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ざわめきの中に轟く鉄砲の音
乾いた火薬の弾ける音に、本陣の帰蝶は目の前に広げられた布陣図を眺めながら、まだ細い指先を指し示した
「ここ、背後が林になってる」
「ええ。杉林ですね。群生しているものですから、進軍には不向きな場所です」
「なら、ここから突付けば、犬山は驚くかも知れないわね」
「ですが、それなら少数でしか進めません。大軍相手では勝ち目はありませんよ」
「そうかしら。精鋭部隊でなら、可能かも知れない」
「どの部隊を配置させるもつもりですか」
佐久間信盛の質問に、帰蝶はその人物をちらりと見て言った
「三左、出て」
「はっ!」
梅雨が明け、夏の空が近くなった頃、帰蝶の、犬山攻めが始まった
「新五」
「はい!」
「三左の部隊に合流して」
「え?!」
比較的安全な本陣に居た利治は、姉の突然の出撃命令に目を丸くする
「わ、私がですか?」
「権」
「はい」
利治をそっち退けて、今度は勝家に声を掛ける
「三左の部隊で犬山を背後から突付くから、出て来たところを叩ける?」
「お茶の子さいさいでございます」
「じゃぁ、出て」
「承知」
自分と違って、さっとその場を離れる勝家を、利治は呆けた目で見送った
そんな利治を帰蝶は怒鳴り付ける
「何してるの、新五!早く三左の部隊と合流しなさい!」
「は、はい!姉上!」
佐治は侍見習いとして、利治の馬引きをやっていた
利治よりも度胸があるのか胆が据わっているのか、こちらはいつでも出撃できるよう馬の準備は既に整っている
「若様、早く」
「わかってるって!」
年が近い所為か、主従と言うよりも幼馴染みのような雰囲気にある二人を眺める帰蝶は、目をそのままに慶次郎にも声を掛ける
「慶次郎、新五の護衛に回って」
「ははっは、なんだかんだ言っても奥方様、新五のこと心配してるんじゃぁないですか」
「何言ってるの。あの子は最後の『道三の血を受け継ぐ』者よ?何かあったら一大事。美濃攻めの折には、あの子の存在も大事になって来るのを、こんな小競り合い程度の戦で失うわけには行かないのよ。ごたごた言わないで、追い駆けて」
「だったら、無事守り果(おお)せた暁には、それなりの褒美ってのもを頂かなくっちゃねぇ」
大胆にも、帰蝶相手に商談を持ち掛ける
「褒美?お前も随分言うようになったものね。何が欲しいの」
「何でも良いかい?」
「手に入る物ならね」
半ば呆れ顔の帰蝶に、慶次郎は声を張り上げる
「じゃあ『目出度い』の鯛でどうだ!」
しかし、敵もさるものながら、簡単に交渉は進まない
「また鯛?駄目よ。今年は水揚げ量も減ってるから、かなり高騰してるの。鮎十匹」
「だったら二十匹!」
「十一匹」
「十九匹!」
「十二匹」
まるで競りのような二人の会話に、周囲の者は全員口をあんぐりと開けていた
利治も、賑やかさに気を引かれ一旦戻り、その光景を目の当たりに目をパチクリとする
「十七匹でどうだ!これ以上は負からんないぜ?!」
「じゃぁ良いわよ、他の者に頼むから」
そう言われれば、慌ててしまうのが人の性
「わかったわかった!十二匹で手を打っとくよ!」
「交渉成立ね」
「かぁー!俺の命も鮎十二匹分か。随分安いもんだなぁ、おい」
「命の安売りしたのはお前だろ・・・?」
想わず突っ込まずには居られない利治であった
「え・・・?終了、ですか・・・」
生駒屋の内定終了を帰蝶から聞かされた時、時親はほっとするような、女とはもう逢えない淋しさを感じるような、どちら付かずな気持ちになった
「お前が持ち帰った情報も、かなり役に立ったわ。お陰で義母上様の土田交渉も、すんなりことが運んだのよ。長きに渡る内偵、ご苦労様でした」
そう丁寧に頭を下げられては、こちらも深く平伏するしかない
下げた頭では帰蝶の顔は見れないが、自分も顔を見せずに済む
今の自分はどんな表情をしているのか自分でもわからないのだから、見せられない
男女の深い仲になってしまったとは言え、向うもこちらも初心(おぼこ)ではないのだから、割り切った付き合いができたはずだと自分勝手に完結し、時親はそれ以降小折には近付かなかった
帰蝶の犬山攻めも控えている
増してや、帰蝶が最も信頼する家臣の一人であった利家が突然逐電してしまったのだから、抜けた穴も大きい
それをどう埋めるかが当面の課題となっており、また、馬廻り衆筆頭でもある自分がふらふらしていてはいけないと、改めて気を引き締めることも考え、生駒の後家のことはこのまま忘れることにした
一日の業務を終え、自宅である清洲屋敷へと帰る
出迎えの使用人に混じって、いつもなら局処で預けられている子供達も自分の帰りを笑顔で迎えてくれた
「お帰りなさい、父様」
「お帰りなさい!」
「おや?今日は随分早い帰りだな」
屋敷を持っているのだから、子供らはここで留守番をしていても不思議ではないが、お能はいつも出勤には子供全員を伴っていた
お陰で他の使用人達も自分の子供を城に連れて行くのだから、局処はまるで託児所のような有様なのである
お能が夜勤の時は、当然のように子供らも局処で寝泊りする
時親はお能に肩書きが付いた頃から一人寝を強いられていた
「お帰りなさいませ、旦那様。夜食のご用意を致しましょうか」
出迎えの使用人である老婆が、子供らに囲まれた状態で応答に出る
「いや、城で握り飯を頂いて来た。軽く汗を流して、そのまま寝る」
「畏まりました」
「お能は、戻ってるのか?」
「はい、お戻りになられてます」
「そうか」
嬉しいような、できれば顔を合わせたくないような、この頃時親は、自分の気持ちがわからなくなることが多かった
『浮気』と言う、心の呵責が大きいのか
持ち家を持ってるとは言え、それでも家禄が高いわけでもない
清洲は那古野に比べて物価も高く、それは都会であるが故に仕方がないことだとしても、那古野時代のような大きな家を持てるわけでもなく、かと言って、斯波家旧家臣でもあり、今は馬廻り衆の筆頭と言う肩書きをも持つため、みすぼらしい家にも住めない
妻も相応の肩書きを持ち、尚更倹約のためと、家賃も格安な武家長屋には住めないし、世間体もあるため無理をして大きな家を持った
だからと言うわけでもないが、水や薪をふんだんに使う風呂は贅沢品で、たまにしか使わない
その辺りの事情は家人も良く承知しており、時親の許しがない限り風呂を沸かすことはしなかった
帰蝶が綺麗好きであるため、お能や子供達は局処の風呂を利用しているが、時親まで帰蝶の好意に甘えるわけには行かないと、まだ肌寒い梅雨前の裏庭に大きな桶を置き、微温湯にして入り、手拭で躰を拭う
これが当時の一般的な風呂であり、毎日たくさんの湯を使う風呂を用意させる帰蝶が変わっているのだ
その分、人の躰から出る異臭と言うものはなく、それを誤魔化すための香を焚く必要はなく、また、頭皮の油の匂いを消すための香油も不要であるため、寧ろ経済的ではあるのだが、それでも風呂に入って湯を浴びて汚れを落とすと言うのが、まだ普及していない時代だった
小さな戸板に囲まれた桶の湯が、ちゃぷちゃぷと音を立てる
「お疲れ様でした」
互いに再婚同士ではあっても、それでも新婚時代には自分の背中を流してくれていたお能を想い出す
同時に、密命を受けた後で知り合ったあの女との、躰の繋がりを持つきっかけとなった事件をも想い出す
どちらが重くてどちらが軽いかなど、時親には判断できなかった
「重苦しい雲ですね」
空を見上げ、盆を手にした菊子が帰蝶の本丸私室を訪れた
「丸は眠った?」
「はい、ぐっすり。先ほどまで局処で、慶次郎さんが遊び相手になってくださってたので、疲れたご様子でした」
「慶次郎は子供達の、良い遊び相手になってくれているようね」
「犬千代様の逐電で、一時はどうなるかと想いましたけど、慶次郎さんは犬千代様がお戻りになられるまで前田家を預かるけれど、跡継ぎにはならないってきっぱり仰ったそうですよ」
「慶次郎も、欲のない男ね」
「食欲は、人一倍ですけどね」
「言えてる」
菊子の的を射た言葉に、帰蝶は大笑いした
「ところで、このおにぎり、如何なさるのですか?」
盆の上には大きめに握られたお結びと、香の物、それから干し魚を焼いた物が載せられていた
「縁側に置いててくれない?できれば人目に付かないところに」
「はい。ですが、どうして?」
「最近、庭に雀がやって来るの。その雀に食べさせるのよ」
「ええ?ですが、おにぎりは兎も角、香の物とか魚とか必要なんでしょうか?」
「食い意地の張った雀だからね、色んな物が食べたいのよ」
「そうですか」
菊子もなつと同じように不思議そうな顔をしながら、帰蝶の命令どおり盆を縁側の隅に置きに行く
その菊子の足跡を聞きながら、帰蝶はたおやかに微笑んだ
「置いて参りました」
しばらくして菊子が戻る
「それじゃぁ、私は局処で寝ている丸の顔でも見て来るわ」
「ご同行致します」
「ありがとう」
部屋から二人の声が遠ざかる
「ところで、二人目の計画は、どう?」
「そ、そんな、今のところないですよ」
菊子の慌てた声の後を、庭先の植え込みが揺れる音と重なる
それに気付かず、二人は本丸を後にした
利家が姿を消して一ヶ月、この頃は漸く城の者も利家の想い出話をするようになって来た
時々、帰蝶が本丸の私室や局処の私室の近くにこうして、何かしらの食べ物を置くようになったのも、利家が消えて以降のことだった
今日はいつもの握り飯の他に、竹の皮で包んだ握り飯と、茶を詰めた瓢箪を置いている
まるでその、庭先に降りる雀への手土産のように
人気が消え、辺りに誰も居なくなった頃、茂みがカサカサと揺れ、それからしばらくして、その茂みから男が出て来た
周囲の気配を探りながら、盆の置かれた縁側に小走りで駆け寄る
それから、待っているかのように置かれている盆に手を合わせた
しかも今日は、弁当のように竹皮の握り飯と、信長が腰にぶら下げていたのと同じ瓢箪が置かれてある
男は小さく呟いた
「 奥方様・・・・・・」
握り飯を掴み、空腹に大きな口でがっつく
塩気が利いていて、美味かった
それから、保存食でもある干し肉に気付いた
いつでも干し肉は大事な食料で、簡単に食卓に載るようなものではない
齧ってみたら、肉の中でも高級な牛であることがわかった
男の頬を涙が伝う
帰蝶が嫁いでから織田は肉食になったが、それでも比較的手に入りやすい馬の肉が主流だった
牛はこの頃まだ食用としては不十分で、それでも時折は食卓に上ることはあっても馬のように頻繁ではない
その大事な肉を、帰蝶は潜伏生活を送っている利家のために、盆の上に載せてくれていた
少しでも体力を付けろと言う真心だろう
その気持ちに利家はボロボロと涙を流しながら、握り飯と干し肉を交互に貪った
裏庭での行水を終え、小袖を着直した時親が母屋に戻って来る
大尽ではないので、付き添いなどない
一人で寝室に向い、自分の手で襖を開ける
途端に、部屋の中の明るい光が目を刺激した
「 お能・・・?」
「あ、お帰りなさいませ」
寝間着に着替えた妻が、振り返る
寝室に文机を運んで帳面を付けているのか、手には筆が握られていた
「もうお休みになられます?ごめんなさい、直ぐに片付くと想っていたのだけど、あれもこれも欲が出ちゃって」
「いや・・・」
「この頃米が高騰してるみたいですね。犬山が清洲に仕掛けて来るって噂が立っちゃって、またここで戦が起きるかも知れないって物価も上がり気味。局処でも米が高騰してしまって、大変なんですよ」
「須賀屋はどう言ってる?」
お能の居ない布団に腰を下ろしながら時親は聞いた
「米の買占めが始まってしまって品薄だもんだから、どうしても値段を上げて買占めを抑えなくちゃいけないんだって言ってます。清洲だけじゃなくて、末森の方にまで米高騰の影響が出てるみたいですよ」
「それじゃぁ、犬山と早く決着を付けんと、どうしようもないな」
「ええ、本当に。でも、できることなら戦なんて起きて欲しくないですよ。戦は大事なものを持って行きますから」
「 」
何気ない妻の一言に、戦で死んだと言うお能の前夫を想い浮かべた
「なあ、お能」
「はい、なんですか?」
一度机に向き直したお能が、再び自分の方へ振り返る
「お前の前の亭主は、どんな男だった?」
「 へ?」
今まで一度も聞いたことがないのを、どうして急にと、お能はキョトンとした顔をする
「どうしたんですか?あなた」
清洲の中でも一~二を争うほど、妻は美しかった
勿論、帰蝶とは意味合いの違う美貌と言う意味でだが
「どんな男だった」
こちらの問い掛けには一切応えず、自分の想いだけを伝えようとしている
目が、いつもの夫のものではなかった
断れず、お能は正直に応えた
「特にこれと言った特徴もありませんでした。毒にも薬にもならないような人で、だから出世とは程遠い人で」
「そうじゃない。どんな性格をしていた。お前を大事にしてくれたか。周りの評判はどうだった」
「あなた・・・」
「どんな風に、お前を抱いた」
「 」
生真面目なお能は、生真面目な夫の豹変振りに胆を抜かれた
目を見開き、呆然とした顔で自分を見詰めるお能に、時親は手を伸ばして呼ぶ
「来い、お能」
「 ちょ・・・、帳面付けが終わりましたら・・・」
「来い!」
「 ッ」
突然叫び声を上げる夫に、お能は肩を震わせた
上手く立ち上がれないのか、膝を付いたまま四つん這いで布団の上に乗る
そのお能の腕を掴むと、時親は一気に自分の方へ引き寄せた
「あッ!」
躰を崩し、夫に凭れ掛かるように引き摺られる
「あなた・・・ッ!」
驚くお能を構いもせず、時親はその上に圧し掛かった
相手は自分の亭主なのだ
もう何年も連れ添っている
子供も大勢居る
今更恥しがる相手じゃない
それでも
時親はお能の寝間着の柔帯を、乱暴な手付きで剥ぎ取った
今夜の夫は、いつもの夫ではなかった
「あッ!あぁッ!」
悶える、と言うより、責めに遭い苦悶しているような、そんな声がお能の口から溢れる
その腰は、慈愛を感じさせぬ乱暴さだった
深くお能を突き、激しく攻め立てる
「お能、こう向け」
一度躰を離し、お能を四つん這いにさせる
「え・・・?」
そうして、どうするのか、お能にはわからない
少し朦朧としているお能を、時親はそのまま背後から突いた
「あぁぁッ!」
まるで獣の目合いのような情交
疲れた躰で屋敷に戻ったお能には、耐え切れない攻め
夫はこんな人だっただろうか
こんな、獣のような性交を好む男だっただろうか
絶えず流れるお能の悲鳴に、時親は恍惚となった
『自分よりも上』の妻を征服している幸福感に満ち溢れた
白く滑らかなお能の背中が淫猥にくねり、四人も子を産んだその『道』は、時親を妖しく締め付けた
誘っているわけではない
寧ろ自分から逃れようとしているお能の腰をしっかりと掴み、何度も、何度も穿つ
「も・・・、もう・・・・・・・・ッ」
やめて、と言いたいのか、いく、と言いたいのか
お能はそれをはっきり言わない
言えないまでに攻められる
突然肩がガクッと布団の上に落ち、その部分が激しい伸縮に苛まれる
それでも、時親は攻めの手を休めなかった
まるで自分をも責めるかのように
放出してしばらく、ピクリとも動かない妻に漸く気付く
「お能・・・ッ?!」
慌てて上向かせたお能は気を失い、目蓋を閉じていた
「お能!」
自分は、大事な妻になんてことをしてしまったのだ、と、初めて自責した
「お能、お能・・・!」
触れるように頬を何度も叩き、お能を目覚めさせようとする
見合いの席で顔を合わせたお能の、余りの美しさに、時親は夢を見ているのではないかと自分を疑った
信長からはかなりの美形だと言うことは聞かされていたが、結婚歴があり、早世したとは言え子供も産んでいるのだから、期待はしていなかった
本当に美形だったなら引く手数多だろうと想うのが当たり前で、いつまでも後家を貫いている方がおかしいと考えていた
ところが、実際顔を合わせたお能は自分が想う以上の女性で、しかも躾の厳しい家庭で育ったのか、行儀も武家並みで、誰に逢わせても自慢に値する人格者であった
時親は忽ちお能の虜になった
それなのに
「 あなた・・・」
「お能・・・ッ、気が付いたか・・・ッ?」
「 」
まるで娼婦のように燃え上がった自分を慙じ、お能は俯いた
そんなお能に、時親は謝す
「すまんかった、お能。どうかしていた」
「あなた・・・」
「お前に触れられるのが久し振りだったから、つい羽目を外してしまったのかも知れん・・・」
「私こそ・・・。そうですね、ここのところ私も忙しさに感けて、あなたを蔑ろにしていたかも知れません。申し訳ございませんでした・・・」
「いいや、お能」
それ以上を口にしたら、まるで言い訳にしかならないと想い、時親は口を詰むんだ
浮気相手の女を抱くように妻を抱いたなど、言える筈がない・・・・・・・・・
今年は梅雨が早いのか、この頃ずっと重苦しい雲が空を漂っている
いつ雨が降ってもおかしくない空に、子供達もしばらくは部屋の中で遊んでいた
漸く独り立ちができるようになった帰命は、周囲の兄貴分、姉貴分に負けじと精一杯立ち上がり、精一杯走り回っていた
初めての子は成長が遅いと言うけれど、局処には大勢の子供が居るからか帰命には当て嵌らなかったようで、目にも嬉しいほどすくすくと育っていた
特に年の近い瑞希 弥三郎と菊子の一人娘とは、仲が良い
見ていても実の姉弟のように仲良くしてくれている
外交でどんなに心が荒んでも、局処に来ればたちどころに癒される
そんな想いに帰蝶は、時折帰命を連れて局処に戻っていた
帰命にも遊び相手が必要だ
本丸は大人の世界なのだから
いつものように帰蝶の居間で遊んでいる子供らを眺めている帰蝶の耳に、声が聞こえた
「奥方様。お寛ぎ中を申し訳ございませんが、小牧より丹羽様がお戻りになられました」
襖の向こうから貞勝が声を掛ける
「わかったわ、今直ぐ戻る」
部屋から出しな、帰命を残していくとこを伝えた
「仕事の邪魔になるだろうけど、帰命をお願いね」
「お安い御用でございます。おやつは、こちらでご用意しましょうか」
「そうね。瑞希と機嫌よく遊んでるから、眠そうにしたらそのまま寝かせてやってくれる?」
「はい、承知しました」
時親と弥三郎の妹、さちが帰蝶の局処の管理人を始めてから、市も頗る調子が良い
庭前の縁側でそのさちと遊んでいる声が聞こえた
「市も、元気を取り戻したみたいね」
「はい。さちが来てくれたお陰でしょうか。釣り合った年頃の娘と言えば、お能様の長女・那生殿くらいなものでしたが、やはり那生殿もまだお小さいので、遊び相手には不十分のようでしたから、尚更嬉しいのでしょう」
異腹の姉に当る稲や犬も居るが、やはり年が釣り合わず、増してや稲はこれから誰かの許に嫁ごうかと言う年齢でもあるため、遊ぶよりも先に母のなつから花嫁修業を言い付けられていた
手毬やお手玉で遊ぶことよりも、華道や茶道に勤しめと言われている
「子供は大勢居るのに、それでもやっぱり女の子の数が少ないものね」
そう、他愛ない話をしながら本丸に戻る
戻れば長秀が執務室で待っていた
「待たせたわね。小牧の方は、どんな様子?」
「はっ。大方様が土田家との提携を成功なされたお陰で、犬山も随分慎重になりましたが、その土田家から早速情報をいただきました」
「どんな情報?」
「斎藤家が、近江・六角家と婚姻による同盟を組んだと」
「斎藤が、六角と・・・ッ?!」
帰蝶の目が見開かれる
六角は、その先祖が佐々木家
近江全体を支配していた佐々木家の血筋で、今も強大な相手であった
その六角と手を組んだということは、兄・義龍も本腰を入れて織田家に対する警戒を強めたということである
「待って・・・・・・・・・」
帰蝶に、嫌な考えが浮かんだ
「斎藤が、六角と手を結んだということは・・・・・・・・・・・・」
「はい」
青い顔をする帰蝶に向って、長秀はきっぱりと言い切った
「これで今川の目標が、我ら織田に定まったと言うわけでございます」
「 」
帰蝶は言葉を失くした
今川が何れ上洛を果たそうとしていることは、離れた尾張に居る帰蝶にもわかる
そのために、少しずつ三河を切り崩しているのだから
東海一の弓取りが海沿いに京を目指すにしても、途中の伊勢湾が邪魔である
増してや、伊勢を越えた先には小国ながらも、強大な力を持つ伊賀が存在する
未だ嘗て誰一人として伊賀を支配できなかったことから見ても、今川とて兵力を消費しながら伊賀を抜けると言うのも無理がある作戦だった
ならば定石どおり内陸を伝って京を目指すとあれば、この尾張・清洲か、あるいは美濃・中山道を通らねば近江には辿り着けない
美濃には斎藤がある
近江には六角がある
二国を戦いながら抜けるのも、今川にとってどれだけの損害を与えるかわからないのだ
その六角が斎藤と手を組んだとあれば、今川が斎藤を攻めれば六角が出て来る
斎藤を打ち破り近江に入ったとしても、正面から六角、背後から斎藤に攻められる
ならば、考えられる安全策は織田を潰して尾張を通過し、勢力も落ちた国主の居る伊勢を併呑、危険な伊賀を迂回して山城に入れば、今川の損失も少なく見積もれる
つまり
今川は織田を攻め滅ぼすつもりだ、と言うことしか、結論は出なかった
現に三河の半分は今川のものであり、これまでにも何度か三河の織田領は今川に攻められている
それを何とか押し留め駿府に引き返してこられたが、今までのそれが小手調べだったなら、帰蝶は自分が今川を押し返すことができるのかどうか、わからなかった
その自信もなかった
「早急に手を打たねば、今川が攻め込んで来るのも時期が早まるかと」
「ええ・・・・・・・・・・」
どれだけ外交政策を強化しても、その外交を結んでいる相手が今川に潰されれば、全く意味がなくなるのだ
今の帰蝶が手を組んだ相手と言えば、東美濃の遠山家と、可児の土田家くらいなものだった
伊勢の坂家は自分が守ってやらねばならない存在であり、救援の対象にはなり得ない
正面の斎藤にばかり目を向けて、肝心の今川への対応が遅れた
これは自分の責任だと、帰蝶は想った
黒い雲は夜になっても晴れず、月を覆い隠してしまう
今夜はいつもより多めに行灯を置いたが、それでも明るさには不十分だった
夜食にと、なつが運んでくれた湯漬けを文机の上に置き、ふとその盆を持って縁側に出た
夜は見張りの数も多いが、もしかしたらと言う気持ちになって、しばらくそこで待ってみる
やはり気配はしなかった
「 そうよね。今日はこんな空だから、警備もいつもの倍。然う然う来れる筈がないわよね」
そう、小さく呟く
「雀だから、夜目に弱いのかしら」
心弱く笑ってみるも、応えてくれる者は居なかった
「 」
言葉がなくなり、黙り込む
黙って自分の膝を見詰め、何もできない無力さに腹が立った
「私は、吉法師様が築いた物を守るので精一杯。結局、何もできないままなんだわ・・・!」
悔しさに、涙が零れて来そうになるのを、帰蝶は口唇を噛み締めて耐えた
その帰蝶の耳に、声が聞こえた
「 そんなことないですよ」
「 ッ!」
驚いたことに、声は縁側の下から聞こえる
帰蝶は目をいっぱいに広げて半ば立ち上がり掛けた
「奥方様は、まだ戦に馴れてないからそう想うだけで、戦場に立てば違って来ますよ」
「 犬千代・・・」
小さく、その名を呼んだ
「出ておいで」
「いえ」
利家が断った直後を、見回りの家臣が松明を持ってやって来るのが見えた
「奥方様。お休みにはなられてないのですか?」
「そろそろ寝ようかと想っていたの。明日の天気が気になったから」
そう、慌てて取り繕う
「夜分は物騒ですから、お早めにお休みください」
「ありがとう」
その家臣が立ち去るのを見届け、帰蝶は再び小さな声で呟いた
「私に、織田を守れる?」
「守るために、刀を抜いたんじゃないんですか、奥方様」
「そうだったわね・・・」
「ここのところ平穏だから、奥方様は忘れたんですか?稲生に立ったあの日のことを。勘十郎様をご成敗なされた日のことを」
「 」
「奥方様。殿を名分に使うのは構いません。ですが、どうかご自分の判断で行動なさってください。あなたのその頭で考え、動いてください。河尻さんもみんなも、そんな奥方様に付き従うつもりがあるからこそ、奥方様を織田の惣領と認めたんです。その自信を失わないで下さい」
「犬千代・・・・・・・・・・」
「斎藤が六角と手を組んだとか」
「あなたの耳にも入ったの?」
「斎藤は、奥方様を試すつもりです。いえ、向うはまだ殿が生きていると信じているのでしょうが、織田を試し、今川を尾張に向けさせ、それから織田を飲み込むつもりです。今川に弱体化をさせた後で。奥方様も読んでらっしゃるのでしょう?だから珍しく手を拱いていらっしゃる」
「 」
利家の声に応えられなかった
その通りだと想ったから
勇み足で今川に立ち向かって、返り討ちに遭えば容赦なく斎藤が襲い掛かって来る
だから、動けなかった
斎藤か、今川か
どちらに向けば良いのか、わからない
そんな帰蝶に、利家は告げた
「犬山が、小牧を頻繁に視察しているそうです」
「五郎左衛門は何も言ってないわ」
「そうでしょう。平民に紛れて、遠巻きに見ていますから、現場に居る五郎左衛門さんは気付いてない。だけど、何れはわかるでしょう。犬山が動くことを。ですが、犬山を抜けるには岩倉が邪魔です」
「わかってるわ。でも、やらなきゃならない」
犬山を沈黙させるための一戦を
「奥方様」
その声は、有事の際は必ず馳せ参じるとの想いに溢れていた
「犬千代。出てらっしゃい」
「でも・・・」
「湯漬け、冷めちゃうわよ」
「 」
誘ってくれる帰蝶の声に、利家は応えられなかった
二人が一緒に居るところを誰かに見られれば、帰蝶が関与していると勘違いされる
それが怖かった
「わかったわ。私は部屋に引込むから、その間に召し上がりなさい」
「奥方様・・・・・・・」
「まつ、ね、長屋に居るわよ。内職をして、あなたの帰りを待ってる」
「 ッ」
縁の下から明らかに動揺した気配が感じ取れる
「顔、見せてあげて。きっと安心すると想うから」
「 はい・・・・・・・」
「それじゃ、ゆっくり召し上がりなさいな」
そう言うと、帰蝶はさっさと部屋に戻った
去った後をそっと、縁の下から這い出て来る利家は、帰蝶が残した盆に向って強く手を合わせ、一度頭を下げた
「いつも、すんません。奥方様・・・・・・・」
今日は手土産の竹皮はなかったが、期待もしていない分落胆もない
その代わりなのか、保存食にしている松の実が桜紙に包まれて置かれてあった
「奥方様・・・・・・・・・・」
自分の持ち寄る情報が帰蝶の役に立つのなら、いくらでも走り回ろう
利家はそう、決意した
攻撃の手は休めない
精神的にも肉体的にも犬山を追い詰める
背後には岩倉を残してあるため、長居はできない
その岩倉を抑えてくれている信光も、そろそろ年を感じさせる年齢になっていた
無理はさせられない
持久戦にだけは持ち込まないよう一極集中で攻撃を仕掛け、犬山を疲弊させるつもりだった
追い討ちを掛けるように、可成の部隊が作戦通り犬山を追い立てる
まるで狩猟馬に追われる兎のような光景だった
その犬山の兵を、正面から勝家の部隊が叩き込む
見ていて爽快な気分にはなれたが、その直後、犬山から停戦協定の話が持ち込まれた
一方的にやられっぱなしで立て直すことも侭ならず、どんどんと兵力が落ちる上に士気も下がっている
この状態で戦を続ければ、清洲に飲み込まれるのが落ちだと想ったのだろう
実際帰蝶も、敗北でなくとも結果が出ればそれで良いと想っていた
今、犬山を落としても、管理し切れるだけの余力はないのだ
岩倉に分断され乗っ取られては、それこそ無意味な戦いに終わってしまう
当面の間だけでも清洲に歯向かわなければ良し、と考えていた
本陣は小高い丘の上にあり、そこから眺める景色は美しいとか壮大とかではなく、無様であった
「新五」
帰蝶の『鷹の目』は、実弟の姿を捉えている
可成の部隊に紛れて馬を走らせてはいるが、先導しているのは馬引きの佐治であり、利治は周囲の森隊に追い立てられて疾走しているようにも見て取れた
おまけに先頭は慶次郎に守られ、これでは出撃した意味が全くない
可成の部隊に混じって走っているだけで、自身は何もしようとしない、ただ流されているだけのようで、手にした槍すら振れていなかった
帰蝶の口唇から流れる実弟の名は、心配している風ではなく、手も足も出せない弟の不甲斐なさに腹を立てた呟きだった
「河尻」
「はっ!」
「新五を黒母衣衆に放り込んで」
「え?」
帰蝶の突然の申し出に、秀隆はキョトンと目を丸くした
「末席で良いわ」
「しかし・・・」
「雑用でも何でも、兎に角仕事をさせて。あんな、槍働き一つできないような出来損ないには、少し灸を据えた方が良いのよ」
「 はい」
それは、嘗て市弥が信長を見限った時と良く似ていた
精鋭揃いの母衣衆でも、黒母衣衆は特に厳しい戒律と教育が施される
所属しているのは何れも各家の跡取りであり、何よりも大事な長男だけで形成されていた
つまり、『選ばれた者しか入ることを許されない』特別な部隊なのだ
その黒母衣衆で一から教育し直しと言う結果に終わり、利治は姉の厳しい処罰に肩を落とした
『斎藤帰蝶の実弟だから』、『織田家当主の弟だから』と言う肩書きは、何の意味も成さない
いや
逆に、その姉から突き放される結果になった
犬山織田との停戦協定は無事終了し、双方口出ししないことで合意
帰蝶の狙い通りの結果にはなったが、利治にとっては自分の無力さを実感し、そして、姉が『身内』にですら厳しく対処しなくてはならない立場であることを、今更のように知った
「それにしても奥方様、犬山に挙兵の準備があることをよく察知なさいましたね。丹羽さんでも気付かなかったのに」
帰り際、隣に並んだ恒興がそう言って来た
「後もう少し対応が遅れたら、この程度の小競り合いでは済みませんでしたよ。どちらで情報を入手されたんですか?」
「耳の良い雀がね、教えてくれたの」
「へっ?雀、ですか?」
「そう」
にこっと笑う帰蝶に、恒興はただ目を丸くしてキョトンとする
「もしかして、最近庭先に現れると言う大食らいの雀でしょうか」
「さぁ~?どうかしらねぇ~」
そう白を切ると、帰蝶は松風の足を速めた
置いてけぼりを食らった恒興は、慌ててその後を追う
「待ってくださいよ、奥方様ぁ~!」
「新五様を黒母衣の雑用係に?!」
勝敗が出たわけではないが、ともかくこちらが有利に終わった犬山戦から帰還した帰蝶は、なつに利治の今後の身の振り方を伝えた
驚きで目が釣り上がっている
「正気ですか、奥方様」
「正気よ」
「ですが、河尻殿はああ見えて教育が厳しいんですよ?」
「知ってるわよ。だから、精鋭中の精鋭と呼ばれているんでしょ?黒母衣衆は」
「だったら、何故大事な新五様を黒母衣衆なんかに」
「大事だからこそ、入れるのよ」
「奥方様・・・」
「今日の新五の戦い振りを見て、私は落胆したの。確かにあの乱戦の中を生き残ったのは慶次郎のお陰だとしても、新五の力量だって大きかったはず。でもね、今日はたまたま生き残れたかも知れないけど、この次はどうかわからないの」
「お考え直し下さい、奥方様。新五様はまだ十四です。結果を求めるには、早過ぎます」
「早いに越したことはないのよ、なつ。あなただって常日頃言ってることでしょ?」
「ですが・・・・・・・」
承服しかねる顔をするなつを、帰蝶は口説いた
「聞いて。あなたは新五を実の息子のように想ってくれているのは、わかる。あなたは慈愛に満ちた女性だもの。他人の子でも、関わりを持てば愛することができる。だから、私はあなたに新五を託したの。それは間違った選択だとは想ってない。今もあなたに任せて良かったと想ってる。あの子の織田での評判も上々なのは、あなたが対人についてのあり方をしっかり教えてくれたからだと想ってる。だけどね、それだけじゃ駄目なの。あの子は織田が握る唯一の『道三の子』なのよ?新五のためにと私達が、斎藤を攻撃できる大義名分なの。だけどね、なつ、人の心を掴むには、どうすれば良い?誰よりも先頭に立ち、誰よりも多くの傷を受け、誰よりも多くの首を挙げなくては、誰も新五を心から認めてはくれないの。今のままじゃ、新五はただの『斎藤帰蝶の弟』でしかないの。そこから一歩も先に進めないの。それは新五のためにはならないのよ」
「 」
「私も、それまでは新五を死なせたくなくて、できる限り安全な場所に居れば良いと想ってた。でもね、三左の部隊に入れた時、あの子は何の役にも立ってなかった。ただ馬を走らせてるだけ、寧ろ周りにとっては邪魔なだけだったの。私は、それがとても悲しかった」
「奥方様・・・・・・・・」
「だから、決めたの。あの子のためになることは、なんだろうって考えて、一生懸命考えて、その結論が、自分には後ろ盾なんてないんだってことを自覚させることなの。自分の手で生き残り、自分の手でご飯を食べることなの。そうじゃなきゃ、あの子はいつまで経っても『斎藤の御曹司』と言う座布団を捨てることができない」
「・・・・・・・そう・・・ですか・・・・・・・・・」
熱心に語る帰蝶のその目は、織田の惣領としての貫禄もさることながら、弟を一日でも早く一人前の武将に育て上げたいという想いに溢れていた
それは自分のためではなく、織田で生きる利治のためなのだと言う想いが強い目をしていた
「 わかってますよ・・・。奥方様がそんな眼をした時は、何を言っても聞かないってことくらい」
「なつ」
「だけど、成果を急げばそれは、新五様の負担にもなります。もしもそれで潰れてしまっては、どうなさるんですか」
「だから、あなたに任せたんでしょう?他人の子である新五を、そんなにも真剣に心配してくれるあなただからこそ、私は弟を任せたのよ?」
「奥方様・・・」
「 これ、私も言われたばかりなんだけど」
帰蝶は苦笑いしながら言った
「私は、あなただからこそ、新五を任せたの。その自信を失わないで」
「奥方様・・・・・・・・・・・」
「あの子なら、大丈夫。きっと、一人前の武士になれる。だから、なつ」
「はい」
「あの子の荷物を纏めて、追い出してちょうだい」
「奥方様?!」
帰蝶の言葉に、なつは再び驚く
「今日から武家長屋で暮らさせるわ。炊事も洗濯も、自分でさせるの。手伝いは無用よ?良い?」
「 」
急にそこまで突き放さなくてはならないものだろうかと疑問に想いながらも、なつは不承でも利治の荷物を纏めるよう侍女に言い渡した
犬山から戻った矢先に、清洲から出て行けと言われた
祝勝会もまだ終わってなかった
「新五様・・・」
自分の面倒を見てくれていたなつだけが、その見送りに出る
「世話になりました、おなつさん」
「何のお役にも立てず、申し訳ございません・・・」
深々と頭を下げるなつに、利治は慌てる
「頭なんか下げないで下さい、おなつさんッ!失くした家の温もりを教えてくれたのは、おなつさんです。ここの局処で笑って過ごせたのも、やっぱりおなつさんのお陰です」
肩を掴んで励まそうとしてくれる利治に、なつは涙が滲んで仕方がなかった
「姉上がここで、どれだけ厳しい状況に置かれているのかも知らず、安穏と過ごしていた私が愚かでした。もっと武功を上げれるような武将にならなくては、姉上が私を拾ってくださった意味がないのだと、この戦で気付きました。だから、姉上が必要としてくれるような武士になれるよう、私は精一杯がんばります。元服の時の宣言を守れるような、立派な武士になります。それが、おなつさんへの恩返しだと想ってます」
「新五様・・・・・・・・・ッ」
「だから、泣かないで、おなつさん。笑って見送ってください。ね?」
「 」
ぐすぐすと鼻を啜りながら、なつは何度も頷いた
その光景を離れたところから見守っている帰蝶に、道空が声を掛ける
「ご心配なら、お側で見送って差し上げればよろしいではございませんか」
「それがあの子のためになるのなら、いくらでも見送るわ。でも、今のあの子に私は、逃げ道にしかならない。あの子のためにはならない」
そう言い捨てると、帰蝶はさっさと本丸に戻ってしまった
「 素直じゃないところは、相変わらずでございますな、姫様」
道空は苦笑いをして、そんな帰蝶の背中を見送った
秋、可成の妻・恵那が待望の第三子を産んだ
父が美濃から命懸けの逃亡を果たした後、武家長屋で家族で暮らしていたため、帰蝶への可成の報告も遅れがちだった
増してや犬山と睨み合いを続けていたのだから、伝えるにしても恵那の懐妊を喜んでいる場合じゃない
それでもささやかながら祝いの品を送り、恵那には滋養の効く食べ物を揃えて届けた
「次は菊子ね」
「だから、そんな暇ありませんて」
照れながら応える菊子の側に居たお能が、もじもじとした顔で告げる
「あの・・・、奥方様・・・」
「どうしたの?お能」
「お腹でも空いたんですか?」
「そうじゃないわよ」
からかう菊子に、お能は顔を真っ赤にして反発した
「何かあったの?」
「あの・・・、えっと・・・、私も・・・・・・・・」
「お能も、なぁに?」
「えっと・・・」
「どうしちゃったんですか?お能様らしくない。何はっきりしないんですか」
「お菊ちゃんは黙ってて!」
「ええ?!」
お能らしくもない、突然の豹変振りに菊子は目を丸くして驚いた
「あの・・・、私も、そうです・・・」
「え?」
「私も、妊娠しました・・・」
顔を隠すように俯いて報告するお能に、帰蝶も菊子もなつも、目を丸くした
「ええ?!」
「お能様、ご懐妊ですか?!」
「こっ、声が大きいわよ!」
「えー・・・、お能が・・・」
帰蝶にしては珍しく、心が呆ける
「五人目ね」
「はい・・・・・・・・」
「高齢出産になっちゃうわね」
「三十路ですからね・・・」
帰蝶の至極当然な呟きに、女のお能はどうしても泣きたくなる
女にとって年齢は、大事なものだった
「大丈夫?」
「がんばります」
間に居る菊子は、何をがんばるのか聞きたい気分になった
「予定日は?」
「医者の見立てでは、来年です。来年の、春か、梅雨時じゃないかって」
「そう。春なら産みやすいけど、梅雨だったら産後を大事にしないといけないわね」
「ええ」
「だったら、何してるの」
「は?」
「今直ぐ屋敷に帰って、のんびりなさい!」
「で、でも、まだお腹も出てませんし、大丈夫ですよ」
「何が大丈夫なの?お能、自分の年を考えてちょうだい」
「奥方様、その言葉は胸に突き刺さります・・・」
お能は頭から汗を浮かばせた
「丈夫ないい子を産んで欲しいのよ。局処のことは、なんとかするわ。巴が居るんだもの、しばらくはあなたの代わりをさせるから、お能は何も心配しないで、お腹の子を大事にして。良い?」
「奥方様・・・」
慈愛深い一面もあり、冷徹な一面もあり
だけどそれが、姉の全てだと想った
「新五!早く届けて来い!」
「は、はい!今直ぐ!」
馴れない使いっ走りに利治は、朝から晩まで怒鳴られ続けている
それが帰蝶の弟だとて遠慮するなと、筆頭である秀隆からも厳しく通達されており、逆に遠慮すれば自分達が叱責された
「遅い!」
「すっ、すみません!」
届けた書類の束で頬を張られ、取って返した脚で黒母衣詰所の掃除を言い付けられる
「さっさとせんか!」
鍛え抜かれた部隊は誰も一国の城主たる風格を持ち合わせた者ばかりで、ある程度の経歴がなければ入隊など決して認められない
そんな特別な場所に、なんの武功もなしに入れたこと自体が『特別待遇』である
奥方様から預かった大事なお方としても、敢えて心を鬼にして厳しく対応する者も居れば、やはり『特別待遇』で入った利治が気に食わないと、虐めのような体罰を与える者も居た
「お前は雑巾掛け一つ満足にできんのかッ!」
掃き掃除の後に廊下の雑巾掛けは当たり前で、その雑巾を絞った水の入った桶を頭から引っ繰り返される
「ちゃんと後始末して置けよ?」
そう、廊下に唾を吐き捨てる先輩も、確かに居た
頭から雫を垂らし、悔しさに利治は口唇を噛み締める
斎藤の末子として、父が死ぬまでずっと、何不自由のない生活を送っていた
それは父が死んでも同様で、姉の保護を受け、清洲の局処の暖かい場所で大事にされて来た
そんな自分が今、薄汚れた雑巾を絞り、汚れた廊下を磨かなくてはならい上に、汚れたその水を頭から被せられる
どうしてこんな生活を送らなくてはならないのだと、理不尽さに歯軋りした
『斎藤の御曹司』が、何故こんなところで小間使いのように扱われなくてはならないのだと
だけど、それが気に食わないからと言ってここを出ても、自分には行く宛などなかった
母は美濃で斎藤の監視下に置かれている
半ば幽閉状態が続いていると報告を聞いた
その母を救いたい気持ちはある
だけどその前に、誰か自分を救ってくれないだろうかと言う、甘い考えも時々は湧いた
「新五!何を愚図愚図してる!さっさと片付けて、馬の世話をせんかッ!」
「は、はい!」
自分よりもずっと年上の男ばかりだから、口答えなど怖くてできない
先輩が立ち去った後を利治は俯き、悔し涙に呟いた
「 もう、嫌だ・・・ッ。出て行きたい・・・ッ」
できもしないのに、そう呟く
そんな利治を、秀隆が物陰から見守っていた
夕餉の時間になって漸く、一日の仕事が終わった
母衣衆なのだから、戦の時だけ働けば良いものと考えていたが、正式な加入ではないため利治の肩書きは『見習い』だった
それでも敵情視察に交代で城を出ていれば、一日などあっと言う間になくなる
詰所で一日分の知行を日払いでもらい、帰りに買い物をして武家長屋に戻るのがこの頃の習慣だった
まだなんの功績もない利治の知行は、精々串団子五本分にしかならない
昼間は城で食事が出るから良いとしても、安い日給では朝と夜は到底賄えなかった
おまけに月末になれば家賃を取られる
自分は入りたてなので家賃も日割り計算をしてもらえるが、来月になれば一ヵ月分をそっくり払わなくてはならなかった
とてもではないが生活できないと、利治にも理解できる
なんとかして遣り繰りをしなくては、と考え、ぐーぐーと鳴る腹を擦り空腹と戦いながら清洲城近くの武家長屋に戻った
その利治の部屋の扉が薄開きになっている
まさかこんな何もない部屋に泥棒が入るのかと、利治は慌てて部屋に飛び込んだ
「この、盗人め!」
「え?」
玄関先に置いてあった閂用の棒切れを掴み、部屋の中に居る人物に振り下ろそうとした瞬間、空きっ腹だった利治の鼻腔が味噌汁のいい香りを嗅ぎ取った
「新五さん、落ち着いて。私よ、さちよ」
「え?」
よくよく見れば、薄暗い中にさちの顔がある
「さち?なんで私の部屋に?」
「えーっと、それは言うなと言われてるんだけど、新五さん、帰って来るの早すぎ」
「え?私が悪いのか?」
「そうよ。こっそり作って、こっそり帰るつもりだったんだから」
「へぇ・・・」
聞けば、局処で自炊ができるのはなつと自分だけだったので、行って来いと命じられたと言う
お能は無理矢理産休を取らされており、先日から局処には居ない
菊子は本丸付けであるため城から離れられない
他にも主婦は大勢居るが、手の空いている者の中でと選別すれば、さちだけしか残らなかった
それを指示したのが誰なのか、利治にはわかっていた
だけど、敢えてそれを口にはしなかった
ただ、さちがそこに居るだけで、部屋が暖かく感じられた
さちの作った味噌汁の香りが、疲れた利治の心を優しく包み込んでくれた
どうしてだろうか、今はそれだけで充分幸せだと感じたのは
わからないけれど、今はただ、幸せだった
乾いた火薬の弾ける音に、本陣の帰蝶は目の前に広げられた布陣図を眺めながら、まだ細い指先を指し示した
「ここ、背後が林になってる」
「ええ。杉林ですね。群生しているものですから、進軍には不向きな場所です」
「なら、ここから突付けば、犬山は驚くかも知れないわね」
「ですが、それなら少数でしか進めません。大軍相手では勝ち目はありませんよ」
「そうかしら。精鋭部隊でなら、可能かも知れない」
「どの部隊を配置させるもつもりですか」
佐久間信盛の質問に、帰蝶はその人物をちらりと見て言った
「三左、出て」
「はっ!」
梅雨が明け、夏の空が近くなった頃、帰蝶の、犬山攻めが始まった
「新五」
「はい!」
「三左の部隊に合流して」
「え?!」
比較的安全な本陣に居た利治は、姉の突然の出撃命令に目を丸くする
「わ、私がですか?」
「権」
「はい」
利治をそっち退けて、今度は勝家に声を掛ける
「三左の部隊で犬山を背後から突付くから、出て来たところを叩ける?」
「お茶の子さいさいでございます」
「じゃぁ、出て」
「承知」
自分と違って、さっとその場を離れる勝家を、利治は呆けた目で見送った
そんな利治を帰蝶は怒鳴り付ける
「何してるの、新五!早く三左の部隊と合流しなさい!」
「は、はい!姉上!」
佐治は侍見習いとして、利治の馬引きをやっていた
利治よりも度胸があるのか胆が据わっているのか、こちらはいつでも出撃できるよう馬の準備は既に整っている
「若様、早く」
「わかってるって!」
年が近い所為か、主従と言うよりも幼馴染みのような雰囲気にある二人を眺める帰蝶は、目をそのままに慶次郎にも声を掛ける
「慶次郎、新五の護衛に回って」
「ははっは、なんだかんだ言っても奥方様、新五のこと心配してるんじゃぁないですか」
「何言ってるの。あの子は最後の『道三の血を受け継ぐ』者よ?何かあったら一大事。美濃攻めの折には、あの子の存在も大事になって来るのを、こんな小競り合い程度の戦で失うわけには行かないのよ。ごたごた言わないで、追い駆けて」
「だったら、無事守り果(おお)せた暁には、それなりの褒美ってのもを頂かなくっちゃねぇ」
大胆にも、帰蝶相手に商談を持ち掛ける
「褒美?お前も随分言うようになったものね。何が欲しいの」
「何でも良いかい?」
「手に入る物ならね」
半ば呆れ顔の帰蝶に、慶次郎は声を張り上げる
「じゃあ『目出度い』の鯛でどうだ!」
しかし、敵もさるものながら、簡単に交渉は進まない
「また鯛?駄目よ。今年は水揚げ量も減ってるから、かなり高騰してるの。鮎十匹」
「だったら二十匹!」
「十一匹」
「十九匹!」
「十二匹」
まるで競りのような二人の会話に、周囲の者は全員口をあんぐりと開けていた
利治も、賑やかさに気を引かれ一旦戻り、その光景を目の当たりに目をパチクリとする
「十七匹でどうだ!これ以上は負からんないぜ?!」
「じゃぁ良いわよ、他の者に頼むから」
そう言われれば、慌ててしまうのが人の性
「わかったわかった!十二匹で手を打っとくよ!」
「交渉成立ね」
「かぁー!俺の命も鮎十二匹分か。随分安いもんだなぁ、おい」
「命の安売りしたのはお前だろ・・・?」
想わず突っ込まずには居られない利治であった
「え・・・?終了、ですか・・・」
生駒屋の内定終了を帰蝶から聞かされた時、時親はほっとするような、女とはもう逢えない淋しさを感じるような、どちら付かずな気持ちになった
「お前が持ち帰った情報も、かなり役に立ったわ。お陰で義母上様の土田交渉も、すんなりことが運んだのよ。長きに渡る内偵、ご苦労様でした」
そう丁寧に頭を下げられては、こちらも深く平伏するしかない
下げた頭では帰蝶の顔は見れないが、自分も顔を見せずに済む
今の自分はどんな表情をしているのか自分でもわからないのだから、見せられない
男女の深い仲になってしまったとは言え、向うもこちらも初心(おぼこ)ではないのだから、割り切った付き合いができたはずだと自分勝手に完結し、時親はそれ以降小折には近付かなかった
帰蝶の犬山攻めも控えている
増してや、帰蝶が最も信頼する家臣の一人であった利家が突然逐電してしまったのだから、抜けた穴も大きい
それをどう埋めるかが当面の課題となっており、また、馬廻り衆筆頭でもある自分がふらふらしていてはいけないと、改めて気を引き締めることも考え、生駒の後家のことはこのまま忘れることにした
一日の業務を終え、自宅である清洲屋敷へと帰る
出迎えの使用人に混じって、いつもなら局処で預けられている子供達も自分の帰りを笑顔で迎えてくれた
「お帰りなさい、父様」
「お帰りなさい!」
「おや?今日は随分早い帰りだな」
屋敷を持っているのだから、子供らはここで留守番をしていても不思議ではないが、お能はいつも出勤には子供全員を伴っていた
お陰で他の使用人達も自分の子供を城に連れて行くのだから、局処はまるで託児所のような有様なのである
お能が夜勤の時は、当然のように子供らも局処で寝泊りする
時親はお能に肩書きが付いた頃から一人寝を強いられていた
「お帰りなさいませ、旦那様。夜食のご用意を致しましょうか」
出迎えの使用人である老婆が、子供らに囲まれた状態で応答に出る
「いや、城で握り飯を頂いて来た。軽く汗を流して、そのまま寝る」
「畏まりました」
「お能は、戻ってるのか?」
「はい、お戻りになられてます」
「そうか」
嬉しいような、できれば顔を合わせたくないような、この頃時親は、自分の気持ちがわからなくなることが多かった
『浮気』と言う、心の呵責が大きいのか
持ち家を持ってるとは言え、それでも家禄が高いわけでもない
清洲は那古野に比べて物価も高く、それは都会であるが故に仕方がないことだとしても、那古野時代のような大きな家を持てるわけでもなく、かと言って、斯波家旧家臣でもあり、今は馬廻り衆の筆頭と言う肩書きをも持つため、みすぼらしい家にも住めない
妻も相応の肩書きを持ち、尚更倹約のためと、家賃も格安な武家長屋には住めないし、世間体もあるため無理をして大きな家を持った
だからと言うわけでもないが、水や薪をふんだんに使う風呂は贅沢品で、たまにしか使わない
その辺りの事情は家人も良く承知しており、時親の許しがない限り風呂を沸かすことはしなかった
帰蝶が綺麗好きであるため、お能や子供達は局処の風呂を利用しているが、時親まで帰蝶の好意に甘えるわけには行かないと、まだ肌寒い梅雨前の裏庭に大きな桶を置き、微温湯にして入り、手拭で躰を拭う
これが当時の一般的な風呂であり、毎日たくさんの湯を使う風呂を用意させる帰蝶が変わっているのだ
その分、人の躰から出る異臭と言うものはなく、それを誤魔化すための香を焚く必要はなく、また、頭皮の油の匂いを消すための香油も不要であるため、寧ろ経済的ではあるのだが、それでも風呂に入って湯を浴びて汚れを落とすと言うのが、まだ普及していない時代だった
小さな戸板に囲まれた桶の湯が、ちゃぷちゃぷと音を立てる
「お疲れ様でした」
互いに再婚同士ではあっても、それでも新婚時代には自分の背中を流してくれていたお能を想い出す
同時に、密命を受けた後で知り合ったあの女との、躰の繋がりを持つきっかけとなった事件をも想い出す
どちらが重くてどちらが軽いかなど、時親には判断できなかった
「重苦しい雲ですね」
空を見上げ、盆を手にした菊子が帰蝶の本丸私室を訪れた
「丸は眠った?」
「はい、ぐっすり。先ほどまで局処で、慶次郎さんが遊び相手になってくださってたので、疲れたご様子でした」
「慶次郎は子供達の、良い遊び相手になってくれているようね」
「犬千代様の逐電で、一時はどうなるかと想いましたけど、慶次郎さんは犬千代様がお戻りになられるまで前田家を預かるけれど、跡継ぎにはならないってきっぱり仰ったそうですよ」
「慶次郎も、欲のない男ね」
「食欲は、人一倍ですけどね」
「言えてる」
菊子の的を射た言葉に、帰蝶は大笑いした
「ところで、このおにぎり、如何なさるのですか?」
盆の上には大きめに握られたお結びと、香の物、それから干し魚を焼いた物が載せられていた
「縁側に置いててくれない?できれば人目に付かないところに」
「はい。ですが、どうして?」
「最近、庭に雀がやって来るの。その雀に食べさせるのよ」
「ええ?ですが、おにぎりは兎も角、香の物とか魚とか必要なんでしょうか?」
「食い意地の張った雀だからね、色んな物が食べたいのよ」
「そうですか」
菊子もなつと同じように不思議そうな顔をしながら、帰蝶の命令どおり盆を縁側の隅に置きに行く
その菊子の足跡を聞きながら、帰蝶はたおやかに微笑んだ
「置いて参りました」
しばらくして菊子が戻る
「それじゃぁ、私は局処で寝ている丸の顔でも見て来るわ」
「ご同行致します」
「ありがとう」
部屋から二人の声が遠ざかる
「ところで、二人目の計画は、どう?」
「そ、そんな、今のところないですよ」
菊子の慌てた声の後を、庭先の植え込みが揺れる音と重なる
それに気付かず、二人は本丸を後にした
利家が姿を消して一ヶ月、この頃は漸く城の者も利家の想い出話をするようになって来た
時々、帰蝶が本丸の私室や局処の私室の近くにこうして、何かしらの食べ物を置くようになったのも、利家が消えて以降のことだった
今日はいつもの握り飯の他に、竹の皮で包んだ握り飯と、茶を詰めた瓢箪を置いている
まるでその、庭先に降りる雀への手土産のように
人気が消え、辺りに誰も居なくなった頃、茂みがカサカサと揺れ、それからしばらくして、その茂みから男が出て来た
周囲の気配を探りながら、盆の置かれた縁側に小走りで駆け寄る
それから、待っているかのように置かれている盆に手を合わせた
しかも今日は、弁当のように竹皮の握り飯と、信長が腰にぶら下げていたのと同じ瓢箪が置かれてある
男は小さく呟いた
「
握り飯を掴み、空腹に大きな口でがっつく
塩気が利いていて、美味かった
それから、保存食でもある干し肉に気付いた
いつでも干し肉は大事な食料で、簡単に食卓に載るようなものではない
齧ってみたら、肉の中でも高級な牛であることがわかった
男の頬を涙が伝う
帰蝶が嫁いでから織田は肉食になったが、それでも比較的手に入りやすい馬の肉が主流だった
牛はこの頃まだ食用としては不十分で、それでも時折は食卓に上ることはあっても馬のように頻繁ではない
その大事な肉を、帰蝶は潜伏生活を送っている利家のために、盆の上に載せてくれていた
少しでも体力を付けろと言う真心だろう
その気持ちに利家はボロボロと涙を流しながら、握り飯と干し肉を交互に貪った
裏庭での行水を終え、小袖を着直した時親が母屋に戻って来る
大尽ではないので、付き添いなどない
一人で寝室に向い、自分の手で襖を開ける
途端に、部屋の中の明るい光が目を刺激した
「
「あ、お帰りなさいませ」
寝間着に着替えた妻が、振り返る
寝室に文机を運んで帳面を付けているのか、手には筆が握られていた
「もうお休みになられます?ごめんなさい、直ぐに片付くと想っていたのだけど、あれもこれも欲が出ちゃって」
「いや・・・」
「この頃米が高騰してるみたいですね。犬山が清洲に仕掛けて来るって噂が立っちゃって、またここで戦が起きるかも知れないって物価も上がり気味。局処でも米が高騰してしまって、大変なんですよ」
「須賀屋はどう言ってる?」
お能の居ない布団に腰を下ろしながら時親は聞いた
「米の買占めが始まってしまって品薄だもんだから、どうしても値段を上げて買占めを抑えなくちゃいけないんだって言ってます。清洲だけじゃなくて、末森の方にまで米高騰の影響が出てるみたいですよ」
「それじゃぁ、犬山と早く決着を付けんと、どうしようもないな」
「ええ、本当に。でも、できることなら戦なんて起きて欲しくないですよ。戦は大事なものを持って行きますから」
「
何気ない妻の一言に、戦で死んだと言うお能の前夫を想い浮かべた
「なあ、お能」
「はい、なんですか?」
一度机に向き直したお能が、再び自分の方へ振り返る
「お前の前の亭主は、どんな男だった?」
「
今まで一度も聞いたことがないのを、どうして急にと、お能はキョトンとした顔をする
「どうしたんですか?あなた」
清洲の中でも一~二を争うほど、妻は美しかった
勿論、帰蝶とは意味合いの違う美貌と言う意味でだが
「どんな男だった」
こちらの問い掛けには一切応えず、自分の想いだけを伝えようとしている
目が、いつもの夫のものではなかった
断れず、お能は正直に応えた
「特にこれと言った特徴もありませんでした。毒にも薬にもならないような人で、だから出世とは程遠い人で」
「そうじゃない。どんな性格をしていた。お前を大事にしてくれたか。周りの評判はどうだった」
「あなた・・・」
「どんな風に、お前を抱いた」
「
生真面目なお能は、生真面目な夫の豹変振りに胆を抜かれた
目を見開き、呆然とした顔で自分を見詰めるお能に、時親は手を伸ばして呼ぶ
「来い、お能」
「
「来い!」
「
突然叫び声を上げる夫に、お能は肩を震わせた
上手く立ち上がれないのか、膝を付いたまま四つん這いで布団の上に乗る
そのお能の腕を掴むと、時親は一気に自分の方へ引き寄せた
「あッ!」
躰を崩し、夫に凭れ掛かるように引き摺られる
「あなた・・・ッ!」
驚くお能を構いもせず、時親はその上に圧し掛かった
相手は自分の亭主なのだ
もう何年も連れ添っている
子供も大勢居る
今更恥しがる相手じゃない
それでも
時親はお能の寝間着の柔帯を、乱暴な手付きで剥ぎ取った
「あッ!あぁッ!」
悶える、と言うより、責めに遭い苦悶しているような、そんな声がお能の口から溢れる
その腰は、慈愛を感じさせぬ乱暴さだった
深くお能を突き、激しく攻め立てる
「お能、こう向け」
一度躰を離し、お能を四つん這いにさせる
「え・・・?」
そうして、どうするのか、お能にはわからない
少し朦朧としているお能を、時親はそのまま背後から突いた
「あぁぁッ!」
まるで獣の目合いのような情交
疲れた躰で屋敷に戻ったお能には、耐え切れない攻め
夫はこんな人だっただろうか
こんな、獣のような性交を好む男だっただろうか
絶えず流れるお能の悲鳴に、時親は恍惚となった
『自分よりも上』の妻を征服している幸福感に満ち溢れた
白く滑らかなお能の背中が淫猥にくねり、四人も子を産んだその『道』は、時親を妖しく締め付けた
誘っているわけではない
寧ろ自分から逃れようとしているお能の腰をしっかりと掴み、何度も、何度も穿つ
「も・・・、もう・・・・・・・・ッ」
やめて、と言いたいのか、いく、と言いたいのか
お能はそれをはっきり言わない
言えないまでに攻められる
突然肩がガクッと布団の上に落ち、その部分が激しい伸縮に苛まれる
それでも、時親は攻めの手を休めなかった
まるで自分をも責めるかのように
放出してしばらく、ピクリとも動かない妻に漸く気付く
「お能・・・ッ?!」
慌てて上向かせたお能は気を失い、目蓋を閉じていた
「お能!」
自分は、大事な妻になんてことをしてしまったのだ、と、初めて自責した
「お能、お能・・・!」
触れるように頬を何度も叩き、お能を目覚めさせようとする
見合いの席で顔を合わせたお能の、余りの美しさに、時親は夢を見ているのではないかと自分を疑った
信長からはかなりの美形だと言うことは聞かされていたが、結婚歴があり、早世したとは言え子供も産んでいるのだから、期待はしていなかった
本当に美形だったなら引く手数多だろうと想うのが当たり前で、いつまでも後家を貫いている方がおかしいと考えていた
ところが、実際顔を合わせたお能は自分が想う以上の女性で、しかも躾の厳しい家庭で育ったのか、行儀も武家並みで、誰に逢わせても自慢に値する人格者であった
時親は忽ちお能の虜になった
「
「お能・・・ッ、気が付いたか・・・ッ?」
「
まるで娼婦のように燃え上がった自分を慙じ、お能は俯いた
そんなお能に、時親は謝す
「すまんかった、お能。どうかしていた」
「あなた・・・」
「お前に触れられるのが久し振りだったから、つい羽目を外してしまったのかも知れん・・・」
「私こそ・・・。そうですね、ここのところ私も忙しさに感けて、あなたを蔑ろにしていたかも知れません。申し訳ございませんでした・・・」
「いいや、お能」
それ以上を口にしたら、まるで言い訳にしかならないと想い、時親は口を詰むんだ
浮気相手の女を抱くように妻を抱いたなど、言える筈がない・・・・・・・・・
今年は梅雨が早いのか、この頃ずっと重苦しい雲が空を漂っている
いつ雨が降ってもおかしくない空に、子供達もしばらくは部屋の中で遊んでいた
漸く独り立ちができるようになった帰命は、周囲の兄貴分、姉貴分に負けじと精一杯立ち上がり、精一杯走り回っていた
初めての子は成長が遅いと言うけれど、局処には大勢の子供が居るからか帰命には当て嵌らなかったようで、目にも嬉しいほどすくすくと育っていた
特に年の近い瑞希
見ていても実の姉弟のように仲良くしてくれている
外交でどんなに心が荒んでも、局処に来ればたちどころに癒される
そんな想いに帰蝶は、時折帰命を連れて局処に戻っていた
帰命にも遊び相手が必要だ
本丸は大人の世界なのだから
いつものように帰蝶の居間で遊んでいる子供らを眺めている帰蝶の耳に、声が聞こえた
「奥方様。お寛ぎ中を申し訳ございませんが、小牧より丹羽様がお戻りになられました」
襖の向こうから貞勝が声を掛ける
「わかったわ、今直ぐ戻る」
部屋から出しな、帰命を残していくとこを伝えた
「仕事の邪魔になるだろうけど、帰命をお願いね」
「お安い御用でございます。おやつは、こちらでご用意しましょうか」
「そうね。瑞希と機嫌よく遊んでるから、眠そうにしたらそのまま寝かせてやってくれる?」
「はい、承知しました」
時親と弥三郎の妹、さちが帰蝶の局処の管理人を始めてから、市も頗る調子が良い
庭前の縁側でそのさちと遊んでいる声が聞こえた
「市も、元気を取り戻したみたいね」
「はい。さちが来てくれたお陰でしょうか。釣り合った年頃の娘と言えば、お能様の長女・那生殿くらいなものでしたが、やはり那生殿もまだお小さいので、遊び相手には不十分のようでしたから、尚更嬉しいのでしょう」
異腹の姉に当る稲や犬も居るが、やはり年が釣り合わず、増してや稲はこれから誰かの許に嫁ごうかと言う年齢でもあるため、遊ぶよりも先に母のなつから花嫁修業を言い付けられていた
手毬やお手玉で遊ぶことよりも、華道や茶道に勤しめと言われている
「子供は大勢居るのに、それでもやっぱり女の子の数が少ないものね」
そう、他愛ない話をしながら本丸に戻る
戻れば長秀が執務室で待っていた
「待たせたわね。小牧の方は、どんな様子?」
「はっ。大方様が土田家との提携を成功なされたお陰で、犬山も随分慎重になりましたが、その土田家から早速情報をいただきました」
「どんな情報?」
「斎藤家が、近江・六角家と婚姻による同盟を組んだと」
「斎藤が、六角と・・・ッ?!」
帰蝶の目が見開かれる
六角は、その先祖が佐々木家
近江全体を支配していた佐々木家の血筋で、今も強大な相手であった
その六角と手を組んだということは、兄・義龍も本腰を入れて織田家に対する警戒を強めたということである
「待って・・・・・・・・・」
帰蝶に、嫌な考えが浮かんだ
「斎藤が、六角と手を結んだということは・・・・・・・・・・・・」
「はい」
青い顔をする帰蝶に向って、長秀はきっぱりと言い切った
「これで今川の目標が、我ら織田に定まったと言うわけでございます」
「
帰蝶は言葉を失くした
今川が何れ上洛を果たそうとしていることは、離れた尾張に居る帰蝶にもわかる
そのために、少しずつ三河を切り崩しているのだから
東海一の弓取りが海沿いに京を目指すにしても、途中の伊勢湾が邪魔である
増してや、伊勢を越えた先には小国ながらも、強大な力を持つ伊賀が存在する
未だ嘗て誰一人として伊賀を支配できなかったことから見ても、今川とて兵力を消費しながら伊賀を抜けると言うのも無理がある作戦だった
ならば定石どおり内陸を伝って京を目指すとあれば、この尾張・清洲か、あるいは美濃・中山道を通らねば近江には辿り着けない
美濃には斎藤がある
近江には六角がある
二国を戦いながら抜けるのも、今川にとってどれだけの損害を与えるかわからないのだ
その六角が斎藤と手を組んだとあれば、今川が斎藤を攻めれば六角が出て来る
斎藤を打ち破り近江に入ったとしても、正面から六角、背後から斎藤に攻められる
ならば、考えられる安全策は織田を潰して尾張を通過し、勢力も落ちた国主の居る伊勢を併呑、危険な伊賀を迂回して山城に入れば、今川の損失も少なく見積もれる
つまり
今川は織田を攻め滅ぼすつもりだ、と言うことしか、結論は出なかった
現に三河の半分は今川のものであり、これまでにも何度か三河の織田領は今川に攻められている
それを何とか押し留め駿府に引き返してこられたが、今までのそれが小手調べだったなら、帰蝶は自分が今川を押し返すことができるのかどうか、わからなかった
その自信もなかった
「早急に手を打たねば、今川が攻め込んで来るのも時期が早まるかと」
「ええ・・・・・・・・・・」
どれだけ外交政策を強化しても、その外交を結んでいる相手が今川に潰されれば、全く意味がなくなるのだ
今の帰蝶が手を組んだ相手と言えば、東美濃の遠山家と、可児の土田家くらいなものだった
伊勢の坂家は自分が守ってやらねばならない存在であり、救援の対象にはなり得ない
正面の斎藤にばかり目を向けて、肝心の今川への対応が遅れた
これは自分の責任だと、帰蝶は想った
黒い雲は夜になっても晴れず、月を覆い隠してしまう
今夜はいつもより多めに行灯を置いたが、それでも明るさには不十分だった
夜食にと、なつが運んでくれた湯漬けを文机の上に置き、ふとその盆を持って縁側に出た
夜は見張りの数も多いが、もしかしたらと言う気持ちになって、しばらくそこで待ってみる
やはり気配はしなかった
「
そう、小さく呟く
「雀だから、夜目に弱いのかしら」
心弱く笑ってみるも、応えてくれる者は居なかった
「
言葉がなくなり、黙り込む
黙って自分の膝を見詰め、何もできない無力さに腹が立った
「私は、吉法師様が築いた物を守るので精一杯。結局、何もできないままなんだわ・・・!」
悔しさに、涙が零れて来そうになるのを、帰蝶は口唇を噛み締めて耐えた
その帰蝶の耳に、声が聞こえた
「
「
驚いたことに、声は縁側の下から聞こえる
帰蝶は目をいっぱいに広げて半ば立ち上がり掛けた
「奥方様は、まだ戦に馴れてないからそう想うだけで、戦場に立てば違って来ますよ」
「
小さく、その名を呼んだ
「出ておいで」
「いえ」
利家が断った直後を、見回りの家臣が松明を持ってやって来るのが見えた
「奥方様。お休みにはなられてないのですか?」
「そろそろ寝ようかと想っていたの。明日の天気が気になったから」
そう、慌てて取り繕う
「夜分は物騒ですから、お早めにお休みください」
「ありがとう」
その家臣が立ち去るのを見届け、帰蝶は再び小さな声で呟いた
「私に、織田を守れる?」
「守るために、刀を抜いたんじゃないんですか、奥方様」
「そうだったわね・・・」
「ここのところ平穏だから、奥方様は忘れたんですか?稲生に立ったあの日のことを。勘十郎様をご成敗なされた日のことを」
「
「奥方様。殿を名分に使うのは構いません。ですが、どうかご自分の判断で行動なさってください。あなたのその頭で考え、動いてください。河尻さんもみんなも、そんな奥方様に付き従うつもりがあるからこそ、奥方様を織田の惣領と認めたんです。その自信を失わないで下さい」
「犬千代・・・・・・・・・・」
「斎藤が六角と手を組んだとか」
「あなたの耳にも入ったの?」
「斎藤は、奥方様を試すつもりです。いえ、向うはまだ殿が生きていると信じているのでしょうが、織田を試し、今川を尾張に向けさせ、それから織田を飲み込むつもりです。今川に弱体化をさせた後で。奥方様も読んでらっしゃるのでしょう?だから珍しく手を拱いていらっしゃる」
「
利家の声に応えられなかった
その通りだと想ったから
勇み足で今川に立ち向かって、返り討ちに遭えば容赦なく斎藤が襲い掛かって来る
だから、動けなかった
斎藤か、今川か
どちらに向けば良いのか、わからない
そんな帰蝶に、利家は告げた
「犬山が、小牧を頻繁に視察しているそうです」
「五郎左衛門は何も言ってないわ」
「そうでしょう。平民に紛れて、遠巻きに見ていますから、現場に居る五郎左衛門さんは気付いてない。だけど、何れはわかるでしょう。犬山が動くことを。ですが、犬山を抜けるには岩倉が邪魔です」
「わかってるわ。でも、やらなきゃならない」
「奥方様」
その声は、有事の際は必ず馳せ参じるとの想いに溢れていた
「犬千代。出てらっしゃい」
「でも・・・」
「湯漬け、冷めちゃうわよ」
「
誘ってくれる帰蝶の声に、利家は応えられなかった
二人が一緒に居るところを誰かに見られれば、帰蝶が関与していると勘違いされる
それが怖かった
「わかったわ。私は部屋に引込むから、その間に召し上がりなさい」
「奥方様・・・・・・・」
「まつ、ね、長屋に居るわよ。内職をして、あなたの帰りを待ってる」
「
縁の下から明らかに動揺した気配が感じ取れる
「顔、見せてあげて。きっと安心すると想うから」
「
「それじゃ、ゆっくり召し上がりなさいな」
そう言うと、帰蝶はさっさと部屋に戻った
去った後をそっと、縁の下から這い出て来る利家は、帰蝶が残した盆に向って強く手を合わせ、一度頭を下げた
「いつも、すんません。奥方様・・・・・・・」
今日は手土産の竹皮はなかったが、期待もしていない分落胆もない
その代わりなのか、保存食にしている松の実が桜紙に包まれて置かれてあった
「奥方様・・・・・・・・・・」
自分の持ち寄る情報が帰蝶の役に立つのなら、いくらでも走り回ろう
利家はそう、決意した
攻撃の手は休めない
精神的にも肉体的にも犬山を追い詰める
背後には岩倉を残してあるため、長居はできない
その岩倉を抑えてくれている信光も、そろそろ年を感じさせる年齢になっていた
無理はさせられない
持久戦にだけは持ち込まないよう一極集中で攻撃を仕掛け、犬山を疲弊させるつもりだった
追い討ちを掛けるように、可成の部隊が作戦通り犬山を追い立てる
まるで狩猟馬に追われる兎のような光景だった
その犬山の兵を、正面から勝家の部隊が叩き込む
見ていて爽快な気分にはなれたが、その直後、犬山から停戦協定の話が持ち込まれた
一方的にやられっぱなしで立て直すことも侭ならず、どんどんと兵力が落ちる上に士気も下がっている
この状態で戦を続ければ、清洲に飲み込まれるのが落ちだと想ったのだろう
実際帰蝶も、敗北でなくとも結果が出ればそれで良いと想っていた
今、犬山を落としても、管理し切れるだけの余力はないのだ
岩倉に分断され乗っ取られては、それこそ無意味な戦いに終わってしまう
当面の間だけでも清洲に歯向かわなければ良し、と考えていた
本陣は小高い丘の上にあり、そこから眺める景色は美しいとか壮大とかではなく、無様であった
「新五」
帰蝶の『鷹の目』は、実弟の姿を捉えている
可成の部隊に紛れて馬を走らせてはいるが、先導しているのは馬引きの佐治であり、利治は周囲の森隊に追い立てられて疾走しているようにも見て取れた
おまけに先頭は慶次郎に守られ、これでは出撃した意味が全くない
可成の部隊に混じって走っているだけで、自身は何もしようとしない、ただ流されているだけのようで、手にした槍すら振れていなかった
帰蝶の口唇から流れる実弟の名は、心配している風ではなく、手も足も出せない弟の不甲斐なさに腹を立てた呟きだった
「河尻」
「はっ!」
「新五を黒母衣衆に放り込んで」
「え?」
帰蝶の突然の申し出に、秀隆はキョトンと目を丸くした
「末席で良いわ」
「しかし・・・」
「雑用でも何でも、兎に角仕事をさせて。あんな、槍働き一つできないような出来損ないには、少し灸を据えた方が良いのよ」
「
それは、嘗て市弥が信長を見限った時と良く似ていた
精鋭揃いの母衣衆でも、黒母衣衆は特に厳しい戒律と教育が施される
所属しているのは何れも各家の跡取りであり、何よりも大事な長男だけで形成されていた
つまり、『選ばれた者しか入ることを許されない』特別な部隊なのだ
その黒母衣衆で一から教育し直しと言う結果に終わり、利治は姉の厳しい処罰に肩を落とした
『斎藤帰蝶の実弟だから』、『織田家当主の弟だから』と言う肩書きは、何の意味も成さない
いや
逆に、その姉から突き放される結果になった
犬山織田との停戦協定は無事終了し、双方口出ししないことで合意
帰蝶の狙い通りの結果にはなったが、利治にとっては自分の無力さを実感し、そして、姉が『身内』にですら厳しく対処しなくてはならない立場であることを、今更のように知った
「それにしても奥方様、犬山に挙兵の準備があることをよく察知なさいましたね。丹羽さんでも気付かなかったのに」
帰り際、隣に並んだ恒興がそう言って来た
「後もう少し対応が遅れたら、この程度の小競り合いでは済みませんでしたよ。どちらで情報を入手されたんですか?」
「耳の良い雀がね、教えてくれたの」
「へっ?雀、ですか?」
「そう」
にこっと笑う帰蝶に、恒興はただ目を丸くしてキョトンとする
「もしかして、最近庭先に現れると言う大食らいの雀でしょうか」
「さぁ~?どうかしらねぇ~」
そう白を切ると、帰蝶は松風の足を速めた
置いてけぼりを食らった恒興は、慌ててその後を追う
「待ってくださいよ、奥方様ぁ~!」
「新五様を黒母衣の雑用係に?!」
勝敗が出たわけではないが、ともかくこちらが有利に終わった犬山戦から帰還した帰蝶は、なつに利治の今後の身の振り方を伝えた
驚きで目が釣り上がっている
「正気ですか、奥方様」
「正気よ」
「ですが、河尻殿はああ見えて教育が厳しいんですよ?」
「知ってるわよ。だから、精鋭中の精鋭と呼ばれているんでしょ?黒母衣衆は」
「だったら、何故大事な新五様を黒母衣衆なんかに」
「大事だからこそ、入れるのよ」
「奥方様・・・」
「今日の新五の戦い振りを見て、私は落胆したの。確かにあの乱戦の中を生き残ったのは慶次郎のお陰だとしても、新五の力量だって大きかったはず。でもね、今日はたまたま生き残れたかも知れないけど、この次はどうかわからないの」
「お考え直し下さい、奥方様。新五様はまだ十四です。結果を求めるには、早過ぎます」
「早いに越したことはないのよ、なつ。あなただって常日頃言ってることでしょ?」
「ですが・・・・・・・」
承服しかねる顔をするなつを、帰蝶は口説いた
「聞いて。あなたは新五を実の息子のように想ってくれているのは、わかる。あなたは慈愛に満ちた女性だもの。他人の子でも、関わりを持てば愛することができる。だから、私はあなたに新五を託したの。それは間違った選択だとは想ってない。今もあなたに任せて良かったと想ってる。あの子の織田での評判も上々なのは、あなたが対人についてのあり方をしっかり教えてくれたからだと想ってる。だけどね、それだけじゃ駄目なの。あの子は織田が握る唯一の『道三の子』なのよ?新五のためにと私達が、斎藤を攻撃できる大義名分なの。だけどね、なつ、人の心を掴むには、どうすれば良い?誰よりも先頭に立ち、誰よりも多くの傷を受け、誰よりも多くの首を挙げなくては、誰も新五を心から認めてはくれないの。今のままじゃ、新五はただの『斎藤帰蝶の弟』でしかないの。そこから一歩も先に進めないの。それは新五のためにはならないのよ」
「
「私も、それまでは新五を死なせたくなくて、できる限り安全な場所に居れば良いと想ってた。でもね、三左の部隊に入れた時、あの子は何の役にも立ってなかった。ただ馬を走らせてるだけ、寧ろ周りにとっては邪魔なだけだったの。私は、それがとても悲しかった」
「奥方様・・・・・・・・」
「だから、決めたの。あの子のためになることは、なんだろうって考えて、一生懸命考えて、その結論が、自分には後ろ盾なんてないんだってことを自覚させることなの。自分の手で生き残り、自分の手でご飯を食べることなの。そうじゃなきゃ、あの子はいつまで経っても『斎藤の御曹司』と言う座布団を捨てることができない」
「・・・・・・・そう・・・ですか・・・・・・・・・」
熱心に語る帰蝶のその目は、織田の惣領としての貫禄もさることながら、弟を一日でも早く一人前の武将に育て上げたいという想いに溢れていた
それは自分のためではなく、織田で生きる利治のためなのだと言う想いが強い目をしていた
「
「なつ」
「だけど、成果を急げばそれは、新五様の負担にもなります。もしもそれで潰れてしまっては、どうなさるんですか」
「だから、あなたに任せたんでしょう?他人の子である新五を、そんなにも真剣に心配してくれるあなただからこそ、私は弟を任せたのよ?」
「奥方様・・・」
「
帰蝶は苦笑いしながら言った
「私は、あなただからこそ、新五を任せたの。その自信を失わないで」
「奥方様・・・・・・・・・・・」
「あの子なら、大丈夫。きっと、一人前の武士になれる。だから、なつ」
「はい」
「あの子の荷物を纏めて、追い出してちょうだい」
「奥方様?!」
帰蝶の言葉に、なつは再び驚く
「今日から武家長屋で暮らさせるわ。炊事も洗濯も、自分でさせるの。手伝いは無用よ?良い?」
「
急にそこまで突き放さなくてはならないものだろうかと疑問に想いながらも、なつは不承でも利治の荷物を纏めるよう侍女に言い渡した
犬山から戻った矢先に、清洲から出て行けと言われた
祝勝会もまだ終わってなかった
「新五様・・・」
自分の面倒を見てくれていたなつだけが、その見送りに出る
「世話になりました、おなつさん」
「何のお役にも立てず、申し訳ございません・・・」
深々と頭を下げるなつに、利治は慌てる
「頭なんか下げないで下さい、おなつさんッ!失くした家の温もりを教えてくれたのは、おなつさんです。ここの局処で笑って過ごせたのも、やっぱりおなつさんのお陰です」
肩を掴んで励まそうとしてくれる利治に、なつは涙が滲んで仕方がなかった
「姉上がここで、どれだけ厳しい状況に置かれているのかも知らず、安穏と過ごしていた私が愚かでした。もっと武功を上げれるような武将にならなくては、姉上が私を拾ってくださった意味がないのだと、この戦で気付きました。だから、姉上が必要としてくれるような武士になれるよう、私は精一杯がんばります。元服の時の宣言を守れるような、立派な武士になります。それが、おなつさんへの恩返しだと想ってます」
「新五様・・・・・・・・・ッ」
「だから、泣かないで、おなつさん。笑って見送ってください。ね?」
「
ぐすぐすと鼻を啜りながら、なつは何度も頷いた
その光景を離れたところから見守っている帰蝶に、道空が声を掛ける
「ご心配なら、お側で見送って差し上げればよろしいではございませんか」
「それがあの子のためになるのなら、いくらでも見送るわ。でも、今のあの子に私は、逃げ道にしかならない。あの子のためにはならない」
そう言い捨てると、帰蝶はさっさと本丸に戻ってしまった
「
道空は苦笑いをして、そんな帰蝶の背中を見送った
秋、可成の妻・恵那が待望の第三子を産んだ
父が美濃から命懸けの逃亡を果たした後、武家長屋で家族で暮らしていたため、帰蝶への可成の報告も遅れがちだった
増してや犬山と睨み合いを続けていたのだから、伝えるにしても恵那の懐妊を喜んでいる場合じゃない
それでもささやかながら祝いの品を送り、恵那には滋養の効く食べ物を揃えて届けた
「次は菊子ね」
「だから、そんな暇ありませんて」
照れながら応える菊子の側に居たお能が、もじもじとした顔で告げる
「あの・・・、奥方様・・・」
「どうしたの?お能」
「お腹でも空いたんですか?」
「そうじゃないわよ」
からかう菊子に、お能は顔を真っ赤にして反発した
「何かあったの?」
「あの・・・、えっと・・・、私も・・・・・・・・」
「お能も、なぁに?」
「えっと・・・」
「どうしちゃったんですか?お能様らしくない。何はっきりしないんですか」
「お菊ちゃんは黙ってて!」
「ええ?!」
お能らしくもない、突然の豹変振りに菊子は目を丸くして驚いた
「あの・・・、私も、そうです・・・」
「え?」
「私も、妊娠しました・・・」
顔を隠すように俯いて報告するお能に、帰蝶も菊子もなつも、目を丸くした
「ええ?!」
「お能様、ご懐妊ですか?!」
「こっ、声が大きいわよ!」
「えー・・・、お能が・・・」
帰蝶にしては珍しく、心が呆ける
「五人目ね」
「はい・・・・・・・・」
「高齢出産になっちゃうわね」
「三十路ですからね・・・」
帰蝶の至極当然な呟きに、女のお能はどうしても泣きたくなる
女にとって年齢は、大事なものだった
「大丈夫?」
「がんばります」
間に居る菊子は、何をがんばるのか聞きたい気分になった
「予定日は?」
「医者の見立てでは、来年です。来年の、春か、梅雨時じゃないかって」
「そう。春なら産みやすいけど、梅雨だったら産後を大事にしないといけないわね」
「ええ」
「だったら、何してるの」
「は?」
「今直ぐ屋敷に帰って、のんびりなさい!」
「で、でも、まだお腹も出てませんし、大丈夫ですよ」
「何が大丈夫なの?お能、自分の年を考えてちょうだい」
「奥方様、その言葉は胸に突き刺さります・・・」
お能は頭から汗を浮かばせた
「丈夫ないい子を産んで欲しいのよ。局処のことは、なんとかするわ。巴が居るんだもの、しばらくはあなたの代わりをさせるから、お能は何も心配しないで、お腹の子を大事にして。良い?」
「奥方様・・・」
慈愛深い一面もあり、冷徹な一面もあり
だけどそれが、姉の全てだと想った
「新五!早く届けて来い!」
「は、はい!今直ぐ!」
馴れない使いっ走りに利治は、朝から晩まで怒鳴られ続けている
それが帰蝶の弟だとて遠慮するなと、筆頭である秀隆からも厳しく通達されており、逆に遠慮すれば自分達が叱責された
「遅い!」
「すっ、すみません!」
届けた書類の束で頬を張られ、取って返した脚で黒母衣詰所の掃除を言い付けられる
「さっさとせんか!」
鍛え抜かれた部隊は誰も一国の城主たる風格を持ち合わせた者ばかりで、ある程度の経歴がなければ入隊など決して認められない
そんな特別な場所に、なんの武功もなしに入れたこと自体が『特別待遇』である
奥方様から預かった大事なお方としても、敢えて心を鬼にして厳しく対応する者も居れば、やはり『特別待遇』で入った利治が気に食わないと、虐めのような体罰を与える者も居た
「お前は雑巾掛け一つ満足にできんのかッ!」
掃き掃除の後に廊下の雑巾掛けは当たり前で、その雑巾を絞った水の入った桶を頭から引っ繰り返される
「ちゃんと後始末して置けよ?」
そう、廊下に唾を吐き捨てる先輩も、確かに居た
頭から雫を垂らし、悔しさに利治は口唇を噛み締める
それは父が死んでも同様で、姉の保護を受け、清洲の局処の暖かい場所で大事にされて来た
そんな自分が今、薄汚れた雑巾を絞り、汚れた廊下を磨かなくてはならい上に、汚れたその水を頭から被せられる
どうしてこんな生活を送らなくてはならないのだと、理不尽さに歯軋りした
『斎藤の御曹司』が、何故こんなところで小間使いのように扱われなくてはならないのだと
だけど、それが気に食わないからと言ってここを出ても、自分には行く宛などなかった
母は美濃で斎藤の監視下に置かれている
半ば幽閉状態が続いていると報告を聞いた
その母を救いたい気持ちはある
だけどその前に、誰か自分を救ってくれないだろうかと言う、甘い考えも時々は湧いた
「新五!何を愚図愚図してる!さっさと片付けて、馬の世話をせんかッ!」
「は、はい!」
自分よりもずっと年上の男ばかりだから、口答えなど怖くてできない
先輩が立ち去った後を利治は俯き、悔し涙に呟いた
「
できもしないのに、そう呟く
そんな利治を、秀隆が物陰から見守っていた
夕餉の時間になって漸く、一日の仕事が終わった
母衣衆なのだから、戦の時だけ働けば良いものと考えていたが、正式な加入ではないため利治の肩書きは『見習い』だった
それでも敵情視察に交代で城を出ていれば、一日などあっと言う間になくなる
詰所で一日分の知行を日払いでもらい、帰りに買い物をして武家長屋に戻るのがこの頃の習慣だった
まだなんの功績もない利治の知行は、精々串団子五本分にしかならない
昼間は城で食事が出るから良いとしても、安い日給では朝と夜は到底賄えなかった
おまけに月末になれば家賃を取られる
自分は入りたてなので家賃も日割り計算をしてもらえるが、来月になれば一ヵ月分をそっくり払わなくてはならなかった
とてもではないが生活できないと、利治にも理解できる
なんとかして遣り繰りをしなくては、と考え、ぐーぐーと鳴る腹を擦り空腹と戦いながら清洲城近くの武家長屋に戻った
その利治の部屋の扉が薄開きになっている
まさかこんな何もない部屋に泥棒が入るのかと、利治は慌てて部屋に飛び込んだ
「この、盗人め!」
「え?」
玄関先に置いてあった閂用の棒切れを掴み、部屋の中に居る人物に振り下ろそうとした瞬間、空きっ腹だった利治の鼻腔が味噌汁のいい香りを嗅ぎ取った
「新五さん、落ち着いて。私よ、さちよ」
「え?」
よくよく見れば、薄暗い中にさちの顔がある
「さち?なんで私の部屋に?」
「えーっと、それは言うなと言われてるんだけど、新五さん、帰って来るの早すぎ」
「え?私が悪いのか?」
「そうよ。こっそり作って、こっそり帰るつもりだったんだから」
「へぇ・・・」
聞けば、局処で自炊ができるのはなつと自分だけだったので、行って来いと命じられたと言う
お能は無理矢理産休を取らされており、先日から局処には居ない
菊子は本丸付けであるため城から離れられない
他にも主婦は大勢居るが、手の空いている者の中でと選別すれば、さちだけしか残らなかった
それを指示したのが誰なのか、利治にはわかっていた
だけど、敢えてそれを口にはしなかった
ただ、さちがそこに居るだけで、部屋が暖かく感じられた
さちの作った味噌汁の香りが、疲れた利治の心を優しく包み込んでくれた
どうしてだろうか、今はそれだけで充分幸せだと感じたのは
わからないけれど、今はただ、幸せだった
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濃姫(帰蝶)好きの方へ
本日は当サイトにお越しいただき、ありがとうございます
先ずはこちらのページを一読していただけると嬉しいです→お願い
文章の誤字・脱字が時折混ざっております
見付け次第修正をしておりますが、それでもおかしな個所がありましたらお詫び申し上げます
了承なしのリンクは謹んでご辞退申し上げます
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更新のお知らせ
(02/20)
(10/16)
(11/04)
(06/24)
(03/25)
◇◇プチお知らせ◇◇
1/22 『信長ノをんな』壱~参 / 公開
現在更新中の創作物(INDEX)
信長 ~群青色の約束~
こんな感じのこと書いてます
カウント(0)は現在非公開中です
管理人の独り言も混じっております
[11/04 Haruhi]
[08/13 kitilyou]
[06/26 kitilyou命]
[03/02 kitilyou命]
[03/01 kitilyou命]
ゲームブログ
千極一夜
家庭用ゲーム専用ブログです
『戦国無双3』が絶望的存在であるため、更新予定はありません
◇◇11/19 Nintendo DSソフト◇◇
『トモダチコレクション』
おのうさま(帰蝶)とノブ(信長)が 結婚しました(笑
家庭用ゲーム専用ブログです
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◇◇11/19 Nintendo DSソフト◇◇
『トモダチコレクション』
おのうさま(帰蝶)とノブ(信長)が 結婚しました(笑
祝:お濃さま出演 But模擬専… (戦国無双3)
おのれコーエーめ
よくもお濃様を邪険にしおってからに・・・(涙
(画像元:コーエー公式サイト)
オンラインゲームにてお濃様発見
転生絵巻伝 三国ヒーローズ公式サイト:GAMESPACE24
『武将紹介』→『ゲーム紹介』→『Exキャラクター紹介』→『赤壁VS桶狭間』にてお濃様閲覧可
キャラクター紹介文
「 絶世の美貌を持つ信長の妻。頭が良く機転が利き、信長の覇業を深く支えた。
また、信長を愛し通した一途な妻でもあった。」
(画像元:GAMESPACE24公式サイト)
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濃姫好きとしては、飲めなくても見逃せない
岐阜の地酒 日本泉公式サイト

(二本セットの画像)
夫婦セット 吟醸ブレンド(信長・濃姫)
本醸造 濃姫
カップ酒 濃姫®=爽やかな麹の薫り高い、カップとは想えない出来上がりのお酒です
吟醸ブレンド 濃姫® ブルーボトル=自然の香りのお酒です。ほんの少し喉を潤す程度でも香りが深く体を突き抜けます
本醸造 濃姫®=容量的に大雑把な感じに想えて、麹の独特の香りを抑えたあっさりとした風味です
今現在、この3種類を試しておりますが、どれも麹臭い雰囲気が全くしません
飲料するもよし、お料理に使うもよし
お料理に使用しても麹の嫌な独特感は全く残りません
奇跡のお酒です
何よりボトルがどれも美しい
清洲桜醸造株式会社公式サイト


濃姫の里 隠し吟醸
フルーティで口当たりが良いです
一応は『辛口』になってますが、ほんのり甘さも残ってます
わたしは料理に使ってます
清洲城信長 鬼ころし
量的に肉や魚の血落としや、料理用として使っています
麹の香りが良いのが特徴ですが、お酒に弱い人は「うっ」と来るかも知れません
どちらも一般スーパーに置いている場合があります
岐阜の地酒 日本泉公式サイト
(二本セットの画像)
夫婦セット 吟醸ブレンド(信長・濃姫)
本醸造 濃姫
カップ酒 濃姫®=爽やかな麹の薫り高い、カップとは想えない出来上がりのお酒です
吟醸ブレンド 濃姫® ブルーボトル=自然の香りのお酒です。ほんの少し喉を潤す程度でも香りが深く体を突き抜けます
本醸造 濃姫®=容量的に大雑把な感じに想えて、麹の独特の香りを抑えたあっさりとした風味です
今現在、この3種類を試しておりますが、どれも麹臭い雰囲気が全くしません
飲料するもよし、お料理に使うもよし
お料理に使用しても麹の嫌な独特感は全く残りません
奇跡のお酒です
何よりボトルがどれも美しい
清洲桜醸造株式会社公式サイト
濃姫の里 隠し吟醸
フルーティで口当たりが良いです
一応は『辛口』になってますが、ほんのり甘さも残ってます
わたしは料理に使ってます
清洲城信長 鬼ころし
量的に肉や魚の血落としや、料理用として使っています
麹の香りが良いのが特徴ですが、お酒に弱い人は「うっ」と来るかも知れません
どちらも一般スーパーに置いている場合があります
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ご訪問、ありがとうございます
あまり役には立ちませんが念のため
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