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バタバタと走る貞勝の姿が廊下にあった
「村井様」
貞勝を呼び止める、資房の部下も走っていた
「ああ、ご苦労さん」
止まるのも惜しげに、その場で足踏みをする
「後続部隊、回収終了です。後は大高城付近、太子ヶ根付近の配置部隊のみです」
「そうか、そうか。大手門を管理してる太田殿にも伝えてくれるか。私は大方様、おなつ様にお知らせする」
「承知しました」
「怪我人が相当だそうからな、場所がなければ局処の庭も解放する。全て収納してくれ」
「はい」
勝家は鷲津を奪取、大高城も落とし、秀貞との合流を待つ
秀貞は知将・松平元康との謁見に臨んでいた
清洲の白州では首実検が行なわれている
監査しているのは秀隆だった
帰蝶は寝室で、眠っていた
夢を見ているのか、それとも、夢さえ見れないほど疲弊しているのか・・・
目蓋を閉じたその横顔は、無表情だった
長屋ではそろそろと、帰って来る兵士達が居た
だが、利治も佐治もまだ戻らない
聞けば土田隊は丹下、池田隊は大高に残ってると教えられた
生きているのか無事なのかもわからぬまま、さちと市の二人は不安な気持ちを抱え、帰りを待った
「お能殿。馬廻り衆が、戻って来たそうですよ」
なつに教わり、お能は慌てて表に出た
雑兵などは怪我人を除き殆どが帰宅した後だったが、それでも庭の中、城の外堀にまで何千人もの兵士で埋め尽くされている
城の中も同様で、普段使われていない部屋まで解放し、怪我人の治療に当っていた
お陰で老若男女問わず、大勢の人間が入り乱れている
この混雑した中を、お能は時親を探して走り回った
表座敷には資房が戦果報告の書類を纏めており、周辺豪族への知らせも請け負っていた
「太田様・・・」
「ああ、お能殿。如何なされました」
「あの・・・。主人は・・・」
「土田殿ですか?馬廻り衆なら最後の収容でしたから、大手門か外堀辺りではないでしょうか。土田殿の顔もまだ見ませんし」
「そうですか・・・」
大手門に行こうとするお能を呼び止める
「ああ、お能殿。土田殿に逢われましたら、直ぐこちらに来て頂くよう申し伝えてくださいませんか。報告書を作成せねばなりませんので」
「はい、承知しました」
お能は軽く頭を下げ、走り去った
「あんなことがあったが、やはり長年連れ添った夫婦なのだから、元の鞘に納まってもらうのが一番だな・・・」
苦笑いしながら、資房は書類に顔を戻した
怪我人治療のため、大勢の侍女達も走り回っている
「あっ、お能様!」
「お菊ちゃん」
菊子は両手に大量の晒しを抱えて走っていた
「治療の手伝い?」
「ええ。うちの亭主、まだ丹下に残ってますから、早く済ませないと後が支えちゃいますもんで、もう大急ぎ」
「そう。私も旦那様のお顔を拝見したら、直ぐに手伝うわ」
「ありがとうございます。馬廻り衆なら、大手門を入ってるそうですよ。大勢怪我人が出たそうで、そっちにも何人か走らせてます」
「じゃぁ、その場で私も手伝って来るわ」
「すみません」
菊子は軽く頭を下げ、持っていた晒しの半分をお能に手渡した
晒しを受け取ったお能は、大手門に出るため城の正面玄関に向う
局処局長の肩書きは表にも充分通用する
名前を言うだけで、すんなりと通された
城の中もバタバタしていたが、表はそれ以上の慌しさだった
怪我を治療する者の手が足りず、治療を終えた者がまだ治療を受けていない者を手当てしている
一番人が多く集まっている所に晒しを配り分けながら、時親の姿を探した
「お能様」
そこへ、夫の部下が自分に気付き声を掛ける
「ああ、戻っていたのね。お疲れ様。良く無事で」
「いえ・・・」
生還を喜んで良いのか、どうなのか、と言った顔をする
「ところで、うちの主人はどこかしら。顔が見たいのだけど」
「筆頭は・・・」
「どうしたの?何かあったの?」
俄にお能の胸の騒ぎ出す
暗い顔をする部下に着いて、お能は大手門を出た
ここにも怪我人が大勢居る
夫も怪我をしたのだろうか
荷駄車がいくつも連なる通りまで出て、お能は立ち止まった
そこに行きたくないと言う予感を抱いて
「筆頭は、こちらです・・・」
「嘘よ・・・」
笑顔が引き攣る
部下が荷駄車に被せた筵をそっと、捲り上げた
「どうぞ・・・」
部下の男もそれ以上、何も言えなくなる
「 」
震える足が、中々先に進まない
顔は青く染まり、胸の鼓動は激しくなり、それが痛みに変わってお能は胸を押えた
「 あなた・・・」
荷駄車の上に、息の止まった時親が横たわっていた
「 殿(しんがり)に、今川の追撃部隊と戦いながら、尾張を目指しておりました。筆頭は自ら最後尾に着け、今川の侵入を食い止めました。ですが、筆頭も手傷を負い、荷駄で運んだのですが・・・、那古野の手前の街道で、息を引き取られて・・・ッ」
部下の目から、ボロボロと涙が零れた
「あなた・・・・・・・」
「荷駄の上で、清洲を守るんだ、と・・・。妻や子の居る清洲に今川を入れたくない、だから戦うと仰られたのですが、馬に乗ることさえ出来ぬ状態で・・・。治療のため、途中の寺に立ち寄ると申しましたが、筆頭は早く清洲に帰りたいと・・・ッ」
「 」
「筆頭の、今際の言葉です・・・」
お能は呆然とした顔で、夫の部下を見た
「 お能、ただいま・・・、と・・・」
「ただいま・・・」
「筆頭は、ご自宅に戻られた幻覚でも見られたのでしょう・・・。とても優しそうに笑っておられました・・・」
「 」
帰ったら、私の話を聞いてくれるか
「あなた・・・」
よろよろとする足で近付き、お能は夫・時親の頬に手を添えた
どれだけお前を大事に想っているか、聞いてくれるか
「ごめん・・・なさい・・・」
結婚して十年
お前に甘えてばかりいた私を、許して欲しい
「ごめんなさい・・・、あなた・・・」
これからもずっと、願わくば共に白髪が生えるまで、お前と居たい
「私・・・、あなたに『行ってらっしゃい』を言わなかった・・・」
お前はいつも変わらず朗らかで
家の中心で
私に長く安らぎを与えてくれていた
「何も言わなかった・・・。あなたに一言も、声を掛けなかった・・・」
お前から笑顔を奪った私を、お前は許してはくれないだろう
それでも
「ごめんなさい・・・。ごめんなさい・・・」
帰った時には笑顔で迎えて欲しい
「 おかえりなさい、あなた」
眉を寄せ、それでもお能は精一杯笑顔を浮かべた
私には、お前しか頼る相手が居ない
恥しいことだが、それが事実だ
最後になったが、お能
「私も、あなたを・・・・・・・」
愛してる
「あなたぁぁぁ ァッ!」
堪え切れず、お能は悲鳴を上げ時親にしがみ付き、大声で泣いた
「あああああーッ!あああああーッ!」
「 初めまして・・・。斯波家臣、土田・・・平三郎、時親・・・です」
何をもじもじしているのだろう
「初めまして。美濃岐阜屋の娘、お能と申します」
さっきから目が泳いでる
「あっ、あのっ・・・。わ、私はこう見えても意外と年を取ってまして・・・ッ」
「はい、お年は伺ってます。でも」
おかしな人
きっと、誠実な人なんだわ
「年と言うほど、お年ではないと想いますよ?」
「 」
あら・・・?
お顔が真っ赤っか
どうしたのかしら・・・
お能も、時親のことが気になった
自分の一言一言で顔がコロコロ変わる
笑ったり、恥しがったり
そんな時親を見ていると、どうしてか、優しい気持ちになれた
「あなたぁぁ・・・ッ!あなたぁぁぁッ!」
冷たくなった時親は、その首筋に何滴ものお能の涙を受けた
それは零れると直ぐ、荷駄の板に流れて落ちた
「ごめんなさい、・・・ごめんなさい、・・・ごめんなさい・・・ッ!」
戦に行く夫に、何も言わなかった自分を詰る
それが今生の別れになると、覚悟して見送らなくてはならなかったのを、お能は理解しなかった
自分を裏切った夫を憎み、夫を奪った女を憎み、その末に生まれた娘を憎み、そして・・・
「あなたぁぁあぁ・・・ぁッ!」
大事なものを失った
時代はいつも、大切なものを奪って行く
戦はいつも、大事なものを持って行く
女はいつも、一人にさせられた
「これは」
「知らない顔です」
「ふむ」
白州で首実検をしていた秀隆の隣に道空が控え、紙に筆を落し誰がどの首を落としたか記していた
「う~~~ん・・・」
「河尻様、これで以上です」
首を運んでいた黒母衣衆の一人が告げた
「そうか」
腕を組み、難しい顔をする秀隆に部下が声を掛ける
「殿に、お知らせしましょうか」
「いや。まだ眠ってらっしゃるだろう。しばらく声を掛けるな」
「はあ・・・」
「新五様が戻られたら、様子を伺いに行ってもらう」
「わかりました」
「 」
その利治を想い浮かべ、秀隆は唸った
まだ実戦経験の浅い利治が取った首に、どう評価すれば良いのか悩んだのだ
「 取り敢えず、首実検は終わった。お前は国許に帰れ」
「ですが、手ぶらでは・・・。せめてお屋形様の、何か遺品になるようなものを・・・」
義元の首実験をした同朋衆の権阿弥と言う茶坊主はそう嘆願するも、秀隆にはその決定権はない
「 殿の采配を待て」
「 」
権阿弥は落胆に肩を落とした
本来なら、ここで今川本隊と合流するはずだったのが、その今川は消え、ここを落したはずの織田も別の場所に移動してしまったと言う
がらんとした城に、どうしてと言う不可解な気持ちを抱えたまま、兎に角待ってみることにした
そうしている内に、殆どの今川が去った後のこの大高城に、叔父の家臣・浅井道忠が秀貞を伴って自分の許へやって来るのを、元康は少し驚きながら出迎える
「叔父上様よりの伝言を、お受け下さいませ」
「如何に」
「此度の戦、織田の勝利にて閉幕。二郎三郎君(ぎみ)には、織田に逆らわず、講和の場を持つように、とのこと」
「講和・・・」
元康は秀貞の顔を見ながら、確かめるようにゆっくりと声を発した
「今川の、負け、で、ございますか?」
「如何にも」
「何故、今川は負けたのでしょうか」
「理由は、当人同士にしかわからぬこと。第三者に、何がわかりましょう」
「 」
確かにそうだな、と、元康は少し俯いた
「ただ、これだけは言えます」
「何ですか?」
「今川よりも、織田が強かった。それに尽きまする」
「そう・・・ですね」
言われてみれば最もだ、と、引き攣った顔で笑おうとする
だが、それも束の間の虚勢だった
「 今川は負けた。なら、我ら松平も大人しく降伏すればよろしいか」
「それは、あなたが考えることです。お竹殿」
「お・・・竹・・・」
幼い頃にそう呼ばれていたことを想い出し、はっと元康は秀貞の顔を見た
「もしや・・・、そなた、吉法師様の傅役の・・・」
「はい。林新五郎秀貞にございます」
名前を聞いた途端、さっきまで暗かった元康の顔が、戸惑いがちな笑顔になった
「懐かしい・・・、懐かしい・・・ッ。ああ、吉法師様の」
「 」
秀貞も微笑みを浮かべ、頷いた
「あああ、ではこの戦、吉法師様が勝利を収められたのですね?」
「 」
秀貞は何も応えなかった
「そうか、だったら仕方がない。負けを認めるしか」
「お竹殿」
「吉法師様は、お元気であらっしゃるか。弟君と争われ、それも勝ったとは聞いているが。 私は、吉法師様と顔を合わせたことはないけれど、それでも織田預かりになっている間の吉法師様の武勇伝は、勘十郎様より色々聞かされていた。兄の居ない私には、吉法師様は目蓋の兄でもあった。一目お逢いしたいのだが、可能だろうか?」
少年のように瞳を輝かす元康に、秀貞はそれには応えずこちらの返事を強要する
「想い出話は、何れできましょう。生きていたならば」
「それは・・・、織田に逆らえば、命はないと言うことか?」
「どうとでも。ですが、織田に逆らわないと誓約できるならば、あなた様の無事は保証します。いかがですか。このまま尾張に留まり、その首を我らに差し出すか、家臣みな安泰に帰国するか。あなたがお決めください。松平の御大将」
「 」
どう、応えれば良いのか、元康はその返事を躊躇われた
素直に従うと言えば生きて帰れるだろう
だが、帰った先で、今川方の姫君である妻は、織田に一矢報いらなかった自分を許してくれるだろうか、と言う一抹の不安
「 夕暮れまで、お返事は待っていただけないでしょうか・・・」
「と、言いますと?」
「大事なことです。私一人で結論は出したくない。多くの家臣らの家族のことも、考えたい。それを考慮せず織田に味方し、結果、駿府に居るみなの家族に危害が及んでは、どれだけ詫びても詫び足りません・・・ッ。松平の将来も抱えたことです。林殿、どうか、どうかご猶予を・・・ッ!」
「 」
自分に向って床に平伏する元康を、秀貞はどこか冷めた目で見ていた
恩情に走るのは簡単だ
それで家臣らも納得し、自分に恩義を感じてくれるだろう
あの奥方は、どうだろう
家臣のことを考えながらも、最終的には一人で突っ走り、周りに迷惑を掛ける
だが、それに引き寄せられ、気が付けば一緒に走っている
自分がそうだった
反目しながらも、結局はこうして今川戦に参加している
元康を眺めながら、自分を冷笑した
自分も、引き寄せられているな、と、感じながら
寝室で眠っている帰蝶の目蓋が、忙しく動き始めた
その裏で眼球が、目まぐるしくあちらこちらを見ているのがわかる
しばらくしてその動きが止まり、薄っすらと目蓋が開いた
「 」
いつも見慣れた天井が、ぼんやりと見える
眺めながら、遠退いていた意識を呼び戻す
「 誰か・・・」
掠れた声で呼ぶ
「・・・・・・・・龍之介」
ぽつりと、呟く
いつもなら
「はい、奥方様」
そう、龍之介の返事が直ぐに戻って来るのに、今はそれがない
布団の中で、帰蝶は拳を握った
上半身を起こそうとすれば、鉄砲で撃たれた肩が痛む
「 っつ・・・!」
押えながら痛みに耐え、声を掛ける
「誰か居るか」
「はい、只今」
襖の向こうで、慌てた返事がやって来た
それが開き、馴染みのない小姓が平伏しながら入って来る
「状況は、どうだ」
「あ、はい、えと」
帰蝶が何を知りたがっているのか、年若い小姓は先読みができない
「実検は済んだのか」
仕方がないので、自分から聞く
「あ、はい、済みました」
今まで帰蝶を間近に見たことがないのか、その小姓は呆然とした顔をする
肩を庇うために、少し前に倒れる帰蝶の垂髪が、少し顔に掛かっていた
その光景は壮絶なほど妖艶で、垂れた前髪を掻き上げる仕草は尚、妖しい魅力を放ちながら厳かな雰囲気をも醸し出していた
「こちらの被害は」
「 」
呆ける小姓を少し睨む
小姓は驚いて現実に戻った
「え、えと、戦死者約四百、それから、負傷者二千・・・いえ、千・・・」
「まどろっこしいッ!」
「申し訳ございません・・・ッ!」
怒鳴られ、小姓の少年は萎縮して土下座した
「先発隊が悉く壊滅しているのに、戦死者が四百なわけがあるか」
「申し訳ございませんッ!」
「もう良い」
「はっ、はいっ・・・」
「局処で休む」
「はっ、はいっ」
小姓は慌てて部屋を出る
「 」
帰蝶を置いて
「動かれても大丈夫なので?」
帰蝶が目を覚ましたと、慌てて資房が駆け付ける
「構わん」
帰蝶は寝間着のまま廊下を歩いた
帰蝶が局処へ向うのに、先ず本丸と局処を結ぶ大廊下の、其々の番兵に申告し、局処側の使用人に仲介を頼み、局長、もしくはそれ相当の人間に伝える
局処では帰蝶を出迎えるための準備をしなくてはならないし、寝室で寝るのであれば布団も敷かなくてはならなかった
帰蝶が局処に到着するまでに、それら全てのことを済ましておかなければならないのだが、同時に局処に向う帰蝶の同行もしなくてはならない
これを一人でするには無理があるので、常に五~六人の小姓が走り回る必要があり、やや慌しい雰囲気はする
それでも龍之介は一人でやっていたのだから、帰蝶はいつも静かに動くことができた
「バタバタと喧しいッ!」
苛立っている帰蝶に、資房は苦笑いする
局処ではなつが帰蝶の迎え入れをした
「では、後はこちらで」
「お願い致します」
馴れない小姓の尻拭いで、結局資房も中まで付き添わなくてはならなかった
「無事のご帰還、また、今川相手の大勝利、祝着至極」
「挨拶は良い。疲れてる」
「お休みになられます?」
遮る帰蝶に苦笑いし、聞く
「そのつもりで来た」
「では、寝室へ。太田殿、すみませんがまた後でお越しくださいますか」
「承知しました」
今は長々と戦果報告を聞ける余裕はないのだろう、と、なつも資房も判断した
なつを筆頭に、使い慣れた寝室に入る
「いつ頃、お起こしすればよろしいでしょうか」
「こちらから声を掛ける」
「承知しました」
なつの侍女が布団に入るのを確認し、そっと掛け布団を掛け、表に出た
「それでは、お休みなさいませ」
「 」
返事をしない帰蝶に、相当疲れているのだろうと想った
今は、時親も戦死したことを伏せて置いた方が良いかと、判断した
なつは何も言わず、自らの手で襖を閉めた
ひとり残された帰蝶は布団の中で仰向けに、桶狭間を想い返す
魂の邂逅を果たした義元と言う稀代の名将
凡そ人が持つ雰囲気ではなく、それは生まれながらに具(そな)えた天性のものだろうと想えた
自分に義元と同じ雰囲気が持てるかどうか、怪しいところだった
読みが当って今川を落せたことは、素直に嬉しい
だけど・・・・・・・・
「 」
考えれば考えるほど、最後の最後に詰めの甘かった自分が腹立たしい
油断した所為で鉄砲で撃ち抜かれただけではなく、龍之介まで失ってしまった
自分が、龍之介を死なせてしまった
「 ッ」
大人しくしていることなど、苦手だった
休もうと想っていた気持ちなど吹っ飛び、今は目が冴えて仕方がない
目蓋を閉じることができない
最後まで自分を守りたいと言ってくれた龍之介を、その遺体すら引き揚げてやれなかった自分の無力さ、最大の敵は自分だと帰蝶は嫌でも実感した
「くそったれッ!」
布団の中で叫びを上げると、肩の痛みなど頭にないかのように跳ね起き、帰蝶は壁に向った
両手を付き、頭を擡げる
「どうして気を緩めた・・・ッ。まだ今川の残兵が居ると言うのに、どうして勝った気で居た・・・ッ!」
ガスンッ!と、帰蝶は握った拳の腹で想い切り、壁を打ち付けた
「戦で大事なのは、勝つこと、そして、無事に戻って来ること・・・ッ。わかっているのに、どうして・・・ッ!」
ガスンッ!と、また、壁を殴る
その音は嫌でも周辺に響き、廊下を歩く女達は怯え、それはなつの耳にも届く
「どうして気が大きくなった、帰蝶ッ!」
ガスンッ!
「お前が殺したんだッ!お前が龍之介を殺したッ!」
ガスンッ!
「帰蝶ッ!お前が龍之介を殺したんだッ!」
ガスンッ!
壁に皹が入り、それはやがて亀裂になった
帰蝶の拳の皮膚は裂け、壁にはべったり血がこびり付く
それでも帰蝶は自分を責め、自分を詰り、壁を殴り続ける
「お前の所為で、龍之介は死んだッ!龍之介だけじゃないッ!動くのが遅かったために、叔父上様まで死なせてしまったッ!」
ガスンッ!
パラパラパラッ・・・と、崩れた壁土が畳に落ちる
「ずっとずっと、私に味方し、織田の親族をずっと抑えてくださっていた叔父上様まで、死なせたッ!」
ガスンッ!
「お前は無力だッ!結局、何も守れていないッ!」
ガスンッ!
「無力だッ!」
壁のその一面、帰蝶の手の血が何かの模様のように広がる
帰蝶の右の肩からも、血が流れた
それでも、壁を殴ることをやめない
まるで禊のように
自らを科すかのように
「奥方様ッ!」
襖を開けたなつは、帰蝶のその光景に目を見張った
「お・・・、おやめください、奥方様ッ!」
なつは帰蝶が壁を殴るのをやめさせようと、後からしがみ付く
「離せッ!」
帰蝶は想い切り身を捻り、なつを振り払った
「きゃぁッ!」
なつは尻餅を突き、畳の上に転がった
「奥方様!」
今度は駆け付けた貞勝が止めに入る
だがそれも、なつと同じで帰蝶に振り落とされ、なつの隣で尻餅を突く
「奥方様ッ!誰かが死んだのは、あなたの所為ではございません!それが戦と言うものですッ!」
だが、なつの必死の叫びも帰蝶には届かず、壁を殴り続ける
亀裂はどんどんと広がり、壁土は崩れ、竹の骨組みが見えるまでの有様になってしまった
「奥方様!折角止まった血が・・・ッ!」
肩から溢れる血は全身を伝って、帰蝶の足元に溜る
それでも
我を忘れたかのように、帰蝶は壁を殴り続けた
「私の所為だ・・・ッ!私が愚かだったばかりに、龍之介と、叔父上を・・・ッ!」
無力は罪だと、いつも想っていた
肝心な時に何もできないのは、無力だからだと想った
無力だから、守れなかった
信長を
信光を
龍之介を・・・
「奥方ッ!」
目覚めた帰蝶に報告を、と、局処を訪れた秀隆が部屋に飛び込み、後から帰蝶を抱き締め、壁から引き剥がす
「離せ!河尻!離せッ!」
「龍之介の遺体は、権さんの部隊が回収しましたッ!今、あや様に引き渡してますッ!」
「 」
それを聞いた途端、帰蝶の振り上げた拳から力が抜け、腕がだらんと前に下がった
「奥方。戦はね、誰かが死ぬもんなんです。それは向うだって、一緒でしょ」
秀隆の声が、耳の側で聞こえる
自分を抱き締める腕が温かい
背中にある秀隆の胸が温かい
そう感じるのは、自分が生きているからなのだと想った
龍之介が守ってくれた命がここにあるから、温かいのだと想った
「奥方。新五様、敵大将の首を落としましたよ」
「・・・え?」
振り向かず、訊き返す
「誰の首だと想います?」
「 」
「遠江、井伊谷城城主、井伊直盛ですよ」
「井伊・・・直盛・・・」
「今川随一と言われるほどの、名武将なんですよ。群を抜いた勇猛さで、東国では名の知れた人物です。鷲津から、織田の攻撃を受けている今川救済のため、権さんの囲み、突破したそうです。そんな人の首を、新五様は落としたんですよ」
「 新五が・・・」
「奥方。向うだってどれだけの犠牲が出たか、わからないわけじゃないでしょう?増してや、総大将の治部大輔を落したんだ。死んだ者、一々自分の所為だと嘆いてる暇があるんですか?奥方。あなたは今川を倒したんだ。その後に何が控えているか、きっちりその目で見なきゃならないって時に、現実逃避だけは勘弁してください。勝ったって、やることはいっぱいあるんですよッ」
「 」
折角縫い合わせた傷がまた開き、医者の治療を受けている帰蝶を、なつは怖い顔をして睨んでいた
両手にはぐるぐる巻かれた晒しが目立つ
尚更、腹が立ったのか
「周辺豪族への戦果報告、論功行賞、それから、取り返した大高、鳴海の配分、権が囲んでいる沓掛の始末。やることはたくさんあるってのに」
「それ以上言うな」
「いいえ、言いますよ」
「なつ」
医者の肩の治療が終わった
小袖を羽織るのを見届け、なつは声を掛けた
「森殿、どうぞ」
呼ばれ、可成が蝉丸を抱いて部屋に入る
「蝉丸・・・」
可成はそっと、蝉丸を帰蝶に渡す
片手で上手く受け取れない帰蝶が、胸に抱くまで介添えした
「蝉丸・・・」
事切れた蝉丸は目を閉じ、無念さに嘴を少し開いている
「蝉丸は、飛ぼうとしました。奥方様の居る、桶狭間の方を向いて」
「え・・・?」
「後で知ったんです。小屋から出たがっていたので、戸を開けました。すると蝉丸は、東南の方角を向いて、飛ぼうとしたんです。ですが、力尽きて」
「東南・・・」
「清洲から見たら、東南は、桶狭間の方角です」
「 ッ」
帰蝶は驚いた顔をして可成を見た
「蝉丸は、奥方様の危機を救おうと、飛び立ちたかったんでしょう。だけど、寿命には勝てなかった・・・」
「ううん・・・」
帰蝶は蝉丸を顔の側まで持ち上げ、ぎゅっと抱き締め、その頭に口付ける
「蝉丸は、私のところまで届いた」
「奥方様・・・」
「私の代わりに、逝ってくれたのね。ありがとう、蝉丸・・・」
「 」
そうだったのか、と、なつも可成も黙り込む
「この日のために無理をして、生き長らえてくれたの?ごめんね、待たせてしまって・・・。ゆっくりお休み、蝉丸。義父上様と吉法師様に、よろしくね・・・」
蝉丸を膝の上に置き、優しく優しく撫でる
それから、美しいその黒羽を抜き始めた
「奥方様?」
なつはきょとんとした顔をする
「剥製に、なさいますか?」
可成が聞いた
「ううん。蝉丸は、吉法師様の隣で眠ってもらう。生前は織田のために働いてくれた者を、辱めるような真似はできない」
「承知しました」
「三左、悪いけど、蝉丸の埋葬、お願いしても良い?」
「お安い御用です」
それから、また、帰蝶は蝉丸の羽を抜いた
「綺麗な鴉。賢い鴉。人は死んで、名を残す。獣は死んで、皮を残す」
いつかは朽ち果てる
残した名も、いつかは朽ちる
獣の残した皮は、千年残る
人は、獣よりちっぽけな存在なのかも知れないと、帰蝶はなんとなくそう想った
可成と入れ替わるように、秀隆が入る
肩の痛みを和らげるために、帰蝶の右腕が三角巾に首から吊り下げられていた
その姿が痛々しい
「お茶、淹れましょうね」
なつは部屋の隅で遠慮した
「状況報告です」
「聞く」
「首実検は滞りなく終了。戦死した龍之介の後任ですが、誰か推薦でもありますか」
「 ない」
「では、こちらで人選してもよろしいでしょうか」
「龍之介以上の能力のある者なら、誰でも構わない」
「そんなのが居たら苦労しませんよ」
秀隆は眉を顰めて言った
「今川方、大高を破棄。現在織田の管理下に置いてます。鷲津の権さんの部隊が、沓掛城を囲んでいますので、帰還、戦果報告は明日以降になります。林殿が現在、丸根に詰めて今川方武将、松平を説得中。大人しく尾張から出て行ってもらうよう、話が進んでいる最中です」
「やはりな」
「読まれていたので?」
「権は体を使うことが得意だ。一方の林は、頭を使うことを得意とする。だから、桶狭間には連れて行かなかった」
「それは?」
「丸根を攻撃するは良いが、こちらの状況は殆ど手探り状態だっただろう。だから、今川が送り込むとすれば、切れ者か、あるいは様子見のための捨て駒かと睨んでいた。だが、左之介の玉砕を考えても、捨て駒になり得る切れ者だろうと、な」
「はぁ・・・」
帰蝶の言っていることがわかるような、わからないような顔をする
「丸根は勝三郎が普請をした。その補佐に入ったのは佐治だ。この、頭の回りの速い二人が手懸けたと言うことは、ほぼ籠城に向いた砦だったろう、それを落したのだから、武力だけでぶつかって互角で居られるとは想っていない。拳には、拳。頭には、頭」
「なるほど。だから駿府・今川方が詰め掛ける鷲津に、権さんを」
「現に逃亡した今川を追い駆けて、沓掛まで行ってしまったのだろう?桶狭間に連れて行ったら、こちらまで玉砕してしまう。本隊に着いている部隊の方が、優れているのだからな」
「 」
確かに、と、秀隆は頷いた
「鳴海城の方なんですが」
「どうだ」
「それが、手落ちと申しましょうか、なんと申しましょうか、現在、今川方岡部五郎兵衛が入っておりまして」
「山口はどうした」
「戦乱に紛れて、今川方に切腹処分を下されました。織田に情報が漏れていたことの責任を負わされ」
「そうか。では、その岡部とかには、早急に出て行ってもらうよう、要求して来い」
「はっ。それから、丹下の方を引き上げさせたいんですが。鳴海に今川方が張っているとなれば五郎左と弥三郎の部隊だけでは心許ないので、一度城に戻って停戦協議に持ち込むつもりです」
「構わん。五郎左、弥三郎に引き上げを命じろ。それから、岩倉、末森を張っていた長谷川、慶次郎にも戻るよう」
「はっ」
言おうか
「 奥方・・・」
どうしようか
秀隆の顔に、なつは焦りの色を見せた
「実は」
「し・・・、シゲ・・・!」
「馬廻り衆筆頭、土田殿が」
「あっ、あのね、その話はまた」
「平三郎が、どうかしたか」
「あっ、後で、ね?」
「 戦死なさいました」
「 」
時親の遺体は、お能が屋敷に連れ帰ったと言う
帰蝶は城を出て時親の屋敷に出向く暇もなく、論功行賞を行なわなくてはならなかった
武功を挙げた者には感状を渡さねばならない
その準備を道空、資房としていると、辺りはすっかり夕暮れに染まっていた
「こんなものか」
「はい」
筆を置く帰蝶の手を、道空はそっと、湯に浸していた晒しで拭った
「あったかい。気持ち良い」
「それはようございました」
微笑むも、帰蝶の顔はそれには応えない
言葉もどことなく、死んでいるように感じた
戦に馴れた者ではなく、これまでも戦死者を出していなかっただけに、今回は相当堪えているのだろうと想える
今川義元を倒した喜びなど、微塵も感じさせない表情をしていた
「では、参るか」
「はい」
帰蝶が署名した感状を携え、道空は立ち上がった
表座敷に帰還した恒興、弥三郎、長秀、成政、義元の首を落とした斯波衆らが集う
末席である利治、佐治はその他の者と一緒に、表座敷の庭で控えていた
小袖に着替えた者も居れば、まだ鎧すら降ろしていない者も居る
そこに兄・時親が居ないことを不審に想い、隣に座る恒興に声を掛けた
「勝三郎さん、兄貴知らない?」
「土田殿? そう言えば、ここに居ないと言うのはおかしいですね」
恒興はきょろきょろして返事した
「もしかして、まだどこかに配置されていて、戻っていないとか?」
「う~ん、そういや権さんも林さんも、まだ戻ってなかったっけ。帰ったら「論功行賞始めるぞー」って声掛けられたから、慌ててこっち来ちゃって」
「実は私もなんだ。だから小袖の下、まだ脇引を着けたままなんだ」
「そりゃゴワゴワするだろうに」
弥三郎は苦笑いしながら言った
「弥三郎のように、鎧のままで居ればよかったと後悔してるよ」
「あはは、そりゃ後の祭りだな」
「静かにしろ」
談笑する弥三郎の隣に座る長秀が、弥三郎の米神を突付きながら注意する
「すみません・・・」
弥三郎と恒興は小さくなりながら謝った
戦に参加した者の顔は晴れやかで、その逆に参加しなかった者は、居心地が悪いだろう
特に蜂須賀小六正勝は、真正面から帰蝶と対立したのだから尚更、居心地が悪かった
上座に座る帰蝶の側に道空が控えている
いつもならそこは、龍之介が居た場所であった
帰蝶は落とし目勝ちに道空を見る
それは道空であり、龍之介ではなかった
「感状」
その道空が声を張る
最初に名の呼ばれた者が、一番の手柄であった
義元に一番槍を突き付けた小平太と、義元の首を落とした良勝は、どちらの名前が先に呼ばれるのかと胸をときめかせて待つ
だが、道空は別の名を読み上げた
「梁田出羽守政綱」
「 え・・・?あ・・・、はいッ!」
呼ばれた政綱自身、どうして?と言う顔で立ち上がるのだから、周囲の動揺は否めない
その場が騒然となった
「どう言うことだ」
「槍を持っていない梁田殿が、何故一番手柄なんだ」
納得できない者が現れて、然るべきだろう
それでも帰蝶は平然としていた
そう囁き合う声が漏れる中、政綱はおずおずと帰蝶の前に進んだ
「あ・・・、あの・・・。私で構わないのでしょうか・・・?」
と、確認しながら座る
「そなたが今川の子細に至るまでの情報を齎してくれなければ、私は桶狭間を想い付くことはなかった」
「 」
そうか、と言う顔で、政綱は帰蝶の手から感状を両手で受け取った
「ありがとうございます。今後も織田のため、粉骨砕身、務める所存にございます」
「期待している」
「次」
道空の声に、帰蝶は次の感状を手に取った
「服部小平太一忠」
「はいッ!」
片足を引き摺りながら、小平太が前に出る
座ったところで、帰蝶は感状を手渡した
「今川治部大輔と言う怪物を相手に、一歩も怯むことなく立ち向かったその勇気、子々孫々語り継がれるだろう。よく、掴み掛かった」
「ありがとうございます!」
「次、毛利新介良勝」
「はい!」
良勝が帰蝶の前に座る
「治部大輔に、腕を噛まれたのだそうだな。大事無いか」
「はい!」
「養生し、次の戦に控えろ。これからも、織田のため働いてもらう」
「はい!」
大将首を挙げた者の名が次々と読み上げられる
残る感状も少なくなった
その頃になって漸く、利治の名が読み上げられた
「斎藤新五郎利治」
「はい?」
油断していた利治は、何故自分の名が呼ばれたのかわからない
隣に居た佐治に腕を持たれ、利治は庭から立ち上がり表座敷に入った
「井伊谷の城主を、落としたそうだな」
「え?」
「そこまで成長しているとは、想っていなかった。お前を侮っていた」
「いえ・・・」
利治自身、井伊谷の城主とは誰なのか、わかっていない
名を知る者は、利治の快挙に酷く驚いていた
「遠江の虎を落したのか?」
「やるもんだな、新五殿も」
「これに甘えず、驕らず、武功を上げよ」
「はい、精進して参ります」
利治に差し出す感状を持つ帰蝶の右の指先が、僅かに震えていた
肩を撃たれたとは聞いている
命に別状はないと知らされ安心していたが、その実、相当の痛みがあるのだろうと感じる
それでもなんでもない顔をしている姉を、利治はしばらくぼんやりと眺めていた
「次」
道空の声がして、姉は感状の置いてある左隣の畳に顔を落す
その仕草で利治は、一礼して立ち上がった
利治は弥三郎の部隊に配属されているので、一応は『部下』と言う扱いになる
自分の部隊の者が武功を上げるのは、部隊長の名誉にも繋がり、引込む利治を弥三郎は誇らしげに見送った
「次」
と、名が呼ばれる
戻った利治は手の中の感状をしげしげと眺めた
やはり筆を持つのは無理だったのだろう
字は全て道空のものであり、帰蝶の字は署名だけだった
想わず苦笑いする
「凄いですね、新五様」
「え?」
隣の佐治が、自分のことのように嬉しそうな顔で話し掛ける
「敵大将の首なんて、いつの間に取ったんですか」
「いやぁ、途中で人数多くなって来ただろ。なんかわけわかんなくなって来て、夢中で殆ど覚えてないんだよなぁ。弥三郎さんに、取った首に札掛けとけって言われるまで、打ち捨てしてたから手ぶらでさ」
「え?首、取らなかったんですか?私は予め池田様に、取った首には札を掛けとくよう言われてたもんですから、一応引っ掛けておきましたけど」
「それでお前も置いてったんだろ?」
「いやぁ、後で誰か拾ってくれるかな、って想ってまして・・・」
「そんなの手柄、横取りされっちまうだろ。バカだなぁ」
暢気な佐治に、利治は苦笑いした
「次、前田犬」
名を呼ばれた利家は、出奔中の身である
それでも信盛に首根っこを掴まれて清洲に上がらされていた
あれからもう何年も経っている
周りは事情の知らない斯波旧臣を除いて、そろそろ復帰すれば良いのにと言う雰囲気も流れていた
それでも
「待った!」
利家は自ら帰蝶を遮った
「俺は」
そう、帰蝶に首を振る
「だが」
「 」
それ以上何も言わず、利家はまた、首を振った
まだ、帰れない
少し淋しそうな顔をして、気持ちを帰蝶に伝える
想いを受けた帰蝶は、そうかと軽く頷き、手にした利家の感状を破り捨てた
「それでこそ、奥方様」
心の中で呟きながら、満足そうに微笑む
まだ帰れない理由
それは、今川戦だけで覆せるほど、軽い罪を犯したのではないと言うこと
刃傷の許されない本丸、その中でも特に神聖な場所、主君の寝室で人を殺したのだ
簡単に許される罪ではなかった
利家は帰蝶に軽く頭を下げると、ざわつく庭を出て行った
そんな利家の背中を、大勢の人間が見送る
帰蝶も黙って見送った
そうしていると
「次、佐治」
と、佐治の名が呼ばれた
「あ、はい」
佐治もキョトンとする
誰の首を取ったのか、わからないからだ
少し緊張しながら帰蝶の前に座る
「槍を持っての戦は初めてであろうに、大したものだ」
「いえ・・・」
帰蝶から感状を受け取りながら、佐治は恐る恐る聞いた
「あの・・・。私、一体誰の首を取ったので・・・?」
「 」
佐治の言葉に、帰蝶は唖然とする
「知らずに取ったのか?」
「あ、はい、その、まぁ・・・」
佐治を預かる恒興も、座敷の中で苦笑いする
「今川の朝比奈、庵原と並び称される、駿府御三家三氏の一人、三浦左馬助義就だ」
「 え・・・?」
佐治の目が丸くなる
一座は一瞬にして凍り付く
そうだろう
今日が初めて武器を持って参戦した佐治が、行き成り副将扱いの武将を討ち落としたのだから
「あ・・・、あの・・・?そんな大人物を、私が・・・?」
と、佐治は自分を指差した
「首にお前の札が掛かってたんだから、お前だろ」
信じようとしない佐治に、実検を行なった秀隆が突っ込む
「この武功に、お前を士分に取り上げる」
「え?!」
念願叶った武士への道が開けたと言うのに、それでも佐治は状況を全く飲み込めないない顔をしていた
「どうした、佐治。何か言うことはないのか」
秀隆に聞かれ、そう応えられるものではない
「ええー・・・、えーっと・・・」
なんて言えば良いのかさっぱりわからず、佐治は帰蝶に平伏して頂戴した感状を手に座敷を出て庭に戻った
周りは佐治を好奇の目で見送る
羨ましがる者も居れば、身分不相応だと僻む顔をするものも居た
それに気付かず元の位置に戻る
「佐治。お前の方が凄いじゃないか。しかも士分まで与えられるなんて」
出迎える利治も破顔する
「いや、本当なんですかね?私がそんなご立派な方を。士分とか、どう言うことでしょう」
「俺に聞かれてもな・・・」
利治は頭から汗を浮かばせた
ここに居る者への感状を手渡し終え、帰蝶が一呼吸置く
「これより、其々の言い渡しを行なう」
一同が一斉に平伏した
「先ず、佐久間大学允盛重。名代、一門佐久間右衛門信盛」
「はっ」
信盛が帰蝶の前に座る
「大学允には稲生以来世話になり通しだった。できれば、その家族を保護したい。手伝ってくれるか」
「 無論」
「これは大学允への感状だ。名も、大学助に改めよ」
「墓に、立派な名が刻めまする」
死んだ者にまで感状を送る主君が、何処に居るだろうか
信盛は受け取った感状を大切に手に持ち、下がった
「熱田神宮大宮司、千秋四郎季忠。名代、河尻与兵衛秀隆」
「はっ」
信盛に代わって、秀隆が帰蝶の前に座った
「熱田の大宮司、一度お逢いしたかった」
「きっと義叔父も同じことを言ったと想います」
「熱田の安堵は、充分にさせてもらう。これからも尾張のため、民のため、祈り捧げるよう、宜しく頼むと伝えてくれ」
「承知」
帰蝶から感状を受け取り、下がる
「飯尾近江守定宗。名代、飯尾隠岐守尚清」
「はっ」
帰蝶は手渡しながら尚清に言った
「父上の奮戦、凄まじかったと伝え聞く。今川の猛攻をぎりぎりまで押さえ、結果、大高の今川は桶狭間には間に合わなかった。これも全て、そなたの父君の手柄である。その武勇に免じ、そなたの飯尾家継承権を認める」
「 ありがとうございます・・・ッ!」
自身は敗走し、早々に清洲に戻ったのを、父の手柄が自分を救ってくれた
尚清は与えられた感状を抱き締め、後ろに下がる
可成は帰蝶のこの『演出』を、上手いと感じていた
義元を倒したとて、織田が得たものは僅かなもの
戦に参加した家臣らに配れるだけのものは、何も得ていなかった
配れる物がなければ、不満が生じる
その不満が生じるのをこうして、『恩情演出』によって抑えているのだから
「佐々隼人正政次。名代、佐々市丸成政」
「 はい」
兄の死に、成政も平気ではいられないだろう、それでも気丈に顔を上げたまま帰蝶の正面に座った
「 稲生の戦いでは、そなたの兄は末森に味方した」
「・・・はい」
「だが、此度の戦ではその身を盾にしてでも、善照寺を守り抜いてくれた。これはいっときの謀叛を反故にするには充分な働きだ。よって、比良城は今後も佐々を城主とし、市丸は佐々の跡継ぎであることを認める」
「 ありがとうございます」
成政は静かに頭を下げ、退座した
「 」
次に置いた感状を、帰蝶はそっと避け、一番下の感状を手に取る
「 土田、平三郎時親。名代、土田弥三郎利親」
「 」
兄の名が呼ばれ、弥三郎はぼうっとした
どうして帰蝶が兄の名を呼ぶのか、それが理解できなかった
「弥三郎、呼ばれているぞ」
長秀が、呆然としている弥三郎の腕を突付いた
「え・・・?あ・・・」
「弥三郎」
帰蝶の口調が、さっさと来るようにと命じる
「はい・・・」
正面に座り、わけのわからない顔をして、帰蝶から感状を受け取った
「お前の兄が、最終的に清洲を守ってくれた」
「え?」
「今川の追撃隊を、追い払ってくれたそうだ」
「兄貴が・・・」
それで、まだ警戒でもしていて、帰っていないのかと想った
「土田平三郎時親の屋敷は安堵する」
「 え・・・?」
どう言うことだ、と、弥三郎はまじまじと帰蝶の顔を見た
帰蝶の顔は、「お前の兄は死んだ」と言っていた
「冗談・・・だろ?ねえ・・・」
「 」
「まさか、兄貴・・・」
「立派な最期だったと聞く」
「 ッ」
聞いた途端、弥三郎はわけがわからなくなり、立ち上がった
弥三郎だけではない
時親の戦死を聞かされていなかった者も騒然とした
「まさか・・・、土田殿が・・・」
利治も、呆然とした
従兄弟の佐治が放心するのは、尚更だった
「冗談だろッ?!なぁ!冗談だろッ?!」
「弥三郎!」
帰蝶に食って掛かりそうな勢いの弥三郎を、秀隆と資房が取り押さえ、退座させる
「ちょっと待てよ、なぁ!兄貴が死んだって、なんではっきり言わねぇんだよッ!」
「言えば納得できるか。お前は静かにできるのか」
「だって、奥 」
「弥三郎ッ!」
弥三郎の頬を、秀隆が張る
「殿も、叔父上様を亡くされているんだ。それ以上、何も言うな」
「 」
秀隆の言葉に、弥三郎の躰から力が抜けた
そんな弥三郎を気に留めることもなく、帰蝶は続ける
「千秋の討死、一番槍を上げた服部、その首を落とした毛利の活躍により、今回参加しなかった斯波旧臣の不忠は不問とす」
その言葉にほっとした者も少なくない
可成はそのためにこれを演出したのかと想った
「以上を持って散会する!」
「ははッ!」
利治、佐治、手柄を上げた嬉しさと、時親の戦死が鬩ぎ合い、言葉も少なく長屋に帰る
兄の死に落胆した弥三郎を、可成が付き添い、励ましていた
帰蝶は局処に帰り、あやの部屋に向った
そこで眠っている者に、最後の感状を手渡すためである
「奥方様・・・」
この時勢を生き抜いた女性なだけあって、弟の死をあやは静かに受け止めていた
目は、赤く充血しているが
「邪魔をしてもよいか」
「はい、どうぞ」
「 」
帰蝶が入った後、侍女が外から襖を閉める
布団の上の龍之介は、顔に何も被せていない
岩室家も信長と同じく神道なのだろうか
仏教徒であれば、顔に布を被せている
だが、そのお陰で龍之介の死に顔を見ることができた
「眠っているようだ」
「ええ。先代様も、そうでした。戦に赴きながら、このように穏やかな死に顔が、できるものなのですね」
「お父上には」
「使者を出しました。明日には引き取りに来るでしょう」
「あや殿は」
「 できましたら、弟と一緒に、実家に帰りとうございます」
「そうか・・・」
引き止める気持ちが、湧かなかった
「 これを、弟君に」
帰蝶は手にした感状を、自由の利く左手で渡した
「 感状・・・」
「こんなもので、すまない」
「いいえ。死んだ者にこのような心遣い、よろしいのでしょうか」
「これくらいしかできない私を、寧ろ許して欲しいほどだ」
「 」
あやは言葉なく微笑んだ
感状は、龍之介に長門守の官位を授けると同時に、叔父・龍之介の手柄により、あやの子・夕凪の士分を保証すると言う内容だった
「弟君には、申し訳ないことをした。龍之介は私の身代わりで死んだようなものだ」
「それが、小姓の役目です。気に病むことではありません」
「だが」
「この子の遺言を、・・・聞いて下さいますか」
自分を責めようとする帰蝶を止め、あやは言った
「龍之介の遺言・・・」
「この子にとってあなた様は、憧れの存在だったのです」
「私が・・・?」
まさか、と言うような顔をする
「だからこの子は、あなた様を庇って死ねたことすら、誇りに感じていると想います」
「 」
「だからどうか、この子が死んだことを嘆かないで下さい」
「え・・・?」
人の死を悲しむな
それはきっと、人の死を何度も見て来たあやだからこそ、言えるのだろうと想えた
「ご自分が生き残ったことに自信を持って下さい。でないと、この子が浮かばれません・・・」
「 」
余りにも重い、そして様々な意味を含めたあやの言葉に、帰蝶は黙って頭を下げた
「あなた様に巡り会えたこと、一生の誇りだと。この子はそう、言っておりました。その想いをどうか、遺言として、受けてくださいませんか」
「 承知」
眠る龍之介はもう、二度と目を覚まさないだろう
だけど、この胸の深い部分で永遠に生き続ける
自分にこの世の常を教えてくれた義叔父・信光と
そして、信長と共に
きっとそれは決して色褪せぬ、唯一無二の、確かな追懐になるだろう
帰蝶はそう、想えた
先代様の夢、守ろうとしているあなた様を、守りとうございました
帰蝶には、龍之介の最期の言葉が聞こえた
そしてこれからも、信長と共に自分を守る魂になってくれたのだと感じた
永禄三年五月十九日
織田上総介信長近習
岩室長門守重休、桶狭間山にて散る
享年 十六歳
「村井様」
貞勝を呼び止める、資房の部下も走っていた
「ああ、ご苦労さん」
止まるのも惜しげに、その場で足踏みをする
「後続部隊、回収終了です。後は大高城付近、太子ヶ根付近の配置部隊のみです」
「そうか、そうか。大手門を管理してる太田殿にも伝えてくれるか。私は大方様、おなつ様にお知らせする」
「承知しました」
「怪我人が相当だそうからな、場所がなければ局処の庭も解放する。全て収納してくれ」
「はい」
勝家は鷲津を奪取、大高城も落とし、秀貞との合流を待つ
秀貞は知将・松平元康との謁見に臨んでいた
清洲の白州では首実検が行なわれている
監査しているのは秀隆だった
帰蝶は寝室で、眠っていた
夢を見ているのか、それとも、夢さえ見れないほど疲弊しているのか・・・
目蓋を閉じたその横顔は、無表情だった
長屋ではそろそろと、帰って来る兵士達が居た
だが、利治も佐治もまだ戻らない
聞けば土田隊は丹下、池田隊は大高に残ってると教えられた
生きているのか無事なのかもわからぬまま、さちと市の二人は不安な気持ちを抱え、帰りを待った
「お能殿。馬廻り衆が、戻って来たそうですよ」
なつに教わり、お能は慌てて表に出た
雑兵などは怪我人を除き殆どが帰宅した後だったが、それでも庭の中、城の外堀にまで何千人もの兵士で埋め尽くされている
城の中も同様で、普段使われていない部屋まで解放し、怪我人の治療に当っていた
お陰で老若男女問わず、大勢の人間が入り乱れている
この混雑した中を、お能は時親を探して走り回った
表座敷には資房が戦果報告の書類を纏めており、周辺豪族への知らせも請け負っていた
「太田様・・・」
「ああ、お能殿。如何なされました」
「あの・・・。主人は・・・」
「土田殿ですか?馬廻り衆なら最後の収容でしたから、大手門か外堀辺りではないでしょうか。土田殿の顔もまだ見ませんし」
「そうですか・・・」
大手門に行こうとするお能を呼び止める
「ああ、お能殿。土田殿に逢われましたら、直ぐこちらに来て頂くよう申し伝えてくださいませんか。報告書を作成せねばなりませんので」
「はい、承知しました」
お能は軽く頭を下げ、走り去った
「あんなことがあったが、やはり長年連れ添った夫婦なのだから、元の鞘に納まってもらうのが一番だな・・・」
苦笑いしながら、資房は書類に顔を戻した
怪我人治療のため、大勢の侍女達も走り回っている
「あっ、お能様!」
「お菊ちゃん」
菊子は両手に大量の晒しを抱えて走っていた
「治療の手伝い?」
「ええ。うちの亭主、まだ丹下に残ってますから、早く済ませないと後が支えちゃいますもんで、もう大急ぎ」
「そう。私も旦那様のお顔を拝見したら、直ぐに手伝うわ」
「ありがとうございます。馬廻り衆なら、大手門を入ってるそうですよ。大勢怪我人が出たそうで、そっちにも何人か走らせてます」
「じゃぁ、その場で私も手伝って来るわ」
「すみません」
菊子は軽く頭を下げ、持っていた晒しの半分をお能に手渡した
晒しを受け取ったお能は、大手門に出るため城の正面玄関に向う
局処局長の肩書きは表にも充分通用する
名前を言うだけで、すんなりと通された
城の中もバタバタしていたが、表はそれ以上の慌しさだった
怪我を治療する者の手が足りず、治療を終えた者がまだ治療を受けていない者を手当てしている
一番人が多く集まっている所に晒しを配り分けながら、時親の姿を探した
「お能様」
そこへ、夫の部下が自分に気付き声を掛ける
「ああ、戻っていたのね。お疲れ様。良く無事で」
「いえ・・・」
生還を喜んで良いのか、どうなのか、と言った顔をする
「ところで、うちの主人はどこかしら。顔が見たいのだけど」
「筆頭は・・・」
「どうしたの?何かあったの?」
俄にお能の胸の騒ぎ出す
暗い顔をする部下に着いて、お能は大手門を出た
ここにも怪我人が大勢居る
夫も怪我をしたのだろうか
荷駄車がいくつも連なる通りまで出て、お能は立ち止まった
そこに行きたくないと言う予感を抱いて
「筆頭は、こちらです・・・」
「嘘よ・・・」
笑顔が引き攣る
部下が荷駄車に被せた筵をそっと、捲り上げた
「どうぞ・・・」
部下の男もそれ以上、何も言えなくなる
「
震える足が、中々先に進まない
顔は青く染まり、胸の鼓動は激しくなり、それが痛みに変わってお能は胸を押えた
「
荷駄車の上に、息の止まった時親が横たわっていた
「
部下の目から、ボロボロと涙が零れた
「あなた・・・・・・・」
「荷駄の上で、清洲を守るんだ、と・・・。妻や子の居る清洲に今川を入れたくない、だから戦うと仰られたのですが、馬に乗ることさえ出来ぬ状態で・・・。治療のため、途中の寺に立ち寄ると申しましたが、筆頭は早く清洲に帰りたいと・・・ッ」
「
「筆頭の、今際の言葉です・・・」
お能は呆然とした顔で、夫の部下を見た
「
「ただいま・・・」
「筆頭は、ご自宅に戻られた幻覚でも見られたのでしょう・・・。とても優しそうに笑っておられました・・・」
「
「あなた・・・」
よろよろとする足で近付き、お能は夫・時親の頬に手を添えた
どれだけお前を大事に想っているか、聞いてくれるか
「ごめん・・・なさい・・・」
結婚して十年
お前に甘えてばかりいた私を、許して欲しい
「ごめんなさい・・・、あなた・・・」
これからもずっと、願わくば共に白髪が生えるまで、お前と居たい
「私・・・、あなたに『行ってらっしゃい』を言わなかった・・・」
お前はいつも変わらず朗らかで
家の中心で
私に長く安らぎを与えてくれていた
「何も言わなかった・・・。あなたに一言も、声を掛けなかった・・・」
お前から笑顔を奪った私を、お前は許してはくれないだろう
それでも
「ごめんなさい・・・。ごめんなさい・・・」
帰った時には笑顔で迎えて欲しい
「
眉を寄せ、それでもお能は精一杯笑顔を浮かべた
私には、お前しか頼る相手が居ない
恥しいことだが、それが事実だ
最後になったが、お能
「私も、あなたを・・・・・・・」
「あなたぁぁぁ
堪え切れず、お能は悲鳴を上げ時親にしがみ付き、大声で泣いた
「あああああーッ!あああああーッ!」
「
何をもじもじしているのだろう
「初めまして。美濃岐阜屋の娘、お能と申します」
さっきから目が泳いでる
「あっ、あのっ・・・。わ、私はこう見えても意外と年を取ってまして・・・ッ」
「はい、お年は伺ってます。でも」
おかしな人
きっと、誠実な人なんだわ
「年と言うほど、お年ではないと想いますよ?」
「
あら・・・?
お顔が真っ赤っか
どうしたのかしら・・・
お能も、時親のことが気になった
自分の一言一言で顔がコロコロ変わる
笑ったり、恥しがったり
そんな時親を見ていると、どうしてか、優しい気持ちになれた
「あなたぁぁ・・・ッ!あなたぁぁぁッ!」
冷たくなった時親は、その首筋に何滴ものお能の涙を受けた
それは零れると直ぐ、荷駄の板に流れて落ちた
「ごめんなさい、・・・ごめんなさい、・・・ごめんなさい・・・ッ!」
戦に行く夫に、何も言わなかった自分を詰る
それが今生の別れになると、覚悟して見送らなくてはならなかったのを、お能は理解しなかった
自分を裏切った夫を憎み、夫を奪った女を憎み、その末に生まれた娘を憎み、そして・・・
「あなたぁぁあぁ・・・ぁッ!」
大事なものを失った
時代はいつも、大切なものを奪って行く
戦はいつも、大事なものを持って行く
女はいつも、一人にさせられた
「これは」
「知らない顔です」
「ふむ」
白州で首実検をしていた秀隆の隣に道空が控え、紙に筆を落し誰がどの首を落としたか記していた
「う~~~ん・・・」
「河尻様、これで以上です」
首を運んでいた黒母衣衆の一人が告げた
「そうか」
腕を組み、難しい顔をする秀隆に部下が声を掛ける
「殿に、お知らせしましょうか」
「いや。まだ眠ってらっしゃるだろう。しばらく声を掛けるな」
「はあ・・・」
「新五様が戻られたら、様子を伺いに行ってもらう」
「わかりました」
「
その利治を想い浮かべ、秀隆は唸った
まだ実戦経験の浅い利治が取った首に、どう評価すれば良いのか悩んだのだ
「
「ですが、手ぶらでは・・・。せめてお屋形様の、何か遺品になるようなものを・・・」
義元の首実験をした同朋衆の権阿弥と言う茶坊主はそう嘆願するも、秀隆にはその決定権はない
「
「
権阿弥は落胆に肩を落とした
本来なら、ここで今川本隊と合流するはずだったのが、その今川は消え、ここを落したはずの織田も別の場所に移動してしまったと言う
がらんとした城に、どうしてと言う不可解な気持ちを抱えたまま、兎に角待ってみることにした
そうしている内に、殆どの今川が去った後のこの大高城に、叔父の家臣・浅井道忠が秀貞を伴って自分の許へやって来るのを、元康は少し驚きながら出迎える
「叔父上様よりの伝言を、お受け下さいませ」
「如何に」
「此度の戦、織田の勝利にて閉幕。二郎三郎君(ぎみ)には、織田に逆らわず、講和の場を持つように、とのこと」
「講和・・・」
元康は秀貞の顔を見ながら、確かめるようにゆっくりと声を発した
「今川の、負け、で、ございますか?」
「如何にも」
「何故、今川は負けたのでしょうか」
「理由は、当人同士にしかわからぬこと。第三者に、何がわかりましょう」
「
確かにそうだな、と、元康は少し俯いた
「ただ、これだけは言えます」
「何ですか?」
「今川よりも、織田が強かった。それに尽きまする」
「そう・・・ですね」
言われてみれば最もだ、と、引き攣った顔で笑おうとする
だが、それも束の間の虚勢だった
「
「それは、あなたが考えることです。お竹殿」
「お・・・竹・・・」
幼い頃にそう呼ばれていたことを想い出し、はっと元康は秀貞の顔を見た
「もしや・・・、そなた、吉法師様の傅役の・・・」
「はい。林新五郎秀貞にございます」
名前を聞いた途端、さっきまで暗かった元康の顔が、戸惑いがちな笑顔になった
「懐かしい・・・、懐かしい・・・ッ。ああ、吉法師様の」
「
秀貞も微笑みを浮かべ、頷いた
「あああ、ではこの戦、吉法師様が勝利を収められたのですね?」
「
秀貞は何も応えなかった
「そうか、だったら仕方がない。負けを認めるしか」
「お竹殿」
「吉法師様は、お元気であらっしゃるか。弟君と争われ、それも勝ったとは聞いているが。
少年のように瞳を輝かす元康に、秀貞はそれには応えずこちらの返事を強要する
「想い出話は、何れできましょう。生きていたならば」
「それは・・・、織田に逆らえば、命はないと言うことか?」
「どうとでも。ですが、織田に逆らわないと誓約できるならば、あなた様の無事は保証します。いかがですか。このまま尾張に留まり、その首を我らに差し出すか、家臣みな安泰に帰国するか。あなたがお決めください。松平の御大将」
「
どう、応えれば良いのか、元康はその返事を躊躇われた
素直に従うと言えば生きて帰れるだろう
だが、帰った先で、今川方の姫君である妻は、織田に一矢報いらなかった自分を許してくれるだろうか、と言う一抹の不安
「
「と、言いますと?」
「大事なことです。私一人で結論は出したくない。多くの家臣らの家族のことも、考えたい。それを考慮せず織田に味方し、結果、駿府に居るみなの家族に危害が及んでは、どれだけ詫びても詫び足りません・・・ッ。松平の将来も抱えたことです。林殿、どうか、どうかご猶予を・・・ッ!」
「
自分に向って床に平伏する元康を、秀貞はどこか冷めた目で見ていた
恩情に走るのは簡単だ
それで家臣らも納得し、自分に恩義を感じてくれるだろう
あの奥方は、どうだろう
家臣のことを考えながらも、最終的には一人で突っ走り、周りに迷惑を掛ける
だが、それに引き寄せられ、気が付けば一緒に走っている
自分がそうだった
反目しながらも、結局はこうして今川戦に参加している
元康を眺めながら、自分を冷笑した
自分も、引き寄せられているな、と、感じながら
寝室で眠っている帰蝶の目蓋が、忙しく動き始めた
その裏で眼球が、目まぐるしくあちらこちらを見ているのがわかる
しばらくしてその動きが止まり、薄っすらと目蓋が開いた
「
いつも見慣れた天井が、ぼんやりと見える
眺めながら、遠退いていた意識を呼び戻す
「
掠れた声で呼ぶ
「・・・・・・・・龍之介」
ぽつりと、呟く
いつもなら
「はい、奥方様」
そう、龍之介の返事が直ぐに戻って来るのに、今はそれがない
布団の中で、帰蝶は拳を握った
上半身を起こそうとすれば、鉄砲で撃たれた肩が痛む
「
押えながら痛みに耐え、声を掛ける
「誰か居るか」
「はい、只今」
襖の向こうで、慌てた返事がやって来た
それが開き、馴染みのない小姓が平伏しながら入って来る
「状況は、どうだ」
「あ、はい、えと」
帰蝶が何を知りたがっているのか、年若い小姓は先読みができない
「実検は済んだのか」
仕方がないので、自分から聞く
「あ、はい、済みました」
今まで帰蝶を間近に見たことがないのか、その小姓は呆然とした顔をする
肩を庇うために、少し前に倒れる帰蝶の垂髪が、少し顔に掛かっていた
その光景は壮絶なほど妖艶で、垂れた前髪を掻き上げる仕草は尚、妖しい魅力を放ちながら厳かな雰囲気をも醸し出していた
「こちらの被害は」
「
呆ける小姓を少し睨む
小姓は驚いて現実に戻った
「え、えと、戦死者約四百、それから、負傷者二千・・・いえ、千・・・」
「まどろっこしいッ!」
「申し訳ございません・・・ッ!」
怒鳴られ、小姓の少年は萎縮して土下座した
「先発隊が悉く壊滅しているのに、戦死者が四百なわけがあるか」
「申し訳ございませんッ!」
「もう良い」
「はっ、はいっ・・・」
「局処で休む」
「はっ、はいっ」
小姓は慌てて部屋を出る
「
帰蝶を置いて
「動かれても大丈夫なので?」
帰蝶が目を覚ましたと、慌てて資房が駆け付ける
「構わん」
帰蝶は寝間着のまま廊下を歩いた
帰蝶が局処へ向うのに、先ず本丸と局処を結ぶ大廊下の、其々の番兵に申告し、局処側の使用人に仲介を頼み、局長、もしくはそれ相当の人間に伝える
局処では帰蝶を出迎えるための準備をしなくてはならないし、寝室で寝るのであれば布団も敷かなくてはならなかった
帰蝶が局処に到着するまでに、それら全てのことを済ましておかなければならないのだが、同時に局処に向う帰蝶の同行もしなくてはならない
これを一人でするには無理があるので、常に五~六人の小姓が走り回る必要があり、やや慌しい雰囲気はする
それでも龍之介は一人でやっていたのだから、帰蝶はいつも静かに動くことができた
「バタバタと喧しいッ!」
苛立っている帰蝶に、資房は苦笑いする
局処ではなつが帰蝶の迎え入れをした
「では、後はこちらで」
「お願い致します」
馴れない小姓の尻拭いで、結局資房も中まで付き添わなくてはならなかった
「無事のご帰還、また、今川相手の大勝利、祝着至極」
「挨拶は良い。疲れてる」
「お休みになられます?」
遮る帰蝶に苦笑いし、聞く
「そのつもりで来た」
「では、寝室へ。太田殿、すみませんがまた後でお越しくださいますか」
「承知しました」
今は長々と戦果報告を聞ける余裕はないのだろう、と、なつも資房も判断した
なつを筆頭に、使い慣れた寝室に入る
「いつ頃、お起こしすればよろしいでしょうか」
「こちらから声を掛ける」
「承知しました」
なつの侍女が布団に入るのを確認し、そっと掛け布団を掛け、表に出た
「それでは、お休みなさいませ」
「
返事をしない帰蝶に、相当疲れているのだろうと想った
今は、時親も戦死したことを伏せて置いた方が良いかと、判断した
なつは何も言わず、自らの手で襖を閉めた
ひとり残された帰蝶は布団の中で仰向けに、桶狭間を想い返す
魂の邂逅を果たした義元と言う稀代の名将
凡そ人が持つ雰囲気ではなく、それは生まれながらに具(そな)えた天性のものだろうと想えた
自分に義元と同じ雰囲気が持てるかどうか、怪しいところだった
読みが当って今川を落せたことは、素直に嬉しい
だけど・・・・・・・・
「
考えれば考えるほど、最後の最後に詰めの甘かった自分が腹立たしい
油断した所為で鉄砲で撃ち抜かれただけではなく、龍之介まで失ってしまった
自分が、龍之介を死なせてしまった
「
大人しくしていることなど、苦手だった
休もうと想っていた気持ちなど吹っ飛び、今は目が冴えて仕方がない
目蓋を閉じることができない
最後まで自分を守りたいと言ってくれた龍之介を、その遺体すら引き揚げてやれなかった自分の無力さ、最大の敵は自分だと帰蝶は嫌でも実感した
「くそったれッ!」
布団の中で叫びを上げると、肩の痛みなど頭にないかのように跳ね起き、帰蝶は壁に向った
両手を付き、頭を擡げる
「どうして気を緩めた・・・ッ。まだ今川の残兵が居ると言うのに、どうして勝った気で居た・・・ッ!」
ガスンッ!と、帰蝶は握った拳の腹で想い切り、壁を打ち付けた
「戦で大事なのは、勝つこと、そして、無事に戻って来ること・・・ッ。わかっているのに、どうして・・・ッ!」
ガスンッ!と、また、壁を殴る
その音は嫌でも周辺に響き、廊下を歩く女達は怯え、それはなつの耳にも届く
「どうして気が大きくなった、帰蝶ッ!」
ガスンッ!
「お前が殺したんだッ!お前が龍之介を殺したッ!」
ガスンッ!
「帰蝶ッ!お前が龍之介を殺したんだッ!」
ガスンッ!
壁に皹が入り、それはやがて亀裂になった
帰蝶の拳の皮膚は裂け、壁にはべったり血がこびり付く
それでも帰蝶は自分を責め、自分を詰り、壁を殴り続ける
「お前の所為で、龍之介は死んだッ!龍之介だけじゃないッ!動くのが遅かったために、叔父上様まで死なせてしまったッ!」
ガスンッ!
パラパラパラッ・・・と、崩れた壁土が畳に落ちる
「ずっとずっと、私に味方し、織田の親族をずっと抑えてくださっていた叔父上様まで、死なせたッ!」
ガスンッ!
「お前は無力だッ!結局、何も守れていないッ!」
ガスンッ!
「無力だッ!」
壁のその一面、帰蝶の手の血が何かの模様のように広がる
帰蝶の右の肩からも、血が流れた
それでも、壁を殴ることをやめない
まるで禊のように
自らを科すかのように
「奥方様ッ!」
襖を開けたなつは、帰蝶のその光景に目を見張った
「お・・・、おやめください、奥方様ッ!」
なつは帰蝶が壁を殴るのをやめさせようと、後からしがみ付く
「離せッ!」
帰蝶は想い切り身を捻り、なつを振り払った
「きゃぁッ!」
なつは尻餅を突き、畳の上に転がった
「奥方様!」
今度は駆け付けた貞勝が止めに入る
だがそれも、なつと同じで帰蝶に振り落とされ、なつの隣で尻餅を突く
「奥方様ッ!誰かが死んだのは、あなたの所為ではございません!それが戦と言うものですッ!」
だが、なつの必死の叫びも帰蝶には届かず、壁を殴り続ける
亀裂はどんどんと広がり、壁土は崩れ、竹の骨組みが見えるまでの有様になってしまった
「奥方様!折角止まった血が・・・ッ!」
肩から溢れる血は全身を伝って、帰蝶の足元に溜る
それでも
我を忘れたかのように、帰蝶は壁を殴り続けた
「私の所為だ・・・ッ!私が愚かだったばかりに、龍之介と、叔父上を・・・ッ!」
無力は罪だと、いつも想っていた
肝心な時に何もできないのは、無力だからだと想った
無力だから、守れなかった
信長を
信光を
龍之介を・・・
「奥方ッ!」
目覚めた帰蝶に報告を、と、局処を訪れた秀隆が部屋に飛び込み、後から帰蝶を抱き締め、壁から引き剥がす
「離せ!河尻!離せッ!」
「龍之介の遺体は、権さんの部隊が回収しましたッ!今、あや様に引き渡してますッ!」
「
それを聞いた途端、帰蝶の振り上げた拳から力が抜け、腕がだらんと前に下がった
「奥方。戦はね、誰かが死ぬもんなんです。それは向うだって、一緒でしょ」
秀隆の声が、耳の側で聞こえる
自分を抱き締める腕が温かい
背中にある秀隆の胸が温かい
そう感じるのは、自分が生きているからなのだと想った
龍之介が守ってくれた命がここにあるから、温かいのだと想った
「奥方。新五様、敵大将の首を落としましたよ」
「・・・え?」
振り向かず、訊き返す
「誰の首だと想います?」
「
「遠江、井伊谷城城主、井伊直盛ですよ」
「井伊・・・直盛・・・」
「今川随一と言われるほどの、名武将なんですよ。群を抜いた勇猛さで、東国では名の知れた人物です。鷲津から、織田の攻撃を受けている今川救済のため、権さんの囲み、突破したそうです。そんな人の首を、新五様は落としたんですよ」
「
「奥方。向うだってどれだけの犠牲が出たか、わからないわけじゃないでしょう?増してや、総大将の治部大輔を落したんだ。死んだ者、一々自分の所為だと嘆いてる暇があるんですか?奥方。あなたは今川を倒したんだ。その後に何が控えているか、きっちりその目で見なきゃならないって時に、現実逃避だけは勘弁してください。勝ったって、やることはいっぱいあるんですよッ」
「
折角縫い合わせた傷がまた開き、医者の治療を受けている帰蝶を、なつは怖い顔をして睨んでいた
両手にはぐるぐる巻かれた晒しが目立つ
尚更、腹が立ったのか
「周辺豪族への戦果報告、論功行賞、それから、取り返した大高、鳴海の配分、権が囲んでいる沓掛の始末。やることはたくさんあるってのに」
「それ以上言うな」
「いいえ、言いますよ」
「なつ」
医者の肩の治療が終わった
小袖を羽織るのを見届け、なつは声を掛けた
「森殿、どうぞ」
呼ばれ、可成が蝉丸を抱いて部屋に入る
「蝉丸・・・」
可成はそっと、蝉丸を帰蝶に渡す
片手で上手く受け取れない帰蝶が、胸に抱くまで介添えした
「蝉丸・・・」
事切れた蝉丸は目を閉じ、無念さに嘴を少し開いている
「蝉丸は、飛ぼうとしました。奥方様の居る、桶狭間の方を向いて」
「え・・・?」
「後で知ったんです。小屋から出たがっていたので、戸を開けました。すると蝉丸は、東南の方角を向いて、飛ぼうとしたんです。ですが、力尽きて」
「東南・・・」
「清洲から見たら、東南は、桶狭間の方角です」
「
帰蝶は驚いた顔をして可成を見た
「蝉丸は、奥方様の危機を救おうと、飛び立ちたかったんでしょう。だけど、寿命には勝てなかった・・・」
「ううん・・・」
帰蝶は蝉丸を顔の側まで持ち上げ、ぎゅっと抱き締め、その頭に口付ける
「蝉丸は、私のところまで届いた」
「奥方様・・・」
「私の代わりに、逝ってくれたのね。ありがとう、蝉丸・・・」
「
そうだったのか、と、なつも可成も黙り込む
「この日のために無理をして、生き長らえてくれたの?ごめんね、待たせてしまって・・・。ゆっくりお休み、蝉丸。義父上様と吉法師様に、よろしくね・・・」
蝉丸を膝の上に置き、優しく優しく撫でる
それから、美しいその黒羽を抜き始めた
「奥方様?」
なつはきょとんとした顔をする
「剥製に、なさいますか?」
可成が聞いた
「ううん。蝉丸は、吉法師様の隣で眠ってもらう。生前は織田のために働いてくれた者を、辱めるような真似はできない」
「承知しました」
「三左、悪いけど、蝉丸の埋葬、お願いしても良い?」
「お安い御用です」
それから、また、帰蝶は蝉丸の羽を抜いた
「綺麗な鴉。賢い鴉。人は死んで、名を残す。獣は死んで、皮を残す」
いつかは朽ち果てる
残した名も、いつかは朽ちる
獣の残した皮は、千年残る
人は、獣よりちっぽけな存在なのかも知れないと、帰蝶はなんとなくそう想った
可成と入れ替わるように、秀隆が入る
肩の痛みを和らげるために、帰蝶の右腕が三角巾に首から吊り下げられていた
その姿が痛々しい
「お茶、淹れましょうね」
なつは部屋の隅で遠慮した
「状況報告です」
「聞く」
「首実検は滞りなく終了。戦死した龍之介の後任ですが、誰か推薦でもありますか」
「
「では、こちらで人選してもよろしいでしょうか」
「龍之介以上の能力のある者なら、誰でも構わない」
「そんなのが居たら苦労しませんよ」
秀隆は眉を顰めて言った
「今川方、大高を破棄。現在織田の管理下に置いてます。鷲津の権さんの部隊が、沓掛城を囲んでいますので、帰還、戦果報告は明日以降になります。林殿が現在、丸根に詰めて今川方武将、松平を説得中。大人しく尾張から出て行ってもらうよう、話が進んでいる最中です」
「やはりな」
「読まれていたので?」
「権は体を使うことが得意だ。一方の林は、頭を使うことを得意とする。だから、桶狭間には連れて行かなかった」
「それは?」
「丸根を攻撃するは良いが、こちらの状況は殆ど手探り状態だっただろう。だから、今川が送り込むとすれば、切れ者か、あるいは様子見のための捨て駒かと睨んでいた。だが、左之介の玉砕を考えても、捨て駒になり得る切れ者だろうと、な」
「はぁ・・・」
帰蝶の言っていることがわかるような、わからないような顔をする
「丸根は勝三郎が普請をした。その補佐に入ったのは佐治だ。この、頭の回りの速い二人が手懸けたと言うことは、ほぼ籠城に向いた砦だったろう、それを落したのだから、武力だけでぶつかって互角で居られるとは想っていない。拳には、拳。頭には、頭」
「なるほど。だから駿府・今川方が詰め掛ける鷲津に、権さんを」
「現に逃亡した今川を追い駆けて、沓掛まで行ってしまったのだろう?桶狭間に連れて行ったら、こちらまで玉砕してしまう。本隊に着いている部隊の方が、優れているのだからな」
「
確かに、と、秀隆は頷いた
「鳴海城の方なんですが」
「どうだ」
「それが、手落ちと申しましょうか、なんと申しましょうか、現在、今川方岡部五郎兵衛が入っておりまして」
「山口はどうした」
「戦乱に紛れて、今川方に切腹処分を下されました。織田に情報が漏れていたことの責任を負わされ」
「そうか。では、その岡部とかには、早急に出て行ってもらうよう、要求して来い」
「はっ。それから、丹下の方を引き上げさせたいんですが。鳴海に今川方が張っているとなれば五郎左と弥三郎の部隊だけでは心許ないので、一度城に戻って停戦協議に持ち込むつもりです」
「構わん。五郎左、弥三郎に引き上げを命じろ。それから、岩倉、末森を張っていた長谷川、慶次郎にも戻るよう」
「はっ」
言おうか
「
どうしようか
秀隆の顔に、なつは焦りの色を見せた
「実は」
「し・・・、シゲ・・・!」
「馬廻り衆筆頭、土田殿が」
「あっ、あのね、その話はまた」
「平三郎が、どうかしたか」
「あっ、後で、ね?」
「
「
時親の遺体は、お能が屋敷に連れ帰ったと言う
帰蝶は城を出て時親の屋敷に出向く暇もなく、論功行賞を行なわなくてはならなかった
武功を挙げた者には感状を渡さねばならない
その準備を道空、資房としていると、辺りはすっかり夕暮れに染まっていた
「こんなものか」
「はい」
筆を置く帰蝶の手を、道空はそっと、湯に浸していた晒しで拭った
「あったかい。気持ち良い」
「それはようございました」
微笑むも、帰蝶の顔はそれには応えない
言葉もどことなく、死んでいるように感じた
戦に馴れた者ではなく、これまでも戦死者を出していなかっただけに、今回は相当堪えているのだろうと想える
今川義元を倒した喜びなど、微塵も感じさせない表情をしていた
「では、参るか」
「はい」
帰蝶が署名した感状を携え、道空は立ち上がった
表座敷に帰還した恒興、弥三郎、長秀、成政、義元の首を落とした斯波衆らが集う
末席である利治、佐治はその他の者と一緒に、表座敷の庭で控えていた
小袖に着替えた者も居れば、まだ鎧すら降ろしていない者も居る
そこに兄・時親が居ないことを不審に想い、隣に座る恒興に声を掛けた
「勝三郎さん、兄貴知らない?」
「土田殿?
恒興はきょろきょろして返事した
「もしかして、まだどこかに配置されていて、戻っていないとか?」
「う~ん、そういや権さんも林さんも、まだ戻ってなかったっけ。帰ったら「論功行賞始めるぞー」って声掛けられたから、慌ててこっち来ちゃって」
「実は私もなんだ。だから小袖の下、まだ脇引を着けたままなんだ」
「そりゃゴワゴワするだろうに」
弥三郎は苦笑いしながら言った
「弥三郎のように、鎧のままで居ればよかったと後悔してるよ」
「あはは、そりゃ後の祭りだな」
「静かにしろ」
談笑する弥三郎の隣に座る長秀が、弥三郎の米神を突付きながら注意する
「すみません・・・」
弥三郎と恒興は小さくなりながら謝った
戦に参加した者の顔は晴れやかで、その逆に参加しなかった者は、居心地が悪いだろう
特に蜂須賀小六正勝は、真正面から帰蝶と対立したのだから尚更、居心地が悪かった
上座に座る帰蝶の側に道空が控えている
いつもならそこは、龍之介が居た場所であった
帰蝶は落とし目勝ちに道空を見る
それは道空であり、龍之介ではなかった
「感状」
その道空が声を張る
最初に名の呼ばれた者が、一番の手柄であった
義元に一番槍を突き付けた小平太と、義元の首を落とした良勝は、どちらの名前が先に呼ばれるのかと胸をときめかせて待つ
だが、道空は別の名を読み上げた
「梁田出羽守政綱」
「
呼ばれた政綱自身、どうして?と言う顔で立ち上がるのだから、周囲の動揺は否めない
その場が騒然となった
「どう言うことだ」
「槍を持っていない梁田殿が、何故一番手柄なんだ」
納得できない者が現れて、然るべきだろう
それでも帰蝶は平然としていた
そう囁き合う声が漏れる中、政綱はおずおずと帰蝶の前に進んだ
「あ・・・、あの・・・。私で構わないのでしょうか・・・?」
と、確認しながら座る
「そなたが今川の子細に至るまでの情報を齎してくれなければ、私は桶狭間を想い付くことはなかった」
「
そうか、と言う顔で、政綱は帰蝶の手から感状を両手で受け取った
「ありがとうございます。今後も織田のため、粉骨砕身、務める所存にございます」
「期待している」
「次」
道空の声に、帰蝶は次の感状を手に取った
「服部小平太一忠」
「はいッ!」
片足を引き摺りながら、小平太が前に出る
座ったところで、帰蝶は感状を手渡した
「今川治部大輔と言う怪物を相手に、一歩も怯むことなく立ち向かったその勇気、子々孫々語り継がれるだろう。よく、掴み掛かった」
「ありがとうございます!」
「次、毛利新介良勝」
「はい!」
良勝が帰蝶の前に座る
「治部大輔に、腕を噛まれたのだそうだな。大事無いか」
「はい!」
「養生し、次の戦に控えろ。これからも、織田のため働いてもらう」
「はい!」
大将首を挙げた者の名が次々と読み上げられる
残る感状も少なくなった
その頃になって漸く、利治の名が読み上げられた
「斎藤新五郎利治」
「はい?」
油断していた利治は、何故自分の名が呼ばれたのかわからない
隣に居た佐治に腕を持たれ、利治は庭から立ち上がり表座敷に入った
「井伊谷の城主を、落としたそうだな」
「え?」
「そこまで成長しているとは、想っていなかった。お前を侮っていた」
「いえ・・・」
利治自身、井伊谷の城主とは誰なのか、わかっていない
名を知る者は、利治の快挙に酷く驚いていた
「遠江の虎を落したのか?」
「やるもんだな、新五殿も」
「これに甘えず、驕らず、武功を上げよ」
「はい、精進して参ります」
利治に差し出す感状を持つ帰蝶の右の指先が、僅かに震えていた
肩を撃たれたとは聞いている
命に別状はないと知らされ安心していたが、その実、相当の痛みがあるのだろうと感じる
それでもなんでもない顔をしている姉を、利治はしばらくぼんやりと眺めていた
「次」
道空の声がして、姉は感状の置いてある左隣の畳に顔を落す
その仕草で利治は、一礼して立ち上がった
利治は弥三郎の部隊に配属されているので、一応は『部下』と言う扱いになる
自分の部隊の者が武功を上げるのは、部隊長の名誉にも繋がり、引込む利治を弥三郎は誇らしげに見送った
「次」
と、名が呼ばれる
戻った利治は手の中の感状をしげしげと眺めた
やはり筆を持つのは無理だったのだろう
字は全て道空のものであり、帰蝶の字は署名だけだった
想わず苦笑いする
「凄いですね、新五様」
「え?」
隣の佐治が、自分のことのように嬉しそうな顔で話し掛ける
「敵大将の首なんて、いつの間に取ったんですか」
「いやぁ、途中で人数多くなって来ただろ。なんかわけわかんなくなって来て、夢中で殆ど覚えてないんだよなぁ。弥三郎さんに、取った首に札掛けとけって言われるまで、打ち捨てしてたから手ぶらでさ」
「え?首、取らなかったんですか?私は予め池田様に、取った首には札を掛けとくよう言われてたもんですから、一応引っ掛けておきましたけど」
「それでお前も置いてったんだろ?」
「いやぁ、後で誰か拾ってくれるかな、って想ってまして・・・」
「そんなの手柄、横取りされっちまうだろ。バカだなぁ」
暢気な佐治に、利治は苦笑いした
「次、前田犬」
名を呼ばれた利家は、出奔中の身である
それでも信盛に首根っこを掴まれて清洲に上がらされていた
あれからもう何年も経っている
周りは事情の知らない斯波旧臣を除いて、そろそろ復帰すれば良いのにと言う雰囲気も流れていた
それでも
「待った!」
利家は自ら帰蝶を遮った
「俺は」
そう、帰蝶に首を振る
「だが」
「
それ以上何も言わず、利家はまた、首を振った
まだ、帰れない
少し淋しそうな顔をして、気持ちを帰蝶に伝える
想いを受けた帰蝶は、そうかと軽く頷き、手にした利家の感状を破り捨てた
「それでこそ、奥方様」
心の中で呟きながら、満足そうに微笑む
まだ帰れない理由
それは、今川戦だけで覆せるほど、軽い罪を犯したのではないと言うこと
刃傷の許されない本丸、その中でも特に神聖な場所、主君の寝室で人を殺したのだ
簡単に許される罪ではなかった
利家は帰蝶に軽く頭を下げると、ざわつく庭を出て行った
そんな利家の背中を、大勢の人間が見送る
帰蝶も黙って見送った
そうしていると
「次、佐治」
と、佐治の名が呼ばれた
「あ、はい」
佐治もキョトンとする
誰の首を取ったのか、わからないからだ
少し緊張しながら帰蝶の前に座る
「槍を持っての戦は初めてであろうに、大したものだ」
「いえ・・・」
帰蝶から感状を受け取りながら、佐治は恐る恐る聞いた
「あの・・・。私、一体誰の首を取ったので・・・?」
「
佐治の言葉に、帰蝶は唖然とする
「知らずに取ったのか?」
「あ、はい、その、まぁ・・・」
佐治を預かる恒興も、座敷の中で苦笑いする
「今川の朝比奈、庵原と並び称される、駿府御三家三氏の一人、三浦左馬助義就だ」
「
佐治の目が丸くなる
一座は一瞬にして凍り付く
そうだろう
今日が初めて武器を持って参戦した佐治が、行き成り副将扱いの武将を討ち落としたのだから
「あ・・・、あの・・・?そんな大人物を、私が・・・?」
と、佐治は自分を指差した
「首にお前の札が掛かってたんだから、お前だろ」
信じようとしない佐治に、実検を行なった秀隆が突っ込む
「この武功に、お前を士分に取り上げる」
「え?!」
念願叶った武士への道が開けたと言うのに、それでも佐治は状況を全く飲み込めないない顔をしていた
「どうした、佐治。何か言うことはないのか」
秀隆に聞かれ、そう応えられるものではない
「ええー・・・、えーっと・・・」
なんて言えば良いのかさっぱりわからず、佐治は帰蝶に平伏して頂戴した感状を手に座敷を出て庭に戻った
周りは佐治を好奇の目で見送る
羨ましがる者も居れば、身分不相応だと僻む顔をするものも居た
それに気付かず元の位置に戻る
「佐治。お前の方が凄いじゃないか。しかも士分まで与えられるなんて」
出迎える利治も破顔する
「いや、本当なんですかね?私がそんなご立派な方を。士分とか、どう言うことでしょう」
「俺に聞かれてもな・・・」
利治は頭から汗を浮かばせた
ここに居る者への感状を手渡し終え、帰蝶が一呼吸置く
「これより、其々の言い渡しを行なう」
一同が一斉に平伏した
「先ず、佐久間大学允盛重。名代、一門佐久間右衛門信盛」
「はっ」
信盛が帰蝶の前に座る
「大学允には稲生以来世話になり通しだった。できれば、その家族を保護したい。手伝ってくれるか」
「
「これは大学允への感状だ。名も、大学助に改めよ」
「墓に、立派な名が刻めまする」
死んだ者にまで感状を送る主君が、何処に居るだろうか
信盛は受け取った感状を大切に手に持ち、下がった
「熱田神宮大宮司、千秋四郎季忠。名代、河尻与兵衛秀隆」
「はっ」
信盛に代わって、秀隆が帰蝶の前に座った
「熱田の大宮司、一度お逢いしたかった」
「きっと義叔父も同じことを言ったと想います」
「熱田の安堵は、充分にさせてもらう。これからも尾張のため、民のため、祈り捧げるよう、宜しく頼むと伝えてくれ」
「承知」
帰蝶から感状を受け取り、下がる
「飯尾近江守定宗。名代、飯尾隠岐守尚清」
「はっ」
帰蝶は手渡しながら尚清に言った
「父上の奮戦、凄まじかったと伝え聞く。今川の猛攻をぎりぎりまで押さえ、結果、大高の今川は桶狭間には間に合わなかった。これも全て、そなたの父君の手柄である。その武勇に免じ、そなたの飯尾家継承権を認める」
「
自身は敗走し、早々に清洲に戻ったのを、父の手柄が自分を救ってくれた
尚清は与えられた感状を抱き締め、後ろに下がる
可成は帰蝶のこの『演出』を、上手いと感じていた
義元を倒したとて、織田が得たものは僅かなもの
戦に参加した家臣らに配れるだけのものは、何も得ていなかった
配れる物がなければ、不満が生じる
その不満が生じるのをこうして、『恩情演出』によって抑えているのだから
「佐々隼人正政次。名代、佐々市丸成政」
「
兄の死に、成政も平気ではいられないだろう、それでも気丈に顔を上げたまま帰蝶の正面に座った
「
「・・・はい」
「だが、此度の戦ではその身を盾にしてでも、善照寺を守り抜いてくれた。これはいっときの謀叛を反故にするには充分な働きだ。よって、比良城は今後も佐々を城主とし、市丸は佐々の跡継ぎであることを認める」
「
成政は静かに頭を下げ、退座した
「
次に置いた感状を、帰蝶はそっと避け、一番下の感状を手に取る
「
「
兄の名が呼ばれ、弥三郎はぼうっとした
どうして帰蝶が兄の名を呼ぶのか、それが理解できなかった
「弥三郎、呼ばれているぞ」
長秀が、呆然としている弥三郎の腕を突付いた
「え・・・?あ・・・」
「弥三郎」
帰蝶の口調が、さっさと来るようにと命じる
「はい・・・」
正面に座り、わけのわからない顔をして、帰蝶から感状を受け取った
「お前の兄が、最終的に清洲を守ってくれた」
「え?」
「今川の追撃隊を、追い払ってくれたそうだ」
「兄貴が・・・」
それで、まだ警戒でもしていて、帰っていないのかと想った
「土田平三郎時親の屋敷は安堵する」
「
どう言うことだ、と、弥三郎はまじまじと帰蝶の顔を見た
帰蝶の顔は、「お前の兄は死んだ」と言っていた
「冗談・・・だろ?ねえ・・・」
「
「まさか、兄貴・・・」
「立派な最期だったと聞く」
「
聞いた途端、弥三郎はわけがわからなくなり、立ち上がった
弥三郎だけではない
時親の戦死を聞かされていなかった者も騒然とした
「まさか・・・、土田殿が・・・」
利治も、呆然とした
従兄弟の佐治が放心するのは、尚更だった
「冗談だろッ?!なぁ!冗談だろッ?!」
「弥三郎!」
帰蝶に食って掛かりそうな勢いの弥三郎を、秀隆と資房が取り押さえ、退座させる
「ちょっと待てよ、なぁ!兄貴が死んだって、なんではっきり言わねぇんだよッ!」
「言えば納得できるか。お前は静かにできるのか」
「だって、奥
「弥三郎ッ!」
弥三郎の頬を、秀隆が張る
「殿も、叔父上様を亡くされているんだ。それ以上、何も言うな」
「
秀隆の言葉に、弥三郎の躰から力が抜けた
そんな弥三郎を気に留めることもなく、帰蝶は続ける
「千秋の討死、一番槍を上げた服部、その首を落とした毛利の活躍により、今回参加しなかった斯波旧臣の不忠は不問とす」
その言葉にほっとした者も少なくない
可成はそのためにこれを演出したのかと想った
「以上を持って散会する!」
「ははッ!」
利治、佐治、手柄を上げた嬉しさと、時親の戦死が鬩ぎ合い、言葉も少なく長屋に帰る
兄の死に落胆した弥三郎を、可成が付き添い、励ましていた
帰蝶は局処に帰り、あやの部屋に向った
そこで眠っている者に、最後の感状を手渡すためである
「奥方様・・・」
この時勢を生き抜いた女性なだけあって、弟の死をあやは静かに受け止めていた
目は、赤く充血しているが
「邪魔をしてもよいか」
「はい、どうぞ」
「
帰蝶が入った後、侍女が外から襖を閉める
布団の上の龍之介は、顔に何も被せていない
岩室家も信長と同じく神道なのだろうか
仏教徒であれば、顔に布を被せている
だが、そのお陰で龍之介の死に顔を見ることができた
「眠っているようだ」
「ええ。先代様も、そうでした。戦に赴きながら、このように穏やかな死に顔が、できるものなのですね」
「お父上には」
「使者を出しました。明日には引き取りに来るでしょう」
「あや殿は」
「
「そうか・・・」
引き止める気持ちが、湧かなかった
「
帰蝶は手にした感状を、自由の利く左手で渡した
「
「こんなもので、すまない」
「いいえ。死んだ者にこのような心遣い、よろしいのでしょうか」
「これくらいしかできない私を、寧ろ許して欲しいほどだ」
「
あやは言葉なく微笑んだ
感状は、龍之介に長門守の官位を授けると同時に、叔父・龍之介の手柄により、あやの子・夕凪の士分を保証すると言う内容だった
「弟君には、申し訳ないことをした。龍之介は私の身代わりで死んだようなものだ」
「それが、小姓の役目です。気に病むことではありません」
「だが」
「この子の遺言を、・・・聞いて下さいますか」
自分を責めようとする帰蝶を止め、あやは言った
「龍之介の遺言・・・」
「この子にとってあなた様は、憧れの存在だったのです」
「私が・・・?」
まさか、と言うような顔をする
「だからこの子は、あなた様を庇って死ねたことすら、誇りに感じていると想います」
「
「だからどうか、この子が死んだことを嘆かないで下さい」
「え・・・?」
人の死を悲しむな
それはきっと、人の死を何度も見て来たあやだからこそ、言えるのだろうと想えた
「ご自分が生き残ったことに自信を持って下さい。でないと、この子が浮かばれません・・・」
「
余りにも重い、そして様々な意味を含めたあやの言葉に、帰蝶は黙って頭を下げた
「あなた様に巡り会えたこと、一生の誇りだと。この子はそう、言っておりました。その想いをどうか、遺言として、受けてくださいませんか」
「
眠る龍之介はもう、二度と目を覚まさないだろう
だけど、この胸の深い部分で永遠に生き続ける
自分にこの世の常を教えてくれた義叔父・信光と
そして、信長と共に
きっとそれは決して色褪せぬ、唯一無二の、確かな追懐になるだろう
帰蝶はそう、想えた
先代様の夢、守ろうとしているあなた様を、守りとうございました
帰蝶には、龍之介の最期の言葉が聞こえた
そしてこれからも、信長と共に自分を守る魂になってくれたのだと感じた
永禄三年五月十九日
織田上総介信長近習
岩室長門守重休、桶狭間山にて散る
享年
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千極一夜
家庭用ゲーム専用ブログです
『戦国無双3』が絶望的存在であるため、更新予定はありません
◇◇11/19 Nintendo DSソフト◇◇
『トモダチコレクション』
おのうさま(帰蝶)とノブ(信長)が 結婚しました(笑
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祝:お濃さま出演 But模擬専… (戦国無双3)
おのれコーエーめ
よくもお濃様を邪険にしおってからに・・・(涙
(画像元:コーエー公式サイト)
オンラインゲームにてお濃様発見
転生絵巻伝 三国ヒーローズ公式サイト:GAMESPACE24
『武将紹介』→『ゲーム紹介』→『Exキャラクター紹介』→『赤壁VS桶狭間』にてお濃様閲覧可
キャラクター紹介文
「 絶世の美貌を持つ信長の妻。頭が良く機転が利き、信長の覇業を深く支えた。
また、信長を愛し通した一途な妻でもあった。」
(画像元:GAMESPACE24公式サイト)
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岐阜の地酒 日本泉公式サイト

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夫婦セット 吟醸ブレンド(信長・濃姫)
本醸造 濃姫
カップ酒 濃姫®=爽やかな麹の薫り高い、カップとは想えない出来上がりのお酒です
吟醸ブレンド 濃姫® ブルーボトル=自然の香りのお酒です。ほんの少し喉を潤す程度でも香りが深く体を突き抜けます
本醸造 濃姫®=容量的に大雑把な感じに想えて、麹の独特の香りを抑えたあっさりとした風味です
今現在、この3種類を試しておりますが、どれも麹臭い雰囲気が全くしません
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清洲桜醸造株式会社公式サイト


濃姫の里 隠し吟醸
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一応は『辛口』になってますが、ほんのり甘さも残ってます
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清洲城信長 鬼ころし
量的に肉や魚の血落としや、料理用として使っています
麹の香りが良いのが特徴ですが、お酒に弱い人は「うっ」と来るかも知れません
どちらも一般スーパーに置いている場合があります
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