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「刀の刃先の次は、敵兵の首が飛んで来るんですよ?私もう、慶次郎と一緒に居たくありませんっ」
帰り道、弟の愚痴を聞きながら、帰蝶は凱旋した
清洲の町は町民らが守ってくれたとあって、その礼は後日改めてと話す
それ以外にも後日談は数あるが、今は戦勝報告を信長に伝えたい
帰蝶は無事に済んだ清洲の町を、小姓の龍之介が槍に掲げた通具の首を連れ歩き、城に戻った
「おなつ様ぁー!おなつ様ぁー!」
菊子が信長の仏壇のある帰蝶の部屋に駆け込んで来た
「おなつ様!奥方様がお戻りになられました!勝ちましたよ!清洲の勝ちですッ!」
そう張り上げた菊子の声にも気付かず、なつは仏壇に手を合わせ続けた
帰蝶が清洲を出てからなので、半日以上は過ぎている
夕刻が来れば、丸一日だ
「おなつ様・・・」
気付いてくれぬなつに、菊子の顔が悲しげに曇った
その菊子の肩に手を置き、鎧姿のままの帰蝶が部屋に入る
「ただいま、なつ」
「 」
合わせた両手に額を擦り付けるように祈っていたなつの顔が上がり、震えながら襖の方を見る
「 奥方・・・様・・・」
目をいっぱいに広げるなつの隣に、帰蝶は膝を落とし信長に手を合わせた
「ただいま戻りました、吉法師様。戦は、我らの勝ちです」
「勝ち・・・・・・・・・」
「お守りくださって、ありがとうございます」
「奥方様・・・、勝っ・・・、勝った・・・・・」
「勝ったわよ、なつ」
信長に手を合わせながら、なつに微笑む
「勝っ・・・た・・・・・」
自分が大きな声を出しても反応しなかったなつが、帰蝶の声にだけは反応した
まるで娘を心配する母親みたい、と、菊子は苦笑いした
なつは立ち上がろうと膝を上げたが、余りにも長い間正座を続けていたため爪先の感覚がなくなってしまい、崩れるように倒れた
「なつ!」
帰蝶が慌てて抱き上げる
「大丈夫?!どうしたの!」
「あ・・・、足が痺れて・・・」
「え?」
「おなつ様、奥方様が出陣されてからずっと、ここで殿に手を合わせてらしたんです」
菊子が説明してくれる
「なつ・・・」
「勝ったんですね・・・」
自身のことよりも自分を気に掛けてくれる
そんななつの優しさに、帰蝶は微笑んで応えた
「 そうよ、勝ったのよ。勘十郎様に、勝ったのよ」
「あ・・・・・、ああ・・・、あぁぁーッ!」
歓喜の声を上げ、なつは帰蝶の両手を握った
「勝った、勝った・・・!奥方様が、勝った、・・・勝った!」
ぶんぶんぶんと振り上げ、その喜びを表現する
自分のことのように喜んでくれるなつに、帰蝶も笑顔になれた
「あぁぁ・・・、若、ありがとうございます」
帰蝶の手を離し、再び信長に手を合わせる
「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます」
こんなにも深い愛を持っているからこそ、夫は真っ直ぐ育ったのだろう、と、感じた
育ててくれたのがなつだからこそ、夫は曲がらず腐らず育ったのだろう、と
信長の位牌に手を合わせ続けるなつに、帰蝶は心から感謝した
ありがとう、なつ
ここでずっと、応援してくれてたのね
吉法師様と一緒に・・・・・・・・
「湯加減、如何ですか?」
湯殿の向うから菊子が声を開ける
「丁度良いわ。血油浴びたから、すっきりしたかったのよね。お能にお礼、言っておいて」
「はぁい」
いつでも湯に入れるようにと、お能は朝から風呂の準備をしていた
お陰で待たずに湯に入れる
本丸暮らしになったとて、だからと男の小姓に女の帰蝶の風呂の世話まではさせられない
本丸に移ると、帰蝶は身の周りの世話を菊子に任せた
菊子も今では自分の部下を何人か抱えるまでになっており、菊子の班がそっくりそのまま本丸に移動していた
菊子が欠けた分はあやが充分働いてくれている
元々局処で生まれ、局処で暮らしていた女性だ
誰よりも仕来りには詳しかった
信長の使っていた本丸の湯船は広く、伸び伸びと手足が伸ばせる
その湯の中で躰を伸ばし、背筋をぴんと張り詰めた時、下腹部に張ったような感覚が生まれた
「 ?」
何だろうと、撫でる
特に痛みはない
そう言えば、今月は月の物が来ただろうか
先月は、どうだっただろう
信長が死んでから今日まで毎日が慌しく、バタバタと過ごしていた
月の物が来ていたかどうかなど、全く覚えていない
その内来るだろうと深刻にも考えず、帰蝶は湯船を出る
しばらく波紋が湯の中で揺れていた
ばっさり切った髪は、自分でやったため揃っていなかった
長い部分も残っていたり、逆に短過ぎな部分もあったりと、中々不恰好だ
その髪を誤魔化すように、菊子は上手に丸く結わえてくれた
いつものように小袖に腕を通す
が、想い直して帰蝶はそれを菊子に告げた
「え?」
一瞬キョトンとする菊子に、帰蝶は手を合わせ頼む
「どうしても着たいの。お願い、持って来てくれない?」
「良いですけど、おなつ様反対しますよ?」
「だから、ばれないようにこっそりお願い」
「その自信、ありません・・・」
困惑しながら菊子は湯殿から帰蝶の部屋に戻り、龍之介に言ってそれを取ってもらう
なつは今、お能の手伝いで表座敷の祝勝会の準備をしていた
活躍した慶次郎への約束にと、鯛も大量に買い占めるため貞勝が奔走している
今の内、と、湯殿に走る菊子の後ろ姿を、丁度台所から表座敷へと続く廊下を渡っていたなつが見掛けた
「何を慌ててるのかしら、お菊は」
局処の千郷に凱旋の報告に上がる
不躾な鎧兜は脱ぎ捨て、着替えてから千郷に謁見した
「ただいま戻りました」
「ご無事で何よりです」
自分の帰りを心待ちにしていたわけではないだろう、それでも、千郷の笑顔に心が解された
「肩揉み、腰揉み、足揉み、どれになさるか決まりましたか?」
「あー・・・、いえ、全然考えておりませんでした・・・」
照れ臭さに、恒興は月代の頭を掻き毟る
「何でも差し上げますよ。遠慮なさらず、仰ってください」
千郷の側にはお絹が座っていた
そのお絹も、自分の無事の帰りを喜んでくれている
「お茶でも召し上がりますか?」
「ああ、ありがたい、お絹殿。実は喉が渇いて渇いて」
「そう仰るだろうと想って、先に淹れておきました。熱いお茶より、少し温(ぬる)めの方が喉越しも良いでしょう」
「至れり尽くせり、感謝いたします」
お絹に平伏して、その茶を啜る
「 うん、ほんのり甘い。近江の茶ですか?」
「ご名答。奥方様は美濃茶がお好きですけど、私にはなんだか薬草でも飲んでるかのような気になりますので、近江から仕入れてるんです。おなつ様は宇治の茶がお好きですし、お能様は遠江の茶が定番、お菊殿は大和茶。局処は各地の茶が揃ってますよ」
「美濃茶は甘みと香りが独特ですからなぁ。殿は好んで飲んでおられましたが」
「殿は奥方様がお好きな物は、何でも好きなんですよ」
「そうでしたな」
信長がここに居たらきっと、顔を赤くして怒るだろうと想うと、恒興もお絹もおかしくて笑ってしまう
そんな中で信長を知らない千郷だけは、きょとんとした顔をしていた
「ああ、そうでした、千郷姫様を放ってしまいました」
「いいえ、お気になさらず。想い出話は、その方の供養にもなります。どうぞ、ご存分にお話ください」
「千郷姫・・・」
そうか、と、今の言葉で恒興は漸く自覚した
どこか帰蝶に似ているのだ
顔立ちこそ全く違うし、性格も違うと言えば違う
だが、その根本の性根はよく似ていた
相手を思い遣れる優しさ、自分が困窮していても真心を忘れない
最も、最近の帰蝶は性格が信長に傾倒しているため、優しいところは変わっていないが多少乱暴になっている
千郷にはそれがない
帰蝶から『荒々しさ』を引けば千郷になる
慣れ親しんだ女性だからか、恒興にとって帰蝶は特別な存在だった
帰蝶は恒興の恋愛対象にはなり得ないが、千郷は
「決まりましたか?」
「あの・・・、えっと・・・」
落ち着きを取り戻すため、恒興は湯飲みを掴み直し、一気に茶を飲み干した
近江の茶でも、独特の苦味が喉を刺激する
頭がしゃきっとした
「ちっ、千郷姫・・・!」
「はい、何でしょう」
「あの・・・、何でもしてくださるとのことですが、真でございましょうか」
「はい、なんなりとお申し付けくださいませ」
「では・・・、あの・・・」
「はい」
側にはお絹が居る
だが、これを逃せば好機は二度と訪れないような気がした
「そっ、某の妻になってくだされ・・・!」
「 はい・・・?」
茹蛸のように顔を真っ赤にして叫ぶ恒興
キョトンとする千郷
目を丸くするお絹
三者三様
「や・・・、やはり駄目・・・ですよね・・・」
返事をくれない千郷に居た堪れなくなったか、恒興は笑って誤魔化そうとした
だが、千郷は
「千郷は、まだ子供です」
「 はい」
「池田殿のお世話は、どこまでできるかわかりません」
「 はい」
遠回しに断られているな、と想った
それも、千郷らしい優しさかと感じた
「お絹も、連れて行って、良いですか?」
「 はい。・・・え?」
「不束者ですが、よろしくお願いします」
「あ・・・、あの・・・、千郷姫・・・?」
千郷の返事が理解できない
「池田殿の妻になること、千郷様はご承諾なさったのですよ。せめてお手だけでもお取りください。千郷様に恥を掻かせるおつもりですか」
お絹がそっと助言する
「そそそそそそそ、そんな滅相もない!」
恒興は慌てて湯飲みを放り投げ、言われるまま千郷の手を取った
「あっ、あのっ!不肖池田勝三郎恒興、千郷様を一生お守りいたします!浮気なんか絶対しません!遊びもしません!付き合い酒も致しません!一生を千郷様にお捧げ申す!」
「大袈裟です。浮気は・・・泣くかも知れませんから、どうか私のわからないところで。遊びは程ほどに。付き合い酒も潰れない程度に。池田殿は下戸なのでしょう?」
「え・・・、あ・・・、はい・・・」
「千郷を、守ってくださいね」
「 はい。一生。この身が滅ぶまで、ずっと」
「お願いします」
見詰め合う内感極まったか、恒興はそっと千郷を抱き寄せた
冷静に考えれば、自分は今二十一で千郷は九つだ
前夫の信時とは一つしか変わらないのだから、これも乱暴な話だろうか
いいや
自分達は違う
互いの気持ちを確かめ合った上での結果だ
自分達は違う
政略などではない
腕の中の小さな温もりを確かめながら、恒興は心の中で葛藤した
その恒興に
「そこまではなさらなくても良いのでは?せめて私の居ない場所でやってくださいましな」
呆れ果てたお絹の言葉に、はっと我に返り、恒興は千郷を手放す
「あっ、あのっ、ご無礼仕りました・・・!」
「いいえ」
真面目な恒興に、千郷はいつまでも苦笑いした
「持って来ましたよ、奥方様」
「ありがとう」
菊子の部下相手に談笑していた帰蝶は、座っていた竹椅子から立ち上がりそれを受け取る
包んでいる『たとう紙』の紙縒り紐を外すと、そこから一枚の男物の小袖が出て来た
その小袖をぎゅっと抱き締める
「 吉法師様の匂い・・・」
「奥方様・・・」
湯殿で支度を済ませ、みんなの待つ表座敷に向う
その背中を、なつが追い着いた
「お菊、さっき何を抱えて走ってたの?」
「あ、おなつ様・・・」
菊子の前に居る、袴姿の背中になつの目が開いた
「 若・・・・・・・・・」
「未だ信じられん。たった七百で末森を追い返したなんて」
表座敷では其々鎧を脱ぎ捨てた秀隆らが勝ち戦の余韻に浸っていた
城の後詰に回っていた資房は、秀隆らの話に興奮した様子である
「まさか奥方様が一番槍をお挙げになるなんて」
「凄かったぜ?奥方様。まるで、殿が乗り移ったみたいな剣捌きでな、右へ左へバッタバッタと敵を薙ぎ倒し」
「河尻様、それは大袈裟でしょ?」
側に居なかった利家が突っ込む
「いや、そう感じても不思議じゃないほどのお働きぶりでな」
「やっぱり法螺だ」
「法螺じゃないぞ。だったら龍之介にも聞いてみろ」
「龍之介は奥方様の味方なんだから、奥方様に有利なことしか口にしないぞ?」
「だから、お前らは側で見てないから想像できないだけなんだって」
表座敷で秀隆相手に数人掛かりでギャーギャーと喚いている最中、慶次郎だけは側に居た利治に呟いた
「お前の姉上なら、やりかねん」
「え?」
「お前の姉上は、只者じゃないってこった。大事にしねーと、罰当るぞ」
「慶次郎・・・」
姉をさり気なく誉めてくれた慶次郎に、利治は頬を綻ばせながら言った
「離れてくれ。刀が飛んで来たら迷惑だ」
「あのな」
慶次郎の頭に汗が浮かぶ
そんな騒ぎの中、すっかり帰蝶の一番小姓に昇進した龍之介が襖を開ける
「奥方様、御なりです」
「 ッ」
バタバタと座敷に座り直し、帰蝶の登場を待つ
そして、現れた帰蝶の姿に誰もが目を丸くした
「奥方様・・・」
「奥方様・・・、そのお姿は・・・」
「また、笑うか?」
「笑うでしょ」
後ろから着いて来るなつが、不機嫌この上ない顔をして続ける
「男物の小袖を纏う奥方が、何処の世界に居ますか」
「ここに居るじゃない」
帰蝶はいつもの女物の小袖姿ではなく
「それ・・・、殿の・・・」
信長が着ていた小袖袴を纏っていた
最も、信長が十代の頃の物だが
「こっちの方が涼しいのよ。それに、動きやすいし。駄目かしら」
そう言いながら上座に座る
まるで、信長が生きてそこに座ったかのような錯覚が起きた
そして、その決意も感じ取る
信長として生きる決意を
「みんな、今日は本当に大儀でした」
「ははっ」
帰蝶の言葉に、全員が平伏する
「みんなのお陰で、大切な一勝を得ることができた。これで末森は当面動けなくなるでしょう。その間に我らのするべきことは?」
問われ、秀隆が応える
「軍事拡大」
「それだけ?」
「外交強化」
次に一益が応える
「他には?」
「流通充実」
「商業発展」
「やることは、山ほどあるわね。でもみんな、肝心なことを忘れてる」
「何でしょうか」
長秀が聞いた
「初心を忘れぬこと」
「 」
さすがにこれには全員がポカンとする
「今日の戦、みんな何を想って戦った?私は、吉法師様を想って戦ったわ。でもね、それは尾張を守ること、清洲の民を守ることに繋がった。きっかけなんて、些細なことで良いのよ。吉法師様も仰ったわ」
「何と?」
秀隆が聞く
「人は、些細なことで向上心を持つ、って。だから、楽市展開に力を注いでいたの。お陰でどうかしら、今の清洲は」
「 以前に比べて、発展しておりますな」
資房が応えた
「貧しい町だったら、今日みたいに民は町を守ることに協力してくれたかしら。自分や家族を守るのに精一杯だったと想う。豊かな国は、豊かな民を作る。豊かな民は、豊かな国を作る。軍事力だけ強大でも、民の心がばらばらだったら、烏合の衆と同じよ。吉法師様が目指していた物は、色んな結果を生み出したの。だから、これからも、吉法師様の夢を守り続けたい。それにはやっぱり、避けては通れない戦もあると想うの」
「でしょうな。家が大きくなれば、それだけ敵も増える。戦は必ず起きる」
一益が言う
「さっき、河尻が言った軍事拡大と、又助が言った商業発展。これを同時に行ないたいと想う。どうかしら」
「反対する理由はありませんよ」
「はい」
「それじゃ、久助には鉄砲隊編成をお願いしたいの」
「鉄砲隊編成ですか」
「諜報活動と同時だから、大変かも知れないけどお願い」
「畏まりました」
「しかし、何故今頃になって鉄砲隊編成を?」
「孫三郎様は鉄砲隊を派遣してくださったそうね」
秀隆を見ながら帰蝶は聞いた
「はい。お陰で柴田軍が尻込みをしてくれました」
その場に居た時親が応えた
と言うのも、ここに恒興が居ないからである
「槍や刀で斬り合うだけの戦は時代遅れになる。これからは鉄砲で戦う戦が増えるわ。だから、今の内充実させておきたいの」
「鉄砲で戦う時代・・・」
「予算は吉兵衛と相談した上で通知します。それを元手にお願いできる?」
「承知」
「商業に関しては、引き続き奉行である吉兵衛に任せるけど、みんなも何か奇策や妙案があったらどんどん出して。使えそうなものは採用させてもらうから」
「はっ」
全員が一斉に返事する
「それと、今日の論功行賞だけど・・・」
何も得ていない帰蝶には、みなに与えられるだけの物は何もなかった
申し訳なさそうな顔をして、言う
「何もないの。ごめんなさい・・・」
「別に今日は、褒美が欲しくて戦ったわけじゃありませんから」
「そうですよ。こうして清洲が無事だっただけでもめっけもんです」
「河尻・・・、犬千代・・・。みんな、ありがとう」
頭を下げる帰蝶に、全員も返礼の土下座をする
和やかな雰囲気の中、お能が表座敷にやって来た
「みなさん、お待たせしました。ご馳走、お運びしますよ」
「やったー!」
利家、慶次郎が大はしゃぎする
「おおー!鯛だ、鯛だ!」
「約束だったからね、どんどん食べて」
次々と運ばれる膳に、誰もが歓声を上げる
「今日は無礼講だから、お酒も遠慮しないで注文して」
「ありがとうございまーす!」
何もしてやれなかったけれど、こうしてみんなの喜ぶ顔を見れて、帰蝶も嬉しかった
「奥方様、お疲れ様でした。初戦勝利、おめでとうございます」
お能が帰蝶の前にも膳を置く
「ありがとう、お能」
その時
「 ッ」
何かが贓物の奥の方で蠢く感触がした
お能は帰蝶の表情に気付かず、次の膳を運ぶ
「慶次郎さん、慌てないで。鯛はまだまだたっくさんあるから」
共に膳を運んでいる菊子の声がした
帰蝶はそっと席を立ち、表座敷を出ようとする
その帰蝶に、なつが気付いた
「奥方様?如何なされました?」
「 ちょっと忘れ物を取りに行って来るわ。みんな先にやってて」
笑顔でそう言うも、なつには何か引っ掛かる『無理』を感じた
首を傾げながら、そっと帰蝶の後を追う
「かんぱーい!」
表座敷から勝利を祝う宴が始まる
その声が帰蝶の耳に、届いたかどうか
帰蝶は表座敷の裏庭の、人気のない場所を探した
今は表座敷に注目が行き、幸い誰もここを通る気配がない
帰蝶は更にその隅に行って、屈み込んだ
同時に
「 ッ!」
勢い良く、嘔吐物が口から噴き出す
声にならぬ声が上がり、嘔吐の苦しさに涙がボロボロ零れる
「うぇ・・・ッ!」
後から後から、口を伝ってそれが溢れる
息ができない苦しさに、更に涙が流れた
「奥方様?如何なさいました?」
後を追って来たなつが、その現場を目の当たりにする
「奥方様!」
慌てて駆け寄り、帰蝶を覗き込んだ
その膝下に広がる嘔吐物
「うぇ・・・ッ!」
苦しそうに胸を押える帰蝶
顔色は、真っ青だった
「奥方様・・・ッ。 だ、誰か・・・!」
「 待って・・・」
帰蝶は、人を呼ぼうとするなつの袖を掴んだ
「みんな、心配するか・・・うぇ・・・ッ!」
「奥方様!」
なつは自分も青い顔をして帰蝶の背中を擦った
体調など滅多に悪くならない帰蝶だから、嘔吐した際の体力の消耗は著しい
「大丈夫ですか?」
「もう大丈夫よ。ある程度吐いたら、少しすっきりしたわ」
まだ青い顔で、帰蝶は無理をして微笑む
「刀を持った戦なんて初めてだから、緊張したのかしら」
だが、なつは別の可能性を考える
「奥方様、不躾なことを伺いますが」
「何?」
「最後に月の物が来たのは、いつでしょう」
「 」
さっき、自分も気になっていたが、それがいつだったか想い出せない
応えられず首を振る帰蝶に、なつはそっと手を差し入れた
「失礼します」
「な、なつ?!」
信長の袴の帯紐から帰蝶の腹を撫でた
「少し張ってますね」
「やっぱり・・・?少し太ったのかしら」
「違いますよ、奥方様」
「え?」
「ご懐妊、なさってますね」
「 え・・・?」
なつの言葉に、帰蝶は呆然とした
「妊・・・娠・・・?」
「明日、医者に診てもらいましょう。ですが、間違いなく」
「なつ・・・・・・・・・」
突然のことに、帰蝶は何がなんだかさっぱりわからない顔をする
そんな帰蝶の両肩を掴み、なつは笑顔で言った
「若のお子ですよ!あなたのお腹に、若のお子がいらっしゃるんです!」
「吉法師様の・・・子・・・」
これだけ言っても、まだ信じられぬ顔をする帰蝶に、なつは苦笑いして言った
「こんな躰で、無理をして戦なんかに出て」
「なつ・・・・・。私・・・」
「良かったですね、奥方様」
「え・・・?うん・・・」
「若の血は、絶えてなかったんですよっ!」
「 」
漸く事態を把握できたのか、帰蝶は目を見開いてなつを見た
「吉法師様・・・の・・・血・・・・・・」
少しも考えられなかった
この躰に信長の命を宿すことを
もうずっと、子供はできなかった
最初に帰蝶が諦め、やがて信長も諦めていた
二人の子を
その子が、信長の死んだ今になって芽吹いているのがわかった
「でも・・・、前の子の時はこんなこと、なかった」
「それは、悪阻が起きる前に流れてしまったからです。悪阻が起きる時期に無理をするから、お腹のお子が怒ったんですよ」
「 」
予期せぬことに、帰蝶の手が震えた
その手をなつはしっかり握り締め、励ます
「今度こそ、産みましょう。いいえ、産まなくてはならないのです。若の血が流れる、唯一のお子なのですから」
「なつ・・・、私・・・」
「安定期に入るまで、無理も無茶もしてはいけません。良いですね?」
「 」
わけがわからず帰蝶はただ、震えながら頷いた
自分のこの躰に、夫の子が宿っている
最後の子だ
絶対に守り抜かなくてはならないと、新たな決意が生まれる
帰蝶の躰に芽生えた命
芽生えは、信長と帰蝶、二人が確かに夫婦であった事を知らせてくれた
「わはははははは!」
「それ、いいぞー!」
表座敷での宴会に、慶次郎が踊りを披露していた
頭からすっぽり手拭を被り、おどけた顔をして腰を丸め、面白おかしく踊る
その光景に笑い声が湧き上がっていた
そんな賑やかな表座敷に、帰蝶はなつと共に戻った
手には信長の位牌を抱いて
「お帰りなさいませ、奥方様」
「忘れ物、ありましたか?」
菊子と他の侍女が声を掛ける
「ええ」
帰蝶に気付き、慶次郎が手拭を外してその場に腰を下ろした
「もっと続けて、慶次郎」
「ああ」
「奥方様、それ・・・」
可成が帰蝶の手の中の位牌に気付く
「吉法師様も、一緒に。良いでしょ?」
「勿論です!この祝い、殿もご一緒に」
秀隆が応える
「生きておられたら、きっと、誰よりもはしゃいでたでしょう」
そう言う長秀の言葉に、帰蝶は困惑した苦笑いを浮かべ、少しだけ俯く
「バカ!」
「あ・・・・・。申し訳ございません、奥方様・・・!」
「良いのよ。ごめんね、白けさせちゃって」
「いいえ」
この頃になって、漸く恒興が表座敷に入っていた
隣には千郷が居る
それを不思議に想いながら、なつの方から声を掛けた
「みんなに、聞いて欲しいことがあるの」
「な、なつ・・・!それはやっぱり、はっきりしてからの方が・・・」
「いいえ、こう言うことは早い方が良いんです」
「でも、もし間違いだったら・・・」
「間違いであって堪るもんですか」
「何なんですか?おなつさん」
一番近い場所に居る秀隆が聞く
「大事な話よ。みんな」
「 」
なつの雰囲気に呑まれて、全員が背筋を正す
慶次郎も利治の隣に戻った
「この度、信長正妻斎藤帰蝶様がご懐妊なさいました」
なつの言葉に、帰蝶は顔を真っ赤にして俯いた
「 え・・・?」
「ご懐妊・・・?」
「て、ことは 」
「奥方様のお腹には、若の子が居ます」
「 」
息を呑む音が、はっきりと聞こえる
「 そんな状態で、よく戦なんかに出ようって想ったもんだねぇ」
気が抜けたように、慶次郎が言った
「仕方ないでしょ?私だってまさか妊娠してるなんて想ってもなかったもの」
恥しさに、帰蝶は矢継ぎ早に言葉を並べた
「兎に角、これから奥方様は、お世継ぎを産まれると言う大役が待ってます。だから、できるだけゆっくりさせてあげて欲しいの。それにはみんなの協力が必要です。お願いできるかしら」
「それはもう、喜んで・・・!」
「殿のお子・・・」
「みんなで守りましょう?!」
「おおー!」
「みんな・・・・・・・・・・」
団結する信長軍に、帰蝶は嬉しさに涙が零れそうになった
「そうか、そうか、それじゃぁ祝いは二倍だな」
「慶次郎、張り切って踊れ!」
「応よ!」
利家の声に、慶次郎が再び立ち上がる
「祝いは二倍って?」
戦に勝ったことと、帰蝶の妊娠だろうかとなつは聞いた
「奥方様と、勝三郎ですよ」
「勝三郎?」
そう言えば、何故この席に千郷が居るのかと聞きそびれていた
その答えを息子自ら解き明かす
「奥方様、母上、お願いがございます」
恒興は突然表座敷の畳に手を着き、深く頭を下げた
「どうしたの?勝三郎」
「何があったの、仰い」
「どうか、どうか・・・、千郷姫との結婚を、お許しくださいませ・・・!」
「勝三郎?」
「え・・・?」
なつも帰蝶も目を丸くする
だが、『他人』である分、帰蝶の方が回復は早かった
「千郷姫のお気持ちは?」
「 千郷は、池田殿と夫婦になりたいです」
千郷も恒興に倣って帰蝶に平伏する
「二人、いつからそれを想い始めたの?全然気付かなかったわ」
「今日、です」
「今日?」
「はい」
耳朶まで真っ赤にして、恒興は応えた
「身分違いは重々承知しております。身の程知らずと罵られることも覚悟しております。ですが、どうしても、千郷姫を妻に娶りとうございますッ!」
「勝三郎・・・」
身分違い
好いた者同士、一緒になれないつらさ、悲しさ
それを嘆いていた夫
そんな世の中を壊すための夢
吉法師様・・・・・・・・
帰蝶は隣に置いた信長の位牌を見詰めながら、自分の胸に手を重ね、ぎゅっと押し付けた
「どうかどうか、お許しくださいませッ!」
「お願いいたします」
揃って頭を下げる恒興と千郷
この二人が、新しい世への扉になるかも知れない・・・
「勝三郎・・・」
母親のなつは、まだ回復できていなかった
呆けたように息子を眺める
「 勝三郎」
「・・・はい」
「千郷姫」
「はい」
静かに、帰蝶の采配が下る
「末永く、睦まじき夫婦であれ」
「 」
「ありがとうございます」
幼いながらもしっかり者の千郷が、礼を言う
恒興は母親と同じ顔でポカーンとしていた
「そぉーうれっ!祝いだ ぁッ!」
帰蝶の妊娠、恒興と千郷の婚姻
そのめでたい祝いを同時に行なう
表座敷はいつまでも賑わっていた
一人静かに寝室の布団で横になる
行灯一つの薄暗い部屋、天井は変わらず薄っすらと木目が見えるだけ
恒興の報告の後、帰蝶はみんなに聞いてみた
「『信長』襲名、ですか・・・?」
誰もが信長の名を特別に想っている
その名を自分が名乗ることを許してくれないのではないかと想っていた
「嫌なら、別の名前を考えるけど・・・」
「何言ってんですか」
「そうっすよ」
「殿の名前、使いこなせるの、奥方様しか居ないでしょ」
「え・・・・・・・・・・・・?」
意外な返事が重なる
「てゆうか、奥方様、既に名乗ってるでしょ」
「河尻・・・?」
「一騎打ちの時、名乗ったじゃないですか。織田上総介信長、って」
「 」
それもそうだと、帰蝶は黙り込んだ
「前におなつ様からも聞かされましたけど、特に反対する理由はありません」
「私もです」
「私も」
「俺も」
「私も」
みんなが次々と賛同してくれる
「俺は新参者だから、反対賛成言える立場じゃないからねぇ、奥方様の好きにしたらいいんじゃないのかい?」
「慶次郎・・・」
「新生・織田信長。良いじゃないですか。それを名乗るのが奥方様だったら、寧ろ文句はありませんよ」
「それに、奥方様の口から『信長』って名前が流れるなんて、想像しただけでもゾクゾクしますな」
「そうだ、言ってみてよ、奥方様」
「え?」
利家の突然の申し出に、帰蝶はキョトンとした
「言ってください。宣言してくださいよ、殿の名を」
「 久助・・・・・・・・・・」
「お願いします」
「お願いします」
全員が平伏する
その光景に、帰蝶は胸が高鳴った
「みんな・・・」
「宣言、どうぞ、殿」
「 なつ・・・」
「戦に勝ったら、そう呼ぶ約束だったでしょう?」
「 」
困った顔をして、帰蝶は首を振った
「殿」
「殿」
「みんな、お願い。『殿』は、吉法師様のために置いておいて」
「なら、宣言だけでもどうぞ」
「あ・・・、あー・・・・・・」
自分の言葉を待つ全員の顔を見渡し、それから、帰蝶はゆっくり口唇を動かした
「尾張の夢、終わりにあらず。・・・新しく生まれ変わった信長軍で、新しい世を切り拓くことを、みなの前に誓う。この、織田・・・上総介・・・・、信長の名に置いて」
たどたどしい宣言ではあったものの、士気が一気に上がる
おおー!と勇ましい鬨が上がり、団結力も一層強く固くなった
帰蝶は自分の宣言に照れ臭さや恥しさが合わさり、みんなの視線から逃げるように信長の位牌を見詰めた
その光景を想い出す
「 吉法師様・・・。今日は、いろんなことがありました」
恒興と千郷の結婚
信長襲名
信勝に勝ったこと
初めて首級を挙げたこと
それから、自身の妊娠
「 このお腹の中に、吉法師様の子が居るんですね・・・」
布団の中で、そっと腹を撫でる
まだ出っ張りはない
それでも、愛しくて仕方がなかった
「吉法師様、今度こそ産んでみせます。だからどうかこれからも、帰蝶をお守りください」
ふと、聞こえたような気がした
信長の声を
ただ自分がそう想いたいだけなのだとしても
信長の声を
「そんなの、あったりめーじゃん」
宴会の最中に、なつも倅が荒尾の姫君を娶るのだと漸く自覚したらしく、千郷を独り占めして仕方がない
なんせ恒興はたった一人の池田の跡取り、そして、一人息子である
千郷に池田家の奥方としての自意識を持ってもらおうと、あれやこれやと口にする
「母上、千郷はまだ幼いんです。今からそんな急に詰め込ませなくても、良いでしょう?」
「何言ってるんですか。こう言うことは、早いに越したことがないんです。それに、お前こそなんですか。まだ祝言も挙げてない内からもう千郷様を呼び捨てにするとは。そんな躾のなってない子に育てた覚えはありませんよ。謝りなさい」
「あ、それはどうも申し訳ございませんでした。・・・って、どうして母上に謝らなきゃならないんですか?」
「うふふふふふふふ」
二人の遣り取りがおかしくて、千郷は声を上げて笑った
その姿はなんとも言えず、愛らしい
二人の祝言は、涼しくなった秋になってからと言うことで話は纏まった
それまでに恒興は、清洲の城下に自宅屋敷を構えなくてはならない
今までは武家長屋で自由気侭に暮らしていたが、家臣ではなく豪族の、荒尾の姫君を娶るのだから、いつまでも貧乏染みた生活はできない
この席で帰蝶は、岩竜丸にも独立を勧めた
これから本格的に動くであろう斯波の旧臣らの手前、いつまでも小姓のままではいけないと言う帰蝶の判断である
小姓でありながら信長に屋敷を与えられていたため、なんだか身分不相応な生活だったのが、漸くそれらしい暮らしを送れるようになったのだ
斯波の若君も新たな想いで気持ちを引き締め、新しい時代に向って進み始めた
何もかもが順風満帆
今だけは、そう想いたかった
「ふ~む」
稲葉山城の表座敷で腕組みし、義龍は眉間に皺を寄せる
「前代未聞ですよ!戦に民を駆り出すとは」
不機嫌この上ない守就は声を荒げ、怒りを露にしていた
「姫様は、どこまで非常識なんですか!」
「しょうがないだろう?帰蝶は父上の娘だ。親に似てどこか非常識なところがあって然るべきだろ」
「殿、そのような暢気なことを仰ってる場合ですか」
「しかし、帰蝶の奇策に斎藤が一人も尾張に入れなかったのは事実だ。その事実を重く受け止めなくてはならん」
「そのため、商人を使って連携を取ったのですな」
感心するかのように、一鉄が言った
義龍はふと、夕庵の方を見る
「満足か?夕庵」
「 はい?」
「お前の愛弟子は、兄の私ですら想像できないことをやってのけた。そして、岩倉だけではなく斎藤軍をも撃退した。そして信長は、弟に勝利した。全て、お前の思惑通りか?」
「いいえ」
義龍の問い掛けに、夕庵は首を振って応えた
「我、非常に不満成」
「どうしてだ」
義龍だけではなく、周囲からもざわめきが起こる
「信長の取った首は、一つだけ。私の計算では、あと一つ取れました」
「あと一つ?」
「それを姫様は恐らく、態と見逃したのでしょうな」
「態と見逃すとは、どう言ったことでしょうか」
「買い被りと仰るかも知れませんが、姫様は非常に計算高い。自分の損得を一瞬にして判断なされる。取った首は、得だとは想わなかったから落とした。漏らした首は、損だと想ったから逃がした」
「その、漏らした首とは誰のことでございましょうか」
美濃三人衆の一人、氏家が聞く
「それは、私にもわかりません。今回の末森の謀叛、首謀者は三人。残り二人の内、どちらかが、姫様にとって必要になる人物だったのではございませんでしょうか。そのような気が致します」
「気がするだけか?」
「はい、そうでございます」
「 」
夕庵の言葉を、利三は黙って聞いていた
信長が生きている・・・?
この手で確かに信長を狙撃し、馬から落ちたところも見ている
なのに生きて戦に出、そして勝利した?
何かが得心行かない
納得できるものではない
だが、ならば稲生にて末森軍を撃退したと言う総大将は誰だと聞かれれば、さすがの利三にも応えられなかった
想像すらできなかったからだ
まさか帰蝶が総大将として戦に出ていたなど
それに匹敵することは想像できても、答えそのものは想像の範疇を超えている
精々清洲から、あるいは本陣から指示を送っていただけだろうと考えるのが関の山
それは、仕方がないことだった
女が総大将など、五百余年の戦乱が続く今の世、一度たりとてなかったことなのだから・・・・・・・・・・・・
時代は流れる
川が流れるように
いっときたりとて、止まったことなどない
人は、流れるその時代に押し出されるか、あるいは流れに乗り自由に行きたいところへ行くか、そのどちらかだった
帰蝶はその流れを自在に操り
自分はその流れに弄ばれるだけだろう、と、利三は想った
幾夜を越えても、未だ辿り着けぬ答え
辿り着けぬ温もり
帰蝶は温もりを得、答えを見付け
されど
己は温もりは得られず、答えも見付からないまま
現実が利三に言った
生きる世界が違う、と
命が芽吹く
憎しみが芽吹く
夏は静かに時代を見守っていた
帰り道、弟の愚痴を聞きながら、帰蝶は凱旋した
清洲の町は町民らが守ってくれたとあって、その礼は後日改めてと話す
それ以外にも後日談は数あるが、今は戦勝報告を信長に伝えたい
帰蝶は無事に済んだ清洲の町を、小姓の龍之介が槍に掲げた通具の首を連れ歩き、城に戻った
「おなつ様ぁー!おなつ様ぁー!」
菊子が信長の仏壇のある帰蝶の部屋に駆け込んで来た
「おなつ様!奥方様がお戻りになられました!勝ちましたよ!清洲の勝ちですッ!」
そう張り上げた菊子の声にも気付かず、なつは仏壇に手を合わせ続けた
帰蝶が清洲を出てからなので、半日以上は過ぎている
夕刻が来れば、丸一日だ
「おなつ様・・・」
気付いてくれぬなつに、菊子の顔が悲しげに曇った
その菊子の肩に手を置き、鎧姿のままの帰蝶が部屋に入る
「ただいま、なつ」
「
合わせた両手に額を擦り付けるように祈っていたなつの顔が上がり、震えながら襖の方を見る
「
目をいっぱいに広げるなつの隣に、帰蝶は膝を落とし信長に手を合わせた
「ただいま戻りました、吉法師様。戦は、我らの勝ちです」
「勝ち・・・・・・・・・」
「お守りくださって、ありがとうございます」
「奥方様・・・、勝っ・・・、勝った・・・・・」
「勝ったわよ、なつ」
信長に手を合わせながら、なつに微笑む
「勝っ・・・た・・・・・」
自分が大きな声を出しても反応しなかったなつが、帰蝶の声にだけは反応した
まるで娘を心配する母親みたい、と、菊子は苦笑いした
なつは立ち上がろうと膝を上げたが、余りにも長い間正座を続けていたため爪先の感覚がなくなってしまい、崩れるように倒れた
「なつ!」
帰蝶が慌てて抱き上げる
「大丈夫?!どうしたの!」
「あ・・・、足が痺れて・・・」
「え?」
「おなつ様、奥方様が出陣されてからずっと、ここで殿に手を合わせてらしたんです」
菊子が説明してくれる
「なつ・・・」
「勝ったんですね・・・」
自身のことよりも自分を気に掛けてくれる
そんななつの優しさに、帰蝶は微笑んで応えた
「
「あ・・・・・、ああ・・・、あぁぁーッ!」
歓喜の声を上げ、なつは帰蝶の両手を握った
「勝った、勝った・・・!奥方様が、勝った、・・・勝った!」
ぶんぶんぶんと振り上げ、その喜びを表現する
自分のことのように喜んでくれるなつに、帰蝶も笑顔になれた
「あぁぁ・・・、若、ありがとうございます」
帰蝶の手を離し、再び信長に手を合わせる
「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます」
こんなにも深い愛を持っているからこそ、夫は真っ直ぐ育ったのだろう、と、感じた
育ててくれたのがなつだからこそ、夫は曲がらず腐らず育ったのだろう、と
信長の位牌に手を合わせ続けるなつに、帰蝶は心から感謝した
ここでずっと、応援してくれてたのね
吉法師様と一緒に・・・・・・・・
「湯加減、如何ですか?」
湯殿の向うから菊子が声を開ける
「丁度良いわ。血油浴びたから、すっきりしたかったのよね。お能にお礼、言っておいて」
「はぁい」
いつでも湯に入れるようにと、お能は朝から風呂の準備をしていた
お陰で待たずに湯に入れる
本丸暮らしになったとて、だからと男の小姓に女の帰蝶の風呂の世話まではさせられない
本丸に移ると、帰蝶は身の周りの世話を菊子に任せた
菊子も今では自分の部下を何人か抱えるまでになっており、菊子の班がそっくりそのまま本丸に移動していた
菊子が欠けた分はあやが充分働いてくれている
元々局処で生まれ、局処で暮らしていた女性だ
誰よりも仕来りには詳しかった
信長の使っていた本丸の湯船は広く、伸び伸びと手足が伸ばせる
その湯の中で躰を伸ばし、背筋をぴんと張り詰めた時、下腹部に張ったような感覚が生まれた
「
何だろうと、撫でる
特に痛みはない
そう言えば、今月は月の物が来ただろうか
先月は、どうだっただろう
信長が死んでから今日まで毎日が慌しく、バタバタと過ごしていた
月の物が来ていたかどうかなど、全く覚えていない
その内来るだろうと深刻にも考えず、帰蝶は湯船を出る
しばらく波紋が湯の中で揺れていた
ばっさり切った髪は、自分でやったため揃っていなかった
長い部分も残っていたり、逆に短過ぎな部分もあったりと、中々不恰好だ
その髪を誤魔化すように、菊子は上手に丸く結わえてくれた
いつものように小袖に腕を通す
が、想い直して帰蝶はそれを菊子に告げた
「え?」
一瞬キョトンとする菊子に、帰蝶は手を合わせ頼む
「どうしても着たいの。お願い、持って来てくれない?」
「良いですけど、おなつ様反対しますよ?」
「だから、ばれないようにこっそりお願い」
「その自信、ありません・・・」
困惑しながら菊子は湯殿から帰蝶の部屋に戻り、龍之介に言ってそれを取ってもらう
なつは今、お能の手伝いで表座敷の祝勝会の準備をしていた
活躍した慶次郎への約束にと、鯛も大量に買い占めるため貞勝が奔走している
今の内、と、湯殿に走る菊子の後ろ姿を、丁度台所から表座敷へと続く廊下を渡っていたなつが見掛けた
「何を慌ててるのかしら、お菊は」
局処の千郷に凱旋の報告に上がる
不躾な鎧兜は脱ぎ捨て、着替えてから千郷に謁見した
「ただいま戻りました」
「ご無事で何よりです」
自分の帰りを心待ちにしていたわけではないだろう、それでも、千郷の笑顔に心が解された
「肩揉み、腰揉み、足揉み、どれになさるか決まりましたか?」
「あー・・・、いえ、全然考えておりませんでした・・・」
照れ臭さに、恒興は月代の頭を掻き毟る
「何でも差し上げますよ。遠慮なさらず、仰ってください」
千郷の側にはお絹が座っていた
そのお絹も、自分の無事の帰りを喜んでくれている
「お茶でも召し上がりますか?」
「ああ、ありがたい、お絹殿。実は喉が渇いて渇いて」
「そう仰るだろうと想って、先に淹れておきました。熱いお茶より、少し温(ぬる)めの方が喉越しも良いでしょう」
「至れり尽くせり、感謝いたします」
お絹に平伏して、その茶を啜る
「
「ご名答。奥方様は美濃茶がお好きですけど、私にはなんだか薬草でも飲んでるかのような気になりますので、近江から仕入れてるんです。おなつ様は宇治の茶がお好きですし、お能様は遠江の茶が定番、お菊殿は大和茶。局処は各地の茶が揃ってますよ」
「美濃茶は甘みと香りが独特ですからなぁ。殿は好んで飲んでおられましたが」
「殿は奥方様がお好きな物は、何でも好きなんですよ」
「そうでしたな」
信長がここに居たらきっと、顔を赤くして怒るだろうと想うと、恒興もお絹もおかしくて笑ってしまう
そんな中で信長を知らない千郷だけは、きょとんとした顔をしていた
「ああ、そうでした、千郷姫様を放ってしまいました」
「いいえ、お気になさらず。想い出話は、その方の供養にもなります。どうぞ、ご存分にお話ください」
「千郷姫・・・」
そうか、と、今の言葉で恒興は漸く自覚した
どこか帰蝶に似ているのだ
顔立ちこそ全く違うし、性格も違うと言えば違う
だが、その根本の性根はよく似ていた
相手を思い遣れる優しさ、自分が困窮していても真心を忘れない
最も、最近の帰蝶は性格が信長に傾倒しているため、優しいところは変わっていないが多少乱暴になっている
千郷にはそれがない
帰蝶から『荒々しさ』を引けば千郷になる
慣れ親しんだ女性だからか、恒興にとって帰蝶は特別な存在だった
帰蝶は恒興の恋愛対象にはなり得ないが、千郷は
「決まりましたか?」
「あの・・・、えっと・・・」
落ち着きを取り戻すため、恒興は湯飲みを掴み直し、一気に茶を飲み干した
近江の茶でも、独特の苦味が喉を刺激する
頭がしゃきっとした
「ちっ、千郷姫・・・!」
「はい、何でしょう」
「あの・・・、何でもしてくださるとのことですが、真でございましょうか」
「はい、なんなりとお申し付けくださいませ」
「では・・・、あの・・・」
「はい」
側にはお絹が居る
だが、これを逃せば好機は二度と訪れないような気がした
「そっ、某の妻になってくだされ・・・!」
「
茹蛸のように顔を真っ赤にして叫ぶ恒興
キョトンとする千郷
目を丸くするお絹
三者三様
「や・・・、やはり駄目・・・ですよね・・・」
返事をくれない千郷に居た堪れなくなったか、恒興は笑って誤魔化そうとした
だが、千郷は
「千郷は、まだ子供です」
「
「池田殿のお世話は、どこまでできるかわかりません」
「
遠回しに断られているな、と想った
それも、千郷らしい優しさかと感じた
「お絹も、連れて行って、良いですか?」
「
「不束者ですが、よろしくお願いします」
「あ・・・、あの・・・、千郷姫・・・?」
千郷の返事が理解できない
「池田殿の妻になること、千郷様はご承諾なさったのですよ。せめてお手だけでもお取りください。千郷様に恥を掻かせるおつもりですか」
お絹がそっと助言する
「そそそそそそそ、そんな滅相もない!」
恒興は慌てて湯飲みを放り投げ、言われるまま千郷の手を取った
「あっ、あのっ!不肖池田勝三郎恒興、千郷様を一生お守りいたします!浮気なんか絶対しません!遊びもしません!付き合い酒も致しません!一生を千郷様にお捧げ申す!」
「大袈裟です。浮気は・・・泣くかも知れませんから、どうか私のわからないところで。遊びは程ほどに。付き合い酒も潰れない程度に。池田殿は下戸なのでしょう?」
「え・・・、あ・・・、はい・・・」
「千郷を、守ってくださいね」
「
「お願いします」
見詰め合う内感極まったか、恒興はそっと千郷を抱き寄せた
冷静に考えれば、自分は今二十一で千郷は九つだ
前夫の信時とは一つしか変わらないのだから、これも乱暴な話だろうか
いいや
自分達は違う
互いの気持ちを確かめ合った上での結果だ
自分達は違う
政略などではない
腕の中の小さな温もりを確かめながら、恒興は心の中で葛藤した
その恒興に
「そこまではなさらなくても良いのでは?せめて私の居ない場所でやってくださいましな」
呆れ果てたお絹の言葉に、はっと我に返り、恒興は千郷を手放す
「あっ、あのっ、ご無礼仕りました・・・!」
「いいえ」
真面目な恒興に、千郷はいつまでも苦笑いした
「持って来ましたよ、奥方様」
「ありがとう」
菊子の部下相手に談笑していた帰蝶は、座っていた竹椅子から立ち上がりそれを受け取る
包んでいる『たとう紙』の紙縒り紐を外すと、そこから一枚の男物の小袖が出て来た
その小袖をぎゅっと抱き締める
「
「奥方様・・・」
湯殿で支度を済ませ、みんなの待つ表座敷に向う
その背中を、なつが追い着いた
「お菊、さっき何を抱えて走ってたの?」
「あ、おなつ様・・・」
菊子の前に居る、袴姿の背中になつの目が開いた
「
「未だ信じられん。たった七百で末森を追い返したなんて」
表座敷では其々鎧を脱ぎ捨てた秀隆らが勝ち戦の余韻に浸っていた
城の後詰に回っていた資房は、秀隆らの話に興奮した様子である
「まさか奥方様が一番槍をお挙げになるなんて」
「凄かったぜ?奥方様。まるで、殿が乗り移ったみたいな剣捌きでな、右へ左へバッタバッタと敵を薙ぎ倒し」
「河尻様、それは大袈裟でしょ?」
側に居なかった利家が突っ込む
「いや、そう感じても不思議じゃないほどのお働きぶりでな」
「やっぱり法螺だ」
「法螺じゃないぞ。だったら龍之介にも聞いてみろ」
「龍之介は奥方様の味方なんだから、奥方様に有利なことしか口にしないぞ?」
「だから、お前らは側で見てないから想像できないだけなんだって」
表座敷で秀隆相手に数人掛かりでギャーギャーと喚いている最中、慶次郎だけは側に居た利治に呟いた
「お前の姉上なら、やりかねん」
「え?」
「お前の姉上は、只者じゃないってこった。大事にしねーと、罰当るぞ」
「慶次郎・・・」
姉をさり気なく誉めてくれた慶次郎に、利治は頬を綻ばせながら言った
「離れてくれ。刀が飛んで来たら迷惑だ」
「あのな」
慶次郎の頭に汗が浮かぶ
そんな騒ぎの中、すっかり帰蝶の一番小姓に昇進した龍之介が襖を開ける
「奥方様、御なりです」
「
バタバタと座敷に座り直し、帰蝶の登場を待つ
そして、現れた帰蝶の姿に誰もが目を丸くした
「奥方様・・・」
「奥方様・・・、そのお姿は・・・」
「また、笑うか?」
「笑うでしょ」
後ろから着いて来るなつが、不機嫌この上ない顔をして続ける
「男物の小袖を纏う奥方が、何処の世界に居ますか」
「ここに居るじゃない」
帰蝶はいつもの女物の小袖姿ではなく
「それ・・・、殿の・・・」
信長が着ていた小袖袴を纏っていた
最も、信長が十代の頃の物だが
「こっちの方が涼しいのよ。それに、動きやすいし。駄目かしら」
そう言いながら上座に座る
まるで、信長が生きてそこに座ったかのような錯覚が起きた
そして、その決意も感じ取る
「みんな、今日は本当に大儀でした」
「ははっ」
帰蝶の言葉に、全員が平伏する
「みんなのお陰で、大切な一勝を得ることができた。これで末森は当面動けなくなるでしょう。その間に我らのするべきことは?」
問われ、秀隆が応える
「軍事拡大」
「それだけ?」
「外交強化」
次に一益が応える
「他には?」
「流通充実」
「商業発展」
「やることは、山ほどあるわね。でもみんな、肝心なことを忘れてる」
「何でしょうか」
長秀が聞いた
「初心を忘れぬこと」
「
さすがにこれには全員がポカンとする
「今日の戦、みんな何を想って戦った?私は、吉法師様を想って戦ったわ。でもね、それは尾張を守ること、清洲の民を守ることに繋がった。きっかけなんて、些細なことで良いのよ。吉法師様も仰ったわ」
「何と?」
秀隆が聞く
「人は、些細なことで向上心を持つ、って。だから、楽市展開に力を注いでいたの。お陰でどうかしら、今の清洲は」
「
資房が応えた
「貧しい町だったら、今日みたいに民は町を守ることに協力してくれたかしら。自分や家族を守るのに精一杯だったと想う。豊かな国は、豊かな民を作る。豊かな民は、豊かな国を作る。軍事力だけ強大でも、民の心がばらばらだったら、烏合の衆と同じよ。吉法師様が目指していた物は、色んな結果を生み出したの。だから、これからも、吉法師様の夢を守り続けたい。それにはやっぱり、避けては通れない戦もあると想うの」
「でしょうな。家が大きくなれば、それだけ敵も増える。戦は必ず起きる」
一益が言う
「さっき、河尻が言った軍事拡大と、又助が言った商業発展。これを同時に行ないたいと想う。どうかしら」
「反対する理由はありませんよ」
「はい」
「それじゃ、久助には鉄砲隊編成をお願いしたいの」
「鉄砲隊編成ですか」
「諜報活動と同時だから、大変かも知れないけどお願い」
「畏まりました」
「しかし、何故今頃になって鉄砲隊編成を?」
「孫三郎様は鉄砲隊を派遣してくださったそうね」
秀隆を見ながら帰蝶は聞いた
「はい。お陰で柴田軍が尻込みをしてくれました」
その場に居た時親が応えた
と言うのも、ここに恒興が居ないからである
「槍や刀で斬り合うだけの戦は時代遅れになる。これからは鉄砲で戦う戦が増えるわ。だから、今の内充実させておきたいの」
「鉄砲で戦う時代・・・」
「予算は吉兵衛と相談した上で通知します。それを元手にお願いできる?」
「承知」
「商業に関しては、引き続き奉行である吉兵衛に任せるけど、みんなも何か奇策や妙案があったらどんどん出して。使えそうなものは採用させてもらうから」
「はっ」
全員が一斉に返事する
「それと、今日の論功行賞だけど・・・」
何も得ていない帰蝶には、みなに与えられるだけの物は何もなかった
申し訳なさそうな顔をして、言う
「何もないの。ごめんなさい・・・」
「別に今日は、褒美が欲しくて戦ったわけじゃありませんから」
「そうですよ。こうして清洲が無事だっただけでもめっけもんです」
「河尻・・・、犬千代・・・。みんな、ありがとう」
頭を下げる帰蝶に、全員も返礼の土下座をする
和やかな雰囲気の中、お能が表座敷にやって来た
「みなさん、お待たせしました。ご馳走、お運びしますよ」
「やったー!」
利家、慶次郎が大はしゃぎする
「おおー!鯛だ、鯛だ!」
「約束だったからね、どんどん食べて」
次々と運ばれる膳に、誰もが歓声を上げる
「今日は無礼講だから、お酒も遠慮しないで注文して」
「ありがとうございまーす!」
何もしてやれなかったけれど、こうしてみんなの喜ぶ顔を見れて、帰蝶も嬉しかった
「奥方様、お疲れ様でした。初戦勝利、おめでとうございます」
お能が帰蝶の前にも膳を置く
「ありがとう、お能」
その時
「
何かが贓物の奥の方で蠢く感触がした
お能は帰蝶の表情に気付かず、次の膳を運ぶ
「慶次郎さん、慌てないで。鯛はまだまだたっくさんあるから」
共に膳を運んでいる菊子の声がした
帰蝶はそっと席を立ち、表座敷を出ようとする
その帰蝶に、なつが気付いた
「奥方様?如何なされました?」
「
笑顔でそう言うも、なつには何か引っ掛かる『無理』を感じた
首を傾げながら、そっと帰蝶の後を追う
「かんぱーい!」
表座敷から勝利を祝う宴が始まる
その声が帰蝶の耳に、届いたかどうか
帰蝶は表座敷の裏庭の、人気のない場所を探した
今は表座敷に注目が行き、幸い誰もここを通る気配がない
帰蝶は更にその隅に行って、屈み込んだ
同時に
「
勢い良く、嘔吐物が口から噴き出す
声にならぬ声が上がり、嘔吐の苦しさに涙がボロボロ零れる
「うぇ・・・ッ!」
後から後から、口を伝ってそれが溢れる
息ができない苦しさに、更に涙が流れた
「奥方様?如何なさいました?」
後を追って来たなつが、その現場を目の当たりにする
「奥方様!」
慌てて駆け寄り、帰蝶を覗き込んだ
その膝下に広がる嘔吐物
「うぇ・・・ッ!」
苦しそうに胸を押える帰蝶
顔色は、真っ青だった
「奥方様・・・ッ。
「
帰蝶は、人を呼ぼうとするなつの袖を掴んだ
「みんな、心配するか・・・うぇ・・・ッ!」
「奥方様!」
なつは自分も青い顔をして帰蝶の背中を擦った
体調など滅多に悪くならない帰蝶だから、嘔吐した際の体力の消耗は著しい
「大丈夫ですか?」
「もう大丈夫よ。ある程度吐いたら、少しすっきりしたわ」
まだ青い顔で、帰蝶は無理をして微笑む
「刀を持った戦なんて初めてだから、緊張したのかしら」
だが、なつは別の可能性を考える
「奥方様、不躾なことを伺いますが」
「何?」
「最後に月の物が来たのは、いつでしょう」
「
さっき、自分も気になっていたが、それがいつだったか想い出せない
応えられず首を振る帰蝶に、なつはそっと手を差し入れた
「失礼します」
「な、なつ?!」
信長の袴の帯紐から帰蝶の腹を撫でた
「少し張ってますね」
「やっぱり・・・?少し太ったのかしら」
「違いますよ、奥方様」
「え?」
「ご懐妊、なさってますね」
「
なつの言葉に、帰蝶は呆然とした
「妊・・・娠・・・?」
「明日、医者に診てもらいましょう。ですが、間違いなく」
「なつ・・・・・・・・・」
突然のことに、帰蝶は何がなんだかさっぱりわからない顔をする
そんな帰蝶の両肩を掴み、なつは笑顔で言った
「若のお子ですよ!あなたのお腹に、若のお子がいらっしゃるんです!」
「吉法師様の・・・子・・・」
これだけ言っても、まだ信じられぬ顔をする帰蝶に、なつは苦笑いして言った
「こんな躰で、無理をして戦なんかに出て」
「なつ・・・・・。私・・・」
「良かったですね、奥方様」
「え・・・?うん・・・」
「若の血は、絶えてなかったんですよっ!」
「
漸く事態を把握できたのか、帰蝶は目を見開いてなつを見た
「吉法師様・・・の・・・血・・・・・・」
少しも考えられなかった
この躰に信長の命を宿すことを
もうずっと、子供はできなかった
最初に帰蝶が諦め、やがて信長も諦めていた
二人の子を
その子が、信長の死んだ今になって芽吹いているのがわかった
「でも・・・、前の子の時はこんなこと、なかった」
「それは、悪阻が起きる前に流れてしまったからです。悪阻が起きる時期に無理をするから、お腹のお子が怒ったんですよ」
「
予期せぬことに、帰蝶の手が震えた
その手をなつはしっかり握り締め、励ます
「今度こそ、産みましょう。いいえ、産まなくてはならないのです。若の血が流れる、唯一のお子なのですから」
「なつ・・・、私・・・」
「安定期に入るまで、無理も無茶もしてはいけません。良いですね?」
「
わけがわからず帰蝶はただ、震えながら頷いた
自分のこの躰に、夫の子が宿っている
最後の子だ
絶対に守り抜かなくてはならないと、新たな決意が生まれる
帰蝶の躰に芽生えた命
芽生えは、信長と帰蝶、二人が確かに夫婦であった事を知らせてくれた
「わはははははは!」
「それ、いいぞー!」
表座敷での宴会に、慶次郎が踊りを披露していた
頭からすっぽり手拭を被り、おどけた顔をして腰を丸め、面白おかしく踊る
その光景に笑い声が湧き上がっていた
そんな賑やかな表座敷に、帰蝶はなつと共に戻った
手には信長の位牌を抱いて
「お帰りなさいませ、奥方様」
「忘れ物、ありましたか?」
菊子と他の侍女が声を掛ける
「ええ」
帰蝶に気付き、慶次郎が手拭を外してその場に腰を下ろした
「もっと続けて、慶次郎」
「ああ」
「奥方様、それ・・・」
可成が帰蝶の手の中の位牌に気付く
「吉法師様も、一緒に。良いでしょ?」
「勿論です!この祝い、殿もご一緒に」
秀隆が応える
「生きておられたら、きっと、誰よりもはしゃいでたでしょう」
そう言う長秀の言葉に、帰蝶は困惑した苦笑いを浮かべ、少しだけ俯く
「バカ!」
「あ・・・・・。申し訳ございません、奥方様・・・!」
「良いのよ。ごめんね、白けさせちゃって」
「いいえ」
この頃になって、漸く恒興が表座敷に入っていた
隣には千郷が居る
それを不思議に想いながら、なつの方から声を掛けた
「みんなに、聞いて欲しいことがあるの」
「な、なつ・・・!それはやっぱり、はっきりしてからの方が・・・」
「いいえ、こう言うことは早い方が良いんです」
「でも、もし間違いだったら・・・」
「間違いであって堪るもんですか」
「何なんですか?おなつさん」
一番近い場所に居る秀隆が聞く
「大事な話よ。みんな」
「
なつの雰囲気に呑まれて、全員が背筋を正す
慶次郎も利治の隣に戻った
「この度、信長正妻斎藤帰蝶様がご懐妊なさいました」
なつの言葉に、帰蝶は顔を真っ赤にして俯いた
「
「ご懐妊・・・?」
「て、ことは
「奥方様のお腹には、若の子が居ます」
「
息を呑む音が、はっきりと聞こえる
「
気が抜けたように、慶次郎が言った
「仕方ないでしょ?私だってまさか妊娠してるなんて想ってもなかったもの」
恥しさに、帰蝶は矢継ぎ早に言葉を並べた
「兎に角、これから奥方様は、お世継ぎを産まれると言う大役が待ってます。だから、できるだけゆっくりさせてあげて欲しいの。それにはみんなの協力が必要です。お願いできるかしら」
「それはもう、喜んで・・・!」
「殿のお子・・・」
「みんなで守りましょう?!」
「おおー!」
「みんな・・・・・・・・・・」
団結する信長軍に、帰蝶は嬉しさに涙が零れそうになった
「そうか、そうか、それじゃぁ祝いは二倍だな」
「慶次郎、張り切って踊れ!」
「応よ!」
利家の声に、慶次郎が再び立ち上がる
「祝いは二倍って?」
戦に勝ったことと、帰蝶の妊娠だろうかとなつは聞いた
「奥方様と、勝三郎ですよ」
「勝三郎?」
そう言えば、何故この席に千郷が居るのかと聞きそびれていた
その答えを息子自ら解き明かす
「奥方様、母上、お願いがございます」
恒興は突然表座敷の畳に手を着き、深く頭を下げた
「どうしたの?勝三郎」
「何があったの、仰い」
「どうか、どうか・・・、千郷姫との結婚を、お許しくださいませ・・・!」
「勝三郎?」
「え・・・?」
なつも帰蝶も目を丸くする
だが、『他人』である分、帰蝶の方が回復は早かった
「千郷姫のお気持ちは?」
「
千郷も恒興に倣って帰蝶に平伏する
「二人、いつからそれを想い始めたの?全然気付かなかったわ」
「今日、です」
「今日?」
「はい」
耳朶まで真っ赤にして、恒興は応えた
「身分違いは重々承知しております。身の程知らずと罵られることも覚悟しております。ですが、どうしても、千郷姫を妻に娶りとうございますッ!」
「勝三郎・・・」
身分違い
好いた者同士、一緒になれないつらさ、悲しさ
それを嘆いていた夫
そんな世の中を壊すための夢
帰蝶は隣に置いた信長の位牌を見詰めながら、自分の胸に手を重ね、ぎゅっと押し付けた
「どうかどうか、お許しくださいませッ!」
「お願いいたします」
揃って頭を下げる恒興と千郷
この二人が、新しい世への扉になるかも知れない・・・
「勝三郎・・・」
母親のなつは、まだ回復できていなかった
呆けたように息子を眺める
「
「・・・はい」
「千郷姫」
「はい」
静かに、帰蝶の采配が下る
「末永く、睦まじき夫婦であれ」
「
「ありがとうございます」
幼いながらもしっかり者の千郷が、礼を言う
恒興は母親と同じ顔でポカーンとしていた
「そぉーうれっ!祝いだ
帰蝶の妊娠、恒興と千郷の婚姻
そのめでたい祝いを同時に行なう
表座敷はいつまでも賑わっていた
一人静かに寝室の布団で横になる
行灯一つの薄暗い部屋、天井は変わらず薄っすらと木目が見えるだけ
恒興の報告の後、帰蝶はみんなに聞いてみた
「『信長』襲名、ですか・・・?」
誰もが信長の名を特別に想っている
その名を自分が名乗ることを許してくれないのではないかと想っていた
「嫌なら、別の名前を考えるけど・・・」
「何言ってんですか」
「そうっすよ」
「殿の名前、使いこなせるの、奥方様しか居ないでしょ」
「え・・・・・・・・・・・・?」
意外な返事が重なる
「てゆうか、奥方様、既に名乗ってるでしょ」
「河尻・・・?」
「一騎打ちの時、名乗ったじゃないですか。織田上総介信長、って」
「
それもそうだと、帰蝶は黙り込んだ
「前におなつ様からも聞かされましたけど、特に反対する理由はありません」
「私もです」
「私も」
「俺も」
「私も」
みんなが次々と賛同してくれる
「俺は新参者だから、反対賛成言える立場じゃないからねぇ、奥方様の好きにしたらいいんじゃないのかい?」
「慶次郎・・・」
「新生・織田信長。良いじゃないですか。それを名乗るのが奥方様だったら、寧ろ文句はありませんよ」
「それに、奥方様の口から『信長』って名前が流れるなんて、想像しただけでもゾクゾクしますな」
「そうだ、言ってみてよ、奥方様」
「え?」
利家の突然の申し出に、帰蝶はキョトンとした
「言ってください。宣言してくださいよ、殿の名を」
「
「お願いします」
「お願いします」
全員が平伏する
その光景に、帰蝶は胸が高鳴った
「みんな・・・」
「宣言、どうぞ、殿」
「
「戦に勝ったら、そう呼ぶ約束だったでしょう?」
「
困った顔をして、帰蝶は首を振った
「殿」
「殿」
「みんな、お願い。『殿』は、吉法師様のために置いておいて」
「なら、宣言だけでもどうぞ」
「あ・・・、あー・・・・・・」
自分の言葉を待つ全員の顔を見渡し、それから、帰蝶はゆっくり口唇を動かした
「尾張の夢、終わりにあらず。・・・新しく生まれ変わった信長軍で、新しい世を切り拓くことを、みなの前に誓う。この、織田・・・上総介・・・・、信長の名に置いて」
たどたどしい宣言ではあったものの、士気が一気に上がる
おおー!と勇ましい鬨が上がり、団結力も一層強く固くなった
帰蝶は自分の宣言に照れ臭さや恥しさが合わさり、みんなの視線から逃げるように信長の位牌を見詰めた
その光景を想い出す
「
恒興と千郷の結婚
信長襲名
信勝に勝ったこと
初めて首級を挙げたこと
それから、自身の妊娠
「
布団の中で、そっと腹を撫でる
まだ出っ張りはない
それでも、愛しくて仕方がなかった
「吉法師様、今度こそ産んでみせます。だからどうかこれからも、帰蝶をお守りください」
ふと、聞こえたような気がした
信長の声を
ただ自分がそう想いたいだけなのだとしても
信長の声を
「そんなの、あったりめーじゃん」
宴会の最中に、なつも倅が荒尾の姫君を娶るのだと漸く自覚したらしく、千郷を独り占めして仕方がない
なんせ恒興はたった一人の池田の跡取り、そして、一人息子である
千郷に池田家の奥方としての自意識を持ってもらおうと、あれやこれやと口にする
「母上、千郷はまだ幼いんです。今からそんな急に詰め込ませなくても、良いでしょう?」
「何言ってるんですか。こう言うことは、早いに越したことがないんです。それに、お前こそなんですか。まだ祝言も挙げてない内からもう千郷様を呼び捨てにするとは。そんな躾のなってない子に育てた覚えはありませんよ。謝りなさい」
「あ、それはどうも申し訳ございませんでした。・・・って、どうして母上に謝らなきゃならないんですか?」
「うふふふふふふふ」
二人の遣り取りがおかしくて、千郷は声を上げて笑った
その姿はなんとも言えず、愛らしい
二人の祝言は、涼しくなった秋になってからと言うことで話は纏まった
それまでに恒興は、清洲の城下に自宅屋敷を構えなくてはならない
今までは武家長屋で自由気侭に暮らしていたが、家臣ではなく豪族の、荒尾の姫君を娶るのだから、いつまでも貧乏染みた生活はできない
この席で帰蝶は、岩竜丸にも独立を勧めた
これから本格的に動くであろう斯波の旧臣らの手前、いつまでも小姓のままではいけないと言う帰蝶の判断である
小姓でありながら信長に屋敷を与えられていたため、なんだか身分不相応な生活だったのが、漸くそれらしい暮らしを送れるようになったのだ
斯波の若君も新たな想いで気持ちを引き締め、新しい時代に向って進み始めた
何もかもが順風満帆
今だけは、そう想いたかった
「ふ~む」
稲葉山城の表座敷で腕組みし、義龍は眉間に皺を寄せる
「前代未聞ですよ!戦に民を駆り出すとは」
不機嫌この上ない守就は声を荒げ、怒りを露にしていた
「姫様は、どこまで非常識なんですか!」
「しょうがないだろう?帰蝶は父上の娘だ。親に似てどこか非常識なところがあって然るべきだろ」
「殿、そのような暢気なことを仰ってる場合ですか」
「しかし、帰蝶の奇策に斎藤が一人も尾張に入れなかったのは事実だ。その事実を重く受け止めなくてはならん」
「そのため、商人を使って連携を取ったのですな」
感心するかのように、一鉄が言った
義龍はふと、夕庵の方を見る
「満足か?夕庵」
「
「お前の愛弟子は、兄の私ですら想像できないことをやってのけた。そして、岩倉だけではなく斎藤軍をも撃退した。そして信長は、弟に勝利した。全て、お前の思惑通りか?」
「いいえ」
義龍の問い掛けに、夕庵は首を振って応えた
「我、非常に不満成」
「どうしてだ」
義龍だけではなく、周囲からもざわめきが起こる
「信長の取った首は、一つだけ。私の計算では、あと一つ取れました」
「あと一つ?」
「それを姫様は恐らく、態と見逃したのでしょうな」
「態と見逃すとは、どう言ったことでしょうか」
「買い被りと仰るかも知れませんが、姫様は非常に計算高い。自分の損得を一瞬にして判断なされる。取った首は、得だとは想わなかったから落とした。漏らした首は、損だと想ったから逃がした」
「その、漏らした首とは誰のことでございましょうか」
美濃三人衆の一人、氏家が聞く
「それは、私にもわかりません。今回の末森の謀叛、首謀者は三人。残り二人の内、どちらかが、姫様にとって必要になる人物だったのではございませんでしょうか。そのような気が致します」
「気がするだけか?」
「はい、そうでございます」
「
夕庵の言葉を、利三は黙って聞いていた
信長が生きている・・・?
この手で確かに信長を狙撃し、馬から落ちたところも見ている
なのに生きて戦に出、そして勝利した?
何かが得心行かない
納得できるものではない
だが、ならば稲生にて末森軍を撃退したと言う総大将は誰だと聞かれれば、さすがの利三にも応えられなかった
想像すらできなかったからだ
まさか帰蝶が総大将として戦に出ていたなど
それに匹敵することは想像できても、答えそのものは想像の範疇を超えている
精々清洲から、あるいは本陣から指示を送っていただけだろうと考えるのが関の山
それは、仕方がないことだった
女が総大将など、五百余年の戦乱が続く今の世、一度たりとてなかったことなのだから・・・・・・・・・・・・
時代は流れる
川が流れるように
いっときたりとて、止まったことなどない
人は、流れるその時代に押し出されるか、あるいは流れに乗り自由に行きたいところへ行くか、そのどちらかだった
帰蝶はその流れを自在に操り
自分はその流れに弄ばれるだけだろう、と、利三は想った
幾夜を越えても、未だ辿り着けぬ答え
辿り着けぬ温もり
帰蝶は温もりを得、答えを見付け
されど
己は温もりは得られず、答えも見付からないまま
現実が利三に言った
生きる世界が違う、と
命が芽吹く
憎しみが芽吹く
夏は静かに時代を見守っていた
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出ます!
がんばって、次には、なんとか・・・
なんとか・・・(汗
今回は恒興夫妻について話したいです
恒興妻は『荒尾御前』としか伝わっていません
信勝の妻も『荒尾御前』です
どっちがどっちやら、どちらも史料が全く見付からないので、どうにも言えませんが、方や夫を殺され、殺した男の妻にされると言う悲運
方や、同じように夫を亡くしてもその後恒興の許に嫁ぎ、こちらは跡取りをきちんと生んでいる、と言うことは、池田家では大事にされていたのだろうな、と想います
信勝の方の妻・荒尾御前は信勝を殺した男に嫁がされたとありますが、その『殺した男』が河尻だったとする説明もありますが、だけど河尻のところの説明には「妻は信勝の妻、荒尾御前」とは書かれてないんですよね
この頃の河尻は普通に30手前なので、既に妻帯者のはず
と言うことは、こちらの荒尾御前は別の男に嫁がされたのではないでしょうか
それも、歴史に名すら残さなかったような三下に
だとしたら悲劇ですね
でも、それでももしかしたら幸せに暮らしていたかもしれない
大きな家に嫁ぐだけが女の幸せじゃありませんもんね
そして、こちらの荒尾御前
恒興の許に嫁いだ荒尾御前も本名がわからないので『千郷』と名付けました
今はあまり出番はありませんが、尾張犬山城、美濃大垣城、摂津大坂城(この時は石山)、そして、その息子(二番目の)はあの、白鷺城・姫路の城主を勤めるほどの大きな家になりました
偏に夫婦愛が生んだ奇跡
と、思いたい
ですので、千郷が守山に嫁いだ時からエピソードをちらつかせておりました
今はまだ幼い千郷ですが、この後ぽんぽん恒興の子供を産みます
知られている範囲では8人
勿論千郷一人で産んだかどうかはまだ設定してませんし、史実もわかりません
が、恒興に側室が居たってのが探しきれません
信長の周囲って、意外と側室持ってない人が多いんですよね
それと言うのも、信長自身が側室がいなかったから?(生駒女は当時の織田家では側室として認めてもらってなかった。側室扱いしてるのは信雄系の資料だけ)
正式に側室として迎えられたのは伊勢の坂氏の娘と、美濃の稲葉家の娘、そして、お鍋の方だけです
坂氏から側室が来たのは、多分この荒尾家が斡旋したのではないかなと想ってます
また、稲葉家の娘を側室にもらったのは美濃を落とした後
お鍋の方も小倉家を助けるため
実質、信長の子を二人以上生んだ女性は居ません
どれも一人ずつなんですよね
(無理矢理こじつけてる生駒・小倉ファンは腐ってるほど居ますけど)
生駒女は永遠に腐り続けてても良いけど、お鍋の方はなんだろう、この作品に限り(信長ノをんなでは散々な扱いしてますが)、「本当は悪い人じゃなかったんじゃ?」と思えるようになって、それ相応の扱いをすることにしました
信長の死により『織田の大方殿』になってしまった濃姫は、自由に動くことができなくなってしまった
そんな濃姫の代わりにあっちへこっちへ奔走したのがお鍋の方じゃないかと想ったので
実質、信長に放ったらかされてた時期が長かったようで、側室になってからも最初の子を産むまで何年も掛かってます
それでも腐らず織田家に仕えたのは、濃姫との交流があったからじゃないだろうか
二人の間には『正室』と『側室』を越えた『友情』があったんじゃないだろうか
それを考えると、小倉家で過剰なほどお鍋の方を絶賛する記述がないのも頷ける
お鍋の方は信雄のバカと違って身分不相応なことはしなかったんだよ
って思えるようになりました
かと言って、大好きってほどには発展してませんが
さて
稲生の戦いも終わり、そろそろ生駒女も出さなきゃなんないかなぁ~と想ってます
でも、大ッ嫌いな人種だから(この人本人はなんとも思ってないけど、その周囲や子孫が嫌い)とことんボコボコにしてやる
ええ、この女の子孫から苦情来たって受け付けるか
寧ろ晒してやる(こわっ・・・!
織田本家(信雄じゃないよ。あれは信長派織田家)の史料にない限り、どんな扱いも厭いません
って、最後はやっぱり悪口になっちゃうな・・・
ごめんなさい
それと、諸事情により日曜日まで少し更新が空きます
時間を見ては下書きは進めますが、こちらでの更新は若干難しいものと考えておりますのでご了承ください
なんとか・・・(汗
今回は恒興夫妻について話したいです
恒興妻は『荒尾御前』としか伝わっていません
信勝の妻も『荒尾御前』です
どっちがどっちやら、どちらも史料が全く見付からないので、どうにも言えませんが、方や夫を殺され、殺した男の妻にされると言う悲運
方や、同じように夫を亡くしてもその後恒興の許に嫁ぎ、こちらは跡取りをきちんと生んでいる、と言うことは、池田家では大事にされていたのだろうな、と想います
信勝の方の妻・荒尾御前は信勝を殺した男に嫁がされたとありますが、その『殺した男』が河尻だったとする説明もありますが、だけど河尻のところの説明には「妻は信勝の妻、荒尾御前」とは書かれてないんですよね
この頃の河尻は普通に30手前なので、既に妻帯者のはず
と言うことは、こちらの荒尾御前は別の男に嫁がされたのではないでしょうか
それも、歴史に名すら残さなかったような三下に
だとしたら悲劇ですね
でも、それでももしかしたら幸せに暮らしていたかもしれない
大きな家に嫁ぐだけが女の幸せじゃありませんもんね
そして、こちらの荒尾御前
恒興の許に嫁いだ荒尾御前も本名がわからないので『千郷』と名付けました
今はあまり出番はありませんが、尾張犬山城、美濃大垣城、摂津大坂城(この時は石山)、そして、その息子(二番目の)はあの、白鷺城・姫路の城主を勤めるほどの大きな家になりました
偏に夫婦愛が生んだ奇跡
と、思いたい
ですので、千郷が守山に嫁いだ時からエピソードをちらつかせておりました
今はまだ幼い千郷ですが、この後ぽんぽん恒興の子供を産みます
知られている範囲では8人
勿論千郷一人で産んだかどうかはまだ設定してませんし、史実もわかりません
が、恒興に側室が居たってのが探しきれません
信長の周囲って、意外と側室持ってない人が多いんですよね
それと言うのも、信長自身が側室がいなかったから?(生駒女は当時の織田家では側室として認めてもらってなかった。側室扱いしてるのは信雄系の資料だけ)
正式に側室として迎えられたのは伊勢の坂氏の娘と、美濃の稲葉家の娘、そして、お鍋の方だけです
坂氏から側室が来たのは、多分この荒尾家が斡旋したのではないかなと想ってます
また、稲葉家の娘を側室にもらったのは美濃を落とした後
お鍋の方も小倉家を助けるため
実質、信長の子を二人以上生んだ女性は居ません
どれも一人ずつなんですよね
(無理矢理こじつけてる生駒・小倉ファンは腐ってるほど居ますけど)
生駒女は永遠に腐り続けてても良いけど、お鍋の方はなんだろう、この作品に限り(信長ノをんなでは散々な扱いしてますが)、「本当は悪い人じゃなかったんじゃ?」と思えるようになって、それ相応の扱いをすることにしました
信長の死により『織田の大方殿』になってしまった濃姫は、自由に動くことができなくなってしまった
そんな濃姫の代わりにあっちへこっちへ奔走したのがお鍋の方じゃないかと想ったので
実質、信長に放ったらかされてた時期が長かったようで、側室になってからも最初の子を産むまで何年も掛かってます
それでも腐らず織田家に仕えたのは、濃姫との交流があったからじゃないだろうか
二人の間には『正室』と『側室』を越えた『友情』があったんじゃないだろうか
それを考えると、小倉家で過剰なほどお鍋の方を絶賛する記述がないのも頷ける
お鍋の方は信雄のバカと違って身分不相応なことはしなかったんだよ
って思えるようになりました
かと言って、大好きってほどには発展してませんが
さて
稲生の戦いも終わり、そろそろ生駒女も出さなきゃなんないかなぁ~と想ってます
でも、大ッ嫌いな人種だから(この人本人はなんとも思ってないけど、その周囲や子孫が嫌い)とことんボコボコにしてやる
ええ、この女の子孫から苦情来たって受け付けるか
寧ろ晒してやる(こわっ・・・!
織田本家(信雄じゃないよ。あれは信長派織田家)の史料にない限り、どんな扱いも厭いません
って、最後はやっぱり悪口になっちゃうな・・・
ごめんなさい
それと、諸事情により日曜日まで少し更新が空きます
時間を見ては下書きは進めますが、こちらでの更新は若干難しいものと考えておりますのでご了承ください
バンザーイ
いいことが重なって、幸せすぎて怖いです(笑)
守るものが増えたら、もっと強くならなくちゃ。
みんなが守り育てる信長と帰蝶の子供。
やっと笑顔で読み終えました。
もう、泣くの嫌ですー!
(と、圧力をかけてみたり…笑)
守るものが増えたら、もっと強くならなくちゃ。
みんなが守り育てる信長と帰蝶の子供。
やっと笑顔で読み終えました。
もう、泣くの嫌ですー!
(と、圧力をかけてみたり…笑)
Re:バンザーイ
>いいことが重なって、幸せすぎて怖いです(笑)
やっとここまで扱ぎ付けたか、って感じです
思えば長かった
めんどくさくて、さっさと信長殺して先進んじゃえって思ったことも屡
だけどこの夫婦を書いていると、本当に面白くて楽しくて、気が付いたら随分長くダラダラ書いてました
>守るものが増えたら、もっと強くならなくちゃ。
同時に、弱く脆くなってしまう場合もありますが、それが人間と言うものです
だから面白いんですよね
>みんなが守り育てる信長と帰蝶の子供。
どんな子に育つか、こうご期待
>もう、泣くの嫌ですー!
>(と、圧力をかけてみたり…笑)
ごめんなさーい
でもまだまだ始まったばかりですから覚悟しててくださーい(笑
やっとここまで扱ぎ付けたか、って感じです
思えば長かった
めんどくさくて、さっさと信長殺して先進んじゃえって思ったことも屡
だけどこの夫婦を書いていると、本当に面白くて楽しくて、気が付いたら随分長くダラダラ書いてました
>守るものが増えたら、もっと強くならなくちゃ。
同時に、弱く脆くなってしまう場合もありますが、それが人間と言うものです
だから面白いんですよね
>みんなが守り育てる信長と帰蝶の子供。
どんな子に育つか、こうご期待
>もう、泣くの嫌ですー!
>(と、圧力をかけてみたり…笑)
ごめんなさーい
でもまだまだ始まったばかりですから覚悟しててくださーい(笑
良かった。そして・・・
帰蝶と信長の。あの時の。もう^0^本当に良かった。帰蝶にとって生きる意味がまた一つできたのですね。吉法師様も(ここはあえてそう呼ばせてください)戦場で帰蝶だけでなくその子供を守っていたのですね。ただだからこそ、話の最後で利三が・・・。なんだか歪んできているように思って・・・悲しいなと感じました。(まあ私の思いこみかと思いますけど)でもだからと言って嫌いではありません。このお話で嫌いなキャラクターは基本的にはいないので。
Re:良かった。そして・・・
>帰蝶と信長の。あの時の。
そう、あの時の
不慣れなシーン書いちゃって、自分でも「恥しい・・・」と想ったあのシーン
>(ここはあえてそう呼ばせてください)
どうぞ、ご随意に^^
>戦場で帰蝶だけでなくその子供を守っていたのですね。
・・・そんな意識なかった(バラすなよ
>なんだか歪んできているように思って・・・悲しいなと感じました。(まあ私の思いこみかと思いますけど)でもだからと言って嫌いではありません。
ありがとうございます
でも、わたしはこの作品を手懸ける際(そんな大袈裟な内容のものは書いてないけど)一応、斎藤利三も調べられる範囲で調べましたら、良い男なんですよ
色んな意味で
お陰ですっかり彼のファンになりました
春日局は後に絶大な権力を握りましたが、父を過剰評価はしていません
この辺りは好感持てます(ただし、春日局がお江与の方にした仕打ちは誉めれたもんじゃない
>このお話で嫌いなキャラクターは基本的にはいないので。
なのに、そんなところに憎まれ役を持って来ようとしているわたし・・・
利三については、もう少し長い目で見てくださいね
どうしてそんなにも信長を憎むのか、いつかわかってもらえる日が来ると想いますので
彼らは何十年と生きていたので、今直ぐネタばらしは無理なんです
わたしも手、二本しかありませんし、時々止まっちゃいますし^^;
そう、あの時の
不慣れなシーン書いちゃって、自分でも「恥しい・・・」と想ったあのシーン
>(ここはあえてそう呼ばせてください)
どうぞ、ご随意に^^
>戦場で帰蝶だけでなくその子供を守っていたのですね。
・・・そんな意識なかった(バラすなよ
>なんだか歪んできているように思って・・・悲しいなと感じました。(まあ私の思いこみかと思いますけど)でもだからと言って嫌いではありません。
ありがとうございます
でも、わたしはこの作品を手懸ける際(そんな大袈裟な内容のものは書いてないけど)一応、斎藤利三も調べられる範囲で調べましたら、良い男なんですよ
色んな意味で
お陰ですっかり彼のファンになりました
春日局は後に絶大な権力を握りましたが、父を過剰評価はしていません
この辺りは好感持てます(ただし、春日局がお江与の方にした仕打ちは誉めれたもんじゃない
>このお話で嫌いなキャラクターは基本的にはいないので。
なのに、そんなところに憎まれ役を持って来ようとしているわたし・・・
利三については、もう少し長い目で見てくださいね
どうしてそんなにも信長を憎むのか、いつかわかってもらえる日が来ると想いますので
彼らは何十年と生きていたので、今直ぐネタばらしは無理なんです
わたしも手、二本しかありませんし、時々止まっちゃいますし^^;
濃姫(帰蝶)好きの方へ
本日は当サイトにお越しいただき、ありがとうございます
先ずはこちらのページを一読していただけると嬉しいです→お願い
文章の誤字・脱字が時折混ざっております
見付け次第修正をしておりますが、それでもおかしな個所がありましたらお詫び申し上げます
了承なしのリンクは謹んでご辞退申し上げます
先ずはこちらのページを一読していただけると嬉しいです→お願い
文章の誤字・脱字が時折混ざっております
見付け次第修正をしておりますが、それでもおかしな個所がありましたらお詫び申し上げます
了承なしのリンクは謹んでご辞退申し上げます
更新のお知らせ
(02/20)
(10/16)
(11/04)
(06/24)
(03/25)
◇◇プチお知らせ◇◇
1/22 『信長ノをんな』壱~参 / 公開
現在更新中の創作物(INDEX)
信長 ~群青色の約束~
こんな感じのこと書いてます
カウント(0)は現在非公開中です
管理人の独り言も混じっております
[11/04 Haruhi]
[08/13 kitilyou]
[06/26 kitilyou命]
[03/02 kitilyou命]
[03/01 kitilyou命]
ゲームブログ
千極一夜
家庭用ゲーム専用ブログです
『戦国無双3』が絶望的存在であるため、更新予定はありません
◇◇11/19 Nintendo DSソフト◇◇
『トモダチコレクション』
おのうさま(帰蝶)とノブ(信長)が 結婚しました(笑
家庭用ゲーム専用ブログです
『戦国無双3』が絶望的存在であるため、更新予定はありません
◇◇11/19 Nintendo DSソフト◇◇
『トモダチコレクション』
おのうさま(帰蝶)とノブ(信長)が 結婚しました(笑
祝:お濃さま出演 But模擬専… (戦国無双3)
おのれコーエーめ
よくもお濃様を邪険にしおってからに・・・(涙
(画像元:コーエー公式サイト)
オンラインゲームにてお濃様発見
転生絵巻伝 三国ヒーローズ公式サイト:GAMESPACE24
『武将紹介』→『ゲーム紹介』→『Exキャラクター紹介』→『赤壁VS桶狭間』にてお濃様閲覧可
キャラクター紹介文
「 絶世の美貌を持つ信長の妻。頭が良く機転が利き、信長の覇業を深く支えた。
また、信長を愛し通した一途な妻でもあった。」
(画像元:GAMESPACE24公式サイト)
勝手にPR
濃姫好きとしては、飲めなくても見逃せない
岐阜の地酒 日本泉公式サイト

(二本セットの画像)
夫婦セット 吟醸ブレンド(信長・濃姫)
本醸造 濃姫
カップ酒 濃姫®=爽やかな麹の薫り高い、カップとは想えない出来上がりのお酒です
吟醸ブレンド 濃姫® ブルーボトル=自然の香りのお酒です。ほんの少し喉を潤す程度でも香りが深く体を突き抜けます
本醸造 濃姫®=容量的に大雑把な感じに想えて、麹の独特の香りを抑えたあっさりとした風味です
今現在、この3種類を試しておりますが、どれも麹臭い雰囲気が全くしません
飲料するもよし、お料理に使うもよし
お料理に使用しても麹の嫌な独特感は全く残りません
奇跡のお酒です
何よりボトルがどれも美しい
清洲桜醸造株式会社公式サイト


濃姫の里 隠し吟醸
フルーティで口当たりが良いです
一応は『辛口』になってますが、ほんのり甘さも残ってます
わたしは料理に使ってます
清洲城信長 鬼ころし
量的に肉や魚の血落としや、料理用として使っています
麹の香りが良いのが特徴ですが、お酒に弱い人は「うっ」と来るかも知れません
どちらも一般スーパーに置いている場合があります
岐阜の地酒 日本泉公式サイト
(二本セットの画像)
夫婦セット 吟醸ブレンド(信長・濃姫)
本醸造 濃姫
カップ酒 濃姫®=爽やかな麹の薫り高い、カップとは想えない出来上がりのお酒です
吟醸ブレンド 濃姫® ブルーボトル=自然の香りのお酒です。ほんの少し喉を潤す程度でも香りが深く体を突き抜けます
本醸造 濃姫®=容量的に大雑把な感じに想えて、麹の独特の香りを抑えたあっさりとした風味です
今現在、この3種類を試しておりますが、どれも麹臭い雰囲気が全くしません
飲料するもよし、お料理に使うもよし
お料理に使用しても麹の嫌な独特感は全く残りません
奇跡のお酒です
何よりボトルがどれも美しい
清洲桜醸造株式会社公式サイト
濃姫の里 隠し吟醸
フルーティで口当たりが良いです
一応は『辛口』になってますが、ほんのり甘さも残ってます
わたしは料理に使ってます
清洲城信長 鬼ころし
量的に肉や魚の血落としや、料理用として使っています
麹の香りが良いのが特徴ですが、お酒に弱い人は「うっ」と来るかも知れません
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