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清洲城を出る前、恒興は局処に居る千郷に挨拶をして来た
寡兵での戦だ
いくら身内相手とは言え、死人が出ない保証はない
その死人に自分が選ばれる場合もある
いつも戦に出る時は、今生の別れを胸に抱く
この日も恒興は今生の別れの想いを胸に、千郷に謁見した

「行って参ります」
「池田殿・・・」
もうそろそろ三ヶ月が過ぎるか
寺へ迎えに行った時よりも、顔色も随分良くなっている
ここには千郷と年の近い利治も居るのだから、良い遊び相手にでもなってくれているのだろうか
そう想うだけで、主君の実弟である利治にも軽い嫉妬を感じてしまった
自分を恥じ入る
「あなた様のご主人様の仇、取れるよう努力いたします」
そんな恒興に、千郷は心からの見送りの言葉を送った
「仇よりも、あなた様が無事戻られることを祈ってます」
「千郷姫・・・」
「戻られたら、日頃お世話になっている池田殿に、何かして差し上げます。何が良いですか?肩揉み?腰揉み?脚揉み?」
「そっ、そんな、もったいない・・・!」
「大丈夫です。実家でも、父上様にして差し上げてたんですよ。千郷の按摩は気持ちが良いって、よく誉められました」
「千郷姫・・・」
「戻られるまでに、考えておいてくださいね。何でもして差し上げます」
          はい」
胸が温かくなる
この人と話していると
どうしてだろう
恒興がその想いに気付くのは、少しだけ後のことだった

帰蝶の号令に、陣太鼓が鳴り響く
それを合図に南北に分かれた部隊も末森・柴田軍と交戦する
松風を疾走させる帰蝶の左右を、秀隆の部隊の騎馬隊が追い抜いて行った
さすがは織田の黒母衣衆
精鋭揃いであるのは自慢に匹敵する
帰蝶を囲むようにして、帰蝶直属の部隊も勝家の部隊とぶつかった
その現場を離れ、帰蝶は別の場所を目指す
「奥方様ッ?!」
驚いて、秀隆は声を張り上げた
「柴田はしばらく足止めしてて!私はもう一匹の蛇を叩く!」
「もう一匹の蛇?」
キョトンとする秀隆を置いて、帰蝶は迂回しその先を進んだ
柴田軍は秀隆の率いる黒母衣衆に妨害され、帰蝶を追うことができなかった

          林・・・・・・・・・

「殿は何故、武家の誇りを捨てようとなさるのでしょうか」
五月に会見した林は、そう、帰蝶に話した
「誇りを捨てるのではないわ。新しい時代を切り拓こうとなさっておいでなのよ。どうしてわかってくれないの?」
「武家は武家らしくあるべきです」
「いつまでも古い体制に拘っていたら、人は発展しない。国も、発展しない」
「発展して、なんになりますか」
「民が幸せになるわ。人々が笑って道を歩けるようになる」
「今も民は笑い、道を歩き、幸せであると私は想いますが」
「それはあなたの主観でしょ?自分の主観を主君に押し付けるの?」
「殿が理解なさろうとしないからです」
「理解しようとしないのは、あなたじゃない。吉法師様の所為にしないで!」

秀貞は秀貞なりに、尾張の発展を望んでいるのだろう
織田の発展を望んでいるのだろう
だがそこに、『民も』の文字はなかった
今までどおり支配対象とでしか見ていなかった
あれでは、信長が信勝に織田を渡したくないと想うのも仕方ないだろうと感じた
民なくして領主は有り得ない
良き民は良き領主を作る
良き領主は良き民を作る
相互関係で結ばれていなくてはならないものを、末森は否定しているのだ
尚更、渡せない         

帰蝶の周りは小姓衆、秀隆の黒母衣衆から何人かが護衛として回り、可成、弥三郎の部隊も少しずつ流れて来ていた
総勢百余り
到底、七百の秀貞には敵わないだろう
それでも前に進むしかなかった
背中に感じる信長が、帰蝶から『怖い』と言う気持ちを取り除いてくれる
加えて、この追い風が帰蝶達の味方になってくれていた
向かい風に末森軍はまともに目を開けていられない
風上に居る清洲軍に天候が有利に働いた
勝家の部隊を抜け、漸く秀貞・通具兄弟の部隊を見付ける
          林・・・ッ」
部隊長なのだから、突出することはないだろう
この、壁のように立ちはだかる無数の兵士の中から見付けなくてはならない
わからない
誰が誰だか・・・
兜を被っていると、顔がわからない
だが、帰蝶は視界が広かった
見付けられないとも言い切れない

兜を被ると、視界が狭くなる
頭を守ってくれるのだから戦では必要不可欠だ
だが、帰蝶は女であるため、重い兜は着けられなかった
首が重みに耐えられないのだ
そこで信長は、額と頬、顔の半分を守れるように面頬と鉢金が合わさったような、変形型の天冠を伊勢の鍛冶屋に作らせた
これなら急所は守れ、しかも視界は兜とは比にならないほど広く取れる
その利便性を最大限に生かし、帰蝶は林二兄弟の部隊の中を駆け抜けた
帰蝶に飛び掛る敵は小姓衆、黒母衣衆、馬廻り衆が引き受ける
次々と馬から降り、応戦した
戦は馬に乗って戦うのには不向きである
馬には騎乗するが、刃を交わす時は誰もが馬から降りた
馬上で戦うことができる者など稀で、相当の腕がなければ無理だった
現に弥三郎は馬から降りて敵と斬り合い、可成は馬の上から槍を揮う
弥三郎の戦い方がこの時代の主流であり、可成の戦い方が稀有なのだ
背後で刀と刀、あるいは槍と槍がぶつかる音がする
そんな中で帰蝶は林兄弟を探した
こちらが数では圧倒的に不利であるため、どうしても帰蝶を守りきることができない
笊から漏れた敵兵が、身形のきちんとしている帰蝶に殺到した
「奥方様ッ!」
龍之介が叫ぶ
同時に、帰蝶は走る松風から鐙を外し、頭上高く舞い上がった
その姿は、正しく『鷹』
「あああああ          ッ!」
雄叫びと共に落ちる体を敵兵にぶつける
無謀な戦い方だった
帰蝶の下敷きになった敵兵が目を回す
着地と同時に帰蝶は、振り翳していた兼定を敵に突き付けた
だが、如何せん使い慣れていない刀は武器にもならない
剣術稽古と実戦では、全く勝手が違う
帰蝶の剣筋は簡単に見切られ、あっさりと避けられた
それでも帰蝶は刀を振る
大事な物を守るために

人は自分を愚かだと罵るだろうか
できもしないことを、やろうとしているのだから
男相手に戦えるはずなどないのに
したことも、ないのに
今まで何度も戦場には出ても、刀を揮ったことは一度もなかった
いつも誰かが守ってくれていた
今は、守ってくれる者は居なかった
自分の身は自分で守るしかなかった
それを承知で乗り込んでおいて、やはり心のどこかでは誰かに守られたいと願う自分が居た
仕方がないのか
女だから、それが当たり前なのか
これが自分の選んだ道か・・・ッ!

「うわぁぁぁぁ          ッ!」

何もできない自分に腹が立つ
帰蝶は怒号と共に敵兵に斬り掛かった
滅茶苦茶な筋だ
何処から刀が飛んで来るかわからない
その、滅茶苦茶な筋が少しずつ武士(もののふ)らしく変化して行った
          あれは、なんだ・・・?」
ぼんやりと、帰蝶の周りに薄い膜のようなものが見える
龍之介は目を擦り、それが何なのか確認しようとした
人のようにも見える
人ではないようにも見える
帰蝶の容貌(かお)が、別人に変わった
素人剣士の刀に、戦慣れしているだろう林部隊の雑兵が押され始めた
刀で帰蝶の兼定を受けるも、少しずつ後退する
帰蝶はどんどん、その敵兵を押し込んだ
そんな帰蝶に、別の敵兵が斬り掛かる
「奥方様ッ!」
間一髪のところで、秀隆が間に合う
「周りはお気になさらず!秀隆があなたのお背中、お守りします!」
「任せた。与兵衛」
                
いつもと違う帰蝶の口調
その名は信長が自分をそう呼んでいた
帰蝶は自分のことを『河尻』としか呼んでいない
          やはり

敵兵と切り結びながら、秀隆は胸に浮かばせた

          そこに、おいでなのですね、殿・・・・・・

妻を守れないと、叫んだあの時
逃げろ、帰蝶
だけど、帰蝶は逃げなかった
そして今、ここに立っている
逃げないのならば、守ってやる
信長がこの世に残した想いが、帰蝶を守っているのだろうか

部隊長の着ける鎧に比べ、雑兵の着ける鎧は薄くて脆い
精々怪我程度で済ませられるような造りである
雑兵は食生活も満足ではなかった
そのため、痩せ細った者が殆どだった
そんな、『体力のない』雑兵で重い鎧を付ければ、それだけで身動きが取れなくなる
また、帰蝶の持つ刀は『名刀』だ
名人・兼定が鍛えた刀だ
雑兵の鎧くらい、容易に切り裂けた
致命傷は与えられないまでも、裂けた鎧の胴から血が溢れる
一人
二人
三人
『帰蝶ではない』帰蝶が、敵兵を斬り倒して行った
『帰蝶の剣捌きではない』帰蝶の刀で
女の、体の細さを生かして低く屈み込み、敵の胸元深くまで潜り込む
立ち上がる瞬間に刀を振り上げ、敵の胴を裂く
右に、左に、前に、後ろに
縦横無尽に帰蝶の躰が舞った
風に吹かれる羽のように、自由に

「そろそろ、末森に援軍でも送ってやるか」
日が昇り始めた頃、義龍は稲生で争っている信勝に対し、援軍を発たせた
ところが         

「何?!岐阜屋が船を出さないだとッ?!」
「商品は乗せても、戦をする侍など乗せるものか、と、船頭達が乗船拒否を・・・!」
「くそう、岐阜屋め・・・!大店であることを良いことに、権力を振り翳すかッ!ならば、木曽大橋から渡るぞ!」

長森から一帯の船の行き来を管理している岐阜屋、お能の実家が斎藤軍の乗船を拒絶した
これでは尾張に入れない
部隊は木曽大橋に方向を変えた
ここで岐阜屋と言い争いでも起せば、こちらが不利になる
それほど岐阜屋は美濃でも権力を握っていたのだ
岐阜屋が油を売らなければ、他の油屋も斎藤に油を売らなくなる
商人の横の繋がりの深さを、武士なら誰もが知っていた
それを逆手に取られた

木曽大橋に到着した斎藤軍だが、ここでも一悶着が起きた
木曽大橋を管理している美濃側羽島と、尾張側一宮が結託し、大橋を閉鎖していたのだ
「退け!我らは織田勘十郎信勝様の援軍だぞ!」
「橋は今、改修工事をしております。無理に通れば、橋げたの途中で木曽川に落ちますが、良いですか?」
工事の監督をしていた大工が、大勢の兵士を相手にしても一歩も怯まず、寧ろ堂々と言い放つ
橋から落ちては助からない
それほど、この当りの水深は深かった
「どうしてだ。長森と良い、木曽大橋と良い。まるで、我らの行く手を邪魔しているかのようだ」
「ならば、可児の土田の船に乗りましょう」

再び、進路を東に取る
土田は義龍と手を結んでいるため、船には簡単に乗り込めた
総勢二千の兵士を乗せ、木曽川を渡る
          ところが

「着岸拒否?!」
受け入れ先である犬山が、斎藤の侵入を拒絶した
日はもう既にすっかり高みに昇り、寧ろこれから沈もうかと言うところまで来ている
なのに、未だ尾張には入れない
誰が邪魔をしているのか
誰が斎藤軍の尾張入りを妨害してるのか

「お父さん、上手くやってくれてるかなー」
清洲の局処で、お能は空を見上げながら呟いた
「万が一斎藤軍が動いたら、全力で尾張入りを阻止しろって作戦ですか?」
後ろから菊子が話し掛ける
周りには子供が大勢おり、自分達の子供に混じって千郷も居た
その千郷はあやと一緒にお手玉を楽しんでいる
すっかり元気な声で笑えるようになった千郷を片目に、お能は応えた
「うん、そうなの。もし斎藤が逆らったら、油を売ってやるなって手紙に書いてやったの。お父さん、なんか子供の頃の悪戯を想い出すって、随分嬉しそうな返事を返して来たわ」
「それって、悪戯程度の話ですか?」
菊子は笑いながら言った
「しょうがないわよ、うちのお父さん、若い頃相当悪童だったらしいから」
「そうなんですか、初めて聞きました。へええ、岐阜屋さんが悪童ねぇ。想像できません」
「お父さん、外面良いから」
その言葉に、菊子はゲラゲラ笑い出した

義龍がお能父・岐阜屋伊衛門に対し、何故斎藤家に協力しなかったのかと詰問したところ、
「高々兄弟喧嘩に、天下の斎藤がしゃしゃり出てんじゃねぇ!」
と、一喝された後日談を持つ

清洲は町の民と村の民、那古野やその周辺の民が守ってくれていた
勿論、信光の織田軍も出馬して町の警護に当っている
清洲を守れば、その後ろに位置する那古野も守れるからだ
清洲を防波堤と見立てればなんてことはない
兵士を集められないのであれば、清洲を守る方法を考えれば良い
帰蝶はそう命令した
町は民に守らせ、外は其々の捏ねを利用する
羽島は信長が陣を敷いたことでも証明されるように、尾張とは友好関係で結ばれていた
その向かい側の一宮も、同然である
特に商人が多く集まる一宮では、清洲商人が一丸となって協力を要請した
それが花咲いたのだろう
岐阜屋はお能の実家だ
帰蝶もお能の父親とは面識そのものはなくても、その娘・お能との絆は深い
娘が頼めば父親は動く
更に、商売仲間である甚目屋からも頼まれれば、断れないだろう
末森には、それができなかった
帰蝶には、それができた
それだけの話だ
また、犬山とは同盟を組んでいるわけではないが、『敵の敵は味方』を利用した
犬山は岩倉と争っている
岩倉と結託している斎藤を領地に入れるのは恥だと感じさせれば、こちらのものだった
その情報操作をしたのは一益で、効果覿面なのは、犬山の川岸で立ち往生している斎藤軍を見れば一目瞭然だ
信勝は、父からの古い体制を守ろうとしていた
それは間違いなどではない
武家主義なら、それで当たり前だ
だが、武家主義と言うことは、武士(男)だけの世の中と言う捉え方に凝り固まり勝ちだ
信長はそうではなかった
この世は万人、つまり、男も女の平等に扱われて然るべきと考えていた
だから、『女』である帰蝶の主張を尊重し、大事にして来た
それが世の中の当たり前になれば、人は今よりもっと笑って過ごせる
武家に生まれたがために、信秀は息子の理想を理解しながらも、先祖から連綿と綴られる伝統を守ろうとした
その柵と、信長への愛情の板挟みになっていた
信秀があともう少し長生きしていれば、あるいは信長の夢は今よりもっと近い場所にあったかも知れない
武家の男尊女卑は激しい
しかし、一般家庭はそうではなかった
女房の機嫌を損ねれば、飯を一食抜かれるなど当たり前だ
だが、女房も亭主を大事にする
互いを大事にすることで、良好な関係を築けている
傾(かぶ)いた生き方をしていた信長だからこそ、知り得たのだろう
それを武家の社会にも、と言うのが信長の考えであった
そのためには、今の古い体制や仕来りを一切排除しなくてはならない
そのためには、自分が戦い、武家の頂点に、と、考えていた
それが信長の夢の第一歩だった
夢の途中で、夢を奪われた
大事な女房の父親を守るため戦に出て、そして・・・・・・・・・

夫は父を守ろうと戦に出た
自分は夫の夢を守ろうと戦に出た
戦は、結果を残さなくては意味がない
敵を薙ぎ倒しながら、その『頭』である秀貞を探した
風は相変わらず清洲軍を守ろうと強く吹き晒す
風に乗って、帰蝶の体が軽く動く
まるで飛び跳ねるかのように
そんな帰蝶を守るため、秀隆率いる黒母衣衆や、龍之介ら小姓衆は懸命に駆けた

末森右翼、一益と長秀が配置する北側は、守山からの援軍が到着し、また、一益の裁量もあって、寡兵とは想えぬほどの互角の戦いを展開できた
想い出される、信長との邂逅
仕えていた主家が伊勢・北畠家との争いで衰退
まだ若かった一益も経験不足が禍し、敗走に伊勢からの脱出を試みた
だが、関所はどこも封鎖、北畠による『根切り』に与した家臣もろとも断罪の刑を科せられていた
一益は家族らと共に船に乗り伊勢からの脱出を図るも、海上からの攻撃も激しく一時的にとは言え一家離散の憂き目を見た
海に難を逃れた一益だったが、生憎泳ぎが苦手なため、不恰好なばた足で尾張を目指した
だが、やはり馴れない泳ぎに体力を消耗し、一益は尾張に辿り着くことなく波の下に沈んでしまった
それからの記憶は、一益にはない
何がどうなったのかわからないが、命あるまま浜辺に流れ着いた
その一益を見付けたのが、いつものように城を抜け出し浜辺で遊んでいた信長だった

「おい、お前」
                
子供の声に、一益の薄れていた意識が徐々に蘇る
加えて、棒切れで顔を突付かれ、この上なく不愉快な想いをさせられる
「お前、魚人か?」
下半身の半分が、流れ着いた時に絡まったのか、大量の若布で覆い尽くされていた
袴のない奇妙な格好をしている少年は、それを見てそう言ったのか
これからは北畠の追跡を逃れ、地に潜った生活を送らなくてはならないかも知れない
そんな自分を皮肉って、一益はこう答えた
          魚人になり損ねたもぐらだ」
「そうか」

その後の、信長の奇想天外な返事に、一益は「このお方に着いて行こう」と決心した

信長に拾われたこの命、信長のために使いたかった
その信長を、末森が殺したも同然なら、これは自分にとって仇討ちだ
          死んでも負けたくなかった
そんな気概を持つ一益に触発されたか、普段事務仕事が多かった長秀も、自慢の頭脳を使って末森・柴田軍を翻弄する
「寡兵は有利」だと帰蝶は言った
そして長秀は、これを釣りに見立てて戦った
少人数で柴田軍に攻め掛かり、ぶつかる寸前に引く
引けば相手は押して来る
押して来たところでそれ以上の人数で飛び掛る
相手は怯んで腰が引ける
それを波状攻撃で潰した
寡兵には寡兵の戦い方がある
少ない人数に嘆くよりも、少ない人数をどう有効活用すれば良いのか考える
背後は気にするなと、帰蝶は言った
なら、正面だけを見て戦えば良い
一方向だけを見ていれば良いのなら、これほど戦いやすい状況はなかった
末森右翼、一益・長秀隊は徐々に柴田軍を押し返して行った

末森左翼、時親と恒興が配置する南側にも、僅かな数だとしても那古野からの援軍が到着した
「清洲軍の皆々様、ご苦労様でございます!清洲の町は我ら那古野軍がお守りしております!どうか、心置きなく存分にお戦いくださいませ!」
「平三郎殿、聞きましたかッ?!」
恒興が破顔して言った
「ああ、孫三郎様が出てくださったのだな」
「孫三郎様には、いつも助けられてばかりでございますな」
「この戦に勝つことが、孫三郎様への手土産になろうぞ!」
「おお!」

この戦に勝って、信長の土地を守り、そして、その中で暮らす千郷を守ることが、今の恒興にとっては何よりも大事な約束だった
夫の敵討ちよりも、生きて帰ってくださいと言ってくれた千郷の気持ちに応えたかった
千郷を想い描くと、何故だか力が湧いて来る
絶対に勝ってやると言う意地が生まれる
どうしてなのか、この時の恒興にはわからなかった
ただ今は、押し寄せる柴田軍を意地でも名塚から向うには行かせるもんかと、歯を食いしばれるだけの力が湧いて来た
寡兵だけの戦を想定してか、信光はその部隊編成を鉄砲隊重視に置いた
これが功を奏したか、柴田軍とは接触することなく後退させることに成功する
後ろに下がった柴田軍を、時親、恒興の部隊が押す
押されれば引く
更に後ろへ後ろへと下がっていけば、後方にいる味方部隊と接触が起きる
「おい!下がって来るなッ!」
俄に混乱が生じ、そこを攻め込まれては一溜まりもない
寡兵は決して不利ではない、と、帰蝶は言った
自分を信じ、自分達の力を頼りにしてくれている帰蝶の想いにも応えたかった
「うぉあぁぁああぁぁ          ッ!」
自ら槍を振り、迫り来る柴田軍に自ら突撃を仕掛ける
その姿は他の兵にも勇気を与えた

林部隊の中を、帰蝶は兼定を振りながら秀貞を探す
帰蝶を守るため黒母衣衆、小姓衆が一つの塊となって部隊を撹乱させる
部隊は散り散りになり統制が取れなくなってしまった
その混乱に気付いた秀貞の弟・通具が前に出た
「兄者、様子を見て来る」
「ああ、頼んだ」
信長の戦い方はこうだっただろうかと、不思議に想いながらも弟にその視察を任せる
          嫌な予感がした
遠ざかる弟の背中を見送りながら、胸の中をざわめく不吉な予感に、秀貞は何とも言えない悪寒を感じた
なんなんだろうと、首を傾げたところで答えなど見付かるはずもない
ただ前方で湧き上がる怒号や土煙を見ているしかなかった

「退けッ!」
自分に襲い掛かる無数の兵を切り倒しながら、帰蝶は前進した
左右を黒母衣衆が守ってくれている
それだけでも、進む道はできた
強大な勝家の部隊を潰しても、その後ろに林兄弟の部隊が残っていては、勝てる戦も勝てない
勝家を撃退できたとしても、その時点でこちらの体力も消耗しているだろう
そんな時に林部隊とぶつかれば、簡単に潰されることは目に見て明らかであった
それならば、まだ数が少ないと言えるだけの余裕がある内に先に林部隊を撃退すれば、それに動揺して勝家の軍団も怯んでくれるだろう
双頭の蛇を潰すのなら、弱い方を先に潰した方が体力消耗も押えられる
大海原を細い針が泳ぐように、帰蝶の部隊は徐々に先へ、先へと進んで行った
何人斬り付けたのか、覚えていない
手が痺れて仕方がない
視界は広いとは言え、帰蝶は女だ
男に比べて体力は少ない
そんな中での寡兵での戦だ
初めから無理だった

勝てる見込みがないからと逃げるのは、卑怯だ
父様だって、勝てる見込みがないとわかっていながら、兄様に挑んだじゃない
吉法師様と、私を守るために、父様は戦ったじゃない
負けるはずがない、帰蝶
しっかりして
前に進むの!

「う・・・あぁぁぁぁーッ!」
兼定の切れ味は、鈍るどころか相手の血を纏い、益々鋭くなって行く
刃先を守るため、相手の刃は峰で受ける
受けて流し、相手に切り込む
できる限り秀貞を見付けるまで、最小限の体力消耗で抑えておかなくてはならない
秀隆の槍働きは敵兵十人分だろうか
たった一人で何人もの敵を相手にしている
普段のあのふざけた態度は、見せ掛けだったのかと想えるくらいに
敵を薙ぎ払い、帰蝶の行く道を開けてくれた
僅か百にも満たない寡兵で、七百の敵を相手にして行く
『気概』がなければ、とっくの昔に潰されていてもおかしくなかった
誤って鯨の腹の中に入り込んだ小さな海老は、外に出ようと必死になって跳ね回る
そんな光景に想えた
林部隊の中で必死にもがく帰蝶らは、襲い掛かる敵兵を斬り倒して行った
これが初陣となる龍之介も、中々の働きを見せている
まだ小さな体を上手く使って敵の中をちょろちょろし、相手を惑わす
惑わされた敵は秀隆の黒母衣衆が薙ぎ倒す
目にも鮮やかな連携だった

末森・柴田軍中央を守る可成・弥三郎は、後ろに敵兵を零さぬよう踏ん張ってはいるが、それでも何人かは笊から漏れて名塚に迫る
迫る柴田軍兵士を、慶次郎、利治が持ち受けた
如何せん利治に至っては、実地訓練もないままここに来ている
へっぴり腰で敵と斬り結んでいる、なんとも笑える光景だった
片や慶次郎は中々様になっており、刀も豪快に宙を撥ねる
ところが、安い刀は既に刃こぼれを起しており、敵を切り裂くまでには至らなくなっていた
雑兵とは言え、腕はそれなりに立つのだろう
上手く相手の力をいなし、できるだけ刀に負担を掛けないよう切り結んではいたが、それも限界だった
相手は随分と体格に恵まれた男で、慶次郎より背が大きい
また、腕も太い
「これはちぃと困ったねぇ」
それでも余裕の薄笑いは忘れない
押され始める慶次郎の足が、後ろへ少しずつ下がった
その後ろには、他の敵兵に、ある意味『襲われている』利治がいた
味方兵に守られてはいるが、不恰好に刀を振り回し敵を威嚇している
その利治の許へ
「おっと!」
相手の槍をまともに受けてしまった慶次郎の、その刀が半分に砕け散り、利治のところへ飛んで来た
「うわっ!」
爪先寸先のところに突き刺さった刀先を見て、利治は絶叫する
「慶次郎          ぉッ!」
「はっはっはっ、すまねぇすまねぇ。刀は新五を好いてるみたいだねぇ」
「刀に好かれて堪るか!」
利治に怒鳴られながら足元で既に倒れ伏せている敵兵の槍を爪先で蹴り上げ、今相手している敵兵の喉許に突き刺す
「おぅ、おりゃぁやっぱ、こっちの方が向いてるみたいだねぇ」
ぶんぶんと、自分の体の周りで槍を振り回し、腰の後ろでぴたりと止める
「さぁ、どっからでも掛かって来な!この前田慶次郎利益、一人たりとて名塚には近付けさせねぇよ!」

敵は正面からやって来る
背後は誰もが守ってくれる
そうしろとは、言っていない
今回に限り、誰も自分を守る余裕などあるわけがない
帰蝶もそれを期待していなかった
なのに、背中に感じるみんなの気配
自分を守ってくれている
温かかった
温かい安心感に背中を守られ、帰蝶は正面を向き続けた
右へ、左へ、敵を払い落とす
徐々に詰めて来た距離、遂に、それを捉えた

「林美作守通具、尋常に勝負!」
明らかに他の誰とも身形の違う帰蝶を部隊長と見たか、秀貞の弟・通具が勝負を挑んで来た
名乗りを上げたということは、一対一のサシでの勝負
他の誰も手出し無用の一騎打ちだ
「奥方様ッ」
心配する秀隆の声に、帰蝶は兼定の柄をぎゅっと握り直した
「河尻与兵衛秀隆!その勝負、受けた!」
「待て、河尻」
「そなたとの勝負は望んでおらん。拙者、そちらの若武者殿に勝負挑みし候にて、ご遠慮願いたい」
                 ッ」
「大丈夫、大丈夫だから」
帰蝶は秀隆の腕に手を掛け、退かせた
「奥方様・・・ッ」
「大丈夫だから」
そっと微笑みながら、帰蝶は前に出た
「一騎打ち、受けられるや候や?」
「受けて立つ」
「なれば、名乗るのが武士道であろう!」
                
帰蝶に、名乗る『名』など、ない
ただ一つを残して
「我は         
兼定の柄を口元に持って行き、想いを込めて口付けた

          吉法師様、使わせてもらいます

「織田、上総介          信長」

あなたの、名を

「信長・・・?」
目の前の、この華奢な若武者が、信長?
通具は目を疑った
だが、名乗る以上それを信じるしかない
秀貞の弟なのだ
実際の信長と謁見したことくらいある
ただし、それは信長がまだ少年だった頃の話だ
今、信長は二十歳を越えた青年であろう
どう成長したかまでは、知らない
「なればあなた様が総大将。いざ、尋常に勝負ッ!」
                

帰蝶が信長の名を名乗り上げた時、秀隆も目を丸くした
さっきまで可憐だった帰蝶が、今は信長そのものに見える
そう、想わせる
「奥方様・・・・・・・」
目の前で始まろうとしている戦いに、口出しは無用、手出しも無用
何が起きても、助けることはご法度だった
「殿・・・・・・。どうか、どうか奥方様を         
          お守りください・・・・・・・・
祈ることしか、許されなかった

対峙は静かに始まった
槍の通具に対し、帰蝶は刀
相手の懐に潜り込まない限り、こちらに勝機はない
どうすれば勝てるのか
いや、それ以前に、どうやったら通具に接近できるか、それすらわからなかった
だけど、わからないからと逃げることは許されない
帰蝶は握り直した兼定の刃先を通具に向けた
相手は戦慣れしている
つまり、自分とは経験が違う
勝てるだろうか
そんな不安が過った
その通具の方から動く
先手必勝か
「いやぁああぁぁ          !」
激しい掛け声と共に突進して来る通具の気迫に、負けそうになった
「くっ・・・!」
何とか兼定の峰で受けたものの、手に痺れが走る
重い槍捌きだった
「どうりゃぁッ!」
次の一手、帰蝶を跳ね返し怯んだ隙を縫って槍を突き出す
帰蝶はそれを身を翻して避けた

負けられない
絶対に

胸に浮かばせながら通具の槍を受ける

私が負ければ、私に味方してくれたみんなを巻き込んでしまう
みんなを困らせてしまう
私を信じてここまで一緒に来てくれたみんなを、苦しめてしまう
負けられない

通具の槍の刃先が、帰蝶の天冠の頬を掠めた
覆っていなければ、顔に傷が入っただろう
だが、それのお陰で通具の槍が反れた
その瞬間を、帰蝶は見逃さなかった

「負けて堪るかッ!」

怒号と共に通具の懐に入る
接近されれば、槍は使い物にならない
槍は相手を近付けさせないための武器なのだから
帰蝶は通具に斬り掛かった
刃先を帰蝶に向けられず、通具は槍の柄で刀を受ける
その気迫に押され、後退し始めた
帰蝶の背中を守るかのように、通具の周囲の味方部隊を秀隆らが囲む
一騎打ちなのだから、手出し無用は周知の事実
それでも、この『信長』と名乗る若武者を守ろうと、そこに『信長軍』が力を団結した
「がんばれ!」
龍之介の声が、最初に沸き上がる
「がんばれ!」
他の小姓も釣られて掛け声を荒げた
「がんばれ!」
「がんばれ!」
その声に後押しされるかのように、帰蝶は通具を追い詰めた
息継ぐ暇もないほどの手数に、通具の方が困憊する
「殿の夢、俺達の夢!」
「みんなで守るんだッ!」

                 吉法師様の、夢・・・・・・・・・・
みんなの夢・・・・・・・・・・
私の、夢・・・・・・・・・・

「あぁぁぁああぁぁぁ                 ッ!」

叫び声と共に、帰蝶は刀を下に下ろし、通具の槍に引っ掛けると、渾身の力を込めて上に弾き飛ばした
人間の力は、下に向けては強いが、上に向けては弱い
重い物を自分の腰より下には持ち上げられても、肩から上には持ち上げられないのと同じだ
通具の槍は空高く舞い上がり、怯んだ僅かな隙に帰蝶の兼定がその通具の左の首筋に当った
                
通具の額から鼻の左に向けて、一筋の汗が流れる

もがいて、足掻いて、それでも必死になって、自分の夢を育てていた
その吉法師様を、お前達は無慈悲に殺した
私から奪った
私から、大事な吉法師様を奪った
絶対に、許さない

少しでも動けば、通具の首から血が溢れ出す
その寸前で、両者の動きが止まった
帰蝶も
通具も
一歩も動かない
静寂が広がり、辺りには風の走る音しか聞こえない
手を動かせば、それで終わる
終わるのに、帰蝶の手が動かない
ここに来て、躊躇いが出た
通具を殺せば、全て終わるのか、と、疑問が浮かんだ
動かせなかった

「その綺麗な手は、人を殺したことがあるのかい?」

あの時、陣太刀を折った時の慶次郎の言葉が蘇る

さっきまで揮っていた刀
敵兵を斬り倒しても、まだ斬り殺してはいなかった
このままじゃいけない
動かなきゃ
そう想うも、心が定まらない
今、青い顔をして自分を凝視している通具を、帰蝶もただ見返していた
殺せば、片が付くのか
そこから新たな『負の連鎖』は生まれないのか

「刀ってのはね、結局人を殺すための道具だ」

わかってる
わかってて振り回していた
わかってる
          筈なのに・・・・・・・・・・・

通具の手が、帰蝶の躊躇いの隙を付くかのように、静かにそっと、腰の刀の柄に触れていた
その動きは肩を見ていれば目を降ろさなくてもわかる
今やらなくては、負の連鎖はもっと広がる
取り返しのつかないくらいの広さまで

「あ・・・、あぁぁ・・・、ああああああーッ!」

ふと、脳裏に浮かぶ、従兄妹・光秀

          姫様
刀は、押す物ではありません

「十兵衛兄様・・・」

引く物です

          わかりました、兄様・・・・・!

「お命、頂戴ッ!」
掛け声と共に帰蝶は、一気に刀を引いた
                 ッ!」
言葉にならない絶叫と共に、通具の首から鮮血が噴き出す

あなたと共に駆けた戦場
共に追い駆けた夢
あなたは死んだ
だけど、あなたの夢は、まだ
          死んでない

「うあぁぁぁぁぁーッ!」
残りの力を込めて、帰蝶は刀を通具の首半分まで食い込ませた
通具の体が倒れる
その上に馬乗りになり、帰蝶は『首印』を取るため、全体重を掛けて兼定を押し込んだ

「林美作守通具の御首印(みしるし)         

これは、野辺送り
吉法師様に贈るための戦い
あなた
届きましたか

「この、織田上総介信長がいただいたぁッ!」
「うおおぉぉぉ                 ッ!」

天高く突き上げた、まだ血の滴る通具の首に、周囲から勝鬨が上がった
この勢いに押され、林隊は敗走
秀貞はこちらに向かって逃げる配下の部隊に押され、そして、弟の敗死を受け、撤退した

残るは、柴田勝家

後ろの気配に、勝家は嫌な予感を感じた
味方の気配が消え、新たな殺気がこちらに向かってくるような、そんな気がする

「残るは柴田軍のみ!」
それが一番厄介だとしても、総大将である帰蝶自ら首級を挙げたのだ
これを勝機とするか、秀隆が一番最初に引き返した
「後は、柴田を退かせれば、私達の・・・勝ち・・・」
だが、相手は林部隊より尚多い
千を相手に戦う余力が残っているだろうか
林の撤退に、柴田も戦わずして退いてはくれないだろうか
そんな甘い考えの自分に、帰蝶は首を振った
通具の首級を龍之介に渡し、その次はどうすれば良いのか途方に暮れる
その帰蝶の目の前に、彼が現れた
帰蝶の両目がいっぱいに開く

          吉・・・法師・・・様・・・・・」
          こっちだ、帰蝶

幻のような信長が馬に跨り、駆け出す
行かないで
もう、何処にも行かないで
帰蝶を置いて行かないで
今目にした信長を放したくなくて、帰蝶は叫んだ
「松風ッ!」
戦乱から離れていた松風が帰蝶の許に駆け戻る
帰蝶は手綱を掴みながら空を舞い、松風に乗り込んだ
松風は一度も止まることなく、帰蝶をその背に乗せた

目の前を走る信長の背中
一度も追い抜けなかった、信長の背中
帰蝶の後を追って、黒母衣衆が馬を駆ける
「吉法師様・・・ッ」
幻でも良い
何でも良い
そこにいる信長を失いたくなかった
帰蝶は必死になって信長の背中を追い駆けた
勝家の軍旗が近付く
その、どこに勝家が居るのかわからない
わからなくても、信長が教えてくれる

          あれだ
「吉法師様・・・」
信長の背中は目の前にある
だけど、声は隣から聞こえる
そうだ、と、帰蝶は想い出した
この空が夫なのだから、夫は何処にでも居るのだ、と
この広い空が自分を守ってくれているのだ、と
なら、この風もきっと、夫が自分を守るために吹かせてくれているのだ
何よりも心強い味方は、こんなにも近くに居たのだと知った
信長の声が示す方向に目をやる
可成、弥三郎が随分撹拌してくれていたのか、勝家の部隊は統制が取れない状況に追い込まれていた
加えて、南北に散った一益らも、林軍が撤退した煽りを受け退く柴田軍を追い詰めている
お陰で松風を走るには易い
その勝家が騎乗のまま、可成と互いに自慢の槍を交し合っている最中だった

          行け、帰蝶
「吉法師様・・・」
目の前の信長が消えた
「吉法師様ッ!」

俺は、いつもお前と共に居る

                

「ぬし、中々やるの」
「そちらこそ」
「殿に着いて、その先に何が見える」
「明るい未来が見えまする」
                
きっぱりと答える可成に、勝家の調子が抜けた
その隙を突いたわけではないが、背後から大きな殺気の塊を感じ取った
咄嗟に後ろを振り返る
「柴田権六、勝家」
「ぬしは」
「信長に逆らった罪、その身を以って償え!」
通具の血を吸ったばかりの兼定を振り翳す
勝家は咄嗟にそれを槍で受けた
騎乗のままでは帰蝶の分が悪い
帰蝶は松風から降り、下から勝家を攻め立てる
勝家は上から帰蝶を攻めれる立場にありながら、防戦一方だった
それに見限ったのか、勝家も馬から飛び降りた
「ぬし、何者か」
静かに帰蝶に問う
「知りたければ、己の目で確かめろ」
「何?」
「私が何者なのか、その目で見ろッ!柴田勝家!」
切り裂く刀
受ける槍
ガシンガシンとその柄で刀が牙を剥く
華奢で頼りないはずのその躰が、勝家を追い詰める
「くっ・・・、そっ!」
踏ん張り、帰蝶の刀の捌きを受け続ける柄は、限界を超えていた
それまで可成と交わしていたのが禍したか
軋む音
自分を押し出す殺気
殺してやるという気概
「あぁぁぁぁ          ッ!」
頭上から振り降りる兼定
受ける柄
それが、真っ二つに裂けた
                 ッ」
咄嗟に身構える
その勝家に、帰蝶は叫んだ
「引け!柴田!この戦、我らの勝ちだッ!」
それが清洲信長軍を鼓舞した
周囲から立ち上がる異様な熱気
それに押される柴田の雑兵
数で勝る自分達が、寡兵に負けた瞬間だった
盛り返すことは不可能だと、勝家は察知した
「末森に帰り、土田御前様に伝えろ。大罪は死を以って償え、と」
凛としたその表情
その若武者が何処の誰なのかは、わからない
ただ、自分とは違う世界に生きる者だと言うことだけは、わかった
          御意」
柄だけになった右手と、刃先だけになった左手を下ろす
勝家は一礼すると、その場を立ち去った
「俺・・・達、勝ったのか・・・?」
可成の側に居た兵士が言った
「ああ、我らの勝ちだ」
馬に乗ったままで、一番高い位置に居る可成が堂々と宣言する
「この戦、我らの勝利だ!」
「おおおおお                 !」
地に響く怒号の勝鬨
散らばっていた弥三郎も駆け付ける
一益、長秀、時親、恒興
後詰の利家が慶次郎と共にやって来る
その脇には、慶次郎に手を繋がれた利治も居た
余りの果敢な慶次郎の戦い振りを目の当たりにして、腰が引けたのだそうだ
「みんな、ありがとう」
自分の許に集まった軍団に、帰蝶は微笑む
「何を仰るか。一番がんばったのは奥方様じゃないですか」
少し離れた場所から、秀隆が声を掛ける
「そうですよ。奥方様はほら、この通り、見事敵武将の首印をお取になられました。一番の武功は、奥方様ですね」
龍之介が掲げる通具の首に、誰もが驚く
「うぉぉ!」
「まっ、マジで奥方様が取ったのかッ?!」
「嘘だろぉ・・・?」
利家も慶次郎も、慶次郎に手を繋がれた情けない恰好の利治も目を剥く
一益も長秀も時親も恒興も
「みんな」
騒然とするみなの前で、帰蝶は笑いながら声を掛けた
「帰ろう」
吉法師様の居る城へ
「おぉ                 ッ!」

今宵は野辺送り
空に上がった夫に届けと、万感の想いを込めて捧げた戦

帰蝶の最初の戦は、勝利に終わった
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◇◇11/19 Nintendo DSソフト◇◇
『トモダチコレクション』

おのうさま(帰蝶)とノブ(信長)が 結婚しました(笑

祝:お濃さま出演 But模擬専…     (戦国無双3)


おのれコーエーめ
よくもお濃様を邪険にしおってからに・・・(涙

(画像元:コーエー公式サイト)
オンラインゲームにてお濃様発見


転生絵巻伝 三国ヒーローズ公式サイト:GAMESPACE24
『武将紹介』→『ゲーム紹介』→『Exキャラクター紹介』→『赤壁VS桶狭間』にてお濃様閲覧可
キャラクター紹介文
絶世の美貌を持つ信長の妻。頭が良く機転が利き、信長の覇業を深く支えた。
また、信長を愛し通した一途な妻でもあった。

(画像元:GAMESPACE24公式サイト)
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濃姫好きとしては、飲めなくても見逃せない

岐阜の地酒 日本泉公式サイト

(二本セットの画像)
夫婦セット 吟醸ブレンド(信長・濃姫)
本醸造 濃姫
カップ酒 濃姫®=爽やかな麹の薫り高い、カップとは想えない出来上がりのお酒です
吟醸ブレンド 濃姫® ブルーボトル=自然の香りのお酒です。ほんの少し喉を潤す程度でも香りが深く体を突き抜けます
本醸造 濃姫®=容量的に大雑把な感じに想えて、麹の独特の香りを抑えたあっさりとした風味です

今現在、この3種類を試しておりますが、どれも麹臭い雰囲気が全くしません
飲料するもよし、お料理に使うもよし
お料理に使用しても麹の嫌な独特感は全く残りません
奇跡のお酒です
何よりボトルがどれも美しい

清洲桜醸造株式会社公式サイト

濃姫の里 隠し吟醸
フルーティで口当たりが良いです
一応は『辛口』になってますが、ほんのり甘さも残ってます
わたしは料理に使ってます

清洲城信長 鬼ころし
量的に肉や魚の血落としや、料理用として使っています
麹の香りが良いのが特徴ですが、お酒に弱い人は「うっ」と来るかも知れません
どちらも一般スーパーに置いている場合があります
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