉の蝉丸が、那古野の城に戻って来る
鷹までとは言わないが、鴉の爪もそれなりに鋭い
帰蝶は左腕に紺の晒しを巻き、蝉丸を出迎えた
「伝書にでも使ってるのか?」
後ろから信長の声がする
「いいえ、それにはさすがに訓練が必要です。ですが、良いですね。伝書に使えたら、安全に情報を収集できる」
「鴉はそこら辺に居るからな」
「でも私には、そんな根気はありません」
苦笑いする帰蝶に、信長も軽く笑う
「飯にしよう。お前に聞いてもらいたい話がある」
「はい、お伺いします」
表座敷の住人である夫と、奥座敷の住人である妻が食事を同席することは珍しい
男尊女卑も未だ濃いこの時代に、女と何かを共に行動すると言うのは精々『同衾』くらいしかない
そんな古い仕来りを蹴っ払うことが大好きな信長は、晴れて織田の惣領となってから頻繁に帰蝶と会食することがあった
勿論、軍議を兼ねてのことなので、家中からの不満は聞こえて来ない
鳴海城沈黙を実践した経験のある帰蝶に、不満を漏らす根拠もなかった
この日の夕餉には信長と帰蝶の他に近習・丹羽長秀、池田恒興、黒母衣衆筆頭・河尻秀隆、斯波の内偵係の土田弥三郎利親は勿論、小姓の長谷川秀一と前田犬千代も同席した
正しく、ちょっとした軍議である
帰蝶の隣には「奥方様をむさ苦しい男だけの部屋に置いておけない」と、なつも強引に鎮座していた
帰蝶にとってなつは、先代未亡人であり夫乳母である以上に、自分を理解してくれる大事な『盟友』のような存在にもなりつつあった
敬称を省いて信長と同じく『なつ』と呼んでいるのも、親しみあっての行為であり、決して見下しているわけではない
「林殿は」
「勘十郎と通じてる。呼べるわけねーだろ」
「・・・そうですね」
余り負の感情を表に出さない信長にしては珍しく、忌々しそうに吐き捨てた
「さて、本題だが」
信長が目配せをして、弥三郎が口火を切った
「斯波が勝幡織田を当てにしているとの風潮も、清洲では随分強くなったようで。大和守が斯波に対しての旗色を変え始めてます」
その情報の出所は、言わずと知れた土田平三郎時親であるが、敢えてその名を口にしない
まだ斯波の許に留まってもらわないと困る人材だからだ
「奥方がこの那古野からやって来たとのことで、兄・時親が正式に斯波ご嫡男斯波岩竜丸義銀様の近習として任命されました。これがどうも清洲大和守の癪に障ったようで」
「要するに、勝幡織田の息の掛かった者が側仕えになったことに対し、危機感を表したってことですか」
「そう言うことだ」
信長が帰蝶に聞かせたかった話とは、このことだろう
「と言うことは、大和守は斯波に的を絞ったと?そう見てもよろしいのでしょうか」
「文句があるんなら、こっちに直接言えるだろ?うちはまだ大和守の家臣だ。主君が家臣に忠言するのに、なんの遠慮がある。だがな、そうは問屋が卸さねぇ」
「勝幡織田の支城を攻撃したために、あちらから打って出る手段を失くしたと言うことですね?」
「そう言うこった。何もせず、ただ黙って見ていれば「しゃしゃり出るな」くらいは言えたものを、大和守はその口実を自分の手で捨てたんだ。こっちに文句の一つでも言っちまえば、「じゃぁ何故松葉と深田を攻めた」と問い詰められる。答えに詰まれば自分の過失を認めることになるからな」
「そうですね」
「お前が黙って見てろと言った意味がわかった」
「・・・吉法師様」
信長の目が帰蝶を捉え、周囲に人間が居ることも忘れて見詰め合う
「俺はどうも、血の気が多いようだな」
「そんなこと・・・」
「血の気が多いのは、奥方様も一緒です。お似合いの夫婦じゃございませんか」
二人の、良い雰囲気をぶち壊してなつが放つ一言に、周りが笑い出す
「なつっ!」
顔を真っ赤にした帰蝶がなつを叱り、しかしなつも手強いもので、帰蝶に「あかんべー」と舌を出してやった
そんな帰蝶となつを、信長も和やかな目で笑いながら見た

「今年はこれ以上のことは起きんだろうな。後は鳴海の山口さえ警戒しておけば良いか」
「今川の動きは」
「探ってはいるが、頼りの綱の岩倉とも音信不通が続いてるからな、どうなってるのかさっぱりわからん」
塩辛を突付きながら話す信長に、帰蝶は少し顔を顰める
「まだ苦手なのか?塩辛」
「と言うか、好んでバクバク食べる吉法師様の味覚がわかりません」
「旨いだろ」
信長は塩辛が好物だった
「生臭くてしょっぱいだけです」
海の幸は滅多に口にしない環境に居た帰蝶には、未だに発酵された魚介類が苦手だった
美濃では精々干し魚が主流である
長良川や木曽川で獲れた魚以外、殆ど見たことがないのだから
「これだから内陸育ちは視野が狭いんだ」
「外洋育ちは大雑把で粗野ですものね」
「なんだとー?」
「なんですか」
「お二人共、お止めなさい。食事中ですよ。喧嘩なら、後でゆっくりなさいませ」

急転直下
そう、言えるだろうか

この頃は何となく、帰蝶も子作りに執着することもなくなった
「できなかったら、誰かの子を養子にもらえば良い」
夫は笑いながらそう言う
帰蝶にとって、信長の明るさは救いだった
幸いなことに信長には男兄弟が大勢居る
実弟・勘十郎信勝も地元有力の国人の家から嫁をもらった
その嫁が子供を産んだらもらおうかとも話している
気に食わないとは言えども、信長は弟の才知を認めているし、勘十郎に付いている生母の土田御前市弥も、お気に入りの勘十郎の子が跨ぎとは言え織田の後取りになるのだから文句もないだろう
そう言う信長の言葉に、帰蝶は安心感を持っていた
だからか、いつからか二人は交わりを『子作りの作法』とは想わず、素直に『性楽』の行為と感じている
二人の口唇が重なり、押し付け合い、歪に形を変えた
その間で舌が絡み合い、独特の音を立てる
鼻から漏れる溜息と、喉から溢れる嬌声が混ざり、どちらがどちらの肌かわからなくなるほど溶け合う
躰が反転し、帰蝶が信長の上になった
愛しい夫の肌を口唇で貪り、少しずつ腰を下げて一度浮かし、信長のそれを指で支え、そして、ゆっくりと降りる
「ん・・・・・・ッ」
信長の口唇から短い悲鳴が上がり、帰蝶の表情も享楽に歪んだ
やがてその場所が密着すると、帰蝶の両手が筋肉で守られた信長の腹の上に置かれた
信長は下からそっと両手を伸ばし、形の良い帰蝶の乳房を掴み、優しく揉み上げる
「あッ・・・!」
背中が仰け反り、細い首に小さな丘ができる
この時の帰蝶の表情が、なんとも言えず艶めかしく美しい
恍惚となりながら、信長は帰蝶の腰の動きに合わせて、下から突き上げた
帰蝶の長い髪が内太腿を僅かに擽る
これを堕落と呼ぶか
いや、だが、隠された信仰の根本にあるのはどれも、『男女の交わり』である
人が高みに登るのを『絶頂』と呼ぶ
感極まることも、『絶頂』と言う
その絶頂が、二人にも訪れた
「あッ、あッ・・・、あぁッ!」
帰蝶の声が小刻みに震え出し、やがて深い場所に向けて信長の精が放たれる
「あ・・・・・・・・」
自分の中で信長のそれがピクピクと脈打ち、信長も帰蝶の中の伸縮を感じ、糸が切れたように身を投げ出す
崩れるように倒れて来る帰蝶を受け止めながら、自分の隣に横たえさせた
「はぁ・・・」
短い溜息を零す信長に、そっと尋ねる
「今夜は、こちらで・・・?」
「そうだな、自分の部屋に戻るのも面倒だ・・・」
茶筅を解いた信長の髪は、顔を隠すくらいに伸びていた
帰蝶は、その乱れた前髪を、そっと指で払ってやる
この時代、夫婦の秘め事は単純に『子作り作業』でしかなく、夫は用が済めば自室に戻るのが常だった
夫婦が寝室を共にするのはこれよりもっと後期のことであり、夫には夫の住宅があり、妻には妻の住宅があり、それが『屋敷』と『局処』である
信長に頭を抱かれ、帰蝶は肩口に顔を当てまどろんだ
分厚いとまでは行かなくとも、それなりに厚みのある信長の胸に手を沿え、目を閉じる
「さっき、みんなの前では言えなかったんだけど」
「何ですか?」
静かな空気が流れ、それに合わせるかのように、二人の声は穏やかだった
「お前の実家」
「はい」
「親子間で抗争が起きてるそうだ」
「え・・・?」
ぎょっとして、帰蝶は頭を上げる
「さっき、弥三郎から聞かされた」
「なんて・・・?」
「舅殿が、お前の長兄を『老い耄れ』呼ばわりしてるんだってさ・・・」
「そんな・・・」
兄が凡愚の振りをして、実は非凡な才能の持ち主であることを、帰蝶は知っている
だからこそ、母親は違えど帰蝶と義龍は仲が良かった
信長が『親の手も焼かせるうつけ』なら、帰蝶は『親をも泣かせるじゃじゃ馬』だったのだ
その帰蝶を唯一理解し、許容していたのが義龍である
帰蝶が嫁ぐ前に、女には持たせぬ刀を贈り、夫になる信長にも誂えた陣太刀を持たせたくらいなのだから
それを持って、いつか対峙しようと言う意味ではないにしても、『武器を贈る』と言うことは、主従関係でない以上『それでいつか戦う日が来るかも知れない』と言うことであり、自分の贈った刀で斬り殺されることもありえない話ではなかった
だからこそ、その陣太刀を受け取った信長は、帰蝶に義龍の才知を誉めたのだ
「清洲周辺を探ってる最中に手に入れた情報みたいで、詳細は掴めなかったらしいが、どうも舅殿は兄上を廃嫡しようと画策してるってよ」
「それでは、家臣達が納得しません。兄を嫡男と認めたからこそ、斎藤の家中も纏まっているのです。増してや、・・・もう何年も前にお亡くなりになられましたが、兄のご生母様は丹後の名門、一色の姫君。丹後の支援を得られると、みんな喜んで・・・」
嫡男が余程出来が悪くない以上、突然の廃嫡は国の混乱を招く
「が、一方では、次男の生母は可児の明智家姫君。国内を纏めるには外周の制圧か、同郷の団結か。その決断の選択を誤ったか」
                
義龍の弟は、帰蝶の実兄に当る斎藤孫四郎龍元
帰蝶の母小見の方那々が十三の時に産んだ子で、帰蝶とは四つ違いであった
「どっちにしても、讒言が大きくなれば争いが起きる。俺はどっちに味方するべきか」
悩む信長に、帰蝶は答えが出せなかった
父の味方をしてくれ、とも、兄の味方をしてくれ、とも
何もなく兄が父に対し謀叛を起したのなら、帰蝶も躊躇うことはしない
だが、信長の話し振りでは父が兄を陥れようとしていることは、目に見て明らかである
その上、兄の生母・深吉野は、父の側室になる以前は美濃守護・土岐頼芸の側室だったこともあり、美濃に残った土岐家旧家臣らが兄を介して深吉野を頼りにしていることも周知の事実だった
既に亡くなっているとは言え、土岐と縁のあった深吉野の存在が、斎藤と土岐旧家臣らの間を取り持っている
その深吉野の息子である義龍と仲違いをしてしまえば、土岐旧家臣らがどちらに付くか、想像しなくても結果はわかった
だから、言えなかった
父の味方をすれば、織田は美濃から攻められる
兄の味方をすれば、斎藤から絶縁される
信長以上の苦悩を、帰蝶は味わった
「すまんな、嫌な話しちまって」
「いえ・・・。黙ったままで居られる方が、つらいです・・・」
「何とか元の鞘に収まってくれると良いんだが」
そんな日が来ればと、帰蝶も想った
その時、襖の向こうからなつの声がした
「お休みのところ、失礼します。若、起きてらっしゃいますか?」
          どうした」
信長は裸の躰を起す
「先ほど、鳴海の監視に出向いていた塙九郎左衛門殿がお戻りになられまして、若に火急の知らせと」
「何だ」
信長は急いで側にあった帰蝶の小袖を羽織り、布団を出た
襖を空けると、目の前に信長の大事な物が迫ることに頭から汗を浮かばせたなつの、呆れ果てた顔が帰蝶にも見える
「若、せめて下帯くらいは巻いて出て来てください」
「あ・・・」
                
羞恥心の乏しい夫に、急いで身仕度を整える帰蝶も想わず信長の下帯を投げ付けた

急ぎとのことで、信長は歩きながら下帯を巻き、躰には帰蝶の小袖を軽く羽織った姿のまま表座敷に向う
帰蝶はそんな真似ができるわけもなく、軽装の小袖を何枚か巻き付け、慌てて夫の後を追った
正に急転直下の出来事だった

「何?村木で砦が作られてるだと?」
村木は鳴海よりずっと東南の方向にある
衣浦に繋がる矢作川を国境とし、西が尾張、東が三河
村木は三河国になるが、その周辺は信長の父・信秀が今川より奪った領地であった
その織田領内で砦が作られていると言う
「どこのどいつだ。また山口か?」
怒り心頭の顔付きで聞く
「それが、今川のようで」
「今川?」
この時、身支度を済ませた帰蝶が到着した
「今川がどうかしたのですか?」
「帰蝶」
「奥方様」
塙九郎左衛門直政は帰蝶に軽く頭を下げる
「こんな夜分に怖気も付かず戻って来たと言うことは、悠長に構えている場合ではないと言うことですね?」
「はっ・・・」
「何がありました?」
「それが、今川が刈谷付近の村木に、砦を作ってるそうだ」
「手引きは誰ですか」
「今、捜索中です。ですが、十中八九・・・」
「山口、でしょうか」
「恐らく」
「あなた」
「うん、今直ぐ追い出して         
「このまま、砦を作らせてください」
          へ?」
信長がキョトンとするのだから、報告した直政がポカンとするのは仕方ない
「だって、砦を作るのにどれだけの費用が掛かると想ってるんですか?」
「規模にも因るけど・・・」
「それを、今川がうちに代わって作ってくれてるんですよ?ありがたいじゃないですか」
「そうなのか・・・?」
「完成したところで、頂けば良いだけの話でしょう?」
「え?」
「あ、それもそうだな」
「へ?」
ポカンとしてからギョッとする直政は、帰蝶の言葉であっさり納得する信長にあんぐりと口を空けた
          なんなんだ、この夫婦
そう言いたげな顔をしながら
「と言うわけだ。取って返して報告ご苦労だが、戻って良いぞ」
「はぁ・・・」
俄かに今川が動き出したこと自体は急転直下だが、帰蝶の一言で事態はいきなり終結した
直政は急遽鳴海の監視から、今川が作り始めた砦の監視にと切り替わる

虎の子の側らには、常に鷹の目が光っていた
互いが互いを支え合う
だからこそ、この時代には珍しい夫婦だった
結局信長は自室に戻ることになり、帰蝶は同行したなつに連れられて局処に帰る
背中に感じる帰蝶の気配を辿りながら、なつは夕刻に息子と交わした会話を想い出した

「母上」
「首尾はどうですか、勝三郎」
「佐久間様が抜けられた穴は大きいですが、殿がその分期待してくださっているのでとことんがんばるつもりです」
「つもりではなく、命を賭して励みなさい」
「はい」
厳しいが、それでも愛情の溢れる母の言葉に、池田恒興は苦笑いしながら応えた
「それよりも、奥方様と言うお方は、いつもあのようにはっきり物を仰るんですか?」
「今日はまだ抑えている方です」
「え?」
「局処での若と奥方様の言い争いは、激しいものですよ」
その内容は他愛のないことばかりだが、実情を知らない恒興は身を震わせる
「あの方は、虎に愛されたお方ですから、普通の婦人とは違います」
「虎に愛された?」
「先代様が、随分気に入ったようです」
「大殿が、ですか」
「奥方様の才知、女にしておくには惜しい、と」
「そうですか」
信秀の臨終の際、なつは直に頼まれた
美濃の鷹を、よろしく頼むと
それは、暴走してしまわないよう楔に打ち付けろと言うことなのか、今以上に育て上げろと言うことなのか、なつにはわからない
息子である信長よりも、嫁である帰蝶を気に掛けながら信秀が死んだことは、誰にも話していない
話せば正妻の怒りを買う
当然、その怒りの矛先が向かうのは帰蝶である
信秀はなつに、『帰蝶を守れ』と言い残して死んだ
嫁は倅が出世するに必要な人材だと踏んだのだろうか
だから、その帰蝶から那古野に来て欲しいと誘われた時は、諸手を上げて喜んだ
そして、側で帰蝶を見て来て、なつは信秀の想いを理解した
妻は夫が辿るべき道に印を付け、その上を上手く歩かせている
しかも、手柄は夫が取る結果になっており、夫の体面を壊すことなく、そして、夫の役に立っている
今川が作っている最中の砦を最後まで完成させろとは、何処の奥方も言えないだろう
さすがは、美濃の蝮の娘
さすがは、尾張の虎に『鷹』と称された婦人
背中に感じる帰蝶の気配を辿りながら、「この方は、織田に嫁ぐべくして嫁いだお方だ」と確信した
ただ、こうとも言える
夫が信長だからこそ、帰蝶の才は生かされるのだと
どちらが欠けても、この夫婦は成り立たない
他の男の許に嫁いで、あるいは他の女を娶っても、この二人のように上手く行くわけがない、とも
そして、なつですら予想していなかった
道三にも、信長が認められていたことを
『蝮の後継者』と                
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◇◇11/19 Nintendo DSソフト◇◇
『トモダチコレクション』

おのうさま(帰蝶)とノブ(信長)が 結婚しました(笑

祝:お濃さま出演 But模擬専…     (戦国無双3)


おのれコーエーめ
よくもお濃様を邪険にしおってからに・・・(涙

(画像元:コーエー公式サイト)
オンラインゲームにてお濃様発見


転生絵巻伝 三国ヒーローズ公式サイト:GAMESPACE24
『武将紹介』→『ゲーム紹介』→『Exキャラクター紹介』→『赤壁VS桶狭間』にてお濃様閲覧可
キャラクター紹介文
絶世の美貌を持つ信長の妻。頭が良く機転が利き、信長の覇業を深く支えた。
また、信長を愛し通した一途な妻でもあった。

(画像元:GAMESPACE24公式サイト)
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濃姫好きとしては、飲めなくても見逃せない

岐阜の地酒 日本泉公式サイト

(二本セットの画像)
夫婦セット 吟醸ブレンド(信長・濃姫)
本醸造 濃姫
カップ酒 濃姫®=爽やかな麹の薫り高い、カップとは想えない出来上がりのお酒です
吟醸ブレンド 濃姫® ブルーボトル=自然の香りのお酒です。ほんの少し喉を潤す程度でも香りが深く体を突き抜けます
本醸造 濃姫®=容量的に大雑把な感じに想えて、麹の独特の香りを抑えたあっさりとした風味です

今現在、この3種類を試しておりますが、どれも麹臭い雰囲気が全くしません
飲料するもよし、お料理に使うもよし
お料理に使用しても麹の嫌な独特感は全く残りません
奇跡のお酒です
何よりボトルがどれも美しい

清洲桜醸造株式会社公式サイト

濃姫の里 隠し吟醸
フルーティで口当たりが良いです
一応は『辛口』になってますが、ほんのり甘さも残ってます
わたしは料理に使ってます

清洲城信長 鬼ころし
量的に肉や魚の血落としや、料理用として使っています
麹の香りが良いのが特徴ですが、お酒に弱い人は「うっ」と来るかも知れません
どちらも一般スーパーに置いている場合があります
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