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「生きろ!河南(かな)!」
それが、私が聞いた父の、最期の言葉だった
私の父は近畿、和泉の豪族だった
父はとある一族と、私が生まれる前から長く争っていた
その一族とは兵力も実力も均衡していた
一進一退の争いに、どちらかが倒れるまで戦は終わることはなかった
だが、その一族の主が若い跡取りに変わってから、事態は一変した
武将の名は、楠木正成
容赦ない過酷な攻めに困窮した父は、楠木家に対して一時休戦を提議した
楠木はそれを受け、父は漸く自宅に戻ることができた
だけど・・・
束の間の休みと戻った父を、楠木が奇襲を仕掛けた
自宅で
私の目の前で
父は楠木の若武者達に首を刎ねられた
私は男達の慰め物として生け捕られ、あの人の前に引き摺り出された
あの時の、私が持っている記憶は、父が首を刎ねられる瞬間と、あの人の、キョトンとした顔だった
「河南!見ろ!」
幼い少女を腕に抱き、正成は屋敷より少し小高い裏の山にある櫓から、村の光景を見下ろした
「美しいだろ、俺の村は」
「寒い・・・・・・・」
「ははは!」
震える少女を、正成は着ていた陣羽織の中に押し込み、ぎゅっと抱き締めた
「もう寒くないか?」
「 」
腕の中の子は、小さく頷く
「どうだ、緑豊かなこの村は。ここが赤坂、あちらが千早だ」
と、正成は指を差した
差した先には、少女の生まれ故郷へと続く山々が見える
「千早は巫女の着る衣装のことだぞ?知ってたか?」
「千早?」
「そうだ。大和の国の巫女の衣装は、全て俺の村で生産されている。厚過ぎず薄過ぎず、丈夫で糸解れも起こさない、長持ちすることで有名なんだぞ?」
「 」
少女は興味がなさそうに、ぼんやりと正成の声を聞いていた
「河南。大人になったら、巫女になるか?巫女になって、この国のために祈ってくれるか」
「河南は、巫女になるの?」
興味のないまま、聞き返す
「ははは!巫女になるのもよし、誰かの嫁になるもよし。河南。お前が決めろ」
「だったら 」
だったら、私は ・・・
「あはははははは!しばらく見ない内に、河南も随分大きくなったなぁ!」
髭面の、少し怖そうな顔を歪ませて、寺田泰時は愛娘を膝に抱いて笑った
「旦那様、あまり大きな声を出さないでください。河南がびっくりしているではありませんか」
最愛の妻である『つる』が、顔を顰めて夫を窘める
「すまんすまん。久しぶりだったからな、つい羽目を外してしまった」
父・泰時は五十に手が届くほどの年齢で、母のつるはまだ二十代であった
この時代ではそう珍しい年齢差でもない
「それにしても、楠木もよく停戦協議に応じたものですね。当主が代わったばかりなのでしょう?勢い付いて、決して応じないと想っておりました」
「ははは、そうだな」
母が盃に酒を注ぎ、父がそれを受ける
頭の上で交わされるこれを、河南は顔を上げてじっと見ていた
父は髭面の、強面だった
黙っていると雰囲気の恐ろしい男だが、笑うと悪戯盛りの子供のような顔になる
河南はそんな父が大好きだった
父の膝の上も、大好きだった
父の膝の上は河南にとって特別な場所である
ここを独占できるのは、河南だけだった
大きく逞しい父の膝の上に居ると、不安も心配も消えてなくなる
安心できる場所だった
「楠木の新当主はご覧になられました?」
「ああ。協議の際に顔を合わせた。中々いい面構えをしていたぞ」
「まあ、敵方を誉めるだなんて」
「そう言うな。若いがな、恐ろしいほど肝が据わっている。なんせ講和の席に、一人で乗り込んで来たのだからな」
「一人で?」
つるは夫の言葉が信じられなかった
「まさか」
「その『まさか』だ」
泰時はその時のことを想い出す
自分を囲む無骨な男達に一歩も引かず、寧ろ不敵な笑いを浮かべていた、若く、美丈夫な青年の顔を
「河南、そろそろ父上の膝から降りなさい」
と、長兄が声を掛けた
「はい」
河南は素直に応じる
河南には異腹の兄が何人か居て、長兄と次兄は既に元服し、父に付き従っていた
その兄らも父と共に自宅の屋敷に戻り、歓待を受けている最中であった
河南の母は、所謂後妻である
先妻が病で死去したため、まだ十三だった頃に父に嫁いだ
この時点で河南には四人の兄と五人の姉、下に生まれたばかりの弟が一人居た
父と兄が戦の場に赴いても、屋敷にはまだ兄弟が残っていて、河南は寂しいと想ったことはなかった
「河南」
少しばかり膝の寂しいのを撫でながら慰め、降りた娘に声を掛ける
「お前も将来は、腹の据わった男に嫁げ。多少不器用でもいい、己の信念を『最期』まで貫き通せる、筋の通った男の許に嫁げ。いいな?」
「はい、父様」
「旦那様、河南はまだ五歳なんですよ?」
「わかっている。だが、教えるのに遅い早いはないだろう?」
と、妻に一声返し、河南に向かい直して続けた
「今は停戦を交わしていても、何れはまた戦が再開する。相手も若くなった。わしもどこまで通じるかわからん。その時は兄達がお前を守ってくれるだろうが、河南。もしも屋敷が敵方の乱捕りに遭ったら、下手な抵抗はするな」
「旦那様!」
夫のこの言葉を聞き、つるは慌てて制止した
「今はおやめになってくださいッ。河南には、その話はいくらなんでも早過ぎますッ!」
戦の時、父はいつもこの話を口にしていた
どんな屈辱を受けても、娘達には生き残って欲しい
心からそう願っていた
「いいや。続けるぞ。 河南。生きろ」
「 」
父のその言葉は、河南には難しかった
姉達は相応に成長している
長女はこの春、嫁に行くことも決まっている
だから、父の話は理解できる
だが、まだ幼い河南には、到底理解できる内容ではなかった
それでも、わかったような顔をしなくてはならない
わからなければ、父は何度でも同じ話を繰り返す
繰り返せば、母が嫌な顔をする
それがつらかった
母に嫌な顔をさせたくなくて、河南はわからなくてもわかったような顔をするのが癖になっていた
「お前達もだ」
続けて、姉達にも言い放つ
姉達はいつものことと、大人しく聞いていた
「死んだら負けだ。どれだけ歯を食いしばって生きて来ても、死んでしまったら負けだ。それまでの、自分の人生も歴史も、全て敵方が否定する。悪くなくとも悪いと言われ続け、それは永劫続く。だから、河南」
父の目は、真剣だった
「生きろ」
「 」
何かを予感していたのか
何かを恐れていたのか
「男は死んで、名を残す。女は生きて、子を残す。 乱捕りに遭い、敵方に捕まったとしても、決して抵抗するな。敵方に身を委ねろ。例え死にたくなるような陵辱を受けたとしても、死んでしまっては元も子もなくなってしまう。生き延びるんだ。いいな、河南」
「 」
父の雰囲気に押され、河南は頷くしかできなかった
隣では母が、しかめっ面で父を睨んでいるのがわかった
留守勝ちの父ではあるが、それが父の仕事だからと母から言い聞かされ、たまに帰ると家族ぐるみで大歓迎する
それが、当たり前の日常だった
その日常が、ある日突然、音を立てて崩れた
「 」
寺田の屋敷の側の茂みで、五人の若い武者が身を潜め、互いの顔を確認し合う
統率者と想われる青年武将が頷くと、それが合図のように若武者らは一斉に立ち上がり、雄叫びを上げながら泰時の屋敷へ駆け出した
その後に続き、百を越す軍勢が雪崩れ込む
突然の奇襲に、警護の緩んでいた寺田の屋敷は瞬く間に火に包まれた
「そろそろお前達は寝ろ」
父の声に、兄達が最初に立ち上がる
続いて姉達も立った
だが、河南だけは立ち上がらない
「河南、お父様の声が聞こえなかったの?」
「だって、もっと父様とお話したい」
「でも、もう遅いわ。早く寝て、明日またお話すればいいでしょう?」
「母様はずるい」
「え?」
河南の言葉に、つるはキョトンとした
「いつもそうやって、夜は父様を独り占めするもの」
「あ・・・、え、だって、河南・・・」
つるの顔が真っ赤になるのを、泰時は豪快に笑い飛ばし、長兄が河南の手を取った
「河南、父上と母上は、そう言う仲なのだから」
「太郎丸・・・っ」
つるは困った顔をして、長兄の童名を呼んだ
「そう言う仲って?」
「仲良し、って意味だ」
「仲良しなら、河南も仲良し。だから、河南もここに居る」
「河南」
長兄は笑って河南を抱き上げた
「一人が寂しいのなら、今夜は兄が一緒に寝てやろう。それで良いか?」
「 」
しばらく考え込み、それからゆっくり頷く
「兄様だったら、いい」
「本当に河南は、甘えん坊ねぇ」
長姉が苦笑いをして廊下に出ようとした
その長姉と、廊下を走って来た家臣の男がぶつかりそうになる
「ああ、申し訳ございません・・・ッ」
「どうした、簗田」
「 殿」
簗田と呼ばれた家臣の顔色が青い
「何かあったか」
察して、泰時は訊ねた
「くっ・・・、楠木の奇襲です・・・。楠木が、押し掛けて来ましたッ・・・!」
「何?!」
一瞬にして、泰時の顔が強張る
「楠木とは休戦を交約しておる!何かの間違いではないのか?!」
「間違いございません!楠木の襲撃にございますッ!」
「父上ッ!」
河南を抱いていた長兄が、河南を降ろして駆け寄る
「おのれ、楠木め・・・。講和を反故にするかッ」
「旦那様ッ」
つるが泰時の方へ駆けようとしたのと同時に、一家の揃っていた座敷に楠木の若武者衆が雪崩れ込んで来た
「寺田右衛門尉、覚悟ッ!」
「 」
何が起きたのか、河南には理解できなかった
数人の若武者らを先頭に、何十人もの兵士が座敷に入って来た
兄達は刀を持って応戦し、母達は逃げ惑っていた
最初に母が捕まり、若武者に押し倒されてしまった
その、母を押し倒した若武者の叫び声と、若武者の振り上げた刀が煌き、母の断末魔が響いた
「つるッ!」
父の怒声が聞こえる
「河南ッ!」
側に居た次兄が、咄嗟に河南を庇った
見えないその向こうで、姉達の叫び声も聞こえる
「この赤ん坊はどうするッ!」
「後顧の憂いになるものは、一切残すなッ!」
河南を庇っていた次兄の躰が引き剥がされた
その背中の先に、押し掛けた楠木の若武者が立っていた
河南は更にその先に居た父の顔を見付け、慌てて駆け寄った
「 河南・・・ッ!」
父は刀を持って応戦していた
父に手を伸ばした瞬間、父の背後に若武者が立っているのが見えた
「父様!後ろッ!」
「 ッ!」
泰時は振り向き様、その若武者を斬り捨てた
「河南ッ!」
他の若武者や、大勢の兵士が父に群がる
「生きろッ!河南ッ!」
「父様・・・」
父を助けようと
だけど、足は子供のままで、速く走れなかった
父に辿り着いた瞬間、若武者の振り下ろした刀が父の首を捉えた
「 」
父の首から吹き出た鮮血が、河南の顔、首、胸元に飛び散る
「取ったぞッ!」
「 ッ!」
河南は咄嗟に、父の首を拾い上げようと両手を伸ばした
「河南ッ!」
長兄の声が耳に入る
顔を向けた河南の視界に、男達に犯されている姉の姿が見えた
長兄は河南の手首を掴んで引き寄せ、河南を庇うように蹲った
その長兄の背中から、若武者の刀が突き刺さる
「 」
刀は兄の躰を貫き、河南の鼻先で止まった
血を帯びた刀が、ゆっくりと遠ざかる
遠ざかると共に、兄の躰もゆっくりと崩れた
河南は兄の躰の下敷きになり、楠木の兵士らには見付からなかった
「女は犯した後、殺せッ!道中の足手纏いになるッ!」
そう、声が聞こえた
姉達の、耳を劈く悲鳴が一つ、二つと途切れて行った
やがて座敷内が静かになり、楠木の武者らの声しかしなくなった
「女の一人でも残しておけばよかったのに。あーあ、もったいねぇ」
「そんなこと言ったってよぉ、顔引っ掻きやがるんだよ」
と、殺したつるを見下ろす
「いい女だったんだけどな」
「あっちは片付いたか」
河南の姉達の方を見返る
どの娘も全員、殺された後だった
「右衛門尉の娘は、どいつも気が強いんだな」
と、誰かが苦笑いするのが聞こえた
「首はこれ一つで充分だな。他も制圧した頃だろう。引き揚げるか」
足音が響く
兄の下敷きになっていた河南の躰が震える
息を殺し、見付からないようにしなくてはと、自分の口を押さえた
しかし、それでも気付かれる
「 」
先頭から少し遅れて歩いていた少年武将が、それに気付いた
「新九郎さん」
振り返ったのは、二十歳を少し超えたようなまだ若い武将で、だがしかし、年長者のような貫禄を持つ青年でもあった
「どうした?勘九郎」
「 」
勘九郎と呼ばれた少年は、黙ってそれを指差した
「 」
新九郎もそれに気付き、泰時の長男の骸を引っ繰り返す
「お・・・」
そこから、小さく身を丸め、震えている河南を見付けた
河南自身気付かない内に、恐怖のあまり失禁した染みが広がっていたのを、気付かれたのだった
それから、河南には記憶がない
あっと言う間の出来事だったこともあった
次に気が付いた時は、ある青年武将の前に引き摺り出された時だった
「殿!寺田右衛門尉の首を持ち帰りました!」
その声に、床机の上で片肘を突いていた正成が顔を上げた
「取ったか」
「策常殿の導きの通り」
「金剛の山伏も、使える時は使えるもんだな」
と、正成は、まだ幼さの残る顔で笑った
「ですが、代わりに彦介と田野中がやられました・・・」
「 」
一瞬、眉間に皺が寄り、しかし、しばらくすると元に戻る
「まあ、しゃーねえ。親父の代から争ってた男だからな、こっちも無事で済むとは想ってねえ。二人には論功行賞の一つでもくれてやればいいだろ」
「それと」
と、軍団を統率していた新九郎が顎で指図した
それに続くように、縄で全身をぐるぐる巻きにされた河南が引き摺り出され、正成の前に放り出された
「 なんだ、このガキは」
血塗れ泥塗れの、みすぼらしい風体をした、到底愛らしいとは想えない様相の子供だった
正成は顔を顰めて河南を見下ろす
「寺田の座敷に居ました。恐らく、娘かと」
「他は」
「殿のご命令通り、始末して来ました」
「で、こいつだけ連れて来たのか。なんでだ」
「 」
新九郎も、自分でもわからないのか、首を傾げる
「お前は、いつもどうしようもないとこで、仏心を出しやがる。生かして、それがつらくなることがあったら、どうするんだ。で、他は」
「根切り(皆殺し)にしました」
「 」
正成は鼻から溜息を吐くと、芋虫のように自分の目の前に転がる少女を見下ろした
娘は自分を見ていない
心、ここにあらずの状態だった
「でも、まあ、殿の慰め物には、ねえ。初物は殿に、俺らはその後で」
と、別の青年が卑下な笑いを浮かべる
「莫迦野郎、ガキ相手におっ勃(た)つかよ。 縄を解いてやれ。年端も行かねえガキを、簀巻きにすることもねえだろ」
「 八郎」
新九郎に命令され、八郎と呼ばれた青年が前に出る
河南を縛っている縄を掴むと、起き上がらせ、刀でそれを切った
切りながら、幼い河南に言い放つ
「ガキでも女なら、股先広げりゃ生き残れる。てめえにその能がありゃ、やってみやがれ」
「八郎」
「だって、殿!俺の親父は、こいつの親父にやられたんだッ!ガキだろうが、俺にとっては仇だッ!」
「だが、今日からそいつの仇は俺になった。それでも、お前は同じことを言えるか?」
「 」
「お前だけじゃねえ。ここに居る殆どのヤツは、親を寺田にやられた。だけどな、それは戦だからしょうがねえだろ?自分の恨みをガキにぶつけるのは、正しいことじゃねえ。俺らの仇は、この小娘か?それとも、寺田か?」
正成の言葉に、全員が黙り込む
その会話を聞き、理解していたわけではない
ただ、父の言葉が甦った
生きろ、河南
「 」
呆けた顔をしたまま、河南は自分の着ていた小袖の帯を解いた
「 おい、何してる」
それに気付いた正成が、声を掛ける
帯を解き、小袖の上着を脱ぎ落とし、腰紐を解き、肌着を脱ぎ捨て、河南は全裸になった
その瞬間、正成は床机から駆け出し、河南を包み込むようにして抱き締めた
「何やってんだよッ!」
抱き締めた腕を伸ばし、河南の脱いだ肌着を拾い上げ、肩に被せる
河南の行動に新九郎らも驚かされ、ぽかんとなった
「お前・・・ッ!」
もう一度怒鳴ってやろうと顔を見た瞬間、正成は心を鷲掴みにされたような気になった
「 」
口唇を噛み締め、涙は零さないよう、じっと自分を睨んでいる
その瞳は金剛山の上にある空より澄み、しかし、その中央には家族を失った悲しみの色が現れ、幼いながらも自分の置かれた立場を理解しようと、両手を握り締め、小さく震えている
自分から目を逸らさないその少女に、正成の心は奪われた
「 あさを呼んで来い・・・」
『あさ』は、正成の妻の名だった
女達が暮らす奥座敷からあさが呼ばれ、河南を連れて行った
表座敷では正成が、ある山伏の帰りを待っていた
その山伏が戻って来る
「多聞丸殿」
「戻ったか、羅刹」
名を呼ばれた山伏は、山伏にしておくには勿体無いほどの綺麗な顔立ちをしていた
年はそろそろ三十に手が届くかと言う頃だろうか
まだ青臭い正成よりは、ずっと大人の領域に居る雰囲気を醸し出している
「寺田の屋敷への抜け道を、策常に伝えさせたのは、私だ。だが、罪のない女子供まで皆殺しとは、どう言った了見か。聞けば、生まれて間もない赤子まで手に掛けたのだそうだな」
「後顧の憂いは残したくなかった」
「それで、末娘だけ生かすのは、どう言った心積もりか」
「わかったのか、あの小娘のこと」
「それを調べに、和泉に私を遣らせたのだろう?」
「誰だ、あの娘は」
「 寺田の末娘 」
自分の話を聞こうとしない正成に、羅刹は溜息を零しながら応えた
「名前は、カナ」
「カナ?」
「『河』の『南』と書いて、『カナ』だ」
「漢字を使ってるのか?女に」
「そのようだな」
「女に漢字を使わせるのは、亭主が出世した時か、亭主が死んで後家になった時くらいだ。後は京(みやこ)の公家の娘くらいしか使ってないぞ?」
「それでも、あの子の名前は、『河南』だ。漢字を使っている。間違いない」
「母親は」
「同じ和泉の豪族の娘だ」
「じゃあ、公家出身ってわけでもねえんだな」
「そのようだ」
「河南・・・か」
「年は、今年で五つ」
「五つ。もっと幼いかと想ってた」
「そなたは、僅か五つの娘に、修羅の道を歩かせたのだ。早急に寺かどこかに預けた方がいい。手元に置いておける存在ではない」
「 」
羅刹の言葉に、正成は黙り込んで考えた
「あら、愛らしい」
頭から被った父の血脂を湯で落とすと、河南本来の愛らしい顔立ちが現れる
正成の妻・あさは、手拭を湯に浸けながら微笑んだ
肌の白く柔らかな、美しい女だった
河南は目の前の、その美しい女をじっと見ていた
どことなく、母に似ているような気がして
「柔らかな髪ね。撫で心地が良いわ」
と、河南の頭を撫でる
「いい子ね、じっとしていて。後でいい着物を着ましょうね。今、探しているから」
声も優しい女だった
その声が、河南を癒してくれる
ふんわりと、柔らかい、いい香りもして来る
「お鼻も小さく、お口も小さく。ほっぺもつるん。おでこも、つるん。綺麗なお目々ね。あなた、将来美人になるわよ」
「 」
そんな誉め言葉に喜んだわけではない
あさの声が優しくて、どうしても母を連想させる
「 えっ・・・、うっ・・・」
湯の温かさに、心が解れたか
河南はやっと、家族が殺されたことを想い出した
「母様は、いつも、湯殿で優しく拭ってくれたの・・・」
「そう」
「頭を撫でて、いい子ね、って、言ってくれたの・・・」
「そう」
「うっ・・・、えっ・・・」
河南の目から、涙
鼻から、鼻水が流れて来る
「うええーん!」
それと同時に、ずっと堪えて来た悲しみが、河南を襲った
「ええーん!ええーん!ええーん!」
「お嬢ちゃん」
父を、殺された
母を、殺された
兄は、自分の身代わりに死んだ
姉達も、殺された
生まれたばかりの弟も、殺された
全員、殺された
自分だけが、生き残ってしまった
「ああーん!ああーん!ああーん!」
「 」
泣きじゃくる河南を、あさはそっと抱き締めた
「正気かッ?!」
正成の考えを聞き、羅刹は叫んだ
「そなたは、身の内に厄災を抱え込むつもりかッ?!」
「年端も行かねえガキだ」
「その子供が、将来どう化けるか、そなたは想像できぬのかッ?!この、金剛の地に厄災を持ち込むつもりかッ?!」
「あいつは厄災なんかにゃならねえ!俺が責任を持つッ!」
「そなたの責任だけで済む問題ではないッ!如いては、我ら金剛衆の身の上にも降り掛かる!」
「あいつは、疫病神なんかじゃねえ!俺がそうさせねえ!」
「多聞丸殿ッ!」
「 そうだ。俺の名は、多聞丸だ。毘沙門天の名を冠する者だ」
低く、声が唸る
「だから、なんだと言うのだ・・・」
「毘沙門天にゃ、吉祥天が必要だ」
「 それが、あの子だと申すか」
「 」
「莫迦々しい」
「莫迦でも何でもいい。拾った命、俺は捨てたくねえ」
「それが何だと 」
「羅刹ッ!」
正成は立ち上がり、羅刹を見下ろした
「『俺が決めた』ことだ。俺はこれまで、そうやって生きて来た。己の想うまま、魂の想うまま、生きて来た。その、俺の魂が叫びやがる」
「 なんと?」
「『生かせ』、と」
「 」
羅刹は正成の目に応えられなかった
奥座敷に入ると、訊ねた侍女があさの寝室を知らせた
「ここだったか」
自分の手で襖を開け、部屋に入る
部屋の中央に敷かれたあさの布団が、小さく盛り上がっていた
「もう寝たのか?」
「泣き疲れたようです」
振り返った妻の美しい姿に、正成も微笑む
真ん中で眠っている河南を挟むように、正成はあさの正面に腰を下ろした
見下ろす先の河南の寝顔をじっと見詰める
「どうした」
「湯殿で、家族が殺されたことを想い出したのでしょうね。突然泣き喚いてしまって」
「そうか・・・」
「この子の名前、わかりました?」
「ああ。カナと言うそうだ」
「カナ?」
「河の南と書いて、カナ」
「河南、ですか。そう・・・。愛らしい名前」
と、あさは眠っている河南の頭をそっと撫でた
「なんだ、泥や血脂を落としたら、別嬪になったじゃねえか」
「酷い話ですよ。こんな幼い子を引き摺って、泥まみれにするだなんて」
「仕方ない。あいつらも寺田には恨みつらみがあるんだ」
「態と、『そう言った人選』をなさっておきながら、さも仕方がないような言い逃れなど、この子には通じませんよ」
「わかってる」
「 どうなさるんですか?この子を。このまま、『恨みの対象』として、置いておくのですか?」
「 」
自分の考えを見抜くあさに、正成は目を丸くする
「まさか?」
「 いや・・・、ああ・・・」
どう、言葉にするべきか、正成は考えながら話す
「こいつを、育てようと想ってる」
「え?」
夫の言葉に、あさは目を丸くした
「正気ですか?」
「羅刹にも言われた」
「羅刹殿にも」
「こいつを手元に置いておくなど、正気か、と。ああ、正気だ」
「旦那様」
「なんだか、自分でもわかんねぇ。でも、どこにもやっちゃなんねえんだ。自分のやったこと、いつまでも忘れないための楔にしておきたいんだろうな」
「楔に?」
「考えあってのことだとしても、こいつにしてみれば俺は、単なる親の仇だ。しかも、目の前で親を殺し、兄弟も皆殺しにしちまった。どんだけ言い訳したって、こいつには通じない。わかってる」
「だから、罪滅ぼしでこの子を養育すると?将来、あなたを恨むかも知れないのに?」
「ははは。羅刹はそれが言いたかったのか」
と、正成は笑った
「身の内に厄災を抱え込むつもりか、と問われた。俺は反論したけど、どこかで自分でもそう想ってたんだろうな」
「旦那様・・・」
「いつかこいつに、返り討ちに遭うかもしんねえって。 厄災でもいい。俺は、こいつがどんな風に俺を恨むのか、見てみてえ。一家を皆殺しにした俺をどう取り殺すのか、見届けたい」
「 」
いつになく真剣な顔をする正成を、あさも黙って見詰めた
翌日になり、正成は目覚めた河南を連れて、裏山に上がった
裏山と言っても、屋敷の直ぐ後ろにある、少し小高いだけのものだが
そこには簡素な造りの、剥き出しの櫓が一本立っていた
大人三人が立てばいっぱいになるような小ささだった
その櫓に登り、河南を呼ぶ
「河南、来い。登れるか?」
「 」
河南は黙って見上げ、それからゆっくりと梯子を上り始めた
結局河南はあれから一度も目覚めず、そのままあさと共に眠っていた
時々、あさの胸倉にしがみ付いたくらいで、特に騒ぎは起こさなかったとあさから聞かされ、ほっと胸を撫で下ろす
しかし、だからと言って、河南の、自分を見る目が優しくなったわけではない
屋敷を出る時も押し黙っていた
押し黙り、目も合わせてくれなかった
それでも正成はこの光景を河南に見せたくて、連れて来た
「よーし、あともうちょっとだ。頑張れー!」
先に上った正成は、上から河南に声援を送る
「ほれ、もうちょっと、もうちょっと!」
「 」
子供だから素敏(すばしこ)いかと想いきや、やはり女なのが難点なのか、寧ろ大人の女が上るより尺(時間)が掛かって仕方ない
それでも正成はしゃがみ込み、膝に頬杖を付いて河南を見守った
やがて河南が櫓を上り切る
「おーし、よくやった!お前、女なのに根性あるじゃねえか!」
そう言って正成は笑いながら河南を抱き上げ、櫓の正面に回った
「河南!見ろ!」
と、山から見える村の光景を一望する
兎に角河南にとって、正成の声は喧しい
父も同じように、怒鳴るような話し方をしていた
「美しいだろ、俺の村は」
どこまでも伸びる緑の色を、正成は惚れ惚れするように見渡した
だが、河南にとってはそれは、大した意味を成さない
「寒い・・・・・・・」
と、正直に呟く
「ははは!」
震える河南を、正成は着ていた陣羽織の中に押し込み、ぎゅっと抱き締めた
「もう寒くないか?」
「 」
河南は黙って頷いた
「 確かに俺は、お前の親父を殺した」
「 」
突然何を話し出すのだろうと、河南は正成を見上げた
やっと河南が自分を見てくれたのに、肝心の正成は河南の眼差しから避けるように正面だけを見据えている
「お前の親父を騙まし討ちして殺した仇だ。だけど、早く戦を終わらせたかった」
子供を相手に、贖罪する
「お前の家とは、もう二十年争ってた。お前の親父は頭が切れたからな。だから、できるだけ早く戦を終わらせたかった。戦が長引けば長引くほど、民は困憊する。争いを避けるため、土地を出て行く。民が出て行けば、村は死んじまう。民の居ない村なんか、村じゃねえ。ただの廃墟だ。だから、俺は」
「 」
子供相手に何を話しているのだろうと、正成は自分でも自覚した
「楠木とは死んでも迎合できないと言い切ったお前の親父を、殺した」
「 」
河南は黙って正成の話を聞いていた
「俺を討ちてえんなら、構わねえ。俺を殺せ」
「 」
「だけど、今は待ってくれ。この村の隅々にまで緑が溢れるその日まで、俺を生かしててくれ」
「 生かす・・・」
「そうだ」
正成もようやく河南の方に顔を向け、そして、すぐさま目を逸らした
想っていたよりも、河南が可愛らしかったからだ
清らかなその瞳に映る自分は、血に汚れた人殺しでしかない
そんな自分を認めたくなかった
「どうだ、緑豊かなこの村は」
自分の気持ちを誤魔化すかのように、正成は声を張り上げた
「ここが赤坂、あちらが千早だ」
と、正成は指を差す
「あれが、金剛の山。それに続いてるのが、大和の国の生駒の山。あの山の向こうに、あさの実家があるんだ。あさ、知ってるだろ?お前の世話してくれてる」
河南は黙って頷いた
「それから、あれが 」
差した先には、河南の生まれ故郷へと続く山々が見える
正成はその先が言えなかった
「千早は巫女の着る衣装のことだぞ?知ってたか?」
「千早?」
初めて聞く名前に、河南は首を傾げながら聞き返す
「そうだ。大和の国の巫女の衣装は、全て俺の村で生産されている。厚過ぎず薄過ぎず、丈夫で糸解れも起こさない、長持ちすることで有名なんだぞ?」
「 」
聞かされても河南は興味がなさそうに、ぼんやりと正成の声を聞いていた
「河南。大人になったら、巫女になるか?巫女になって、この国のために祈ってくれるか」
正成自身、何故そんなことを口走ったのか、わからない
本人がわからないのだから、言われた河南は更に理解できない
「河南は、巫女になるの?」
興味のないまま、聞き返す
「ははは!巫女になるもよし、誰かの嫁になるもよし。河南。お前が決めろ」
「だったら 」
河南はその先を言わぬまま、村の景色を見渡した
あの山は、金剛山
あの山は、生駒山
あの山は、和泉の山
河南には、それがわからない
どちらの方向が自分の故郷なのかすら、わからない
わからないまま、じっと見詰めた
「こんなところに居たんですか」
と、後ろからあさの声がした
「ちょっと出て来ると仰って、どこに行くのかと想いきや」
「ははは、見付かっちまったか」
「旦那様、こんなところに河南を連れて来て、どうなさるんですか。まだ朝も寒い時季なのですよ?河南が熱を出したら、どうなさるのですか」
「それはいかんな。河南、戻るか」
と、あさが立っているのとは逆の方向に周り、河南を抱いたまま櫓を降りる
降り切ってから、河南を離す
その途端、屋敷に向かって河南が走り出した
「河南!走るな!転ぶぞ!」
「それが子供の仕事です。転んで怪我をして、痛い想いをして学ぶのです」
「でもなあ」
振り返ると、あさが厳しい顔をしていた
「 どうした、あさ」
「私が 」
「 ?」
「私が、死なせません」
「あさ・・・」
「私が、あなたを死なせません」
「聞いてたのか」
正成は苦笑いをしながら、頭を掻き毟った
「私が育てます」
「え?」
「あの子を我が子同然に育てます」
「あさ・・・」
「私の、持てる限りの愛で、あの子を育てます。だからあなたは、あなたのすべきことをなさってください。あの子のことは、私に任せてください。 あなたを、死なせるものですか」
「 」
想えばあさは、いつも朗らかに笑う女で、厳しい目をしたことなど一度もなかった
そのあさの宣言に、正成は何も言えなかった
言えず、ただ頷くことしかできなかった
屋敷に戻ると、河南は既に座敷に上がり、朝餉の粥を啜っていた
「奥様、お帰りなさいませ。旦那様、今朝はこちらで召し上がられますか?」
「いや、顔を出しただけだ」
出迎えに出たのは、奥座敷の中でも年長の侍女だった
「おさと」
「はい」
「すまんが、あの子、河南のことよろしく頼む」
「はい、奥様から伺っております。奥座敷で大切にさせていただきますので、気鬱なきようご安心くださいませ」
「あさ・・・」
驚いてあさを見ようと振り返れば、あさはさっさと奥座敷に上がって顔を見せようとはしなかった
何から何まで、妻には全てお見通しのようで、正成は苦笑いを浮かべる
「じゃあ、俺は屋敷に戻ってる。なんかあったら知らせてくれ」
「承知しました」
さとは丁寧に頭を下げ、あさの後に続いて奥座敷に上がった
縁側から河南の姿を目視する
「河南!いい子にしてるんだぞ。昼になったら、また来るからな!」
「 」
河南は正成に一目も送らず、ただ黙々と粥を啜っていた
それでも正成は笑顔を浮かべ、奥座敷を後にした
「冗談じゃありませんッ!」
河南を引き取ると言い出した途端、家臣から猛反発を食らう
最初に声を挙げたのは、八郎だった
予想はしていたが、八郎のあまりの勢いに、正成は少しばかり驚いた
「なんであのガキをここに置くんですか!」
「俺があいつの親を殺したからだ」
「俺だって、あいつの親に父親を殺されました!」
「それは、戦だからだろう?」
「これだって、戦でしょう?!」
「戦じゃねえ。休戦を敷いてた。それでも、俺はやった」
八郎は決して引き下がらろうとはしない
「そうしなきゃ、寺田には勝てなかった!ずるずる戦を長引かせても、赤坂が疲弊するだけだ!だから、殿は ッ」
その八郎の言葉を遮って、正成は言った
「そうだ、このままずるずる戦が長引いても、俺らが疲れるだけだ。あっちは和泉三郡の長だからな、ひとかどで戦をやったって、そう痛手もなかったろうよ。八郎」
正成は八郎の顔を真っ直ぐ見ながら言った
「だけど、俺がやったことは『戦外』のことだ。人殺しと変わらねえ」
「殿・・・ッ」
「あいつは、戦で親を亡くしたんじゃない。皆殺しで親を亡くしたんだ。お前らとは、悲しみの大きさが違う」
「 ッ」
はっきりと言われ、八郎を始め、他の、泰時との戦で親を亡くした青年武将らも黙り込む
「河南は俺が引き取る。他に文句のあるヤツはいねえか」
そう問われ、しばしの沈黙の後、新九郎が膝を滑らせ半歩前に出た
「殿」
「何だ」
「あの子が大きくなった頃、殿はなんと説明されるのですか?正直に、騙まし討ちを食らわせたと仰るのですか?」
「そのつもりだ」
「『恨み』を増殖させるのですか?」
「そんな気はさらさらない。ただ、ありのままを打ち明ける。あいつには、嘘は言いたくねえ」
「そうですか」
それだけを聞くと、新九郎は元の位置に戻った
「他にはねえか」
と、一回り見廻す
年を取っている家老らは、特に何かを言いたそうな顔もしていない
勿論、正成の意見に根から賛成しているわけでもない
何か問題が起きれば、その時、『決断』すれば良いだけだという、ある種『冷徹』な顔をしていた
そうはさせるかよと、正成は心の中で呟く
「ねえみてえだな」
「 」
八郎ら若い衆を除いて、殆どが黙って平伏した
昼が来て、正成は約束通り奥座敷を訪れた
なんだか侍女や女中らが慌しく走り回っている
「どうした」
声を掛けても気付かないのか、立ち止まる者は居なかった
不審に想いながら奥に進むと、今度はさとの姿が見えた
さとも何かを探しているかのような仕草を見せている
「おさと、どうした」
「あ・・・、旦那様・・・」
「何かあったのか?」
「いえ、それが・・・」
「おさと、見付かった?」
と、後ろからあさの声がして、正成は振り返った
「旦那様」
夫の姿に、あさは小走りに駆け寄る
「どうした、みんなざわざわしているが、何かあったのか?」
「 それが・・・、河南が・・・」
あさは言いにくそうに応える
「河南がどうかしたのか?」
「さっきから、姿が見えなくて」
「え?」
正成も、一瞬驚いた顔を見せる
「さっきからって、いつからだ」
「ほんの少し前です。朝餉を食べ終わった後、私の部屋で繕い物をしていたのですが、河南はそれをじっと見ていて、とても大人しかったので私もそれに夢中になっておりまして・・・。それで、ふと気付いたら、河南が部屋のどこにも居なくて」
「それで、みんなで探し回ってるのか」
「旦那様、まさか河南は自分の家に戻ったのでしょうか?」
「まさか。ここは結構山道の厳しいとこだぞ?子供の足で降りたり登ったりできる場所じゃない。それに、表門から出たんだったら、門番が見てるだろ?聞いてみたか?」
「はい、いの一番に。でも、見ていないとのことで、屋敷の中を探しております」
「そんな豪邸じゃないぞ?ここは。居たら居たで直ぐ見付かるだろ」
「ですが・・・」
「俺も探してみる。お前らは屋敷の中をくまなく探してみてくれ」
「はい」
屋敷の中のことはあさに任せ、正成は取り敢えずもう一度表門に出た
「先程奥様からもお尋ねがありましたが、見ておりません。見張りも必ず交代でやっておりますから、ここには誰も居ないと言うことは決してございませんし」
聞いてみた門番は、そう応える
「じゃあ、もし見掛けたら、知らせてくれるか。今、あさが屋敷に居る」
「承知しました。気が付きましたら、お知らせいたします」
「頼んだぞ」
「はっ」
表に出ていないと言うことは、河南はこの屋敷の敷地内に居ると言うことだ
奥座敷で見付からなかったのだから、もしかしたら間違えて自分の居る表座敷のある屋敷に来たのかも知れない
そうだとしても、今、あさがその屋敷を捜索しているのだから、何れは見付かるだろう
それでも、心が落ち着かない
「河南ー!」
大声で河南の名を呼びながら、正成は中庭に出た
それほど広い庭でもない
端から端まで見渡せるくらいしかない場所で、何度か河南の名を呼んでみた
返事はなく、ここには河南が居ないことを知る
それから、なんとなく屋敷の囲い沿いに歩いてみた
屋敷の中には小さいながらも森があり、子供の頃はよくここで遊んでいた
辺り一帯楠の木が生い茂り、よく登ったもんだと想い返す
まさか河南も木に登ったりしていないだろうかと見上げるも、暗くてよくわからない
増してや、河南が登れるような木もなかった
父は、自分が十の時に死んだ
寺田と争っている最中に病没した
自分は父の、遅くにできた子で、随分溺愛されて育ったことを想い出す
父は天寿を全うして死んだが、河南の父は志半ばにして死んだ
自分が殺したことを、嫌でも自覚する
憎みながらも、自分を罵倒しようとしない河南に、心の何かが惹かれたのかも知れない
正成はそう想った
あの小さな躰には、底知れぬ力強さが備わっている
そんな気がした
あいつから、家族を奪ったのは、俺だ
今朝見た、河南の真っ直ぐな目が脳裏に蘇った
自分にも親の仇が居たら、あんなにも真っ直ぐ、相手を見ることができるだろうか
憎らしく想いながらも、真っ直ぐ、目を向けれるだろうか
「新九郎!」
屋敷で河南を探していたあさが、新九郎を呼び止める
側には不貞腐れた顔の八郎も居た
「河南、見付かった?」
「いえ、まだです」
「そう・・・。引き続き、頼むわね」
「はい、奥方様」
「八郎」
あさは八郎にも話し掛けた
「あなたの気持ちは、わかる。だけど、子供は関係ないのよ?河南に当たらないで」
「わかってます。でも、だからって直ぐに気持ちを切り替えられるほど、俺は器用じゃありません」
「なら、少しずつでもいい。あの子を受け入れてあげて」
「 」
あさの言葉に、八郎は否定も肯定もしなかった
あれからどれくらいが経ったのか
日が暮れるのも早い時季、空はすっかり夕焼け色に染まっていた
「河南」
正成は相変わらず、屋敷の囲いに沿って外を歩いている
時々内側の木々の間を探したり、祠の前に到着すると中を開けてみたり
それでも河南の姿はどこにもなかった
探す場所を失い、正成は裏山の櫓に向かった
ここは今朝、河南を連れて来た場所だ
屋敷とは囲いで繋がれており、表門を通らずとも来れる唯一の『外界』である
櫓から屋敷を見渡してみようかと想い立つ
その櫓を見上げた時、正成は小さな足がぶら下がっているのを見付けた
「 河南?」
慌てて梯子を上り、櫓に立つ
「河南!」
河南は櫓の柵に凭れて、座っていた
近付き、顔を覗き込む
「 河南・・・」
河南は、眠っていた
「 」
何を想い、河南はここに来たのだろうか
ここから、故郷を眺めていたのだろうか
だが、河南が立っても外の景色が見れるほど、柵は低くない
見れずに諦めて、眠ってしまったのだろうか
「河南、起きろ」
正成は小さな声で呼び掛けた
河南は直ぐには目を覚まさない
「河南、起きろ。こんなとこで寝てると、風邪引くぞ」
「 」
しばらくして、河南が目を擦る
「何してんだ?こんなとこで」
「 」
正成の問い掛けに、河南は応えなかった
「あさが心配してる。屋敷に戻るぞ」
「 」
何も応えず、ただじっと目の前の柵を眺めている河南を、正成は鼻から溜息を吐き、抱き上げた
「 見たかったのか?」
「 」
相変わらず河南は何も話さず、黙って頷く
「あれが、金剛山だ。知ってるか?」
正成は指を差して言った
「 」
河南は黙って首を振る
「あっちが、生駒山。こっちが 」
一瞬躊躇い、それから続ける
「和泉山群。お前の、故郷だ」
「 」
河南は知らされた和泉の山のうねりを、じっと見詰めた
「帰りたいのか?家に」
「 」
河南は応えなかった
帰っても、家族などどこにも居ないことを、河南は知っていた
「ここに・・・」
どうしてだろう
どうして、心が縋るのだろう
そんな想いを、何故、今抱いているのだろう
自分の気持ちを不思議に想いながら、正成は言った
「居てくれねえか・・・?」
「 」
河南は、それにも応えなかった
「 俺は、お前に恨まれてもいい。憎まれてもいい。それだけのことを、したんだからな。だから・・・。憎んでくれていい、恨んでくれていい。ここに・・・、居てくれねえか?」
「 」
小さな少女は、それでも声を出さないでじっと、和泉の山を見詰めていた
その河南の横顔を正成もじっと見詰め、呟くように言う
「 ごめん・・・、河南」
「 」
その瞬間、河南の目尻からひと雫の涙が零れた
「河南・・・」
正成は河南を正面に抱き直した
「一緒に、歩こう」
何を言い出しているのか
これではまるで求愛ではないかと、自分の言葉を嘲笑う
「俺の人生と、お前の人生、これから先に延びる道を、一緒に歩こう。つらいことも、悲しいことも、俺が全部引き受ける。お前がこれから味わう悲しみも、つらいことも、全部、俺が引き受ける。だから、河南。 お前は、笑ってくれ。笑っていてくれ・・・・・」
「 」
河南は、黙って正成にしがみ付いた
「河南・・・」
肩の上に乗った、河南の細い腕の感触を感じながら、正成も河南を抱き締める
「ごめんな、河南・・・」
贖罪の言葉
「 いいよ」
河南は、それに応えた
「河南・・・・・・・・・・」
正成は驚きに目を見開き、河南の方へ顔を向けた
今、河南はどんな表情をしているのだろう
それを見ることはできなかったが、幼い心で必死になって、自分の身の上に起きたことに帳尻を合わせようとしているのだろう
そう、感じた
「 ありがとな、河南」
「 」
櫓を降り、手を繋いで屋敷に戻る
二人で同じ道を歩く、これが、『始まり』だった
「河南!」
あさが正成に手を引かれて戻って来る河南の姿を見付け、声を張り上げて駆け寄った
「 お帰り、河南」
あさはできるだけ、なんでもなかったような顔をして、河南を出迎えた
そのあさの『心』に、河南も応える
「ただいま」
「 」
あさは正成が手を繋いだまま、河南を抱き締めた
「すっかり冷えちゃって、もう。早く屋敷に上がりなさい」
「はい」
「 」
素直に応える河南が、どうしようもなく愛しく感じた
親を殺された少女は、親を殺した男の手で育てられることになった
この時代でも、稀なことだった
少女を生かしたのは『想い』なのか、『願い』なのか
それとも、『祈り』だったのか、誰にもわからない
ただ、若き日の正成の隣に、河南と言う少女が居たことだけは、確かだった
それが、私が聞いた父の、最期の言葉だった
私の父は近畿、和泉の豪族だった
父はとある一族と、私が生まれる前から長く争っていた
その一族とは兵力も実力も均衡していた
一進一退の争いに、どちらかが倒れるまで戦は終わることはなかった
だが、その一族の主が若い跡取りに変わってから、事態は一変した
武将の名は、楠木正成
容赦ない過酷な攻めに困窮した父は、楠木家に対して一時休戦を提議した
楠木はそれを受け、父は漸く自宅に戻ることができた
だけど・・・
束の間の休みと戻った父を、楠木が奇襲を仕掛けた
自宅で
私の目の前で
父は楠木の若武者達に首を刎ねられた
私は男達の慰め物として生け捕られ、あの人の前に引き摺り出された
あの時の、私が持っている記憶は、父が首を刎ねられる瞬間と、あの人の、キョトンとした顔だった
「河南!見ろ!」
幼い少女を腕に抱き、正成は屋敷より少し小高い裏の山にある櫓から、村の光景を見下ろした
「美しいだろ、俺の村は」
「寒い・・・・・・・」
「ははは!」
震える少女を、正成は着ていた陣羽織の中に押し込み、ぎゅっと抱き締めた
「もう寒くないか?」
「
腕の中の子は、小さく頷く
「どうだ、緑豊かなこの村は。ここが赤坂、あちらが千早だ」
と、正成は指を差した
差した先には、少女の生まれ故郷へと続く山々が見える
「千早は巫女の着る衣装のことだぞ?知ってたか?」
「千早?」
「そうだ。大和の国の巫女の衣装は、全て俺の村で生産されている。厚過ぎず薄過ぎず、丈夫で糸解れも起こさない、長持ちすることで有名なんだぞ?」
「
少女は興味がなさそうに、ぼんやりと正成の声を聞いていた
「河南。大人になったら、巫女になるか?巫女になって、この国のために祈ってくれるか」
「河南は、巫女になるの?」
興味のないまま、聞き返す
「ははは!巫女になるのもよし、誰かの嫁になるもよし。河南。お前が決めろ」
「だったら
だったら、私は
― 悪 党 ―
「あはははははは!しばらく見ない内に、河南も随分大きくなったなぁ!」
髭面の、少し怖そうな顔を歪ませて、寺田泰時は愛娘を膝に抱いて笑った
「旦那様、あまり大きな声を出さないでください。河南がびっくりしているではありませんか」
最愛の妻である『つる』が、顔を顰めて夫を窘める
「すまんすまん。久しぶりだったからな、つい羽目を外してしまった」
父・泰時は五十に手が届くほどの年齢で、母のつるはまだ二十代であった
この時代ではそう珍しい年齢差でもない
「それにしても、楠木もよく停戦協議に応じたものですね。当主が代わったばかりなのでしょう?勢い付いて、決して応じないと想っておりました」
「ははは、そうだな」
母が盃に酒を注ぎ、父がそれを受ける
頭の上で交わされるこれを、河南は顔を上げてじっと見ていた
父は髭面の、強面だった
黙っていると雰囲気の恐ろしい男だが、笑うと悪戯盛りの子供のような顔になる
河南はそんな父が大好きだった
父の膝の上も、大好きだった
父の膝の上は河南にとって特別な場所である
ここを独占できるのは、河南だけだった
大きく逞しい父の膝の上に居ると、不安も心配も消えてなくなる
安心できる場所だった
「楠木の新当主はご覧になられました?」
「ああ。協議の際に顔を合わせた。中々いい面構えをしていたぞ」
「まあ、敵方を誉めるだなんて」
「そう言うな。若いがな、恐ろしいほど肝が据わっている。なんせ講和の席に、一人で乗り込んで来たのだからな」
「一人で?」
つるは夫の言葉が信じられなかった
「まさか」
「その『まさか』だ」
泰時はその時のことを想い出す
自分を囲む無骨な男達に一歩も引かず、寧ろ不敵な笑いを浮かべていた、若く、美丈夫な青年の顔を
「河南、そろそろ父上の膝から降りなさい」
と、長兄が声を掛けた
「はい」
河南は素直に応じる
河南には異腹の兄が何人か居て、長兄と次兄は既に元服し、父に付き従っていた
その兄らも父と共に自宅の屋敷に戻り、歓待を受けている最中であった
河南の母は、所謂後妻である
先妻が病で死去したため、まだ十三だった頃に父に嫁いだ
この時点で河南には四人の兄と五人の姉、下に生まれたばかりの弟が一人居た
父と兄が戦の場に赴いても、屋敷にはまだ兄弟が残っていて、河南は寂しいと想ったことはなかった
「河南」
少しばかり膝の寂しいのを撫でながら慰め、降りた娘に声を掛ける
「お前も将来は、腹の据わった男に嫁げ。多少不器用でもいい、己の信念を『最期』まで貫き通せる、筋の通った男の許に嫁げ。いいな?」
「はい、父様」
「旦那様、河南はまだ五歳なんですよ?」
「わかっている。だが、教えるのに遅い早いはないだろう?」
と、妻に一声返し、河南に向かい直して続けた
「今は停戦を交わしていても、何れはまた戦が再開する。相手も若くなった。わしもどこまで通じるかわからん。その時は兄達がお前を守ってくれるだろうが、河南。もしも屋敷が敵方の乱捕りに遭ったら、下手な抵抗はするな」
「旦那様!」
夫のこの言葉を聞き、つるは慌てて制止した
「今はおやめになってくださいッ。河南には、その話はいくらなんでも早過ぎますッ!」
戦の時、父はいつもこの話を口にしていた
どんな屈辱を受けても、娘達には生き残って欲しい
心からそう願っていた
「いいや。続けるぞ。
「
父のその言葉は、河南には難しかった
姉達は相応に成長している
長女はこの春、嫁に行くことも決まっている
だから、父の話は理解できる
だが、まだ幼い河南には、到底理解できる内容ではなかった
それでも、わかったような顔をしなくてはならない
わからなければ、父は何度でも同じ話を繰り返す
繰り返せば、母が嫌な顔をする
それがつらかった
母に嫌な顔をさせたくなくて、河南はわからなくてもわかったような顔をするのが癖になっていた
「お前達もだ」
続けて、姉達にも言い放つ
姉達はいつものことと、大人しく聞いていた
「死んだら負けだ。どれだけ歯を食いしばって生きて来ても、死んでしまったら負けだ。それまでの、自分の人生も歴史も、全て敵方が否定する。悪くなくとも悪いと言われ続け、それは永劫続く。だから、河南」
父の目は、真剣だった
「生きろ」
「
何かを予感していたのか
何かを恐れていたのか
「男は死んで、名を残す。女は生きて、子を残す。
「
父の雰囲気に押され、河南は頷くしかできなかった
隣では母が、しかめっ面で父を睨んでいるのがわかった
留守勝ちの父ではあるが、それが父の仕事だからと母から言い聞かされ、たまに帰ると家族ぐるみで大歓迎する
それが、当たり前の日常だった
その日常が、ある日突然、音を立てて崩れた
「
寺田の屋敷の側の茂みで、五人の若い武者が身を潜め、互いの顔を確認し合う
統率者と想われる青年武将が頷くと、それが合図のように若武者らは一斉に立ち上がり、雄叫びを上げながら泰時の屋敷へ駆け出した
その後に続き、百を越す軍勢が雪崩れ込む
突然の奇襲に、警護の緩んでいた寺田の屋敷は瞬く間に火に包まれた
「そろそろお前達は寝ろ」
父の声に、兄達が最初に立ち上がる
続いて姉達も立った
だが、河南だけは立ち上がらない
「河南、お父様の声が聞こえなかったの?」
「だって、もっと父様とお話したい」
「でも、もう遅いわ。早く寝て、明日またお話すればいいでしょう?」
「母様はずるい」
「え?」
河南の言葉に、つるはキョトンとした
「いつもそうやって、夜は父様を独り占めするもの」
「あ・・・、え、だって、河南・・・」
つるの顔が真っ赤になるのを、泰時は豪快に笑い飛ばし、長兄が河南の手を取った
「河南、父上と母上は、そう言う仲なのだから」
「太郎丸・・・っ」
つるは困った顔をして、長兄の童名を呼んだ
「そう言う仲って?」
「仲良し、って意味だ」
「仲良しなら、河南も仲良し。だから、河南もここに居る」
「河南」
長兄は笑って河南を抱き上げた
「一人が寂しいのなら、今夜は兄が一緒に寝てやろう。それで良いか?」
「
しばらく考え込み、それからゆっくり頷く
「兄様だったら、いい」
「本当に河南は、甘えん坊ねぇ」
長姉が苦笑いをして廊下に出ようとした
その長姉と、廊下を走って来た家臣の男がぶつかりそうになる
「ああ、申し訳ございません・・・ッ」
「どうした、簗田」
「
簗田と呼ばれた家臣の顔色が青い
「何かあったか」
察して、泰時は訊ねた
「くっ・・・、楠木の奇襲です・・・。楠木が、押し掛けて来ましたッ・・・!」
「何?!」
一瞬にして、泰時の顔が強張る
「楠木とは休戦を交約しておる!何かの間違いではないのか?!」
「間違いございません!楠木の襲撃にございますッ!」
「父上ッ!」
河南を抱いていた長兄が、河南を降ろして駆け寄る
「おのれ、楠木め・・・。講和を反故にするかッ」
「旦那様ッ」
つるが泰時の方へ駆けようとしたのと同時に、一家の揃っていた座敷に楠木の若武者衆が雪崩れ込んで来た
「寺田右衛門尉、覚悟ッ!」
「
何が起きたのか、河南には理解できなかった
数人の若武者らを先頭に、何十人もの兵士が座敷に入って来た
兄達は刀を持って応戦し、母達は逃げ惑っていた
最初に母が捕まり、若武者に押し倒されてしまった
その、母を押し倒した若武者の叫び声と、若武者の振り上げた刀が煌き、母の断末魔が響いた
「つるッ!」
父の怒声が聞こえる
「河南ッ!」
側に居た次兄が、咄嗟に河南を庇った
見えないその向こうで、姉達の叫び声も聞こえる
「この赤ん坊はどうするッ!」
「後顧の憂いになるものは、一切残すなッ!」
河南を庇っていた次兄の躰が引き剥がされた
その背中の先に、押し掛けた楠木の若武者が立っていた
河南は更にその先に居た父の顔を見付け、慌てて駆け寄った
「
父は刀を持って応戦していた
父に手を伸ばした瞬間、父の背後に若武者が立っているのが見えた
「父様!後ろッ!」
「
泰時は振り向き様、その若武者を斬り捨てた
「河南ッ!」
他の若武者や、大勢の兵士が父に群がる
「生きろッ!河南ッ!」
「父様・・・」
父を助けようと
だけど、足は子供のままで、速く走れなかった
父に辿り着いた瞬間、若武者の振り下ろした刀が父の首を捉えた
「
父の首から吹き出た鮮血が、河南の顔、首、胸元に飛び散る
「取ったぞッ!」
「
河南は咄嗟に、父の首を拾い上げようと両手を伸ばした
「河南ッ!」
長兄の声が耳に入る
顔を向けた河南の視界に、男達に犯されている姉の姿が見えた
長兄は河南の手首を掴んで引き寄せ、河南を庇うように蹲った
その長兄の背中から、若武者の刀が突き刺さる
「
刀は兄の躰を貫き、河南の鼻先で止まった
血を帯びた刀が、ゆっくりと遠ざかる
遠ざかると共に、兄の躰もゆっくりと崩れた
河南は兄の躰の下敷きになり、楠木の兵士らには見付からなかった
「女は犯した後、殺せッ!道中の足手纏いになるッ!」
そう、声が聞こえた
姉達の、耳を劈く悲鳴が一つ、二つと途切れて行った
やがて座敷内が静かになり、楠木の武者らの声しかしなくなった
「女の一人でも残しておけばよかったのに。あーあ、もったいねぇ」
「そんなこと言ったってよぉ、顔引っ掻きやがるんだよ」
と、殺したつるを見下ろす
「いい女だったんだけどな」
「あっちは片付いたか」
河南の姉達の方を見返る
どの娘も全員、殺された後だった
「右衛門尉の娘は、どいつも気が強いんだな」
と、誰かが苦笑いするのが聞こえた
「首はこれ一つで充分だな。他も制圧した頃だろう。引き揚げるか」
足音が響く
兄の下敷きになっていた河南の躰が震える
息を殺し、見付からないようにしなくてはと、自分の口を押さえた
しかし、それでも気付かれる
「
先頭から少し遅れて歩いていた少年武将が、それに気付いた
「新九郎さん」
振り返ったのは、二十歳を少し超えたようなまだ若い武将で、だがしかし、年長者のような貫禄を持つ青年でもあった
「どうした?勘九郎」
「
勘九郎と呼ばれた少年は、黙ってそれを指差した
「
新九郎もそれに気付き、泰時の長男の骸を引っ繰り返す
「お・・・」
そこから、小さく身を丸め、震えている河南を見付けた
河南自身気付かない内に、恐怖のあまり失禁した染みが広がっていたのを、気付かれたのだった
それから、河南には記憶がない
あっと言う間の出来事だったこともあった
次に気が付いた時は、ある青年武将の前に引き摺り出された時だった
「殿!寺田右衛門尉の首を持ち帰りました!」
その声に、床机の上で片肘を突いていた正成が顔を上げた
「取ったか」
「策常殿の導きの通り」
「金剛の山伏も、使える時は使えるもんだな」
と、正成は、まだ幼さの残る顔で笑った
「ですが、代わりに彦介と田野中がやられました・・・」
「
一瞬、眉間に皺が寄り、しかし、しばらくすると元に戻る
「まあ、しゃーねえ。親父の代から争ってた男だからな、こっちも無事で済むとは想ってねえ。二人には論功行賞の一つでもくれてやればいいだろ」
「それと」
と、軍団を統率していた新九郎が顎で指図した
それに続くように、縄で全身をぐるぐる巻きにされた河南が引き摺り出され、正成の前に放り出された
「
血塗れ泥塗れの、みすぼらしい風体をした、到底愛らしいとは想えない様相の子供だった
正成は顔を顰めて河南を見下ろす
「寺田の座敷に居ました。恐らく、娘かと」
「他は」
「殿のご命令通り、始末して来ました」
「で、こいつだけ連れて来たのか。なんでだ」
「
新九郎も、自分でもわからないのか、首を傾げる
「お前は、いつもどうしようもないとこで、仏心を出しやがる。生かして、それがつらくなることがあったら、どうするんだ。で、他は」
「根切り(皆殺し)にしました」
「
正成は鼻から溜息を吐くと、芋虫のように自分の目の前に転がる少女を見下ろした
娘は自分を見ていない
心、ここにあらずの状態だった
「でも、まあ、殿の慰め物には、ねえ。初物は殿に、俺らはその後で」
と、別の青年が卑下な笑いを浮かべる
「莫迦野郎、ガキ相手におっ勃(た)つかよ。
「
新九郎に命令され、八郎と呼ばれた青年が前に出る
河南を縛っている縄を掴むと、起き上がらせ、刀でそれを切った
切りながら、幼い河南に言い放つ
「ガキでも女なら、股先広げりゃ生き残れる。てめえにその能がありゃ、やってみやがれ」
「八郎」
「だって、殿!俺の親父は、こいつの親父にやられたんだッ!ガキだろうが、俺にとっては仇だッ!」
「だが、今日からそいつの仇は俺になった。それでも、お前は同じことを言えるか?」
「
「お前だけじゃねえ。ここに居る殆どのヤツは、親を寺田にやられた。だけどな、それは戦だからしょうがねえだろ?自分の恨みをガキにぶつけるのは、正しいことじゃねえ。俺らの仇は、この小娘か?それとも、寺田か?」
正成の言葉に、全員が黙り込む
その会話を聞き、理解していたわけではない
ただ、父の言葉が甦った
「
呆けた顔をしたまま、河南は自分の着ていた小袖の帯を解いた
「
それに気付いた正成が、声を掛ける
帯を解き、小袖の上着を脱ぎ落とし、腰紐を解き、肌着を脱ぎ捨て、河南は全裸になった
その瞬間、正成は床机から駆け出し、河南を包み込むようにして抱き締めた
「何やってんだよッ!」
抱き締めた腕を伸ばし、河南の脱いだ肌着を拾い上げ、肩に被せる
河南の行動に新九郎らも驚かされ、ぽかんとなった
「お前・・・ッ!」
もう一度怒鳴ってやろうと顔を見た瞬間、正成は心を鷲掴みにされたような気になった
「
口唇を噛み締め、涙は零さないよう、じっと自分を睨んでいる
その瞳は金剛山の上にある空より澄み、しかし、その中央には家族を失った悲しみの色が現れ、幼いながらも自分の置かれた立場を理解しようと、両手を握り締め、小さく震えている
自分から目を逸らさないその少女に、正成の心は奪われた
「
『あさ』は、正成の妻の名だった
女達が暮らす奥座敷からあさが呼ばれ、河南を連れて行った
表座敷では正成が、ある山伏の帰りを待っていた
その山伏が戻って来る
「多聞丸殿」
「戻ったか、羅刹」
名を呼ばれた山伏は、山伏にしておくには勿体無いほどの綺麗な顔立ちをしていた
年はそろそろ三十に手が届くかと言う頃だろうか
まだ青臭い正成よりは、ずっと大人の領域に居る雰囲気を醸し出している
「寺田の屋敷への抜け道を、策常に伝えさせたのは、私だ。だが、罪のない女子供まで皆殺しとは、どう言った了見か。聞けば、生まれて間もない赤子まで手に掛けたのだそうだな」
「後顧の憂いは残したくなかった」
「それで、末娘だけ生かすのは、どう言った心積もりか」
「わかったのか、あの小娘のこと」
「それを調べに、和泉に私を遣らせたのだろう?」
「誰だ、あの娘は」
「
自分の話を聞こうとしない正成に、羅刹は溜息を零しながら応えた
「名前は、カナ」
「カナ?」
「『河』の『南』と書いて、『カナ』だ」
「漢字を使ってるのか?女に」
「そのようだな」
「女に漢字を使わせるのは、亭主が出世した時か、亭主が死んで後家になった時くらいだ。後は京(みやこ)の公家の娘くらいしか使ってないぞ?」
「それでも、あの子の名前は、『河南』だ。漢字を使っている。間違いない」
「母親は」
「同じ和泉の豪族の娘だ」
「じゃあ、公家出身ってわけでもねえんだな」
「そのようだ」
「河南・・・か」
「年は、今年で五つ」
「五つ。もっと幼いかと想ってた」
「そなたは、僅か五つの娘に、修羅の道を歩かせたのだ。早急に寺かどこかに預けた方がいい。手元に置いておける存在ではない」
「
羅刹の言葉に、正成は黙り込んで考えた
「あら、愛らしい」
頭から被った父の血脂を湯で落とすと、河南本来の愛らしい顔立ちが現れる
正成の妻・あさは、手拭を湯に浸けながら微笑んだ
肌の白く柔らかな、美しい女だった
河南は目の前の、その美しい女をじっと見ていた
どことなく、母に似ているような気がして
「柔らかな髪ね。撫で心地が良いわ」
と、河南の頭を撫でる
「いい子ね、じっとしていて。後でいい着物を着ましょうね。今、探しているから」
声も優しい女だった
その声が、河南を癒してくれる
ふんわりと、柔らかい、いい香りもして来る
「お鼻も小さく、お口も小さく。ほっぺもつるん。おでこも、つるん。綺麗なお目々ね。あなた、将来美人になるわよ」
「
そんな誉め言葉に喜んだわけではない
あさの声が優しくて、どうしても母を連想させる
「
湯の温かさに、心が解れたか
河南はやっと、家族が殺されたことを想い出した
「母様は、いつも、湯殿で優しく拭ってくれたの・・・」
「そう」
「頭を撫でて、いい子ね、って、言ってくれたの・・・」
「そう」
「うっ・・・、えっ・・・」
河南の目から、涙
鼻から、鼻水が流れて来る
「うええーん!」
それと同時に、ずっと堪えて来た悲しみが、河南を襲った
「ええーん!ええーん!ええーん!」
「お嬢ちゃん」
父を、殺された
母を、殺された
兄は、自分の身代わりに死んだ
姉達も、殺された
生まれたばかりの弟も、殺された
全員、殺された
「ああーん!ああーん!ああーん!」
「
泣きじゃくる河南を、あさはそっと抱き締めた
「正気かッ?!」
正成の考えを聞き、羅刹は叫んだ
「そなたは、身の内に厄災を抱え込むつもりかッ?!」
「年端も行かねえガキだ」
「その子供が、将来どう化けるか、そなたは想像できぬのかッ?!この、金剛の地に厄災を持ち込むつもりかッ?!」
「あいつは厄災なんかにゃならねえ!俺が責任を持つッ!」
「そなたの責任だけで済む問題ではないッ!如いては、我ら金剛衆の身の上にも降り掛かる!」
「あいつは、疫病神なんかじゃねえ!俺がそうさせねえ!」
「多聞丸殿ッ!」
「
低く、声が唸る
「だから、なんだと言うのだ・・・」
「毘沙門天にゃ、吉祥天が必要だ」
「
「
「莫迦々しい」
「莫迦でも何でもいい。拾った命、俺は捨てたくねえ」
「それが何だと
「羅刹ッ!」
正成は立ち上がり、羅刹を見下ろした
「『俺が決めた』ことだ。俺はこれまで、そうやって生きて来た。己の想うまま、魂の想うまま、生きて来た。その、俺の魂が叫びやがる」
「
「『生かせ』、と」
「
羅刹は正成の目に応えられなかった
奥座敷に入ると、訊ねた侍女があさの寝室を知らせた
「ここだったか」
自分の手で襖を開け、部屋に入る
部屋の中央に敷かれたあさの布団が、小さく盛り上がっていた
「もう寝たのか?」
「泣き疲れたようです」
振り返った妻の美しい姿に、正成も微笑む
真ん中で眠っている河南を挟むように、正成はあさの正面に腰を下ろした
見下ろす先の河南の寝顔をじっと見詰める
「どうした」
「湯殿で、家族が殺されたことを想い出したのでしょうね。突然泣き喚いてしまって」
「そうか・・・」
「この子の名前、わかりました?」
「ああ。カナと言うそうだ」
「カナ?」
「河の南と書いて、カナ」
「河南、ですか。そう・・・。愛らしい名前」
と、あさは眠っている河南の頭をそっと撫でた
「なんだ、泥や血脂を落としたら、別嬪になったじゃねえか」
「酷い話ですよ。こんな幼い子を引き摺って、泥まみれにするだなんて」
「仕方ない。あいつらも寺田には恨みつらみがあるんだ」
「態と、『そう言った人選』をなさっておきながら、さも仕方がないような言い逃れなど、この子には通じませんよ」
「わかってる」
「
「
自分の考えを見抜くあさに、正成は目を丸くする
「まさか?」
「
どう、言葉にするべきか、正成は考えながら話す
「こいつを、育てようと想ってる」
「え?」
夫の言葉に、あさは目を丸くした
「正気ですか?」
「羅刹にも言われた」
「羅刹殿にも」
「こいつを手元に置いておくなど、正気か、と。ああ、正気だ」
「旦那様」
「なんだか、自分でもわかんねぇ。でも、どこにもやっちゃなんねえんだ。自分のやったこと、いつまでも忘れないための楔にしておきたいんだろうな」
「楔に?」
「考えあってのことだとしても、こいつにしてみれば俺は、単なる親の仇だ。しかも、目の前で親を殺し、兄弟も皆殺しにしちまった。どんだけ言い訳したって、こいつには通じない。わかってる」
「だから、罪滅ぼしでこの子を養育すると?将来、あなたを恨むかも知れないのに?」
「ははは。羅刹はそれが言いたかったのか」
と、正成は笑った
「身の内に厄災を抱え込むつもりか、と問われた。俺は反論したけど、どこかで自分でもそう想ってたんだろうな」
「旦那様・・・」
「いつかこいつに、返り討ちに遭うかもしんねえって。
「
いつになく真剣な顔をする正成を、あさも黙って見詰めた
翌日になり、正成は目覚めた河南を連れて、裏山に上がった
裏山と言っても、屋敷の直ぐ後ろにある、少し小高いだけのものだが
そこには簡素な造りの、剥き出しの櫓が一本立っていた
大人三人が立てばいっぱいになるような小ささだった
その櫓に登り、河南を呼ぶ
「河南、来い。登れるか?」
「
河南は黙って見上げ、それからゆっくりと梯子を上り始めた
結局河南はあれから一度も目覚めず、そのままあさと共に眠っていた
時々、あさの胸倉にしがみ付いたくらいで、特に騒ぎは起こさなかったとあさから聞かされ、ほっと胸を撫で下ろす
しかし、だからと言って、河南の、自分を見る目が優しくなったわけではない
屋敷を出る時も押し黙っていた
押し黙り、目も合わせてくれなかった
それでも正成はこの光景を河南に見せたくて、連れて来た
「よーし、あともうちょっとだ。頑張れー!」
先に上った正成は、上から河南に声援を送る
「ほれ、もうちょっと、もうちょっと!」
「
子供だから素敏(すばしこ)いかと想いきや、やはり女なのが難点なのか、寧ろ大人の女が上るより尺(時間)が掛かって仕方ない
それでも正成はしゃがみ込み、膝に頬杖を付いて河南を見守った
やがて河南が櫓を上り切る
「おーし、よくやった!お前、女なのに根性あるじゃねえか!」
そう言って正成は笑いながら河南を抱き上げ、櫓の正面に回った
「河南!見ろ!」
と、山から見える村の光景を一望する
兎に角河南にとって、正成の声は喧しい
父も同じように、怒鳴るような話し方をしていた
「美しいだろ、俺の村は」
どこまでも伸びる緑の色を、正成は惚れ惚れするように見渡した
だが、河南にとってはそれは、大した意味を成さない
「寒い・・・・・・・」
と、正直に呟く
「ははは!」
震える河南を、正成は着ていた陣羽織の中に押し込み、ぎゅっと抱き締めた
「もう寒くないか?」
「
河南は黙って頷いた
「
「
突然何を話し出すのだろうと、河南は正成を見上げた
やっと河南が自分を見てくれたのに、肝心の正成は河南の眼差しから避けるように正面だけを見据えている
「お前の親父を騙まし討ちして殺した仇だ。だけど、早く戦を終わらせたかった」
子供を相手に、贖罪する
「お前の家とは、もう二十年争ってた。お前の親父は頭が切れたからな。だから、できるだけ早く戦を終わらせたかった。戦が長引けば長引くほど、民は困憊する。争いを避けるため、土地を出て行く。民が出て行けば、村は死んじまう。民の居ない村なんか、村じゃねえ。ただの廃墟だ。だから、俺は」
「
子供相手に何を話しているのだろうと、正成は自分でも自覚した
「楠木とは死んでも迎合できないと言い切ったお前の親父を、殺した」
「
河南は黙って正成の話を聞いていた
「俺を討ちてえんなら、構わねえ。俺を殺せ」
「
「だけど、今は待ってくれ。この村の隅々にまで緑が溢れるその日まで、俺を生かしててくれ」
「
「そうだ」
正成もようやく河南の方に顔を向け、そして、すぐさま目を逸らした
想っていたよりも、河南が可愛らしかったからだ
清らかなその瞳に映る自分は、血に汚れた人殺しでしかない
そんな自分を認めたくなかった
「どうだ、緑豊かなこの村は」
自分の気持ちを誤魔化すかのように、正成は声を張り上げた
「ここが赤坂、あちらが千早だ」
と、正成は指を差す
「あれが、金剛の山。それに続いてるのが、大和の国の生駒の山。あの山の向こうに、あさの実家があるんだ。あさ、知ってるだろ?お前の世話してくれてる」
河南は黙って頷いた
「それから、あれが
差した先には、河南の生まれ故郷へと続く山々が見える
正成はその先が言えなかった
「千早は巫女の着る衣装のことだぞ?知ってたか?」
「千早?」
初めて聞く名前に、河南は首を傾げながら聞き返す
「そうだ。大和の国の巫女の衣装は、全て俺の村で生産されている。厚過ぎず薄過ぎず、丈夫で糸解れも起こさない、長持ちすることで有名なんだぞ?」
「
聞かされても河南は興味がなさそうに、ぼんやりと正成の声を聞いていた
「河南。大人になったら、巫女になるか?巫女になって、この国のために祈ってくれるか」
正成自身、何故そんなことを口走ったのか、わからない
本人がわからないのだから、言われた河南は更に理解できない
「河南は、巫女になるの?」
興味のないまま、聞き返す
「ははは!巫女になるもよし、誰かの嫁になるもよし。河南。お前が決めろ」
「だったら
河南はその先を言わぬまま、村の景色を見渡した
あの山は、金剛山
あの山は、生駒山
あの山は、和泉の山
河南には、それがわからない
どちらの方向が自分の故郷なのかすら、わからない
わからないまま、じっと見詰めた
「こんなところに居たんですか」
と、後ろからあさの声がした
「ちょっと出て来ると仰って、どこに行くのかと想いきや」
「ははは、見付かっちまったか」
「旦那様、こんなところに河南を連れて来て、どうなさるんですか。まだ朝も寒い時季なのですよ?河南が熱を出したら、どうなさるのですか」
「それはいかんな。河南、戻るか」
と、あさが立っているのとは逆の方向に周り、河南を抱いたまま櫓を降りる
降り切ってから、河南を離す
その途端、屋敷に向かって河南が走り出した
「河南!走るな!転ぶぞ!」
「それが子供の仕事です。転んで怪我をして、痛い想いをして学ぶのです」
「でもなあ」
振り返ると、あさが厳しい顔をしていた
「
「私が
「
「私が、死なせません」
「あさ・・・」
「私が、あなたを死なせません」
「聞いてたのか」
正成は苦笑いをしながら、頭を掻き毟った
「私が育てます」
「え?」
「あの子を我が子同然に育てます」
「あさ・・・」
「私の、持てる限りの愛で、あの子を育てます。だからあなたは、あなたのすべきことをなさってください。あの子のことは、私に任せてください。
「
想えばあさは、いつも朗らかに笑う女で、厳しい目をしたことなど一度もなかった
そのあさの宣言に、正成は何も言えなかった
言えず、ただ頷くことしかできなかった
屋敷に戻ると、河南は既に座敷に上がり、朝餉の粥を啜っていた
「奥様、お帰りなさいませ。旦那様、今朝はこちらで召し上がられますか?」
「いや、顔を出しただけだ」
出迎えに出たのは、奥座敷の中でも年長の侍女だった
「おさと」
「はい」
「すまんが、あの子、河南のことよろしく頼む」
「はい、奥様から伺っております。奥座敷で大切にさせていただきますので、気鬱なきようご安心くださいませ」
「あさ・・・」
驚いてあさを見ようと振り返れば、あさはさっさと奥座敷に上がって顔を見せようとはしなかった
何から何まで、妻には全てお見通しのようで、正成は苦笑いを浮かべる
「じゃあ、俺は屋敷に戻ってる。なんかあったら知らせてくれ」
「承知しました」
さとは丁寧に頭を下げ、あさの後に続いて奥座敷に上がった
縁側から河南の姿を目視する
「河南!いい子にしてるんだぞ。昼になったら、また来るからな!」
「
河南は正成に一目も送らず、ただ黙々と粥を啜っていた
それでも正成は笑顔を浮かべ、奥座敷を後にした
「冗談じゃありませんッ!」
河南を引き取ると言い出した途端、家臣から猛反発を食らう
最初に声を挙げたのは、八郎だった
予想はしていたが、八郎のあまりの勢いに、正成は少しばかり驚いた
「なんであのガキをここに置くんですか!」
「俺があいつの親を殺したからだ」
「俺だって、あいつの親に父親を殺されました!」
「それは、戦だからだろう?」
「これだって、戦でしょう?!」
「戦じゃねえ。休戦を敷いてた。それでも、俺はやった」
八郎は決して引き下がらろうとはしない
「そうしなきゃ、寺田には勝てなかった!ずるずる戦を長引かせても、赤坂が疲弊するだけだ!だから、殿は
その八郎の言葉を遮って、正成は言った
「そうだ、このままずるずる戦が長引いても、俺らが疲れるだけだ。あっちは和泉三郡の長だからな、ひとかどで戦をやったって、そう痛手もなかったろうよ。八郎」
正成は八郎の顔を真っ直ぐ見ながら言った
「だけど、俺がやったことは『戦外』のことだ。人殺しと変わらねえ」
「殿・・・ッ」
「あいつは、戦で親を亡くしたんじゃない。皆殺しで親を亡くしたんだ。お前らとは、悲しみの大きさが違う」
「
はっきりと言われ、八郎を始め、他の、泰時との戦で親を亡くした青年武将らも黙り込む
「河南は俺が引き取る。他に文句のあるヤツはいねえか」
そう問われ、しばしの沈黙の後、新九郎が膝を滑らせ半歩前に出た
「殿」
「何だ」
「あの子が大きくなった頃、殿はなんと説明されるのですか?正直に、騙まし討ちを食らわせたと仰るのですか?」
「そのつもりだ」
「『恨み』を増殖させるのですか?」
「そんな気はさらさらない。ただ、ありのままを打ち明ける。あいつには、嘘は言いたくねえ」
「そうですか」
それだけを聞くと、新九郎は元の位置に戻った
「他にはねえか」
と、一回り見廻す
年を取っている家老らは、特に何かを言いたそうな顔もしていない
勿論、正成の意見に根から賛成しているわけでもない
何か問題が起きれば、その時、『決断』すれば良いだけだという、ある種『冷徹』な顔をしていた
そうはさせるかよと、正成は心の中で呟く
「ねえみてえだな」
「
八郎ら若い衆を除いて、殆どが黙って平伏した
昼が来て、正成は約束通り奥座敷を訪れた
なんだか侍女や女中らが慌しく走り回っている
「どうした」
声を掛けても気付かないのか、立ち止まる者は居なかった
不審に想いながら奥に進むと、今度はさとの姿が見えた
さとも何かを探しているかのような仕草を見せている
「おさと、どうした」
「あ・・・、旦那様・・・」
「何かあったのか?」
「いえ、それが・・・」
「おさと、見付かった?」
と、後ろからあさの声がして、正成は振り返った
「旦那様」
夫の姿に、あさは小走りに駆け寄る
「どうした、みんなざわざわしているが、何かあったのか?」
「
あさは言いにくそうに応える
「河南がどうかしたのか?」
「さっきから、姿が見えなくて」
「え?」
正成も、一瞬驚いた顔を見せる
「さっきからって、いつからだ」
「ほんの少し前です。朝餉を食べ終わった後、私の部屋で繕い物をしていたのですが、河南はそれをじっと見ていて、とても大人しかったので私もそれに夢中になっておりまして・・・。それで、ふと気付いたら、河南が部屋のどこにも居なくて」
「それで、みんなで探し回ってるのか」
「旦那様、まさか河南は自分の家に戻ったのでしょうか?」
「まさか。ここは結構山道の厳しいとこだぞ?子供の足で降りたり登ったりできる場所じゃない。それに、表門から出たんだったら、門番が見てるだろ?聞いてみたか?」
「はい、いの一番に。でも、見ていないとのことで、屋敷の中を探しております」
「そんな豪邸じゃないぞ?ここは。居たら居たで直ぐ見付かるだろ」
「ですが・・・」
「俺も探してみる。お前らは屋敷の中をくまなく探してみてくれ」
「はい」
屋敷の中のことはあさに任せ、正成は取り敢えずもう一度表門に出た
「先程奥様からもお尋ねがありましたが、見ておりません。見張りも必ず交代でやっておりますから、ここには誰も居ないと言うことは決してございませんし」
聞いてみた門番は、そう応える
「じゃあ、もし見掛けたら、知らせてくれるか。今、あさが屋敷に居る」
「承知しました。気が付きましたら、お知らせいたします」
「頼んだぞ」
「はっ」
表に出ていないと言うことは、河南はこの屋敷の敷地内に居ると言うことだ
奥座敷で見付からなかったのだから、もしかしたら間違えて自分の居る表座敷のある屋敷に来たのかも知れない
そうだとしても、今、あさがその屋敷を捜索しているのだから、何れは見付かるだろう
それでも、心が落ち着かない
「河南ー!」
大声で河南の名を呼びながら、正成は中庭に出た
それほど広い庭でもない
端から端まで見渡せるくらいしかない場所で、何度か河南の名を呼んでみた
返事はなく、ここには河南が居ないことを知る
それから、なんとなく屋敷の囲い沿いに歩いてみた
屋敷の中には小さいながらも森があり、子供の頃はよくここで遊んでいた
辺り一帯楠の木が生い茂り、よく登ったもんだと想い返す
まさか河南も木に登ったりしていないだろうかと見上げるも、暗くてよくわからない
増してや、河南が登れるような木もなかった
父は、自分が十の時に死んだ
寺田と争っている最中に病没した
自分は父の、遅くにできた子で、随分溺愛されて育ったことを想い出す
父は天寿を全うして死んだが、河南の父は志半ばにして死んだ
自分が殺したことを、嫌でも自覚する
憎みながらも、自分を罵倒しようとしない河南に、心の何かが惹かれたのかも知れない
正成はそう想った
あの小さな躰には、底知れぬ力強さが備わっている
そんな気がした
今朝見た、河南の真っ直ぐな目が脳裏に蘇った
自分にも親の仇が居たら、あんなにも真っ直ぐ、相手を見ることができるだろうか
憎らしく想いながらも、真っ直ぐ、目を向けれるだろうか
「新九郎!」
屋敷で河南を探していたあさが、新九郎を呼び止める
側には不貞腐れた顔の八郎も居た
「河南、見付かった?」
「いえ、まだです」
「そう・・・。引き続き、頼むわね」
「はい、奥方様」
「八郎」
あさは八郎にも話し掛けた
「あなたの気持ちは、わかる。だけど、子供は関係ないのよ?河南に当たらないで」
「わかってます。でも、だからって直ぐに気持ちを切り替えられるほど、俺は器用じゃありません」
「なら、少しずつでもいい。あの子を受け入れてあげて」
「
あさの言葉に、八郎は否定も肯定もしなかった
あれからどれくらいが経ったのか
日が暮れるのも早い時季、空はすっかり夕焼け色に染まっていた
「河南」
正成は相変わらず、屋敷の囲いに沿って外を歩いている
時々内側の木々の間を探したり、祠の前に到着すると中を開けてみたり
それでも河南の姿はどこにもなかった
探す場所を失い、正成は裏山の櫓に向かった
ここは今朝、河南を連れて来た場所だ
屋敷とは囲いで繋がれており、表門を通らずとも来れる唯一の『外界』である
櫓から屋敷を見渡してみようかと想い立つ
その櫓を見上げた時、正成は小さな足がぶら下がっているのを見付けた
「
慌てて梯子を上り、櫓に立つ
「河南!」
河南は櫓の柵に凭れて、座っていた
近付き、顔を覗き込む
「
河南は、眠っていた
「
何を想い、河南はここに来たのだろうか
ここから、故郷を眺めていたのだろうか
だが、河南が立っても外の景色が見れるほど、柵は低くない
見れずに諦めて、眠ってしまったのだろうか
「河南、起きろ」
正成は小さな声で呼び掛けた
河南は直ぐには目を覚まさない
「河南、起きろ。こんなとこで寝てると、風邪引くぞ」
「
しばらくして、河南が目を擦る
「何してんだ?こんなとこで」
「
正成の問い掛けに、河南は応えなかった
「あさが心配してる。屋敷に戻るぞ」
「
何も応えず、ただじっと目の前の柵を眺めている河南を、正成は鼻から溜息を吐き、抱き上げた
「
「
相変わらず河南は何も話さず、黙って頷く
「あれが、金剛山だ。知ってるか?」
正成は指を差して言った
「
河南は黙って首を振る
「あっちが、生駒山。こっちが
一瞬躊躇い、それから続ける
「和泉山群。お前の、故郷だ」
「
河南は知らされた和泉の山のうねりを、じっと見詰めた
「帰りたいのか?家に」
「
河南は応えなかった
帰っても、家族などどこにも居ないことを、河南は知っていた
「ここに・・・」
どうしてだろう
どうして、心が縋るのだろう
そんな想いを、何故、今抱いているのだろう
自分の気持ちを不思議に想いながら、正成は言った
「居てくれねえか・・・?」
「
河南は、それにも応えなかった
「
「
小さな少女は、それでも声を出さないでじっと、和泉の山を見詰めていた
その河南の横顔を正成もじっと見詰め、呟くように言う
「
「
その瞬間、河南の目尻からひと雫の涙が零れた
「河南・・・」
正成は河南を正面に抱き直した
「一緒に、歩こう」
何を言い出しているのか
これではまるで求愛ではないかと、自分の言葉を嘲笑う
「俺の人生と、お前の人生、これから先に延びる道を、一緒に歩こう。つらいことも、悲しいことも、俺が全部引き受ける。お前がこれから味わう悲しみも、つらいことも、全部、俺が引き受ける。だから、河南。
「
河南は、黙って正成にしがみ付いた
「河南・・・」
肩の上に乗った、河南の細い腕の感触を感じながら、正成も河南を抱き締める
「ごめんな、河南・・・」
贖罪の言葉
「
河南は、それに応えた
「河南・・・・・・・・・・」
正成は驚きに目を見開き、河南の方へ顔を向けた
今、河南はどんな表情をしているのだろう
それを見ることはできなかったが、幼い心で必死になって、自分の身の上に起きたことに帳尻を合わせようとしているのだろう
そう、感じた
「
「
櫓を降り、手を繋いで屋敷に戻る
二人で同じ道を歩く、これが、『始まり』だった
「河南!」
あさが正成に手を引かれて戻って来る河南の姿を見付け、声を張り上げて駆け寄った
「
あさはできるだけ、なんでもなかったような顔をして、河南を出迎えた
そのあさの『心』に、河南も応える
「ただいま」
「
あさは正成が手を繋いだまま、河南を抱き締めた
「すっかり冷えちゃって、もう。早く屋敷に上がりなさい」
「はい」
「
素直に応える河南が、どうしようもなく愛しく感じた
親を殺された少女は、親を殺した男の手で育てられることになった
この時代でも、稀なことだった
少女を生かしたのは『想い』なのか、『願い』なのか
それとも、『祈り』だったのか、誰にもわからない
ただ、若き日の正成の隣に、河南と言う少女が居たことだけは、確かだった
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帰蝶以外の更新です
この物語に登場する人物・建物・団体などは全てフィクションです
実際の人物・建物・団体等とはなんら関係ございません
すみません、長らく更新なしの状態が続いております
次の更新に時間が掛かるものと見込み、別の創作物を時間凌ぎにアップさせていただきました
こちらは帰蝶とは全く関係のない人物の物語です
日本の歴史上、これほど好きになれる男は居ない(Haruhi脳内比較)と豪語できる『楠木正成公』を主人公にしております
私が生まれて初めて歴史上の人物の名前を覚えたのがこの正成公で、かの織田信長の存在すら知らなかった幼少の頃には、漢字で名前が書けるほどでした
と言っても、どのような人物なのかまでは知りませんでしたが
如何せん、幼稚園に上がる前の話ですので
時は流れ私も二本足で歩けるようになり、自分の想うまま生きることができた今でも、正成公は私のナンバーワンのままです
なのに、かの方の小説などは一切手にしていない
自分の中で構築された正成公のイメージを崩したくないと言う、幼稚な理由ではございますが、いつかかの方の物語を手懸けたいと願いつつ願いつつ、今日に至る次第
暇を見ての書き連ね(打ち連ねか)でございますので、今後の更新などは考えておりません
冒頭通り、『お暇潰し』に拝読いただければ幸いに存じます
実際の人物・建物・団体等とはなんら関係ございません
すみません、長らく更新なしの状態が続いております
次の更新に時間が掛かるものと見込み、別の創作物を時間凌ぎにアップさせていただきました
こちらは帰蝶とは全く関係のない人物の物語です
日本の歴史上、これほど好きになれる男は居ない(Haruhi脳内比較)と豪語できる『楠木正成公』を主人公にしております
私が生まれて初めて歴史上の人物の名前を覚えたのがこの正成公で、かの織田信長の存在すら知らなかった幼少の頃には、漢字で名前が書けるほどでした
と言っても、どのような人物なのかまでは知りませんでしたが
如何せん、幼稚園に上がる前の話ですので
時は流れ私も二本足で歩けるようになり、自分の想うまま生きることができた今でも、正成公は私のナンバーワンのままです
なのに、かの方の小説などは一切手にしていない
自分の中で構築された正成公のイメージを崩したくないと言う、幼稚な理由ではございますが、いつかかの方の物語を手懸けたいと願いつつ願いつつ、今日に至る次第
暇を見ての書き連ね(打ち連ねか)でございますので、今後の更新などは考えておりません
冒頭通り、『お暇潰し』に拝読いただければ幸いに存じます
濃姫(帰蝶)好きの方へ
本日は当サイトにお越しいただき、ありがとうございます
先ずはこちらのページを一読していただけると嬉しいです→お願い
文章の誤字・脱字が時折混ざっております
見付け次第修正をしておりますが、それでもおかしな個所がありましたらお詫び申し上げます
了承なしのリンクは謹んでご辞退申し上げます
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更新のお知らせ
(02/20)
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◇◇プチお知らせ◇◇
1/22 『信長ノをんな』壱~参 / 公開
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信長 ~群青色の約束~
こんな感じのこと書いてます
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管理人の独り言も混じっております
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ゲームブログ
千極一夜
家庭用ゲーム専用ブログです
『戦国無双3』が絶望的存在であるため、更新予定はありません
◇◇11/19 Nintendo DSソフト◇◇
『トモダチコレクション』
おのうさま(帰蝶)とノブ(信長)が 結婚しました(笑
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『戦国無双3』が絶望的存在であるため、更新予定はありません
◇◇11/19 Nintendo DSソフト◇◇
『トモダチコレクション』
おのうさま(帰蝶)とノブ(信長)が 結婚しました(笑
祝:お濃さま出演 But模擬専… (戦国無双3)
おのれコーエーめ
よくもお濃様を邪険にしおってからに・・・(涙
(画像元:コーエー公式サイト)
オンラインゲームにてお濃様発見
転生絵巻伝 三国ヒーローズ公式サイト:GAMESPACE24
『武将紹介』→『ゲーム紹介』→『Exキャラクター紹介』→『赤壁VS桶狭間』にてお濃様閲覧可
キャラクター紹介文
「 絶世の美貌を持つ信長の妻。頭が良く機転が利き、信長の覇業を深く支えた。
また、信長を愛し通した一途な妻でもあった。」
(画像元:GAMESPACE24公式サイト)
勝手にPR
濃姫好きとしては、飲めなくても見逃せない
岐阜の地酒 日本泉公式サイト

(二本セットの画像)
夫婦セット 吟醸ブレンド(信長・濃姫)
本醸造 濃姫
カップ酒 濃姫®=爽やかな麹の薫り高い、カップとは想えない出来上がりのお酒です
吟醸ブレンド 濃姫® ブルーボトル=自然の香りのお酒です。ほんの少し喉を潤す程度でも香りが深く体を突き抜けます
本醸造 濃姫®=容量的に大雑把な感じに想えて、麹の独特の香りを抑えたあっさりとした風味です
今現在、この3種類を試しておりますが、どれも麹臭い雰囲気が全くしません
飲料するもよし、お料理に使うもよし
お料理に使用しても麹の嫌な独特感は全く残りません
奇跡のお酒です
何よりボトルがどれも美しい
清洲桜醸造株式会社公式サイト


濃姫の里 隠し吟醸
フルーティで口当たりが良いです
一応は『辛口』になってますが、ほんのり甘さも残ってます
わたしは料理に使ってます
清洲城信長 鬼ころし
量的に肉や魚の血落としや、料理用として使っています
麹の香りが良いのが特徴ですが、お酒に弱い人は「うっ」と来るかも知れません
どちらも一般スーパーに置いている場合があります
岐阜の地酒 日本泉公式サイト
(二本セットの画像)
夫婦セット 吟醸ブレンド(信長・濃姫)
本醸造 濃姫
カップ酒 濃姫®=爽やかな麹の薫り高い、カップとは想えない出来上がりのお酒です
吟醸ブレンド 濃姫® ブルーボトル=自然の香りのお酒です。ほんの少し喉を潤す程度でも香りが深く体を突き抜けます
本醸造 濃姫®=容量的に大雑把な感じに想えて、麹の独特の香りを抑えたあっさりとした風味です
今現在、この3種類を試しておりますが、どれも麹臭い雰囲気が全くしません
飲料するもよし、お料理に使うもよし
お料理に使用しても麹の嫌な独特感は全く残りません
奇跡のお酒です
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濃姫の里 隠し吟醸
フルーティで口当たりが良いです
一応は『辛口』になってますが、ほんのり甘さも残ってます
わたしは料理に使ってます
清洲城信長 鬼ころし
量的に肉や魚の血落としや、料理用として使っています
麹の香りが良いのが特徴ですが、お酒に弱い人は「うっ」と来るかも知れません
どちらも一般スーパーに置いている場合があります
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あまり役には立ちませんが念のため
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