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生駒屋の内偵のため、帰蝶への挨拶を済ませた時親が清洲の城を出る
その時親を、妻のお能が追い駆けた
「あなた!」
「どうした、お能」
「お弁当」
手には小さな風呂敷に包んだ弁当を提げている
それを持ち上げ、夫に手渡した
「毎日、小折までご苦労様」
「いや、手前まで馬に乗ってるから平気だ。それよりも、局処局長のお前に弁当なんか作らせて、すまないな。忙しいだろうに」
「何言ってるんですか。夫にお弁当を作るのは、妻として当然のことです。局長って言っても、お絹様が池田様のお屋敷に行ってしまわれたから、その代わりになっただけで、実質的な権限はおなつ様にあるんですもの。私はおなつ様と岩室様の下だから、肩書きだけ頂いてるようなものよ。それよりも、余り無理をしないでね?」
「わかってるさ。でも、やっと顔馴染みまで行ったんだ。後もう少しだ」
「あなたが持ち帰る情報、奥方様もとても喜んでるわ。さすがお能の夫だと誉められて、私も鼻が高いんです」
そう笑顔で話すお能に、時親は苦笑いを無言で返す
「それじゃ、行って来る」
「行ってらっしゃい、気を付けてね」
自分に手を振る妻に、夫は少しだけ振り返り応えた
信長が死んで数ヵ月後、帰蝶は新政権の発足として局処を太政官化させた
誰がどの部署でどのような役割を果たせば良いのかを、明確化させたのだ
それまではできる者ができる仕事をできるだけやると言う、曖昧で不明瞭なものだったが、帰蝶がこの制度を導入してからは、外部の人間も自分が誰に話を持っていけば良いのかがはっきりし、現場の混乱がなくなった
守山の城から戻ったお絹も、しばらくは局処の仕事に戻ったが、後に恒興の許に輿入れした千郷に伴って再び織田家から離れ、現場がバタバタした時期があった所為だろうか、潤滑に機能するよう考えられたのが、局処の太政官制度だった
勿論、朝廷とは違う仕組みであるため、当初は馴れずに上手く働けなかったが、今ではすっかり浸透し、局処と本丸の互換性も充分なほどにまで発展して行った
お能は、出て行ったお絹の代わりに局処の総責任者として、『局処局長』に任命された
誰よりも長く帰蝶に仕えているのが、任命された理由である
時親は今年初め、馬廻り衆筆頭に任命された
それまでは可成が務めていたが、本格的に内外に向けての軍隊再編成として、弥三郎と共に馬廻り衆から独立し、一個部隊を任されるようになった
その、可成の抜けた穴埋めとして、斯波家の管理をやっていた時親が馬廻り衆筆頭に任命された
だが周囲はそれを、『妻のお陰で出世した』と囁き合っている
斯波家管理は他人からしてみれば、存外に簡単なものだと想い込まれているのが原因だった
自分を認めてくれていた信長は居ない
新しく主君になった帰蝶は、妻寄りの人間である
誰も、時親の心中を察してはくれなかった
それでも、与えられた任務を遂行しようと、今日も丹羽郷に馬を歩かせる
腰には妻の持たせてくれた弁当をぶら下げて
これからの自分の人生、きっと明るく晴れやかなものになると確信できた春
やがて妻が妊娠した
嫁いで二年後のことだった
それまでは面倒だと断っていた、末森の父への年頭挨拶も、今年は行なわなくてはならない
妻を伴い年明け、一門挨拶のため何年ぶりかで末森に足を運んだ
妻は局処へ、自分は表座敷へと離れ離れにされる
少しだけ不安な気持ちが芽生えた
「一時はどうなるかと想っていたが、事無き無事得、良かった」
叔父の信光に喜ばれ、不安だった気持ちも少しだけ晴れた
しかし、その叔父が道三と旧来の付き合いがあることを、知らないわけではない
父が斎藤と争っている最中にも、叔父は道三と繋がっていたのだ
だが、それも戦乱の世の習いでもあるため、目くじらを立てるほどのものでもなく、この叔父が道三と繋がっていたからこそ、道三は織田家に対して信頼を置いてくれるようにもなったのだから、文句も言えない
午前は挨拶で潰され、午後は残りたい者は残って宴会を始める
主賓の父は早々に自室に戻り、体を休めていた
妻を娶り、懐妊も果たした自分に、言葉は今のところ掛けてもらっていない
期待もしていない
いつからだろうか、親子の間に見えない溝ができたのは
それはもうずっと前からそうだったように、今更理解し合える関係に、など、望んでいない
信長は酒を勧める叔父を断り、この息苦しい末森を出ようと、表座敷を後にした
勝手は知らぬが、帰蝶を連れて帰ろうかと局処に近付く
今日は新年なのだから、母も奥座敷に引込んで、来賓の相手ぐらいはしているだろうと高を括る
少しぶらついてみたが、侍女以外の姿は見えなかった
「帰蝶はまだ挨拶とか終わらねーのかな」
ここに、信長の居場所はない
作ろうとしなかった
作れなかった
作る必要がなかった
許されなかった
どこに居ても、居心地の悪い想いをするだけだった
早く帰りたい
その一心で、信長は局処を後にしようと、元来た道を戻ろうとした時、弟・信勝に見付かった
「兄上」
「 勘十郎・・・」
弟も元服し、童名を捨てた
今年の春、妻を娶る予定もある
弟は簡単に、自分を追い越した
「ご無沙汰しておりました。相変わらず、お元気そうですね」
「ああ、お前も息災で何よりだ」
「折角久し振りに来られたのですから、母上にご挨拶なされては如何ですか」
「また今度」
「そう言って、兄上はいつも真っ直ぐ帰られる」
弟の笑顔は綺麗だった
相変わらず上品な顔立ちをしている
上品な顔をして微笑む
自分には真似できなかった
「ここで待ち合わせですか?」
「え?」
「兄上の奥方様です」
「さぁな」
「さあなって」
「別にガキじゃねーんだ。表には連れも置いてる。帰りたきゃ勝手に帰れるだろ?」
「兄上・・・」
相変わらず常識外れなことを平気で言ってのけると、勘十郎信勝は心の中で呆れる
そんな弟の心など、信長は容易に見透かしていた
いつからだろう
幼い頃はあんなにも自分に懐いていた弟が、いつの間にか自分を見下すような目付きしかしなくなったのは
覚えていない
「それよりも、どうですか、斎藤は」
「え?」
「奥方様のご懐妊、ご報告なさってるのでしょう?」
「 あ・・・、そうだな」
うっかり忘れていた、などと口にすれば、この弟はどんな目で自分を見るのだろう
口で批難するのか、目で批難するのか
少しずつ母に似て来るこの弟も、いつか苦手に想える日が来るのだろうか
いや
それはもう、来ているのかも知れない
「奥方様って、どんな方ですか?斎藤の姫君なのだから、さぞかし教養深い方なのでしょうね」
「どうだろうな」
教養は、あるのかも知れない
だが、それを振り翳したことは一度もない
妊娠するまで毎日、自分と一緒になってあちらこちらへと駆け歩き、馬に跨り、海の波打ち際で戯れた
時々鉄砲の撃ち方を教えている、などと言ったら、きっと、目を丸くして驚くだろうな、と、簡単に想像できる
「何でも、斎藤の秘蔵っ子だとか?」
「そうなのか?」
キョトンとする信長に、信勝もキョトンとし返す
「ご自分の奥方でしょう?」
「そうだな」
最もなことを言う
どうして自分の妻のことを知らないのだと、言いたそうな目をする
だけど、口にはしない
それが弟の賢いところだった
「兄上は昔から無頓着なところがありましたが、まさかご自分の奥方に対してまで無頓着だとは想いませんでしたよ」
「すまんかったな・・・」
「それじゃぁ、夫婦円満も長続きしませんよ?」
「そうか?」
「女は兎に角、細かいところに目が行くものです。兄上も、せめて奥方にだけは神経を行き届かせた方が、無難ですよ」
「心得よう・・・」
そんな他愛ない話が続く
そして、いつも、穏やかな空気の流れを切り裂くかのように、母が現れる
まるで常に自分を見張っているかのように
「勘十郎!」
ほら、来た。と、信長は信勝との会話を中断した
「母上」
信勝は笑顔のまま母に振り返った
「勘十郎、こちらに戻って来なさい」
「母上、兄上ですよ。久し振りではないのですか?局処でお茶など」
「いいから、戻ってらっしゃい」
「しかし、母上・・・」
「勘十郎!」
母には逆らえず、信勝は軽く一礼すると信長の許から去った
「勘十郎。あのようなうつけ者と付き合っていては、そなたまで愚かになる。相手を選びなさい」
「母上、お言葉が過ぎます」
「構うもんですか。折角斎藤と縁を組んだと言うのに、それすら生かせないのであれば、愚か者以外の何者でもありません。あのような恥知らず、末森の敷居を跨ぐのも憚れて然るべき存在です」
「母上 」
嫌う
と、言うよりも
嫌いになろう
と、言う想いが強い、悲しい言葉が続く
信長の顔が擡げた
そんな信長に、妻の声が掛けられた
「吉法師様!」
「 帰蝶」
今の言葉を聞いていただろうに
母の言葉を聞いていただろうに
それでも妻は眩い笑顔で自分に言う
「早く帰りましょう?私、退屈で仕方ありません」
「き・・・・・」
今の自分の、もやもやした気持ちを、まるで吹き飛ばしてやろうかと言うような、無礼極まりない言葉
おかしくて、吹き出しそうになる信長の目に、妻の爪先が見える
「お前、裸足・・・」
「あ、いけない。草履、局処の玄関に置いたまま」
まるで悪戯盛りの子供のように微笑む
そんな妻を信長は軽く笑うと、いきなり両腕で抱き上げた
「しょうがない女房殿だな」
「すみません」
態と、そうしたのか
自分のために、そうしてくれたのか
ただ、嬉しかった
妻と一緒に居れば、自分も笑顔になれる
嫌なことも忘れられる
信長も、そんな笑顔になれた
その信長と、妻の姿に市弥が呟く
「足袋のまま庭に出るだなんて。美濃の姫君と言っても、所詮出自の低い親を持つと、娘も躾ができていないのね。ああ、見苦しい」
「母上・・・」
そうでしょうか
信勝は心の中で浮かべた
母にそれを口にして言っても、無駄だと想ったから
奥方は、態と裸足で庭に出たのですよ
兄上の気持ちを紛らわすため、態と
ほら
兄上のお顔をご覧なさい
さっきまで物悲しそうだった兄上が、あんなにも弾けた笑顔を浮かべている
あなたには、あれができますか
兄上を笑わせることができますか
私の妻は、あれができますか
落ち込んだ夫を言葉ではなく励ますことが
あの奥方と同じことができますか
できないでしょう
あなたにも
我が婚約者にも
「奥方様、よろしいでしょうか」
襖の向こうから、なつの声がする
「ちょっと待って、今、お乳を飲ませたばかりだから」
帰蝶は帰命を肩に担ぐように抱き、背中を鼓を打つように軽くぽんぽんと叩いた
それからして、帰命の小さな口から『げっぷ』が出る
これが出るのを確認してから菊子に手渡し、自分も放り出した乳房を濡らした手拭で拭い、仕舞う
「良いわよ、どうぞ」
しばらくしてから、なつが襖を開けた
側には憔悴しきったままの市弥の姿がある
帰蝶は市弥に軽く頭を下げた
今の市弥には、その返礼すらできる余裕がない
「大方様」
促され、市弥は帰蝶の部屋に入った
「お互い、しこりはあるでしょうが、反目し合ったままでは一歩も先に進めません。口論でも結構です、何かお話なさってください」
「なつ・・・」
「ここに来るのに、大方様もどれだけの勇気が要ったか、奥方様、それをどうか汲んで下さいませ」
「 」
帰蝶は黙って、市弥に体を向け直した
市弥も、帰蝶に顔を向ける
その市弥の目が丸くなった
嫁は、息子の着ていた小袖を羽織っている
袴も、息子の物だった
「女が男の恰好をするのは、やはり『うつけ』でしょうか」
「 」
応えられず、市弥は俯いた
「これが、私の覚悟です」
「 吉法師として、生きることが・・・?」
「そうです」
「 」
一度顔を俯かせ、それからゆっくり顔を上げる
「吉法師は、この世に二人と居ない。あなたがどれだけ優れた才能の持ち主だろうと、吉法師にはなれない」
「わかってます。そして、あなたもわかってらっしゃるではありませんか。どうしてそれを、吉法師様が生きてらした頃に仰ってくださらなかったのですか」
「私は・・・・・・・・・。生きるために、吉法師を捨てた女です。今更、母親の顔などできません・・・・・・・!」
「大方様 」
市弥の言葉に、なつは目を見開く
「生きるために、吉法師様を捨てた?」
聞き返す帰蝶に、市弥は涙で濡れた目を真っ直ぐ向けた
「私は、望まれて嫁に入った。だけど、あなたのように、夫に愛された覚えはありません。ただ『織田の嫁』、それが私をこんにちまで生かしていた肩書きです。あなたに、私の惨めさがわかる・・・?」
「 」
望まれて入った
なのに、自分を待ち受けていた織田の使用人達の目は、冷たかった
前妻は余程評判が良かったのか、誰も彼もが市弥を、「奥方様を追い出して正妻に入った小娘」と言いたげな目をしていた
市弥は十一で信秀の妻になった
入った頃には既に何人か、信秀の子供が居た
前妻の産んだ子も含まれていた
市弥は祝言の席で言い切った
「私の産んだ子以外の男子を跡取りにするのなら、私はこの場で首を掻っ切ります」
それはまだ、『大人の女』にもなっていない少女の、精一杯の虚勢だった
今、木曽川の利権を握っている土田家と疎遠になれば、勝幡織田の将来は閉じられてしまう
信秀は市弥の豪胆さを誉めながら、その条件を飲んだ
市弥を妻にすれば、失う物よりも得る物の方が多いからだ
跡取りを産めば、女はその家で大きな顔ができる
この織田の家で生き残るためには、それしか方法がなかった
生意気だと陰口を叩かれようとも、元より嫌われている傾向が強いのだから、今更誰の機嫌を伺うか
少しでも後ろめたさを感じるような態度を取れば、使用人だろうが小間使いだろうが、自分を見下すだろう
市弥は織田で生きて行くために顎を引き、胸を張り、きっと眉を上げて堂々と歩くことを決めた
少女は少女なりに精一杯生き、やがて子を産んだ
産んだ子は幸いあれとの祈りと、賢い子に育つようにと願いを込め、吉法師と名付けられた
その吉法師と引き離されたのは、産んで三ヶ月も経っていない頃だった
織田の後継者として、母の愛は負担になる
まだ幼い市弥は男社会の理不尽さに、吉法師との別れを押し付けられた
愛する、そしてこれからもまだ愛していたかった最初の子と、無理矢理別れさせられた
同じ局処に居ながら、市弥は産んだ我が子に乳すら与えられない生活を強いられた
どの家でも多かれ少なかれ、そうした慣わしに従っている
自分だけじゃない
そう想いながらも、大きく膨れた乳房から、その先端から溢れる白い乳と一緒に、吉法師への想いも溢れた
この手で抱きたい、この手に触れたい
だけど
自分の産んだ子以外の男子を跡取りには認めるなと、そう申し出たのは自分だった
生きて行くため
生き残るため
市弥は吉法師を忘れようと努力した
「 あなたが嫁いだ当初、まだ月の物が無く、吉法師も無理強いをさせなかったと、さっき池田から聞かされました。あなた達夫婦が、どれだけ慈しみ合っていたのかも。だから尚更私は、あなたが憎い。私はあなたよりも幼く嫁に入り、その夜、無理矢理破瓜を割られた。月経よりも先に、男を知った。だから、男の残酷さ、惨たらしさを知っている。だから!」
ぽろぽろと、市弥の目から涙が零れた
「吉法師が優しい子に育ってくれたことを、私は誇りに想う。だから、自分が許せない。そんな吉法師を守ってやれなかった自分が憎い・・・ッ!」
「義母上様」
「愛していたのよ・・・・・・・・・・・」
耐え切れず、市弥は顔を伏せて泣き出した
憎んでいたわけではない
立派な子に育って欲しかった
冷徹でも良い
織田を引っ張って行くに相応しい、強くて賢い子に育って欲しかった
なのに信長は、自分の期待とは正反対の、優しい子に育ってしまった
挙句、二十一と言う若さでこの世を去った
愛していた息子に触れられた期間は、僅か三ヶ月
たった三ヶ月で死ぬほど子を愛せるものではない
血の繋がらない子でも、我が子同然に毎日顔を合わせ、触れ合っていればこそ、親は子を愛せる
愛せる機会を奪われた市弥に、離れた子を愛せよと言う方が無理な話だった
信長を産んだ二年後には信勝を産んだ
信勝を産んだ更に二年後には、三男に当る信包を産んだ
そしてその二年後にも
市弥は信秀が死ぬまでに、五人の男児と二人の女児を産んでいた
「 義母上様。愛されていなかったなんて、嘘です」
静かな声で、帰蝶は語り掛ける
「義父上様のお子を一番多く産んでらっしゃるのは、義母上様ではございませんか」
「 え・・・?」
「愛されているから、あなたが一番多く、『抱かれた』のではないのですか?」
「 」
帰蝶の言葉に、市弥の目が見開かれる
「そうですよ、大方様。私は殿のお子を、一人しか産んでおりません。それに私、殿に言われたんですよ?」
「池田・・・・・・・・・」
「女の姿の、男のようなお前を抱く趣味は、ない、と、はっきり」
「え・・・?」
「殿もまた、不器用なお方だったんです。ご自分の想いを、伝えたい人に伝えられない、不器用なお方だったんです。若は、そんな方の倅ですよ?それでも、奥方様にご自分の想いをきちんと伝えられたのは、大方様が影なり日向なり、見守って来られたからじゃないんですか?」
「私は・・・・・・・」
「知ってましたよ。若は。那古野に居た時も、末森に越された時も、大方様はいつも、影から若を見守っておられました。若は多分、それに気付かれていたと想います。だから、反目し合っていても、冷たい言葉で突き放されても、あなた様を嫌いになることはなかったんだと想います。大方様、『母の愛』は、決して切れない絆です。それを教えたのは他でもない、大方様、あなたなんですよ」
「 」
信長が優しい子に育ったのは、影から見守る温かい眼差しがあったから
なつはそう、市弥に言った
この手に抱けなくとも、その眼差しが包み込んでいたから
だから、信長の些細な失敗も見逃すことなく、把握していたのだと
生きていたら、それを信長に話してやりたかったと、なつは言った
「私は、なんてことを・・・・・・・・・ッ」
再び、市弥は嗚咽を上げて泣いた
その声に驚いたのか、隣の部屋に引き篭もっていた帰命が俄に泣き出し、その声は三人の耳にも届く
「この声は・・・、吉法師の、・・・子?」
「はい」
真っ直ぐの目を向け、帰蝶は返事する
「本丸(ここ)で育てているの・・・?」
「はい」
どうして、と、訊ねるよりも、市弥はそう、と呟いた
親の自分でさえ理解できなかった息子を、誰よりも理解していた妻だ
自分如きに理解できるような、そんな簡単な思考の持ち主ではないことぐらい、知っている
「私は、いつしか勘十郎を守ることが、吉法師を守ることに繋がると、勘違いしていました」
ぽつり、ぽつりと、市弥は話した
「勘十郎さえしっかりしていれば、吉法師がどんな過ちを犯したとて、挽回できると。その一心で、二人を似た性格にさせないためにも、必死になって引き剥がして来た。だけど結局二人は、同じ女性(ひと)を好きになったのね・・・」
「大方様?」
「あなたを、将来美濃を手に入れるための道具として、勘十郎を唆し、吉法師から奪い、正妻にすることを吹き込みました。それは、私の罪です」
「 」
そっと、軽く頭を下げる市弥に、帰蝶は責める言葉を押し込んだ
「あなたと吉法師が、それほどまでに愛し合っていたなど、想像もしてませんでした。政略に愛情など芽生えるはずがない。私はずっと、そう想い込んで来た。だけど、現実は違ったのね」
また、泣きそうな、そんな顔で苦笑いし、それをなつに向ける
「私は、あとどれくらい罪を重ねれば、織田の役に立つのかしら・・・」
「大方様・・・ッ!」
なつは市弥を抱き締めた
「奥方様、お願いします!若様を、大方様に逢わせて下さいませ!」
「なつ」
「孫の顔を、大方様にお見せ下さいませ!これ以上、大方様に罪の意識を着させないで下さいませ!女はみんな、必死なんです。生きるために、必死なんです!」
「 」
生きるために、少しでも優秀な子を持とうと、それがこの時代の、武家の女の術だった
信長がその術にはなれなかったために、市弥は自分の期待の全てを信勝に寄せ、必死になって育てて来た
尾張を統一し、美濃を制すれば、自分が織田に入った意味も、少女時代から辛酸を舐めさせられ、それに耐えて来た日々も報われる
もう、「金で買われた女」と言われずに済む
ただそれだけの想いで、信勝を信長の上に押し上げようとしていた
結果、市弥はそのどちらも喪うことになった
縋るものの全てを、市弥は失った
そんな市弥に、今更恨み言を言う気にはなれなかった
「 菊子」
しばらく考え、帰蝶は隣の部屋の菊子を呼んだ
「丸を、連れて来て」
「はい、ただいま」
慌てた声で菊子が応える
帰命はまだ、泣いたままだった
襖が開き、泣きじゃくる帰命を抱いた菊子が現れた
「申し訳ございません、いつもでしたら直ぐ泣き止まれるのですが・・・」
申し訳なさそうな顔をして、菊子は帰命を帰蝶に返す
帰命を腕に抱き、少し体を揺らせ、それから、市弥に差し出した
「あなたの、孫です。名は、帰命丸と申します」
「きみょう・・・」
「帰る命と書いて、帰命と呼びます」
「帰る命・・・・・・・・」
「私の、罪の証です」
「 」
市弥の目が見開かれる
帰蝶は信勝を殺した罪を、一生背負って生きて行くつもりだと、そう感じた
帰蝶から帰命を受け取った
今も泣きじゃくっている帰命を、優しく、優しくあやす
それは慈愛に溢れた女性の姿だった
愛せなかった『吉法師』の代わりに、今、『吉法師』の子が腕の中に居る
その温かい体温と、少しずっしりとする重みに、市弥の目がまた、涙で潤む
「吉法師、そっくり・・・」
小さな声で呟いた
ともすれば、睫に掛かった涙が零れて落ちそうだった
「そうですか、やはり。ご生母様が仰るんですから、間違いありませんよ、奥方様」
「そうね」
なつの嬉しそうな声に、帰蝶も少し微笑めた
「でも、目元はあなたに似ている」
「 」
市弥の目が、帰蝶に向けられる
それは『憎しみの抜けた』、清々しい眼差しだった
「侍女に産ませたというのは、方便ですね・・・?」
「 はい」
「どうして、嘘を」
「そうすることで、帰命を守ることができます」
「これが、この子を守ることになるのですか?」
「そうです。勘十郎様は、帰命が私の産んだ子なら、後顧の憂いとしての遺恨を取り除くための処置をすると仰いました。その勘十郎様を、私はこの手で殺めました。これで織田家の後継者争いは終結したでしょう。ですがまだ、遺恨は残ったままです」
「勘十郎が、この子を殺すと・・・?」
「はい」
「まだ残っている遺恨とは・・・?」
「真の、吉法師様の仇、斎藤家です」
「斎藤家・・・・・・・・。あなたは、ご自分のご実家を相手に、戦うつもりですか?」
「はい」
「美濃の方・・・・・・」
市弥の目が、信じられないものを見るかのように開かれる
「この子を守るためなら、相手が誰であろうと私は、一歩も引くつもりはありません。自分の実家であろうと、兄であろうと、友であろうと、私は戦います。自分の爪先に敵の屍の山を築こうとも、私は下がりません」
「 」
市弥は無言になった
信勝を殺し、織田の後継者争いに幕を引いたとて、後にはまだ斎藤が残っている
もしも斎藤が帰命の存在に気付いたら、恐らく全力で攻撃を仕掛けて来るだろう
信長が死んだとあれば、尚更である
織田を守るために帰蝶は、死んだ夫の身代わりになり、子を守るために母親の名乗りを捨てた
自分とは、『生きる覚悟』が根本から違うのだと想い知らされたような気がして、何も言えなくなったのだ
これが吉法師の嫁か、と言う想いで帰蝶を見詰める
いつの間にか腕の中の帰命が泣き止み、すやすやと眠っていた
その姿に、帰蝶は微笑んだ
優しい微笑みだった
自分の息子をたった今、殺したばかりの女だとは、とても想えなかった
蟠りは消えたわけではない
だけど、どうしてだろうか、憎しみがほんの少し、薄らいだ
市弥は不思議な想いで帰蝶と、自分の腕で眠る帰命を見比べた
縁側から見えた父に、頭を下げた
妻を誉められた
大事にしろと告げられた
嬉しくて、つい、母の顔を見た
母は相変わらず冷たい眼差しで自分を見ていた
その隣に居る弟の目に、信長は戦慄した
冷たい、とかではなく、憎悪の塊のような目をしていた
さっきまではたおやかだった信勝の目が、悪鬼の如く歪んでいた
その眼差しは、自分に向けられているものなのか、腕の中の妻に向けられているのか、信長にはわからなかった
「 帰ろうか」
「はい」
ぽつりと呟く信長に、帰蝶は元気な声で返事した
その二人の背中を、信勝は憎々しく、市弥は悲しげな目をして見詰めている
「もうお帰りですか?」
表で待っていた付き人が、信長と帰蝶に気付き立ち上がった
「用事は済んだ」
「そうですか」
「籠を出してくれ。帰蝶も疲れてるだろうからな、ゆっくり歩いてくれよ?」
「承知しました」
信長の明るい顔に、侍従も明るく応える
信長の周りはいつも、笑顔に溢れていた
それは、信長の努力でもあり、自然と身に着けた処世術でもあった
笑顔で居れば、どんなつらいことも乗り越えられると、子供の頃から培って来た経験に伴う行動だった
そんな信長を、市弥の心配げな瞳が城門の影から見守っている
少し振り返り、城を眺める信長の目に、母は映っていなかった
だけど、なんとなく伝わる温かい感触だけは感じ取った
それがなんなのかまではわからなくとも
信長は無意識の内にどこかで、母の愛を感じていたのかも知れない
だからこそ、恋焦がれ、渇望していた
母の手を
自分に添えられる手を
いつか触れ合いたいと、そう、願っていた
だが、帰蝶が嫁いだことで、信長の世界が明るく日が差し、その想いはいつしか消えていた
想いが通じ合うことが、なくなった
通じぬ想いは、いつしか憎しみに変わって行く
届かぬ想いに人は苛立ちから、心の中に温めた愛情を憎しみに変えてしまう
それは、仕方のないことだった
「 土田を?」
市弥の提案に、帰蝶は目を丸くした
「領地を争っていた明智が解散し、今、空白の場所は遠山が管理しているとか。その遠山を相手に争う姿勢だったのも、織田との縁組で白紙に戻ったようです。例え斎藤と手を組んだとしても、それは同盟にも程遠い状態。織田と遠山のように、婚姻関係にはないのですから、相互関係も希薄。ならば、土田をこちらに吸収するというのは、どうでしょう」
「それは願ってもない提案です。ですが、どうやって土田に取り入れば良いのでしょうか」
帰蝶は自分に奇策がないことも恥じず、素直に訊ねた
その姿勢は、常に前進しようと言う表れであり、市弥も以前のような、人を見下すような目はしなくなった
「土田は私の実家です。私がその交渉役を買います」
「大方様が、自ら?」
「役不足でしょうか」
「いいえ、その逆に、恐れ多いような気がしまして」
「立ってる者は、親でも使えと言うでしょう?帰命を生んだのがあなたなら、あなたは私の娘も同然です。その娘の役に立たない親など、存在する意味があるのでしょうか」
「大方様・・・・・・・・・・」
「手間取るかも知れません。ですが、私に一任していただけませんでしょうか。できれば、誰かを手助けに借り受けたいのですが」
「でしたら、三左をお貸しします。三左は美濃にも詳しいですので、お役に立つかと存じます」
「ありがとうございます」
市弥は深く帰蝶に頭を下げた
愛せなかった吉法師の代わりに、その息子である帰命を愛してみようと想った
息子に生き写しの帰命なら、愛せると想えた
信勝の葬儀は、死んだ二日後、盛大に行なわれた
十人の僧侶を集め、織田一の賢者として手厚く葬られ、墓は信勝が父のために建てた桃源寺に安置された
末森の城は破棄され、なつも長く人質となっていた娘の稲と、漸く共に暮らせるようになり、末森の管轄は守山と統合することになった
信勝の妻の処遇には困ったが、自分を庇ってくれた秀隆に側室としてくれてやろうかともしたものの、
「折角ですが、遠慮しときます。うちのかみさん、結構ヤキモチ焼きなんですよ。取り殺されたくないんで」
と、にべもなく断られた
恒興の妻、千郷の荒尾とは別系統だが、東尾張の豪族の娘でもあるため、できることなら手元に残しておきたい
そう想い、秀隆と相談の上、秀隆の部下の中でも一番の人格者の許へ嫁ぎ直させた
出世とは程遠い人材だが、人柄については評判が良い
今直ぐは無理としても、いつかは心の傷も癒せるだろうと願いながら、織田から嫁入り支度をさせた
信勝の子らは、市弥が責任を持って養育することとなり、将来的にも織田のため働けるような武将として教育されることが決まった
末森と統合した守山の城主の信次も今では、帰蝶の傀儡と化している
増してや信秀亡き後、実質的織田の長老らの頂点に立つ信光が帰蝶の後ろ盾となっているのだから、逆らえば城から追い出されるだけである
信勝を殺すことにより、計らずとも帰蝶は勝幡織田の全てを掌握した
その帰蝶が最初にやろうとしたことは、斎藤への復讐ではなく、尾張織田の完全制覇である
「濃尾平野を?」
突然言い出す帰蝶に、表座敷に集まった秀隆らは目を丸くした
ただ一人、家臣の中では帰蝶の気質を一番理解している可成だけは、その驚きも小さい
なるほど、と言いたげな顔をして帰蝶の話を聞いていた
「濃尾平野は水害と旱魃に悩まされる土地でもあるけど、その分土壌も豊かでしょ?水害対策に関しては、道空に一任したいと想ってるの」
「わたくしがですか?」
今までずっと、利治の傅役としてでしか働いていなかった道空が、キョトンとした目で帰蝶を見た
「長良川の氾濫を何度も経験している道空なら、どうすれば水害に悩まされずに済むか講じれるんじゃないかと想って。ここは木曽川があるけれど、川幅があるから滅多なことじゃ氾濫しない。でも長良川は普段から水位も高いのに、それに反比例して川幅もそれほどじゃない。そんな長良川を良く知っている道空が最適だと想ったの。四の五の言わないで、その自慢の頭を使って」
「はぁ・・・」
「濃尾平野の半分は、この織田が握ってる。一宮は清洲との交流も深く、こちらが有利に事が運べるよう、上手に交渉もできる相手よ。それほど手間取るとは想えない。春日井は又助の生まれ故郷だから、何か伝はないかしら」
「死んだ母の親戚が何人か残ってますので、叔父や叔母に相談すればなんとかなるのではと」
「それじゃぁ、頼める?」
「お安い御用です」
「お願い」
「はい、承知しました。ああ、それと、丹羽殿や塙殿も春日井出身です」
「春日井出身って、ここ、結構居るのよね。五郎左衛門は小牧担当をしてもらう予定なの。話が出たついでだわ。五郎左衛門」
「はい」
資房から離れた場所に座っている長秀が返事する
「小牧を対斎藤の要所として押えたいの。小牧は平三郎、弥三郎の実家のある土地だけど、平三郎は生駒屋の内偵で入ってるから、弥三郎と組んで押えてくれない?あの辺りの豪族を纏め上げたいの」
「了解しました」
この軍議に参加させられた市弥は、さっきから目を丸くしている
「不思議ですか?」
隣に並んだなつが、声を掛けた
「女が軍議に顔を出すなど、前代未聞でしょう?」
「 ええ」
「でもね、これがうちでは当たり前なんです」
「そうなの・・・」
「女でも充分役に立つと、若が始められたんですよ」
「吉法師が・・・?」
「若は奥方様の、軍師としての才を愛しておられました。それを認め、若は軍議には必ず、奥方様を出席させました。織田が強くなったのは、若と奥方様が協力し合った結果です。若はそれが当たり前の時代になさろうとしていたのです」
「 」
そうだったのか、と、実際に信長がやろうとしていたことに触れ、漸く理解する
今更、と、後悔しながら
「濃尾平野を押えるに邪魔な存在は?」
と、いつものように全員に問い掛ける
「岩倉織田」
いつものように、最初に応えるのは秀隆だった
「それから?」
「犬山織田」
次にこの頃しっかりして来た恒興が続ける
「そう。清洲織田にも歯向かうこの二つが、邪魔。どうすれば排除できるかしら」
「戦しかございませんでしょう」
「それ以外に方法はある?」
「飼い馴らせるものなら、先代様がとっくの昔になさっておいでです。勝幡織田は織田一族の中でも最下層に位置していました。大和守家の、その家臣であった勝幡織田があれよあれよと言う間にのし上がって行ったのを、また、尾張国主の座が間近に迫るのを、快く想う者はございません」
「なら、叩きのめすしかないわね?」
怖いことをさらっと言ってのける帰蝶に、市弥の目がまた丸くなった
「当面の目標を、犬山織田、岩倉織田に定める。犬山に向けては小牧を本陣とし、その防衛に努めよ。憎き岩倉は、総力を以って制する。以上!」
「ははッ!」
男以上に、男の仕事を淡々とこなす帰蝶を、やはり市弥はどこか遠い景色を見るかのような目で見守っていた
これが、信長の妻
憎んだ倅の嫁
信長を変えた女
自分とは、違う世界を生きる女性(ひと)
敵うはずがないと、何故だかそう想えた
昼間は鬼のような顔をすることもある帰蝶が、帰命の前になると優しい母の顔に戻るのに、市弥はしばらくは戸惑った
どちらが本当の顔で、どちらが作った顔なのかわからない
それでも、帰命に対する愛情は本物だと想えた
「そろそろ乳離れさせなきゃならないわね」
そう、淋しそうに呟く帰蝶に、側に居るなつが苦笑いして応える
「そうしていただかないと、こちらも教育の施しようがございません。おつらいでしょうが、決断なさってくださいましな」
「なつは良いわよね?稲姫様とも暮らせるようになったんだから」
と、嫌味を言ってやる
「何仰ってるんですか。稲とてもう、嫁入りできる年齢に達してます。いつ政略の道具になるかと、気が気でないんですから」
「失礼ね、そんな非道なことしないわよ。稲姫様には、好いた人に嫁いでもらいます。それらしい相手は居ないの?」
「居ませんよ」
帰蝶となつの、まるで庶民の親子のような会話にも、初めは目を丸くした
それもいつしか馴れるだろう
この清洲が、新しい住処になる
温かい日溜りのような場所が、自分の住む場所になる
市弥は、その清洲の中心が帰蝶であることを、いつしか嬉しく感じる日が来るだろうと予感した
息子の嫁だから
愛せなかった、愛する息子の嫁だから
息子を愛してくれた人だから
だから、自分も愛し、愛される関係になれるような、そんな気がした
息子の愛し方を間違えた自分を側に置いてくれるのだから、だから、いつかわかり合える日が来る、そう想えた
この嫁を理解できた時、自分は、理解できなかった息子を理解できるのではないか
そう、想わせてくれるから
母の愛は、其々違う
愛の形も違う
愛し方も違う
だけど、根本にある『愛』はどれも、優しい色をしていた
その時親を、妻のお能が追い駆けた
「あなた!」
「どうした、お能」
「お弁当」
手には小さな風呂敷に包んだ弁当を提げている
それを持ち上げ、夫に手渡した
「毎日、小折までご苦労様」
「いや、手前まで馬に乗ってるから平気だ。それよりも、局処局長のお前に弁当なんか作らせて、すまないな。忙しいだろうに」
「何言ってるんですか。夫にお弁当を作るのは、妻として当然のことです。局長って言っても、お絹様が池田様のお屋敷に行ってしまわれたから、その代わりになっただけで、実質的な権限はおなつ様にあるんですもの。私はおなつ様と岩室様の下だから、肩書きだけ頂いてるようなものよ。それよりも、余り無理をしないでね?」
「わかってるさ。でも、やっと顔馴染みまで行ったんだ。後もう少しだ」
「あなたが持ち帰る情報、奥方様もとても喜んでるわ。さすがお能の夫だと誉められて、私も鼻が高いんです」
そう笑顔で話すお能に、時親は苦笑いを無言で返す
「それじゃ、行って来る」
「行ってらっしゃい、気を付けてね」
自分に手を振る妻に、夫は少しだけ振り返り応えた
信長が死んで数ヵ月後、帰蝶は新政権の発足として局処を太政官化させた
誰がどの部署でどのような役割を果たせば良いのかを、明確化させたのだ
それまではできる者ができる仕事をできるだけやると言う、曖昧で不明瞭なものだったが、帰蝶がこの制度を導入してからは、外部の人間も自分が誰に話を持っていけば良いのかがはっきりし、現場の混乱がなくなった
守山の城から戻ったお絹も、しばらくは局処の仕事に戻ったが、後に恒興の許に輿入れした千郷に伴って再び織田家から離れ、現場がバタバタした時期があった所為だろうか、潤滑に機能するよう考えられたのが、局処の太政官制度だった
勿論、朝廷とは違う仕組みであるため、当初は馴れずに上手く働けなかったが、今ではすっかり浸透し、局処と本丸の互換性も充分なほどにまで発展して行った
お能は、出て行ったお絹の代わりに局処の総責任者として、『局処局長』に任命された
誰よりも長く帰蝶に仕えているのが、任命された理由である
時親は今年初め、馬廻り衆筆頭に任命された
それまでは可成が務めていたが、本格的に内外に向けての軍隊再編成として、弥三郎と共に馬廻り衆から独立し、一個部隊を任されるようになった
その、可成の抜けた穴埋めとして、斯波家の管理をやっていた時親が馬廻り衆筆頭に任命された
だが周囲はそれを、『妻のお陰で出世した』と囁き合っている
斯波家管理は他人からしてみれば、存外に簡単なものだと想い込まれているのが原因だった
自分を認めてくれていた信長は居ない
新しく主君になった帰蝶は、妻寄りの人間である
誰も、時親の心中を察してはくれなかった
それでも、与えられた任務を遂行しようと、今日も丹羽郷に馬を歩かせる
腰には妻の持たせてくれた弁当をぶら下げて
これからの自分の人生、きっと明るく晴れやかなものになると確信できた春
やがて妻が妊娠した
嫁いで二年後のことだった
それまでは面倒だと断っていた、末森の父への年頭挨拶も、今年は行なわなくてはならない
妻を伴い年明け、一門挨拶のため何年ぶりかで末森に足を運んだ
妻は局処へ、自分は表座敷へと離れ離れにされる
少しだけ不安な気持ちが芽生えた
「一時はどうなるかと想っていたが、事無き無事得、良かった」
叔父の信光に喜ばれ、不安だった気持ちも少しだけ晴れた
しかし、その叔父が道三と旧来の付き合いがあることを、知らないわけではない
父が斎藤と争っている最中にも、叔父は道三と繋がっていたのだ
だが、それも戦乱の世の習いでもあるため、目くじらを立てるほどのものでもなく、この叔父が道三と繋がっていたからこそ、道三は織田家に対して信頼を置いてくれるようにもなったのだから、文句も言えない
午前は挨拶で潰され、午後は残りたい者は残って宴会を始める
主賓の父は早々に自室に戻り、体を休めていた
妻を娶り、懐妊も果たした自分に、言葉は今のところ掛けてもらっていない
期待もしていない
いつからだろうか、親子の間に見えない溝ができたのは
それはもうずっと前からそうだったように、今更理解し合える関係に、など、望んでいない
信長は酒を勧める叔父を断り、この息苦しい末森を出ようと、表座敷を後にした
勝手は知らぬが、帰蝶を連れて帰ろうかと局処に近付く
今日は新年なのだから、母も奥座敷に引込んで、来賓の相手ぐらいはしているだろうと高を括る
少しぶらついてみたが、侍女以外の姿は見えなかった
「帰蝶はまだ挨拶とか終わらねーのかな」
ここに、信長の居場所はない
作ろうとしなかった
作れなかった
作る必要がなかった
許されなかった
どこに居ても、居心地の悪い想いをするだけだった
早く帰りたい
その一心で、信長は局処を後にしようと、元来た道を戻ろうとした時、弟・信勝に見付かった
「兄上」
「
弟も元服し、童名を捨てた
今年の春、妻を娶る予定もある
弟は簡単に、自分を追い越した
「ご無沙汰しておりました。相変わらず、お元気そうですね」
「ああ、お前も息災で何よりだ」
「折角久し振りに来られたのですから、母上にご挨拶なされては如何ですか」
「また今度」
「そう言って、兄上はいつも真っ直ぐ帰られる」
弟の笑顔は綺麗だった
相変わらず上品な顔立ちをしている
上品な顔をして微笑む
自分には真似できなかった
「ここで待ち合わせですか?」
「え?」
「兄上の奥方様です」
「さぁな」
「さあなって」
「別にガキじゃねーんだ。表には連れも置いてる。帰りたきゃ勝手に帰れるだろ?」
「兄上・・・」
相変わらず常識外れなことを平気で言ってのけると、勘十郎信勝は心の中で呆れる
そんな弟の心など、信長は容易に見透かしていた
いつからだろう
幼い頃はあんなにも自分に懐いていた弟が、いつの間にか自分を見下すような目付きしかしなくなったのは
「それよりも、どうですか、斎藤は」
「え?」
「奥方様のご懐妊、ご報告なさってるのでしょう?」
「
うっかり忘れていた、などと口にすれば、この弟はどんな目で自分を見るのだろう
口で批難するのか、目で批難するのか
少しずつ母に似て来るこの弟も、いつか苦手に想える日が来るのだろうか
いや
それはもう、来ているのかも知れない
「奥方様って、どんな方ですか?斎藤の姫君なのだから、さぞかし教養深い方なのでしょうね」
「どうだろうな」
教養は、あるのかも知れない
だが、それを振り翳したことは一度もない
妊娠するまで毎日、自分と一緒になってあちらこちらへと駆け歩き、馬に跨り、海の波打ち際で戯れた
時々鉄砲の撃ち方を教えている、などと言ったら、きっと、目を丸くして驚くだろうな、と、簡単に想像できる
「何でも、斎藤の秘蔵っ子だとか?」
「そうなのか?」
キョトンとする信長に、信勝もキョトンとし返す
「ご自分の奥方でしょう?」
「そうだな」
最もなことを言う
どうして自分の妻のことを知らないのだと、言いたそうな目をする
だけど、口にはしない
それが弟の賢いところだった
「兄上は昔から無頓着なところがありましたが、まさかご自分の奥方に対してまで無頓着だとは想いませんでしたよ」
「すまんかったな・・・」
「それじゃぁ、夫婦円満も長続きしませんよ?」
「そうか?」
「女は兎に角、細かいところに目が行くものです。兄上も、せめて奥方にだけは神経を行き届かせた方が、無難ですよ」
「心得よう・・・」
そんな他愛ない話が続く
そして、いつも、穏やかな空気の流れを切り裂くかのように、母が現れる
まるで常に自分を見張っているかのように
「勘十郎!」
ほら、来た。と、信長は信勝との会話を中断した
「母上」
信勝は笑顔のまま母に振り返った
「勘十郎、こちらに戻って来なさい」
「母上、兄上ですよ。久し振りではないのですか?局処でお茶など」
「いいから、戻ってらっしゃい」
「しかし、母上・・・」
「勘十郎!」
母には逆らえず、信勝は軽く一礼すると信長の許から去った
「勘十郎。あのようなうつけ者と付き合っていては、そなたまで愚かになる。相手を選びなさい」
「母上、お言葉が過ぎます」
「構うもんですか。折角斎藤と縁を組んだと言うのに、それすら生かせないのであれば、愚か者以外の何者でもありません。あのような恥知らず、末森の敷居を跨ぐのも憚れて然るべき存在です」
「母上
嫌う
と、言うよりも
嫌いになろう
と、言う想いが強い、悲しい言葉が続く
信長の顔が擡げた
そんな信長に、妻の声が掛けられた
「吉法師様!」
「
今の言葉を聞いていただろうに
母の言葉を聞いていただろうに
それでも妻は眩い笑顔で自分に言う
「早く帰りましょう?私、退屈で仕方ありません」
「き・・・・・」
今の自分の、もやもやした気持ちを、まるで吹き飛ばしてやろうかと言うような、無礼極まりない言葉
おかしくて、吹き出しそうになる信長の目に、妻の爪先が見える
「お前、裸足・・・」
「あ、いけない。草履、局処の玄関に置いたまま」
まるで悪戯盛りの子供のように微笑む
そんな妻を信長は軽く笑うと、いきなり両腕で抱き上げた
「しょうがない女房殿だな」
「すみません」
態と、そうしたのか
自分のために、そうしてくれたのか
ただ、嬉しかった
妻と一緒に居れば、自分も笑顔になれる
嫌なことも忘れられる
信長も、そんな笑顔になれた
その信長と、妻の姿に市弥が呟く
「足袋のまま庭に出るだなんて。美濃の姫君と言っても、所詮出自の低い親を持つと、娘も躾ができていないのね。ああ、見苦しい」
「母上・・・」
そうでしょうか
信勝は心の中で浮かべた
母にそれを口にして言っても、無駄だと想ったから
兄上の気持ちを紛らわすため、態と
ほら
兄上のお顔をご覧なさい
さっきまで物悲しそうだった兄上が、あんなにも弾けた笑顔を浮かべている
あなたには、あれができますか
兄上を笑わせることができますか
私の妻は、あれができますか
落ち込んだ夫を言葉ではなく励ますことが
あの奥方と同じことができますか
できないでしょう
あなたにも
我が婚約者にも
「奥方様、よろしいでしょうか」
襖の向こうから、なつの声がする
「ちょっと待って、今、お乳を飲ませたばかりだから」
帰蝶は帰命を肩に担ぐように抱き、背中を鼓を打つように軽くぽんぽんと叩いた
それからして、帰命の小さな口から『げっぷ』が出る
これが出るのを確認してから菊子に手渡し、自分も放り出した乳房を濡らした手拭で拭い、仕舞う
「良いわよ、どうぞ」
しばらくしてから、なつが襖を開けた
側には憔悴しきったままの市弥の姿がある
帰蝶は市弥に軽く頭を下げた
今の市弥には、その返礼すらできる余裕がない
「大方様」
促され、市弥は帰蝶の部屋に入った
「お互い、しこりはあるでしょうが、反目し合ったままでは一歩も先に進めません。口論でも結構です、何かお話なさってください」
「なつ・・・」
「ここに来るのに、大方様もどれだけの勇気が要ったか、奥方様、それをどうか汲んで下さいませ」
「
帰蝶は黙って、市弥に体を向け直した
市弥も、帰蝶に顔を向ける
その市弥の目が丸くなった
嫁は、息子の着ていた小袖を羽織っている
袴も、息子の物だった
「女が男の恰好をするのは、やはり『うつけ』でしょうか」
「
応えられず、市弥は俯いた
「これが、私の覚悟です」
「
「そうです」
「
一度顔を俯かせ、それからゆっくり顔を上げる
「吉法師は、この世に二人と居ない。あなたがどれだけ優れた才能の持ち主だろうと、吉法師にはなれない」
「わかってます。そして、あなたもわかってらっしゃるではありませんか。どうしてそれを、吉法師様が生きてらした頃に仰ってくださらなかったのですか」
「私は・・・・・・・・・。生きるために、吉法師を捨てた女です。今更、母親の顔などできません・・・・・・・!」
「大方様
市弥の言葉に、なつは目を見開く
「生きるために、吉法師様を捨てた?」
聞き返す帰蝶に、市弥は涙で濡れた目を真っ直ぐ向けた
「私は、望まれて嫁に入った。だけど、あなたのように、夫に愛された覚えはありません。ただ『織田の嫁』、それが私をこんにちまで生かしていた肩書きです。あなたに、私の惨めさがわかる・・・?」
「
望まれて入った
なのに、自分を待ち受けていた織田の使用人達の目は、冷たかった
前妻は余程評判が良かったのか、誰も彼もが市弥を、「奥方様を追い出して正妻に入った小娘」と言いたげな目をしていた
市弥は十一で信秀の妻になった
入った頃には既に何人か、信秀の子供が居た
前妻の産んだ子も含まれていた
市弥は祝言の席で言い切った
「私の産んだ子以外の男子を跡取りにするのなら、私はこの場で首を掻っ切ります」
それはまだ、『大人の女』にもなっていない少女の、精一杯の虚勢だった
今、木曽川の利権を握っている土田家と疎遠になれば、勝幡織田の将来は閉じられてしまう
信秀は市弥の豪胆さを誉めながら、その条件を飲んだ
市弥を妻にすれば、失う物よりも得る物の方が多いからだ
跡取りを産めば、女はその家で大きな顔ができる
この織田の家で生き残るためには、それしか方法がなかった
生意気だと陰口を叩かれようとも、元より嫌われている傾向が強いのだから、今更誰の機嫌を伺うか
少しでも後ろめたさを感じるような態度を取れば、使用人だろうが小間使いだろうが、自分を見下すだろう
市弥は織田で生きて行くために顎を引き、胸を張り、きっと眉を上げて堂々と歩くことを決めた
少女は少女なりに精一杯生き、やがて子を産んだ
産んだ子は幸いあれとの祈りと、賢い子に育つようにと願いを込め、吉法師と名付けられた
その吉法師と引き離されたのは、産んで三ヶ月も経っていない頃だった
織田の後継者として、母の愛は負担になる
まだ幼い市弥は男社会の理不尽さに、吉法師との別れを押し付けられた
愛する、そしてこれからもまだ愛していたかった最初の子と、無理矢理別れさせられた
同じ局処に居ながら、市弥は産んだ我が子に乳すら与えられない生活を強いられた
どの家でも多かれ少なかれ、そうした慣わしに従っている
自分だけじゃない
そう想いながらも、大きく膨れた乳房から、その先端から溢れる白い乳と一緒に、吉法師への想いも溢れた
この手で抱きたい、この手に触れたい
だけど
自分の産んだ子以外の男子を跡取りには認めるなと、そう申し出たのは自分だった
生きて行くため
生き残るため
市弥は吉法師を忘れようと努力した
「
ぽろぽろと、市弥の目から涙が零れた
「吉法師が優しい子に育ってくれたことを、私は誇りに想う。だから、自分が許せない。そんな吉法師を守ってやれなかった自分が憎い・・・ッ!」
「義母上様」
「愛していたのよ・・・・・・・・・・・」
耐え切れず、市弥は顔を伏せて泣き出した
憎んでいたわけではない
立派な子に育って欲しかった
冷徹でも良い
織田を引っ張って行くに相応しい、強くて賢い子に育って欲しかった
なのに信長は、自分の期待とは正反対の、優しい子に育ってしまった
挙句、二十一と言う若さでこの世を去った
愛していた息子に触れられた期間は、僅か三ヶ月
たった三ヶ月で死ぬほど子を愛せるものではない
血の繋がらない子でも、我が子同然に毎日顔を合わせ、触れ合っていればこそ、親は子を愛せる
愛せる機会を奪われた市弥に、離れた子を愛せよと言う方が無理な話だった
信長を産んだ二年後には信勝を産んだ
信勝を産んだ更に二年後には、三男に当る信包を産んだ
そしてその二年後にも
市弥は信秀が死ぬまでに、五人の男児と二人の女児を産んでいた
「
静かな声で、帰蝶は語り掛ける
「義父上様のお子を一番多く産んでらっしゃるのは、義母上様ではございませんか」
「
「愛されているから、あなたが一番多く、『抱かれた』のではないのですか?」
「
帰蝶の言葉に、市弥の目が見開かれる
「そうですよ、大方様。私は殿のお子を、一人しか産んでおりません。それに私、殿に言われたんですよ?」
「池田・・・・・・・・・」
「女の姿の、男のようなお前を抱く趣味は、ない、と、はっきり」
「え・・・?」
「殿もまた、不器用なお方だったんです。ご自分の想いを、伝えたい人に伝えられない、不器用なお方だったんです。若は、そんな方の倅ですよ?それでも、奥方様にご自分の想いをきちんと伝えられたのは、大方様が影なり日向なり、見守って来られたからじゃないんですか?」
「私は・・・・・・・」
「知ってましたよ。若は。那古野に居た時も、末森に越された時も、大方様はいつも、影から若を見守っておられました。若は多分、それに気付かれていたと想います。だから、反目し合っていても、冷たい言葉で突き放されても、あなた様を嫌いになることはなかったんだと想います。大方様、『母の愛』は、決して切れない絆です。それを教えたのは他でもない、大方様、あなたなんですよ」
「
信長が優しい子に育ったのは、影から見守る温かい眼差しがあったから
なつはそう、市弥に言った
この手に抱けなくとも、その眼差しが包み込んでいたから
だから、信長の些細な失敗も見逃すことなく、把握していたのだと
生きていたら、それを信長に話してやりたかったと、なつは言った
「私は、なんてことを・・・・・・・・・ッ」
再び、市弥は嗚咽を上げて泣いた
その声に驚いたのか、隣の部屋に引き篭もっていた帰命が俄に泣き出し、その声は三人の耳にも届く
「この声は・・・、吉法師の、・・・子?」
「はい」
真っ直ぐの目を向け、帰蝶は返事する
「本丸(ここ)で育てているの・・・?」
「はい」
どうして、と、訊ねるよりも、市弥はそう、と呟いた
親の自分でさえ理解できなかった息子を、誰よりも理解していた妻だ
自分如きに理解できるような、そんな簡単な思考の持ち主ではないことぐらい、知っている
「私は、いつしか勘十郎を守ることが、吉法師を守ることに繋がると、勘違いしていました」
ぽつり、ぽつりと、市弥は話した
「勘十郎さえしっかりしていれば、吉法師がどんな過ちを犯したとて、挽回できると。その一心で、二人を似た性格にさせないためにも、必死になって引き剥がして来た。だけど結局二人は、同じ女性(ひと)を好きになったのね・・・」
「大方様?」
「あなたを、将来美濃を手に入れるための道具として、勘十郎を唆し、吉法師から奪い、正妻にすることを吹き込みました。それは、私の罪です」
「
そっと、軽く頭を下げる市弥に、帰蝶は責める言葉を押し込んだ
「あなたと吉法師が、それほどまでに愛し合っていたなど、想像もしてませんでした。政略に愛情など芽生えるはずがない。私はずっと、そう想い込んで来た。だけど、現実は違ったのね」
また、泣きそうな、そんな顔で苦笑いし、それをなつに向ける
「私は、あとどれくらい罪を重ねれば、織田の役に立つのかしら・・・」
「大方様・・・ッ!」
なつは市弥を抱き締めた
「奥方様、お願いします!若様を、大方様に逢わせて下さいませ!」
「なつ」
「孫の顔を、大方様にお見せ下さいませ!これ以上、大方様に罪の意識を着させないで下さいませ!女はみんな、必死なんです。生きるために、必死なんです!」
「
生きるために、少しでも優秀な子を持とうと、それがこの時代の、武家の女の術だった
信長がその術にはなれなかったために、市弥は自分の期待の全てを信勝に寄せ、必死になって育てて来た
尾張を統一し、美濃を制すれば、自分が織田に入った意味も、少女時代から辛酸を舐めさせられ、それに耐えて来た日々も報われる
もう、「金で買われた女」と言われずに済む
ただそれだけの想いで、信勝を信長の上に押し上げようとしていた
結果、市弥はそのどちらも喪うことになった
縋るものの全てを、市弥は失った
そんな市弥に、今更恨み言を言う気にはなれなかった
「
しばらく考え、帰蝶は隣の部屋の菊子を呼んだ
「丸を、連れて来て」
「はい、ただいま」
慌てた声で菊子が応える
帰命はまだ、泣いたままだった
襖が開き、泣きじゃくる帰命を抱いた菊子が現れた
「申し訳ございません、いつもでしたら直ぐ泣き止まれるのですが・・・」
申し訳なさそうな顔をして、菊子は帰命を帰蝶に返す
帰命を腕に抱き、少し体を揺らせ、それから、市弥に差し出した
「あなたの、孫です。名は、帰命丸と申します」
「きみょう・・・」
「帰る命と書いて、帰命と呼びます」
「帰る命・・・・・・・・」
「私の、罪の証です」
「
市弥の目が見開かれる
帰蝶は信勝を殺した罪を、一生背負って生きて行くつもりだと、そう感じた
帰蝶から帰命を受け取った
今も泣きじゃくっている帰命を、優しく、優しくあやす
それは慈愛に溢れた女性の姿だった
愛せなかった『吉法師』の代わりに、今、『吉法師』の子が腕の中に居る
その温かい体温と、少しずっしりとする重みに、市弥の目がまた、涙で潤む
「吉法師、そっくり・・・」
小さな声で呟いた
ともすれば、睫に掛かった涙が零れて落ちそうだった
「そうですか、やはり。ご生母様が仰るんですから、間違いありませんよ、奥方様」
「そうね」
なつの嬉しそうな声に、帰蝶も少し微笑めた
「でも、目元はあなたに似ている」
「
市弥の目が、帰蝶に向けられる
それは『憎しみの抜けた』、清々しい眼差しだった
「侍女に産ませたというのは、方便ですね・・・?」
「
「どうして、嘘を」
「そうすることで、帰命を守ることができます」
「これが、この子を守ることになるのですか?」
「そうです。勘十郎様は、帰命が私の産んだ子なら、後顧の憂いとしての遺恨を取り除くための処置をすると仰いました。その勘十郎様を、私はこの手で殺めました。これで織田家の後継者争いは終結したでしょう。ですがまだ、遺恨は残ったままです」
「勘十郎が、この子を殺すと・・・?」
「はい」
「まだ残っている遺恨とは・・・?」
「真の、吉法師様の仇、斎藤家です」
「斎藤家・・・・・・・・。あなたは、ご自分のご実家を相手に、戦うつもりですか?」
「はい」
「美濃の方・・・・・・」
市弥の目が、信じられないものを見るかのように開かれる
「この子を守るためなら、相手が誰であろうと私は、一歩も引くつもりはありません。自分の実家であろうと、兄であろうと、友であろうと、私は戦います。自分の爪先に敵の屍の山を築こうとも、私は下がりません」
「
市弥は無言になった
信勝を殺し、織田の後継者争いに幕を引いたとて、後にはまだ斎藤が残っている
もしも斎藤が帰命の存在に気付いたら、恐らく全力で攻撃を仕掛けて来るだろう
信長が死んだとあれば、尚更である
織田を守るために帰蝶は、死んだ夫の身代わりになり、子を守るために母親の名乗りを捨てた
自分とは、『生きる覚悟』が根本から違うのだと想い知らされたような気がして、何も言えなくなったのだ
これが吉法師の嫁か、と言う想いで帰蝶を見詰める
いつの間にか腕の中の帰命が泣き止み、すやすやと眠っていた
その姿に、帰蝶は微笑んだ
優しい微笑みだった
自分の息子をたった今、殺したばかりの女だとは、とても想えなかった
蟠りは消えたわけではない
だけど、どうしてだろうか、憎しみがほんの少し、薄らいだ
市弥は不思議な想いで帰蝶と、自分の腕で眠る帰命を見比べた
縁側から見えた父に、頭を下げた
妻を誉められた
大事にしろと告げられた
嬉しくて、つい、母の顔を見た
母は相変わらず冷たい眼差しで自分を見ていた
その隣に居る弟の目に、信長は戦慄した
冷たい、とかではなく、憎悪の塊のような目をしていた
さっきまではたおやかだった信勝の目が、悪鬼の如く歪んでいた
その眼差しは、自分に向けられているものなのか、腕の中の妻に向けられているのか、信長にはわからなかった
「
「はい」
ぽつりと呟く信長に、帰蝶は元気な声で返事した
その二人の背中を、信勝は憎々しく、市弥は悲しげな目をして見詰めている
「もうお帰りですか?」
表で待っていた付き人が、信長と帰蝶に気付き立ち上がった
「用事は済んだ」
「そうですか」
「籠を出してくれ。帰蝶も疲れてるだろうからな、ゆっくり歩いてくれよ?」
「承知しました」
信長の明るい顔に、侍従も明るく応える
信長の周りはいつも、笑顔に溢れていた
それは、信長の努力でもあり、自然と身に着けた処世術でもあった
笑顔で居れば、どんなつらいことも乗り越えられると、子供の頃から培って来た経験に伴う行動だった
そんな信長を、市弥の心配げな瞳が城門の影から見守っている
少し振り返り、城を眺める信長の目に、母は映っていなかった
だけど、なんとなく伝わる温かい感触だけは感じ取った
それがなんなのかまではわからなくとも
信長は無意識の内にどこかで、母の愛を感じていたのかも知れない
だからこそ、恋焦がれ、渇望していた
母の手を
自分に添えられる手を
いつか触れ合いたいと、そう、願っていた
だが、帰蝶が嫁いだことで、信長の世界が明るく日が差し、その想いはいつしか消えていた
想いが通じ合うことが、なくなった
通じぬ想いは、いつしか憎しみに変わって行く
届かぬ想いに人は苛立ちから、心の中に温めた愛情を憎しみに変えてしまう
それは、仕方のないことだった
「
市弥の提案に、帰蝶は目を丸くした
「領地を争っていた明智が解散し、今、空白の場所は遠山が管理しているとか。その遠山を相手に争う姿勢だったのも、織田との縁組で白紙に戻ったようです。例え斎藤と手を組んだとしても、それは同盟にも程遠い状態。織田と遠山のように、婚姻関係にはないのですから、相互関係も希薄。ならば、土田をこちらに吸収するというのは、どうでしょう」
「それは願ってもない提案です。ですが、どうやって土田に取り入れば良いのでしょうか」
帰蝶は自分に奇策がないことも恥じず、素直に訊ねた
その姿勢は、常に前進しようと言う表れであり、市弥も以前のような、人を見下すような目はしなくなった
「土田は私の実家です。私がその交渉役を買います」
「大方様が、自ら?」
「役不足でしょうか」
「いいえ、その逆に、恐れ多いような気がしまして」
「立ってる者は、親でも使えと言うでしょう?帰命を生んだのがあなたなら、あなたは私の娘も同然です。その娘の役に立たない親など、存在する意味があるのでしょうか」
「大方様・・・・・・・・・・」
「手間取るかも知れません。ですが、私に一任していただけませんでしょうか。できれば、誰かを手助けに借り受けたいのですが」
「でしたら、三左をお貸しします。三左は美濃にも詳しいですので、お役に立つかと存じます」
「ありがとうございます」
市弥は深く帰蝶に頭を下げた
愛せなかった吉法師の代わりに、その息子である帰命を愛してみようと想った
息子に生き写しの帰命なら、愛せると想えた
信勝の葬儀は、死んだ二日後、盛大に行なわれた
十人の僧侶を集め、織田一の賢者として手厚く葬られ、墓は信勝が父のために建てた桃源寺に安置された
末森の城は破棄され、なつも長く人質となっていた娘の稲と、漸く共に暮らせるようになり、末森の管轄は守山と統合することになった
信勝の妻の処遇には困ったが、自分を庇ってくれた秀隆に側室としてくれてやろうかともしたものの、
「折角ですが、遠慮しときます。うちのかみさん、結構ヤキモチ焼きなんですよ。取り殺されたくないんで」
と、にべもなく断られた
恒興の妻、千郷の荒尾とは別系統だが、東尾張の豪族の娘でもあるため、できることなら手元に残しておきたい
そう想い、秀隆と相談の上、秀隆の部下の中でも一番の人格者の許へ嫁ぎ直させた
出世とは程遠い人材だが、人柄については評判が良い
今直ぐは無理としても、いつかは心の傷も癒せるだろうと願いながら、織田から嫁入り支度をさせた
信勝の子らは、市弥が責任を持って養育することとなり、将来的にも織田のため働けるような武将として教育されることが決まった
末森と統合した守山の城主の信次も今では、帰蝶の傀儡と化している
増してや信秀亡き後、実質的織田の長老らの頂点に立つ信光が帰蝶の後ろ盾となっているのだから、逆らえば城から追い出されるだけである
信勝を殺すことにより、計らずとも帰蝶は勝幡織田の全てを掌握した
その帰蝶が最初にやろうとしたことは、斎藤への復讐ではなく、尾張織田の完全制覇である
「濃尾平野を?」
突然言い出す帰蝶に、表座敷に集まった秀隆らは目を丸くした
ただ一人、家臣の中では帰蝶の気質を一番理解している可成だけは、その驚きも小さい
なるほど、と言いたげな顔をして帰蝶の話を聞いていた
「濃尾平野は水害と旱魃に悩まされる土地でもあるけど、その分土壌も豊かでしょ?水害対策に関しては、道空に一任したいと想ってるの」
「わたくしがですか?」
今までずっと、利治の傅役としてでしか働いていなかった道空が、キョトンとした目で帰蝶を見た
「長良川の氾濫を何度も経験している道空なら、どうすれば水害に悩まされずに済むか講じれるんじゃないかと想って。ここは木曽川があるけれど、川幅があるから滅多なことじゃ氾濫しない。でも長良川は普段から水位も高いのに、それに反比例して川幅もそれほどじゃない。そんな長良川を良く知っている道空が最適だと想ったの。四の五の言わないで、その自慢の頭を使って」
「はぁ・・・」
「濃尾平野の半分は、この織田が握ってる。一宮は清洲との交流も深く、こちらが有利に事が運べるよう、上手に交渉もできる相手よ。それほど手間取るとは想えない。春日井は又助の生まれ故郷だから、何か伝はないかしら」
「死んだ母の親戚が何人か残ってますので、叔父や叔母に相談すればなんとかなるのではと」
「それじゃぁ、頼める?」
「お安い御用です」
「お願い」
「はい、承知しました。ああ、それと、丹羽殿や塙殿も春日井出身です」
「春日井出身って、ここ、結構居るのよね。五郎左衛門は小牧担当をしてもらう予定なの。話が出たついでだわ。五郎左衛門」
「はい」
資房から離れた場所に座っている長秀が返事する
「小牧を対斎藤の要所として押えたいの。小牧は平三郎、弥三郎の実家のある土地だけど、平三郎は生駒屋の内偵で入ってるから、弥三郎と組んで押えてくれない?あの辺りの豪族を纏め上げたいの」
「了解しました」
この軍議に参加させられた市弥は、さっきから目を丸くしている
「不思議ですか?」
隣に並んだなつが、声を掛けた
「女が軍議に顔を出すなど、前代未聞でしょう?」
「
「でもね、これがうちでは当たり前なんです」
「そうなの・・・」
「女でも充分役に立つと、若が始められたんですよ」
「吉法師が・・・?」
「若は奥方様の、軍師としての才を愛しておられました。それを認め、若は軍議には必ず、奥方様を出席させました。織田が強くなったのは、若と奥方様が協力し合った結果です。若はそれが当たり前の時代になさろうとしていたのです」
「
そうだったのか、と、実際に信長がやろうとしていたことに触れ、漸く理解する
今更、と、後悔しながら
「濃尾平野を押えるに邪魔な存在は?」
と、いつものように全員に問い掛ける
「岩倉織田」
いつものように、最初に応えるのは秀隆だった
「それから?」
「犬山織田」
次にこの頃しっかりして来た恒興が続ける
「そう。清洲織田にも歯向かうこの二つが、邪魔。どうすれば排除できるかしら」
「戦しかございませんでしょう」
「それ以外に方法はある?」
「飼い馴らせるものなら、先代様がとっくの昔になさっておいでです。勝幡織田は織田一族の中でも最下層に位置していました。大和守家の、その家臣であった勝幡織田があれよあれよと言う間にのし上がって行ったのを、また、尾張国主の座が間近に迫るのを、快く想う者はございません」
「なら、叩きのめすしかないわね?」
怖いことをさらっと言ってのける帰蝶に、市弥の目がまた丸くなった
「当面の目標を、犬山織田、岩倉織田に定める。犬山に向けては小牧を本陣とし、その防衛に努めよ。憎き岩倉は、総力を以って制する。以上!」
「ははッ!」
男以上に、男の仕事を淡々とこなす帰蝶を、やはり市弥はどこか遠い景色を見るかのような目で見守っていた
これが、信長の妻
憎んだ倅の嫁
信長を変えた女
自分とは、違う世界を生きる女性(ひと)
敵うはずがないと、何故だかそう想えた
昼間は鬼のような顔をすることもある帰蝶が、帰命の前になると優しい母の顔に戻るのに、市弥はしばらくは戸惑った
どちらが本当の顔で、どちらが作った顔なのかわからない
それでも、帰命に対する愛情は本物だと想えた
「そろそろ乳離れさせなきゃならないわね」
そう、淋しそうに呟く帰蝶に、側に居るなつが苦笑いして応える
「そうしていただかないと、こちらも教育の施しようがございません。おつらいでしょうが、決断なさってくださいましな」
「なつは良いわよね?稲姫様とも暮らせるようになったんだから」
と、嫌味を言ってやる
「何仰ってるんですか。稲とてもう、嫁入りできる年齢に達してます。いつ政略の道具になるかと、気が気でないんですから」
「失礼ね、そんな非道なことしないわよ。稲姫様には、好いた人に嫁いでもらいます。それらしい相手は居ないの?」
「居ませんよ」
帰蝶となつの、まるで庶民の親子のような会話にも、初めは目を丸くした
それもいつしか馴れるだろう
この清洲が、新しい住処になる
温かい日溜りのような場所が、自分の住む場所になる
市弥は、その清洲の中心が帰蝶であることを、いつしか嬉しく感じる日が来るだろうと予感した
息子の嫁だから
愛せなかった、愛する息子の嫁だから
息子を愛してくれた人だから
だから、自分も愛し、愛される関係になれるような、そんな気がした
息子の愛し方を間違えた自分を側に置いてくれるのだから、だから、いつかわかり合える日が来る、そう想えた
この嫁を理解できた時、自分は、理解できなかった息子を理解できるのではないか
そう、想わせてくれるから
母の愛は、其々違う
愛の形も違う
愛し方も違う
だけど、根本にある『愛』はどれも、優しい色をしていた
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1/22 『信長ノをんな』壱~参 / 公開
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信長 ~群青色の約束~
こんな感じのこと書いてます
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管理人の独り言も混じっております
[11/04 Haruhi]
[08/13 kitilyou]
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ゲームブログ
千極一夜
家庭用ゲーム専用ブログです
『戦国無双3』が絶望的存在であるため、更新予定はありません
◇◇11/19 Nintendo DSソフト◇◇
『トモダチコレクション』
おのうさま(帰蝶)とノブ(信長)が 結婚しました(笑
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祝:お濃さま出演 But模擬専… (戦国無双3)
おのれコーエーめ
よくもお濃様を邪険にしおってからに・・・(涙
(画像元:コーエー公式サイト)
オンラインゲームにてお濃様発見
転生絵巻伝 三国ヒーローズ公式サイト:GAMESPACE24
『武将紹介』→『ゲーム紹介』→『Exキャラクター紹介』→『赤壁VS桶狭間』にてお濃様閲覧可
キャラクター紹介文
「 絶世の美貌を持つ信長の妻。頭が良く機転が利き、信長の覇業を深く支えた。
また、信長を愛し通した一途な妻でもあった。」
(画像元:GAMESPACE24公式サイト)
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